えっ、シスコン魔王様とスイッチ姫みたいな力ですか?   作:のんのんびり

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第百六十五話 計画

 

 

 

 これまでの三年間で、俺が隠してきたことと知ってしまったことを保護者へ打ち明けることにした報告会。朱芭さんが二人のためにと作ってくれたジンジャーティーの香りが、理事長室いっぱいに広がっていくのを感じる。たぶんいっぱい必要になるからと朱芭さんに言われて、ケトルごと魔方陣に入れて持ってきたんだけど正解だったな。すでに三杯目に突入しているし、さすがは師匠。先見の明である。

 

 念のために香木を焚くために火をつけていた炭の状態も確認しておき、いつでも報告を再開できるようにしておく。俺は相棒をもう一回『Analyze(アナライズ)』で分割すると、二人の目の前に二本目として置いておいた。報告する内容の半分ぐらいは言えたけど、ぶっちゃけここからが本番だからな。ちゃんと事前に準備をしておくのは大切である。

 

「……カナくんの準備の手際が良すぎることに、この先の報告を聞くことに不安しか感じない」

「メフィスト様、大丈夫ですよ。お二人が途中で倒れないように、最後まで報告を聞いてもらうために準備をしているんですから」

「さらっと恐ろしいことを言っているぞ、こいつ…」

 

 だって、アザゼル先生はお忙しい方だから、またこうやって二人揃って時間を取ってくれる日が来るのはいつになるのか次はわからないし…。異世界の事や治療のことも含め、保護者である二人には最後まで全部聞いてもらわないとまずいからな。あと、とりあえず相棒を刺しておけば、体調も精神面も無理やり何とかできるという保証もあるのが強い。原作知識二十巻分を耐え抜いた朱芭さんのお墨付きだ。

 

「さて、報告を中断させてしまってすまなかったねぇ。えーと、カナくんの報告はどこまで話していたかな?」

「異世界『E×E(エヴィー・エトゥルデ)』で、おっぱいを司る精霊神である乳神様が登場したところからです」

「あぁー、うん。そうだった。おっぱいの神で異世界だったねぇー」

 

 休憩を入れて少し顔色が良くなったと思ったメフィスト様が、また体調が悪そうに俯いてしまった。

 

「……アザゼル、異世界や乳神に心当たりはあるかい?」

「あるわけねぇだろ。普通ならこんな話、信じられるかって言いたいんだが…」

「毎回最悪を引き当ててくる、実績持ちのカナくんの報告だからねぇ。これまでやらかしてきた行いや、信じられないような奇縁を引き寄せる行動力。それをよく知っている身としては、信じるしかないんだろうね…」

「四年前にタンニーンが、(気付け薬)を飲まなきゃやってられねぇ気持ちがよくわかったわ」

 

 原作のイッセーとドライグのように頭の心配をされなかったことに嬉しいと思う反面、すぐに信じてもらえるほどこれまで積み重ねてきた俺のやらかしがひどかったことに、複雑な気持ちにもなってくる。傍から見たら、この五年間のイベント遭遇率と俺の人脈ってどう考えてもおかしいもんな。イッセーのルナティック年間スケジュールと人脈の方がヤバすぎて、そこまで意識してこなかったけど。

 

 とりあえず、第一段階である『異世界と乳神様の存在を信じてもらう』は無事にクリアできたようだ。それにホッとすると、次の話の持って行き方をどうするか思案する。イッセーくんとドライグのことは、異世界関連の話が終わってから伝えた方がいいだろう。先に異世界について理解してもらってから、乳神様とラインを繋げておくメリットを伝えた方が流れ的にいいと思う。まだまだ伝える内容が多すぎて、ちょっと遠い目になった。

 

 

「さて、それでは続きから話しますね。経緯についてはまた後で詳しく話しますが、二人は駒王町という名前の街を覚えていますか?」

「五年前、悪魔と教会による粛清事件が起きそうになった街だね。グレモリー家とバアル家が管理し、悪魔貴族の子女や子息が領地の経営を学ぶために用意した土地。今は管理者が不在の状態だったはずだねぇ」

「あぁー、あのロボで暴れた街か。確か、あの時の牧師もまだいるんだろ。魔法少女クリーチャー共が街に溢れていて、教会に押し付けている状態だったか?」

「そこからさらに続きがありまして…。長くなるので、端的に結果だけ言いますけど。そんな街の現状に色々思うことがあった住民達が、疲労回復のためにおっぱいに癒しを求めるようになったんです。それが最終的に「おっぱい教」として街に広がり、現在の駒王町はおっぱいへの愛に溢れたパワースポットになった訳ですね」

「くそっ…、もうすでにどこからツッコめばいいのかわからねぇッ……!」

 

 現実から目を背けてはいけないよ、アザゼル先生。とりあえず、そういう前提で話を進めないと先に進まないから、頑張って納得してください。イッセーくんの布教力と、紫藤さんたちを味方にしてしまえるぐらい精神的に癒しが欲しい需要が見事に合致してしまったんです。彼らなりに真剣に考えて決めた結果だから、どうか受け止めてあげてください。

 

「そのおっぱい教で教祖をしている子と俺は親しいんですけど、数週間前に手紙が送られてきたんです。その手紙には困ったことが起きたって書かれていて、俺はすぐに駒王町へ向かいました。そうしたら、街に溢れるおっぱいの愛に感銘を受けた異世界の神様がこの世界に降臨しちゃったみたいで、ついでに『神依木』の起源を持つ俺が傍にいたので憑依されちゃったわけなんですよ」

「メフィスト、酒を飲んで聞いちゃダメだろうか?」

「カナくんは真剣に報告しているんだから、ちゃんと聞いてあげよう。話の内容がおっぱいでも」

「俺に憑依した異世界の神様こそが、先ほど話した乳神様でした。乳神様はこの世界に訪れる邪悪な存在について警告するため、異世界から精霊を飛ばして知らせに来てくれたみたいでした」

 

 自分でも話していてひどすぎる経緯をようやく話し終え、やっと本題に入れる。メフィスト様たちも、邪悪な存在が訪れるという言葉にスッと目に真剣みが帯びだした。こういう切り替えの早さが、さすがは組織のトップだと思う。ここからはさっきまでのように要約したりせず、乳神様と俺の会話をそのまま話すことにした。どこにヒントが隠れているかわからないし、乳神様と会話したこと以外には何も手掛かりがないからだ。

 

 異世界『E×E(エヴィー・エトゥルデ)』で行われている、精霊(エトゥルデ)機械生命体(エヴィーズ)による覇権争い。それによって滅ぼされてきた異世界の末路。そして、この世界とあっちの世界に存在する絶望的なまでの実力の格差。グレートレッドでも手も足も出ないような邪神が相手だと告げると、さすがに口を開きかけた二人だったけど今は黙って話を聞いてくれた。

 

 原作のことについての会話は話せなかったけど、邪神の侵攻については語り終えることができただろう。信じられないような話の連続で、メフィスト様は口元に手を当てて言葉を探しているようだった。アザゼル先生は異世界関連かもしれない過去の記録を思い出しているようで、ブツブツと呟きながら考えをまとめているように見えた。

 

「カナくんは信じたのかい? 異世界の神を名乗る『乳神』という存在を」

「えっと、はい。俺は信じました。どうしてかと言われると難しいんですけど、不思議と受け止められたんです。俺の起源のおかげかもしれないですけど、乳神様の気持ちが伝わってきたように思いました」

「お前は神性を宿す者にとっては、最高峰の依り代だろうからな。本来なら相容れない神と人を、お前の起源が繋げてしまったんだろう」

「それに、邪神の侵攻に関してはずっと嫌な予感が消えないんです。邪神がこの世界に来るのはいつかはわかりません。だけど、いつか必ずその未来はやってくる。それだけは、確信をもって言えるんです」

 

 邪神について考えるとざわざわする胸を手で押さえながら、俺は必死に言葉を伝えていく。自分でもかなり粗があるというか、これで全部信じてくださいというのは難しいのはわかっている。それでも、少しでも受け入れてもらうために口を開こうとして――

 

「カナくんの嫌な予感…。そうか、『最悪を想定して動くことが基本』になる予感が発動しちゃったのかぁ……」

「最悪決定じゃねぇか。そこらの預言者よりも性質が悪いのによぉ…」

「…………」

 

 その必要がないぐらい、あっさりと俺の「嫌な予感」で項垂れる大人たちに口を閉ざす。あの、お二人とも。これまで散々迷惑をかけてきた自覚はありますが、ここまで俺の一言で理不尽を受け入れちゃう姿勢ができていることに複雑な思いなんですけど…。俺の「嫌な予感」でどんだけ振り回されてきたのかがわかってしまう。実際に目のあたりにすると、俺の所為で鍛えられてしまった保護者達の常識に申し訳なさが浮かんだ。

 

 俺のこれまでのやらかしエピソードにちょっと痛くなったお腹へジンジャーティーを流し込んだが、とにかく今は問題なしとして話を進めるしかない。追い打ちになるかもしれないが、乳神様が証拠に残してくれた加護のことも言って決め打ちしてもらうしかないだろう。朱芭さんに軽く見てはもらったけど、俺の加護に施された術式を調べてもらわないといけないからな。機械生命体(エヴィーズ)への対抗術式も組み込んだ、って言っていたはずだから。

 

 

「どうだ、メフィスト?」

「これははっきり言ってお手上げなレベルだねぇ。魔法使いの組織の長として、古今東西の術式を見てきたつもりだけど、どの形式にも一切当てはまらない。この加護を封印した術式に対応したものが、現状存在しないんだ。参考になりそうな文献もなさそうだしねぇ。最も魔法技術が進んでいるのは北欧神話だけど、ここまで出鱈目なものは彼らでも作れないだろう」

「お前がそこまで言うほどの技術ってことか。覚えのない神格の波動も感じるし、そもそも封印を構成しているエネルギー自体もわけがわからねぇ。異世界の邪神の侵攻っつう頭の痛い問題はあるが、研究者としては非常に興味深い限りだな」

 

 乳神様が証拠として俺に施した加護について話すと、目をキラキラさせた大人たちが挙って調べ出して数分ほど経過した。最初は訝し気な表情だったけど、調べていくうちに未知の術式ばかりだと判明したようで、そこから文献やレポートを魔方陣から取り出しては議論が始まってしまった。そういえば、この二人って結構似た者同士の友人だもんな。乳神様が使った術式は、この世界には存在しない技術のオンパレードだったようで、研究者魂に火が付いたようだと感じた。

 

 少なくとも、異世界云々に関してはもう素直に認めるしかないと開き直ったらしい。アザゼル先生は顎髭を撫でながら、「アレがこうなって、あぁーなって…」とまるで童心に返ったような楽しそうな笑顔で、新技術にウハウハのようである。さっきまで二人とも死にそうな顔をしていたから、元気になってくれてよかったと思うしかない。正直、マッドな先生の勢いはだいたいろくなことにならないから怖いんだけどね。

 

「カナタ、こいつを詳しく調べたいから、ちょっと半月ぐらい『神の子を見張る者(グリゴリ)』に拉致られてくれないか?」

「いやですよ。というか術式を調べるのは大切ですけど、今後のことを先に話しましょうよ。相棒のこととかまだ話せていないんですから」

「……胃が痛くなる話は後回しにしたかったんだがなぁ」

 

 そんな恨めしそうな目で見ないでください。自分の好きな分野に現実逃避したいのはわかりましたけど、自重してくれないと話が進まないです。俺からの言葉に心底ガッカリしたように肩を落とした先生だったけど、そのあたりは切り替えてくれたのか真剣な表情で向かい側のソファーに座り直していた。メフィスト様も調べるために取り出した書籍などを片付け、さっきまでの空気を入れ替えるようにコホンッと小さく咳払いをした。

 

「異世界の覇権争いによる火の粉が、この世界に降り注ぐかもしれない懸念はわかったよ。このままだとまずいということも。その乳神とやらはその危険を知らせることで、邪神への対抗戦力を育てようとしていることもね。気になったのは、何故乳神はカナくんに『聖書の神の死』を伝えたんだい?」

「えっと…。どうして乳神様がそれを知っていたのかは、俺にもわからないですよ。あの神様、当たり前のように全部見通してきましたから。ただ聖書の神様に関しては、成り行きで知っちゃった感じですね」

「成り行きでこちらが秘匿していることを暴露されるのも困るんだけどなぁ…」

 

 異世界の存在を認知し、乳神様のヤバさを知ったからか、メフィスト様は隠しても意味がないかと聖書の神様の死について話題を振ってくれた。アザゼル先生もそのあたりは了承しているのか、腕を組んで考え込んでいる。とりあえず加護をもらった後の続きを話すために、相棒について乳神様が告げていた内容をそのまま伝えることにした。

 

「俺が聞いただけでも、乳神様は相棒のことを色々言っていたんですよ。『この世界の最高神の一柱の一欠けら』と表現していたり、あと『神の手』とも言ったりしていましたね。神器システムを管理する最高神と言えば、間違いなく聖書の神様のことだと思いましたから」

「……えっ」

「その時にどういうことかって質問をしたら、この世界の最高神はすでに亡くなっていて、相棒がその後に至る可能性がある『御子神』だって教えてもらった訳なんですよ」

「おいおいおい、ちょっと待てっ! またとんでもない爆弾をさらっとぶっこんで来たなァ、お前ェッ!!」

 

 聖書陣営の二人にとって、その象徴とも言える聖書の神様に忘れ形見がいたことに絶句しているようだった。アザゼル先生は頭を強引に掻きむしり、乳神様の言葉を必死に頭の中で落とし込もうと叫んでいた。原作知識について隠すために多少話をすり替えたけど、乳神様から言われた言葉は全て事実である。俺は眉間に皺を寄せて唸る先生を真っすぐに見据え、前のめりになりながら口を開いた。

 

「アザゼル先生、相棒が何者なのか心当たりは本当にありませんか? 聖書の神様の力を一欠けらでも受け継いでいる可能性を持つ存在は、本当にいなかったんでしょうか?」

 

 乳神様が言っていたことが、全て虚言だったという線は全くないとは言えないけど、あの神様がそんな嘘をつく理由もないだろう。邪神に対抗する戦力を手に入れるために相棒へ発破をかけ、嫌がらせのような試練を課してまで至らせようとしていた。乳神様はやっていることはハチャメチャだったけど、意味のないことはやらないような気がするしな。

 

「……カナタ。さっきお前があの野郎が生きていた時代を知っている者が一人いるって言っていたのは、お前の神器に宿っている意思のことで間違いないか?」

「はい、相棒こそが唯一の手掛かりなんじゃないかって思っています」

「神の手、あいつが残した一欠けら…。ははっ、そういうことか……。ミカエル、案外お前の突拍子のない勘も馬鹿にできねぇもんだな」

 

 クツクツと面白そうに喉を震わせるアザゼル先生に、俺とメフィスト様は困惑したように見つめるしかない。そんな俺達を置いてしばらく笑っていた先生は、目元を覆っていた手を外し、どこかすっきりしたような表情を浮かべていた。たぶん、先生は確信に近い答えに辿り着けたのだろう。俺達から向けられる視線に一笑すると、アザゼル先生は昔話を語るように天界の仕組みについて教えてくれた。

 

「俺が堕天する前。一度天界の中枢機関だった第七天に忍び込んだって言ったよな。あそこは『神が住まう場所』と言われ、聖書の神以外が出入りすることは固く禁じられていた。少なくとも、あそこに出入りできたのは神であるあいつだけで、他の誰かが足を踏み入れたということは絶対になかった」

「はい」

「だけどな、聖書の神が残した一欠けらと言われてようやく理解した。あいつが残したのものは、主に三つ。一つ目は信仰心。信者たちの信仰によって世界は回り、天界はやつがいなくなってもそのおかげで持続することができた。二つ目は神の手足となって働いていた天使。神の教えを守り、支えるために生まれた存在は今もこの世界で生きている。そして最後の三つ目こそが、この世界の奇跡を司る『聖書の神』が創り出した、叡智の結晶(最高傑作)――『システム』そのものだ」

 

 あぁ、やっぱりそうか。アザゼル先生が最後に出した答えに薄々気づいていた可能性に答えが出たように感じた。聖書の神様以外に『システム』を操作出来る者はいなかった。その前提で考えるなら、あと残っている答えはただ一つ。『システム』そのものが、自らの意思で動いていた以外にないだろう。

 

 

『なぁ、ミカエル。『システム』って何なんだろうな?』

『それは、『聖書の神』である主が創った、この世界の奇跡を司る『仕組み』のことです』

『知っている。逆に言えば、俺達はそれしか知らない、が正しいんだろうがな』

 

 アザゼル先生は大昔、ミカエル様と語った話を聞かせてくれた。システムとは何なのかという疑問を抱いたアザゼル先生へ、ミカエル様がふと思いついたように告げた考え。神が創りしプログラムである『システム』と、神が創りし使者である『天使』。そこに明確な違いがあるとすれば、それは…。

 

『私達天使は、主によって創られた存在であり、主の手足となって働くことが仕組み(仕事)ですよね』

『あぁー、まぁ一応そうだな。なんかそう言われると、俺達もある意味で『システム』みたいなもんなのかねぇ…』

『私は心から主を敬愛し、自らの意思で仕えていますけどね。でも、なんだか似ているでしょう? だから『システム』は、同じ親や仕事を持つ私たちの兄弟なのかもしれませんね』

 

 奇跡を司る力を持っていた『聖書の神様』は、自らの信仰を高めるために世界全体へ奇跡を広げるためのプログラムを作り出した。そのプログラムは聖書の神様の持つ異能を受け継ぎ、神の代わりに奇跡を施す『手』となった。しかし『頭』である神が消えたことで残されてしまった『手』は、どうしたらいいのかわからず神の真似事のように世界を回すしかなかった。

 

「それが、倉本奏太に出会うまでの『システム』の在り方だった」

「俺に出会うまで…」

「お前、言っていただろう。神器が発現した当初は、反応も薄くて感情の起伏とかもなかったってよ。バラキエルが言っていたんだが、あいつは神器の意思のことを『学習能力を持つ、意思のある機械のようだ』と話していた」

「……意思を持つ機械(プログラム)。まるで異世界の話に出てきた、機械生命体(エヴィーズ)のようだねぇ」

 

 メフィスト様がポツリと呟いた言葉に、ハッと目を見開いた。聖書の神様がどうやって『システム』なんてものを作ったのかは謎に包まれているけど、もしかしたら彼は異世界の技術をどこかで手に入れてそれを基にして作った可能性もあるかもしれないのか。次元の狭間には様々なものが漂っているらしく、ヴァーリチームにいたゴグマゴグという巨大ゴーレムもそこで見つかったものだった。

 

 『ハイスクールD×D』最大の謎の一つでもある、聖書の神様が何故『神器(セイクリッド・ギア)』という人間に力を与えるような仕組みを作ったのか。その答えは結局誰もわからないままだったけど、もし聖書の神様が異世界の存在をずっと前から感知していたとしたら? 異世界の技術を知り、その強大さを認識してしまった聖書の神様が、地球の戦力をあげるために思いついた方法。それこそが、地球上で最も数が多くか弱い種族である――人間に力を与えることだったとしたら…。

 

『……聖書に記されし神が、何故禁手(バランス・ブレイカー)という現象と……神滅具(ロンギヌス)などという神を殺せるだけの道具を消さずに残したのか……。――何故、人間に神殺しの(すべ)を持たせようとした……?』

 

 北欧の神である悪神ロキとの戦いで、最後に彼が呟いた言葉。神様はこの世界でもトップに位置する立場だ。その立場を揺るがすような力を、神である自分を殺しうる可能性を、わざわざこの世界に残した訳。俺のこの考えは想像の域でしかないのはわかっているけど、そう考えれば聖書の神様の不可解な行動のいくつかに納得がいくような気がした。

 

 

「とにかくだ。機械生命体(エヴィーズ)なんて存在が異世界にはいるんだ。なら、奇跡を司る神が創った機械に命が宿らないとは一概に言えないだろう? まっ、あいつの性格的に自分の『手』が自意識を持つような、意思や心を芽生えさせるような余地をわざわざ作っていたかは怪しいがな」

「えっと、どういうことですか?」

「『システム』に自意識が芽生えたのは、あいつの想定外だったんだろうってことだ。なんでも一人でやっちまうようなやつが、自分が信仰を集めやすいように創ったプログラムを信頼して任せるとは思えないしな。神がいなくなった途端に不具合が発生したのも、全部本人が手動で運用していたと考えれば当然ではあるだろ」

 

 これまで「言われた通りに仕事をしろ」と神様に命じられて、その通りにしてきたのなら確かに意思や心なんて必要なかっただろう。自分の思い通りに動くプログラムを聖書の神様()が望んでいたのなら、なおさら必要性を感じなかったはずだ。世界を回す歯車として、ただ親の信仰を集めるために淡々と奇跡を行使するだけでよかったのだから。

 

 そんな世界でずっと過ごしてきたと考えれば、聖書の神様が死んでしまった後、どうすればいいのかなんてわかるわけがない。思考するということを放棄させられていた『システム』からすれば、とにかく親に言われた「世界を回す」という役割に従事するしかなかった。原作ではミカエル様たちが『システム』を掌握していったことで、親の代わりを見つけることができたため、そのままこれまでと同じように命じられるままに動くことを選んだのだろう。

 

 だけど、この世界線では『倉本奏太』というイレギュラーが現れた。『聖書の神様の死』という『システム』に影響を与える禁忌を知っていたことで、神器のラインから察知され興味を抱かせてしまったのだろう。最初の頃の相棒がどういう気持ちで俺の傍にいてくれたのかはわからないけど、俺はとにかく遠慮せずに頼りまくった記憶がある。あと無茶ぶりもいっぱいしたし、生活習慣とかもいつの間にか見てもらえるようになっていたと思う。

 

 これまで言われた通りにただ動くだけだった『システム』が、いきなり助けてと懇願されて縋られるのだ。しかも当人はやらかしまくっていて、相棒がいなかったら間違いなくどっかでうっかり死んでいただろうと自信をもって言えてしまう。うん、自分でも思うけど当時の相棒にめっちゃ申し訳ないことをしたと感じた。

 

「正直『システム』が何でカナタに接触したのかはわからないが、お前の世話をしている内に絆されていったのは間違いねぇだろ。つまり、カナタがどうしようもなく弱くてアホで騙されやすくてすぐに死にそうなやつだとわかったから、自意識が芽生えたって訳だな」

「泣きますよ、ちょっと」

 

 たぶんそれが真実なんだろうけど、あまりにもあんまりすぎて心にグサッと来た。そんなしくしくする俺に、相棒がピカピカ光って慰めてくれる。うん、本当にお世話されているな俺…。なお、慰めてくれる優しさはあるけど、アザゼル先生の言葉を否定しないあたりは手厳しい相棒である。

 

「アザゼル。カナくんの神器くんは、神器を管理する『システム』そのものだってことかい」

「確証はないが、おそらくな。それ以外に『神の手』と呼ばれる存在はいねぇし、聖書の神の力を結果的に受け継いでいるのはそいつだけだろう。乳神とかいうやつの言っていることが、全部本当のことならな」

 

 ソファーにもたれかかりながら、肩を竦めて話すアザゼル先生。軽い調子で言っているけど、おそらく本人の中ではすでに答えは定まっているのだろう。この五年間、相棒のことを誰よりも研究してきたのは先生だからな。今までの研究の結果から様々な想定をしてきた分、今回のことでようやく彼の中で一本の線に繋がったのだろう。

 

「何というか僕たちにとっても十分に衝撃的な事実だったけど、聖書の神を敬う天界陣営にとっては、天地がひっくり返る様な大騒ぎになりそうだねぇ…」

「そりゃなぁ…。自分たちのトップが残していたプログラムに意識が芽生えていたことを知らされ、しかも天界陣営とは全く無関係の人間の子どもの世話に傾注している。ミカエルのやつ、卒倒するんじゃね? 個人的にはいい気味だが」

 

 おっぱいからの乳神様降臨に繋げて、異世界の邪神侵攻と連続で爆弾を投げ過ぎた所為か、相棒の正体とかそこらへんの驚きが完全に麻痺してしまっているなぁ…。ヒトって続けざまに衝撃を受けると、感覚が鈍るって本当なんだな。悪い笑みを浮かべるアザゼル先生は、天界側のわちゃわちゃする未来を想像しているのか楽しそうにしていた。

 

「でも、問題はこの真実をどうやって伝えるかだろうねぇ。カナくん経験者である僕たちだから異世界なんて突拍子もない真実を信じられたけど、普通なら頭のおかしいヒト扱いされても仕方がないからさ」

「カナタ経験があるかは大きな要素だからな…。とりあえず、まずは魔王連中を巻き込んで被害者(協力者)を増やそうぜ。アジュカ・ベルゼブブ経由でこいつのことは聞いているだろうし、駒王町の前任者問題やネビロス家で多少の耐性はできているだろう」

「あの、俺の扱いが…」

 

 俺のやらかしに慣れ切ってしまった大人たちの振り切れっぷりがヤバい件。自棄というわけではないけど、もう細かいことは気にしないレベルで放り投げている気がする…。あと、俺って耐性をつけられるような扱いなんですか。ツッコみたいのに、保護者達は真面目に議論を交わしているため、さらっとスルーされてしまった。あとでラヴィニアに慰めてもらおう…。

 

 今回のことで、先生たちも三大勢力同士でいがみ合っている場合じゃないと考えが固まったらしい。元々和平の方針で動いていたけど、強引にでもその流れに持っていくぐらいはしないとまずいとなったようだ。俺に施された加護の術式を調べるためにも、専門の研究機関が必要だろうし。さすがにすぐに和平を行うには下準備や計画を考えないといけないから難しいようだけど、明らかに原作の七年後よりも早まりそうだ。今更だけど、思いっきり原作崩壊してしまったなぁ…。

 

 

「悪魔側はメフィストに伝手があるから何とかなりそうだが、他がどうしようもねぇな…。あんまり時間をかけてもよくないだろうことはわかっているんだが。事が事なだけに、下手に外へ洩らせねぇからよ」

「あっ、アザゼル先生。それなら天界陣営の皆さんを、無警戒でおびき寄せられる方法がありますよ!」

「カナくん、天界に何か嫌なことでもあったの?」

 

 ビシッと手をあげて発言すると、メフィスト様から心配そうな目を向けられてしまった。いや、天界の皆さんが大変なことになるのはもうどうしようもないことなので、ここまで来たら俺も開き直るしかないかなって。そもそも天界の重要なポジションになりそうな相棒が、同じ親を持つはずの天使の皆さんのことをガン無視で俺の世話ばっかりしている時点でね…。

 

「それより、おびき寄せるってどうやってだ? あいつらの引きこもりっぷりはお前も知っているだろ」

「ほら、報告会の最初に俺が三年間頑張ってきたことを話したじゃないですか。先生だって相棒なら『聖書の神様が生きていた時代のベース』を知っているかもしれないって思いましたよね」

 

 そこまで俺が言うと、情報過多すぎてうっかり抜けていたらしいことに気づいたアザゼル先生が、ハッと目を見開いてこちらを凝視した。先生や教会の人達がどれだけ探しても見つからなかった治療法。ずっと引きこもっている天界陣営をおびき寄せる餌が何なのかがわかった保護者組は、俺の提案に頬を引きつらせていた。

 

「お前、まさか…」

「はい、相棒の協力があればきっと治療できると思うんです。なので、表向き治療法を餌にして天界陣営を呼び込んで囲って、異世界のことや乳神様のことや相棒のことをブッパして協力を仰げばいいと思いましたっ!」

「それ、脅迫とあんまり変わらないような…」

「こいつやると決めたら、本当に容赦ないよな…」

 

 まだまだ細かいところを話し合わないといけないが、とりあえず伝えないといけないことは伝えられただろう。イッセーくんとおっぱいプロデュース計画に関しては、メフィスト様とアザゼル先生が精神的に落ち着いてからしっかり話し合いたいからね。正直これ以上爆弾を放り投げすぎると、思考が飽和状態になって大変そうだからな…。おっぱい計画はゆとりがある時にやった方が、真面目に考えてくれそうだしね。

 

 こうして、三年間溜めに溜めた報告会はなんとか最後まで話し終え、今後の流れについて話し合うために時間は過ぎていくのであった。

 

 

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