えっ、シスコン魔王様とスイッチ姫みたいな力ですか?   作:のんのんびり

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第十八話 強さ

 

 

 

「カナくん、次は私のおすすめのクレープ屋さんに行くのですよ」

「へぇー、それは楽しみだな。ラヴィニアって、甘いものが好きなのか?」

「はい、好きなのです。甘いものは、魔法の勉強の後に食べるのが、一番おいしいですから」

 

 そう言って嬉しそうにはにかむ少女に、俺も同意するようにうなずいた。難しい勉強をした後に、甘味を食べるとおいしいと言うのは俺にもよくわかる。ちなみに俺が買ってきた日本のお土産で、彼女がまず選んだのは日本製のお菓子やお餅だ。特にお餅は焼いているところを見せたら、膨らむまでじっと見続けるぐらいのすごい集中力だった。その後の、きな粉と一緒に食べた幸せそうな顔は、俺の心のアルバムに保存した。

 

 やっぱり、友達の嬉しそうな顔が見られると、頑張って探してきた甲斐があったと感じる。彼女は――ラヴィニアは、本当に楽しそうに笑う。思わずつられてしまって、俺まで盛り上がってしまうばかりだ。だから、彼女が約束通りに俺を案内してくれている今を、精一杯楽しもうと思う。ラヴィニアもきっと、友達のためにおすすめコースとか考えてくれたんだろうし。

 

「それにしても、魔法使いって研究ばっかりしているイメージだったけど、色々なお店を開いているんだな。これから向かうお店も、魔法使いが経営しているんだろ」

「そうですよ、ここは『灰色の魔術師』のお小遣い稼ぎや、研究成果を発表できる場でもありますから」

「発表って?」

「魔法と言っても、色々種類があることは教えたと思います。その分野が多岐であることもです。私がよく使う攻撃魔法だけでなく、生活に使える魔法を研究する者もいれば、料理の研究をする者もいます」

「料理に魔法を使うのか!?」

 

 それは、斬新すぎるんじゃないか。俺の脳裏に出てきたのは、杖一つでご馳走を出してしまう魔法使いの姿だ。魔法力で料理が作れるのなら、すごすぎる。それか、魔法による自動料理製造とかだろうか。人間って、こういうこだわり的なところの執念がやばいな。

 

「あっ、さすがに魔法で料理を作ろうと研究する者は一部ですね。そっち系の魔法はもしかしたら、『黄金の夜明け団(ゴールデン・ドーン)』の組織の方が開発しているかもしれません。こっちに多いのは、冥界の食べ物を人間用に品種改良したものを研究したり、試作品を作っていたりしているのですよ。今から向かうクレープ屋も、冥界の甘味が使われた代物なのです」

「あぁ、そっち方面での料理ってことね。それと、『黄金の夜明け団』って、確か近代的な魔術を扱う魔法使いの組織だっけ。『灰色の魔術師』は冥界と関わりが強いから、冥界の研究に意欲的なんだよな。しかし、試作品って。大丈夫なのか?」

「とんでもないものは、とんでもないことになることもありますが、今から行くお店は大丈夫なのです。安心してください」

 

 ……あの、ラヴィニアさん。今、さらっととんでもないことを言いませんでしたか。安心していい要素が、この周辺一帯の料理関係から感じられなくなったのですが。口元が引きつりながら、彼女のおすすめ店以外で食べるのはやめておこう、と俺は心に刻んだ。俺、ここで情報屋をやることになったら、まず一番に安全な料理店のリストを作ってやるんだ。全力で。

 

 『灰色の魔術師』へ午前中に転移魔法で来た俺はのんびりした後、午後は二人で外出することになった。それでこんな風に俺は、ラヴィニアから魔法使い関係や、裏のことを散策中に色々教えてもらっている。街を案内してもらいながらなので、簡単な内容だけど。それでもわかりやすく頭に入って来るので、思わず聞き入ってしまった。『灰色の魔術師』ぐらいのネームバリューなら、俺だって原作で覚えているが、さすがに他の魔法使い組織はほとんど覚えていなかったからな。

 

 俺が他にうっすらと覚えているのは、確か『魔女の夜(ヘクセン・ナハト)』というはぐれ魔法使いの組織と、ルフェイ・ペンドラゴンが所属していた魔術組織。『黄金の夜明け団』だ。俺も今名前を聞いて、なんとか思い出した。他の組織名も一応聞いたけど、これは覚えるのが大変そうである。

 

「けど、魔法使いの組織はいっぱいあっても、大部分の魔法使いはここに所属しているんだよな。やっぱり、冥界との接点って大きいからか?」

「それもありますが、一番はメフィスト会長がいらっしゃるからなのです」

「悪魔との関わりが欲しいってことか?」

「魔法使いと悪魔は契約によって、昔から深い付き合いがありますからね。あとは、カナくんや私と、理由が似ている場合もあります。……魔法使いは、人間が多いです。人外の方でも魔法は使われますが、それでも独自の能力と組み合わせる感じです。悪魔なら魔力。天使や堕天使なら光力。妖怪なら妖力。他にも仙術など多様にあります。でも、人間が持てる力は、魔法と神器ぐらいなのです。闘気などもありますが、あれも人間の身体能力では厳しいですからね」

「……そうか、魔法使いも色々狙われやすいってことか」

 

 俺たちと似たような理由。それはつまり、他組織から狙われないような後ろ盾が欲しいってことだろう。考えてみればそうだ、神器を持つ者は狙われる。それは、力を持つ魔法使いだって同じだ。特に、悪魔は優秀な眷属を欲しがる。人間を転生させるのなら、魔法使いほどいい素体はなかなかいないだろう。眷属のための魔法使い狩りがあっても、おかしくない。普通ならこんな風に、堂々と人間の組織として存続など、できなかったかもしれないのだ。

 

 それを可能にしたのが、メフィスト様だったということか。魔法使いたちが伸び伸びと己の研究に精を出せるように、彼は居場所を作ったのだ。最古参の悪魔のいる組織の魔法使いに、手を出す悪魔なんてまずいない。悪魔は、序列関係とかに厳しいから特にそうだろう。ここまで『灰色の魔術師』が大きくなれた理由が、なんとなくわかった気がした。

 

 魔法使いは、自分の研究に一直線な者が多い。あと、マイペースと言うか、こだわりが強い。悪魔になって長寿を得て研究をしたい者もいるだろうが、そうじゃないやつだって多い。理由としては、眷属悪魔になれば、悪魔の主の言うことを聞かないと駄目だからだ。上級悪魔になれる転生悪魔なんて、本当に一握りだからな。研究命のやつにとったら、悪魔への転生は堪ったものじゃないだろう。

 

 好きな研究を思う存分にやらせてくれる悪魔ならいいが、当然そんな悪魔は希少だ。今思うと、悪魔と魔法使いとの契約というのも、悪魔側に魔法使いへの敬意を持たせる側面もあるのかな。人間が悪魔にとって必要なように、魔法使いも悪魔に必要な存在だと伝える。原作で、人間の魔法使いの眷属が少ない理由が、そういった意識が悪魔側にあるからじゃないだろうか。まぁ、俺がなんとなく思ったことだから、間違っているのかもしれないけどな。

 

 

「あっ、ここのお店なのですよ。カナくんはどのクレープが食べたいですか?」

「えーと、……ラヴィニア。初めて見る名前ばっかりで、どんな味かわからないんだけど」

「そうですねー、カナくんは東洋人なので、あまり甘すぎるのは合わなさそうですし」

「あぁー、そうかも。うーん、この『アモンの実』ってクレープはいけそう?」

「あっ、それは人間が食べると、一週間ぐらい煩悩まみれになるのでおすすめはしないのです。悪魔の観光客用のメニューですね」

「…………ラヴィニア。この魔法使いの街の安心要素って、こんなにも危険と隣り合わせなハイレベルなの?」

「えっ?」

 

 俺の質問に、不思議そうに小首を傾げるラヴィニアさん。うん、可愛い。彼女の金の髪がそれに合わせて揺れ、まるで一枚の絵画のようだ。こんな風に、現実逃避していないとやってられないよ。マジで何が起こるかわからなくて怖いぞ、魔法使いの街。彼女と街に出て一時間ちょっとで、俺は本当にやっていけるのか悲しくなってくる。

 

 それから、俺はラヴィニアと同じ種類のクレープを無難に選んだ。口の中がシュワっと炭酸みたいな甘さが広がって、初めて食べる味に驚いたが、おいしく完食することはできた。ただ、やっぱり甘すぎるとは感じたのであった。

 

 

 

――――――

 

 

 

「やっ、散策は楽しんできたようだねぇ。お小遣いは足りたかな?」

「メフィスト様。はい、色々驚きましたが、楽しかったです。お金も、ありがとうございました。それに、俺用の翻訳道具までいただいて」

「それぐらい、気にしなくていいさ。でも、カナくんは語学学習の勉強にも来ているんだ。だから翻訳に頼りすぎず、色々学んでいってくれると嬉しいねぇ」

「はい、気を付けます」

 

 あれからまた一時間ほど散策し、彼女から目ぼしい場所の紹介をしてもらった。裏関係の旅行者が入れる区画から、灰色の魔術師に所属している者だけが入れる区画にも。もっとも後半は、本当に要所だけだったけど。ラヴィニアは協会に帰ってきて、しばらくして魔法使いの仕事に向かった。明日になったら、神器の講座をしてくれる約束もしてくれた。忙しいだろうに、ありがたい限りだ。

 

 俺はそれまで、自分の部屋にとあてられた場所で、夏休みの宿題を済ませておくことにした。勉強はしっかりしておかないといけないからな。グレモリー眷属のみんなだって、夏休みの冥界合宿中に時間を見つけてはやっていたらしいし。分数のたし算・引き算みたいな計算問題は敵ではないが、文章問題のひっかけみたいなのはなかなか厄介である。

 

 そんな時間を過ごしていた俺の部屋の中に魔方陣が現れ、メフィスト様の立体映像を映し出されたのだ。『日本一』と書かれた、富士山の絵が描かれている扇を片手に扇ぎながら。お土産を気に入っていただけてよかったです。最初は驚いたが、そう言えば「後で話をしよう」と言われていたのを思い出す。俺が理事長室に行くのかと思っていたが、さすがはファンタジーだな。

 

 ちなみに彼の呼び方は、「メフィスト様」に決まった。フェレス卿とか、理事長とか、フルネームにするべきか迷ったが、本人から「名前でいいよー」と、ここに来た時に言われた。ラヴィニアと一緒に行動するのなら、ずっと堅苦しいのは嫌だったらしい。

 

「うんうん、そうだったらよかったよ。ラヴィニアちゃん、昨日からずっと机に向かってコースを考えていたからねぇ。さすがに深夜になる前には寝かせたけどね」

「あぁ、やっぱり。ラヴィニア、すごく気合が入っていたからそうじゃないかなって思っていたんです。おかげで、俺は楽しい思い出がさっそくできました」

「それはラヴィニアちゃんに言ってあげるといい。きっと喜ぶよ。……さて、それじゃあリラックスもできたところで、お話に入っても大丈夫かな?」

「はい、お願いします」

 

 宿題を端に寄せて、俺は彼と向かい合うように改めて姿勢を正した。相変わらず緊張はするが、ガチガチにならないのは、メフィスト様の人柄のおかげだろうな。俺が話しやすいように、場の空気を作ってくれている感じだ。これが大人の貫録というやつだろうか。

 

「まずは、日本から遠く離れた国に呼び寄せることになって、悪かったね。一ヶ月以上も、親御さんから離してしまうのは、僕もあまりしたくなかったんだけどねぇ」

「いえ、そこは俺もわかっていますし、家族とはしっかり話をしてきました。むしろ、ここまで俺一人のために配慮していただけて、感謝でいっぱいです。旅行や迎えまで、用意していただけましたし」

 

 ちなみに俺の迎えは、例のミルキー魔法使いさんだった。確かに日本から長距離転移をするなら、この人になるだろう。俺が理事長と関わりを持ったことについては、「さすがは、ミルキーに導かれた同士だ!」とサムズアップをもらって軽く流された。喜んでいいのか、わからなかった。あと、さり気なく仲間にカウントされている。

 

 それと、彼はあれで、四大魔王様をお得意様に持つ魔法使いである。そして、魔法少女魔法と嘗めてはいけない。何故なら、彼らの魔法少女魔法は、毎回魔王少女様からの書類数百枚による改良がなされているからだ。あの魔王様まで使っている魔法。つまり、ミルキー魔法使いさんは、日本でも屈指の魔法使いの一人なのである。この世界、鬼畜なくせにどっかおかしい、と思う俺は間違っているのだろうか。

 

 そんなこんなで、彼はさらに、日本で俺の家族の守りも担当してくれるらしい。護衛対象が俺関係だとわかったら、ミルキー悪魔さんと二人で喜んで承諾してくれたのだ。すごく感謝はしているけど、何故か素直に喜べない俺はわがままなのだろうか…。魔法少女大好きおじさんに守られる、俺の家族。俺は、深く考えるのをやめた。

 

 

「それで、メフィスト様。俺って、これからどうしたらいいですか? 神器の修行や、やっぱり体力作りとか、知識だってないと駄目だし。それに、魔法使いの協会なんだから、魔法とかを習ったりして……」

「焦らない、焦らない。いいかい、カナくん。一時一時を大切に使おうとするのは、人間の美徳だ。だけど、それで無茶をして壊れてしまうのも、人間の怖いところの一つなんだよねぇ。人間(君たち)は、人外(僕たち)のように無理をしちゃ駄目だよ。長生きして、幸せになりたいのなら特にねぇ」

 

 人間と人外。この差は、本当に大きいと思う。主人公たちが、原作のようなあんな無茶や、修行ができたのは、悪魔だったからだ。彼らは夏休みの間の合宿中に、修行をして急激なパワーアップをしていた。だけど、俺には目に見えるほどの成果はおそらく期待できないだろう。その焦りを堪えなさい、とメフィスト様は言う。気持ちはもやもやするけど、正論だと思った。

 

「カナくんの強くなりたい、という気持ちは伝わったよ。だからこそ、慎重にやるべきだ。君が人として生きていくつもりなら、覚えておくといい。人間と人外には、明確な差というものがある。そして、人間でその差を真正面から埋められる者は、極一部のみだ。どれだけ強くなるために修行をしようとも、多くのものを犠牲にしようとも、届かない領域はあるんだよ」

「……厳しい世界ですね」

 

 人間の身で彼らの領域にたどり着くには、素質や才能、特別な力や強い意志などが必要なのだと思う。そして、そのさらに上にいけるのは、ラヴィニア達のような神滅具の所持者ぐらいだろう。師匠も言っていた。自分の限界をしっかり見極めろと。小さく呟いた俺の言葉に、メフィスト様は優しく微笑んだ。

 

「否定はしないさ。だけど、人間の面白いところはねぇ。そんな越えられないはずの種族の壁を、別の方向から越えてくる人間(変人)がたまにいることさ」

「……変人ですか?」

「あぁ、変人さ。人間はねぇ、人外では考えもしない方向で勝ちを拾ってくるんだ。僕はそんな光景を、たくさん見てきた。力で勝てないのなら、逃げ足で、情報で、知恵で、人脈で、交渉術で、道具で、作戦で、その差を埋めようとしてくる。そういった相手は、一番厄介だ。戦えば勝てるだろうけど面倒だから相手にしたくない、という感情は、人外にもあるからねぇ」

 

 俺は、ただ静かに彼の話に耳を傾けた。あの戦闘から、俺は強くならないといけない。という、強迫観念のような思いがどこかにあった。強くならなければ、勝たなければ、失うものがあるってわかった。それは間違ってはいない。だけど、それはいくつもある答えの内の一つでしかないと気づいた。

 

「さてカナくん、改めて聞くよ。君の求める強さとは、人外と真正面から戦って勝つための力かい?」

「……違います。俺が求める強さは、俺が生き残るための力です。生き残れるのなら、人外から逃げ出したっていい。守りたいものが守れるのなら、無様だと笑われたっていい。勝つためじゃなくて、俺が負けないための力。俺は、そのための強さが欲しいです」

「うん、よくできました。はっきり言って、カナくんの性格や神器的に、真正面からの戦闘はあんまり向かないと思うしねぇ」

 

 あっ、やっぱり最古参の悪魔様から見てもそうですか。ただ、メフィスト様がこうやって俺に釘を刺した理由は、なんとなくだけど察した。俺がやることは、先ほどまでとたぶん変わらない。神器の修行をして、体力づくりだってするだろう。それでも、目指すべき方向性を明確に見出せた。俺が欲しい力は我武者羅に修行をしたら、どうにか手に入る強さではない。焦るな、という彼の言葉に、今なら素直にうなずけた。

 

「ただ、カナくんにはさっき僕が言った、『めんどくさいから、敵にしたくない厄介な相手』になれる素質なら、僕はあると思うよ」

「あの、それって褒められるような素質なんでしょうか…」

「ハハハハっ」

 

 笑って誤魔化された!?

 

 

「とりあえず、約一ヶ月あるんだ。僕らが教えられるものは、しっかり教えよう。君はもう、うちの子なんだからね」

「わかりました。無茶はしないって、肝に銘じて修行をします」

「そうしてくれると、ありがたいねぇ。ラヴィニアちゃんは君が無茶をしたら、悲しむだろうからね」

 

 さすがは、メフィスト様。そのブレない娘さんへの愛情が素敵です。

 

「まずは、ラヴィニアちゃんから神器について習うといい。魔法は簡単なものならいくつか教えてあげられるけど、ある程度方向性を決めておく必要がある。魔法は、多種多様だからねぇ。体力作りについては、ラヴィニアちゃんの仕事の手伝いをしてみたらいいかな。魔法使いの仕事を覚えるのにも、役に立つだろう」

「その、それだとラヴィニアに負担がかかりませんか」

「あの子が自分からやりたい、って引き受けたのさ。なら、僕はその意思を酌んで、あの子が無茶をしそうだったら止めてあげるだけだよ。子どもっていうのは、なんでも経験してみるのが一番伸びるからねぇ。年寄りは、黙ってその成長を見守ってあげればいい、と僕は思うんだ」

 

 ……なんていうか、メフィスト様の放任主義って、上手く言えないけど温かい放任の仕方な気がした。相手が望むように好きなことをやらせてくれるけど、ちゃんと方向性を定めてくれて、そして行き過ぎた時はしっかり叱ってくれる。それに、むず痒い気持ちになんだかなる。彼の考え方といい、本当にこの人は凄いお方だと思った。

 

「ただ、そうだねぇ。神器については、ラヴィニアちゃんでもある程度教えることができるだろうけど、あくまで簡単なものしかできないだろうね。そこから先は、専門の領域になる。君の能力を発展させていくには、『灰色の魔術師(うち)』では厳しいかもしれないのが難点なんだ」

「確かに、俺の神器と彼女の神器は、能力が全然違いますからね…」

「うーん、カナくん。僕も正直悩むんだけど、君の神器の力を確実に向上させられるだろう方法を僕は知っている。ラヴィニアちゃんも、それで神滅具を使いこなせるようになれたからねぇ」

「えっ、本当ですか!?」

 

 メフィスト様からの言葉に、俺は飛びつくような勢いで声をあげてしまった。だって、確実に能力が向上するのだ。しかも、神滅具である『永遠の氷姫(アブソリュート・ディマイズ)』を使いこなせるようになったという実績付きで。しかし、あの笑みの絶えないメフィスト様が、珍しく何とも言えない顔をしていることに、少し嫌な予感が頭の中をよぎる。だけど、俺一人で能力を向上できる自信はないし、ここは素直に助けをもらうべきだろう。

 

「メフィスト様、その、お手数じゃなければ、その方法を教えていただけませんか。俺が一番にやるべきことは、神器の力を使いこなせるようになることだと思うんです。だから、お願いします!」

「……大変だよ?」

「はい!」

「…………ほんっとうに、大変だよ?」

「は、はいっ……」

 

 なんでそんなに念を押すんですか。せっかくの決意が揺らいできたんですけど。どれだけ大変なんですか。もしかして、地獄を見るぐらいキツイ修行なんですか。でも、ラヴィニアも同じようにその方法を受けてきたんだよな。メフィスト様が許可したんだから、非合法で命の危険的なものでは、ないはずなんだけど…。

 

「わかった。カナくんの遺志は受け取ったよ」

「あの、今ニュアンスが、どこかおかしくなかったですか」

「僕もできる限り、君を守れるように口添えはしてみせるからねぇ……。強く生きるんだよ、カナくん」

「ま、待って、メフィスト様! やっぱり今のなしってことはあぁぁッーー!? 魔方陣の通信が切れたァッーー!!」

 

 やばい、俺もしかしてとんでもない地雷を踏んでしまった可能性がないだろうか。でも、今更理事長室にまで行って、お断りをしに行くなんて恐れ多いことはできない。メフィスト様は、俺のことを考えて言ってくれたんだし、俺だって必要なことだとわかっている。だけど、この拭いきれないヤバい予感は何だろう。なんか、碌なことが起きないような気がするよ…。俺は変なことが起きませんように! と思わず神様にお願いしてしまったのであった。

 

 ちなみにこの次の日、この俺の嫌な予感が見事に的中してしまったのは言うまでもなかった。

 

 


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