えっ、シスコン魔王様とスイッチ姫みたいな力ですか?   作:のんのんびり

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 グレモリー編は登場人物やイベントが多くて、書きたいことを書いていたらなかなか進まない…。遅くなってごめんよ、次回で会談開始になります(*・ω・)*_ _)ペコリ


第百七十一話 一堂

 

 

 

「ここが中級悪魔の昇格試験センター…」

「なんかガランとしている感じですね」

 

 グレモリー公爵家から直通で転移した先は、まばらにヒトが集まる広いフロアの中だった。昨日は公爵家でのんびり過ごし、一晩ゆっくり休むことができた。昇格試験を受ける正臣さんは緊張して眠れなかったらどうしようと心配していたので、気付け相棒を一発決めておいたから、すっきり試験を受けられそうだろう。時間に余裕をもって転移したとはいえ、どうやらそこまで受験者はいなさそうだ。

 

 メフィスト様は正臣さんの主だけど、アジュカ様と会談の最終チェックをするために公爵家に残っている。正臣くんなら大丈夫だろう、とカラカラと笑っていたな。相変わらずのゆるい放任主義な主である。黒歌はリアスちゃんとの授業で、リンは白音ちゃんと一緒に庭で遊ぶらしい。俺は個人的に中級悪魔試験のセンターが気になったので、正臣さんについてきた。それに友人として、応援と見送りもしたかったしな。

 

 試験会場は百人ぐらいの人数が余裕で入れそうなほど広いけど、それにしては閑散としている印象だ。三大勢力同士でにらみ合っている現在は、大規模な戦が発生しないため、悪魔稼業の契約で大きなものを取るか、レーティングゲームで活躍するぐらいでしか昇格のチャンスはない。試験に挑戦できる権利を手に入れるのが、最も大変なのが現状らしい。後者の理由で昇格する悪魔が多いので、ちらほらレーティングゲームで見たような下級悪魔を確認できた。そう考えると、前者の方法で最速で昇格を決めた正臣さんって、本当にヤバい依頼を受けまくっていたんだなぁ…。

 

「八重垣正臣様。案内のスタッフがこちらに来ますので、フェレス理事長よりいただいた推薦状を準備しておいてください」

「あっ、はい。わかりました」

「正臣さん、確か受付でレポート課題も提出するんですよね。それもついでに出しておいた方がいいんじゃ」

「そうだった。えっと、レポートはこっちの封筒の中に…」

 

 ちなみに正臣さんの送迎としてついてきてくれたのは、グレイフィアさんである。俺の護衛も兼任してくれるそうなので、お言葉に甘えさせてもらった。そんな俺とグレイフィアさんの言葉に、慌てて準備を始める正臣さん。だいぶテンパっているようである。戦闘ならスイッチをすぐに切り替えられるのに、相変わらず日常だとどこか抜けている友人だ。学校に行ったことがない正臣さんにとって、受験や試験なんて未知の関門と同じような扱いだろう。

 

 リーバンとクレーリアさんが試験対策にみっちり付き合ってくれていたし、あとは気負わずに頑張ってほしいものである。ちらりと推薦状を見ると、赤と青のグラデーションで描かれた紋様が刻まれている。どうやら事前に連絡は入っていたみたいで、受験者を確認に来たスタッフさんは丁寧に対応してくれた。そりゃあ、いきなり現魔王の女王と大悪魔の推薦状が現れたら腰を抜かすもんな。それでも、ちらほら他の受験生がこちらに驚愕の眼差しを向け、ひそひそと噂をしているみたいだった。

 

 そこに含まれる感情には、畏れや興味、対抗意識といった様々な思いが見えた。中には、敵意に近い者もいそうだけど…。やっぱり、メフィスト様の眷属っていうネームバリューは大きいらしい。多少居心地が悪そうな正臣さんだけど、メフィスト様の眷属になったからには慣れていかないといけないんだろうな。協会の魔法使いたちは人間の頃の正臣さんを知っているからか、扱いが雑というかそれなりに気安く接してくれる。しかし、そこから一歩でも外の世界に出たら、それも階級制度が根付いている悪魔側からすれば、そういうわけにはいかなくなるだろう。

 

「わかってはいたけど、こういう視線はまだ慣れないよ。主の看板を背負ってきていると思うと余計にね」

「メフィスト様はあんまりそういうことを気にしない方とはいえ、気持ち的に気負っちゃいますよね」

「八重垣正臣様、受付から必要書類を受け取りましたので、そちらの記入をお願いします。受験票は記入後にもらえるそうです」

「すみません、わざわざありがとうございました」

 

 受付から用紙をもらってきてくれたグレイフィアさんに、日本人らしい最敬礼を送る正臣さん。腰が低い彼に、現在はメイドであるグレイフィアさんは小さく肩を竦めている。わかっているとはいえ、最強の女王を手足のように使うのは抵抗があっても仕方がないだろう。だけど、今後は立場による接し方も勉強していく必要がありそうだ。俺は正臣さんの背中をポンポンと叩いてエールを送っておいた。

 

「今の私はお客様を案内する一人のメイドです。主の剣である『騎士(ナイト)』が腰の低い態度を対外に見せるのは、あまりよろしくありませんよ」

「あっ、はい」

「それに、八重垣正臣様はこれまで人間界でのみ活動し、レーティングゲームにも参加されていません。それ故に、冥界にはあなたの力量が広まっていないのです。……血気盛んな者なら、番外の大悪魔の眷属を倒せば箔がつくと思う者もいるかもしれませんので」

 

 ぽそっと小声で伝えられた情報に、俺と正臣さんはギョッと目を見開いた。なるほど、僅かに感じた敵意はそれか。俺より目立ちやがって、とかそんな感じ? もしかしたら、古き悪魔関係もあるかもしれないけど、メフィスト様の眷属に堂々と嫌がらせなんてしないだろう。魔法使いとの契約を悪魔のステータスにしている時代で、そこの理事長の機嫌を損ねるわけにはいかないしな。

 

 原作ではイッセーも注目されていたけど、彼の強さは冥界中が知っていた。しかし正臣さんの強さを、ここの悪魔達は誰も知らない。レーティングゲームで戦って昇格してきた悪魔からすれば、悪魔稼業の契約の功績で昇格した正臣さんを下に見る可能性はある。階級制度的に堂々といびることはできなくても、昇格試験だからと実技試験などで当たってくる可能性があるわけか。

 

「……正臣さん。喧嘩を売られても本気を出しちゃダメですよ。確かここの実技試験は相手を死亡させたら失格だったと思うので、優しくわからせるぐらいの気合いで挑んでくださいね」

「実技試験は負けても試合内容で合格になる可能性があります。ですので違いがわからない愚か者には、何もさせずに初撃で沈めるぐらいの慈悲を与えるのがよろしいでしょう」

「応援側の容赦がなさすぎる…」

 

 戦闘力に関しては、誰も心配していませんからね。

 

 

「倉本奏太様、昨晩は申し訳ありませんでした」

「……もしかして、黒歌のことですか?」

「えぇ、まさか客人の部屋に初日の夜から押し掛けるなんて、本当にあの子は…」

 

 正臣さんが必要書類を書くためにペンを走らせている横で、グレイフィアさんからぺこりと頭を下げられる。昨日と言われて、おそらく黒歌の突撃訪問のことだろうとすぐに気づいた。確かに昨日の訪問には驚いたけど、黒歌の性格的にありえると思ってそこまで気にしていなかった。だけど、普通は客人の部屋にアポイントなしで行くのは、公爵家的にNGだよな。お目付け役らしいグレイフィアさんが、黒歌の行いに謝罪を伝えるのは当然だろう。

 

 俺には仙術もどきがあるから、多少なら相手の感情のようなものが感じられる。完璧メイドなグレイフィアさんが、マイペースな黒歌の行動に振り回されている姿に思わずくすりと笑みを浮かべてしまった。何だかしっかり者のお姉さんと、マイペースな妹って感じに見えてくるな。

 

「俺は気にしていませんし、彼女と話せてよかったと思っていますから」

「ありがとうございます」

「それで、昨日のアレで黒歌はすっきり出来ていそうでしたか?」

 

 ふと気になって聞いてみると、僅かだけどグレイフィアさんの目が見開かれた。

 

「それは――」

「……一応、俺もアジュカ様から黒歌たちの生い立ちは聞いていましたので。その、黒歌ってあんまり他者と関わるのが苦手? というか、素直な感じじゃなさそうだなって思いましたから。なので、わざわざ俺のところに自分から訪問したのには、彼女なりに自分の目で確かめたいことがあったんだろうなって思ったんです」

「黒歌がそう言ったのですか?」

「いいえ、思いっきりこっちを揶揄ってきましたよ。だから、こっちも遠慮なく喧嘩は買いましたけど」

 

 昨日のことを思い出して小さく噴き出すと、グレイフィアさんは困ったように眉を下げた。客人の部屋に訪れてやることが揶揄うことで、しかも最後には喧嘩しているんだから反応に困るだろう。しかも、それをされた相手が全く気にしていないのだ。たぶん黒歌がわざわざ俺を揶揄ったのは、こっちがどんな反応をするのか気になったのだと思う。彼女なりの挨拶だと思ったので、俺も同じように軽く受け止めたのだ。

 

「……アジュカ・ベルゼブブ様のおっしゃる通りですね」

「アジュカ様ですか?」

「旦那様と魔王様の話を聞いて、黒歌に弟子をつけさせることを私は最初反対していたんです。あの子はまだ他者との関わり方に不慣れでしたから。わざと試して、相手に不快な思いをさせるかもしれないと」

「まぁ、実際に喧嘩はしましたしね」

「倉本奏太様、あなたと黒歌のそれはじゃれ合いと言うのですよ。……素直になれず、それで相手から嫌われたり、軽蔑されたりしたら一番傷つくのは自分なのに困った子です」

 

 アジュカ様が俺のことをグレモリー公爵家のみなさんにどう紹介していたのかはわからないけど、少なくとも悪い印象は感じなかった。たぶんナベリウス家から保護された黒歌と、ずっと対等に向き合ってきたのはグレイフィアさんなんだろうな。公爵夫妻やリアスちゃんは、黒歌にとって雇い主で保護を受ける立場としての負い目がある。だからこそグレモリー公爵家に仕えるメイドという立場から、彼女は黒歌と接してきたのだろう。

 

 そんなグレモリー家と黒歌の温かい関係が感じられて、どこかホッとする思いがあった。原作とは大きく運命を変えてしまった黒猫の立場。だけど、彼女のことをこんな風に心配してくれるヒト達がいるなら、これからも大丈夫だろう。優しげに細められたグレイフィアさんの瞳に、少し頬が赤くなってしまったが。彼女はそれからスッと表情を引き締めると、静かにこちらへ向けて再び頭を下げた。

 

「改めて、倉本奏太様。黒歌をよろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくお願いします。ちなみに、黒歌が悪猫モードになった時は」

「遠慮なくお申し付けください。……ですが、あなた様もあまり、その…周りを翻弄したり、躍らせたり、振り回したりしないであげてくださいね」

 

 アジュカ様、本当にグレイフィアさん達に俺のことをどんな風に紹介したんですか…。ものすごく居た堪れないんですけど。ネビロス家をうっかり発掘して大騒ぎになって、魔王全員が胃薬オーダーメイドをしている現状があるので、反論できる要素がない。今回の報告会はもうどうしようもないけど、次回からはやらかしは溜めずにこまめに出すように気を付けます。

 

 とりあえず、グレモリー家最強のメイド様の言質をもらったことは強い。これで勝つる。さすがに毎回使うつもりはないので、ここぞの切り札ぐらいに思っておこう。

 

「それでは正臣さん、試験頑張ってきてください! 受験番号を間違えたり、筆記道具を忘れたり、解答欄がズレたり、うっかり名前を書き忘れたりしないように気を付けてくださいねっ!」

「奏太くんが僕のことをどう思っているのか、よくわかったよ」

「それでは、倉本奏太様はこちらで送り届けます。また後ほど、試験が終わるころにお迎えに上がりますので」

 

 最後に応援として、相棒(ファイト)一発でメンタルケアをしておく。こうして、試験に向かう友人を快く送り出したのであった。

 

 

 

――――――

 

 

 

「あっ、奏太兄さん。戻られていたんですね」

「カナおかえりー。シロと散歩してたけど、この庭すっごく広いの!」

「ただいま。俺も少し見たけど、すごく綺麗だよな。白音ちゃんもリンに付き合ってくれてありがとう」

 

 グレイフィアさんの転移魔法で無事に公爵邸へと戻り、魔王様達が集まるのを待つまで休憩時間となった。せっかくなら昨日馬車から見えて気になっていた、公爵家の自慢の庭を見てみようと考えたのだ。先に庭へ遊びに行っているらしいリンと白音ちゃんのオーラを辿って、無事に辿り着くことができたのであった。

 

 リアスちゃんからは、人間界や冥界にある花々で溢れた色鮮やかな庭園が見られる素敵な場所だと聞いていたので、結構楽しみにしていたのだ。ここが冥界で太陽がないからか、魔力によって植物を維持しているらしい。そのため季節感はあまりなく、夏と冬の花が同時に咲いていたりする。人間の俺からすると面白い構成になっていたりして、これはこれで色々と楽しむことができた。

 

「いえ、私もリンちゃんと一緒に散歩ができて楽しかったです。今日は魔王様がみんな集まるから、公爵家の皆さんも忙しそうでしたし…」

「邪魔したらダメだと思って、ちゃんとリンもシロも空気を読んだんだよー」

「そっか、二人ともみんなのことを考えていてえらいなぁー」

 

 ふふんと鼻を鳴らすリンと、もじもじする白音ちゃんの小さな頭を俺は軽く撫でておく。ご褒美だとお菓子もプラスすると、大喜びで受け取ってくれました。黒歌(シスコン)に見られたらまた何か言われそうな光景だけど、素直で可愛い子どもたちに癒されたので俺に後悔はない。しばらく三人で庭を散歩しようかと足を進めようとしたが、ふわりと漂った蒼い魔力に歩みを止めた。

 

「あれ、このオーラと魔力…」

「奏太兄さん……?」

 

 俺がバッと後方へ振り向くと、遠めに日本で見慣れた黒が目に映った。悪魔の髪は色彩豊かで、様々な眷属もいるため大変カラフルになることが多い。そのため、日本ではよくある黒が逆によく映えることがあった。俺の視線の先を辿ったリンと白音ちゃんは、驚きに目を見開いている。長い黒髪を二つ結びにした女性もこちらに気づいていたようで、ブンブンと片手を振って歩み寄ってくれた。彼女の手を握るリアスちゃんぐらいの年齢の少女も伴いながら。

 

「やっほー、カナたん! こうして直接会うのは、久しぶりだね☆」

「お久しぶりです、セラフォルー様。今日は来ていただいてありがとうございます」

「うふふ、私はソーたんの付き添いで、サーゼクスちゃんのお家へ『ついで』で遊びに来ただけだよ?」

 

 建前とはいえ、そういうところはきっちり線引きしているセラフォルー様。この方、はっちゃける時は遠慮なくはじけるけど、必要な時は外交官としての顔をしっかり見せる方なんだよな。今も駒王町でよく見ていた魔法少女ミルキーの衣装ではなく、キリっとした大人の女性らしい服装を身に着けている。俺の視線が服に向いていると気づいたのか、セラフォルー様はシックな色合いのスカートを軽く摘まんでみせた。

 

「あぁ、この服? そういえば、カナたんには正装した姿しか見せていなかったもんね☆ 私もカナたんの思いに応えて着替えたい気持ちはあるんだけど、……ヴェネラナ様(おばさま)が怖いから」

「俺が見たがっているような解釈はやめてください。まぁ、公爵家への正式訪問で魔法少女の衣装を着ていたら、そりゃあ雷が落ちますよね」

「そうなのよー! おばさまと私のお母様が学生の頃からの友人だから、子どもの頃から頭が上がらないわけなのっ!」

 

 よよよっ…、と手で顔を覆って泣き真似をするセラフォルー様。俺の隣にいた白音ちゃんとセラフォルー様の隣にいた黒髪の女の子は、呆然と俺と魔王様を交互に見ていた。セラフォルー様の性格は一年間グレモリー家にいた白音ちゃんもわかっているだろうけど、まさか俺とここまで気安い関係だとは思っていなかった感じかな。普通に考えて、人間の魔法使いが魔王様と軽く世間話を始めるとは思わないか。

 

 この冥界を治める紅一点の魔王、セラフォルー・レヴィアタン様。冥界に住む者からすれば、雲の上のような存在の一人。しかし、俺にとっては魔王少女様という側面の方が強く、いつも駒王町の組織経営や魔法少女の今後について語っている記憶しかない。彼女との思い出は、全て魔法少女と繋がっていると言っても過言ではない。そんなわけで、プライベートでしか魔王様と会ったことがないのだ。俺にとって、このやり取りがいつも通りなのである。

 

 しかしここは公爵邸で、しかも初対面の女の子もいる。アメジスト色の瞳を白黒させていたセラフォルー様の面影がある少女は、戸惑いがちに彼女の服を引っ張った。それにセラフォルー様も気づいたようで、今度はキラキラした目で小さな少女の肩に優しく触れ、俺に見せるように前へ出した。

 

「そうだった! カナたん、この子がいつも私が自慢している可愛い妹のソーたんなんだよ☆」

「お、お姉さまっ!?」

「あぁ、やっぱり。セラフォルー様から聡明で優しくて姉思いでプリティな妹がいるって、いつも聞いているよ。えっと初めまして、……ソーたん?」

「……ソーナ・シトリーです。ぜひ、ソーナとお呼びください。あと、姉が吹き込んだことは忘れていただけると…」

「えー、ソーたんの良いところをたっくさんアピールしたんだよっ! カナたんと妹大決戦をした時だって、ソーたんの『初めてのお遊戯会』の映像記録の上映会を――」

「お姉さまぁぁッーー!!」

 

 真面目に自己紹介を頑張るソーナちゃんだったが、涙目でポコポコ姉を叩いている。うん、ごめん。俺も堕天使の部分は抜きで朱乃ちゃんの可愛さをアピールしていたら止まらなくなって、上映会まで発展してしまったのは正直すまないと思っている。朱乃ちゃんには頭を下げて、魔王様と上映会しちゃったと謝ったら、ものすごく遠い目で許してくれたけど。バラキエルさんからも拳骨をもらったので、今度からは気を付けます。

 

 さすがにこのぐらいの年齢になれば、羞恥心が芽生えてもおかしくないだろう。リアスちゃんと同じ年なら、十一歳ぐらいだろうし。早ければ、思春期に入ってもいい頃だ。俺も朱乃ちゃんへの接し方に気を付けないと、そろそろ怒られそうである。ヴァーくん含め、成長記録を撮るのをやめるつもりは一切ないのでそこは堂々するつもりだけど。隠し撮りはさすがにダメだからね。

 

「うぅ…、本当に忘れてください……」

「その、何かごめんね」

「いえ、取り乱してしまい申し訳ありません。カナたんさん」

「倉本奏太です」

「魔法少女を束ねる組織のボスなんだよ☆」

「スポンサー兼、ちょっとした後ろ盾なだけです」

「あっ、はい。……姉さまと仲が良い理由がよくわかりました」

 

 慣れたように姉と会話のキャッチボールをする俺を見て、初対面の女の子から遠い目をされました。これ、完全に姉と同類と思われたよね…。それから魔王様の突然の登場に固まっていた白音ちゃんとリンだったが、俺たちのやり取りで多少は毒気が抜かれたのか、ぺこりと挨拶を交わすことができた。ソーナちゃんは子龍を見るのが初めてだったようで、リンから許可をもらうと嬉しそうに鱗を撫でさせてもらっていた。

 

 リンもリンでセラフォルー様が本物の魔王少女様だとわかり、喜んでサインやツーショットをお願いしている。冥界の女の子に大人気な番組だもんな、気前よくサインと写真を撮ってくれた魔王様には感謝しかない。そしてお姉ちゃんを褒められて、ひっそりご満悦そうなソーナちゃんが可愛かったです。

 

 

「随分賑やかだと思ったら、もう家に来ていたのかセラフォルー」

 

 さぁ…と風が吹いたような気がした。庭に植えられた明るい花々に囲まれているのに、その髪色によって存在感を際立たせる紅髪の男性。テレビでよく見るような魔王としての衣装ではなく、フォーマルなスーツを着込んでいるのに、その存在感に思わず圧倒された。悪魔達の王であり、冥界をまとめるトップ、サーゼクス・ルシファー様。穏やかな相貌で軽く手を振る魔王様に、俺も含めて子どもたちもビクッと固まっていた。

 

「あっ、サーゼクスちゃん! 私も今さっき来たところだよ。ファルビーは、……何だかすごくお疲れモード?」

「……有休をとるために、真面目に仕事をした弊害さ」

「それ普通のことだから、ファルビウム」

 

 そんな紅髪の魔王の少し後ろを歩くのは、どこかくたびれた様な中年のサラリーマン風のオーラを漂わせる男性。華やかな魔王様達と違って、雰囲気の落差が激しいほどやる気が感じられない。冥界を治める王の一人でありながら、最も影が薄く表舞台に出ることさえレアキャラ扱いされるような魔王様。それが、ファルビウム・アスモデウス様だ。万を生きる悪魔達ですら魔力でフサフサの髪を必死に維持する中、手入れが面倒だからという理由でさっぱりスキンヘッドにした逸話のある方らしい。

 

 それにしても、うわぁ…魔王様大集合だよ。これまでは魔王様単体としか接することがなかったから、こうして揃うと圧巻としか言いようがない。ここにアジュカ様も揃ったら、記念写真を一枚撮らせてもらってもいいかなぁー。そんなポカンとする俺達とは違い、慌てて(ひざまず)こうとしたソーナちゃんだけど、セラフォルー様に「今日はOFFだからいいんだよー」と言われてガチガチになっていた。

 

 プライベートとはいえ、一応客人として呼ばれた俺はどう対応すべきかを考え込んでいると、ふいにサーゼクス様との視線がバチッと重なった。それなりに場数と人脈は築いてきたつもりだけど、やっぱり初対面の瞬間は緊張するな。あっちも少し驚いたように目を見開き、灰色のローブを着た俺の姿を上下に眺めると、納得がいったように頷いていた。

 

「そうか、キミがアジュカの…。ごきげんよう、『変革者(イノベーター)』の少年。私はサーゼクス・ルシファー。我が家の居心地はどうだろうか?」

「初めまして、ルシファー様。『灰色の魔術師(グラウ・ツァオベラー)』に所属する倉本奏太です。グレモリー家の皆さんには、本当によくしてもらっています」

「そうか、それはよかったよ。……キミのことはアジュカやセラフォルー、ディハウザーからよく聞いていたから、なんだか初対面って感じがあまりしないね」

「えっと、はい…」

 

 柔和な笑みを浮かべて話しかけてくれる魔王様に、俺もおずおずと頷いておく。サーゼクス様の言う通り、確かに他者から彼について話を聞くことの方が多かったかもしれない。神器『消滅の紅緋槍(ルイン・ロンスカーレット)』が目覚めてから九年以上経って、ようやく俺は紅髪の魔王様と邂逅したのであった。

 

「私のことはサーゼクスと呼んでくれていいよ。そうだ、せっかくなら私もみんなのようにキミを呼んでもいいだろうか?」

「ありがとうございます、サーゼクス様。はい、もちろんです」

「そうか。では、これからよろしく頼むよ」

 

 そう言って差し出してくれた手を、俺は感動しながら握り返した。

 

「カナたんくん」

「…………」

 

 ――なんでよりにもよって、選んだのがそっちなんですか!?

 

「奏太でお願いします」

「えっ?」

「奏太でお願いします! 本当にお願いしますっ!!」

「わ、わかった…」

 

 めっちゃ困惑されました。白音ちゃんとソーナちゃんから信じられないような目を向けられたけど、それでも誠心誠意で頭を下げるしかない。魔王様に口答えとか思ったけど、この方は微妙に天然が入っているからヤバい。こちらを揶揄ったとかじゃなくて、たぶん本心で呼ぼうとしていた。まずい、今後のシリアスさんが仕事できなくなっちゃいます!

 

 つまり、ここでしっかり訂正しておかないと、この魔王様は絶対に今後「カナたん」呼びを真顔で言い続けてくるという確信があった。セラフォルー様は見た目や言動的に慣れちゃったけど、エレガントな雰囲気を纏った魔王様からその呼び方は素直に反応に困るよ! カナタくんとかカナくんとか、もっと他にも選択肢があったでしょうっ!? 何とか「カナタくん」呼びで落ち着いてくれたので、ホッとしたけど。

 

 そんなグダグダな出会いになってしまった魔王様との初めまして。ファルビウム様とも挨拶を交わし、こうして会談の席に着く四大魔王がグレモリー邸に揃ったのであった。

 

 

 

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