えっ、シスコン魔王様とスイッチ姫みたいな力ですか?   作:のんのんびり

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第百九十五話 会談

 

 

 

「こちら、フェニックスの涙でございます」

「胃薬で精神安定をはかりながら、物理的に癒しの効果がある涙を飲むのが効果的でね。私たちもよくお世話になったよ」

「……いただきましょう」

 

 サーゼクス様とグレイフィアさんの気遣いによって、天界陣営の皆さんに配られるフェニックスの涙。今回も公費で落としてきたらしいけど、フェニックス家の皆さんもまさかこんな風に使われているとは思っていないだろうなぁ…。ミカエル様達は非常に疲れたように項垂れながら、フェニックスの涙と一緒に胃薬を飲み干していく。もうツッコむ気力すらないように感じた。

 

 ここからは大人達の話し合いになるので、俺はちゃんと大人しくするつもりだ。メフィスト様からもめっちゃ蝶を飛ばすことになるだろうから、そっちに集中しなさいとも言われたし。俺が乳神様から教わったことを先生たちが中心になって話してくれるので、特に問題はないだろう。グレイフィアさんに用意してもらったお菓子をお礼を言って下げてもらい、気合を入れて相棒を握っておいた。

 

「それで、これからが本題というのは本当のことですか…?」

「そもそも『停戦協定』を結ぶだけなら、ここまで急ぐ必要はなかったからな。何度も言っているが、こちらも和平を結ぶだけの準備がまだできていない。それなら、カナタには悪いが治療は待ってもらって、こちらの準備が完了してからのほうが確実だっただろ?」

「それに奏太くんの異能は天界側からすれば、無視できないものでしょう。魔法使い陣営だけだと、彼を巡って戦争が始まる危惧だってあったのです。魔王と総督に個人的な伝手はあれど、奏太くん一人のために種族全体として動くのは難しい。しかし、それを覆してでも強行する必要が私たちにはありました」

「カナくんの神器症の治療は言い方は悪いけど天界側をおびき寄せる餌であり、外の目を誤魔化すためのものだ。先ほど結んだ『協定』だって、僕たちの本当の目的を隠すための隠れ蓑のようなものだしねぇ」

 

 アザゼル先生、サーゼクス様、メフィスト様がそれぞれ紡いでいった言葉に、呆然と言葉を無くす天界の皆さん。実際、当初治療法を見つけたかもしれないと思った俺も、すぐにメフィスト様達にそれを伝えられなかったのは、この危惧があったからだ。彼らなら世界の混乱を考えて、確実に和平が結べると判断できるまで為政者として治療を止められる可能性が高いと思ったからである。

 

 そうなったら、俺は治療法を見つけながら、リーベくんが苦しんでいるのを数年ほど我慢しなければならないことになっていただろう。そんなのはたぶん俺が耐えられない。だけど、教会のデュリオさんと繋がっているリュディガーさんのことを考慮すると、メフィスト様がまず許可しなかったと思う。だからどうやってみんなを説得するべきか朱芭さんと一緒に悩んでいたんだけど、それらの悩みを盛大にぶっ飛ばす大事が起こったことで一気に話が進んだのであった。

 

「そこまで隠す必要がある目的なのですか?」

「この真実はカナタが見つけてきてな…。あまりのヤバさから、魔王連中とそこの女王、あとは俺とシェムハザとメフィストしかまだ知らない事実だ」

「えっ、リュディガーさんは知らないんスか?」

「私も詳細は聞いていない。だが、あの奏太くんが発掘して、『嫌な予感』を示した大事らしいからね。100%起こる『最悪』と考えて動くべきだと思っている」

 

 遠い目で告げるリュディガーさんに、デュリオから「いったい何をやったの?」みたいな視線をもらった。いや、ネビロス家をうっかり発掘しちゃった冥界大騒動は俺も予想外だったんだよ? 黒歌さんが助かればいいなー、ぐらいの気持ちで言ってみたら、超越者二名と魔王級六名による物理的家宅捜索が始まるとは思わないじゃん。黒歌にそのことでお礼を言われても、正直めっちゃ困惑したよ。

 

「これから語る真実は、外に()れたらまずいものだ。たとえ死んでも情報を出してはならない。敵に情報を奪われることは、何としても阻止しないといけないと考えてほしい」

「その情報が洩れたら…」

「最悪、世界が滅ぶ」

 

 アジュカ様が端的に告げた事実に、緊張が全体に走ったのがわかった。魔王の言葉であり、総督や理事長も神妙な表情で同意するように頷く。これに関しては、大げさでも何でもなく本当にありえる話だからヤバいのだ。情報関係に強いアジュカ様や先生ですら、データとしての記録は一切残さず、全て頭の中だけで情報をまとめるようにしているぐらい徹底されている。

 

 また味方を増やしたくても、万が一その味方が洗脳されたり、裏切ったり、敵の能力によって記憶が奪われたりしても詰むので、真実を知る者はかなり厳選しなくてはならない。ラヴィニアたちに告げられないのも、そういった危惧があるためなのだから。つまりこの世界でも上位の実力があり、尚且つ高い地位にいる者の協力が必要なのだ。下には告げず、トップ同士でのみ対策を立てられるように。

 

「ここにいるメンバーは神の死を知り、次代の神の後継者の存在も認知している。正直トップだけじゃ、自由に動ける範囲も少ないからねぇ。真実を知る実力のある協力者も必要ではあったんだ。リュディガーくんは情報収集能力に長けているし、カナくんの護衛としてつけられる人材も欲しかった」

「それが我々に求める立場か…」

「感謝しているぜ、ミカエル。『教会の暴力装置』に『煌天雷獄(ゼニス・テンペスト)』に、今後の中心地となる『駒王町の管理者』。必要最低限且つ、重要な役職を担う実力者を集めてくれてよ」

 

 アザゼル先生の言い方にピクリと眉が動いたミカエル様だけど、あえて何も言わずこちらの動向を探るように思案していた。ストラーダ猊下は肩を竦めて静かに首を横に振り、デュリオと紫藤さんの頬は引きつっている。リュディガーさんはある程度巻き込まれる覚悟はできていたのか、深く溜め息をついていた。メフィスト様達は、この四人を共犯者として最初から巻き込む気だったのだろう。

 

 ストラーダ猊下は原作でも「人間の極限」と呼ばれるほどの実力者で、八十歳を越えても現役らしく護衛としてついてくれるなら確かに心強い。デュリオもすでに「教会最強のエクソシスト」という異名を持つ戦士で、しかも俺と同年代である。彼らが一緒なら、神器症の治療をしに教会に行っても問題ないだろうし、異世界関連に関わる時もやりやすいだろう。

 

 ただ紫藤さんに関しては、正直本当に申し訳ありませんでしたって気持ちしか湧かない。彼の場合、立場的に巻き込まざるを得なかったとしか言えないからだ。この地の管理者として真実を知る者は必要だけど、クレーリアさんは実力や精神的に厳しい。そうなると、他にこの土地を任せられるのは彼しかいなくなるのだ。しかも、イッセーくんと家族ぐるみで仲が良いから、警戒されることなく護衛につくこともできる。原作の第一巻のように、いきなり主人公死亡とかは本当に勘弁してほしいからなぁ…。

 

 

「……わかりました。天使長として、その真実を受け止めましょう。ガブリエル、皆さんもいいですか?」

「もちろんです。それにこの世界が滅亡するほどのことなど、神の子らを見守る者として見過ごすことなんてできません!」

 

 ガブリエル様が胸に手を当てて真っ直ぐな視線で告げると、戦士たちも覚悟を決めたように頷いている。悪魔と堕天使がここまで慎重に行動し、世界を欺いてでも隠さなければならないとされる真実。緊張と畏れに震えそうになる手を気力で抑え込んでいる様子が分かる。たとえどれだけ絶望的なことでも受け止めて、対策を立てていかなければならない。それが人を導く天使であり、人のために戦ってきた教会の戦士たちの在り方なのだろう。彼らが強いわけが、なんとなくわかった。

 

「覚悟はいいみたいだな」

「えぇ、話してください。その真実というものを」

「わかった。まず、全ての始まりは……」

 

 先ほどまでの煽るような口調ではなく、鋭く射貫くように見据えられたアザゼル先生の言葉に、痛いほどの沈黙が会議室を包みこみ――

 

 

「――おっぱいだった」

「……は?」

 

 一瞬で壊れた。

 

「おっぱいが全ての引き金となったんだ。この駒王町には、「おっぱい教」という日々の疲れを癒すためにつくられた癒し団体があるんだが、全てはそこから始まった」

「あ、あの…」

「この地に宿るおっぱいを純粋に崇めるエネルギーが、(ニュー)パワーという奇跡を引き起こした。それにより、おっぱい教祖による真摯なおっぱいへの愛と祈りが世界すら越え、それに感銘を受けたおっぱいの精霊とやらが駒王町に降臨したんだ」

「いや、ちょっと、待っ――」

「そこに『神依木』という特殊体質を持ったこいつが様子を見に行った時に、その精霊を通じておっぱいの神に憑依されたわけでな。そこで明かされたのが、異世界『E×E(エヴィー・エトゥルデ)』の最高神の一柱である精霊を司りし聖母神。乳神と呼ばれる、チムネ・チパオーツィという名の異世界の神だった。そこで――」

「ちょっと、待ってくださいィィイッ……!!」

 

 これまで何とか平静を保てていたミカエル様が、声が若干裏返るほどおっぱいで悲鳴をあげた。とりあえず、新しい蝶々を飛ばしておきました。

 

「おっぱいとか、異世界とか、乳神とか何なんですかそれはっ!?」

「受け止めろ。ここでツッコミを入れているようだと、後がもたないぞ」

「すでに限界が近いですけど……!?」

 

 指摘を入れるミカエル様に反して、真剣な表情で忠告するアザゼル先生(経験者)。もうちょっと頑張れば、折り返し地点に辿り着けますよ! そう言ってミカエル様を応援したら、テーブルに突っ伏すようにプルプルと震えられた。他の天界陣営の皆さんは、思考が停止している。リュディガーさんは疲れたように目元を手で覆い、静かに項垂れていた。

 

 先ほどまでのどんな絶望が押し寄せようと、世界の滅亡を防ぐぜ! と覚悟を決めた上位者達のやる気をこれほどまでポッキリと折りに来るとは…。おっぱい、なんて恐ろしい概念なんだ。さすがはこの世界での最強格である。人数分の蝶々を飛ばしながら、おっぱいのすごさに改めて俺は感心した。

 

 

 

――――――

 

 

 

「フェニックスの涙でございます」

「停戦協定を機にいくつか取引などは可能ですか。フェニックスの涙とか」

「こちらも天界側と交渉したいことがありますので、フェニックス家に話は通しておきます」

「助かります」

 

 お腹が痛くても、やらなければならない時はある。もうフェニックスの涙を飲むことに抵抗すらなくなったらしいミカエル様は、色々諦めて(慣れて)きたのか耐性がついてきたようだ。あれからおっぱいやら異世界に混乱していたミカエル様に、俺の中にある乳神様の加護を見てもらうと、「主の後継者の宿主に、別の神の加護がついて…」と別の意味でガクッと膝を折ってしまった。すみません、そこのショックは考慮していませんでした。乳神様が嫌いな相棒の好感度は、ちょっと上がったみたいだけど。

 

 それから蝶々で回復してもらったミカエル様に、気力で調べてもらったことで異世界の技術に関しては認めてくれたようだ。ストラーダ猊下も興味本位で知りたそうだったのでOKを出したら、アザゼル先生やアジュカ様みたいに新技術にウキウキした様子が見られた。このおじいちゃん、そういや新しいものに目がない人だったっけ? 異世界の術式にずっと感心した声をあげていたと思う。

 

「ふふっ、取扱説明書に書いていましたね。『精神衛生上のためにもこれはそういうもんだと考え、ありのままを受け止めること』と。なるほど、こういうことですか…」

「じゃあ理解したところで、さっさと続きに入っていいか?」

「ぶん殴りますよ」

「おい、天使」

 

 天使長がご乱心だったので、蝶々を飛ばしてもうちょっと休憩しました。

 

 

「さて、じゃあ異世界が存在することを周知したところで、肝心なところを話すぜ。そもそもなぜ乳神なんて異世界の神が他世界であるここに干渉してきたのか。その理由こそが、さっき話したこの世界の滅亡と繋がってくるわけだ」

「……異世界からの侵略、ですか?」

「ははっ、わかりやすいだろ。敵の名前は『E×E(エヴィー・エトゥルデ)』でさっき話した乳神が所属する『高位精霊界(エトゥルデ・サイド)』と覇権を争っているもう一つの勢力――『機械生命界(エヴィーズ・サイド)』だ。その世界では、善神と邪神による終わらぬ戦いを延々と続けているらしい」

「それは凄惨なことですが、しかし何故その戦いの余波がこの世界まで?」

「まさか…」

 

 もう真偽を話し合っている場合ではないと色々な意味で納得してくれた天界陣営の皆さんに、とりあえず話を進めてもいいと許可をもらった。本来ならガブリエル様の言うとおり、他世界の覇権争いがこちらに影響してくるわけがない。だけど、ミカエル様はハッと気づいたようで、少し青ざめた表情でアザゼル先生に視線を合わせる。その反応に肯定するように、先生は静かに頷いた。

 

「ミカエルの想像通りだ。俺達の大戦とは比較にならないほどに、膠着して終わらぬ永き戦い。しかも、さっきお前にも見てもらった通り、それだけの高度な技術を持つ世界だ。いつまでも『高位精霊界(エトゥルデ・サイド)』から覇権を握れないことに業を煮やした『機械生命界(エヴィーズ・サイド)』は、それならばと別の方法を考えたわけだ」

「……異世界を侵略することで自らの勢力の拡大を狙った」

「ご名答。どうやら『機械生命界(エヴィーズ・サイド)』のやつらは、他世界の技術を奪い、その世界の有機生命体(生物)は一人残らず絶滅させ、自分たちに恭順する者には改造を施して仲間に加える。そうやって異世界を侵略しては、勢力を拡大することを繰り返し始めたらしい」

 

 絶句とはこのことを言うのだろう。ヒュッと息を呑む音も聞こえた。先ほど楽しそうに新技術を調べていたストラーダ猊下も、厳しい顔つきを隠さない。俺の知識不足でよくわかっていないけど、知識者からすると乳神様が俺に施した加護や術式は明らかにレベルが違い過ぎるものらしい。だからこそ、そんな技術を使う相手と互角に戦う者が敵であることがヤバいのである。

 

「……『高位精霊界(エトゥルデ・サイド)』側は侵略を考えていないのですか?」

「そこはわからん。だが、カナタが言うにはそういう風には感じなかったらしい。『機械生命界(エヴィーズ・サイド)』と戦わせるための戦力の一つとして数えたがってはいたそうだがな。敵の敵は味方。機械生命体(エヴィーズ)に滅ぼされたくなかったら、その戦力を少しでも削れるようにしろってことさ。それを知らせるために、乳神のやつはこの世界に降臨したわけだ」

「……勝手ですね」

「神なんて勝手なもんさ。どこの世界でもな」

 

 肩を竦めて小さく笑うアザゼル先生に、ミカエル様は無言で溜め息を吐いた。一時期とはいえ、二人とも神に仕えていた天使だったのだ。神様に関して思うところもあるのだろう。静かに話を聞いていた後方で、ストラーダ猊下がゆっくりと手を顔の横ぐらいにあげる。それにアザゼル先生が気づくと、言ってみろというように顎を向けた。

 

「総督よ、敵側の戦力についてはわかるのか?」

「そこも正直なところはわからん。カナタが乳神から聞いたことしか、今のところ判断材料がない。それでもいいなら答えられるが、……折れるなよ?」

「……神が亡くなられたとはいえ、ここは我が主が残した大切な世界。敵が強大だとしても、それを不躾に踏みにじるような侵略者に折る膝などないっ!」

 

 強靭な胸元をバンッと手の平で打った猊下の気迫に、アザゼル先生の話に呑まれていた人たちの意識が浮上する。あまりに壮大な話についていけないところはあるだろうけど、それでも異世界の邪神に蹂躙されて終わりましたなんてごめんだ。目に力が宿った人たちを見て、悪魔や堕天使の皆さんが嬉しそうに笑ったのが見えた。

 

「その言葉が聞けて安心したぜ。だが、心して聞け。俺だって未だに信じたくない思いの方が強いからな」

「それほどの戦力差がある、ということですか」

「乳神のやつが、俺達にもわかる基準で敵の強さをカナタに伝えたらしい。この世界で最強の存在と言われたら、ここにいる全員が同じ答えを返すことができるだろう?」

「……『D×D(ドラゴン・オブ・ドラゴン)』、グレートレッドですね」

 

 これに関しては誰も疑問を挟むことなく、全員が頷くのが見えた。「夢幻」を司り、次元の狭間を統べている全長100メートル級のドラゴン。普段は次元の狭間を悠々と泳いでいるだけで無害だけど、その存在感と格の違いは誰もが理解している。全盛期のオーフィスが全力で戦って、ようやく戦いになるってぐらい強いらしいことは知識としてあった。

 

「そうだ。そしてそれを聞いた乳神が答えたセリフがこれらしい。敵の親玉である邪神、鬼神、魔神にその『D×D』は手も足も出ずに完全敗北するぐらいの隔絶した差があるってな」

「なっ…」

「しかも邪神の眷属(プライム)は、下位でもこの世界の神話の主神クラスの強さを持っている。しかもその第一位ですら、その『D×D』を越える強さを持っているみたいだぜ。……思わず笑いたくなるほどの、絶望的な戦力差だろ?」

「はっきり言って、聖書陣営同士で争っている場合じゃないどころか、この世界の神話同士でも争っている場合じゃないんだよ。このままじゃ何も抵抗すらできずに、この世界の命は蹂躙されるしかないわけだからねぇ」

 

 この真実を知る聖書陣営がまず一つにまとまり、他の神話のトップに話を付けて、異世界への対策の輪を広げていく。それが今回の『停戦協定』の裏であり、本当の始まりでしかないのだ。あまりの隔絶とした戦力差に呆然としていたみんなだけど、今度はデュリオがおずおずと手を上にあげた。

 

「あ、あの、その真実を公表しないのは、世界の混乱を防ぐためですか?」

「それもある。まず普通ならこんなこと信じられないというか、信じたくないだろう。さらに言えば、破滅思考のあるヤツなら機械生命体(エヴィーズ)のやつらにこの世界を売る可能性だってある。知的好奇心を満たすために、ちょっかいをかけるやつだって出てくるかもしれない。不安要素をあげたらキリがねぇよ」

「それに一番知られたらまずい相手がいる。『彼』に『E×E(エヴィー・エトゥルデ)』の情報なんて与えたら、確実にこの世界を売るだろう。しかも、俺達では止めることすらできない」

「……オーフィスですね。『彼』ならグレートレッドを殺し、静寂を得られるためならたとえ確証がなかったとしても、異世界とコンタクトを取ろうと動いてもおかしくない」

 

 アジュカ様とミカエル様が話した、異世界の存在を知られたらまずい筆頭は間違いなく『無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)』であるオーフィスだろう。デュリオも想像できたのか、この情報がどれだけヤバいのか理解できたらしい。俺も朱芭さんに言われるまでうっかりしていたけど、イッセーとヴァーリに関わる前の『彼女』は本当に危険なのである。俺は『敵』としての『彼女』より、『味方』としての『彼女』の印象の方が強くても、最悪この世界の敵となるなら敵対しないといけなくなる存在なのだ。

 

 せめて原作のように二天龍を宿す二人に興味を持って、この世界も悪くないと思ってほしいけど、イッセーくんもヴァーくんもまだ小学生である。自分の次に強かった二天龍であり、特殊な進化をしていた二人だからこそ興味を持っただろうけど、他のドラゴンだとたぶん相手にもしてくれないかもしれない。五大龍王ならワンチャンあるかもしれないけど難しいと思う。

 

 つまり、今のところオーフィス相手に打てる手立てが全くない状態なのである。『最強の龍殺し』とも呼ばれる『龍喰者(ドラゴン・イーター)』のサマエルの力で、オーフィスの力を奪うという手もあるけど、少しでも戦力が欲しい中で出来れば使いたくない手だ。それでも、『彼女』がこの世界の敵になるのなら、使うしかないとも思っている。

 

 うーん、でもなぁ…。そもそもサマエルが封じられているコキュートスは冥府の管轄であるため、ハーデス様を説得しないとだめだし、かなり難しいんだよね。ハーデス様、聖書陣営をめっちゃ毛嫌いしていたと思うし。原作みたいに『禍の団(カオス・ブリゲート)』が動くのを待つという手もあるけど、ここまで原作を変えた手前、そんな不確定要素を前提で動くのはダメだろう。参考にはしても、妄信はしない。

 

 とにかく、一番成功率が高いのは二天龍であるイッセーくんとヴァーくんとの関わりだろう。まず、オーフィスが興味を持ってくれる相手がこの二人しか思いつかない。そこからアーシアさんのように少しずつ関わる人を増やしていく。懸念があるとすれば、乳神様の加護を受けているイッセーくんにオーフィスが勘付く可能性だけど、そこは先生たちと今後相談していけばいいだろう。最悪、邪神の勢力があることだけでもバレなきゃいいのだから。

 

 

「先ほど奏太くんが新しい組織をつくることに肯定的だったのは、このためだったのですね。確かに聖書陣営が中心だと他の神話から反発があっても、人間のための組織であり、私たちは後ろ盾であるスタンスなら他神話としても接触しやすい。表向きは神器所有者のための組織であり、裏で異世界への対策を組んでいく。これが今後の展望というわけですね」

「魔法使いの立場でもできなくはないかと考えていたが、いっそ真っ新な組織を創っちまうのも悪くねぇしな。……和平までに俺達がやるべきことは山ほどある。さっき話した通り、今でさえ絶望的な戦力差なんだ。少しでも戦力の底上げを行うことと、人材の確保、他神話との繋ぎに、世界の敵となる者の見極めも必要だ」

 

 大っぴらに動けない以上、異世界対策はこっそりと行っていくしかない。それによって、原作のように過激派が集まったことでテロリストと化すかもしれないけど、機械生命体(エヴィーズ)側に付く可能性がある者をあぶり出すこともできる。もしかしたら、原作の黒歌さんのように世間からつま弾きにされたことで所属するしかなかった者を拾い上げることだってできるかもしれない。ヴァーリみたいな戦闘狂のような理由ならもっと楽だろう。存分に戦える場所をこちらは用意できるのだから。

 

「それに、カナくんに施された乳神の加護には、『機械生命界(エヴィーズ・サイド)』に対抗するための術式が組み込まれているらしい。レーシュくんが少しずつ消しながら解析しているらしいけど、専門でチームを組んで研究する機関も必要だろう。こちらに関しては、アザゼルとアジュカくんが中心に行うけど、何分手が足りない。僕も含めて、リュディガーくんにも手伝ってもらいたいと思っている」

「そういうことなら、わかりました」

「フェレス理事長、その研究には私も参加したい。教会側の術式ならほぼ理解している。こちらとしても、少しでも侵略者を迎え撃つ手立てを見つけたいのだ」

「ハハハっ、それは大変心強いねぇ」

 

 メフィスト様の言うとおり、ストラーダ猊下は闘志をメラメラ燃やしているようですごく頼もしい。この世界全体の底上げと混乱を収めるのも大切だけど、敵への対抗手段も築いていかないといけない。例えば、最強の龍神であるオーフィスでも、サマエルという弱点が存在するように、機械生命体(エヴィーズ)だからこその弱点や特攻効果をつけられれば、こちらにもつけ入る隙ができるかもしれないのだから。

 

「これらを全て水面下で行わなければならないというのだから、ファルビウムが悲鳴を上げる姿が想像できるよ」

「それを言うなら、セラフォルーだろう。いつもの口調を忘れるぐらいに頭を抱える姿が見える。協定を結んだのに戦力を増強するという矛盾を、外交官として対処するんだぞ」

「ね、ねぇ、カナたん。この場合、俺はどうしたらいいのかな? 政治とか研究とか裏方作業とか、俺には全くできないよっ……!」

「安心しろよ、デュリオ。俺も全く何もできないぞ。今の俺にできるのは神器症の治療をすることで、あとは全部丸投げしかできないからな!」

「……改めて思い返すと、停戦協定以外のことは全部奏太くんのやらかしが発端じゃ…」

「安心しろよ、ミカエル。これからはお前も巻き込まれるから」

 

 綺麗な蝶々がたくさん飛んでいきました。

 

 

「もしかして、この駒王町を『停戦協定』の地に定めたのは…」

「ここは乳神が実際に降臨した土地だからねぇ。その残滓を他の勢力に、万が一でも探られるわけにはいかない。それにもしかしたら、またこの世界にコンタクトを取ってくる可能性もある。その場合、駒王町に再び姿を現す可能性が高いだろうからねぇ」

「……その、先ほど話にあったおっぱい教祖って、それはつまり」

「紫藤くんの想像通りだよ。キミの娘である紫藤イリナちゃんの幼馴染である――兵藤一誠くん。彼が乳神と唯一コンタクトが取れる存在なんだよ」

「そんな、まさかイッセーくんが…」

 

 ここまでの真実を知ったことで、何故『駒王町の管理者』という立場が重要だったのかを理解した紫藤さんは、メフィスト様が語る答えに信じたくないように首を横に振った。そりゃあ、家族ぐるみで付き合いがあり、しかも娘の幼馴染で淡い想いを抱いている一般人の男の子が、世界の命運を握るかもしれない存在だと聞かされたのだ。

 

 責任感の強い紫藤さんなら、イッセーくんをしっかり見守ってくれることだろう。メフィスト様もそう思ったから、彼をこの場に残したのだと思うから。心配気な表情でイッセーくんのことを想う紫藤さんに、メフィスト様はさらに伝えるべきことを話した。

 

「兵藤一誠くんはカナくんが五年前に知り合ってね。時々一緒に遊んでいたらしいんだ。例のおっぱい教のお社をプレゼントしたのもカナくんなんだよねぇ」

「いつの間にか建てられていた数十万はありそうな立派なお社は、彼が送ったものだったんですね…」

「あとね、乳神から加護をもらっているようで、どうやらおっぱいの気持ちがわかる力を宿しているらしいよ」

「え、えぇー…」

「さらに実は、兵藤一誠くんは神滅具(ロンギヌス)を宿していて、今代の『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』の所有者だったりするんだ」

「――はえぇッ!?」

「さらにさらに、彼にはどうやら才能があまりないらしくてねぇ。未熟なまま『赤龍帝』が覚醒すると、本人の身体の方がもたないかもしれないから細心の注意を払ってほしいんだ」

「え…えっ……? そん…、なん、せきりゅ…ぅてい? イ、イッセーくんが――」

 

 ニッコリと必要事項をまとめたメフィスト様に、思考停止した紫藤さんはついに限界が来たようで、「ゲルっ」と一言遺してテーブルに突っ伏してそのまま動かなくなってしまった。急いで蝶々を飛ばしたけど、紫藤さんについたと同時にサラサラッと消えていく。これはヤバい。軽く言えばダメージを軽減できるかと思ったけど、ダメだったねぇ…と沈痛な表情で黙祷を捧げるメフィスト様。いや、ちゃんと生きてますよ!

 

 それからグレイフィアさんの素晴らしい手際で、アザゼル先生が持ってきた持ち運び用のグリゴリ式安眠快適ベッドに昏倒した紫藤さんが乗せられた。天界側の消耗もだいぶ激しいというか、あまりの情報爆撃で頭がヒートを起こしかけているようなので、さすがに長めの休憩をとることになったようだ。協定の詳細とか具体的な取り組みについてなど、まだまだ話し合うことは多いらしい。爆弾はもうそんなにないはずだけど、ミカエル様の目の光が消えかけているからね。赤龍帝暴露は全体的にダメージがあったらしい。

 

 蝶の残り残量にちょっと頬が引きつりながらも、会議室に蝶をひらひらと飛ばしておいた。早めに『理解(ビナー)』が通常時でも使えるようになって、余裕をもって胃痛を治せるプロになろう。そう心に誓った、三勢力が手を取り合った歴史的な会談であった。

 

 

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