えっ、シスコン魔王様とスイッチ姫みたいな力ですか?   作:のんのんびり

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第二百十二話 誠意

 

 

 

『お前さ、本当に気づいたら何かやらかしているよな。玄奘三蔵法師(げんじょうさんぞうほうし)が直々に説法に来るって何をやらかしたんだよ』

「いやぁー、ちょっと冥途を機能停止にしちゃったみたいで」

『マジで何をやらかしたんだッ!?』

 

 あっ、通信先のアザゼル先生が本気で引いてる…。同じ部屋にいるメフィスト様も遠い目で天井を見つめていた。さらに魔方陣の通信で繋がっている、魔王様達とミカエル様もドン引きしているのがわかった。聖書陣営のトップが全員集合というとんでもない空間に、人間が一人いるんだから普通はこっちの肩身が狭くなるはずなのになぁ…。不思議である。

 

 三蔵法師様が火車特急便で地獄へ向かった後にメフィスト様へ連絡をしたら、至急協会へ帰って来るように要請されたのだ。そして理事長室へ足を踏み入れると、豪華メンバーがすでに勢ぞろいしていた。聖書陣営からしたら、中立的な立場である仏教陣営と繋がれる絶好のチャンスである。彼らを味方にできたのか、気になって当然だろう。

 

 メフィスト様から仏教陣営襲来の話を聞き、停戦協定の調整で多忙な皆さまが慌てて時間を作って、俺と三蔵法師様の会話が終わるのをジッと待っていたほどである。仏教陣営は朱芭さん経由で俺のことを知った関係上、聖書陣営が下手に出しゃばるより俺が間に入って関係を取り持つ方がいいと判断されたらしい。何だかんだで信頼してくれているのは嬉しいものである。

 

「カナくん、玄奘三蔵法師殿がキミとの対話を望んでいたから僕は静観をしたけど、大丈夫だったのかい」

「そこは大丈夫でしたよ。十王様達も怒っていないって言ってくれましたし」

「冥途を機能停止にして、直接説法までしに来たのに?」

「状況を考えれば理解はできるからと。あと三蔵法師様曰く、俺のこれまでのやらかしがひど過ぎるから、説法ついでにさっさと情報を共有したかったそうです」

『あぁー…』

 

 あの、全員で声を揃えて納得するのはやめてくださいよ。突然の三蔵法師様の襲来を、俺のやらかしが原因でまとめられてしまうのはおかしくないですか? 保護者の皆さまには原作知識のことが言えないから、少し誤魔化す必要はあったんだけど、だいたいなんか理解できたって空気感が漂ってしまっている。ありがたいんだけど、色々な意味で複雑だよ。

 

 

『そうか、思えば俺の場合はカナタのやらかしを六年ぐらい見てきたから高い耐性があったもんなぁ…』

「僕とアザゼルは相棒くんが二本で済んだからねぇ」

 

 保護者の中で俺が真っ先に異世界のことを暴露した時のことを話しているのか、しみじみとした口調でメフィスト様とアザゼル先生は懐かし気にお腹を触り合っていた。

 

『私達はアジュカやセラフォルーを経由できたし、事前にネビロス家の発掘の対応もしていたから少しぐらいは耐性がついていたね。フェニックスの涙で常に体調も整えることができたから、一人あたり平均四、五本で済んでいたはずだよ』

『皇帝のストライキの対処や後始末なんかもあったし、近年は本当に慌ただしかったよね…』

 

 サーゼクス様が視線を遠くの方へ向け、当時の記憶を呼び起こしながらお腹を押さえていた。ファルビウム様はすでに疲れたようにテーブルへ突っ伏している。魔王様達にとっては、悪魔側の問題が次々と放り込まれたようなもんだからね。原作が悪魔側メインのシナリオだったこともあって、余計に騒動の種には事欠かなかった。

 

 特に仕事嫌いのファルビウム様が疲れるって、冥界的にはよっぽどのことらしい。サーゼクス様は魔王の象徴にして表側の政治を担当し、セラフォルー様は外交関係、アジュカ様が技術関係、そして冥界の軍師として縁の下の力持ちであるファルビウム様は裏側で基本活動している。彼の眷属は内政に強い者達で固められていたため、魔王として必要な仕事以外がこれまで彼に回って来ることはほとんどなかったそうだ。

 

 それがここ近年は、眷属たちですらオーバーフロー状態で働きづめらしい。裏方として冥界を支える必要がある以上、中途半端な仕事はできない。原作では影が薄いけど、冥界の秩序は彼とその眷属達の頑張りで保っているらしい。えっと、いつも丸投げしかできなくてすみませんでした…。

 

『うんうん、私も魔法少女達の顧問役で忙しかったもんなぁー』

『あぁ、俺も実体験型闇鍋恋愛シミュレーションゲームの作成に手間取ったものだ』

 

 二名ほど別の意味で忙しかったようだけど、仕事100%は身体を壊す原因だからね。趣味はほどほどに楽しんでおくものである。ファルビウム様の恨めしそうな目は見なかったことにした。

 

『私達の時は、蝶をどれだけ消費したのか記憶が…』

「百匹はいかなかった記憶がありますよ」

『……ずっと黄色の蝶がひらひらしていましたからね』

 

 過去に不意打ちで会談をすることになったミカエル様は、口元を手で覆って肩を震わせていた。えっ、当時を思い出して泣いていないですよね。大丈夫ですか? 神器症の治療で禁手の腕は上がっているので、今の相棒なら二百回ぐらい胃痛を治せますよ。相棒は日々進化していますからね。

 

「天界陣営を巻き込んだ時は、取説も医療薬もフェニックスの涙も相棒くんもある万全な態勢で挑んだからねぇ。そう考えると、仏教陣営には大変悪いことをしてしまったよ。冥途を一時とはいえ機能停止にしてしまう威力だなんて、カナくんショックを僕らは過小評価してしまっていたらしい」

『だな。俺らは耐性がついていたし、天界の時はミカエルだから別にいいだろと思っていたが、さすがに世界の為とはいえ他陣営にいきなりカナタを放り込むのはまずかったか…』

 

 沈痛な面持ちで、言いたい放題言う大人達。違うんです、冥途の機能を停止させた大きな理由は原作知識という名のおっぱいなんですっ! 俺のやらかしだけで、冥途をノックアウトした訳じゃないんだよッ!? でも、『正史』のことを話せないため俺は真実を口にできない。なんということだ、おっぱいの所為でひどい風評被害である。おのれ、ラスボスはやはりおっぱいだったか…。

 

 

「それでカナくん、玄奘三蔵法師殿とはどこまで話をしたんだい」

「あっ、はい。説法が終わった後、とりあえず相棒のことや、異世界のこと、邪神の侵略を防ぐために神話同士で力を合わせないといけないことなどは話しておきました。証拠に俺の中にある乳神様の痕跡も見てもらったので、信じてもらえたと思います」

 

 冥途の混乱は後日しっかり謝罪することにし、話を切り替えることになった。緊急だったとはいえ、こうして為政者が全員揃う機会は少ない。時間も多くはないため、話し合えることはさっさと進めるべきだろう。三蔵法師様含め、十王様達は異世界どころか未来の知識まで知ってしまっているが、事前に打ち合わせはしてあるので、俺から異世界のことを話したということにしておいた。

 

 本来なら言葉だけでは信じられないような内容だけど、俺の中には乳神様の加護が封じられている。少なくとも今のこの世界の技術では、異世界の術式を解析することすら難しい。どこの神話体系にも属さない、明らかに技術レベルが桁違いだとわかる異端の術式。だからこそ、異世界を示す証拠としてこれ以上のものはなかった。メフィスト様も俺から事情を話したことに関しては、頷くだけだった。

 

「今は停戦協定の混乱や危険因子の炙り出しを行っている時期だろうから、仏教陣営が表だって同盟を結ぶのはまだ先で、しばらくは裏でやり取りをしたいそうです。その役目として、三蔵法師様とそのお弟子さん達を交渉につけてくれるみたいです」

『なっ、玄奘三蔵法師殿だけでなく、まさか初代殿達も…!?』

「はい、三蔵法師様だけだとその……色々忙しいみたいでして。三蔵法師様のお弟子様達なら実力も申し分ないですし、(しがらみ)も少ないため動かしやすいだろうと」

 

 サーゼクス様の驚きの声に合わせ、保護者達の目は驚きに見開かれている。これは先ほど三蔵法師様と話し合って決めたことだが、初代様達も存分に巻き込むことにしたのだ。もちろん、原作知識のことは十王様と三蔵法師様だけで対処するが、異世界のことに関しては信頼できる者になら話しておいた方がいい。それに三蔵法師様は、原作知識の対処や俺の相談役、さらにおっぱいカウンセラーの仕事と大変多忙である。

 

 

『えっ、初代様達に仏教陣営側の異世界対策を任せるんですか?』

『はい、『正史』やおっぱい関連は私個人でしか動けません。さすがに聖書陣営とのやり取りや世界の調停、異世界のことなどを私一人で背負うのは無理です。それなら、困っている師を助けるのは弟子の役目というものでしょう』

 

 ニッコリと微笑みながら、弟子を遠慮なく奈落の底へ引きずり込むお師匠様。上司がおっぱいで大変ですものね。確かに三蔵法師様の過労を考えたら、妥当な人選である。特に初代孫悟空(そんごくう)である闘戦勝仏(とうせんしょうぶつ)様は、原作でもかなりの実力者だったし、「クリフォト」の台頭後は『D×D』のサブリーダーとしても活躍してくれた。英雄派のゲオルグを片手間であしらっていた姿は、今でもよく覚えている。

 

 また俺の原作知識にはないけど、初代猪八戒(ちょはっかい)こと浄壇使者(じょうだんししゃ)様と、初代沙悟浄(さごじょう)こと金身羅漢(こんしんらかん)様にも協力を要請してくれるようだ。二人ともすでに老いてしまって、荒事には関わらずのんびりと余生を食っちゃ寝して楽しんでいるみたいだけど、師匠命令は絶対らしい。お師匠様を過労気味にした所為ですみません…。

 

「なので、基本聖書陣営とやり取りを行うのは初代様達になるだろうと思います。有事の際は手助けもできますし、もし有望な人材がいるなら鍛えてももらえるかもしれません。異世界への対抗手段として、戦力の増強への協力は惜しまないとのことです」

『そうか、仏教陣営(あそこ)がそこまで手を貸してくれるならありがたい。本格的な関わりは和平後になるだろうから、それまでに原石を見つけておかないとな。ヴァーリはめちゃくちゃ喜びそうだが』

 

 そうだね、ヴァーくんからしたら強者と戦えるチャンスが向こうから来てくれて、しかも修行までつけてくれるんだもんな。原作でも初代様に修行をつけてもらっていたし、幼少期から関わるメリットは大きそうだ。それに、もしかしたら初代様経由で末裔(まつえい)美猴(びこう)とも関わりができるかもしれない。同年代だし、切磋琢磨する相手として原作同様に友達になれたらいいな。

 

 あといずれ須弥山の帝釈天(たいしゃくてん)様にも話を通すことになるだろうから、須弥山(そこ)の強者とも関わりができるかもしれないし、原作の初期みたいに強さに退屈するということはなさそうだ。周りが強者だらけとか、ヴァーくん的には天国なのかもしれない。絵的には、非常にむさ苦しいことになりそうだけど。

 

「聖書陣営の準備と炙り出しが終わる頃に、仏教陣営側から繋がりのある神話に異世界のことについて事情を話してくれるそうです。その対策本部として、表向き聖書陣営の和平を利用できるように同盟を組んでいけばどうかと」

「仏教陣営が渡りを付けられる勢力というと、古くから関わりがあるインド神話と、神仏習合で関わりがある日本神話ってところかねぇ」

『日本神話の皆さんとは何度か交渉をさせてもらったことはあるんだけど、インド神話とはほぼ不干渉だったから助かっちゃうわね☆ でも、仏教陣営とインド神話って因縁も多いって聞くけど…。私達の方でも交渉に必要なものがあるなら、融通できるように準備はしておいた方がいいかもね』

 

 インド神話との因縁というのも、帝釈天(たいしゃくてん)様が関わっているものが多いらしい。十王様達って、言い方は悪いけどワーカーホリック気味というか、仕事第一の真面目な神様って感じだもんなぁー。たとえおっぱい後遺症で発作が起こっても、休まず裁判をやり続ける根性はすごいと思う。そのしわ寄せが三蔵法師様の過労にも繋がっているけど。裁判を遅らせてしまうよりはいいのかもしれないけど、冥途の仕事環境が大変心配である。機能停止させた俺が言うのもアレだけど。

 

 冥界の外交官であるセラフォルー様の意見に同意するように、そちらの方面の交渉の仕方も今後仏教陣営と相談して決めていくようだ。日本神話との交渉も、仏教陣営を交えて行う方がスムーズとのことだ。十王様は人間のための神様として、中立の立場を常に守ってきた方々である。そんな彼らが動くほどの事態だとわかれば、それだけ緊急を要するってことだかららしい。

 

『そうですね…。心苦しいですが、聖書陣営(我々)より仏教陣営側から他神話に働きかけてもらえる方がいいかもしれません』

『自業自得とはいえ、嫌われているもんな俺達』

 

 ミカエル様が沈痛な表情で告げると、それに同意するようにアザゼル先生も肩を竦めた。昔の宗教戦争だったり、信者の奪い合いだったり、大戦を起こしてしまったりと色々と衝突の多かった聖書陣営。当時は強大な力を持つ聖書の神様が幅を利かせ、あのリゼヴィムが目標にしている魔王も健在だった時代だ。それぞれの思いや正義はあっただろうけど、強引に事を進めたこともあったのだろう。

 

「他神話に色々迷惑をかけてしまったってことですよね」

「そうだねぇ、当時を生きていた僕から見ても魔王は周りの被害を考えないヤツだったし、聖書の神は他神話の神を全否定していたからね。当然衝突も多かったさ」

『しかし、戦争の原因だった神も魔王も死に、生き残った私達は種の存続を考えなくてはならなくなった。そして今の時代、多くの人間が神話の存在に頼ることなく、自分達の足で生きていけるようになった。人間の願いを叶えて魂を奪う存在だった悪魔が、今では魂の代わりに物品を要求することが増えたみたいにね』

 

 いつしか時代は移り変わり、神話主体だった世界が人間主体の世界へと変わった。魔王様達は、為政者の中で唯一大戦時代を知らない世代だ。魔王が死んだ後も旧魔王時代のやり方を変えず、いたずらに命を奪う旧政府のやり方に反対して今の政府が出来上がった。問題だらけの冥界を立て直すために『悪魔の駒(イーヴィル・ピース)』を使って体制の立て直しに成功はしたが、それによる反発が起こっていることもわかっていた。

 

 それでも、進まなければ生き残る道はない。未だに悪魔は旧政府からの改革の途中なのだ。これまでをなかったことにはできない以上、今後に向けて改善を進めていくしかない現状である。一応、停戦協定を結んだこともあって、『悪魔の駒』に関する新たなルールを設けたり、転生悪魔に配慮した政策を打ち出したりして一歩ずつ『共存』への道を進めているらしい。

 

『人間がいるからこそ、神話は成立する。昔の聖書陣営は自分達の正義(目的)のことしか考えていなかった。そのツケは払わなくちゃならねぇ。若いやつにも苦労をかけることになって悪いが、今回の異世界への対策で少しでも聖書陣営は他神話へ誠意を見せる必要がある。色々と行動で示していくしかないだろうな』

 

 原作の和平で、一番に輪を取り持つことに注視したのがアザゼル先生だ。積極的に技術の提供を行い、総督自ら舵を取って改革を進めていた。あれは彼なりの贖罪の仕方もあったのかもしれない。アザゼル先生の意見に賛同するように力強く頷く為政者の皆さん。彼らなりに新しく踏み出そうと模索しているのだと感じられた。

 

 

「……あっ、一個言い忘れてた」

『えっ?』

 

 俺がポンッと手を打つと、ビクッとする保護者の皆さま。三蔵法師様と話し合っていて、懸念点となったとある勢力のことである。聖書陣営とは昔から因縁がある相手だ、考えとして伝えてはおくべきだろう。

 

「あと地獄の盟主繋がりで、ギリシア神話のハーデス様とも繋げられるらしいですよ?」

『――――』

 

 すげぇ、覚悟を決めて燃えていた空間が一気に氷点下となった。格好よく台詞を決めていた先生も見事に固まっている。メフィスト様も「あぁー…」と声が小さく漏れているので、あえて考えないようにしていたのかもしれない。そんなに溝が深いんですか、ハーデス様とは。

 

「えっと、ギリシア神話ともいずれ協力関係を結ぶことになるんですよね」

『それは、そうなんだがなぁ…』

「やっぱり、難しいんですか?」

『難しいというか、いずれ必要になることはわかっているんだが、あぁー…。向こうが俺達を嫌っている理由は理解できる。だが、執拗なまでに嫌がらせをネチネチと受け続けたこっちとしては、(しゃく)(さわ)る部分もあるってだけでな…』

 

 ガシガシと黒髪を掻くと、硬直を解いたアザゼル先生は深く溜め息を吐いた。自分達がハーデス様に嫌われているのはわかっているし、向こうの心情も理解はできるが、だからってむざむざと嫌がらせを受け続ける訳にもいかない。相手は全勢力でもトップ10に入るとされる、ギリシア陣営最強の神様だ。政治的にも戦力的にも下手に触れることができない相手である。

 

 聖書陣営としてはギリシア陣営との関係を悪化させたくない気持ちもあって無視を決め込んでいるが、ハーデス様は遠慮なくちょっかいをかけてくる。嫌いならお互いに関わらず、無視し合えばいいのだがそれも難しい。そんな感じで関与の疑いはあっても決定的な証拠は出ず、フラストレーションは溜まる一方。聖書陣営の為政者全員が苦い顔をしているあたり、煮え湯を飲まされた経験が何度かあるのだろう。うーん、やはり聖書陣営とハーデス様の根は深そうである。

 

 だけど、このままだと原作みたいに聖書陣営と敵対することになるかもしれない。原作のハーデス様って、聖書陣営が嫌いだから嫌がらせ目的にちょっかいをかけ続けていたら、そのままズルズルとエスカレートしてしまって、今更後戻りできなくなって突き進んでしまった感じもあるんだよな。

 

 ハーデス様は戦力としても魅力的だし、味方になってくれたら大変心強いだろう。別に聖書陣営と仲良くなって欲しいとまでは望まない。お互いに嫌いなままでもいいんだけど、今の意固地のままではよくないだろう。せめて、世界の為なら仕方がないと思えるぐらいには冷静さを取り戻させる方法はないだろうか。

 

 うーん、そうだな…。もし俺のやらかしの所為で相手が怒ってしまって、仕返しに嫌がらせをしてきたとしたら俺はどうするだろう。しかも相手は片意地を張って、話を聞いてくれそうにない。それなら、俺が初手で取るべき行動は――

 

 

「あっ、ちょっと待てよ」

 

『――ッ!?』

「総員、カナくんショックに対応ッ!!」

『ほら、来たァッ! こいつがうんうんと考えている時点で、ぜってぇ何か来ると思ってたぜッ!!』

『こちら魔王組、奏太くんショックの予測と同時にフェニックスの涙で被害を回避』

『こちら、天界…、すみませんギリギリ回避が間に合いませんでしたが、何とか立て直しました』

『ふっ、まだまだだなミカエル。魔王共は手慣れたみたいだな』

『いえいえ、メフィスト殿とアザゼル総督の領域にはまだ及びませんよ』

「ハハハっ、「あっ、これカナくんが何か考えてるねぇ」と気づいた瞬間に身構えておくのがコツだよ」

『クッ…、それは天使(我々)にとって早急に獲得すべきスキルですね。後で熾天使全員で訓練をしなくては…』

 

 何しているんだろう、この大人達。

 

「盛り上がっているところすみませんが、皆さんにちょっと提案があるんですけどいいですか?」

『誰の所為だと思ってるんだ。……ものすごく嫌な予感はするが、何を思いついた?』

「こちら側のハーデス様への対応です。このままお互いに喧嘩腰のままだと、協力関係を結ぶにしても難しいじゃないですか。だからいっそのこと、開き直って接すればいいんじゃないかなと思いましてっ!」

 

 ビクッと肩を揺らす保護者達を見て、「あっ、これが例のやつですね」とミカエル様が周りをきょろきょろと確認する。サッと無言で胃薬とフェニックスの涙を用意する六名に続いて、天使長もいそいそと合流した。仲良いな、この大人達。

 

「まず確認なんですけど、聖書陣営の共通の意見として『昔のやり方は間違っていた』という認識は正しいでしょうか?」

『それは、……そうだね』

『全てが間違っていたとまでは言わねぇが、これまでのやり方を改める必要があるのは正しいな』

『たとえ亡き神のご意思に反するとしても、今を生きる者達のために我々は行動するべきでしょう』

「それなら、次にハーデス様と会ったら初手でやるべきことは決まりですね」

 

 世界の為なら、聖書陣営のみんなはちゃんと行動として示してくれるだろう。俺なら迷わず、この方法をやる。だって、傍から見れば行動に矛盾はなく、悪いことは一切していないからな。むしろ称賛されるべき行いだろう。相手に迷惑をかけちゃったなら、これが一番である。

 

「じゃあ、謝りましょう。昔は宗教戦争で色々迷惑をかけてごめんね! って全力でっ!」

『――えっ』

「俺もやらかした時は、プライドは横に置いておいて全力で謝っていますからね。謝る部分は昔のやり方で迷惑をかけたことだけでいいんです。今後は気を付けるからって。とにかく謝罪で相手の出鼻を挫いたら、これからは協力関係で頑張ろうなっ! と予想外のことに相手が戸惑っている間に了承をもぎ取るんです。近くに仏教陣営もいてもらえば、逃がさずに畳みかけられます!」

 

 意固地になっている相手と話をするなら、まずはこちらが誠意を見せて守りを崩せばいい。永年いがみ合っていた相手だ、向こうもまさかそんな行動を起こして来るとは思わないだろう。原作で他神話の皆さんが今後の人間界のために聖書陣営と和解して不満を水に流してくれたように、これまでのハーデス様の嫌がらせをこちらも水に流して和解のための懸け橋にするのだ。

 

「カナくん、それはちょっと…」

「でも、昔のやり方で他神話に迷惑をかけちゃっていたのは事実ですよね。別に下手に出る必要はないです、ただ真っ直ぐに謝るだけでいいんです。迷惑をかけたことを謝罪することは何も間違っていないし、むしろ誠意ある行動として周りは見てくれますよね」

『いや、謝罪だけであの骸骨爺が納得するわけが――』

「納得はしないですよ。でも、無下にもしないと思うんです。謝罪したからって仲良くできるわけじゃないけど、誠意を見せた相手にそれでも嫌がらせをするとかさすがに神様として格好悪く思いませんか?」

 

 謝罪はきっかけに過ぎない。だからこれは、パフォーマンスとも言いかえれる。お互いに譲ることなくいがみ合ってきたからこそ、謝罪という行為はハーデス様にとっては予想外であり、想定外の奇襲となるのだ。感情的で熱くなっている相手に、こちらの話を冷静に聞いてもらう方法としては、冷や水をぶっかけるのが一番である。

 

 それに聖書陣営が変わっていこうとしているのだと、嫌がらせをしてきた相手にも誠意をもって和解を呼び掛けているのだと、外にしっかり見せつけることができる。まぁ、うるさいヒト達はいるだろうけど、他の神話勢にも協力してもらって印象操作をしてもらおう。「聖書陣営の誠意ある行動に感心した」とか言ってもらえば、民衆の心はキャッチできる。いずれ異世界のことが公になれば、自然とそっちに目が向いて記憶から風化していくことだろう。

 

『それでも拒否されたら…』

「謝りに行きましょう。冥府に向かって全力で、開き直って、誠心誠意何回でも!」

「すごい誠意のある嫌がらせになるねぇ…」

「聖書陣営とハーデス様のいがみ合いより、異世界への対策を優先したいのは世界共通です。つまり、誠意を見せた側の勝ちなんですよ。ハーデス様が折れるまで、他の神話勢も協力してくれます。世界を味方にして、ハーデス様がYesというまでやり続けましょう!」

『なんかこれ、逆にハーデスのやつが哀れに感じてきたぞ』

 

 これまでの情勢のままなら、たとえ聖書陣営が謝罪をしたとしても、ハーデス様はだからどうしたと感情に沿って無視を決め込むことができた。他の神話も冥府と聖書のことなんだからと静観を決め込み、聖書陣営だけプライドを捨てたと思われ、ハーデス様の嫌がらせも結局続くという損にしかならない行動になっただろう。

 

 だけど、異世界のために世界の神話が一丸にならないとまずい! という前提があればどうだろう。迷惑をかけたと謝罪して関係の改善を試みた聖書陣営の行動を冥府が拒絶するのは、世界的に見れば「今は世界の危機なのに、オリュンポスの神としてでなく自分の感情を優先するの?」という目で見られるということだ。つまり、神としての矜持か、個人の矜持を天秤にかけさせることができる。聖書と冥府だけだと拗れるのなら、世界を味方にして囲い込んでしまえばいいのだ。

 

「謝罪という誠意を見せること一つで、聖書陣営の和平への姿勢を他神話へ示すことができ、この世界を守るためなら因縁の相手にも頭を下げられる覚悟を表明し、何よりハーデス様がYesと言わない限り相手の行動を抑制させることができます」

『なるほど…。聖書陣営のハーデス殿への謝罪は、世界の平和のための行動ととられる。それを拒絶した場合、平和を拒絶する危険因子として他神話から睨まれるということか。この世界の未来のために、神話が一丸となって対処しないとならない有事だからこそという訳だね』

『先ほど倉本奏太くんが言った通り、謝罪一つで冥府との因縁が切れるわけじゃない。だが、異世界と戦うための準備中に、ハーデスに横やりを入れられることはなくなる。多くの神話に睨まれたまま、世界のために誠意を見せた聖書陣営に嫌がらせをすれば、それは敵対行為と取られてもおかしくない』

 

 サーゼクス様とアジュカ様が補完してくれた通りである。これまではオリュンポスの三柱神の一柱だったからこそ手が出せなかった。だけど今回だけは、ギリシア陣営の最高神の一柱だからこそ逃げられない。通信先で口元が引きつっているファルビウム様が、椅子に(もた)れかけるように天井へ目を向けた。外交官であるセラフォルー様も、ポカーンと口を開けて固まっていた。

 

『キミってさ、相変わらずエグイことを考えるよね…。ストライキと言い、謝罪と言い、表向きこちらが間違っていない行動のように見えて、実際は相手の行動を縛る手段にしてしまっている。謝罪一つで、ハーデスに残された道は三つだけ。少なくとも異世界への対処が終わるまでは、この世界の神の役割を優先して同陣営として聖書陣営との協力関係を認めるか。世界の調停という神の役割を放棄して世界に仇をなす敵として見られるか。……もう冥府に閉じこもるしかないって訳か』

『おじちゃま達を説得するのは大変だけど、正攻法で冥府をやり込めるかもしれないなら一考はしてくれるかも…。ずっとちょっかいをかけられても、手が出せない相手だったからね』

 

 聖書神話としての矜持を考えれば、謝罪は重たいものだろう。だけど、ハーデス様との関係に一石を投じるのなら、他神話の協力を本当の意味で得るためならば、重いからこそその効果を発揮する。

 

『……そうですね。特に私達天使は唯一神である主の意思に従って、他神話の神を否定してきた身です。それに対する非礼は詫びるべきでしょう』

『いっそ、悪魔・堕天使・天使でどこが一番骸骨爺に嫌がらせ(謝罪)ができたのか勝負するのもアリかもな。ジャッジはハーデスの野郎のリアクションで決めるとか』

「アザゼル、やり過ぎはダメだよ。正義は僕たちにあるように見せなきゃいけないんだから」

 

 真摯なミカエル様の隣で、似た者保護者がニヤニヤと意見を交わす。このあたりはいつも通り皆さんに丸投げするしかないけど、色々お願いしたいところである。それにハーデス様なら、一度自分が決めたことなら守ってくれると思うのだ。聖書陣営を許せなくてもいい。だけど、世界のためなら一時的に手を組むと判断してくれたのなら、裏切って背中から討つような真似はしないと俺は信じている。

 

 だってハーデス様は、人間のために頑張ってくれている神様なんだから。

 

 

 なお後日、三蔵法師様に冥府謝罪行脚計画について話したら、床に手をついて項垂れてしまった。世界の為に、仏教陣営の皆様のフォローが必要と思いますのでよろしくお願いします。こうして、仏教陣営と聖書陣営は繋がりを持つに至ったのであった。

 

 

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