えっ、シスコン魔王様とスイッチ姫みたいな力ですか?   作:のんのんびり

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第二百六話 運命

 

 

 

「奏太さんから聖書陣営が和平を行う『正史』について聞いていたけど、まさかその話から一年も経たない内に『停戦協定』が結ばれることになるなんてね。改めて、あなたの行動力には驚かされてばかりよ」

「朱芭さんに原作知識を語ったのが去年の六月頃なんで、確かにまだ一年経っていないんですよね…。あの時はまさか乳神様が、この世界に七年も早くフライングで降臨するとは思っていなかったですし」

「……おっぱいに(まみ)れた『正史』を聞かされてから一ヶ月程度の間隔で、乳神や異世界の邪神の侵略なんて聞かされたのよね、私。本当によく生きていたわ…」

 

 大変遠い目をしながら、朱芭さんにしみじみと呟かれました。当時は非常に心臓に悪いことをして申し訳ありませんでした。でも、あの時俺が乳神様のことを相談できる人は、原作知識を知る朱芭さんしかいなかったのだ。彼女という相談者がいたから、メフィスト様やアザゼル先生に落ち着いて事情を話すこともできた。たぶん、朱芭さんに原作知識を話していなかったら、間違いなく邪神なんてどうしたらいいかわからなくてパニックになっていただろう。最悪、原作知識を保護者に伝えて対策を立てるしかなかったと思う。

 

 朱芭さんが人払いの結界を張り、俺も魔法で防音などの処置をした空間で、師弟揃ってお茶をいただいていた。朱乃ちゃんや朱璃さんは師弟の会話を察して待っていてくれるだろうし、鳶雄は俺がスパルタ修行を受けて泣かされていたのを知っているので、修行部屋(和室)に俺達が籠った時はそっとしておいてくれる。後で「今日もお疲れ様」と癒しのデザートを作ってくれたので、二年半どれだけお世話になったことか…。優しくて聞き上手で気配りもできるし、良い嫁になるなあいつ。男だけど。

 

「イッセーくんがもうすぐ小学六年生になるってことは、原作からまだ五年以上も前なんですよね…。裏世界に入った当初は和平まで十年以上もあるって項垂れましたけど、ここまで時系列が早まると逆に本当によかったのかって気分になってきます」

「早まった分、聖書陣営が馬車馬のごとく働くことになったでしょうからね。あなたのやったことって、『正史』で明るみになるはずだった爆弾を、不発弾の内に緊急処理させたようなものだから。元々大きな世界の流れはあったのでしょうけど、あなたの存在がよりその流れを後押しした。性急ではあったけど、必要な手順は踏んでいたと思うわ」

「俺としては、原作の過去の問題が目の前に降って湧いてきたから、何とか出来る大人たちに丸投げしただけなんですけどね」

「えぇ、普通に性質が悪いと思うわ」

 

 朱芭さんが辛辣すぎる。事実だから反論はしないけど。大人たちは俺を歩く警報装置扱いしてくるけど、俺ではどうしようもない問題が過去に多すぎるのが原因だと思うんだ。原作が始まった時点で、すでに回避不可能な爆弾がありすぎである。俺だって自分で解決できる問題なら迷惑をかけないように処理したいけど、時間をかけるほど後々問題が大きくなるとわかっていたら最速の解決手段を選ぶしかないじゃないか。主に人脈を使った「丸投げ」というカードである。一番確実だし。

 

 そんな俺の行動が積み重なった結果が、聖書陣営の和平の短縮に繋がるとは思わないよ。もちろん俺は和平になればいいなと考えて行動してきたけど、実際にできるかはトップの意向や情勢次第なところがあった。だから俺個人としては、俺のやらかしを大人たちが上手いこと軌道修正して、自分達が望む展開を手繰り寄せたファインプレーなんじゃないかなと思っている。

 

 原作にあったコカビエルが起こした事件のように、悪魔・堕天使・天使が一堂に揃うきっかけさえあれば案外何とかなったんじゃないだろうか。そのきっかけが、今回はたまたま俺と相棒だっただけで。ただこの世界だと、二代目の聖書の神様に至るだろう相棒がいるため、そもそも戦争とか種族とかに興味なしな時点で二回目の大戦は起こらなかっただろうけど。

 

「まぁ、異世界からの侵略が間違いなくとどめだったとは思いますけどね」

「グレートレッド以上の力を持った侵略者が攻めてくるとわかって、同じ世界の神話同士で戦争をしている場合じゃないのは誰だって思い至るでしょうからね。問題はいつ現れるかかしら?」

「少なくとも『666(トライヘキサ)』を何とかした後、すぐに異世界編が始まるとは思えません。正直、『666』を迎撃できないこの世界の戦力じゃ、邪神の先兵ですらキツイと思いますから。異世界編までの段階を踏むなら、もう十巻分ぐらいの尺は必要なはずです」

「……巻数で時系列を考えるのは、あまり参考にならないわね。二十巻分で時系列的に一年経っていないとか、改めて思うけど地獄ですら生易しいレベルのスケジュールよ」

 

 これまではここまで原作に踏み込んだ『先の未来』の話を意図的に俺と朱芭さんは避けていたけど、おそらくこれが最後の相談だと考え、忌憚なく意見を言い合うことになった。だから憶測で話し合うことしかできないけど、一人で『正史の未来』を抱え込むよりもこうして不安を口に出せる環境を優先することにしたのだ。当然、朱芭さんの体調を考慮して肩にはすでに黄色の蝶々が止まっているし、次の蝶々も傍で待機済み。完璧である。

 

「……メタいことを言うと、『ハイスクールD×D』という題名から考えて『兵藤一誠が高校生の間の物語』と捉えることができると思うんです。だから最悪、兵藤一誠が高校を卒業するまでに異世界編が始まってもおかしくないとも考えられるんですよね」

「確かリリンが、異世界に向けて挑発行為を行ったと話してくれたわね。つまり、奏太さんの考察が当たっているなら、『E×E(エヴィー・エトゥルデ)』にこの世界を捕捉された時点で一年以内に侵略が始まる可能性が高い」

「はい、この世界の時系列や情勢は関係なく、『E×E』にこの世界のことがバレた時点で滅亡へのカウントダウンが始まるぐらいの認識でいた方がいいかと」

 

 朱芭さんと話していて思うが、リゼヴィムが本当に余計なことしかしていない件。せめて相手との戦力差を調べてから挑発しようよ、おじいちゃん! 先生達も危機感を持ってくれているけど、とにかく異世界が存在することを絶対にバレちゃいけない。バレて異世界にコンタクトを取られた時点で、この世界に『おっぱいドラゴン』という英雄がまだ誕生していなくても邪神が現れて詰む。だが、逆に考えれば『E×E』に気づかれるまでは邪神の脅威に怯えなくて済むのだ。安心して修行に打ち込み、戦力を強化することができる。

 

「それこそ、イッセーくんやヴァーくんを極限まで鍛え上げて、何だったら子世代編まで持ち込ませれば戦力もだいぶ充実させられますからね。その頃には相棒も聖書の神様の権能を掌握出来ているでしょうし…。アザゼル先生の人工神器の研究も進んで、乳神様から託された『機械生命界(エヴィーズ・サイド)』に対抗するための術式も完成しているかもしれません。侵略までの時間が増えること(インターバル)は、俺達にとって有利に働くことになります」

「いかに異世界のことを外に漏らさず、戦力を増強していくかがこれからの課題になりそうね。あまり大々的に動けないけど、総督さん達に当てはあるの?」

「まず、三大勢力や他神話が和平に向かうことで現れるだろう『敵対勢力』に、有望な若手をぶつけて実戦経験を積ませようと考えているみたいです。若手を潰さないように最大限のフォローをしながら、裏で他勢力とも協力して秘密裏に育てていく感じで。……いずれ異世界の存在を公表するなら、危険思考を持つ者を出来る限り減らしておく必要もあるからだそうです」

 

 若手――つまり、原作で主要メンバーだったテロ対策チーム『D×D(ディーディー)』のみんなが当てはまるだろう。古の大戦を経験していない若い世代を中心に、テロ組織の対策を任せることになる。異世界のことを知るメンバーたちで相談し合った結果、アザゼル先生達は和平による弊害を許容し、その危険を承知で利用する道を選んだのだ。

 

 裏を知る俺達は被害が大きくならないように努め、何も知らない若手たちを戦場へ送り出す。原作では後手に回っていたけど、こちらではその状況を意図的に作り出すのだ。それに思うところがないわけじゃない。間違いなく危険だし、被害だってあるだろう。でも種族間で戦争を行わない以上、この方法以外で実戦経験を積ませるやり方がないのも事実だった。

 

「レーティングゲームで、実戦経験を積ませたらって意見は出しましたが…」

「確かにゲームで戦闘を知ることはできるわね。でもそれは、ゲームを『ゲーム』として戦ってきた者としての強さしか生まない。ゲームをも『戦場』として捉えて戦える、戦いに対しての覚悟の差は実戦でしか培えない。だからあなたも『敵対勢力』……『禍の団(カオス・ブリゲート)』と矛を交えることを選んだのでしょう」

「はい。俺にできる全てで、被害は抑えるつもりですけど」

 

 一度でも実戦を経験しているかは違う。俺も裏の世界に入った当初は、相棒の能力頼りで能天気にコツコツ頑張ればいいやと構えていたけど、はぐれ魔法使いとの戦闘でその甘さを木っ端みじんに砕かれた。あの戦闘があったから、あの悔しさがあったから、強くなりたいと心から思えたのだ。ストイックに無心で修行に打ち込めるサイラオーグさんのような考えが珍しいのであって、たいていのヒトは必要にかられないと尻に火なんて付かないのだから。

 

 それに、今なら『敵対勢力』を生ませないために上から抑えつけることはできるだろうけど、不満はいずれ爆発する。それどころか、異世界との戦いが始まる時に裏切られる方がダメージが大きい。それなら、余裕がある今のうちに潜在的な敵を炙り出して叩く方が理にかなっていた。あと、英雄派のような上層部に認識されていなかった勢力を見つけることもできるだろう。戦闘狂や居場所がなくて所属しているだけなら、交渉次第でこちらで保護できるかもしれない。向上心溢れる戦闘狂とか最高だね、ぜひ仲間になってほしい。

 

「それに、確か乳神は英雄……『おっぱいドラゴン』の誕生を望んでいるのでしょう。発端が『おっぱいドラゴンの歌』を生で聞きたいからという大変頭の痛い理由ですけど、それには正史同様の敵の存在が必要不可欠でしょうから」

「そうなんですよね、乳神様の協力がないとこちらは詰むかもしれない現状ですし。それに『謳』っていうのは、実際に力を持っています。もしかしたら、おっぱいを称えるこの歌こそが、原作で邪神を倒す一手に繋がっている可能性も捨てきれません。乳神様をパワーアップできるとか、イッセーの(ニュー)パワーをレベルアップさせられるとか…」

 

 神器の禁手で『謳』を奏でる身としては、その効力を無視することはできない。朱雀も神様へ『謳』を捧げる行為は、神聖な儀式だと教わっている。内容がおっぱいだからお腹が痛くなるけど、わりと歌って強化するのは理に適っているのだ。教会とかでよく唄われている聖歌や讃美歌も、一種の祈りや信仰と同様の効果を発揮するのだから。

 

 俺個人の思いとしては、原作のようなテロ組織との戦いなんて起こってほしくない気持ちはある。誰も傷ついてほしくないし、命がけの戦いなんてさせたくない。俺だってやりたくないことを、他の誰かに押し付けたくないと思って当然だ。だけど、冷静に今後のことを考えれば、戦闘が避けられないこともわかっている。情勢的に考えて、どうやっても…。

 

「旧魔王派は魔王様達も交渉をしているようですが、彼らの考えが原作のままなら衝突は避けられないでしょう。はぐれ魔法使いは各々の欲望で動いているので、やらかすやつはやらかすでしょうし…。英雄派は原作でもどこに隠れていたのかわからない感じだったので、首魁である曹操を止めない限り人材集めをやめないと思います。こう考えると原作の過去であっても、どうしても止められない大きな流れは変わらずあるように感じますね」

 

 どれだけ目についた問題を解決しても、『禍の団(カオス・ブリゲート)』の発足を止める手立てが足りなさすぎる。それこそ、相手がまだ何もやっていない内に潰すぐらいしか対処法がない。だから、『敵』は現れると想定して動き、対応していくしかないのだ。一応俺は『敵になり得る相手』を原作知識で知っているので、それを念頭に被害を抑えられるようにフォローしていくべきだろう。

 

「でも、奏太さんのおかげで被害の規模はかなり抑えられると思うわ。特に魔法使いと英雄派は」

「俺のおかげですか?」

「正史では裏方だった魔法使いの組織が、全面的な味方としてあなたについているのよ。魔法使いだからこそのネットワークや対処法もあるでしょうし、世界最大規模の人間の組織が睨みを利かせているだけでも相手は動きづらくなると思うわ」

「なるほど…」

「あと英雄派に関しては、……本当に気づいていないの? あなたの思い付きで、根幹からすでに大打撃を与えていると思うけど」

「えっ?」

 

 朱芭さんに呆れたように言われて、俺は首を傾げてしまう。俺、英雄派に何かやらかしたっけ? 特にフラグになるようなことはなかったと思うけど…。

 

「最強の神滅具と名高い『黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)』の所有者、「至高のテクニックタイプ」と称されるほどのずば抜けた天賦の才、敵の戦力と弱点を徹底的に分析して対策を練る用意周到さ。それらも非常に厄介だけど、彼の一番の武器は何だと思う?」

「えーと、戦う才能以外なら…。人を集める才能?」

 

 旧魔王派を倒したイッセー達の前に現れた『禍の団(カオス・ブリゲート)』の第二の勢力である英雄派。彼らは全員が神器所有者という構成で、神器所有者なら禁手して当たり前という概念を植え付けたバーゲンセールの元凶。どこぞの英雄王みたいな慢心でうっかり足元を掬われたり、余計な力に手を伸ばし過ぎて自滅したりした印象は強いが、戦うとするなら普通にヤバい強敵である。

 

 なお、英雄派の敗北シーンの多くは、ほぼほぼおっぱい全盛期のイッセーとリアスさんの(ニュー)パワーの所為なので、一概に彼らの慢心を責めるのは酷だと思っている。余裕でボコボコにしたグレモリー眷属たちが謎の部長のおっぱい召喚で強化されたり、死神と協力して追い詰めたら謎のおっぱいビームで蹴散らされたり、そりゃあこんな酷い経験をしたら超常の力に頼りたくなるよ。おっぱい(超常)の力に負け続けたんだし。

 

 最後ぐらいだよ、おっぱい関係なくぶっ飛ばせたの。それで「元のお前の方が強かった」とか言われても、おっぱいでぶっ飛ばしてきた歴史が英雄派の思考力もぶっ飛ばしたのに、そりゃあないよおっぱいドラゴン。それも作戦だったとしたら、怖ろしい策謀だけど。思考が逸れたが、とりあえず俺の英雄派の印象はそんな感じである。大変厄介な相手だと思っているよ、うん。

 

「えぇ、それこそが彼の怖いところ。時々いるのよ、自然と人を集めて、周りを意図的に動かしてしまう存在が。それが敵として現れる厄介さは、相対するほどわかるものよ」

「曹操って戦闘だけじゃなくて、人心掌握にも長けているもんなぁー。改めて思うけど、本当に人間かと思うほどチート過ぎだろ、あいつ」

「まぁ、中には意図せず周りを動かしてしまう天然もいるけどね」

「へぇー、そういう人もいるんですねー」

 

 えっ、何ですか朱芭さん。何で以前お土産にあげた式神トビーくんをいきなり召喚して、俺のおでこを嘴で突かせに来るんですかっ!? 俺、何か気に障ることを言いましたか! 立ち上がることも億劫だからって、ツッコミの仕方が激しいんですけどッ!?

 

 

「とにかく、その人材を発掘する才能だって、そもそも発掘できる原石がないことには始まらないわ」

「原石って言うと、……あっ」

「そう、どこの組織にも所属していない一般の神器所有者。つまり、神器所有者のための組織を発足して、先んじてあなたが保護しようとしている人達よ。こそこそと集めるしかなかった彼らと違って、あなたの場合は大組織の後ろ盾もあるから堂々と集められる。まず間違いなく、正史で彼らの仲間になっていた大多数はあなたの作る組織に流れていくでしょうね」

 

 言われてみれば確かに。英雄派の構成員は小説やテレビを見た限りでも、若い人達が多かった。年配の人達ほど他の組織に見つかって監視されているか、神器に覚醒することなく平凡な人生を送ったか、最悪亡くなっている可能性が高い。だから、未発見の神器所有者は情緒が激しく揺れる十代あたりから発見されやすい。曹操の具体的な年齢はわからないけど、たぶん原作では大学生ぐらいだったと思うから、今は中学生か高校生ってところか。つまり、まだ仲間集めをするほどの余裕もないはずだ。今なら、俺の方が先手を打てる。

 

「もしかしなくても、英雄派弱体化案件?」

「もしかしなくても、そうなるでしょうね。彼らは数を揃えながら、質を高める方法を取っていた。その数が揃わないとなれば、彼らの戦法もだいぶ制限されることになるわ」

 

 マジか、意図せず英雄派に大打撃を与えていたのか…。あれ、これ曹操に恨まれないか俺。恨まれなくても、自分と同じようなことをしていることに関心を持たれないか。 しかも、『黄昏の聖槍』と『暁紅の聖槍』という対を思わせるような名前の神滅具も持っているのだ。自分が聖槍に選ばれた意味を探している、って描写だってあったしな。俺は絶対に会いたくないけど。

 

 彼は「異形は人間の敵であり、人間の手で討たなければならない」という考えだったけど、それだって俺とは真逆だ。俺はどっちかというと「人間だからこそ、異形と手を繋げる」と思っている。人間は弱いけど、どの異形の間にも立てる唯一の種族だ。漫画とかだって、異形と戦う人間の構図は多いけど、同じように異形と手を取り合う構図も多いだろう。ただ、俺も博愛主義者ではないので誰とでも手を繋げようとは思わないけど、仲良くなれるかもしれないのならその可能性を潰したくないだけだ。

 

「となると実質、明確な敵になりそうな派閥は旧魔王派ぐらい?」

「異世界のことを隠し通せば、リリンが動かないと仮定するならね。だけど、一番重要なのはオーフィスがどう動くかによるわ。あと、無限の力を欲していた冥府の王の関与や、ネビロス家という暗躍する組織のことも考慮すれば、油断は一切できないと思いなさい」

「うっ、はい…。でも、本当に異世界のことさえバレなかったら、リゼヴィムは動かないと朱芭さんは思いますか?」

「……わからないわ。奏太さんから聞いたリリンの行動や思考は、一貫性がなさすぎるもの。とにかく周りに「悪意」を無差別に振りまく悪魔(自分)、という存在に酔っている子どもってイメージね。だからこそ、なおさら性質が悪いのでしょうけど」

 

 さすが朱芭さん、超越者相手にすら容赦ないお言葉である。しかし、なるほど。悪意を振りまく自分に酔っている、か。だから悪意のぶつけ先があったら、嬉々として自分の存在を誇示するように主張する。わざわざ『クリフォト』と名乗って主人公たちの前に立ったのも、こそこそ隠れているのは自分の「悪」というイメージから外れていると感じたからなんだろう。魔王は堂々としてこそ! って思っていそうだ。

 

 でも、だからこそリゼヴィムの動きは本当に予想できない。正直「みんなが和平をして仲良しこよししているのを見て、面白そうだから『悪』として引っ掻き回しに来ました!」とか言われても、リゼヴィム(こいつ)ならやりかねないと思ってしまうからだ。あいつのやる気スイッチがもうちょっと明確なら、こっちも変に悩まされずに済むのになぁ…。

 

「これは、私なりの懸念なのだけど…。リリンは魔王の息子で、本来なら次代の魔王になる存在だったでしょう」

「えっ、はい。順当にいけば、そうですね」

「でも彼はその椅子を蹴って、冥界を出奔した。それは彼なりに目指す『魔王』というイメージにそぐわないと考えたからだと思うの。父のような偉大な魔王になるためには、父親の後釜となるだけでは足りなかった。彼が欲したのは、その力を使って蹂躙できる真っ新な居場所。だけど、もしかしたらもう一つ、欲していたものがあったのかもしれない」

「リゼヴィムが欲していたもの?」

「『敵』よ。厳密に言えば、魔王の対となる神の存在。お互いに滅ぼし合うまで憎み合った存在同士(絶対の敵対者)。だけど、彼にはそれがいなかった。神と魔王は互いに討ち死にし、神には自分と対となる後継者がいなかった。それがより、リリンが魔王をやる気力を削いでしまったと考えられない?」

 

 原作でのリゼヴィムが何故、毎回兵藤一誠達に絡んでいっていたのか。それが世界の英雄となっていた彼の存在を見て、疑似的な魔王(自分)の敵対者を作り上げるためだとしたら? だから、あれほどイッセーの逆鱗に触れることをやり続け、許せない悪としての自分を印象付けようとした。ただ単に目についたから甚振ろうと考えた可能性もあるけど、意識して悪意を彼らにぶつけていたのは間違いないだろう。

 

 あれ、ちょっと待てよ? もし、リゼヴィムが父のような魔王になりたいと考え、その生き方を真似たいと思っていたら…。自分(魔王の後継者)の対となるに相応しい絶対の敵対者(神の後継者)がいないから、萎えてしまった部分が少しでもあったのなら……。思わず引きつってしまった口元のまま、俺は恐る恐る朱芭さんの方へ視線を向けた。

 

「聖書の神様の後継者である相棒の存在が、リゼヴィムのやる気スイッチを押してしまうかもしれない…?」

「私もできればあってほしくない想像だと思っているわ。もちろん、何も起こらない可能性も十分にある。でも、リリンと敵対する警戒は常に持っておいた方がいいと思うわ。もし彼が動いた時、その標的になる可能性が高いのは奏太さんと相棒さんでしょうから」

 

 朱芭さん自身もあってほしくないと心底感じる声音で、悩まし気な表情を浮かべている。俺と相棒も「うへぇ…」と感じた気持ちを隠すことができなかった。普段から他者に無関心な相棒をここまで嫌がらせるとは、さすがは魔王の息子である。そんな因縁、全く望んでいないけど。

 

 しかしそう考えると、念のためと考えていた例の計画は本格的に実行に移しておいた方がいいのかもしれない。もしものための備えのつもりだったけど、やっておくに越したことはないだろう。俺は意を決して顔を上げ、真剣な表情で朱芭さんを見つめ返した。

 

 

「朱芭さん、お願いがあります。今後のためにも、どうしても一緒に考えてほしいことがあるんです」

「あなたが真剣な悩みを相談する時は、たいていお腹に直撃する内容だと経験則でわかっています。相棒さん、ケアの方はよろしくね。私は今から精神統一をするための術式を展開するから」

 

 フッと一息で術を発動させた朱芭さんの迷いのない様子と、相棒の任せろと気合いを入れる思念に、俺は遠い目でしみじみと天井を見つめる。弟子に対する信頼というか、俺の扱いが本当にさぁ…。いや、こうして話を聞いてくれるだけでも嬉しいですけど。

 

「それで、今度は何をやらかすつもりなの」

「イッセーくんの中のドライグが目覚めた瞬間に、原作同様におっぱいで『うへへへ、おっぱい、たのちーなぁ』に達するレベルの精神的負荷を与える方法を一緒に考えてください!」

「……ふふっ、私も共犯になれということね。まさか寿命間近のおばあちゃんに、雲の上のような存在である二天龍の精神を崩壊させるための片棒を担がせるお願いをするなんてね…」

 

 さらぁー…と消えた黄色の蝶々だったが、傍にいた蝶々がすぐにフォローに回る連係プレイで、朱芭さんの健康をしっかり維持してくれた。朱芭さんの目から光が消えかかっていたけど、大丈夫ですよね…?

 

「奏太さん、ドラゴンに何か嫌なことでもあったの?」

「えっ、ありませんけど。むしろ好きですよ? でも、世界の平和のためには開き直るしかない時もあるかなって」

「これまでたくさんの人の魂を見てきたけど、人間ってここまで純真なまま人の心を無くせるものなのね…」

 

 ごくりとお茶を静かに飲み干した朱芭さんは、呼吸を整えるとキリっと表情を入れ替えた。過去に鳶雄のために、世界を敵に回す覚悟を決めたおばあちゃんである。何だかんだで相談に乗ってくれる朱芭さんには本当に感謝しています。

 

「つまり、奏太さんが望むのは聖書の神が施した『二天龍の封印』を解く鍵という訳ね。確かに目覚めた瞬間におっぱい(理不尽な理由)で精神崩壊を起こす生涯のライバル(赤龍帝)なんて見せられたら、いがみ合っている場合じゃないと白龍皇も歩み寄る姿勢を見せる可能性が高いわ。あまりにも可哀想すぎて…」

「重要なのは、ドライグには一切非がないことをアルビオンに見せつけることだと思うんです。それには最初からクライマックスなのが確実です。原作では、ドライグが目覚めた状態でイッセーが『おっぱいドラゴン』になったから、「二天龍としての誇りを傷つけた」とアルビオンはドライグも怒りの対象に含めて『赤龍帝被害者の会』を発足してしまいました。だからこちらでは、そんな誤解が生じないようにドライグではどうしようもなかった、彼はただのおっぱい被害者だっただけなのだと印象付ける必要があるんです」

「おっぱい被害者…」

 

 そもそもの話、聖書の神様が封じた能力を開放するキーワードを「二天龍の和解」にしたのが悪い。これがなければ、もっと優しくケアをしながらドライグをおっぱいに沈めたさ。彼がおっぱいに沈むのは、乳神様の神託で確定事項になっているので遅いか早いかの違いでしかないし…。神様としては最もありえないと考えたからこそ「和解」を選んだのだろうけど。

 

「原作の展開的にも、今のイッセーくんの状況を考えても、ドライグとおっぱいは切っても切り離せない運命です。彼が二天龍としてのプライドから、おっぱいにもがき苦しむのは決定事項でしょう」

「……そうね、『おっぱいドラゴン』になることがすでに決定事項な時点で彼の運命は決まっているわ」

「それなら、さっさと沼に堕とすのも優しさかなって。苦痛は長引かせるより、一瞬の方がいい時もありますし。能力の封印さえ解ければ、あとはリハビリに力を入れるだけでいいんですから。原作みたいにテロ組織と戦闘しながらカウンセリングを受けるより、今の余裕がある内なら治療に専念だってできます」

 

 俺だって、主人公の相棒だったドライグが苦しむ姿を見続けるのは辛い。だからこその早期決着であり、有能異能である『透過』を早期に発現してもらうために必要なことなのだ。アルビオンに心からの同情心を湧かせて、ドライグに自ら歩み寄ってもらうためには、いかに白龍皇に不自然さを感じさせずに、計画的に赤龍帝と会わせるかが重要なのである。

 

「朱芭さんが懸念していた、リゼヴィムに対する原作で唯一の有効打ですからね。もしかしたら相棒の『概念消滅』でも似たようなことができるかもしれませんけど、ぶっつけ本番でしか効果は試せません。それなら、確実に効く手札を一つでも多く持っておくべきでしょう」

「術や特殊な防御法をすり抜け、力をダイレクトに与える能力。リリンの持つ『神器無効化』の干渉を受けない力。神器の枠を飛び越えられると考えれば、改めて二天龍の持つ力の出鱈目さを感じるわね」

 

 あとアルビオンが本来持っていた『反射』の異能も解放されるので、ヴァーくんの戦力も同時にアップされる。それに原作同様の展開が起きるかわからない現状、パワーアップできるフラグはさっさと回収しておくに限るだろう。朱芭さんは難しい顔で腕を組み、俺が述べるメリットと天秤にかけた結果、深々と息を吐きだしていた。深い深い溜め息だった。

 

「リリンの悪意は、鳶雄にも降りかかるかもしれないものね…。わかったわ」

「朱芭さん…」

「やるなら確かに初撃で沈めるべきね。ドラゴン同士はドラゴンゲートで繋がれることを考慮すれば、白龍皇が慌てて精神世界へ赤龍帝を助けに行くレベルの『出会い』が必要でしょう。死に体の赤龍帝の精神を、二天龍としての情熱で復帰させる展開がいいと思うわ」

「なるほど。それなら赤龍帝の力に目覚めて、最初に『倍加』する対象をおっぱいにするとかですかね。おっぱいビームを初っ端で見せたらどうでしょう?」

「そうなるとスイッチ姫が必要になるけど…。次点でおっぱい技に『倍加』をかけて、敵を倒す展開も候補にあげられるわね」

「それだと、イッセーくんにおっぱい技の開発をどんどん進めさせておく必要がありそうですね…。そもそも、悪魔に転生していないイッセーくんだと攻撃に転じるのは難しいか。それならいっそのこと、戦闘とか関係なくおっぱい教祖としての頂点を極めさせたらどうでしょう。おっぱいを日常で極めていたら、ついでに赤龍帝に目覚めたシチュエーションの方がダメージが深刻になりそうじゃないですか?」

「……悪夢ね、それは」

 

 こうして、ご飯ができたと知らせに来てくれた朱乃ちゃんの声がかかるまで、朱芭さんと大変有意義な相談ができたのであった。

 

 




 目安の1万字を越えちゃったので、次話ももうちょい続きます。朱芭さんしか相談できる相手がいないから、老体に鞭打ってもらうしかない現状に申し訳なさでいっぱいである(´・ω・`)
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