えっ、シスコン魔王様とスイッチ姫みたいな力ですか? 作:のんのんびり
『そうか…、それならラヴィニアの方は問題なさそうだな』
「うん、カナくんが傍にいるからねぇ。今回の件については、彼女の気持ちに整理がついてから情報を伝えるつもりだよ」
『ということは、南の魔女を襲った犯人の目星はもうついているってことか』
「あぁ、『オズの魔法使い』でほぼ間違いないだろう」
南の魔女グリンダが襲撃され、
メフィストが不安視していたラヴィニアの精神は、思った以上に安定していた。それだけ奏太の存在は彼女の心を守ったのだろう。もし彼がいなければ、焼け落ちた家を
『そう考えると、よくラヴィニアを繋ぎ止められたな』
「死んでもキミの下に帰って来る、なんて真顔で言えるのはあの子ぐらいだよ」
『……あいつの場合、本気で言ってそうなのがやべぇな。マジで出来そうなところも』
魔法使いの協会へと戻ったメフィストは、ラヴィニアの事情を知るアザゼルへと一報を入れた。堕天使の総督が遠い目で諦観を滲ませる姿に、メフィストも乾いた笑みを浮かべる。ラヴィニアも奏太ならそんな突拍子のないことが出来てしまうかもしれない、とうっかり思ってしまったからこそ悲観する思考にストップをかけられたのだろう。やらかしの積み重ねってすごい。
実際、奏太の魂にくっ付いている
また冥途なら…。朱芭の記憶を覗いて知った彼のやらかしの数々だけで、冥途が一時期機能停止したのだ。そこに本人が来るかもしれないとか、冥途がヤバい。それこそ、諸々の事情を考慮して天使と協力してでも蘇生を手伝ってくれそうである。メフィストはそんなありえそうな頭の痛い思考を振り払うように、こほんっと咳払いをしておいた。
「ラヴィニアちゃんは失い過ぎた。そんな彼女が唯一手を伸ばせたのがカナくんだった訳だしね」
『依存ってやつか』
「カナくんも何となく気づいているから、それとなく彼女の世界を広げようと友人や知り合いを紹介しているみたいだけどねぇ」
確かにラヴィニアの周りには多くのヒトがいるようになった。だが、よくよく思い返せばそれは全て奏太経由で繋がっている。彼女自身で築いた繋がりは、未だに奏太一人なのである。だからこそ、奏太を失えばそれまでの繋がりも共に消え失せて、また一人きりになってしまうかもしれないと余計に怯えてしまうのだ。だが、このことに関してはラヴィニア自身で克服していくしかない。彼女の世界が広がるように、それを支えるパートナーもいるのだから。
「ラヴィニアちゃんが変われるのかはわからない。それこそ、依存したままかもしれない。だけど、カナくんはそれも含めて傍にいると覚悟を決めている。なら僕達は子ども達がこれからについて考えられるように環境を整え、どっしりと見守ってあげるしかないだろう」
『まぁ、心の問題は外野がとやかく言っても仕方がないからな』
「僕としては、いっそもっと仲良くなってくれてもいいんだけどねぇ」
『あぁー、そっち方面は俺も言ってみたが、あいつ相当なヘタレだからなぁ…。たぶん天使化の影響もあるだろうが』
元天使であるアザゼルだからこそわかるが、天使というのはデフォルトで禁欲がついてくる。欲望に繋がるものを無意識に『悪いこと』と感じてしまう感覚。堕天使となった今では特に気にしていないが、天使だった頃は自由気ままにしながらも一線はなかなか越えられなかった。元々人間である奏太には影響は少ないだろうが、それでも強い欲を持っていないと躊躇を覚えるぐらいには影響を受けている気がした。
奏太の性格的に恋愛に興味はあるが、己の立場を考えれば安易に恋人を作るのはまずいとまずセーブがかかる。さらにラヴィニアに関しては、依存しているとわかっている大事な女の子に自分から手を出すのはもっとまずいと考えていた。精神的に不安定な少女を導くのだから、公正な判断ができなければならない。アザゼルとしては『依存』も一種の恋愛のスパイスだと感じるが、彼にとっては正常な判断を鈍らせるものだという認識だった。
『カナタの考えも間違ってはいないからな。自分の精神を律することができる神器を持っているのも、それに拍車をかけているんだろう』
「うーん、悪魔の僕からすると難儀に思ってしまうねぇ…。カナくんは頑固だから、その信条を曲げることは難しいだろう。となると、ラヴィニアちゃんが変わるしかない訳か」
『ラヴィニアの精神が安定するか、カナタへの認識を変えるかだな。ラヴィニアは失い過ぎた弊害か『今のままであること』を強く望む傾向がある。変化することで失うことを無意識に恐れている感じだった』
「あの子もあの子で難儀だよねぇ…」
奏太を保護してからずっと天然同士のド直球なやり取りを間近で見てきた
神滅具持ちのラヴィニアを保護したグリンダが、わざわざ協会に彼女を預けた背景には狭い世界に閉じこもろうとする弟子を心配してのことだっただろう。奏太はこの世界で生きるために「程よく鈍感な方がいい」と意識して考えているが、ラヴィニアの場合は無意識にそう考えているところがある。意識するということは、目を逸らさないことなのだから。
『だが、今回の件は良くも悪くもラヴィニアに刺激を与えただろう。変わりたくないとどれだけ願っても、変わってしまうものはある。しかし、例え変わってしまっても変わらないものがちゃんとあるんだと意識できた時、あいつもようやく一歩踏み出すことができるんだろうぜ』
それは、倉本奏太が禁手に至る覚悟を決めた根幹と同じだった。例えこの先何があっても、一緒に歩いてくれる人がいる
『ラヴィニアの周りにいるのは、世話焼きなやつらばっかりだからな。時間は多少かかるかもしれないが、心配はいらねぇと俺は思うぞ』
「そうだね…。ありがとう、アザゼル。本当ならゆっくり心の傷を癒す時間を取ってあげたいけど、今回のことも含め情勢がそれを許さないことが難しいところだ。南の魔女の件は一筋縄じゃいかないだろうからね」
南の魔女が襲われたにも関わらず森に残っていた結界魔法の基点や、家自体に施されていた魔法の残滓。それらの記録を遡ったが、やはりラヴィニアとオズの関係者以外に痕跡は感じられなかった。後日、オズとの連絡手段を有するラヴィニアがグリンダの強襲の件を相手方に聞くことになるだろうが、その時の彼女達の対応でさらに確信は深められるだろう。
「だけど、相手が『
『となると、あとはオズに直接乗り込む方法を探すか、あっちがこちら側に干渉した時を狙うかしかないって訳か』
「そうなる。どちらにしても、今回の件に関しては相手の出方を窺うしかない現状なのは確かさ」
オズの世界で暮らす魔法使い達の存在を知る者は少ない。南の魔女を何故襲撃したのかは不明なままだ。彼女達の狙いはわからないが、良からぬことを考えているだろうことしか予想できなかった。アザゼルも難しい顔で顎髭をなぞると、ガシガシと後ろ髪を手で掻いて溜め息をこぼした。
『ラヴィニアが関わっているなら、奏太も動くか…。あいつって気づいたら何かに巻き込まれているよなぁー』
「もうカナくんだから、でだいたいのことを納得できるようになった自分に頭が痛いよ」
『ただこれまでと違って、あいつに危険なことはさせられないぞ。奏太に万が一があるなら、天界や仏教陣営も黙っていない』
ラヴィニアが『オズの魔法使い』を追いかけるのは構わない。だけど、そこにパートナーである奏太もくっ付いていくなら話が変わってくる。これまでの倉本奏太は裏で悪魔や堕天使と関わりがあっても、メフィストの直属の部下の一人でしかなかった。ところが、十四番目の神滅具に目覚め、天界のシステムと対話できる唯一の存在であり、仏教陣営の橋渡し役でもある今となっては、彼の身に何かが起こってはまずい。異世界対策においても欠けるわけにはいかない必要な人材だった。
特に天界側からすれば、元トップの後継者とその神の子のことである。大々的に動けない悪魔や堕天使と違い、天使だけは奏太個人のためだけに動ける動機があるのだ。奏太やレーシュの存在はまだ表向き隠されているが、彼らが危険へと自ら向かうというなら天界側から待ったがかかるかもしれない。奏太も普段なら聞き分けがよいのだが、近しい者の事となるとわき目もふらずに突き進むところがあった。
「わかっているさ。だけど、カナくんの行動力はよく知っているだろう。危険から無理やり遠ざけようなんてしたら、また『それどころじゃなくなる何か』を発掘して、やらかしそうなのが目に見えているよ。それなら、カナくんのやりたいことを認めながら、こちらの目の届くところで行動してもらった方がいいに決まっているさ」
『これまでも危険だからって遠ざけようとしたら、その度に不意打ちを食らわされてきたもんなぁ…。はぁー、ならミカエルへの説得はこっちでやるしかないか。色々条件はつけられそうだが、そこは奏太も受け入れるだろう』
ずっと傍で支え合ってきたラヴィニアのこととなれば、あの少年が動かない訳がないのだから。神器症の治療や異世界の時のように、隠れて何かをやらかされるより何倍もマシだ。疲れた様な眼差しで遠くを見つめる保護者二人は、余計なことをしやがってと『オズの魔法使い』へ文句を言いたくなった。よりにもよって聖書陣営が和平に向けて動いている最中、あまり人材を割くことができない時期であったからだ。
『まさか、狙ってか?』
「どうだろうね。だけど、きっかけの一つにはなっているかもしれない。こちらが人材を割けないのは事実だ。これがもしラヴィニアちゃんだけの問題なら、彼女の意思を尊重して『オズの魔法使い』を追うことは許しただろうけど、こちらはあまり手助けをすることはできなかっただろうから」
『それは、そうだな…。魔女共が碌なことを考えていないことはわかるが、憶測で動かせるほど手は空いていない。今のところ、南の魔女が襲撃されただけで世界的な影響は皆無だ。むしろ組織内での内輪揉めに他組織が関わる方がおかしいからな』
故に、グリンダの襲撃に関して『オズの魔法使い』に追究できる権利を持っているのは、その襲われた南の魔女の弟子だったラヴィニアと、昔から因縁を持っていた『
だが、ここに倉本奏太が関わるだけで話が変わってくる。事件の大きさは関係なく、彼が関わっていること自体が人を動かすからだ。『オズの魔法使い』側としても、奏太の存在はおそらく想定外だろう。彼一人がいるかいないかで、自分達にかかる手が一気に増える事になるのだから。もちろん、どこも和平交渉のために手一杯なのは変わらないが、常に他勢力から意識を向けられている状態になる。あちら側からすれば、わけもわからないまま動きづらいことこの上ないだろう。
『早速無自覚に嫌がらせをしているな…』
「魔女達の目的が何にせよ、厄介な相手を敵に回したことに変わりはないさ。僕達もガッツリ巻き込まれることになるだろうけどね」
『勝手にやらかされるよりも、巻き込んでくれた方がいいのは違いねぇのに釈然としねぇ…』
「ハハハハっ」
二人同時に慣れた手つきで胃薬を飲み干す。次にオズのやつらが表に出てきた時は、ストレス発散のためにぶつけようと心に決めた。ラヴィニアを泣かせて、奏太の怒りを買ったのが悪い。南の魔女をオズの世界に連れていく必要があったのだとしても、もっと穏便に済ませる方法なんていくらでもあったはずだ。その手間を惜しみ、強襲という手を使った時点で彼女達は厄介な敵を増やしてしまったのだから。
『それに、あっちはダンガムの研究資料を根こそぎ奪っていったんだろう? くくくっ、敵にしてはなかなか目の付け所がいいじゃねぇか。もしかしたら魔女達の手によって、スーパーロボット大戦という俺の夢のステージが実現できるかもしれねぇなぁ』
「……ラヴィニアちゃんから今回奪われただろう『
『んー、確か悪魔側にもロボに詳しい中間管理職がいたんじゃなかったか? どうせなら、悪魔側にも保険程度に資料を送ってみたらどうだ。もしかしたらロボット大戦が始まる可能性があるため、対策のための意見が欲しいぐらいでよ』
「アガレス大公家にかい? カナくんが関わっているから、アジュカくん達には今回の件を伝えるつもりではいたけど…。まぁ保険程度に聞いておくぐらいならいいか」
あれはアニメだからいいのであって、ファンタジー世界で現実にSF大戦を始められるのはちょっと勘弁してほしいメフィストであった。なおこの後、夢のスーパーロボット大戦の可能性に大ハッスルした父娘は『駒王町の管理と調停役』という胃の痛い役目に悩んでいた背景を全力で吹っ飛ばし、「駒王学園へ編入し、スーパーロボット大戦をこの目で見てきますわお父様ッ!」と決定打を与えた。
代々魔王と古き悪魔達の間に立って、緩衝材として非常に胃の痛い中間管理職を務めてきたアガレス大公家。そんな立場だからこそ、熱中できる趣味がないとやっていられるかッ! という父の影響を多大に受け、無事にロボマニアへと目覚めたアガレス大公家の姫。その人物こそが、原作でリアス・グレモリー達に並ぶ『
原作では堕天使組織に入り浸り、ロボ開発に情熱を注ぎ、実写ロボアニメをアガレス家の産業として冥界に波及させようと奮闘した若き才女である。当主も娘と一緒にロボが見たいとついていこうとして妻に折檻されながら、こうしてアガレス家の本格参戦が決定したのであった。
『あぁー、そうだメフィスト。あとちょっと面倒なことがこっちであってな…』
「面倒って、これ以上にかい?」
『俺んとこの問題で悪いけどよ。幹部っつうか、研究職のやつらが騒いでいるんだ。十四番目の
溜め息を吐いてばつが悪そうに告げるアザゼル。だが、正直よく三ヶ月以上もあの研究大好きな幹部たちを抑えられたと言うべきかもしれない。堕天使側の裏切り者の確証が得られていない中で、『
『このまま押しとどめ続けたら、無理やり接触を図ろうとするかもしれない。俺なら絶対にそうするからな』
「嫌な信頼だね…」
『似た者同士が集まっているからなぁ。そんな訳でうちの馬鹿共が研究欲を爆発させる前に、せめて顔合わせぐらいはさせておいた方がいいかもしれないと思ってな』
実際に今後のことを考えれば、堕天使の幹部と面識を持っておくのは必要だ。『
『すぐに顔合わせをするつもりはないさ。早くても夏以降を考えているし、それまでに洗い出しが出来ればそれに越したことはないからな。だが、一応耳に入れておいて欲しい』
「ふぅ、お互いに気苦労が絶えないねぇ…」
『まったくだ』
組織のトップとして愚痴をこぼしながら、今後についての話し合いをそれからも続けていくのであった。
――――――
「という訳で、友人同士のお泊り会を始めたいと思いまーす!」
「おー! なのです」
「おとまりー」
「主とおとまりッーー!!」
「どんどんパフパフっ! ……バンバン、盛り上げる時はこれでいいんだよね?」
「間違っていないが口で言うのは違うというか…。あとバンバンはやめろと」
あれから協会に帰った後、メフィスト様に頼んで広めの一室を借り、人数分の布団を敷くことになった。とりあえず今日いきなりお泊り会に呼んでも大丈夫そうなメンバーに声をかけ、枕を片手に宣言をする。俺を含めたいつもの協会メンバー五人にリンとワンコ、デュリオを入れた八人での開催だ。呆れながらも手を叩いてくれるリーバンのツッコミに、デュリオは不思議そうに首を傾げた。
「えっ、だって前に聞いた『リーどん』とか『リーきゅん』とか『リーたん』のどれも嫌って言うから…」
「選択肢」
「バンバンは可愛いと思うのですよ」
「ほら真似する天然が出てくる」
二人の純粋な眼差しに溜め息を吐いたリーバンは、俺の方にもの言いたげな視線を向けてきたが、静かに首を振って諦めろとサインを送る。俺も勝てないから、この二人の勢いには。それが伝わったのか、これ以上訂正する労力の方が疲労が大きそうだと理解したのか何も言わなくなった。彼もこうして世間に揉まれて大人になっていくのだろう。
「そ、それにしてもお泊り会かぁ…。同僚やチビ達と寝たことはあるけど、友達とのお泊り会は初めてだから緊張するよ…」
「停戦協定をしたとはいえ現役の教会の戦士が、その日のノリで誘われた本来なら敵陣になる魔法使いの拠点で寝泊まりする以上の緊張ってあるのか」
「じいさんも参加したそうにしていたけど、任務で来られないことを残念がっていたよ」
「こっちが緊張でおかしくなるわ!」
あっけらかんとしたデュリオに、元気にツッコむリーバンといういつもの光景を眺めながら、俺は手に持っていた枕を綺麗にセットし直しておく。だってさ、友達だし一応ダメ元でデュリオを誘ってみたら二つ返事でOKをもらえてしまったから…。すごく喜んでいたし、デュリオが気にしないならいっかと思って。おじいちゃんはさすがに冗談……だとは思うけど。
唐突なお泊り会の呼びかけに驚かれたけど、何だかんだで付き合ってくれる友人二人に心の中で感謝を述べる。詳しい理由は聞かずに何かあったのだろうと察しながらも、こうしていつも通りでいてくれるのだから。デュリオは治療の時に俺を迎えに協会まで来てくれることが多かったからか、自然と協会メンバーとも顔見知りになっていた。さすがのコミュニケーション能力である。
「正臣さんとクレーリアさんもありがとうございます」
「気にしなくていいよ、後のことはルシャナ達がやってくれるみたいだし。それに……私たちも連絡を聞いて心配だったからね」
「うん、僕も友人として出来ることはしたいと思ったから」
俺からのお礼にひらひらと手を振ったクレーリアさんは、チラッとリーバン達のやり取りにくすくすと笑うラヴィニアを見つめていた。ラヴィニアと付き合いが長い二人には、このお泊り会の趣旨を事前に伝えている。グリンダさんがいなくなってしまったことや、ラヴィニアの第二の故郷が無くなってしまったことを。
今のところ立ち直れたように見えるラヴィニアだけど、大事なものを一気に失ってしまったことには変わりがない。そんな日に一人で眠れるのか、一人で泣いてしまわないかが心配だった。
「せめて今日ぐらいは一緒にいるべきかと思ったんですけど…。だけど、さすがに二人で寝るのは色々ダメだろって考えて…。間にリンを挟めばマシになるかと思ったんですけど、それもちょっとなぁーと」
「カナ、リンの扱いについて小一時間」
頭をがぶがぶされた。
「あははは、うん。でも、カナくんの心配はわかるわ。私は女同士だし、ラヴィニアちゃんのことを色々気にかけておくよ。週に何回かならこっちに寝泊まりにも来れると思うから」
「ラヴィニアのためなら、ヴァーの時みたいにリンも一緒に寝ていいよー」
「ありがとうございます、クレーリアさん。リンも助かる」
このあたりは男の俺だと難しかったからな、女性陣の助けがあってよかった。恋人の正臣さんには申し訳ないけど、気にしないでと笑ってくれた。すると、アニマルセラピー役として呼んだワンコが、エッヘンと胸を張って俺の前に出てきた。
「ご安心ください、ボスッ! いざという時はこの私めが、主の胸の中でムフフなお慰めを――」
「槍」
「きゃうん!?」
「……しっかり躾けているね」
それほどでも。
「えっ、正臣さんとクレーリアさんの結婚式を和平後に!?」
「えぇ、みんなには先に伝えておこうと思って。えっと、ほら…私達って聖書陣営の和平の広告塔って役目があるでしょ? 和平の慶事として合わせたらどうかって言われたの」
せっかく集まったのだからと八人でトランプやUNOなどで遊んだ後、改まった態度でクレーリアさんと正臣さんが教えてくれた式の日取り。顔に朱を走らせながら報告する二人に、俺達はぽかんと口を開いてしまった。思えば、二人の交際期間は六年目に入るのだ。和平後なら付き合って七年目になるんだし、十分すぎる期間だろう。むしろ、あのバカップルっぶりを見続けてきた身としては、ようやくかって感じである。
そういえば、去年の夏に中級悪魔試験の後にベリアル家へ正臣さんは挨拶に行っていたな。停戦協定が結ばれてからは、クレーリアさんの
「おめでとうございます、二人とも。正臣さんも頑張ってきた甲斐がありましたね!」
「ありがとう、奏太くん。ただの教会の一戦士でしかなかった僕が、悪魔貴族のクレーリアと結ばれることができるのはみんなの助けがあったおかげだよ」
俺からのお祝いを皮切りに、みんなで二人に祝福の言葉を届けた。それに真っ赤になって照れるカップルは、相変わらず初々しい反応である。色々情勢を考えてのこともあるだろうけど、やっと二人が結ばれる光景が見られるのかと思うと感慨深い気持ちになった。ずっとイチャイチャを見せられてきたしな、うん。
「おめでとうございます、式場とかは決まっているんですか?」
「うん、駒王町の教会で紫藤さんや仲間のみんなにお願いしようと思っているんだ」
「ふふっ、紫藤さんのところで式を挙げるのが夢だったもんね」
「悪魔が教会で結婚式って、さらっととんでもないことをやるんだね…」
お祝いをしてくれたデュリオだが、まさか悪魔が教会で結婚式を挙げるとは思わずカルチャーショックを受けているようだった。本来なら、悪魔は教会本部には近づけないもんな。俺がいれば『無害な聖なるオーラ』に変えられるけど、傍から見たら教会が悪魔を拒絶せずに祝福したように見える。二人の結婚式を広告塔として使うなら、これほどインパクトのある式はないだろう。
「こんな美女と結婚なんて、羨ましけしからんなぁ。ハスハス」
「結婚式って大きなケーキが食べられるんだよね。テレビで見たことある! リンはフルーツがいっぱいあるケーキがいいなぁ」
「あら、それも美味しそうね。じゃあ、せっかくなら冥界や人間界の果物をふんだんに使ったケーキをお願いしてみようかしら」
「やったー!」
こらこら、ヒトの結婚式で食い気を発揮しないの。ノリノリの使い魔に呆れてしまうが、二人が納得しているならいいかと肩を竦めた。クレーリアさん達がこの話を今回してくれたのは、少しでも明るいニュースで場を盛り上げようとしてくれたからだろう。友人の慶事に嬉しそうに喜ぶラヴィニアを見ながら、俺はホッと小さく息を吐いた。
「クレーリアとマーシャが幸せそうでよかったのです」
「ありがとう、ラヴィニアちゃん。恋人って関係もすごくよかったけど、やっぱり夫婦になるって思うとまた違うのよね。さらに心が満たされていくって感じがして」
「心が満たされる…?」
「不思議とね、ラヴィニアちゃんもいつかわかるわ。二人でつくる未来を分かち合いたい、っていう特別な感情が」
「……二人で未来をつくる」
胸の前で考え込むように手を握るラヴィニアに、クレーリアさんはウインクをして優し気に彼女の頭を撫でていた。不意にラヴィニアと目が合った気がしたけど、視線が合ったと思った瞬間には何故か逸らされてしまった。俺はそれに首を傾げたが、それを見ていたクレーリアさんは微笑ましそうに笑顔を浮かべるだけだった。
「まぁでも、結婚はまだまだ先だからね! 今は恋人っていう甘酸っぱい関係をさらに謳歌しなくちゃいけないわ。ねっ、正臣?」
「もちろんだよ、クレーリア。キミと恋人でいられる素敵な時間を決して無駄にはしないさ!」
ガシッ! と抱き合う相変わらずの日常風景をスルーしながら、そろそろ寝ようかと準備を始める俺達。耐性のないデュリオだけが、顔を真っ赤にして「うわ、うわぁ…」と呻いていた。ごめん、初心者がいるのを忘れていたわ。一ヶ月もすれば慣れるよ、とトントンと肩を叩いたら「カナたんの友人だもんね…」と頷いてくれた。デュリオの俺に対する認識がどうなっているのか、いつかじっくり話をしようと思う。
それからもしばらく話は続いたが、そろそろ眠気が来たことでみんなで布団の中へと入っていった。グリンダさんのこと、少しでもラヴィニアの気持ちが軽くなれていたらいいと思う。もしかしたら、お節介が過ぎたかもしれないけど…。俺にはこれぐらいしかできないからな。
「眠れそうか、ラヴィニア」
「はい、大丈夫です。あの、カナくん…」
「ん?」
「今日は…、手を握って眠ってもいいですか」
「……いいよ」
ラヴィニアは俺の隣の布団に入り、俺が伸ばした手を掴むと安心したように瞼を閉じる。リンも伸ばした俺の腕を枕にして、くわぁっと大きく欠伸をしていた。それに小さく笑うと、少し冷たいラヴィニアの手の温度を感じながら俺も同じように目を閉じたのであった。