えっ、シスコン魔王様とスイッチ姫みたいな力ですか? 作:のんのんびり
第二百十三話 待ち人
高校二年生の春、それは『ハイスクールD×D』においては、始まりの季節とも呼べる。兵藤一誠が堕天使レイナーレに殺され、悪魔であるリアス・グレモリーの眷属となり、ハーレム王を目指す物語が始まった時期だからだ。イッセーは四月生まれで、俺は冬生まれだから十七歳になるのはまだまだ先だが、やはり感慨深いものである。前世の記憶を思い出してから約九年が経ち、ついに俺も原作のイッセーと同じ年代になったのだ。
特に理由はないんだけど、高校二年生ってなんか特別感みたいなのがあるんだよなぁー。だいたいの漫画の主人公みたいに、高校一年生か二年生ぐらいに物語が始まって、特別な出会いとかもあって、未知の世界へと足を踏み入れていくあの感じ。もしかしたら自分にも何か起こるかもしれないと、ワクワクする気持ちって大事だよね。
「カナくん、どうかしたのですか?」
「いやさ、俺も高校二年生になったから、何か特別なことが起こるかもしれないよなぁーと思って」
「今度は何をやらかす気なのですか、カナくん」
「お前、あれだけ世界を混乱に陥れておいて、まだ何か起こす気なのかよ」
「去年だけで聖書陣営が停戦協定して、十四番目の
ちょっと待って、ラヴィニア、リーバン。何で当たり前のように俺が起こす側なの? あと、正臣さんは絶望したように項垂れないでよ。去年は神器症の治療や乳神様降臨とか色々あったから大変だっただけで、さすがに今年は俺から何かをするつもりはないからね。聖書陣営と仏教陣営にちゃんと丸投げできたから、俺は与えられた仕事を頑張りながら、清く正しく堅実に生きていくだけです。
「あのさ、去年が特別だっただけで、普段は大人しくしているだろ」
「ラヴィニアちゃん、奏太くんが大人しい時ってあったっけ」
「が、頑張って思い出してみるのです…」
「そこまでかよ! 一応言っておくけど、面倒事の方がこっちに来る方が多いんだからなっ!」
「その面倒事を避けずに真正面からぶつかっていくから、大人しいイメージが湧かないんだろう」
リーバンに冷静にツッコまれ、俺は不貞腐れながらテーブルへ突っ伏した。ちくしょう、味方がいねぇ…。それに俺が首を突っ込んだ面倒事って、だいたい誰かの命がかかっていたから仕方がないじゃん。やらかした時だって、保護者からの言いつけは破らないように最大限気を付けていたし。
「でも、一年に一回か二回ぐらいの騒動ならマシな方だろ」
「違うよ、奏太くん。毎年ある方がおかしいんだよ」
「……俺が知っているとある高校生は、一年で二十回以上騒動があったけど」
「何だその地獄は」
この世界の未来で起こったルナティックスケジュールだよ。
そんなお馴染みのメンバーでおしゃべりをしながら、いつも通りリーバンとラヴィニアから魔法の勉強を教わっていた。春休みは日本で過ごしていたので、ちょっと予習で足りないところがあったから助かっている。正臣さんも魔法学校の勉強に興味があるみたいで、時々こうやって話を聞きに来るのだ。魔法で言語の翻訳はできても、呪文を唱えるならしっかり文字の意味まで理解しないと使えないからな…。頭の良い友人が持てて何よりである。
ちなみに、三蔵法師様が俺の家に襲来したことは協会組には話しておいた。三蔵法師様とは今後もちょくちょく会うことになるので、俺の護衛を兼ねてくれている人達には話しておくべきだろう。なお、仏教陣営と関係ができたと伝えた瞬間、しばらく頭を抱えて唸られた後に「あぁ、またか…」であっさり納得された。友人達の中の俺はどういう扱いになっているんだろう…。
「まぁ、外国は九月が新学期だから、まだこっちでは高校一年生なんだけどね」
「奏太は来年度の講座はどうするか決めているのか」
「そういえば、二回生から選択科目が増えるんだっけ。うーん、ルーン文字は継続で習いたいかな。俺みたいなタイプは、小手先で使える魔術って貴重だし。あと、耐久面をカバーしたいから結界魔法は必須」
一回生は必須科目が多いからリーバンと合わせやすかった。学校では学友であり、護衛であるリーバンと常に行動している。魔法剣士として戦う彼と、サポートタイプの俺だとお互いが得になる講座を選ぶのも大変だ。俺のレベルに合わせてもらうのは申し訳ないけど、その分放課後はラヴィニアと魔法を、正臣さんと剣を、神器は俺と一緒に鍛えられるから問題ないらしい。実戦経験が積めるのはありがたいようだ。
「俺は攻撃系統の魔術を本格的に学んでみたいが、奏太は使わないよな」
「うーん、攻撃魔法を使わないことはないんだけど、それより相棒の異能を使う方が効果的な場面の方が多そうなのは確かだな。でも、攻撃魔法を学ぶのはあり。相棒の
「そうですね、サポートタイプのカナくんは攻撃魔法を撃たれる立場です。どんな魔法があるのか知っておく上でも知識や経験は必要ですから」
「それに奏太くんの場合は、理解が深まるほど相手の魔法を奪いやすくなるしね」
そうそう、二人が補足してくれた通りである。俺自身は攻撃魔法の使いどころが難しいけど、防御面を考えれば攻撃魔法の講座は受けておいた方がいい。それに納得したのか、リーバンはホッとしたように息を吐いた。俺の護衛とはいえ、彼自身も強くなりたいという目標があるのだ。リーバンは接近戦では剣を使い、中遠距離は魔法で攻撃やサポートを主にする万能タイプである。これに神器も組み合わさるんだから、相対したらなかなか手強い相手だろうな。
本人は器用貧乏で特出した武器が少ないことを気にしているけど、俺はバランスよく堅実なのはアリだと思う。仲間に合わせて戦術を組み立てられるし、大器晩成型って感じで格好いいよな。俺はサポート特化型だから、多彩な動きができるバランス型はちょっと羨ましい。リーバンは真面目なやつだから、今後も腐らず頑張るだろうしな。
「実践的な魔法を学ぶやつって学校では少数派だから、程よく空いていて過ごしやすそうだしな」
「えっ、そうなのかい。魔法学校だから、攻撃魔法って人気が高そうだけど」
「攻撃魔法より自衛魔法や研究に役立つ魔法の方が人気ですよ、協会の魔法使いって研究職の人が多いですからね。武闘派の魔法使いが少ないから、正臣さんが扱き使われてきたんですし」
「最も人気が高いのが『悪魔学』、続いて『使い魔学』、手頃に金銭を稼ぎやすい『魔法薬学』ですね。あそこは教室が複数ありますし、抽選になることもあります。研究に従事するなら『経営学』も人気です。魔法使いとは利益に敏感で、常に最新の研究に取り組んでいます。自分の研究を盗まれないように抱え込む者は多いので、一人で活動できるように学ぶ者が多いのです」
協会の魔法使いにとって一番のステータスは何かといえば、悪魔と契約を交わせるかなのである。原作でリアスさん達に大量の契約書類が届いて選考があったように、魔法使い達は悪魔との繋がりを求める者が多い。それも有望な悪魔となれば、熾烈な争いになるぐらいだ。悪魔の数は少ないので、いかに悪魔に気に入られるか、悪魔が求める研究ができるか、そういった傾向を学ぶ者が多いという訳である。
使い魔も魔法使いの大切なステータスになるし、小間使いや護衛として有能だ。研究費用を稼ぐために、手に職をつけやすい学問を学ぶ者も多い。俺やリーバンみたいに、研究に全く興味がない方が少数派なのである。あっちはかなりギスギスしているので、研究職に人気の講座は選ばないのが賢い選択な訳だ。
「あぁー、なるほど…。悪魔の方から契約を持ちかけられて、上位ドラゴンを使い魔にしていて、協会でトップレベルの稼ぎ頭で、将来の仕事もほぼ確定している奏太くんが学ぶ必要性がない訳か…」
「カナくんって、相変わらず一般の魔法使いを敵に回していますよね…」
いやいやほとんどこうなったのは成り行きみたいなものだから、俺が望んでなったわけじゃないよ? でも、必死に勉強している人達の隣で学ぶのはさすがに抵抗がある。目指す方向性が違うだけで、俺も真剣に勉強はしているんだけど…。こういった価値観の違いがあるから知り合いはわりとできたけど、魔法使いの友達はつくりにくいんだよなぁー。
「将来、か…」
「どうした、リーバン?」
「……わるい。俺がこうやって過ごせるのは、フェレス会長との契約のおかげがあるからな。奏太の『学友』という立場は、あと二年だけだ。学校を卒業した後どうするか、俺も考えなければならないと思っただけだ」
そうか、そう言えばリーバンはメフィスト様との仕事の契約で、俺の『学友』を引き受けてくれたんだもんな。もちろん、ちゃんと友人関係は築けていると思うけど、将来に関しては彼の自由である。別々の道を歩く可能性は十分にあった。
「リーバンが望むなら、メフィスト様に掛け合って契約の内容を変えながら更新はできると思うぞ」
「ありがとう。だが、……俺には目標がある。クロセル家を再興させる。他の血と混じってでも生き永らえた俺達は蔑まれる存在なんかじゃない。
グッと拳を握る友人の決意に、並々ならぬ思いがあることは伝わる。断絶した家の末裔は現悪魔政府から保護の対象でありながら、一部の上役には厄介払いされ、純血ではなくなった彼らの存在をなかったことにしたい悪魔もいるって原作では語られていた。リーバンが強さにこだわるのは、クロセル家の末裔である自分の手で未来を切り開きたいと願っているからだろう。
『変革者』の護衛として、友人として俺が傍にいれば、彼の価値は確かに上がるだろう。だけど、それはリーバンが望む証明には当てはまらない。難儀だと思うけど、友人だからこそ手を貸すべきタイミングを間違ってはいけない。リーバン・クロセルとしての価値を上げるためには、俺の存在は邪魔になる可能性があるのだから。
彼が原作通り、サイラオーグ・バアルの眷属になるのかはわからないけど、彼が断絶された悪魔の家の末裔に声をかけているのなら、いずれクロセル家の再興を願うリーバンのことは耳にするだろう。その時にどうするのかを決めるのはリーバン自身だ。原作での彼はちょい役って感じで、ロスヴァイセさんに倒されてしまうが、小猫ちゃんをリタイヤに追い込む一手を担っている人物だった。原作通り、グレモリー眷属とゲームで闘うかはわからないけど、俺達と過ごす三年間は決して無駄にはならないだろう。
……まぁ、先のことを考えすぎても仕方がないか。今は友人として強くなりたいと望むリーバンの手助けをすればいい。リアスちゃんも黒歌の主になれるように特訓しているみたいだし、眷属の顔ぶれも変わりそうだから、案外面白い勝負になるかもしれないしな。
「そういうことなら、わかったよ。そういえば、神器の方はどうだ? 異能が暴走することはほとんどなくなったみたいだけど」
「あぁ、奏太のおかげで能力の練習ができるようになったからな。今では能力のON・OFFは自在にできるようになったと思う」
俺が傍にいれば暴走を確実に止めてもらえるという安心感は、彼にとって重要だったのだろう。視力を基に発動するタイプの神器は、ちょっと感情が高ぶるだけで異能が反応しやすい。一度暴走するといつ収まるかわからず、周囲に重力場を作って迷惑をかけてしまっていた。その心配がなくなったおかげで、積極的に神器を発動させて練習できる。
ギャスパーの『
彼がサイラオーグさんの眷属の『
「うんうん。あとは、ちゃんと鏡の前で神器に挨拶したり、能力を制御してもらった後はお礼を言ったりした成果もあるだろうな。常に自分が制御をすると消耗が激しいけど、神器に任せられる幅が広げられると戦略の幅もグッと広がるからね」
「普通なら冗談かと思うようなやり方なのに、これを言っているのが神器を統括するシステムに繋がっているやつなんだから頭が痛いよ…」
「目指すは「今日の晩御飯は肉か魚のどっちがいい?」で思念が返って来るレベルに達することだ。相棒も最初は事務的な思念しか返してくれなかったけど、二年ぐらい言い続けたらちゃんと反応が返ってきたぞ」
「反応のない相手に二年も聞き続けた奏太くんの執念が恐ろしいし、相棒くんの苦労も感じられるよ…」
神器と『対話』ができることを知っているアドバンテージである。このぐらいのやり取りができるようになれば、重力操作は神器に任せて、リーバンは剣や魔法を使うことに集中できるだろう。たぶん、原作で威力が中途半端だったのは、重力操作をしながら戦闘も並列して行うという器用なことをやっていたからだと思う。
「そういえば、私も氷姫にロボのパーツを何度もカスタマイズしていたら、一撃の破壊力か連射式ビームのどちらがいいかでほんの少しだけ氷姫から無言の圧力のようなものを感じました。あれがそうなのでしょうか…」
「マジか、さすがはロボ。神器もロマンに引かれるんだな」
「いや、明らかにさらっと流しちゃいけない内容だったと思うんだけど。ラヴィニアちゃんも、すごいことをやらかしていない?」
「この似た者パートナーは…」
ずっと反応がなかった氷姫に、わずかでも反応を感じられたのなら大進歩じゃん。ロボの格好良さは神器にも伝わるという大発見である。これは
「ラヴィニアはこの後、グリンダさんのところに帰るんだろ。喜んでくれると良いな」
「はい、カナくんに最新のダンガム資料もいただきましたし、久しぶりに帰省するので楽しみなのです」
「去年は停戦協定とかでバタバタになっちゃったからな…。グリンダさんもラヴィニアが帰って来るのを、首を長くして待っているさ」
『
ラヴィニアとはいつも一緒にいるから、グリンダさんのところへ行っている間はちょっと寂しいけど、ぜひ楽しんできてもらいたいものである。協会は俺のホームって感じはしているけど、やっぱり日本の実家に帰っている時の安心感は別ものなのだ。遠慮なく甘えられるし、我が儘も言えるし、肩肘も張らなくていい。うんうん、リフレッシュって大切だよねー。ラヴィニアの嬉しそうな笑顔に心がほっこりした。
「奏太、神器との『対話』は続けていくとして、制御ができたら次はどうしたらいい」
「ん? うーん、ある程度の制御ができるようになったのなら、次は精度を高めるべきだろうな」
ラヴィニアとのほほんとした後、リーバンからおずおずと声をかけられた。相変わらず強くなるのに貪欲な友人である。断絶したクロセル家の復興を目指すリーバンとしては、成り上がるために力が必要なのは当然なのだろう。なら、神器の訓練は俺の担当なんだからしっかり応えてみせよう。これでも神器との関わりに関しては、アザゼル先生からお墨付きをもらっているからな。ずぶずぶなのは呆れられているが。
「重力場を発生させる効果範囲を視界いっぱいじゃなくて、自由に設定できるように練習するところからかな。仲間と連携する時に、仲間の行動を視界に入れられないっていうのはかなり危険だ。特定の対象のみに重力場を発動させられれば、色々戦術も工夫しやすいよ」
「そうなのか?」
「例えば、接近戦の時に相手の武器だけを一瞬重くするだけでも重心を崩して、隙を突きやすいだろ。何だったら重くするだけじゃなくて、重力場を軽くしてやるのも面白いかもしれない」
「重くするだけじゃなく、軽く…。そういう使い方もできるか」
「重力操作は俺もやっているから、自分自身に使うのもかなり使い勝手がいいぞ。リーバンは剣を使えるんだから、相手に剣を叩きつける一瞬だけ剣の重力を重くすれば攻撃力をアップできるし、敵の攻撃を受ける時に重力を軽くすれば距離を開けて仕切り直しにも使える。固定概念で神器の異能を決めつけず、こんなことできないかな? と常に考え続けることが神器所有者にとって大切な心構えだと俺は思うよ」
「奏太くんが言うと、説得力が違うね…」
日常生活からいかに神器を使って楽をするかを追求した先が、今の俺だからね。おかげで掃除洗濯料理などと、幅広い活躍を神器は見せてくれた。さすがは相棒である。状態変化系の神器は出来ることが決まっているけど、そこから先の工夫は宿主次第だ。固定概念を持つ方が弱くなる、ってアザゼル先生にも口酸っぱく言われたしな。
原作でのギャスパーの特訓では、視界に映る全ての時間を止めてしまう彼の能力を制御するために、まずは精度を高める修行を行っていた。実力が高い相手には時止めが効きづらいという課題はあったけど、そこはコツコツと鍛えていくしかないだろう。神滅具でもない限り、初期の神器の異能は頼りないものが多い。神器の異能はあくまで補佐として考え、地道に出力を上げていくしかないのだ。
「あと視界を媒介にした神器は相手に発動がわかりやすいから、戦闘中は色眼鏡でもかけておけば、相手からは神器が発動されているのか瞬時に区別がつかなくて不意を突きやすくなるぞ。先生にお願いすれば、リーバンからはクリアに見えて能力を通してくれる眼鏡とかゴーグルとかを作ってくれるだろうし」
「お前って、相変わらずえげつないことをさらっと思いつくよな…」
視界を媒体にする異能なら必須だろ、目つぶしを防ぐこともできるし。だけど異能で眼鏡が壊れないようにしないといけないので、かなり繊細なコントロールは必要になる。俺の語る工夫に渋面をつくったが、悩んでいるあたり有用性は理解できるのだろう。俺でもこんぐらい思いつくんだから、リーバンならさらに異能を深めていけるさ。
「勉強お疲れ様ぁー、みんな。お菓子を焼いてきたから、おやつの時間にしましょうか」
「ありがとうございます、クレーリアさん。頭を使った後は甘いものが一番です!」
「いただくのです、クレーリア」
それからはまた魔法の勉強を再開し、頭を抱えていた俺の耳に届いたお菓子コールに全力で賛成した。週に何回か駒王町の管理に出かけているクレーリアさんだが、こうしてタイミングが合う時はみんなでわいわい集まるようにしている。少しずつ時間を合わせるのが難しくなり、みんながそれぞれ忙しくなってきたけど、こういう時間はいつまでも大切にしていきたいと思う。手を拭いて両手を合わせたら、焼きたてのクッキーに手を伸ばしていった。
「すごくおいしい。くっ、僕は何て幸せ者なんだ…。こんなにも気が利いて、料理上手な恋人がいるなんて…」
「もう正臣ったら、こんなことで泣かないでよ。私だって美味しく食べてくれる恋人がいるから、頑張って作ってあげたいって気持ちが湧いてくるだけ。私の方が、幸せ者なんだから」
「ッ、クレーリアっ……!!」
「正臣っ……!!」
「おいしいですね、カナくん」
「うん、クレーリアさんまた腕を上げたよな。これなら、お店に出せるぐらいだよ」
「……このノリをスルー出来るようになってしまった自分の将来が、色々心配になってきたよ」
協会組はこれが日常だからね。これに慣れたら、大抵のことには動じなくなるよ。目が遠くなっているリーバンに、ラヴィニアと二人でくすりと笑ってしまった。春の木漏れ日が感じられるようになった頃、俺達の日常はこうしていつも通り賑やかに始まっていったのであった。
――その、はずだった。
――――――
「リアスちゃん達が駒王町に留学してくるまで、あと一年か…。この一年の間に俺がやっておくべきことは、
ギャーくんのように、リアスちゃんの眷属という後ろ盾を持った方がいいって場合はあるけど、イザイヤさんの場合は死人が出ているので悠長なことは言っていられない。グレモリー眷属の『
それに、朱乃ちゃんとリアスちゃんみたいに別のかたちで出会うことだってできるんだ。イザイヤくんは何度も死線を掻い潜ることになる、グレモリー眷属のエース格である。因子不足とはいえ、聖剣の素質を持つ魔剣使い。必ず実力者として、台頭してくるだろう。問題はどうやって施設を見つけるかだけど…。
「そういえば、神器所有者のための組織づくりもかたちにしていかないといけないか。いきなり神器所有者を保護しても混乱を招くだけだし、神器について詳しい人材の確保が必要か。たぶん先生あたりが色々考えてくれているだろうけど、俺が経営することになるんだから任せっきりはダメだよな…」
協会のベッドの上で一人悶々と考えにふける。ついでに協会の仕事である内職も済ませておこうと『
「うーん、神器所有者を保護するだけじゃなくて、使い方や生き方を教えていくのが目的なんだから、それを教える教師がいないといけない。段階的にプログラムも組んでいかないといけないし、こっちもわりと大変そうだぞ…」
神器に詳しいのは堕天使の組織の皆さんだけど、この組織は人間のための居場所である。最初は堕天使からの助力は必要だろうけど、できれば神器について教える先生は同じ神器所有者の方がいいだろう。例えば堕天使組織の『
教会側にも神器所有者はいるだろうから、教師役をお願いできるかもしれないだろう。だけど、いきなりぶっつけ本番で世界中から神器所有者を集めても、失敗したら目も当てられない。なら、言い方は悪いけど練習台が必要だ。裏のことをわかっていながら、神器の使い方はいまいちわかっていない教え子を募って、その子たちを
そういう名目があれば、色々な組織に顔を出して、神器所有者の原石を探しに来ましたって何食わぬ顔で確認ができる。実際に、俺は神器所有者のオーラを感知できるので、まだ目覚めていない子どもを見つけることも可能だ。事前に頼めば研究施設の資料はもらえるだろうから、施設の責任者の名前が『バルパー・ガリレイ』と書かれているものを見つければ、イザイヤくん達を保護できるかもしれない。
「まだ穴だらけの構想だけど、アザゼル先生やミカエル様にも相談して詰めていくしかないな。駒王町の神器所有者組織の第一期生としてなら、イザイヤくんやおじいちゃん経由でアーシアちゃんを呼び出せるかもしれないし。そうしたら、みんなを会わせることができるぞ」
リアスちゃんの眷属問題はあるけど、まずはみんなが知り合うきっかけは作ってあげたいのだ。俺のエゴみたいなものだけど、それがせめて俺にできることだと思うから。出会いや立場は違っても、きっと彼らなら手を取り合えるはずだと信じている。そのためにも、俺にできることを頑張っていくしかないな。
「よーし、やる気が出てきたっ!」
俺はベッドから起き上がると、硬くなっていた身体を解すように腕を伸ばしておく。次に聖書陣営の皆さんと話が出来る時にでも提案してみよう。考えている間に内職のルーティンも終わったので、今日はのんびりとゲームでもして遊ぼうかな。ラヴィニアはグリンダさんのところに里帰りしちゃっているから、こういう時手持ち無沙汰になっちゃうんだよね。
今頃、もう家に着いた頃だろうか――とゲーム機を出そうと歩こうとした瞬間、懐に入れている魔方陣の描かれたカードに熱が走った。いつも通信用に使っているもので、誰かが俺に連絡を入れたのだと気づく。俺は慌ててカードを取り出して誰からか確認すると、水色に輝く魔方陣が淡く点滅するように輝いていた。
「――ラヴィニア?」
魔方陣の描かれたカードを取り出すと、ドクンッと胸の鼓動が鳴ったような感覚を覚えた。早鐘を打つような、焦燥がじりじりと駆け上ってくる嫌な感覚。あぁ…、嘘だろ。今までにも何度か味わったこの感覚が外れたことがないのだ。俺は魔方陣のカードを耳に押し当て魔力を流すと、彼女と繋がるのをじっと待った。ほんの数秒のはずなのに、果てしなく永い時間に感じた。
『―――ッ―…ゥ…』
「……ラヴィニアか?」
『ひっく…、カナ、くん……』
「ゆっくりでいい。落ち着いて、どうしたんだ」
泣いてる。魔方陣の先で声にならない嗚咽が耳を打つ。不安が胸に込み上げてくるが、決して急かさないように彼女の荒い呼吸が治まるのを静かに待ち続ける。何度も言葉にしようとして、ぐしゃぐしゃになり、それでも何かを伝えたいと必死に口を開いた。
『家が燃えて、いて…、グリンダが…どこにも――ッ!』
「――――」
『私はどうやらあまり良くなかったようなのです。『待ち人』は来ない…。『
あれは、まさか…。ラヴィニアの『待ち人』と『失物』が示すものって――
『カナくん…』
――助けて
消え入りそうな微かな声を聞きとってすぐ、俺は部屋を駆け出した。