えっ、シスコン魔王様とスイッチ姫みたいな力ですか?   作:のんのんびり

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第百七十七話 目的

 

 

 

「こうして、きれいなちょうちょになりました。めでたしめでたし」

「めーたし、めーたし」

「ありがとうございます、奏太さん。よかったね、ミリキャス」

「はいっ!」

 

 冥界のグレモリー邸に訪れて、一週間ほど経った頃。理事長と魔王様達の異世界への方針もなんとかまとまったようで、俺達の人間界への帰国も迫ってきていた。さすがに協会の理事長がずっといないのはまずいだろうし、俺も何だかんだで協会の癒し手としての仕事がある。黒歌との修行はまだまだ序盤だけど、一応人間界でもできる仙術の鍛え方を教えてもらった。今後は通信で授業を受けながら、基礎を磨いていくことになるだろう。また長期の休暇が取れそうな時に、グレモリー邸へお邪魔することにはなりそうかな。

 

 当然ながら、仙術の修行は一朝一夕じゃできない。俺も正臣さんも、オーラを身体に取り込むことしかできないので、そもそも本格的な術を教われる段階ではないのだ。まずは集めたオーラを身体に留めたり、放出したり、纏ったりする基礎を頑張るしかないだろう。オーラの吸い込み(穢れの消滅)に関しては相棒に丸投げしちゃっているので、それ以外の部分ぐらい俺が出来るようになった方がいい。相棒の消滅のストック数だって限りがあるんだし、能力の幅を出来るだけ制限したくないしね。

 

「もっかい、もっかい!」

「もう、ミリキャス。さっき読んでもらったばかりでしょ」

「いいよ、いいよ。この絵本を気に入ってくれたみたいで嬉しいし。じゃあ、もう一回読もうか」

 

 まるで姉弟のように寄り添う紅髪の子どもたちへクスリと笑い、俺は持っていた絵本をもう一回最初から開いていく。リアスちゃんが申し訳なさそうにペコリと頭を下げると、自分の膝の上にのせて嬉しそうに笑う甥っ子の様子に仕方がないなぁと微笑んでいた。髪の色が同じだから本当の姉弟のように見えるけど、二人は叔母と甥の関係なんだよな。仲良しなのが、見ていて微笑ましい。

 

 ミリキャス・グレモリーは、サーゼクス様とグレイフィアさんの息子さんで現在三歳である。グレモリー邸へお邪魔するときのお土産として、幼児には絵本かなといくつかおすすめを持ってきたのだが、気に入ってくれたようで何よりだ。初めのうちはお客さんの前だからと、幼いミリキャスくんとは挨拶だけだったんだけど、リアスちゃんがせっかくならと甥っ子の部屋に誘ってくれたのである。さすがはグレイフィアさんの息子さんだからか、お行儀も良くて育ちの良さみたいなのが感じられた。

 

「ミリキャスくんって、グレイフィアさんに顔立ちが似ているんだね」

「そうなの。でもね、髪や目の色はお兄様や私と一緒なのよ。あと、滅びの魔力もお揃いなのよねー」

「ねー」

 

 アンコールの絵本が終わると、しっかりお礼を言ってくれたミリキャスくん。大好きなお姉ちゃんとニコニコする姿は、素直で大変可愛らしい。原作では十歳ぐらいの年齢で、礼儀正しく才能あふれる様子を見せていたけど、幼い頃はこんな感じだったんだなぁー。俺はよしよしと柔らかな紅色の頭を撫でると、くすぐったそうに目を細めてくれた。

 

 

「あらあら、髪と瞳の色はあなたとサーゼクスだけじゃなくて、お父様も入れてあげないと寂しくて泣いちゃうわよ」

「あっ、お母様!」

「ばーちゃまっ!」

「ヴェネラナ様。すみません、お邪魔しています」

 

 ガチャリと扉が開かれると、そこには亜麻色の髪を揺らした妙齢の女性が佇んでいた。悪魔は自分の年齢を魔力で好きに弄れるのは知っているけど、孫のいる祖母にはとても見えない外見である。ミリキャスくんはリアスちゃんの膝から降りると、真っ先にお祖母ちゃんのお膝に抱き着いていた。ヴェネラナ様はそんな孫を優しく抱き留めると、胸元まで抱き上げてあやしている。リアスちゃんは可愛い甥っ子がすぐにいなくなったことに、ちょっと唇を尖らせていた。

 

「いいのよ、こちらこそリアスとミリキャスの遊び相手になってくれてありがとう。この子たち、我が儘は言っていないかしら?」

「もう、お母様! 私はグレモリー公爵家の令嬢で次期当主なのよ。きちんと節度を持って接しています」

「本当かしら?」

「本当です! ……よね?」

 

 頬に手を当てて首を傾げるヴェネラナ様に、ぷりぷりと怒るリアスちゃん。そう啖呵を切ってから、ハッとしたようにちらりと心配そうにこちらを覗くエメラルド色の瞳を見て、思わず噴き出しそうになる。俺は揺れそうになる肩を我慢しながら肯定するように頷くと、満面の笑顔でお母さんにどうだ! と胸を張るリアスちゃん。そんな娘の様子に、ヴェネラナ様は困ったような笑顔を浮かべながら肩を竦めていた。

 

「淑女はまず大きな声を出さないわよ。ごめんなさいね、騒がしくしてしまって」

「気にしていません。リアスちゃんは実際にしっかりしていますし、色々助けてもらっていますから。それに子どもは賑やかなのが一番ですよ」

「そう言っていただけると助かります。倉本奏太さんは、幼い子と接するのに慣れているんですね」

「まぁ、それなりには…」

 

 これでも七歳で前世を思い出して、感性や自意識が引き上げられた状態で九年ほど過ごしてきましたからね。さすがに慣れますよ。感心したように告げるヴェネラナ様に、俺は気恥ずかしさに頬を掻いた。とりあえず、このまま立ったまま話すわけにはいかないとヴェネラナ様用の椅子を用意しておく。ゆったりと着席した公爵夫人に、リアスちゃんもテーブルの上に広げていた絵本を片付けてくれた。

 

「ミリキャスはこの絵本が気に入ったのね」

「はい、喜んでくれてよかったです」

「奏太さんは絵本を読むのが上手だったけど、よく読んでいるの?」

「よくではないけど、時々かな。リーベくん、……ミリキャスくんと同じ年の子の家へ遊びに行った時に、この絵本がお気に入りみたいでよく読んであげているんだ」

 

 リアスちゃんの何気ない質問に答えるように告げると、甥っ子と同じ年の男の子に興味深そうに目を見開く。さらにリュディガー・ローゼンクロイツさんの息子さんだと教えると、レーティングゲーム大好きなリアスちゃんはキラキラと目を輝かせていた。携帯を取り出してローゼンクロイツ家の写真を見せてあげると、ミリキャスくんぐらいの銀髪の男の子に目が釘付けになっていた。

 

 神器の症状を抑える結界内でなら、リーベくんはそれなりに動けるけど、運動は発作を起こす原因になるため行うのが難しい。だから俺がドイツへ遊びに行く時は、面白そうな絵本をお土産にして持って行くことが多い。リアスちゃんは携帯に映るリーベくんと、ヴェネラナ様に抱っこされているミリキャスくんを交互に見つめると、俺の方へ真っ直ぐに目を合わせた。

 

「ねぇ、奏太さん。リーベくんがミリキャスと同じ年なら、お友達になれるでしょうか?」

「リアス」

「だって、お母様。ミリキャスと同じ年の悪魔って少ないでしょ。それもお兄様の子どもであるミリキャスは、一緒に遊べるお友達をつくるのも大変だもの。私にはソーナがいつも一緒にいてくれたわ。だから、ミリキャスが好きになった絵本を一緒に楽しめるお友達ができたらって思って…」

 

 ヴェネラナ様に窘められながらも、ミリキャスくんの姉として自分が思ったことを口にするリアスちゃん。そこには、ミリキャスくんの今後を心配する気持ちが含まれていた。彼女の言うとおり、グレモリー家と付き合えるような同年代の悪魔は、リアスちゃんの年代に集中していると言えるだろう。悪魔は妊娠率や出生率が低いため、サーゼクス様とリアスちゃんのような年齢の開きがあるのが当然なのだから。十歳程度の差は同年代と数えられるぐらいである。

 

 確かに俺の原作知識でも、ミリキャスくんと同年代の子どもの描写はなかったように思う。メインがリアスさんの世代だから仕方がない部分もあるけど、主だった貴族の家の子どもは彼女たちと同世代だったような気がする。ミリキャスくんと同じ年の悪魔の子どもならいるだろうけど、現魔王の息子と付き合えるだけのバックがあるかと言われると難しいかもしれない。

 

 リーベくんは転生悪魔と人間の子どもで貴族ではないけど、レーティングゲームで第七位に君臨するプロ選手の子どもだ。周りの貴族主義の悪魔はうるさいかもしれないけど、表だって最上級悪魔である『番狂わせの魔術師(アプセッティング・ソーサラー)』を非難はできない。リーベくんは神器症のことがあって家から出ることはできないので、同じ年の悪魔の友人を持つ機会なんてなかった。だけど、もしリーベくんが神器症にかかっていなかったら、息子の友達探しをリュディガーさんも頑張っていたのかな。

 

「リーベくんは、今難しい病にかかっていて、外を出歩いたりはできないんだ。同じ年の友達を作ることが難しいのは、ミリキャスくんと同じかもね」

「病…、そうなのね……」

「だけど、リーベくんが元気になったら友達だってできるよな」

「は、はい。できます、絶対に!」

 

 胸の前で拳をギュッと掲げるリアスちゃんに、改めて勇気をもらえた気がする。リーベくんが元気になって、友達をつくる。それが、本来ならどれだけ困難なことなのかを俺が一番よく知っている。だけど、だからこそ自分の目で見てみたいと思った。銀髪と紅髪の子どもたちが、大好きな絵本を一緒に読み合って笑っている姿を――

 

「……うん、頑張らないとな」

「………?」

 

 テーブルを挟んだ向かい側にいるミリキャスくんの髪をそっと撫でると、きょとんと目を瞬かせていた。リーベくんとミリキャスくんの二人が、本当に友達になれるのかは二人次第だ。だけど、そのチャンスを与えられるかは俺の覚悟と頑張り次第である。これは、頑張る目的がまた一つ出来ちゃったな。

 

 それからは、リアスちゃんのお稽古の時間までヴェネラナ様を交えたおしゃべりが始まった。メイドさんが用意してくれたお茶をみんなで飲みながら、話に花を咲かせていったのであった。

 

 

 

――――――

 

 

 

「ようやく、奏太の修行からしばらく解放されるのね…」

「そんな特大の安堵の溜め息を吐くなよ。傷つくだろ」

「うっさいわ。私でさえも細心の注意を払って集める危険物(邪気)を、純度100%に濃縮させて使うとかアホなことを思いつくからでしょ。しかもできそうなのが、始末に負えない…」

 

 黒歌との仙術修行の最終日。仙術の掴みのあたりは俺も正臣さんも理解できたので、後は練習あるのみって感じだな。黒歌が使うような本格的な術に繋げていくのはまだまだだけど、それは今後の修行次第だろう。次にグレモリー家へ訪れるのは、たぶん神器症や天界とのやり取りが終わって、状況が落ち着いた頃になると思う。それまでに一週間で教えられた訓練を復習しておかないとな。

 

「だって、無理って言われたら実行には移さないけど、何とかできないかな? って色々考えちゃうもんだろ」

「……こいつには下手にできないって否定しない方がいい? いや、でも出来るかもと言えば言ったで、どこまでできそうなのか試してもっとヤバいことになりそうだし…」

 

 俺への指導方針でブツブツと呟く黒歌。うーん、俺的にはダメだと言われたことはきちんと守るようにしているし、真面目に修行だって頑張っているんだけど、どうして毎回問題児みたいな扱いになってしまうのだろう。俺的に良いアイデアを思い付いた! と思って喜んでいたら、相手からありえないような目で見られることが多いのだ。一度ぐらい素直に褒められたいけど、ダメなのかな? 褒めて伸びるタイプかもしれないよ、俺。

 

 確かに前回俺が思いついた邪気だけ吸収理論を黒歌にブッパしたら、お腹を押さえられてしまったけど。黒歌曰く、彼女が邪気を利用する時は薄めたものを使うらしい。黒歌が普段仙術を使う時は、身体に良いオーラだけを取り込むようにしているけど、それでも少量の邪気が混ざることはある。それと同様に、邪気だけを集めた場合も完全にそれだけを集めるのは無理なのだそうだ。川で例えると泥水のようなもので、一応ろ過すれば多少の綺麗な水が出てくるのと同じだ。

 

 つまり、100%の邪気()を排除する俺の仙術もどきを逆転すれば、本来なら黒歌のように泥水になるはずが、完全なヘドロ100%の穢れが出来上がるというわけである。うん、これは危険物だわ。擁護のしようがない。しかも、俺の場合はほぼ100か0なので、泥水のようないい塩梅にできないのだ。ぶっちゃけ、危険物(ヘドロ)しか作れない。黒歌に頭をぐりぐりされながら教えられて、俺もようやく理解が追いついたけどさ。

 

「邪気を活用する方法は、本来の仙術的にも邪法扱いなのよ。それを師匠よりヤバい劇物をノリで作る弟子とか、もうどうしろと…」

「えっと、ヘドロ爆弾みたいな攻撃に使えたりする?」

「……言っておくけど、濃縮された穢れをそのままぶつけるとか、敵対者……いいえ、よっぽど許せないと思うような相手以外には使わないでおきなさい。もはや呪いというか、呪詛のようなものだから。軽い気持ちで使って後悔するのは、たぶんあんたよ」

 

 俺よりも仙術の知識と理解に明るいからこそ、黒歌は真剣な表情で忠告を口にした。下手したら、使用された相手に後遺症を残しかねないレベルだかららしい。多少濃いぐらいの邪気なら一定時間で効果が切れるから戦闘でも使えるけど、俺の場合は戦闘後の相手にも影響しかねないからのようだ。濃縮邪気戦法は凶悪な分、使い勝手が非常に難しいものというわけか。

 

「なんか、使いどころが難しいというか、俺的には使えないというか…」

「まぁ、最悪あんたの異能で後遺症を消すこともできるでしょうけど、積極的に使うのはおすすめしないわね。むしろ私としては、あんたのそれは攻撃じゃなくて防御や罠として使っていくべきだと思うわ」

「えっ、邪気を防御や罠に?」

 

 濃縮邪気のデメリットがヤバすぎて、さすがにそれを相手に使うのは抵抗を覚える。ちょっとした戦闘や試合には絶対に使えないだろう。そして敵だからといって、進んで邪気を使えるかと言われても正直キツイ。そんな俺に向け、黒歌は腰に手を当てて溜め息を吐いた。

 

「私としては『危険だから使うな』と言うのは簡単だけど、それじゃあ師匠として恰好がつかないでしょ。だから、あれから活用法を私なりにちょっと考えてみたのよ。……例えばそうね、さっき奏太が例えに出したヘドロだけど、それが目の前にあってその中に進んで突っ込みたいヤツとかいると思う?」

「えっと、いないと思う」

「そっ、当然よね。好き好んで有害物質だらけのヘドロの中に飛び込むヤツとか馬鹿か自殺願望者しかいないわ。逃げ道があれば、迂回して当たり前。つまり、相手に邪気を『回避させることを前提』とした戦術には使えるかもしれないってことよ」

 

 あんまりにも危険物過ぎてヤバいものなら、あえて回避させることを前提とした立ち回りに使ったらいい。敵側だって、わざわざデメリットを受けるリスクを冒す必要はないのだから。誰がどう見ても、明らかにヤバい危険物だからこその使い方ってことか。そんな黒歌の発想に、目から鱗な気分だった。なるほど、そういう使い方も確かにあるだろう。むしろ、そういう使い方の方が俺的には扱いやすいかも。

 

「あんたにはあの『騎士(ナイト)』のような護衛がいつもついているんでしょ。それなら、万が一敵がその守りを突破して、奏太に接近してきた時は…」

「俺が濃縮邪気を周囲に放っておけば、敵の接近を防ぐことができるわけか。俺は邪気を無効化できるから、その中に隠れておけば遠距離攻撃をされないかぎりはこちらへ近づかせないようにできる」

「あとは敵の進路を妨害するとか、誘導するとかもね。逃走中に最短距離の場所に邪気を放っておけば、敵はそのルートを使うことができなくなるか、邪気を払うために足止めさせることができるってわけよ」

 

 発想を変えれば、そこから見える景色が変わってくるというけど、まさにそんな気分だな。もちろん気軽に使える能力じゃないけど、先ほどまでの忌避感は薄れたように思う。何より弟子である俺のために、黒歌なりに色々考えてくれたことが嬉しかった。

 

「黒歌、ありがとう」

「べ、別に礼を言われるようなことじゃないわよ」

「えぇー、ここは素直に感謝を受け取ってほしいんだけどなぁー」

「……うっさい」

 

 こうやって正面から感謝を伝えられるのは恥ずかしいのか、黒歌は頬を染めてそっぽを向いてしまった。あんまりしつこいと怒られそうなので、これぐらいにしておいた方がいいだろう。グレモリー家に来るまではどうなることかと思っていた黒歌との師弟関係は、何だかんだで無事に続けられそうでよかった。グレモリー邸で過ごした一週間という時間は、短いようでめちゃくちゃ濃い日々だったなぁ…。

 

 

「とにかくそういうことだから、人間界に帰ってもちゃんと基礎を磨いておきなさいよ。あんたが考えた邪気関係は、私がOKを出すまでは使用禁止だからね」

「さすがに基礎もできていない状態で、応用には手をつけないよ。危険だってわかっているし」

「わかっているならいいわ。それで、奏太たちがこっちでやるべきことはもう全部終わったわけ?」

「うーん、魔王様達との話し合いもできたし、黒歌から仙術も教えてもらったし、グレモリー家の皆さんと交友も深められたし、正臣さんの試験とベリアル家への挨拶も終わったしなぁ…」

 

 あと何かあったけ? 俺が今のうちにやっておかないといけなかったことって。異世界のこととか、邪神や乳神様のこととか、天界への伝手なんかはちゃんと話したはずだから、後は魔王様達の裁量に任せるしかない部分も多い。そういえば、リアスちゃんとソーナちゃんが駒王町に来る可能性が高いから、その時は『MMC448』のみんなに二人のことを頼んでおいた方がいいか。管理者と魔法少女達が、友好的な関係を築いていってほしいもんな。

 

 あっ、そうだ。ついでにおっぱい教の子どもたちのことも言っておいた方がいいのかな。安倍清芽(あべきよめ)ちゃんは駒王町に住む裏関係の家系出身だし、原作でもリアスさんとの交流が一応あった。それにおっぱい教で教祖をしている兵藤一誠くんは、異世界の乳神様とのコンタクトをとれる唯一の人間だ。さらに原作では、リアス・グレモリーさんの眷属の『兵士(ポーン)』で、なんと神滅具(ロンギヌス)である『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』の持ち主なんだから――

 

「……あっ、やっべ」

「奏太?」

「魔王様とメフィスト様のメンタル破壊を考慮して、後回しにしていた情報(爆弾)を放出するのを忘れていたっ!?」

「魔王級のメンタルを考慮するような爆弾ッ!?」

 

 俺の叫びと同様に戦慄する黒歌。別の意味で黒歌の頬が引きつっているように思うけど、今はそんなことを気にしている場合じゃない。一番最初の魔王様達との会合の時は、異世界と停戦協定のことで手一杯な感じだったから後で伝えようと思っていたのに、仙術や日々の騒がしさにすっかり忘れていた。そう、イッセーくんに宿るものと、おっぱいの大切さについてだ!

 

 アザゼル先生にはおっぱいについて後日話すことはすでに言っているんだけど、魔王様達もこれから忙しくなるし、詳しく伝えておくなら今しかないだろう。駒王町の主な担当は悪魔になるんだし、異世界対策のことを考えれば、おっぱい教の教祖であるイッセーくんのことに気づかないわけがない。そもそも魔王様達は、乳神様の信託である『おっぱいドラゴンのプロデュース計画』に必要な人材でもあるんだから。ついでにメフィスト様にも、ここで暴露しておこう。

 

「悪い、黒歌っ! ちょっと魔王様とメフィスト様に、暴露していなかったことがあったから行かなきゃいけなくなった!」

「魔王をさらっとテロりに行く宣言…」

「……もしかして、気になるから黒歌も一緒に行きたいのか?」

「奏太関連に関しては、絶対に覗いちゃいけないって私の勘が訴えているから行かない。さっさと行け」

 

 私を関わらせないで、とまるで犬を追い払うようにシッシッと手を払われた。普通にひどい。おかしいな、一週間前の黒歌なら『好奇心は猫をも殺す』ということわざみたいに、面白がって首を突っ込んでくるかと思ったのに。異世界関連は言えないけど、おっぱい関連ぐらいなら魔王様の判断で伝えてもいいって言われるかもしれなかったんだけどな。まぁ、嫌ならいいけど。

 

 俺は黒歌に手を振って別れを告げると、魔王様とメフィスト様のいる部屋へと素早く向かった。外交官としての仕事のため、セラフォルー様にはちゃんと伝えられないのが残念だけど、サーゼクス様達にしっかり伝えておけば大丈夫だろう。異世界なんて突拍子もない話だって、みんなは信じてくれたのだ。魔王様とメフィスト様なら、赤龍帝やおっぱいについても真剣に考えてくれると信じている。俺は拳を握りしめ、みんなに話せなかった真実を伝えるために意を決して扉を叩いた。

 

 

 ――相棒が四本消費されました。

 

 

 

――――――

 

 

 

「まさか時間差で新出の爆弾を放り込んでくるとは思っていなかったよ。うん、もう本当にこの子は…」

「フェレス理事長、お気を確かに。私たちも漏れなく頭を抱えましたが」

「駒王町に乳神を呼びだした教祖の正体が、実は今代の赤龍帝。『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』の持ち主で、さらには乳神の精霊の加護を受けて、胸の内を感じ取る異能を授かっている…」

「まぁ、下手に干渉はできないよね。僕らの介入によって加護を与えている乳神にへそを曲げられたら困るし、乳神と唯一コンタクトをとれる存在を神器関連で殺されたらこっちが詰む。ハハハッ、なんでこんな厄介な問題を後出ししてくるの…」

 

 駒王町にあるおっぱい教の教祖について話していなかったと告げ、真実を告げてから再び死屍累々になる大人の皆さん。めっちゃ後出しになってすみません。みんなのメンタルが回復したら話すつもりだったのに、普通にド忘れしていました。とりあえず、これで今のところ俺が話せる範囲の爆弾は全部放出できたと思うので安心してください。

 

「奏太くん、確かその兵藤一誠くんという子は、リアスの一つ下の男の子だったよね」

「はい、そうです。おっぱい関連と神滅具以外は、普通の一般家庭で育った普通の子どもです」

「おっぱいと神殺しの神器が、もう全てを非凡へと導いているけどねぇ。ところで、カナくん。そのことをアザゼルには――」

「まだ話していないです。その、アザゼル先生には魔王様達との会合が終わったら、話そうかと考えていたので。異世界関連などを暴露した後のメンタル的に、連続暴露は無理そうかなって思って…」

「それは、……適切な判断だねぇ」

 

 前回の報告会を思い出したのか、メフィスト様は深く頷いてくれた。あと赤龍帝関係は、白龍皇を保護しているアザゼル先生としては、無視できない問題だからね。ヴァーくんのことを考えれば、アザゼル先生が慎重になるのは当然だろう。そもそもイッセーくんは良い子だし、しかも現在この世界で唯一の異世界との繋がりだ。赤と白の二天龍の因縁を起こすわけにはいかないのである。

 

 魔王様達も赤龍帝については驚いていたけど、異世界関連ほど慌てることはなく、冷静に話し合ってくれた。イッセーくんは良い意味でも悪い意味でも才能がないため、『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』は今でも沈黙を貫いている状態だ。ラヴィニアや鳶雄のように神器からの干渉が起きていないため、ドラゴンの神器が総じて持つ『異性と騒乱を呼び込む』作用もまだ発動していない。

 

 乳神様から加護をもらって乳技を先に入手してしまっているけど、とりあえず今のところおっぱい関係以外は、イッセーくんは普通の子どもと同じなのである。原作でも死にそうな場面ですら覚醒せず、一度死んでから神器がようやく覚醒したぐらいなので、相当深い眠りなのかもしれない。そのため、悪魔側としても下手に突いて赤い龍を目覚めさせるよりも、そっと監視して保護しておく方向に動く方が得策だと結論に至ったわけだ。

 

「それじゃあ、イッセーくんに関しては現状維持でいいってことですか?」

「さすがに神器を刺激しない程度に、陰ながら監視はつけさせてもらうけどね。よりにもよって神滅具(ロンギヌス)、……しかも赤龍帝だ。ドラゴンの神器が覚醒することの弊害や、白き龍に発見されて無残に殺される可能性を考えれば、まだ表の社会に隠しておいた方が安全だろう」

「もう少し成長して、それなりに自意識がしっかりしてきたら、裏の世界や神器のことは話すべきだろうけどね。才能がないということは、そのまま赤龍帝の力に飲み込まれて暴走する危険性もあるというわけなんだから」

 

 魔王様達の見解に、俺はホッと安心に息を吐く。たぶん悪いことにはならないだろうと思っていたけど、イッセーくんの安全はとりあえず保障された。赤龍帝というだけなら為政者として危険視されたかもしれないけど、彼はこの世界ですでに重要な立ち位置の一人になっている。

 

 イッセーくんの身に何かあったら、乳神様との繋がりが消えて本気で詰むかもしれないのだ。俺という乳神様の神子がいても、イッセーくんのようにおっぱいの神様とチャンネルを合わせるなんてできる気がしない。俺もあんまり神降ろしはやりたくないし、あと相棒が乳神様を嫌っている。そりゃあ、魔王様達だって慎重になるだろう。

 

 あと白龍皇が堕天使に保護されていることを知っているのは、この場で俺とメフィスト様しかいないので沈黙で答える。ヴァーくんなら大丈夫だと思うけど、彼の出自的に魔王様達にはまだ隠しておいた方がいいだろう。それに、堕天使陣営であるヴァーリ・ルシファーについて話すのなら、保護者であるアザゼル先生の許可がいる。俺達が勝手に話していい内容じゃないからな。

 

「リアスと年が近いのなら、彼女たちが駒王町の管理者に選ばれたときにでも、色々と話ができたらこちらとしてもありがたい。ぜひ友好的な関係を築いておきたいからね」

「イッセーくんとリアスちゃんが、ですか…」

「その時は奏太くん、よければ二人のことを頼んでもいいだろうか。キミが間にいてくれるのなら、表の一般人だった少年の不安や、子どもであるリアスたちに強いてしまう負担を少しでも軽減させてあげられるかもしれない」

 

 この通りだ、と静かに頭を下げるサーゼクス様に俺はギョッと肩を跳ねさせた。彼は悪魔のトップで、そして象徴である魔王ルシファーである。そんなヒトが、人間の魔法使いの子どもに頭を下げたのだ。魔王として簡単に頭を下げてはいけないだろうけど、ここにいるのは俺達だけ。俺はメフィスト様に視線を送ると、俺が決めていいと言うように頷いてくれた。

 

 イッセーくんとリアスちゃんは、原作のことを除いたとしても、俺にとって大事な弟と妹のような存在だ。俺がクレーリアさんと正臣さんの問題に直接介入すると決めた時から、本来の正史に向かっていた歯車はとっくに外れてしまっている。だったら、俺がやりたいと感じる心のままに決めよう。魔王として、リアスちゃんの兄として、俺に託してくれたサーゼクス様の信頼に応えられるように。

 

「はい、もちろんです。俺は二人の兄貴分みたいなものだと思っていますから」

 

 俺はこれまでたくさんの大人(先輩)達に助けてもらってきた。なら、後輩達を助けるのは今度は俺の番だろう。俺が見てきた先輩達の頼れる背中ってやつを、やっぱり俺も兄として見せていきたいからな。それと駒王町がここまで混沌とした原因の一角は、俺のやらかしの所為もあると思うので、その時がきたらしっかり頑張らせていただきます。

 

 

 秋から冬に代わる季節の節目を前に、悪魔陣営との会合は終わる。こうして、グレモリー邸で過ごす時間は瞬く間に過ぎていき、みんなとまた会うことを約束して『灰色の魔術師(グラウ・ツァオベラー)』へと帰還したのであった。

 

 


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