えっ、シスコン魔王様とスイッチ姫みたいな力ですか? 作:のんのんびり
そして、いつも温かい応援ありがとうございました。今後も頑張っていきますので、よろしくお願いします。
倉本家へ裏の事情を話し、裏のごたごたもある程度落ち着いてきた頃。聖書陣営のトップたちの尽力もあり、組織内の混乱は徐々に収まってきているらしい。もっとも裏の関係者の大部分は様子見という感じで、多くのヒト達が聖書陣営の動向を探っている段階みたいだ。十四番目の
トップ陣はまだ緊張状態が抜けないようだけど、進められる予定は進めておくべきである。というわけで、停戦協定の時に予定されていた行事がついに決行されることになったのだ。俺はクレーリアさんから昔もらって、今でも使っている駒王町への転移魔方陣を起動させ、彼女たちが前に住んでいた家の庭に転移する。前回は会合だったからゆっくりできなかったし、その前は神器症の治療とかで忙しかったから、駒王町でのんびりするのも久しぶりだな。
そんな感慨深い気持ちで駒王町を眺めていた俺と正臣さんに向かって、元気な挨拶が響き渡る。栗色のツインテールを揺らす女の子と、同じ髪色をした牧師服の男性。この駒王町の守護者であり、教会側の管理を任されている紫藤一家だ。イリナちゃんはニパッと笑顔の花を咲かせると、嬉しそうにこちらへ駆けだしてきた。
「お兄ちゃーん! 明けましておめでとうございます。待ってたよー!」
「明けましておめでとう、イリナちゃん。お出迎えもありがとうね。紫藤さんも今日はよろしくお願いします」
「いやいや、それはこっちの台詞さ。それにしても、イリナちゃんがミルたんさんと一緒に遊んでいるお兄さんが、奏太くんのことだったなんて…」
アレですね、世間って意外と狭いものですよね。俺がイッセーくんと知り合いな時点で、娘さんとも交流があったことは薄々わかっていたみたいですけど。何だかんだでミルたんの知り合いなら大丈夫というか、魔法少女関係に深入りしたくない思考があったからか、今まで気づかれることがなかったようだ。紫藤さんはぴょんぴょん跳ねるイリナちゃんの頭を優しく撫でた後、俺と一緒に来た護衛にゆっくりと視線を向けた。
「……そして、久しぶりだね八重垣くん。フェレス理事長の眷属になったと風の噂で聞いていたけど、元気そうでよかったよ」
「はい、お久しぶりです紫藤さん。本日は奏太くんの護衛として、付き添いにきました。紫藤さんも元気そうで――えっと、大丈夫ですか?」
「はははっ、魔王の妹君に雷光の娘という錚々たる面々を任されることになってしまった私が、元気かと言われれば……気力で頑張っているとしか答えられないよ」
「主も愛用している胃薬があるんですけど、いります?」
「ぜひ」
八重垣さんと紫藤さん。転生悪魔と教会の戦士。仲間から敵対関係になり、これまで立場の違いから接触することができなかった師弟。それが停戦協定が結ばれたことで、こうやってまた交流を持つ機会を得ることができた。最初はたどたどしかった二人だけど、胃薬を基点に話を広げることに成功したようだ。共通の話題があるって素晴らしいね。感動の再会なんだから、もっとオーバーリアクションで喜んだらいいのに、相変わらず不器用な人達である。
そんなもじもじする男たちを横目に、俺はイリナちゃんにお年玉をプレゼントしておいた。今日は合法的に子どもたちへプレゼントを配れる日だからな、素晴らしい。なお、相手は小学生なので金額はちゃんと諭吉さん一枚に抑えています。こっちはオーバーリアクションで喜びのジャンプを見せてくれたので、渡した側としては大変満足です。
「えっと、あなたが悪魔になったっていう、パパの昔の仲間の人なの?」
「あ、あぁ、うん。そっか、もう五年も前のことだから、僕のことは覚えていないか。こんにちはイリナちゃん、八重垣正臣と言います。その感じだと、お父さんから全部聞いたのかな?」
「はい、聞きました。神様や天使様が本当にいるって聞いて、すっごくびっくりしました! 悪魔や堕天使と敵対していたって教えてもらったけど、今は仲良くしているんですよね?」
「まだ仲良くなろうとして、数週間目ぐらいだけどね。悪魔は怖い?」
「うーん、まだよくわかりません。悪いヒトたちだったらアーメンしますけど、怪人のおじさん達みたいに良いヒトになるかもしれないから。だから、自分の目で見てから決めます!」
ビシッと手をあげて、堂々と胸を張って告げるイリナちゃん。原作でも思ったけど、気持ちが良いぐらい思い切りがいいところは彼女の美点だと思う。思い込みが強いところはあるけど、真っ直ぐに相手にぶつかっていく勇気はすごい。ミルたんの影響で若干物理寄りの思考回路になっている気もするけど、誰とでも仲良くなろうと頑張れる実直な性格と社交性はさすがである。近所の子どもたちをまとめ上げ、番長として駒王町に君臨しているだけはあるな。
聖書陣営の停戦協定を機に、家族へ裏のことを話す覚悟を決めたのは俺だけでなく、紫藤さんもだったらしい。彼の場合、イリナちゃんが中学生になったら話す予定だったみたいだけど、イッセーくんのことを考えると早い方がいいと決断したようだ。乳神の加護を受けた赤龍帝を宿す少年と、その幼馴染として過ごしてきたイリナちゃん。彼女が今後もイッセーくんの隣にいるためには、教会の関係者として傍にいるのが適任である。
紫藤さんなりに娘の未来を考えて、選択肢を与えたかったのだろう。イッセーくんの傍にいるのなら、騒乱に巻き込まれるのは間違いないから。たとえ危ない目にあうとわかっても、兵藤一誠と共に歩むことを選ぶのかを…。そして、ここに彼女がいるということは、イリナちゃんは裏の世界に足を踏み入れることを選んだってことなんだろうな。
「あの、紫藤さん。つまり、イリナちゃんが教会側の使者ってことになるんですか?」
「イッセーくんが危ない目にあうかもしれないなら、私が護るんだ! って聞かなくてね。今回の会合に連れてきたのも、悪魔の管理者や堕天使の使者との顔合わせも兼ねている。親として心配ではあるけど、イリナちゃんなら種族を越えて手を取り合えるんじゃないかって思えたんだ」
「紫藤さん…」
「あと、表で普通に生活していたはずなのに、何故か当たり前のように戦闘ができちゃってね…。ミルたんさんと一緒に修行したり、友達と平和のために悪霊退治や不良を成敗する日々を過ごしたり、安倍家のゴリラと拳を打ち合ったりしていたらしい。はははっ、いつの間にかエクソシストとしての下地がバッチリ過ぎて、パパもびっくりしちゃったなぁー」
「紫藤さん、戻ってきて! 魂が抜けてる、抜けてるからァッー!」
思えばイリナちゃんの環境って、めちゃくちゃ修行に適していたんじゃ…。もう半分、裏の世界に片足を突っ込んでいたよ。魔法少女達は大好きな牧師さんの娘さんってことで、手厚く関わっていたみたいだし。原作ではソーナさんの眷属になっていた
正直に言えば、イギリスへの引っ越しがなくなって教会の訓練を受けていない分、戦闘力的に大丈夫かと思っていたんだけど、別の意味で心配はなさそうである。聖剣より聖拳派になっていそうだけど…。もし手が空いていたら、おじいちゃんに聖拳のやり方をイリナちゃんに教えてもらえるか聞いてみようかな。もしかしたらデュランダル繋がりで、ゼノヴィアさんとの繋がりもできるかもしれないしね。
「さて、そろそろ時間が迫ってきていますし、目的地である駒王学園に向かいましょうか」
「駒王学園ってあの大きな学校だよね。私も中学生になったら、イッセーくんと一緒に通うことになるって聞いたよ」
「よく覚えていたね、イリナちゃん。その学園の旧校舎は、昔から悪魔がこの街を管理する時に使っていた場所らしい。悪魔貴族の子女や子息が領地経営の練習のために訪れていた地だから、自然と学園が管理の中心になっていたようだ」
「今日は休日だから、あんまり生徒はいないだろうけど…。まぁ、不審者みたいな目で見られたくないので、魔法で人除けはしておきますね」
これぐらいなら、俺でも魔法力で何とか出来る。魔法使いの組織に所属してもうすぐ六年だからな、さすがに人払いの魔法ぐらいは習得済みである。イリナちゃんが本物の魔法に目をキラキラさせていたので、バッチリ杖を持って詠唱も唱えて決めてやったぜ。めっちゃ褒められて気持ち良かったけど、魔法使いならほぼ誰でも使える初期魔法なのは黙っておく。八重垣さんと紫藤さんから、生暖かい目が向けられたのはスルーしておいた。
そんなわけで、周りの目を気にしなくてよくなったので、堂々と学園の門をくぐって旧校舎へと足を踏み入れた。その間、紫藤さんと八重垣さんの硬さもなくなったようで、この五年間のことを語り合っているようだ。他のエクソシストの仲間たちの話でも盛り上がっていて、本来の二人が辿るはずだった未来を想えば、あの時必死に頑張ってよかったと心の底から思えた。
「建物は雰囲気もあって古い感じですけど、造りはしっかりしていますね。確か、旧校舎の応接室が待ち合わせ場所であっていますか?」
「大丈夫、あっているよ。それにしても懐かしいなぁ…。クレーリアや眷属のみんなと、よくここでお茶をしたよ」
「何だかお化けが出てきそうだねー。埃はなさそうだけど、ちょっと寂しい感じはする」
「悪魔の魔力で保存されているから綺麗だが、管理者がいなかったため五年間ほど放置されていた校舎だ。一応事前に点検はされたみたいだが、脆そうなところは避けた方がいいだろう」
旧校舎に来たことがある正臣さんを先頭に、駒王学園の旧校舎の中を四人で進んでいく。ここが原作でリアスさんたちがオカルト研究部を開いていた場所かと思うと、何だか聖地巡礼をしているような気分だ。歩いているところは、悪魔の土地なんだけど。今後はここを聖書陣営の中継地点にするようなので、今の寂しい感じはいずれなくなっていくことだろう。
そうして辿り着いた一室の前までくると、部屋の中からいくつかの気配が感じられた。どうやら向こうも、冥界から駒王町に転移魔方陣で来ていたようだ。八重垣さんがコンコンッと扉をノックして、返事があったため入室していく。胸の前で手を握って、ドキドキしているイリナちゃんと一緒に入ると、そこには華やかな女性陣達が豪華そうなソファーに座って寛いでいた。
「って、リアスちゃんとソーナちゃんがいるのはわかっていたけど、何で黒歌もいるんだよ?」
「ちょっとぉー! 邂逅一発目からその発言はどうなのよ? 白音だっているのよ」
「白音ちゃん、久しぶり。あと、明けましておめでとう。元気そうでよかったよ。あっ、お年玉あげるね」
「明けましておめでとうございます。はい、奏太兄さんもお元気そうでよかったです。……えっと、その、ありがとうございます…」
「こいつ、姉と妹の扱いの差がひど過ぎるっ……!」
まぁ、冗談は置いといて。たぶんリアスちゃんが人間界に行くなら、自分も行きたいって言い出して、ついでに妹の白音ちゃんも一緒に引っ張ってきたのだろう。恐縮そうに、白音ちゃんがペコペコしているから。部屋の中で給仕をしているグレイフィアさんも、溜め息を吐いているのが分かる。ただ彼女たちが約一年後、リアスちゃんと一緒に駒王町に来るかもしれないのなら、下見という点では同じく間違ってはいないのだろう。
「黒歌も明けましておめでとう。ついでにお前もお年玉いる?」
「いる」
「即答かよ」
この即物的なにゃんこめ、俺より年上だろう。メイドな姉に家庭教師の給金を管理されてしまっているらしく、自由に使えるお金はいくらあっても困らないらしい。とりあえず、諭吉さんを三枚入れて渡してやれば大喜びしてくれた。それにしても、冥界で暮らす黒歌や白音ちゃんに会えるのはもっと先かと思っていたけど、こうして挨拶ができてよかったと思う。周りは俺と黒歌のやり取りに、呆然としていたけど。
「明けましておめでとうございます。リアスちゃん、ソーナちゃん。グレイフィアさん。秋の冥界以来だね」
「はい、明けましておめでとうございます。お兄さまから奏太さんが十四番目の
「明けましておめでとうございます、奏太さん。思えば、秋に魔王様方が集まったのも、私たちの人間界への留学も、全ては今回の停戦協定に向けた布石だったのですね。冥界はしばらく報道陣が大騒ぎしていました」
「明けましておめでとうございます、倉本奏太様。教会の皆さまも、ようこそお越しくださいました。ただいまお茶をご用意しますので、向かい側のソファーにお座りくださいませ」
「は、はい…」
グレイフィアさんに声をかけられ、ようやく起動したらしい紫藤さんたちも入室を果たす。改めて正臣さんもみんなに挨拶をし、紫藤一家もペコリと頭を下げる。リアスちゃん達も教会の人間が相手だからか貴族令嬢らしく挨拶を交わし、ピシッと背筋を伸ばしているのが分かった。お互いに緊張しているみたいなので、ここは全員と接点がある俺が話を進めた方がいいだろう。グレイフィアさんに言われた通りにソファーに腰掛け、ついでにスマートな手つきで二人にお年玉をプレゼントしておいた。
「あ、ありがとうございます。お正月にお金をもらえるって、何だか新鮮な感じですね。日本特有の文化ってやっぱり面白いわ」
「感謝いたします。でも、このお金を使えるのは来年になりそうですね。冥界で日本円は使えないので、大切に保管しなくては」
「ハァッ――!?」
「あっ、お年玉をもらって喜んでいた黒歌に、ソーナちゃんの冷静なツッコミが炸裂した」
こいつ、グレイフィアさんの目がなくなったら、早速もらった金を使い込む気だったな。グレイフィアさんが奥で頭に手を置いて呆れている。すまない、さすがに冥界のお金はメフィスト様に頼まないと俺も持っていない。来年人間界に留学してから、ぜひ使ってください。そんな俺達のやり取りにクスクスと笑ったイリナちゃんは、口元に手を当てて肩を揺らしていた。
「ご、ごめんなさい。悪魔の貴族って聞いてちょっと緊張していたんだけど、何だか私たちとそんなに変わらないんだなって思うと安心しちゃって」
「ふふっ、気にしていないわ。こうして集まったのだって、三勢力で友好を築くためなのだもの。改めて、リアス・グレモリーよ。よろしくお願いするわね」
「ソーナ・シトリーです。こちらもよろしくお願いします」
「し、紫藤イリナです! 教会の代表として、イッセーくんの幼馴染として頑張りますので、よろしくお願いします!」
さすがはイリナちゃんというべきか、挨拶を交わして緊張を解いた後は、自分から積極的におしゃべりに参加していった。リアスちゃん達は一つ年上なので後輩として、白音ちゃんは一つ下だとわかると「ミルたんさん達とは違う、本物の猫耳だ!」と大興奮していた。そういえば、駒王町で猫耳は自然と目につくものだったね。この街でなら、猫姉妹が普通に耳や尻尾を出していても、全く問題にされなさそう。なお、魔法少女にカウントされることになるが。
そんな娘さんの様子に、紫藤さんはホッと息を吐いている。お茶を汲んでくれたグレイフィアさんと正臣さんを交えて大人同士で日程の確認を始めたので、俺は子どもたちの会話の方に参加しておいた。サーゼクス様の眷属である沖田さんから日本の暮らしについて聞いてはいたみたいだけど、やはり現地人の協力があった方がいいだろうしね。リアスちゃんたちの表情もだんだんと和らぎ、イリナちゃんに日本について色々質問をしていただろう。
そんな風にしばらく会話を楽しんでいたが、ふと旧校舎に別のオーラが三つほど着いたことを感じ取った。馴染みの深い光力と魔力のオーラに、ついに三勢力が揃うのかと思うと感慨深い気持ちになる。これで駒王町探検ツアーの参加者は全員集合だ。俺はコンコンッと叩かれる扉に目を向けて返事を返すと、灰色の髪の女性と黒髪の親子が扉の向こうに佇んでいた。
「明けましておめでとうございます、クレーリアさん。朱乃ちゃんとバラキエルさんも。クレーリアさん、二人の案内ありがとうございました」
「明けましておめでとう、カナくん。最近忙しかったから、朱乃ちゃんやバラキエルさんとゆっくりお話できてよかったわ。久しぶりの駒王町に、私も懐かしい気分だったよ。正臣も案内お疲れ様」
「お疲れ様、クレーリア」
正臣さんは俺の護衛であるため、代わりに駒王町をよく知っているクレーリアさんが堕天使陣営を迎えに行ってくれていたのだ。駒王町という遠い地で、複数体制もあって悪魔に囲まれることになる朱乃ちゃんにとって、仲良しのお姉さんであるクレーリアさんがいれば心強いだろう。初めての同年代の異種族にガチガチになっているらしい朱乃ちゃんを、バラキエルさんが心配そうに見つめているが、勇気を振り絞って一歩前に進み出ていた。
「は、初めまして、姫島朱乃と申します。雷光バラキエルの娘として、堕天使の代表として、この街でお世話になることになります。足を引っ張らぬよう精進していきますので、よろしくお願いします」
朱璃さんに着付けてもらった着物を羽織り、完璧な大和撫子のお手本のような挨拶を見せる朱乃ちゃん。さらさらの黒髪ポニーテールに、和服というコーディネートに、日本ファンのリアスちゃんの目がめっちゃ輝いている。イリナちゃんも「あれ、あっちの方が純日本人じゃない? 日本在住という私のアイデンティティの一角がっ!」と戦慄している。国際色豊かだもんね、この部屋。
「明けましておめでとう、朱乃ちゃん。ほら、座って座って。ちょうど自己紹介をし合っていたところだよ」
「は、はい、兄さま!」
「あと、お年玉もプレゼント。ついでに小鬼とヴァーくんの分を渡しておいてもいい?」
「ありがとうございます、キィくんもヴァーリくんも喜びます。最近、母さまのお手伝いで影響を受けたのか、美味しいラーメン作りに凝っているみたいで…。ラーメン専用のパワーテボを麺の種類ごとに欲しがっていたので、喜ぶと思います」
「そ、そっか。ヴァーくんも、なかなか自由に過ごしているようで何よりだよ」
アザゼル先生が停戦協定とかで忙しくてあんまり構ってくれないからか、空いた時間に自分で趣味を見つけていたようだ。ヴァーくんって拘りが強いから、器具とかも自分の目で選びたい派だろうしなぁ…。一生懸命にラーメンを作って、それを朱璃さんに食べてもらおうと頑張るヴァーくんを想像したらほっこりした。今度機材一式をもって録画しに行こう。
「初めまして、あなたが姫島朱乃さんね。私は、リアス・グレモリー。奏太さんからあなたのことを聞いて、ずっと会ってみたいって思っていたの!」
「初めまして、リアス・グレモリーさん。私も兄さまからあなたのことは聞いていましたが、そんなにですか?」
「えぇ、奏太さんが冥界へ来た時に、お兄さまとレヴィアタン様と一緒に妹談議で盛り上がっていて、その時に流された特集ビデオがすごかったから。茶道に華道に習字も完璧で、これぞ憧れの日本人! って絶賛しちゃったんだもの」
「……兄さま」
「ごめん、どうしても妹マウントが抑えきれなくて…」
自慢の妹がいたら、そりゃあ自慢したくなるものでしょう。世の兄の宿命である。だから、頬を赤らめて、涙目でポコポコしないで。可愛いから、ごめんって。
「ソーナ・シトリーです。私も成り行きで見てしまいましたが、その年で大変見事なものでした。あと、慰めになるかはわかりませんが、私も姉に色々ビデオを流されている身ですので、お気持ちは非常によくわかります」
「えっと、ごめんなさいね。私もお兄さまによく撮影されているし、姫島さんの気持ちは大変よくわかるわ。確かにヒトに見られると思うと恥ずかしいもの、配慮が足りなかったわね」
「っ、いいえ! その、私のことは朱乃で構いません。同じ年のはずなので。もしかして、お二人もその、色々と――」
「そうなのよ! あと、私もリアスでいいわ。そのね、お兄さまが私のことを大切にしてくれることはすごく嬉しいのよ。撮っている時もあんなに幸せそうな顔をされるから、それぐらいならって思うんだけど…。やっぱり、ほら、まだまだ未熟なところもある身だから、それを発信されるのはちょっとね……」
「私もソーナと呼んでください。お姉さまが妹である私のことを自慢してくれるのは嬉しいんですよ。嬉しいのですけど、やっぱり限度というものがあると言いますか…。世界一可愛いとか、可憐でプリティーとか、頭脳明晰ですごいとか、嬉しいんですけど身内びいきが入っているものをよそ様の耳に入れるのは……」
「うぅ…、わかります。わかります。私には、兄さまと姉さまがいて二人ともすごく優しくて、自慢の妹だって言ってくれて嬉しいんですけど、嬉しいんですけどっ……!」
「兄と姉がダブルで…。朱乃、あなたってすごいのね」
ガシッ! と出会って数秒で絆を芽生えさせた妹たち。種族を越えて干渉を果たすシスコンのすごさよ。やはりこの『ハイスクールD×D』の世界において、シスコン属性は強い。なお、隣からバラキエルさんに、反省しろと小突かれました。あなたも大概映像記録を撮って、娘自慢を外でしているでしょ!
「……妹が可愛いのはわかるけど、映像まで撮って見せびらかすのはねー」
「おい、黒歌。おかしいだろ、それでも白音ちゃんのお姉ちゃんかよ」
「私がおかしい扱いなの!?」
「考えてみろ、あんなに可愛い白音ちゃんの『今』を撮れるのは今この時だけなんだぞ。子どもの成長は早い。目に焼き付けることも大事だけど、鮮明な思い出として記録に残せるのは年上の特権だ。それに、朱雀とかサーゼクス様とかセラフォルー様みたいに、妹マウントを取ってくる相手の対抗手段としても使える。やはり視覚から訴えるって大事だからな、相手と同等の攻撃力がなければ話にならない」
「あんたらはいったい、何と戦っているのよ…」
とりあえず、今度ビデオカメラの使い方でも黒歌に教えてやろう。三人娘で絆を確かめあった後、「私もパパから天使って呼ばれたりしているなぁー」で親バカの娘も参戦し、気づけば四人で女子トークが始まっていた。さらに俺が布教したゲーム知識のおかげで、朱乃ちゃんとイリナちゃんのゲームトークに、白音ちゃんが見事に食いつき、黒歌は人見知りで心配だと思っていた妹が結構ちょろいことが判明して遠い目をしていた。
今更だけど、悪魔・堕天使・教会という少し前まで敵対関係にあった少女達が、こうやって何の隔たりもなく笑顔でおしゃべりができる光景を尊く感じる。それに、リアスちゃんと朱乃ちゃんが形は違えど、こうやって楽しくお話して、友達になれたことが心から嬉しいと思えた。五年前、この光景を目指して戦ったクレーリアさんと正臣さんも嬉しそうで、紫藤さんも眩しそうに目を細めていただろう。
「倉本奏太、私はここまでなので朱乃のことを頼んだぞ。……もっとも、この光景を見れば問題はなさそうに思えるがな」
「わかりました、バラキエルさんもお仕事頑張ってください」
朱乃ちゃんの頭をよしよしした後、仕事に向かったお父さんの背中に向かってブンブンと手を振った朱乃ちゃん。娘さんが心配で少しの時間でも傍にいたいと足を運ぶ辺り、バラキエルさんも立派な親バカである。リアスちゃん達も、最初はバラキエルさんの異名や体格に戸惑っていたみたいだけど、朱乃ちゃんとのやり取りを見て安心したようだ。普段の無表情が顔面崩壊するぐらい崩れるからね、娘の前だと。今回は多少自重していたけど。
「さて、それじゃあ交流も深まったことだし、駒王町の案内を始めましょうか。改めて私がしばらくの間、この駒王町の管理と総括をすることになるクレーリア・ベリアルよ。私も五年ぶりだから、色々抜けているところもあるかもしれないけど、これから一緒に頑張っていきましょうね」
「はい、ご教授のほどよろしくお願い致します」
「ついに噂に聞く、駒王町をこの目で見ることになるのね…。悪魔ですら畏れを抱き、誰もが踏み入れることを恐れた禁断の地。これは、心してかからなくてはならないわね」
「えっ、普通の街だと思うんだけど…?」
「イリナちゃん、いつか駒王町の外へ旅行に行こうね。絶対に『普通』を教えてあげるから」
涙目で娘の肩へ手を置く紫藤さんに、イリナちゃんは何も言えなくてただこくりと頷いた。ある意味で、ここが普通だと思える現地人の子どもが最強なのかもしれない。たぶん、どんな環境で暮らすことになっても、問題なく適合できる気がする。あと、リアスちゃん達は人間界の営みを見るのも楽しみなようで、白音ちゃんにとっては初人間界らしく、黒歌が鼻息の荒い妹を
「まず、ルートとしては駒王町にある裏関係の拠点や土地、普段の生活でよく使うショッピングモールなんかを案内するわね。教会に悪魔は入れないけど場所は把握しておいた方がいいと思うから、案内できる場所は紫藤さんにお任せします」
「わかった。私からは防衛に関することや、この街の取り決めなんかも話しておこう。ちなみにだが、キミたちはこの街がどんなところなのかどれだけ知っているのかな?」
「確か駒王町は、日本で暮らす異能者や異形達の願いを受けて作られた人工的な都市で、悪魔や教会側が日本の神様と契約を交わして、日本の組織に干渉させないことを条件に管理を任された土地だと伺っています」
「うんうん」
「だから、魔法少女や忍者やゴリラやロボットなんかも自生しているって聞きました」
「自生じゃないんだよ、なんか気づいたら集まっていたんだよ!」
床に両手をついて倒れ込む紫藤さんに、あれ、間違っていたのかとオロオロするリアスちゃん。大丈夫、いつもの発作だよ。イリナちゃんが慣れた手つきで、お父さんに胃薬を手渡しているだろう。今後日常風景になるかもしれないから、慣れていこうね。
「あの、魔法少女の方々にはご挨拶した方がよろしいのでしょうか。来年とはいえ、この街の管理者となるなら、顔合わせは必要かと思うのですが」
「一応、ミルたんとカイザーさんには、今日みんなが来ることは伝えているから、後で顔ぐらい出してみる? みんな毎日のパトロールや訓練で忙しいだろうから、ほとんど出払っているかもしれないけど」
「あぁー、それは精神的に助かるかも…」
姉が魔王少女だからか、真面目に挨拶が必要かと意見を言ったソーナちゃんに、俺は伝達していたことを伝えておく。クレーリアさんがホッと息を吐いているので、魔法少女への挨拶は彼女なりに関門だったらしい。ミルたんやカイザーさんの見た目に驚くかもしれないけど、これも駒王町の日常風景の一部だからね。しっかり慣れていってもらおう。
「それじゃあ、それなりに歩くことになるから早速出発しましょう。車とかあれば楽だったんだけど、この人数だからね」
「お構いなく、ゆっくり街を眺めて歩くのもいいと思いますよ」
「ついでにお昼も近いから、ショッピングモールで食事でもとりましょうか。大人数で入れるお店もあったはずだから」
グレイフィアさんが旧校舎に残って紫藤さんに代わって外の警戒に動いてくれるようなので、駒王町探検ツアーのメンバーは、全員で十人になる。悪魔側はクレーリアさん、リアスちゃんにソーナちゃん。さらに黒歌と白音ちゃん。堕天使側は朱乃ちゃんで、教会側は紫藤さんとイリナちゃん。最後に俺と正臣さんとなかなかの大所帯だ。服装も年齢も国際色もバラバラなので、かなり目を引きそうな集団だろう。魔法で多少意識を逸らせると思うけど、はしゃぎ過ぎには注意しないとな。
そんな感じで旧校舎を抜けた俺達は、いざ駒王町へ向かおうと足を前に進めようとして――その足を止めざるを得なかった。何故なら、信じられない光景が、駒王町の空いっぱいに広がっていたからだ。
――空が瞬く。
――光が陰る。
いくつもの影が晴天を駆け抜け、すごい勢いで俺達の下へ集ってくる。それはまさに流星群のようなカーブを描き、いくつもの星が駒王学園に降り注いだ。魔法が使われているのか、キラキラとしたエフェクトが虹やオーロラのような幻想的な光景を生み出し、それと同時にどこからかオーケストラのような壮大な音楽が鳴り響き、まるでこの光景を祝福するかのようだった。
誰もが声を失うしかない。幻想的だけど、完全な怪奇現象である。紫藤さんがお腹を押さえて、膝をつきだしたぞ。そうして驚きで動けなかった俺達の前に、この光景を生み出している者たちが、轟音と共に勇ましく姿を現した。
――丸太だ。大量の丸太が、目の前に降ってくる。その勢いに素でビビる子どもたちだが、俺が知っている彼らなら、周囲が怪我をするような惨事は起こさないだろうという信頼があった。その考えの通り、いくつもの砂埃と衝撃が大地を断続的に揺らしたが、俺達のところに被害は一切届かないように配慮がされている。舞い散る砂さえ、俺達には微妙に届かないようにガードされていた。
いったいどれほどの訓練を重ねてきたのだろうか、この緻密に計算された丸太飛行術と魔法技術は。きっと血が滲むような努力の末に、手に入れたものだったのだろう。砂埃からむくりと立ち上がる大量の影は、俺達を囲い込むように整列しだす。訳が分からなくて、ちょっと涙目になっている子どもたちの背中をよしよしと撫でておいた。あと、クレーリアさんから死んだような目で、「カナくん、ちょっと後でお話ね…」と言われる。ちょっと待って、クレーリアさん。俺だってこのサプライズは知らなかったよ!?
そして、駒王学園の運動場いっぱいに敷き詰められた、総勢数百名の人影。今はお昼休憩とかで、運動場で部活動をしている生徒がいなくて心底ホッとした。丸太によるクレーターでグラウンドがボコボコになってしまったけど、そこは丸太に慣れた駒王町住民。何故か数分で陥没した地面が元に戻る現象も見慣れたものであった。
そして、大量に舞っていた土煙が風で流され、そこから現れたのは――猫耳を生やした巨漢の魔法少女とドラゴンヘッドを被った魔法少女だった。そして、次々と姿を現す国際色どころか、個性溢れすぎる魔法少女達。彼らは
そんなのがズラリと並びたち、一切の乱れを起こさない。そんな中で、懐から可愛らしいマジカルステッキを取り出したリーダーたちに続き、部下たちも手に杖を掲げて天に突き出す。またどこからか流れてきた、魔法少女のお約束で流れてくるような変身シーンのオーケストラバージョンが校庭中に響き渡る。後で、学園のお偉いさんにグレイフィアさんを通して謝っておこうと遠い目になった。
「さぁ、客人達よ。目に焼き付けるがいい、これが 魔 法 少 女 であるッ!!」
『はッ! 『
すげぇ…、最近の魔法少女の変身は二段構えだったのか。知らなかった。つまり、魔法少女の強化フォームってやつなのだろう。そういえば、昔ドラゴン素材とかを適当に横流しした記憶があるなぁ…。ミルキー魔法使いさんと悪魔さん、あとセラフォルー様の本気具合がヤバすぎる。キラキラの衣装がさらに輝き出し、背中から蝶のような妖精の羽が現れたのは、もしかして俺へのリスペクトなのだろうか…。
あと、お前らいつの間にまたそんなに増えていたの? 悪いことをしていた人たちを倒しては吸収したり、行き場のない異種族とか怪人を取り込んだり、コツコツとやっていたのは知っていたけどさ。あれっ、あそこにいる人達って昔、朱璃さんと朱乃ちゃんを襲った術者の人達だな。 堕天使も姫島も関わりたくないで強制魔法少女の刑で制裁し、最終的に放逐されたから拾った彼らも正義の魔法少女として無事に再就職できたんだ。よかった、よかった。うん、もっとよく見たらさらにヤバいのを見つけそうなので、俺はそっと目を逸らしておいた。
「カナたん、明けましておめでとうだみにょ! 駒王町を見て回るなら、ミルキーイエロー達にお任せみにょ!」
「……お迎いに参りました、我らがボス。そして、客人達よ。思う存分、この駒王町を堪能してもらうため、我ら魔法少女一同で送迎を担当させてもらうことになりました」
「そ、送迎ですか…?」
「はい。セラフォルー教官から、妹様のおみ足を疲れさせるなど言語道断! とアドバイスもいただきましたものでして」
「お姉さまぁ…」
ソーナちゃんが崩れ落ちた。気をしっかり持つんだ。姉のおかげで、キミにめっちゃ好意的だぞ、この魔法少女達。
「えっと、送迎ならこんなにいらなくない?」
「その通りです。しかし、ボスの送迎に行くと言うと、皆せめて見送りに行きたいと聞かないものでして。ふふっ、ボスとしての器の大きさが感じられますな!」
『明けましておめでとうございます、ボスッ!! 今年もよろしくお願いしますっ!!』
「あっ、うん。わざわざありがとう。俺こそ、明けましておめでとう…」
嬉しいはずなんだ。嬉しいはずなんだけど、勢いがすごすぎて言葉が出てこない。めっちゃ反応に困る。マジで俺、何でこんなに魔法少女達に好かれているの? スポンサーとして後ろ盾なのは間違いないけど、俺はカイザーさんとミルたんにほぼ組織運営を丸投げしているようなトップだよ。アザゼル先生曰く、居場所を作ってやれるだけでも十分すぎるものって言われたことがあるけど、好意が向きすぎるのも受け止めるのが難しいものである。
「姉さま、今から私たち丸太に乗るんですか! すごいです、初丸太に搭乗です! つまり、
「白音、帰ろう。今すぐ冥界に帰ろう。人間界は私たちには早すぎたのよ。想像を絶する魔境だったのよ、ここはッ!」
「これが日本式の送迎なのね…。これはインパクトがあるわ。グレモリー領の観光名物のアイデアに使えないかしら」
「リアス、あなたのその前向きさは、時々尊敬しそうになるわ…」
悪魔組は概ね好評のようである。一名、「妹が変な影響を受けるー!」って涙目になっているけど、ここまで来たら諦めよう黒歌。白音ちゃんの目を見てみなよ、丸太に釘付けだぞ。もう大興奮だ。白音ちゃんってちょっと感性がズレているところがあるけど、案外何でも楽しめるところは才能だと俺は思うよ。
「奏太くん、至急相棒くんを紫藤さんにっ! このままじゃ紫藤さんの胃がッ!!」
「紫藤さん、しっかりして! ようやく一緒に頑張れるようになったのに、こんなお別れなんて耐えられないわっ!」
「クレーリアさん、正臣さんも落ち着いて。はい、チクッとしますよー」
周りが魔法少女に囲まれているから、他者に見られる心配もないので遠慮なく刺しておきました。この中で一番年長者だから、まだ頑張って紫藤さん。最後まで倒れちゃダメだ! とりあえず、後で『
「……大混乱だね」
「駒王町では、いつもこんな感じだよ?」
「えっ」