えっ、シスコン魔王様とスイッチ姫みたいな力ですか?   作:のんのんびり

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第二百七話 幸せ

 

 

 

「まずは三人とも、陵空(りょうくう)高校の合格おめでとう! 今日は腕によりをかけて料理を作ったんだぜ、朱乃ちゃんと朱璃さんがっ!」

「なんで作っていない先輩が、そんなに自慢げなんですか…」

「炊飯器からご飯をよそったり、味噌汁に刻みネギを入れたり、お皿や調味料を並べたりするぐらいはしたぞ」

「それで自慢げにできる倉本先輩が逆にすげぇよ…」

 

 笑顔でサムズアップすると、鳶雄と佐々木からバシッとツッコミが入った件。うん、後輩たちの仲が良くて何よりである。東城からは乾いた笑みを浮かべられたけど。去年俺が中学校を卒業した時に、一緒にお祝いをしてくれた後輩達。神器症の治療などで忙しくて、おそらく卒業式当日はお祝いにいけないと思うので、少し早いが合格祝いと一緒に卒業祝いも兼ねることになったのだ。

 

 ずらりと幾瀬家の食卓に並ぶのは、朱璃さんと朱乃ちゃんの自信作である和食シリーズ。朱芭さんが食べやすいように、そして健康にも配慮された食事のレパートリーはさすがである。今回のお祝いの席は、後輩三人組と俺と朱芭さんと姫島親子の七人なので、なかなかの量が並べられている。これなら、食べ盛りの子どもばかりでも問題なさそうだ。

 

「でも、本当に遠いところからお祝いのためにわざわざありがとうございます、倉本先輩。向こうの学校とかは大丈夫なんですか?」

「去年はこっちが祝ってもらったんだし、お互い様だよ。向こうは必要な単位はしっかり取っているし、レポートも出しているから大丈夫。言語学がちょっと危なかったけど、友達に手伝ってもらって何とか乗り切れたし…」

「はぁ…、さすがは外国の学校ですね。日本より自由度はありそうですけど、大変そうです…」

 

 東城にぺこりと頭を下げられ、俺は気にするなと笑っておいた。『変革者(イノベーター)』として、十四番目の神滅具の所有者として、今後は表へ出ていくのに赤点を取って補習や追試を受けているのはさすがに遠慮したい。忙しさはあるがせっかく学校に通っているので、そこはしっかり学ばせてもらっていますよ。勉強ができないボスとか、格好悪いし…。

 

「俺のことより、お前らはどうなんだよ。高校デビューとかは、考えていたりするのか?」

「ふふふっ、よくぞ聞いてくれました。先輩、陵空高校ってわりと髪型とかに寛容っぽいんですよね。だから俺、高校に入ったらちょっとイメチェンしようかなと思っているんです。オールバックっていうか、ソフトモヒカンっていう感じの髪型にして、爽やかなスポーツマンみたいな雰囲気を出したいんですよね…」

「お前、なんかスポーツとかやっていたっけ?」

「だから、爽やかでスポーツをしていそうな雰囲気を出すためにやるんですって。その方がモテそうじゃないですか」

 

 キランと歯を見せる佐々木に、先輩として生暖かい視線を浮かべておいた。そうか、頑張れよ後輩。モテるための努力の方向性が違うような気もするが、頑張りが報われるといいな。実際に良いやつなのは、俺がよく知っているよ。多少の残念さも含めて。

 

「うーん、俺は特に高校デビューとかは考えていませんでしたね…」

「私も…。ねぇ、鳶雄。その、私の今の髪型ってどうかな…? 高校生になるんだし、雰囲気とかもうちょっと変えた方がいいと思う?」

「えっ、紗枝はそのままでも十分に可愛いと思うけど」

「かっ、かわッ――!?」

 

 高校デビューについて考えていたからか、東城の質問に素でさらっと答えた鳶雄。こいつ、無自覚か。顔を真っ赤にして「と、鳶雄が言うなら、変えなくてもいっか…。えへへ」とハーフアップにした髪を、嬉しそうに指で弄る東城。この幼馴染コンビも相変わらずのようである。微笑ましいんだけど、こっちも生暖かくなるな。あと、泣くな佐々木。お前の良さを分かってくれる彼女はきっとできるから、なっ?

 

 

「はいはい、話したいことはたくさんあるでしょうけど、せっかく朱璃さんと朱乃ちゃんが作ってくれた料理が冷めてしまうわ」

「あっ、そうですね。すみません」

「ふふっ、それでは手を合わせていただきましょうか」

 

 『いただきます!』と全員が手を合わせ、各自大皿に盛りつけられたおかずへと手を伸ばしていった。朱璃さんの作った肉じゃがは大人気で、男子組の腹の中へとどんどん納まっていく。朱乃ちゃんの雷光味噌汁は、まろやかな風味の中にほのかな聖なる力が宿っているありがたい味噌汁にレベルアップしていた。わりと真面目に悪魔の友達に出す時は注意してね、と後で伝えておこう。隠し味が本気を出し過ぎである、おいしいけど。

 

「えっ、鳶雄のご両親が日本に帰って来るのか?」

「はい、俺の卒業式と高校の入学式を見るために休みを取ってくれたみたいなんです。仕事で忙しいのに、ちょっと申し訳ない気分だけど…」

「何を言っているの。日頃から仕事ばかりしているのだから、親として子どもの晴れ姿ぐらい見に来るのは当然です」

 

 これから行われる後輩たちの卒業式について話していたら、気になる話に思わず疑問が口に出てしまった。鳶雄の両親が近い内に日本へ帰国するらしい。理由は非常に納得できるもので、確かに息子の晴れ姿を見るためなら仕事の都合ぐらいつけるだろう。年に一回ぐらい幾瀬家に帰ってきているらしいので、朱乃ちゃんや朱璃さんは顔見知りのようだけど、俺は会ったことがないんだよな。大変忙しい人達のようだ。

 

「確か幾瀬の両親って、海外の企業で働いているんだっけ?」

「うん、長期休暇ぐらいしか会えないけど良い人たちだよ。元々鳶雄もご両親と一緒に海外へ行く予定だったけど、日本での暮らしの方がいいのと、何よりも朱芭さんを一人にしたくないって日本に残った経緯だったかな」

「さすがは幾瀬。おばあちゃん子の名に恥じないな…」

 

 佐々木と東城の会話に、俺はふと思案する。ご両親の仕事の様子から考えても、定期的に日本へ帰って来るのは難しかっただろう。そうなれば、親しい親戚がいない状況で高齢である朱芭さんを一人日本に残していくのは、鳶雄の両親も心配になって当然だ。だから、息子が一人日本へ残ることに賛成したのだと思う。それに、朱芭さんなら厳しくも愛を持って育て上げる信頼もあっただろうし、慣れない海外生活を子どもに強いたくもなかったのだろう。

 

 あと、朱芭さんが裏の事情から離れていたのなら、おそらくご両親も一般人である可能性が高い。さすがに鳶雄の神滅具のことや姫島の事情ぐらいは聞いているかもしれないけど、万が一を考えて対処できる朱芭さんに託したという線もあるだろう。今は朱璃さんや朱乃ちゃんという親戚ができたけど、色々複雑な事情が幾瀬家にあったのだろうなと想像できる。

 

「あの、朱璃さん。もしかして、鳶雄の両親がこの時期に帰って来るのって…」

「……えぇ、奏太くんの想像通りよ。鳶雄くんのこともあるでしょうけど、朱芭叔母様自身がお二人の帰国を強く促したのが一番の理由でもあるわ」

 

 おそらくこの中で唯一事情を把握しているだろう朱璃さんに小声で懸念を話すと、やはりかと俺は納得した。むしろ、当然といえば当然だろう。自身の死後をいくら親戚とはいえ朱璃さんに任せっぱなしに出来るわけがない。それに、最後に息子さんや義娘さんに会いたいと思う気持ちだってあるだろう。朱芭さんがいなくなった後、鳶雄がこのまま日本に残るのか話し合う必要だってあるのだから。

 

 これから、幾瀬家のみんなが揃う。それに心からホッと息を吐いた。姫島を追放されたことで孤独になってしまった彼女が愛する人と出会い、家庭を作り、その血を分けた家族と一緒に最後の時を穏やかに過ごせるのならよかったと思ったのだ。俺は両親が帰って来ることにどこか嬉しそうな鳶雄と、優し気に目を細める朱芭さんを見つめながら、食事を再開しようと箸を進めた。

 

「はい、祖母ちゃん。あと欲しいものとかはある?」

「そうね、じゃあそこの大根を取ってもらってもいいかしら。ありがとうね、鳶雄。でも、あなたのための会なんだから、ちゃんと食べないとダメよ?」

「わかっている、ちゃんと食べてるから。あっ、朱乃ちゃん。よかったら俺がついでによそうよ、お皿ちょうだい。……ん、紗枝、よかったらお茶を()ぐけどいる?」

「ありがとうございます、鳶雄兄さま」

「ありがとう、鳶雄。お願いしてもいい?」

 

 そう言いながら、菜箸でひょいひょいと手際よくおかずを取って振り分けるブラウニー。横目で東城の飲み物が少なくなったことを察知して、お茶のボトルをささっと傾ける。これを自然体でやれるあたり、相変わらずの女子力の高さである。なんか幾瀬家にお邪魔するたびに、気配り度が上がっていないか? 朱芭さんが隣で「立派になって…」と涙ぐんでいるけど、それでいいんですかおばあちゃん。確かに、どこに出しても恥ずかしくない嫁レベルですけど。

 

「そうだ、先輩。よかったらこのふりかけを使ってみてください。今日先輩が来るって聞いて、先輩が好きそうなものをブレンドしてちょっと作ってみたんですよ」

「えっ、俺のため? あ、ありがとう。……マジで好みの味でおいしい」

「日本まで来てくれたお礼です。俺には料理(これ)ぐらいでしか返せませんから。気に入ってくれたのなら、ぜひ持って帰って使ってください」

「……俺、お前が男で心底よかったと思うわ」

 

 俺の好みの味付けを完璧にマスターしていやがる、一瞬クラっと来たぞ危ねぇな…。マジで協会に持って帰って今後も食べたい味だ。しっかり使わせてもらいます。もし鳶雄が女性だったら姫島の美人血筋も受け継いでいるんだし、逆ハーレムも夢じゃなかっただろうスペックである。むしろ、東城や朱雀や朱乃ちゃんや朱璃さんに挟まれて、百合百合している世界もありだったんじゃないだろうか……?

 

 いかん、後輩が嫁過ぎて思考が明後日に飛んでしまった。これ以上は危険だ、気を付けよう。

 

「そうだそうだ。合格祝いに俺は来たんだから、もらってばかりだといけないな。今度は俺からプレゼントを渡すよ」

「待ってました! それで先輩は何をくれるんですか!?」

「焦んなって、やっぱり渡すなら喜んでもらえるものがいいかと思ってさ。まずは鳶雄には海外の色々な調味料一式な。東城には前に好きだって聞いた日本語版小説の原書で、佐々木には前にやってみたいって言っていた、日本だと入手が難しい海外で人気のゲームソフトだ」

「……自分で待ってました! って言ってなんだけど、マジで本格的なお祝いの品が来ちゃったよ…」

「えっ、先輩。これ高くなかったですか…? だ、大丈夫ですか?」

 

 俺が持ってきた品々にちょっと引かれた。いやだって、相棒に後輩たちとの記憶を掘り起こしてもらって、そこからリーバンとデュリオに相談に乗ってもらった結果、これなら間違いなし! って太鼓判を押してもらったものなんだけどな…。俺からしたらそこまで大した値段じゃなかったんだけど、高校生基準だと大金になっちゃうか。じゃあ、ここはさらっと流しておくとしよう。

 

「日本じゃ高いかもしれないけど、向こうならお手軽で手に入るものだから気にしなくていいぞ。ほら、俺がお世話になっているところが海外の大企業だって前に話したじゃん。そのおかげで、安く手に入る伝手が色々あったんだ」

「それなら、安心しましたけど…。えっと、ありがとうございます。色々試せそうで嬉しいです」

「私も原書は一度読んで見たかったので、嬉しいです。ありがとうございました」

「ありがとうございます! さっそく、遊んでみます!」

「おう、それならよかったよ」

 

 せっかくのお祝いならと思って探したので、喜んでもらって何より。本当は学習道具とか電子辞書とかもどうかと思ったが、被ったら申し訳ないし、あまりに高価すぎると委縮するかと色々悩んだんだよな。もし裏側の人間が相手なら、遠慮なく散財できるから魔道具とか高価な品々をポンッとプレゼントできたんだけど。俺の場合、なかなか散財出来る機会がないからなぁー。

 

 仕方がない、今度の瓢鯰(ひょうねん)師匠へのお土産でいっぱい散財(発散)して経済を回すとするか。そんなことを考えながら、後輩達へのお祝いの会は賑やかに過ぎていったのであった。

 

 

 

――――――

 

 

 

「鳶雄は東城を家まで送って、そのまま朱璃さん達を駅まで送ってくるそうです」

「あらあら、奏太さんは?」

「俺は鳶雄が帰ってきたら、ちゃんと家に帰りますよ」

 

 みんなでわいわいと食べ終わった食器を片付けた頃には、外はすっかり暗くなってしまっていた。男の佐々木は別にいいけど、女性陣だけで夜道を歩かせるのはまずいと鳶雄が付き添うことに決めたのだ。俺は家まで近いし、朱芭さんが一人にならないように見ているからいってこいと背中を押してきた。男の俺は多少帰りが遅くなるぐらい問題ないしな。どうせ魔方陣の転移で安全に帰れるんだし。

 

「朱芭さん、ちゃんと休んでくださいね。春嵐らしい肌寒さもまだありますし、無理をしたら絶対にダメですよ」

「えぇ、わかっているわ」

「あと、そうですね――」

 

 朱芭さんはリビングのソファーに座り、俺は残っている片づけをてきぱきと済ませていた。先ほどまで賑わっていたテーブルを布巾で拭き、楽しかった時間が終わったことを静かになった幾瀬家を眺めて改めて感じる。朱芭さんと何でもない世間話をしながら、取り留めのない会話をしばらく続けていたけど、どこかポッカリと穴が空いたように感じる寂しさがなくなることはなかった。

 

「…………」

 

 俺がこの家に足を踏み入れて、もう三年近く経ったんだよなぁ…。中学二年生に上がって、後輩の入学式でまさか幾瀬鳶雄と出会うとは思っていなくて。そこから鳶雄の友達になった佐々木の先輩としてお邪魔して、狗や神器症の治療について話し合っていくうちに、朱芭さんから仏教に関する魂の秘術を教えてもらえることになって……。本当にたくさんお世話になったな。

 

『はい、それでは早速基礎からやっていきましょう。まずは大乗仏教の代表的な仏典の七つを暗唱できるぐらいはやってもらいましょうか』

『えっ、七つも…?』

『「律蔵」「経蔵」「論蔵」の理念を学ぶ上で必要不可欠だからよ。さっ、時間は有限なのだから、キビキビやりなさい』

 

 あまりのスパルタ修行に何度も泣かされてきた日々。涙の数というなら、堕天使やドラゴンに虐められてきた日々に負けない濃密さだった。その度に、鳶雄に呆れられながら餌付けされてきた日々。

 

『うーん、あとこの世界の今後について話し合っておくべきことは…。リゼヴィム対策は色々考えたから、オーフィス対策も一応考えておいた方がいいですかね』

『「無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)」を相手に私たちができること…。リゼヴィム以上に隔絶した力の差がある相手だけど、対策なんて立てられるのかしら』

『とりあえず、初手バナナは固いですね。チョコバーは常に携帯しておきます』

『意味が分からない』

 

 俺のやらかしで何度も胃痛治療をしてきた日々。姫島との関係について悩んできた日々。俺の前世について受け入れてくれて、今後の未来について何度も話し合えた日々。裏の世界とか、『変革者(イノベーター)』とか関係なく、ただの倉本奏太という一人の人間として笑い合うことができた日々…。

 

『朱芭さん、朱璃さん、鳶雄。火加減はこんなもんですか』

『えぇ、いいと思うわ。鳶雄、こっちの野菜を炒めておいてくれるかしら』

『了解、まかせて。あっ、朱乃ちゃん、そこにある塩胡椒を取ってくれる?』

『はーい、どうぞ鳶雄兄さま! わぁ…、良い匂い』

『今日は彩り野菜と豚のソテーよ。あと、せっかくだから新じゃが芋と玉ねぎを使ったポタージュ(ヴィシソワーズ)も作っちゃいましょうか』

『やった、大好物』

『私も!』

『ふふっ、じゃあ朱乃。奏太くんと一緒にお皿を並べておいてくれる? もうすぐみんなで楽しい食卓を囲めると思うから』

 

 幾瀬家でいただいた、心からホッとする気持ちがこもった料理の数々。すごく美味しくて、思わず何回もおかわりをお願いした。食事って人間にとって大事な資本だし、生きるための大切な活力の元だからな。賑やかで、笑顔が絶えなかった温かな食卓。それが、本当に楽しかった。

 

 鳶雄がいて、東城がいて、佐々木がいて、朱璃さんや朱乃ちゃんがいて、時々姉が飯をたかりに乱入してきて、そして朱芭さんがいてくれた。それらのかけがえのない日々が、溢れるように頭の中を駆け巡っていく。当たり前のようにずっと続いていくとそう思えた、……俺にとって大切な日常だった時間。

 

 

 だけど、それも今日が最後なんだ。

 

 

「――覚悟、していたはず…なのになぁ」

 

 ポタッと布巾で拭いていたはずのテーブルに落ちた雫に、俺は唇を噛みしめる。布巾を握る指が震え、自分でも抑えきれない思いが止まらなかった。この家を出たら、もう終わりなのだ。ずっと前からわかっていた刻限だからこそ、最後のその時まで、しつこくしがみ付いてでも離したくなかった。彼女の思いを受け継いで、後悔がない様に毎日を過ごしたとちゃんと思っているのに…。

 

 もっとたくさん教えてほしかった。もっとたくさん話がしたかった。もっとたくさん、みんなで食卓を囲みたかった。美味しいお茶の入れ方を伝授してもらえたように、もっとたくさん朱芭さんの技を知りたかった。もっと、もっと傍にいてほしかった。

 

「……奏太さん」

「すみ、ません…。少ししたら…、落ち着きます」

「いいのよ、こっちに来なさい」

「でも――」

「何度も泣かせてきたんだから、あなたの泣き顔なんて今更気にしません。ほら、意地を張っていないでさっさと来なさい」

 

 俺の様子に気づいた朱芭さんは仕方がなさそうに微笑むと、招くようにポンポンと自身の隣を手で叩いた。本当に最後まで心配をかける弟子で申し訳ありません。俺は傍にあったティッシュで目元を拭うと、そのまま朱芭さんが座るソファーの隣におずおずと腰掛ける。ちょっと目元が赤くなっているので羞恥から目元を腕で隠そうとする前に、朱芭さんの小さな細い腕によってそっと俺の頭ごと彼女の肩へ引き寄せられた。

 

「これなら、私には見えないでしょう?」

「……これはこれで恥ずかしいのですが」

「あら、今更私に対して恥ずかしいことなんてあるの? 仮にも女性の私に、冷静になればなるほどお腹が痛くなるおっぱい談義を散々真顔でやってきたのに」

「えっ、おっぱいはこの世界において奇跡を起こす超越的な概念なので、語る上では特に…」

「……おっぱいへの信頼感がすごいわね」

「まぁ、相棒の次ぐらいには…?」

 

 相棒は不動のトップとして。おっぱい、あとは魔法少女とかシスコンっていった理不尽の権化が並んでいますからね、俺の脳内では。マジで勝てる気がしませんよ、この三種の性癖(じんぎ)に。まぁ、でもちょっと落ち着いた。静けさが淋しさを生んでしまったようで、感傷的な気持ちが強くなってしまったようだ。朱芭さんの小さな肩から感じる命の鼓動が、俺に安心感を与えてくれた。

 

「俺、やっぱり精神的に打たれ弱いですよね…」

「そうね、でも人間らしくていいじゃない。あなたはまだまだ子どもで、護ってくれる大人がちゃんといてくれるのだから、いずれ強くなっていけばいいの。あなたの感じているその他者を悼む気持ちを忘れなければ大丈夫よ」

「……強くなるって、難しい」

「何事も経験を経て糧となり、人は成長していくわ。だから、格好悪くても、失敗してもいいの。だけど、あなたは私が認めたたった一人の弟子なんだから、しっかり精進していきなさいね」

「さすが朱芭さん。やっぱり手厳しいや」

 

 優しく俺の頭をポンポンとあやす温かさと真っ直ぐな言葉。大きく深く深呼吸をし、朱芭さんの着物に縋りつきそうになる手をグッと押しとどめる。甘えさせてくれた心地よさを、背中を力強く押してくれた勇気を、弔う喪失感に負けない強さを糧に、ちゃんと前へ進めるように。朱芭さんの中に残る俺が情けないままで終わらないように――精一杯生き足掻こう。

 

 

「……ありがとうございます。もう大丈夫です」

「えぇ、そうみたいね」

 

 ゆっくりと朱芭さんの肩に預けていた頭を上げ、袖で頬についていた跡を拭きとり、精一杯の笑顔を見せてみせた。くしゃくしゃの格好悪い笑顔だっただろうけど、それでも真っ直ぐに朱芭さんを見て笑えたと思う。それに朱芭さんも安心したように肩の力を抜いて微笑み返してくれた。

 

 俺はもう一度心を落ち着けるように呼吸を深くした後、改めて朱芭さんと向き合う。俺が朱芭さんにできる最後の恩返し。なかなか覚悟が決まらなくて上手く切り出すことができなかったけど、今なら言えると思う。今日のアザゼル先生との検診で、告げられた鳶雄の今後についての話を。

 

「朱芭さん、鳶雄の今後についてお話があります」

「鳶雄の…?」

「はい、鳶雄が二十歳になったら真実を話すって決めた朱芭さんとの約束。本来神滅具持ちは、その危険性から組織の監視と庇護を受けるものです。だけど、アザゼル先生から『狗』の一匹ぐらいなら、俺の我が儘で手元に置いてもいいって言われました」

 

 朱芭さんは俺の話に僅かに目を見開いたが、すぐに思案気に口元へ手を当てる。原作同様に『神の子を見張る者(グリゴリ)』に入るのか、あるいは俺が創る予定の神器所有者のための新組織に入るのか、はたまた全く違う組織に入るのか、それは情勢を鑑みながら鳶雄が決めることだろう。だけど、俺の存在が少しでもあいつの助けになるのなら。朱芭さんが願う『鳶雄の幸せ』に貢献できるのなら、俺は『狗』の楔になろう。

 

「俺は鳶雄が裏の世界に足を踏み入れる時、あいつの後ろ盾になりたいと思っています。鳶雄が望むだろう『平穏』を、朱芭さんが望む『鳶雄の幸せ』を、俺なら叶えられるかもしれないから」

「私が望む、鳶雄の幸せ…」

「もちろん、『狗』を宿す以上避けられない戦いはあると思います。『禍の団(カオス・ブリゲート)』や『E×E(エヴィー・エトゥルデ)』のような敵と相対する可能性だってあるでしょう。だけど、あいつが無茶をしないように、あいつが少しでも平穏な日常を歩めるように…。俺なら、その我が儘を通せるだけの『力』があるから」

 

 幾瀬鳶雄が宿す『狗』――『黒刃の狗神(ケイニス・リュカオン)』は、あのアザゼル先生でも曰くがあるからと躊躇を覚えた神滅具の一つだ。「狼男の真祖」であり、楽園「アルカディア」の邪悪な王としてギリシャ神話の主神ゼウスと敵対した存在が封じられた神器。二天龍の神滅具が宿す、歴代の所有者による呪いのような残留思念と同等ぐらいの危険性があり、内側から所有者を蝕んで身体を乗っ取ろうとする全てを斬り刻む刃の具現。それこそが、幾瀬鳶雄に封じられている血と闘争の根源だ。

 

 本来なら避けられない運命。原作で凄腕のエージェントとなっていた幾瀬鳶雄さんは、リュカオンの支配を乗り越え、神滅具を御すことができたのだろう。だけど同時に、きっと多くのものを失い、絶望して、苦しい想いを何度もしてきたのだと思う。それだけの犠牲を積み重ねなくちゃ、至ることができない領域こそが、原作の彼の姿なのだ。

 

 だからこそ思う。そんな綱渡りをしてまで、多くの犠牲を鳶雄に強いてまで、彼を至らせる必要なんてどこにあるんだって。俺が色々やらかした所為で、原作との差異はかなり激しくなっている。この世界の幾瀬鳶雄が、原作の幾瀬鳶雄さんと同じようにリュカオンを御せるかはわからない。もし失敗したら、幾瀬鳶雄という人間はこの世から消えてなくなり、世界に仇を成す『狗神』が代わりに降臨する。世界の敵を増やすことに繋がりかねないのだ。

 

 その危険性を考えれば、むしろそっとしておくのも一つの手段だと思っている。鳶雄の分も、似たような能力を持つ『概念消滅』の俺が頑張ればいいんだしな。あいつの禁手の封印は俺が預かっているんだし、鳶雄が平穏を望む限り封印を解く必要だってない。相棒が聖書の神様の権能を掌握していけば、リュカオンを封じる手立てだって見つかるかもしれないんだから。

 

「いっその事、鳶雄には料理担当になってもらうのも手ですね。毎日仕事に疲れて帰って来る俺に、食事を作ってもらうんです。神器のワンコは、モフモフの癒し要因だからマスコットとしてよし。昼は好きな料理の勉強でもして、なんなら駒王町でクレーリアさん達と一緒に喫茶店を開くのもアリかなと思いますね」

「……それは、確かに素敵ね」

「俺の知り合いのヒト達や駒王町の住民、おっぱい教のみんなや魔法少女達も鳶雄に胃袋を掴まれること間違いなし! 食事のお礼として、最強の護衛がついてくれるかもしれません。これで安全性も確保できますね!」

「……確かに、最恐の布陣ね」

「はい、朱芭さんの願いは俺が受け継いでみせます」

 

 胸に手を当て、恩師に向けて堂々と告げる。朱芭さんは鳶雄が歩むことになるだろう運命をいつも憂いていた。それに俺だって、優しくて気配り上手な後輩が血生臭い道を歩む必要なんてないと思っている。あいつの手は他者を傷つけるためのものじゃない。美味しい料理を作ったり、誰かを助けたりできる喜びをつくり出すことのできる手だ。あいつの幸せは、みんなと協力して俺が護ってみせる。

 

「……私の願い」

「えっと、はい。朱芭さんが望むのは『鳶雄の幸せ』ですよね。だから、あいつが苦しい想いをしないように、俺にできることをやろうかと」

「そうね、確かに鳶雄が傷つかないで欲しいと私は願っている。その想いに嘘はないわ。だけど――」

 

 どうしたんだろ、俺は何かおかしなことを言っているだろうか。前に背負い込み過ぎないでほしい、と朱芭さんに言われたから、俺の負担を心配してくれているのかな。俺としては、後輩の幸せは俺自身も望んでいることなので、それぐらいの労力は割いてもいいと思っている。俺も朱芭さんも願いは一緒なんだから。

 

「……ごめんなさい、何でもないわ。奏太さんは十分に考えてくれたんですもの。私の願いも含めて、これ以上ないほどに…。だから、最後に決めるのは――鳶雄(あの子)自身だわ」

「朱芭さん…?」

「奏太さん、どうかあの子のことをお願いします。別の意味で大変な苦労をすることになるでしょうけど、鳶雄なら乗り越えていけると信じます。奏太さんは無自覚でやらかすから注意をしても仕方がないかもしれませんが、鳶雄をあんまり振り回しすぎないであげてね」

「鳶雄の意思は尊重するつもりですけど…。というか、苦労は確定なんですね」

「だって、奏太さんですもの」

 

 俺と関わる時点で苦労することが確定される件。確かに当たり前のように胃薬がお菓子感覚で置かれている日常を俺含め、周囲のみなさんも送っておりますが…。うーん、鳶雄が俺の保護下に入るなら、むしろ同僚の魔法少女達(劇薬)と最初に邂逅させて耐性をつけさせちゃうのもアリといえばアリか? 裏の世界の理不尽さを最初に知っておくのは重要だし、あのヴァーくんだって世界の広さを実感していたしな。魔法少女を受け入れられたら、わりとどんな種族や出来事でも許容できる心の広さを養えると思うんだ。実体験だし…。

 

「ところで今更だけど、あなたの保護者の方々は私が仏教陣営の方々へ情報を持って逝くことを知っているのよね?」

「えっと、一応…。ラヴィニア達が知っていることぐらいはって感じですかね。朱芭さんが俺のことや相棒が御子神であること、聖書陣営の和平のことぐらいは知っているだろうって認識だと思います。禁手に至るために必要だった魂の修行をやってもらっていたんですし…。それで仏教陣営がこっちのことに興味を持ってくれたら万々歳かなってぐらい? 上手く繋がりを持てたら、ラッキーぐらいの認識だと思います」

「……つまり、『正史』含め、とんでもない爆弾を仏教陣営の方々に放り込むことは認識されていないわけね。仕方がないけど、本当に全方位へやらかしをまき散らすことになるわね…」

 

 えっと、朱芭さんならうまいこと閻魔大王様やお釈迦様たちを説得してくれると信じています! この世界でも最大勢力の一つである仏教陣営を仲間にできたら、かなり目標に近づけますからね。神様達も朱芭さんから知った情報があまりにも核爆弾すぎて、どこにも漏らせないと思いますし。きっと世界平和のために、俺より頭の良いすごい方々がもっといい方法を考えてくれるはずです! たぶんっ!

 

 

「さて、もう時間ね。改めてありがとう、奏太さん。そして、もう傍で支えられなくてごめんなさいね」

「……いいえ。もう十分、朱芭さんに支えられました。背中を押してもらえました。だから今度は俺がみんなを支えて、背中を押せるように頑張る番です。あなたから受け継いだものは、ちゃんと(ここ)にありますから」

 

 ふと玄関先に感じ慣れた気配を感知し、この時間が終わることを悟る。俺はソファーからゆっくり立ち上がると、相棒の能力で泣いた跡をしっかり消しておく。大丈夫、ちゃんと無理せず笑えている。別れはいつだって辛いし、慣れないけど……最後は笑顔で終わるってずっと前から決めていたから。

 

「朱芭さん、本当にありがとうございました。あなたの弟子になれて、心から嬉しかったです」

「私もよ。お腹が痛くなることもたくさんあったけど、こうして弟子を送り出せることを誇りに思います。鳶雄の格好いい先輩として、しっかり気張っていきなさいね」

「ははっ、激励として受け取っておきます」

 

 彼女の手厳しさは、いつだって俺を思い遣ってのこと。この世界で生きる上で、必要な強さをいつだって教えてくれた。幾瀬朱芭の弟子としての矜持は、俺の柱としてずっと残り続ける。

 

「さようなら、朱芭さん」

「さようなら、奏太さん。……一隅(いちぐう)を照らすあなたの道に幸多からんことを」

「……はい」

 

 お互いに、さようならは笑顔で。家に帰って来た鳶雄に挨拶をし、入れ違うように俺は幾瀬家から足を踏み出した。

 

 

 

――――――

 

 

 

「ただいま、祖母ちゃん。……どうかしたの?」

「いいえ、少し目が乾いちゃっただけよ。いやね、年を取ると緩くなっちゃって」

 

 先輩や友達、姫島家のみんながいた先ほどまでの賑やかさなど嘘のように、静けさを感じる二人だけの空間。その寂寞さが、不思議と心に感傷的な気持ちを感じさせる。ほんの三年前までは、幼馴染である東城紗枝が来る時以外、これが当たり前だったはずなのに。いつの間にか先輩がいて、姫島家の人達がいて、それに祖母が生き生きと笑っている日常が当たり前になっていた。

 

 幾瀬鳶雄を慈しみ、ずっと優しく時に厳しく育ててくれた大好きな家族。だけど、倉本奏太先輩と関わってから、これまで見たことのなかったたくさんの顔を知ることができた。祖母からは祖父との幸せな生活ばかりを聞いていた。それが、実は「姫島家」という名家の出身で、しかも駆け落ち同然で愛を貫いたことに驚かされた。さらに姫島朱璃さんや朱乃ちゃん、朱雀といった親戚がいることを知り、祖母と紗枝だけだと思っていた自分の周りには、こんなにも人がいたのかと実感した。

 

「先輩、またしばらくは忙しくなるみたいだね。それなのに、わざわざお祝いのために帰って来てくれて嬉しかったよ。せっかく珍しい調味料をもらったんだし、新しい味付けに挑戦してみようかな」

「そうね、次に――あなたが奏太さんに会えたら、しっかりお礼を言ったらいいわ。……ねぇ、鳶雄」

「何?」

「奏太さんは、昔から猪突猛進というか、これと決めたら梃子でも動かない頑固さがあるわ。ついでにやらかすこともね。それに振り回されることもあるでしょうけど、自分を強くもって頑張るのよ」

「えっ、俺が巻き込まれることは決定なの? まぁ、先輩が来てから本当に色々あったけど」

 

 いつの間にか祖母から念仏を教わり、般若心経を涙目になりながら覚えていた先輩。中学生特有の黒歴史的な感じかと最初は思っていたが、趣味の範囲を越えた熱心ぶりに自分も絆され、何だかんだで食事やデザートを用意して応援していた。祖母のスパルタぶりに引いたのもいい思い出だ。先輩が中学校を卒業してからの半年間なんて、平日はほぼ毎日入りびたっていたので、三人で食卓を囲むのも当たり前になってしまっていた。

 

「鳶雄、どうか忘れないでほしいの」

「祖母ちゃん…?」

「私はあなたの幸せをいつまでも願っているわ。あなたが健やかに、傷つかないで済む未来があるのなら、私はそれを望んでしまう。そうなって欲しいと願う心に嘘はつけないから」

 

 朱芭は戸惑う孫の黒髪を優しく撫で、真っ直ぐに目を合わせる。祖母の言葉の真意は、今の鳶雄には全く分からない。それでも、この言葉は忘れてはいけないものだと強く心が叫んだ。朱芭が望む鳶雄の幸せ。祖母の言うとおり、自分が傷つかないで済む未来があるのなら、そちらを選ぶのは当然ではないだろうか。誰だって、傷だらけになるとわかっている道を選びたいとは思わない。

 

 それなのに、ドクンと心臓の奥が、――魂が震えるような小さな予感を感じた。いずれ自分の目の前に現れるだろう二つの道。これまで鳶雄は、朱芭の言うことを何でも聞いてきた。だって彼女が、鳶雄に間違った道を教えるわけがないという信頼があったから。祖母が示した指針が、今の鳶雄を形づくったのだから。

 

「だけどね、それは私が望む『鳶雄の幸せ』。だから、もしあなた自身が選んで見つけた『自分自身の幸せ』があるのなら、お祖母ちゃんの願いなんて無視して自らの足で未来を切り開いてみせなさい」

「俺自身が選んだ幸せ」

「鳶雄は私の自慢の孫ですもの、ちゃんと選べるわ。でも、私の鳶雄への願いは生半可な覚悟では折れないでしょうから、すごく頑張らないと難しいかもしれないけどね」

「えぇ―…」

「ふふっ」

 

 時々見せるS気の感じる微笑みを浮かべる朱芭に、鳶雄は口元を引き結んでしまう。大切な祖母の願いを無視してまで、生半可では崩せない壁にわざわざ自分からぶつかる必要性が、果たして本当に訪れることになるのか。それはわからないが、不思議とストンと鳶雄の中に一つの道として形づいた。それを確認した朱芭は、自分の望みとは反した選択を孫へ与えたことに目を伏せる。

 

 自分の意思を継いでくれた、たった一人の愛弟子。彼が鳶雄に向ける目が、後輩を思う先輩としての気持ちだけでなく、奥底に朱芭への恩義のためもあるのだとわかっていた。邪神との戦いに備えて、幼い弟分たちを戦場へ送り出す覚悟は決めたのに、鳶雄だけはせめて護ろうとする矛盾。その矛盾を理解しながら、それでも彼は朱芭と約束した『鳶雄の傍にいる』ための未来を作ろうとするだろう。

 

 朱芭から奏太を説き伏せるのは無理だ、何故なら彼の願いは自分自身の願いでもあるから。邪神との戦いを考えれば、それは仮初の平和なのかもしれない。だけど、もし異世界との戦いをもっとずっと先に送れるのなら、鳶雄が人として終われる可能性だってある。大切な人を失うことなく、好きな料理をたくさんの人に振舞って、笑って過ごすことができる――そんな幸せな理想を。

 

 だからこそ、そんな朱芭が望む『幸せ』とは違うかたちを選べる可能性があるとすれば、それは幾瀬鳶雄本人だけだと思った。鳶雄自身が決めた選択だけが、きっと頑なな愛弟子の心に声を届けることができる。そう、確信できたから。

 

 裏の世界のことも、姫島のことも、鳶雄に宿る『狗』のことも、何も伝えることなく逝くことを許してほしい。それは少しでも平穏な日常を孫に与えたいと願った、朱芭自身の我が儘。それでもこれだけは、自慢の子どもたちが『対等に』手を取り合って未来を進めるようにしたい。

 

「弟子である奏太さんに、色々無茶を言っちゃったから。だから鳶雄、奏太さんのことよろしくね」

「えー、まぁ…うん。わかった。先輩はどこか抜けているところがあるから、祖母ちゃんが心配するのもわかるし。後輩として、祖母ちゃんの孫として頑張るよ」

「えぇ…、安心したわ」

 

 さっ、そろそろ就寝の準備を始めましょう、と鳶雄の髪を撫でていた手を朱芭は胸の前で合わせる。ソファーから立ち上がり、ゆったりとした足取りで歩を進める祖母に慌てて付き添うように鳶雄は寄り添った。どこか自分の記憶よりも、さらに小さくなったように感じた家族の身体を労わる様に。

 

 春嵐が過ぎ、冬の終わりが幾瀬家に訪れるのはもうすぐのことだった。

 

 

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