えっ、シスコン魔王様とスイッチ姫みたいな力ですか?   作:のんのんびり

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第百九十六話 憶測

 

 

 

「ありがとうございます、リュディガーさん。休憩に付き合ってもらって」

「気にしないでくれ。私も空気を入れ替えたい気分だったからね」

 

 天界陣営の皆さんに異世界のことを話し終わった後、倒れた紫藤さん含め、あんまりな情報爆撃の量と威力に頭を休めたいという意向を汲んで時間をとることになった。今は俺の護衛としてついてきてもらっているリュディガーさんとお手洗いを済ませ、ビルの十二階から見える外の景色を四角いソファーに座ってのんびりと眺めている。お菓子と紅茶で甘くなった口元を口直しするように、魔方陣から缶コーヒー(微糖)を取り出してリュディガーさんにも渡しておいた。

 

 高いところから見据える街は、世界の滅亡どころか異種族や神の存在も知ることなく、いつも通りの日常を過ごす一般人の姿が見える。裏の事情なんて知らず、このまま表の世界で普通の暮らしを続けてほしいと思うけど、異世界の邪神が侵攻してきたらそれも難しくなってしまうのだろうか…。時々魔法少女が凧や丸太で空を駆けている姿に、隣のリュディガーさんの目が死にかけているけど、これが駒王町の日常だからね、うん。たぶん問題ない。

 

「異世界の邪神、か…。正直、未だに実感が湧かない気分だよ。グレートレッドでは足元にも及ばないということも含めて」

「やっぱり信じられません?」

「他でもない、奏太くんが見つけてきた『嫌な予感』を疑ってはいないよ。……ただ、思考が追いついていない、が本音だね。それでも、突然問題に直面させられるよりかは、こうして準備と覚悟を決められる時間を与えられただけよかったとは思っているさ」

 

 リュディガーさんの気持ちは、何となくわかる。俺だってあんまりのインフレ具合に、ぶっちゃけついていけるのか不安しかない。俺としては原作同様にリゼヴィムを何とかして、666(トライヘキサ)が世界を滅亡させるのを防いだら、きっとイッセーたちの戦いも終わってハッピーエンドになるだろうと思っていたから。まさかその後に異世界編突入とか、マジで聞いていない。この世界、本当に鬼畜である。

 

 そういえば、原作ではどんな風に異世界の邪神のことが判明するんだろうな。今回のように乳神様が神託を下したのだろうか。でも、言っちゃなんだが『神依木』である俺の体質がないと、乳神様を憑依させることも、事情を正確に読み取るのも難しかっただろう。あの神様、超マイペースだったし…。イッセーは完全に乳神様に振り回されていたし、原作知識持ちの俺だってぶん回されたからなぁー。

 

 もし七年後には異世界が攻め込んでくるとかだと、本気で勘弁してほしいと感じる。今から対策を立てても間に合うかわからない中、リゼヴィムが異世界を挑発するくだりだけは、絶対に阻止しないとまずいだろう。為政者の皆さんが、オーフィス以外にもそういったヒト達の動向を危険視するのは当然だしな。

 

「現実的に考えれば、我々だけでは『機械生命界(エヴィーズ・サイド)』に勝つことは不可能だろう。なら、私たちの役目は敵の戦力を出来る限り削り落とし、『高位精霊界(エトゥルデ・サイド)』が邪神を討つ手助けをするのが理想的だ。精霊側に捨て駒にされる可能性もあり得るけどね」

「……『機械生命界(エヴィーズ・サイド)』と戦うためにも、『高位精霊界(エトゥルデ・サイド)』に見捨てられないためにも、どっちにしても戦力は必要でしょうね。邪神の眷属はこの世界の主神や龍王級の力を持っているらしいですけど、それならまだこちらの戦力でも太刀打ちできそうですから」

「それでも十分に頭が痛い戦力差だけど…。そもそも、高位精霊神(エトゥルデ)陣営は、邪神を滅ぼす手立てがない状態なんだろう? 邪神同様、善神も敵を滅ぼす方法を探すために異世界を利用している印象は受けたよ」

 

 隠すことなく溜め息を吐くリュディガーさんの言葉から、大人たちは『高位精霊界(エトゥルデ・サイド)』にあまり好意的ではないのだろうな。まぁ、同じ世界の神話同士でさえ衝突していたのに、他世界の神様を信用するのはさらに難しいとは思う。いきなり現れた他世界の上位存在に、いい様に利用されていると感じても仕方がない。それでも、『高位精霊界(エトゥルデ・サイド)』を信じて対策を立てないといけないのだから、その心中は穏やかではないんだろうな。

 

 

「あちらに利用されているのなら、こちらも利用し返す気概を持つしかないだろう。この世界を護れるかは、我々の手にかかっていることに変わりはない」

「……ヴァスコ・ストラーダ猊下」

Buon giorno(ブオン・ジヨールノ)、悪魔――いや、ローゼンクロイツ殿。そして、こうして正式に挨拶を交わすのは初めてになります、後継者様と神の子(メシア)様」

「ごほっ、けほっ――!? い、いやいやいやッ! そんな仰々しい呼び方はやめてくださいよ、ストラーダ猊下! 相棒はわかりますけど、俺は成り行きみたいな感じなので!」

 

 座っていたソファーの後方から立ち込めたオーラに振り向くと、そこには八十歳とは思えない覇気と大柄な体格を持った人物が佇んでいた。あのコカビエルが一目置き、彼が聖剣の研究に興味を抱かせるに至ったとされるほどの影響力を与えた、教会が誇る『最強』の人間。「司祭枢機卿」であり、ヴァチカンのナンバー3――ヴァスコ・ストラーダ猊下だ。俺は噴きかけたコーヒーの缶を口から離し、(うやうや)しく頭を下げる猊下にあたふたしてしまった。

 

「はっはっはっ。そうおっしゃられるのであれば、私のことももう少し軽い感じで呼んでもらいたいものですなぁ。今後はあなた様の護衛を務めることもありますから、猊下では距離が感じられますので」

「え、えぇー…」

 

 慌てる俺に彫りの深い顔を和らげ、楽し気に笑う猊下に俺としては戸惑うしかない。先ほどまでの固い雰囲気はなくなったけど、これはこっちの呼び方を変えない限り向こうも変えない気だろう。確かに彼の言うとおり、今後は異世界の事情を知る人に護衛を頼むこともあると思うから、距離が感じられるのは寂しいかもしれない。ここに集まるメンバーは、一蓮托生で対策を立てていく必要があるのだ。距離が近づくように努力するのは大切だろう。

 

 しかし、じゃあ猊下のことを何て呼べばいいんだ? 原作を読んでからずっと俺は、彼のことを心の中でも「猊下」呼びしていたからな。ストラーダさんやヴァスコさん、っていうのはどうもしっくりこないし、たぶん様付けは違うよな…。そういえば、デュリオは猊下のことを「じいさん」呼びしていたか。軽い感じってことは、あれぐらい軽くでもいいのかな?

 

「じゃあ、……おじいちゃん?」

「ぶほっ――!?」

 

 隣で話を聞いていたリュディガーさんが俺の呼び方に噴き出して、盛大に咳き込んでいる。あっ、やっぱり軽すぎた?

 

「ふむ、いいですな! それでは、今後はそれでいきましょう、若」

「若!? また古風なの来たっ!」

「はっはっはっ、日本では貴い身分の男児をそのように呼ぶのでしょう。悪魔や堕天使はいざ知らず、我らにとってレーシュ様は黄昏の時代を照らす新たなる光。その声を地上に届けることができる若を敬うのは、信徒として当然なのですよ。こればかりはご容赦を」

 

 豪快な感じに笑みを浮かべながら、その信仰心の厚さと真剣さに俺は口を噤む。俺は相棒のおまけみたいな感じだと思っていたんだけど、天界サイドからすればそういう訳にもいかないっていうのも確かである。大昔なら、神の声を聞いたというだけで祀り上げられたぐらいだ。現在、相棒の聲を地上に下ろせるのは俺しかいないのは事実なので、信徒として頭を下げるのは彼にとって当然なのだろう。

 

 禁手によって自分の立場が変わるだろうことは覚悟していたけど、いざこうやって頭を下げられるとムズムズとした気持ちになる。どうも慣れないというか、俺はそんなに偉くないというか、下っ端であるような心地が抜けないのだ。これは正臣さんの下っ端根性を弄れないぞ、俺…。でも神器所有者のための組織を今後創るなら、こういうところの意識を変えていくのも大切なのかもしれないな。

 

 

「えっと、今日は不意打ちみたいな会談になってしまってすみません。健康面は大丈夫ですか?」

「何度か危ない場面はありましたが、若と二代目様のお力で問題なく。これまで肉体、精神面を鍛えてきましたが、今後は内臓を鍛えていくことも視野に入れていくべきかもしれませんね…」

 

 おじいちゃんのストイックな修行精神がスゴイ。さすがは信仰心で、聖なる力を自分で会得したスーパー超人である。彼なら本当に内臓を鍛えられるのかもしれない。リュディガーさんも、「猊下ならやりそう…」って感じの視線を向けている。人外に認められる規格外って本当にいるんだね。

 

 おじいちゃんはそのまま俺達の傍に来ると、空いているソファーへ静かに腰を下ろした。俺はおずおずと魔方陣から缶コーヒーを出して渡してみると、嬉しそうにお礼を言って受け取ってくれる。太い指先で大丈夫かという心配もいらず、器用にプルタブを開けてゴクゴクと飲む姿に、こちらの緊張も少しずつ緩和していったと思う。

 

「デュリオから聞いたんですけど、おじいちゃんが天界に神器症の治療のことを伝えてくれたんですよね。信じてくれたこともそうですけど、天界に繋いでくれて本当にありがとうございました」

「猊下、三年前の技術提供も合わせ、こちらも感謝を述べさせてください。ありがとうございました」

「……謝意は受け取ろう。だが、魔術師よ。そちらが上司である私ではなく、わざわざデュリオへ直接連絡を入れた時点で、こちらが情報を握りつぶさずに上へ掛け合うのは大体予想出来ていたのではないかな?」

「おや、私は彼との約束を守っただけですよ。デュリオの献身さを誰よりも理解できていた自負はありますがね」

「ふん、これだから悪魔は…」

「誉め言葉と受け取っておきましょう」

 

 ニッコリと微笑むリュディガーさんに、猊下は小さく鼻を鳴らす。協定によって敵対関係はなくなっても、こういうやり取りは今後もあるんだろうな。種族や所属の関係ってややこしいけど、少なくとも剣呑な雰囲気はないから大丈夫だろう。ふと俺の頭を覆うようにポンッと包んだ大きな手に視線を向けると、ストラーダ猊下は難しい顔で俺の方を見ていた。

 

「……やはり、ミカエル様のおっしゃられていた通りか」

「ミカエル様ですか?」

「こうして直接触れたことで、明確に感じられました。若、あなたは人間から天使に近づいていますね。まだかなり小さなものですが、若自身の光力が身の内に宿っていることがわかります」

「……そういうのも、わかっちゃうんですね」

 

 たぶん猊下がこうして俺に直接話しかけてきたのは、交流のためもあるだろうけど、ミカエル様の懸念を確かめるためでもあったんだろうな。人間の魔法使いであるはずなのに、相棒とは違う僅かな光力を宿していることに。ほとんど感じ取れないぐらい微量だから、能力として扱うことはまだできないけど。アザゼル先生も普通なら気づかないというか、相棒の光力で紛らわせるだろうって話していたっけ。

 

 今回は緊急性のある話を優先するつもりだったから、他のことは後日改めてでもいいかと考えていたんだけど、さすがは天使とそれに仕える戦士だな。俺が肩を竦めて笑うと、おじいちゃんは無言で優しく頭を撫でてくれた。

 

「私の場合は、身近にハーフ天使の教え子がいましたからね。人と天使の狭間が感じ取れました。やはり、二代目様の……禁手の影響で?」

「そうなりますね。一応、俺自身は納得していますよ。積極的に変わるのは心が追いつかないですけど、いずれ人を終えることになるんだろうなぁーって。そこはまぁ、世界を巻き込むと決めておいて、怖がっているわけにはいかないですからね」

「世界のために…、ですか」

「自己犠牲って訳じゃないですよ? 相棒が俺の願いを叶えるために色々考えて辿り着いた結果なら、宿主としてそれを受け入れるのは当然かなって。相棒はちゃんと俺が人でいられる道を残してくれていました。それでも、この道を選ぶと決めたのは俺自身ですから」

 

 究極のところ、もし原作のイッセーのように人として死ぬか、異種族に転生してでも生き永らえるかをいきなり目の前に提示されたら、俺は迷わず転生してでも生き残ることを選択すると思う。彼の場合は選べたわけじゃないけど、それでもその二択だけが用意されていたなら、俺は間違いなくそっちに手を伸ばす。そう考えたら、人でいたいとは思っても、人でなくなることに怖がらなくてもいいかと思うことができた。こういうところが、周りから能天気と言われるところなのかもしれないけど。

 

「自分が進みたいと選んだ結果なら、在り様が変わろうと柔軟に受け止められる。まだまだ若いものに負ける気はないと思っていましたが、どうやら私自身意固地になっていたところもあったようです。教会の信徒としてこのまま人としての余生を送るつもりでしたが、倒さねばならぬ『敵』が現れた。いつやってくるかもわからない侵略者と戦うためには、この老いた身では難しいとわかっていたはずだ」

「えっと、おじいちゃん?」

「感謝いたします、若。……あなたがその道を選んでくれたことも含め、私にできる『全て』でその未来の先を切り開く剣となりましょう」

 

 真っ直ぐな眼差しで、胸に手を当てて誓いを口にする猊下。相手のオーラから感情を感じ取れるからこそ、その想いの強さがひしひしと伝わってくる。よくわからないけど、何で俺こんなに慕われているの? 聖書の神様の後継者である相棒ならわかるんだけど、デュリオも含めて教会陣営の方々の好意がめっちゃ重いよぉ…。リュディガーさんの方に視線を向けると、「また奏太くんの人脈がバグった…」って呟かれました。バグったって言わないでくださいよ…。

 

 

「あぁーと…。そ、そういえば、今ハーフ天使の教え子がいるって言っていましたよね!」

「えぇ、テオドロ・レグレンツィ様と申し、まだ五歳でありながら「奇跡の子」の中でも才能溢れる方です。天使と人間のハーフは、天使という種族の特性上数が少ないですから、若のことを知ればきっとお喜びになるでしょう」

「テオドロ・レグレンツィくん…」

 

 おじいちゃんの誓いにコクコクと頷き返すしかなかった俺は、とりあえず話題を変えようと気になったところを聞いてみることにした。そして教えてもらった人物の名前に、俺はハッとしたように口元に手を当てた。その名前は原作知識で知っている。原作でもストラーダ猊下のことを彼は慕っていたので、こうして師弟関係にあったとしてもおかしくはないだろう。

 

 テオドロ・レグレンツィの登場は一場面しかなかったからあんまり情報はないけど、確かヴァチカンのナンバー2であり、和平に不満を抱く教会の戦士たちを集めてクーデターを起こした実質トップだったはずだ。ただ彼の場合は年齢が低かったことと、悪魔に両親を殺されたという事情を考えて、重い処罰は受けずに済んだって感じだった。その責任をむしろ取ろうとしたのが猊下だったしな。戦士たちの不満を受け止めるガス抜きも必要だったとされ、そこまでそのクーデターは大事にされなかったはずだ。

 

 おじいちゃんの様子的に、おそらくテオドロくんの両親はまだ健在なのだろう。さすがに悪魔の手にかかっていたら、悪魔関係者と仲の良い俺を紹介しようとするのは難しいはずだから。おそらく、普段天界に籠って地上に下りてこない天使の中で、人間の妻がいるレグレンツィ一家は標的にされやすかったのだろう。戦争を危惧する政府関係者が彼らに手を出すとは思えないから、旧魔王派や過激派の悪魔の仕業なのかもしれない。

 

 聖書陣営の停戦協定が結ばれたことが世間に広まれば、もしかしたら原作同様に過激派が行動に移そうとする可能性があるだろう。少し考えこむ俺へ不思議そうな顔をするおじいちゃんに、俺はおずおずと口を開いた。

 

「その、おじいちゃんがレグレンツィ一家の傍にいるのは、今後も続くんですか?」

「む? いえ、今回のこともありますし、和平に向けた基盤はだいぶ整ってきていますから、そろそろ外れることになるだろうとは…」

「出来れば続けてほしいというか、それかおじいちゃんが信頼できる護衛を代わりに付けてあげることはできませんか? その、……嫌な予感がするんです」

「――ッ!?」

 

 こういうのは卑怯かもしれないけど、人命がかかっているため伝えておいた方がいいに決まっている。俺の嫌な予感について理解があるリュディガーさんが、めっちゃビクッ!? としていたけど。実際、このまま放置したらマズイって感じの予感は確かにあるのだ。俺の言葉とリュディガーさんの反応から何かを察したらしい猊下は、真剣な表情で俺と目を合わせてくれた。

 

「ストラーダ猊下、奏太くんの『嫌な予感』に関しては疑わない方がいい」

「もとより、若の言葉を疑いはせんよ。しかし、そこまでか?」

「『最悪を想定して動くことが基本』と彼の保護者達が認めるほどの、的中率100%の警告です。我々もそれで、『最悪』と何度も向き合ってきましたからね。その家族を『外的要因』から護る戦力は、しっかり用意しておいた方がいいでしょう」

 

 疲れたように肩を落とし、お腹に手を当てる経験者(リュディガーさん)に、おじいちゃんも頭が痛そうに遠い目をしていた。わかっていて言った俺もアレだけど、俺の一言でガタガタする大人達を見ていると、なんとも言えない気持ちになる。信じてくれるのは大変ありがたいんだけど、俺の扱いが完全に警報装置な件。いや、もういいんだけどね…。結果的にハッピーエンドになるならさ。

 

 あと教会関係でいえば、アーシア・アルジェントさんと木場祐斗(きばゆうと)さん――イザイヤさん関係だろうか。アーシアさんに関しては、ディオドラがギャルゲーに嵌まった時点で追放ルートはかなり薄くなったけど、今のまま聖女として祀り上げられる人生が良いとは思えない。確か猊下がアーシアさんのことを知っていたはずなので、機会があったら聞いてみるのもありだろう。

 

 そして、イザイヤさんに関しては、確か原作の短編で回想シーンがあったから覚えている。原作の四年前、彼が十三歳ぐらいの時にあの事件は起こったはずだ。つまり、現在イッセーくんは十一歳なので、あと二年の猶予は残っていると思う。もちろん、辛い実験の日々だったってイザイヤさんの回想にあったので、早めに助けてあげられるのならそうするべきだろう。デュリオも辛い目にあっている子どもたちがいるのなら、確実に手を貸してくれると思うし。

 

 しかし、今更だけど原作のリアス・グレモリーの眷属が完全に崩壊してしまうなぁ…。白音ちゃんは彼女の下にいるとはいえ、彼女以外の大半の人たちはこのままいけばバラバラになってしまうだろう。だからって助けない選択はないし、きっとリアスさん(彼女)なら眷属たちの幸せを一番に願ってくれると思うから。それにリアスちゃんの豪運なら、ギャーくん含めとんでもない人材を引き当ててくる可能性もあるし、このあたりはちょっと気にしておこう。

 

「わかりました、すぐに手配しましょう。ご忠告に感謝いたします」

「すみません、よろしくお願いします」

「いえ、それにテオドロ様は今後の教会を引っ張られる重要な役職に就かれるお方です。彼が健やかに成長してほしいと願うのは、我々の望みでもあります。いずれ機会があれば、ぜひお会いになってみてください」

「もちろんです」

 

 警戒態勢を持った猊下なら、テオドロくんの両親が亡くなるフラグを折ってくれるに違いない。聖書陣営の和平が成立して、レグレンツィ一家も無事なら、悪魔との交流だって問題ないだろうしな。リーベくんとミリキャスくんより二歳年上なら、二人にとってはお兄ちゃんになれるだろうし。種族を越えて、同年代同士で仲良く遊ぶ光景が見られたら嬉しいと思う。

 

 それからは、おじいちゃんが見せてくれた携帯アプリに盛り上がり、電話番号やアドレスを交換しておいた。猊下はゲームもそれなりに齧っているようなので、今度通信ゲームで魔王や総督も合わせて対戦する約束もする。新しいゲーム仲間ができることに、リンも喜ぶだろうな。俺達の会話にリュディガーさんの頬が相変わらず引きつっていたけど、おじいちゃんは豪快に笑ってOKをくれたから大丈夫だろう。

 

 こうして、これまで敵対関係だった教会勢力との交流を深めていくことができたのであった。

 

 

 

――――――

 

 

 

「えっ、みんなの顔合わせと駒王町の探検ツアーですか?」

「紫藤くんの次にこの街に詳しいのはカナくんだろう。これから和平のテストモデルとして駒王学園に通う子どもたちに、実際の街を感じてもらう必要があるんじゃないかって思ったんだ」

 

 長めの休憩をとった後、再び会議室に集まったトップ陣は今後の具体的な取り組みについて話すことになった。今回の会談の場になった駒王町が、乳神様の降臨の地であることを隠すためにも、この街を拠点として築いていくことは決定されている。そのため、俺が考えた新組織もたぶんここが本拠地になるだろうことも考慮して、詳しく話を詰めていくことになったようだ。

 

 その中で、元駒王町の管理者だったクレーリアさんが統括の管理者として再就職することや、魔王の妹たちが正式な管理者として治めることも話していた。相棒を直刺しして復活した紫藤さんがそれに驚いていたけど、立場は違っても正臣さんとまた一緒に働けることは嬉しそうにしていたと思う。悪魔の上層部がこぞって集まって来ることには、目のハイライトが消えかけていたけど。

 

 そのあと、堕天使側も和平の使者として雷光の娘が入学を予定していると話し、天界側も彼女たちと同年代ぐらいの人材を数人ほど送ると決めたみたい。紫藤さんが警備を担当するとはいえ、やっぱり乳神様を召喚したイッセーくんを日常から護衛する人材は必要だと考えたようだ。リアスちゃんと朱乃ちゃんは一つ年上だから、それなら確かに教会側の方が同級生枠を送りやすいかも。原作でも教会側はイッセーと同級生が多かったし。

 

 ただ教会は悪魔や堕天使を敵視する信徒も多いため、選定が難しそうだと頭を抱えているようだった。おじいちゃんも駒王町の学生選定に参加するようなので、もしいけるならそこにアーシアさんを入れることも可能かもしれない。彼女なら悪魔や堕天使とも仲良くできるだろうし、ずっと教会で奉仕してきたため学生生活を送ったこともないだろうから喜んでくれそうだな。そんな風に考えていた俺に、メフィスト様が提案した内容を聞いて目をぱちくりと瞬かせてしまった。

 

「現在女子しか入学できない駒王学園を、兵藤一誠くんが中等部の新入生として入学できる年には共学にしようと考えている。彼の立場上、裏関係を知らないままなのは危険なため、入学と同時に裏の事情は話しておくつもりだ。赤龍帝の力も含めてね。乳神関連は慎重に扱わなくてはならないけど、本人も多少の自衛手段を持たせることは大切だろう」

「そうなると、兵藤一誠くんの傍にいる人材には、早めにこの土地への理解を深めてもらっておく必要もあると考えたんだ。教会側は人材の選定から入る以上、街や学園のことは悪魔と堕天使側である程度やっておく必要がある。なら、すでに決まっている使者の顔合わせも先に済ませておいた方がいいだろうし、表の暮らしを実際に目にしてみることも大事かなって思ったんだ」

 

 アジュカ様とサーゼクス様からの説明に、なるほどと頷きを返す。イッセーくんが赤龍帝を宿し、乳神様との唯一の繋がりである以上、裏の世界に関わることは決定事項だ。それなら、ある程度の分別がつく年齢になったら駒王学園に抱え込んで、悪魔の保護下にあった方がいいだろう。原作ではリアスさんの眷属である木場さんが入学するために共学へ変わった学園制度を、イッセーくんのために変えることになるとは思わなかったけど。

 

 イッセーくんが中等部に上がるのは、あと一年と数ヶ月。それまでに準備をしておくなら、悪魔と堕天使側はせめて足並みを揃えておいた方がいいだろう。リアスちゃんとソーナちゃん、朱乃ちゃんは人間界の学園に入学するために必死に勉強しているらしいけど、実際にそこでの暮らしや過ごし方を知っていないとまずいだろう。クレーリアさんが保護者として面倒を見てくれるだろうけど、信頼関係を築くなら早いに越したことはない。

 

「カナタはここの管理を任されるクレーリア・ベリアルだけでなく、魔王の妹共や雷光の娘とも交友があるからな。お前がいれば、そいつらも交流しやすいだろう」

「つまり、みんなの仲を取り持ちながら、ついでに駒王町を知ってもらおうって感じですか?」

 

 そう言われれば、確かに適任なのは俺だろうな。ミカエル様達が俺の人脈に、頭が痛そうにしながら諦観の眼差しを向けてくるけど。これまで敵対していた種族同士が子どもとはいえ、同じ目的のために手を取り合うのだ。みんななら大丈夫だと思うけど、その不安を和らげるなら俺にもできると思う。それに魔法少女や怪人たちは慣れるまで刺激が強いから、さっさとそういうものだと洗の――理解するための時間は大切だろう。

 

 それにしても、リアスちゃん達と朱乃ちゃんの邂逅が、こんなにも早くなるとは思っていなかった。駒王学園で友達になれるかな、とは思っていたけど、現実的に考えれば使者として入学するんだから顔合わせは必要である。是非とも同年代の友達として仲良くなってもらいたいので、駒王町の良いところを伝えながらアピールを頑張らせてもらおう!

 

「しかし、この街の魔法少女と呼ばれる組織にはどのように渡りをつけるべきでしょうか」

「その組織の連中とも、こいつは交友関係を持っているから問題ねぇよ」

「……あの、アザゼル。奏太くんの人脈が、どう考えてもおかしいのですが」

「こいつとは最初期から関わってきた俺でさえも、何でこうなったのかさっぱり理解できないからな。まともに考えることは、もう諦めた」

「あのアザゼルが、ハイライトを消すレベル…」

 

 そんな感じで、時々蝶々を飛ばしながら会談の最後の詰めを行い、ある程度の予定は決まっていった。とりあえず、しばらくは停戦協定による混乱が起こるだろうから、俺は安全のために年越しまでは大人しくすることになりそうだ。年末は実家に帰る予定だったし、友達と遊んだり、姫島一家や鳶雄達と初詣に行ったりする約束もしている。朱芭さんの様子を見に行きたいし、家族に本当のことを話す時間も欲しかったから、年末年始の時間は有効的に使わせてもらおう。

 

 そして、堕天使側と天使側ですり合わせて決まった治療日程を消化していく日々を過ごし、新たな十四番目の神滅具(ロンギヌス)として、『暁紅の聖槍(ティファレス・リィンカーネーション)』の名前を表に出していくことになりそうだ。それが落ち着いた頃に、リアスちゃん達を駒王町に呼ぶことになるそうなので、今後もスケジュールは忙しい感じになりそうである。

 

 

「ふぅ、しかし…。やはり兵藤一誠くんを保護する上で、一番の問題は白龍皇アルビオンの存在ですね。赤龍帝と白龍皇の宿命の戦いは有名ですから。兵藤一誠くんをこちらが失う訳にはいかない以上、そちらの対策も考えていかないと――」

「あぁー、メフィスト。どう思う?」

「いい機会なんじゃないかい? サーゼクスくんたちなら悪い様にはしないだろうし、天界側もカナくんの弟なら手を出せないだろう」

「……奏太くんの、弟?」

 

 難しい顔で赤龍帝であるイッセーくんの対応を考える面々を前に、顎杖をついて視線を泳がせるアザゼル先生と、ニッコリと良い笑顔で微笑むメフィスト様。「俺の弟」という言葉に二人以外の全員の視線がこちらに向けられ、それに俺の方が頬を引きつらせてしまう。えっ、お二人とも。もしかして、白龍皇のことをここで暴露しちゃってもいいってことですか? 俺が保護者二人にそろっと目を向けると、大きく頷くように返されてしまった。

 

 確かに古き悪魔側に魔王の血筋がバレるのはよくないけど、魔王様達なら理解を示して口を噤んでくれるだろう。原作でも隠遁した前政府の支持者がまだ残っているみたいだし、魔王様達も冥界を大混乱させたくないと思うしな。天界側も停戦協定を結んだ以上、悪魔側の事情を考慮して動いてくれるだろう。さすがに正式な和平が結ばれ、尚且つ古き悪魔というか旧魔王派関係が落ち着くまでは、彼の正体を表に出すことはできないだろうけど。それでも、トップ陣へ事前に情報を伝えておくことは大事だろう。

 

「最初にあいつを保護した時は、戦争の火種にならないように隠し続けるつもりだったさ。だが、情勢は変わった。こうして悪魔・堕天使・天使で協定が結べた以上、新たな『敵』になるかもしれない相手の情報は共有しておくに限る」

「新たな『敵』になるかもしれない相手…」

「オーフィスは僕たちの『敵』になるかもしれないけど、交渉が通じるなら『味方』になり得る可能性がある相手でもある。しかし、潜在的に『敵』になる可能性が極めて高い者もいるって話さ」

 

 アザゼル先生とメフィスト様の言葉に、この会談に参加する全員の目がスッと細まるのを感じた。

 

「この世界を破滅に導きたいって考えるような化け物や悪神なんかは、そっちも理解しているだろう。それとは別に、『知的好奇心』で異世界にちょっかいを出しかねないヤツらがいるとさっき話したはずだ」

「……ネビロス家ですね」

「旧ルシファーの時代を支えた、忠臣である六家の一角ですか。確か、全ての家は取り潰され、その家の生き残りもほとんど行方が知れないか死亡したと聞いていますが…」

 

 ちらりと壁際に立つ銀髪の女性の方に視線を移したミカエル様に、毅然とした表情で立ち続けるグレイフィアさん。魔王様達は苦虫を嚙み潰したように眉をしかめているので、確かに彼らならちょっかいを出しかねないと思ったのだろう。

 

「ほんの一年半前、『人工的な超越者を作り出す』なんて馬鹿げたことをやらかしていたイカレタ研究者共さ。ヤツラは良くも悪くも研究にしか興味がない。種族どころか、この世界のことさえどうでもいいと考えている節がある」

「だからこそ、この世界よりも高い技術力を持つ異世界に強い興味を示す可能性がある。……頭が痛い話です」

 

 この場で誰よりもネビロス家のヤバさを理解しているサーゼクス様たちが、天界陣営に内乱で起こったことや、一年半前のカチコミ事件について詳細を話した。あと、俺がうっかり発掘してしまったことに関しては、「奏太くんなら仕方がないか…」でもうツッコミすら入れられなかった件。まだ初めましてから、数時間しか経っていないはずなのになぁ…。

 

 そんな俺の心情は置いておいて。そんな訳で、これまでは悪魔側で規制されていたため不透明だったネビロス家の情報が広がり、ミカエル様達もそのヤバさを感じ取れたらしい。アザゼル先生や冥界の『革新者(イノベーター)』であるアジュカ様も舌を巻くほどの技術力。その危険性は、これまで敵対してきた先生達の実力を理解しているからこそ、より深まっているように感じた。

 

「そいつらの手は悪魔だけじゃねぇ、堕天使にも何人か協力者が紛れ込んでいた。それだけ魅力的な技術力を持っているってことだろうな。そして、こういっちゃなんだが、ミカエル。おそらくお前らのところにも、何人か紛れ込んでいる可能性は十分にありえると考えている」

「馬鹿な、私たちには『堕天』というシステムがあるのですよ!」

「今のお前が良い証拠だ。昔と比べて、『堕天』のシステムは天使にかなり融通が利くようになっちまっている。不具合だらけのシステムを過信し過ぎるな、天使だろうと疑ってかかれ。元天使なりの忠告ってやつさ」

「……そのネビロス家が暗躍しているなら、一時的に『堕天』を制御できる技術もあるかもしれませんものね」

 

 アザゼル先生の話にガブリエル様が沈痛な面持ちで顔を伏せた。たぶん先生たちが一番警戒しているのは、裏で暗躍するタイプの組織なんだろうな。オーフィスの場合は強者故に堂々として目立つので、ある意味で分かりやすい。だけど、ネビロス家のようなタイプはいつ情報を奪われるかわからないため、常に神経を張っていないといけないのだ。

 

 実際に天使側にも『禍の団(カオス・ブリゲード)』に情報を流す裏切り者が何人かいたって表記が、原作にあった記憶がある。ミカエル様達が和平に向けて取り組みだしたのが五年ほど前なら、それに納得できないと感じた天使の何人かはすでにネビロス家と繋がりを持っている可能性はある。今の俺と相棒では、システムの中枢を書き換えるだけの力はまだない。『堕天』システムに関しては、俺達より天使の方が利用しやすいかもしれないな。

 

「ネビロス家に関しては、常に警戒を怠らないでもらいたい。そしてもう一つ。異世界や邪神を知ったことで、何をしでかすかわからないヤツが生きていたことをこちらで確認できた」

「何をしでかすかわからない?」

「お前らもよーく知っている名前だぜ。初代魔王ルシファーと「リリス」の間に生まれた息子――リゼヴィム・リヴァン・ルシファー。大戦以降、一向に姿を見せずに消えたヤツが生きていたことが判明した」

 

 アザゼル先生の話に最も驚愕を表し、反応したのは現ルシファーを継ぐサーゼクス様だった。ガタンッ! と椅子を倒しそうなほどに勢いよく立ち上がり、鋭い眼差しでアザゼル先生を見つめている。同じようにアジュカ様とグレイフィアさんも臨戦態勢に入りそうなほど、ピリピリとした空気を纏っていた。

 

 ミカエル様達も目を見開いていたけど、悪魔側の殺気にも似た気迫に追究は任せたようだ。サーゼクス様達もおそらく生きているだろうという漠然とした思いはあっただろうけど、それを確認する術はなかった。魔王軍と反政府軍の内戦にも関与する姿勢は見せず、それほどまでの永い年月姿を現さなかったのだ。そんな相手が生きていることが確認された。魔王様達からすれば、決して放置できる問題ではないだろう。

 

「『リリン』が見つかったのですか…?」

「残念ながら、ヤツ自体を捕捉したわけじゃない。だが、そいつの『孫』を約一年前にこっちで保護してな。どうやら祖父と父親から虐待を受けていたらしく、保護した当初は栄養失調と暴力の痕が残るひどい有り様だった」

「初代ルシファーの曾孫…」

「その孫の名前は、ヴァーリ・ルシファー。ラゼヴァン・ルシファーと人間の母親から生まれ、神滅具(ロンギヌス)白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)』を宿して生まれた今代の白龍皇だ」

「――なっ!!」

 

 これまで話していた赤龍帝の宿命のライバルが、まさかすでに堕天使に保護され、しかも初代魔王の血まで引いていた。混乱と同時にくらりとした視界に、サーゼクス様が力なく椅子に座り込む姿が見える。未だに初代ルシファーの血筋にこだわる悪魔が多い中、冥界を揺るがすとんでもない爆弾の存在を暴露されたのだ。悪魔側は言葉を無くし、信じられないように頭を振っていた。

 

 

「……アザゼル。あなたが白龍皇について黙っていたのは、情勢を考えれば理解できました。しかし、あのリゼヴィムの孫で二天龍を宿すなど危険ではないのですか」

「それに関しては、俺よりもカナタの方がわかっているだろうよ。どうよ、ヴァーリを保護して、成長を見守ってきた兄としては」

「えっ、ヴァーくんがですか…?」

 

 ギョッとしたような視線がこちらに向けられるが、最初の方でメフィスト様が「俺の弟」だと言っていたことを思い出したのか、もうツッコむ気力さえ出ない様子だった。ただこのままヴァーくんが危険視されたままは嫌なので、ここは兄として弟の素晴らしさを伝えるべきだろう。ヴァーくんがすごくいい子で、天然で可愛くて、危険なんてないことを見事証明してみせよう!

 

「アザゼル先生、映像記録を流せる端末とかはありますかっ! ヴァーくんの潔白と良い子っぷりを、全力でプレゼンしてみせます!」

「おぉー、用意してやる。というか、すぐに出せるのかよ」

「ヴァーくんメモリアルは、ちゃんと永久保存版と布教版と兄としてニマニマする版で持っていますからね。いつでも自慢できるように、布教版は常に所持しています。朱乃ちゃんバージョンも、当然完備していますよ!」

「後でバラキエルにチクっておくわ」

 

 それはやめて、アザゼル先生。ただでさえ、妹自慢大会でセラフォルー様と上映会やって、めっちゃお父さんに怒られたのに。さすがに自重はするようになったんだよ。でも、いつどこで妹と弟を自慢することになるかはわからないから、映像媒体は常に携帯するのが当たり前になっているだけなんです。だって、朱雀とかサーゼクス様とかセラフォルー様とかディハウザーさんとか、シスコンブラコンが俺の周りには多いからさ。最近は子ども自慢でリュディガーさんも入ったし、親バカジャンルも確立中。これは自慢が(はかど)る件。

 

 それからアザゼル先生が用意してくれた大型テレビに、『神の子を見張る者(グリゴリ)』謹製の映像端末を繋げる。チャプターごとに項目がしっかりと分かれていて、弟の成長を感じられたところは余さず保存しているのだ。ちなみに昔アルビオンとした約束は、『ドライグにこれまでの映像記録は見せない』だから、他のヒトに見せることは何も問題はない。

 

 ルシファーがなんだ、神滅具がなんだっ! リゼヴィムなんて関係ない、ヴァーくんはヴァーくんだ! ヴァーくんとアルビオンが危険な存在じゃないことを、俺が絶対に認めさせてみせる。さぁ、この一年間で溜め込んだヴァーくんメモリアルが、今宵駒王町で火を噴くぜッ!

 

「じゃあ、マイクのスイッチとイメージBGMを流して…。『それでは、これからヴァーくんの成長記録を解説付きでお送りしますので、よろしくお願いします。まず最初は、保護して一週間ぐらいのヴァーくんの記録です。この映像を見てもらったらわかる通り、この時のヴァーくんは猫みたいに警戒心が強かったんですけど、時々見せるデレが本当に可愛いんですよ。無表情なのにリンとのゲームに負けると唇をちょっと噛むところとか、勝った時はふふんと鼻を鳴らして自慢げにするところとか、俺が何度欲望に負けて銀髪をウリウリと撫で回したくなったことかっ!』」

「……おい、サーゼクス。奏太くんの暴走癖がお前の妹自慢や息子自慢にだんだん似てきているんだが、そこのところに弁解はあるか」

「いやいやいや、アジュカ! 確かに奏太くんにはよく妹自慢をやったけど、それならセラフォルーやディハウザーだってやったよ! あと、姫島朱雀ちゃんって子と「どっちがより妹を語れるか」に対抗するために特訓ぐらいはしたけど…」

「そういや、バラキエルのやつに朱乃の成長記録を渡すためだからって、映像加工技術を教えてやったんだっけ。無駄にクオリティが高くなって、いつか映画まで作りそうだなぁー」

「……やはり、悪魔と堕天使に育てさせたのは間違いだったんじゃ…。もっと、もっと早く奏太くんに出会っていれば、まだマシに――」

「ミカエル様、しっかりしてください! まだきっと挽回できます! きっと、たぶんっ!」

 

 今回は会談中だったので、ザっと三十分クオリティという短いものだったけど、ヴァーくんの魅力は語りまくれたと思う。最後の方にはみんな、「もうヴァーくんはわかったよ…」と静かに頷いてくれたし。デュリオはさすがはナチュラル兄貴の素質があるからか、弟の成長記録にすごく感動してくれた。今度映像の撮り方や編集方法を教えてあげようと思う。

 

 こうして、聖書陣営の会談は無事に終わりをつげ、みんなの瞼にヴァーくんの成長を刻み付けながら今後の対策に乗り出したのであった。

 

 

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