えっ、シスコン魔王様とスイッチ姫みたいな力ですか?   作:のんのんびり

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 第三章夏休み編の前編は神器編で、神器についてや修行に焦点を当てながら、色々知っていく話になると思います。


第三章 夏休み編
第十七話 出発


 

 

 

「なぁ、倉本ー。夏休みの予定とかって、あいているか? 俺のじいちゃんが、川遊びに連れて行ってくれるらしいんだ。それで、みんなで行かないかって話をしているんだけど」

「あぁー、ごめん。今年の夏休みは、ちょっと時間が取れそうにないんだ。悪いな」

「えっ、なんかあったのか?」

「あっ、それさっき聞いた。奏太、『小学生夏休みの語学研修の旅』に当選したんだってさ。なんでも懸賞で応募してみたら、見事に当たったらしいぞ」

「うわっ、マジかよ。すげぇじゃん! 海外に行けるってことかよ。羨ましいなぁー」

 

 俺の語学旅行の噂に、クラスメイトからの興味津々な眼差しが痛い。小学生で海外に行ったことがないやつも多いだろうし、何人かからお土産をお願いされてしまった。最近は、日差しがだいぶ強くなってきたと思う。給食も終了したため、数日の短縮授業後には、小学生最後の夏休みを俺は迎えることになる。前世の記憶がうっすらあるから、本当は二度目なのかもしれないけど、やっぱり感慨深いものである。

 

 ただ、今年の夏休みは今までとは大きく違うところがあった。去年までの俺は、表側でずっと過ごしてきた。俺には家族がいるし、いつもの生活があるから、それを崩すことなんてできない。だから、今まではそれでよかったのだ。

 

 しかし、今年の春先から俺は裏側に足を踏み入れ、そして少し前に命がけの戦闘を行った。それによって、このままじゃやばい、ってことを俺は自覚したのだ。だけど、今の生活を全て捨てて、強さだけを求めるなんて俺にはできない。ここは俺にとって、かけがえのない大切な場所だから。

 

 そんな悩みの一つを解決するのに、長期的な休みはありがたかった。せめて自分の身を守れるぐらいの自衛の術は、身に着けたいと思っていたからだ。それに夏休みはうってつけだろう。学校がないだけで、かなり身軽になれるからな。しかし、家族に心配をかけたくないから、勝手に家を空ける訳にもいかない。それに悶々と頭を抱えていた俺だったけど、正直に言います。裏の力を嘗めていました。まさか、こんな方法を思いつくとは。一般人の子どもには、とても真似できません。

 

「だよなー、でも一人で大丈夫なのか? 外国で一ヶ月以上も、ホームステイするんだろ」

「うん、だけど向こうのホームステイ先は、いい人たちだったから大丈夫だよ。日本語も一応通じるし、同じ年ぐらいの友達になった子もいるんだ」

「へぇー、そうなんだ。しかし、奏太もかなり思い切ったことをするよなー」

「あはははは」

 

 それ、俺が一番思っているんだけどね。でも、これなら問題なく、俺は海外に向けて長期的に滞在できる理由ができた。家族からは、いつの間に俺がそんなものに応募していたのか、と驚かれたし、かなり心配されたが、いいチャンスであることも理解してくれた。実際に外国には行くんだし、語学の勉強になるだろう。姉ちゃんが俺以上に、おろおろしていたのには笑ったけど。旅行用の本や辞書を色々買ってくれたし、大切にしようと思う。

 

 さて、この語学旅行だが、当然俺が向かうのは『灰色の魔術師(グラウ・ツァオベラー)』である。悪魔や魔法使いが介入している旅行会社に頼み、表用に理由をわざわざ作ってくれたのだ。メフィスト様には、本当に足を向けて寝られない。ラヴィニアとは通信で話をしていたけど、直接会うのは久しぶりだ。お土産は、とりあえず外国人が喜びそうなお土産ベスト十から選んでみた。メフィスト様用が一番困ったが、買ってきたものから好きなものを選んでもらうことにする。好みがわからないから、おまかせしよう。

 

 

「それじゃあ、夏休みに入る前にいっぱい遊ぼうぜ。今日は俺の家に集合でいいか?」

「えー、今日は俺、サッカーの日だよぉー」

「ははっ、どんまいっ! あっ倉本、お昼ご飯を食べたら、いくつかソフト持って来てくれよ」

「はいはい、とりあえずみんなで遊べそうなものは選んでおくよ」

 

 俺も行くー! とはしゃぐクラスメイトと一緒になっておしゃべりをし、そして騒ぎ過ぎて先生に怒られる。下校時刻はとっくに過ぎているし、先生に挨拶をして、ランドセルを背負ってみんなで昇降口へ向かった。その間も、学校生活のことや、これからのことに盛り上がりながら、俺たちはそれぞれの家に向かい足を進めた。

 

「……やっぱり、壊したくないよな」

 

 一人通学路を帰る俺の口から、先ほどまでのみんなとのやり取りを思い出す。俺は裏側に足を踏み入れ、そしてこれからさらに深いところへ向かうことになるかもしれない。危険だろうし、また命のやり取りをすることだって、起こりえることなのだ。

 

 強くはなりたい。自分の身を守れるぐらいには、あんな風に悔しい思いをしないで済むぐらいには、心も身体も強くなりたい。その気持ちは、あの日から強く俺の中にある。それでも、強くなるために今までの全てを投げ出すことはしたくない。友達とこれからも一緒に遊びたい。家族と一緒に笑いたい。日常を壊したくない、って俺の思いは、きっと甘いのだろう。神器を持っている俺は、本来ならこんな風に日常にはいられないと思うから。

 

 兵藤一誠は、表と裏の両方を守ろうと頑張っていた。だけど俺には、彼のようにみんなを守れる力がない。もし俺に前世の記憶がなかったら、この神器の力を悪用されないために、親元や友人たちと引き離されただろう。彼らを危険に晒さないために、巻き込ませないようにするために。だけど、たまたま俺には、神器の能力のおかげや、この世界の知識があったおかげで、それを事前に回避することができた。ただ、それだけのことだけど。

 

「色々、話し合わないとな。俺自身のことも、これからのことも…」

 

 ふいに見上げた青空は、眩しいぐらいの晴天がどこまでも広がっている。この夏休みで、どれだけのことができるのか。それはわからない。だけど、止まる訳にはいかない。例え中途半端だろうと、この道を選んだのは俺なのだから。

 

 頑張ろう、と拳を小さく握り締め、俺は家に向かって真っ直ぐに走り出した。

 

 

 

――――――

 

 

 

 ――あの旅行から帰ってきて、俺の夏休みの予定が決まったのは、それから数日後のことだった。

 

「えーと、これが今まで俺が黙っていたことです」

「……お前なぁ」

「本当に色々と、ご迷惑をおかけしました」

 

 俺たちがいるところは、フリーの集まり所の個室。話し合いや相談事などのために使われる場所の一つで、魔法で傍聴阻害がされている。師匠が情報のやり取りなどをするところでもあるため、信用できるらしいけど、念のため俺も協会でお土産にいただいた魔法の道具で、さらに色々阻害はさせてもらった。

 

 俺が頭を下げた相手は、師匠その人である。前世や知識以外のことを、掻い摘んでだが俺は彼に話すことにしたのだ。その理由は、やはりメフィスト様からのお誘いがあったことが大きい。あれから俺だって、家に帰って一生懸命に考えた。神器のことを考えるのなら、組織に入るべきだと思う。俺が一人で頑張ったって、どうしても強くなることに限界はある。協会に所属すれば、後ろ盾を得られ、神滅具持ちであるラヴィニアから色々指導を受けられ、さらに魔法について知ることができるかもしれない。

 

 何より、メフィスト様は、言っちゃなんだが放任主義なお方だ。そして、人間を尊重してくれる数少ない人外。眷属関係なく、俺は彼を主として自分が下で働くことに抵抗感はない。むしろ、人間として働く場所の中で、ここ以上に好条件な場所があるのかとすら思ったものだ。

 

 原作で魔法使いの協会があまり出てこなかったのは、彼らが人間側の組織だったことが大きい。原作ではこの世界中が滅ぶかもしれない危機ではあったけど、冥界の厄介事には全く我関せずだった。当然と言えば、当然でもあるだろう。あと、魔法使いでも人間だから、原作のインフレ人外大決戦に参加できないからって言うのもあるだろうけど。その代わり、魔法での後方支援や、魔法の道具などを作ったり、裏方の仕事を頑張っていたのだと思う。

 

 三大勢力に属するのは、俺自身抵抗があった。でも、敵対組織に就くのは嫌だし、ずっとフリーで居続けるのも、無理がいつかきっと出ただろう。俺だって、この世界が平和になってほしい。主人公たちを手助けできたら嬉しいし、頑張ってほしいと心から思う。だから、三大勢力にさり気なく協力でき、それなりに一歩離れたところから世界を見られる『魔法使い陣営』というのは、本当に目から鱗だったのだ。

 

 理事長が悪魔だから、少々悪魔寄りだろうけど、彼は冥界のことには一切関わっていない。何より、裏の世界に入って数ヶ月だが、魔法の力は必要不可欠な代物だ。悪魔、堕天使、天使、それ以外の勢力も、魔法使い側と敵対して、その技術が使えなくなるのは痛いだろう。だから協会は、一つの不可侵の領域にもなっていると思うのだ。メフィスト様は、天使や堕天使とか、それこそ他種族でも、あんまり気にしなさそうなお方だし。敵対するより、お互いに協力、または利用する方が無難だと感じるだろう。

 

 さて、ここまでは俺でも考えられたことだ。結論として、魔法使いの組織に入ることは悪い案じゃない。だけど、それで即決できる性格なら、俺はこんなにも情けなくなっていないだろう。はっきり言おう、不安だ。本当に組織に所属していいのか、不安なのだ。メフィスト様は、きっと俺を急がせない。だけど、またいつ世界の厄介事に巻き込まれるかわからない現状で、悠長に考えていられる暇もない。さすがに、やっぱり組織を抜けます、なんて後から言うのは駄目なことはわかる。

 

 そんな俺がいくら考えても、どうしようもない。なので次に思いついたのが、誰かに相談することだった。魔法使い側である、ラヴィニアやメフィスト様には聞きづらい。だけど、俺には一人だけ信用できる裏関係の人がいた。それが、俺が師匠に話をしよう、と決めた理由の一つであった。何より、俺は彼の弟子だ。他組織に所属するのなら、一番に伝えなきゃいけない。だけど、俺みたいな子どもを大組織が勧誘するなんて、普通ならありえないことだ。

 

 つまり、彼にはどうせ話すか、または切り捨てるしか選択肢がなかったという訳である。そして俺は、誰よりもお世話になった彼を、切り捨てることなんてできなかった。

 

 

「あの港は、お前が原因だったのか…。はぐれ悪魔や、現場の検証を聞いて、三大勢力に恨みがある犯罪者やフリーの者、または一般人の神器覚醒による暴走、などと色々考えていたがな……」

「恨みと、暴走?」

「あんな隠蔽が大変な事件だぞ。裏のことを知っていたら、普通はやらない。なら、わかっていてやった愉快犯か、何も知らないで力を持った者による暴走が妥当だ。しかし、それにしては何も出てこない。私があれからも集めていた情報で、その犯人の慎重さと、考えなしすぎる行動のちぐはぐさに、首を傾げたものさ」

 

 すみません、本当に考えなしすぎて。ただ師匠から、大きくため息を吐いた後、「まぁ、お前にしては頑張ったな」と一言労わりの言葉をいただいた。それに、気恥ずかしさに顔が俯いてしまったが、俺は小さく頷き返した。別に褒められた訳じゃない。お説教もされた。だけど、俺の行動を認めてもらえたのは素直に嬉しかった。

 

「お前が私に話した訳はわかった。何かあるとは思っていたが、神器持ち、……それも厄介な効果があるものだということもな。お前のその知識のちぐはぐさも、それ関連か?」

「えーと、知識に関しては、その偶然と言うか、何と言うか……」

「ショウ、お前のその素直すぎるところはなんとかしろ。答えたくないのなら、嘘を吐けとは言わないが、それを上手く隠せ。お前がそれでは、フェレス卿が心配されるのもよくわかるよ」

「はい、ごめんなさい」

 

 間違いなく、正論です。ドストレートに、心に響いて痛いです。ラヴィニアがメフィスト様に説教されていた時も、こんな気持ちだったのかな。次に会った時は、ジュースでいっぱい語り合おう。保護者は強いって。

 

 

「あの、師匠。それで、俺はこのまま『灰色の魔術師』に所属した方がいいんでしょうか。俺、確かに強くなりたいし、この力を悪用されたくない。でも、師匠からまだ教わりたいこともたくさんあって。神器を使いこなすことも、情報屋としても俺はまだまだだから、どうしたらいいのかって思って」

「まったく、手のかかる弟子だ…。私から言わせてもらえば、魔法使いの専属になれるというのは、とんでもないことなんだぞ。私なんかの弟子と、普通に天秤をかけるな」

「俺にとっては、それぐらいの価値がありますから」

 

 師匠から、無言で頭を叩かれた。照れ隠しがひどいです。

 

「はぁ、わかった。私はあくまで助言だけだ。決めるのはお前がしろ」

「はい、もちろんです」

「……私としては、お前はフェレス卿の後ろ盾をもらうべきだ。それも今すぐにな。少なくとも、『灰色の魔術師』に所属しているだけで、かなりの牽制ができるだろう」

 

 師匠曰く、大きな理由としては三つらしい。一つ目に、師匠では俺を守れないし、神器の扱いに詳しくない。俺の力を最大限にまで引き出すことは、できないとのこと。神器持ちは狙われやすい。いくら隠していても、ばれる時はばれるものだ。その時にフリーでは、守るにも限界がある。

 

 二つ目に、この世界で生きていくのなら、抵抗できるだけの力が必要不可欠であること。師匠は自分の限界を知っているから、そこから逸脱するようなことはしない。だけど、俺の場合は向こうからやってくる場合がある。巻き込まれることを覚悟で、生きていかなければならない。それには、最低限でも力がなくてはならないからだ。

 

 そして、三つ目は、俺の神器の能力の危険性だった。師匠からも言われたことに、軽く目を見開いたが、静かに耳を傾けた。この世界で、概念を消滅させる能力は、混乱を引き起こすかもしれない可能性がある。例としては、『疑似回復技』。癒しの力を求める者は、いつだって後を絶たないこと。そして、俺の神器なら「病」や「呪い」や「封印」などを消せるかもしれないことだった。

 

「でも、俺の神器を他人に及ぼすには、槍で刺さないと」

「大怪我を小さな穴一つで消せるかもしれないのだぞ? 死病や呪の苦しみも、同じようにな。フェレス卿も言っていただろうが、自覚しろ。お前のその『回復技』一つとっても、手元に置いておきたいと、祀り上げようとする者は後を絶たないぞ。お前が臆病で、正直よかったと私は思うよ。お前の力を知っているのは、私と、フェレス卿、そして神滅具持ちのお嬢さんだけなんだな?」

「はい、その三人だけです。はぐれ魔法使いの方は、メフィスト様がなんとかしてくれたみたいなので」

「なら、これからも出来る限り隠し続けろ。私自身、とんでもない情報を得てしまったと、頭痛がするんだからな」

 

 その、本当にすみません。師匠の話を聞いて、思い出したのはD×Dのヒロインである、アーシア・アルジェントさんだ。彼女が持つ神器の力は、癒しの力だった。その力で、彼女は聖女として人々に崇められ、ある意味道具のように使われてきた。彼女の優しい性格と、強い意志があったから、そんな環境でも耐えられたのだ。笑っていられたのだ。俺だったら、と考えるだけで寒気がする。俺じゃ、とてもではないが耐えられない。

 

 一応、治癒の力を持った者は、世界各地にいる。これは原作でも言われていたことだ。しかし治癒の力は、悪魔や堕天使には効果がない。だからアーシアさんの神器は、悪魔のような異種族にも効果を及ぼすから危険視されたのだ。そして俺の神器だが、おそらく異種族も回復できるだろう。俺の力は、神様からの聖なる力とは違う、消滅の力だから。

 

 もしかしたら、師匠には話すべきじゃなかったのかもしれない。今の俺に、他人への回復技や解呪を使うには、俺自身の消耗が激しいだろうし、たぶんスキルが足りなくてできないと思う。でも、……足りないだけなのだ。いつかできるかもしれないのだ、俺は。

 

 それこそ、テロリスト――禍の団(カオス・ブリゲード)だったら、「禁手へ至る方法」で無理やり開花させてこようとするかもしれない。そんな危険な情報に、師匠を巻き込んでしまった。そんな風に俺の顔色が悪くなったのを見て、師匠に軽く小突かれた。

 

「……子どもに心配されるほど、私は落ちぶれていない。お前は、自分の心配だけをしていろ。子どもの心配をするのが、大人の本来の役目だからな。それに、お前は私を信用して話してくれたのだろう? お前の力的に情報の漏洩は褒められたことではないが、それでもその信頼に応える程度の気概ぐらい、この老骨にもある」

「……師匠、マジでかっこいいです」

「ふっ、ちゃかせる元気は出たようだな。さて、ショウ。お前にまず必要なのは、理不尽を跳ね除けられるぐらいの単純な力だ。それは、戦闘力でもいい。組織力でも、逃走力でも、情報力でもどんな力でもいい。対抗できる力を身に付けろ。そして、現在。お前が最も早く身につけられる、力こそが――」

「組織力。そして、神器を使いこなせるようになる力」

「そういうことだ。それに私はまだお前に、全てを教えてはいない。どうせこれからも、裏で細々と情報屋をやっている身だ。弟子の帰りぐらい、ゆっくり待ってやるさ。……だから、しっかり強くなってこい」

 

 これから先、もし俺に尊敬する人は誰だ、って聞かれたら、きっと師匠のことが頭の中で最初に思い浮かぶことになるだろうな。彼を危険に晒したくないから、誰にも話すことはできない。だけど、この溢れ出しそうになる嬉しさは、ずっと消えないと思う。ありがとうございます、師匠。

 

 結局、師匠に背中を押してもらえたことで、ようやく俺は決心がついたのだ。これからは、こんな風に甘えてばかりではいられないだろう。どれだけ未来が不安でも、これからの道を決めるのは自分自身だから。彼の弟子として戻ってくるときは、今の俺よりも多少はマシになってこよう。それで師匠の弟子として教えてもらったことを生かして、『灰色の魔術師』で認められるように頑張っていくんだ。

 

 それが、こんな俺を支えてくれた人たちへの、恩返しになるはずだから。

 

「……師匠。俺、魔法使いの組織に入ります。そこで、たくさんのことを教わって、師匠の心配を一つでも減らせるように、頑張ります」

「そうだな、少しはマシになってきてくれるとありがたいな」

「うっ、……手厳しい」

 

 俺の決意の言葉に、肩を竦めながら師匠は笑い、そして俺を見送ってくれた。

 

 

 

 それから、メフィスト様からいただいた魔方陣のカードで通信を送ると、夏休みの語学研修の旅の当選通知が、魔方陣を通して送られてきたのだ。家族への対応のために、連絡先やスケジュールまで完備。何この、仕事ができるお方。それに慄きながらも、俺の夏休みの予定はあっさり決まったのであった。

 

 日本にいる魔法使いの協会の人が、当日迎えに来てくれるから、その人の指示を聞いてね。的なことを言われ、夏休みまでの日を高揚と不安を抱えながら、俺は過ごすことになった。家族と一緒にホームステイ先へのお土産を買ったり、友達と夏休み分も含めて思いっきり遊んだり、清掃活動に勤しんだりとかして。思い返すと、結構自由にやっているや、俺。

 

「それじゃあ、いってきます」

「いってらっしゃい。身体に気を付けてね。あと、ホームステイ先に迷惑をかけないようにしなさいよ。えーと、それと……」

「姉ちゃん、注意事項は昨日散々聞いたよ。そっちも元気でいてくれよ」

 

 相変わらずの様子に噴き出しながら、俺は家族に手を振って見送られた。そうして、俺の裏の世界、初めての夏休みは始まったのであった。

 

 


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