えっ、シスコン魔王様とスイッチ姫みたいな力ですか?   作:のんのんびり

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 明けましておめでとうございます。去年は体調や多忙のため、更新が不定期になってしまいすみません。今年もマイペースになりますが、無理せずコツコツと書けたらいいなと思います。いつも応援して下さること、本当に感謝しています。

 今回から教会内部に踏み込んでいきますので、そこにスポットを当てられたらと思います。


第二百二十一話 前途

 

 

 

「ふぅ、この祭服を着るのもだいぶ慣れてきたなぁー。クレーリアさん、ラヴィニア、変なところってない?」

「ちょっと待ってね。うん、OKかなぁー」

「はい、大丈夫だと思います」

 

 私室で着付けを手伝ってくれた二人の前でゆっくりと一回転をし、後ろも確認してもらった。細かな飾りが多いため、俺一人だと着付けも一苦労なのだ。そのため、基本女性陣にチェックをお願いしてもらっている。いつも思うけど、お偉いさんってよくこんな大変な服を毎日着られるよなぁー。最後にゆっくりとミトラを被り、裾を引っ張って正しておいた。

 

 教会の錬金術のおかげで汚れは問題ないし、多少の揺れなら帽子も落ちない。それでも、この服を着ると慎重に動こうとしてしまう。傍目から見て、服に着られている状態に見えるのは俺だって避けたいのだ。最後に朱雀からもらった飾り縄を腰につけ、銃や杖の点検を行っておく。癖っ毛のある黒髪をラヴィニアに後ろから整えてもらい、後はデュリオが迎えに来るのを待つだけになった。

 

「今日は帰りが遅くなる予定だから、晩御飯はおじいちゃん達と食べてきますね」

「あっ、そういえば今日だったね。わかったわ」

 

 俺達の晩御飯はいつもクレーリアさんが作ってくれている。何だったら、朝御飯や時間が合えば昼食をお願いすることもあった。協会で仕事がある時は、安全で美味しい食事が食べられるクレーリアさんの食事処に自然と集まってしまうのだ。日本食も食べられるし、好きな注文も受け付けてくれる。ちなみに、彼女が駒王町に行った後はベリアル眷属のみんながお店を兼任してくれるのでそこも安心だ。

 

「そういえばクレーリアさんって、いつ頃から駒王町勤務になるんですか?」

「うーん、たぶん夏以降になると思うよ。ほら、駒王町には悪魔と教会の支部はあっても、堕天使側はなかったでしょ。だから、今急ピッチで拠点を作っているんだって」

「つまり、堕天使側の準備が終わってからってことか…」

 

 それなら夏の間に、クレーリアさんのお疲れ様会&行ってらっしゃい会をやりたいな。ルシャナさんあたりにでも相談してみよう。今は教会からの引継ぎも合わせて、週に何回か駒王町にクレーリアさんは行っている。そこに堕天使サイドが正式に加われる環境が出来てから、本格的な管理者業務の開始ってことだろう。

 

「夏までにここでの業務を終わらせて、引継ぎもしておかないと。次の職場のことも大事だけど、ここに残る眷属もいるから魔道具の研究やお店のことも任せないとだしね…」

「クレーリアも大変ですね」

「まぁね、でもやってみせないと。私は(キング)で、次期ベリアル家の当主ですもの。まだしばらくはおじさまに当主を頑張ってもらわないといけないけど、お兄様が安心して皇帝の業務に励めるように私がベリアル家を引っ張っていけるような実績を今度こそ積まないとね」

 

 ベリアル家の現当主にはディハウザーさんという立派な息子さんがいるけど、彼はレーティングゲームの皇帝だ。彼がベリアル家の当主になるなら、当然ゲームに参加するのは難しくなってしまう。事実、彼がゲームに参加するのを家族が止めたのは怪我も心配だが、次期当主でもあったからだろう。それでもゲームに参加したいという我が儘を貫いて皇帝になった彼の背中を見て育った幼いクレーリアさんは、ならば自分が当主になって兄を支えようと勉強を始めた訳だ。

 

 彼女が人間界の駒王町へ留学していたのも、ディハウザーさんに代わってベリアル家の次期当主になるため。まぁ、その過程で正臣さんと恋人になって色々あったわけだけど…。迷惑をかけてしまった分、今度こそやり遂げたいという思いでいっぱいなのだろう。まだまだ困難は多いけど、是非とも頑張って欲しいものである。

 

「私のことは置いといて、カナくんの方はどうなの? 治療とか、新しい組織を駒王町に作る計画とか」

「そっちはぼちぼちです。今は重傷者の治療を優先していますが、それが終わってもまだまだ治療が必要な人は大勢いますから。命に別状がない症状でも神器関係の治療は現状俺しかできませんので」

「総督さんが色々研究をしてくれているとは聞いていますが…」

「うん、それでも完治までは遠いみたい。こればっかりは、年単位で地道にやっていくしかないかな」

 

 実際、数年後の原作でも症状を緩和させるので精一杯な感じだった。相棒が先生に神器のデータを渡したり、聖書陣営同士や仏教陣営で情報交換をしたり出来る分、多少は研究の成果は早まるだろうけど。先生が夏に堕天使の幹部と顔合わせをさせたい理由の一つが、相棒の力についてもっと詳しく研究するためもあるのだろう。このままだと俺の負担が大きいからって前に聞いたと思う。

 

「あと重傷者の治療行為が落ち着いたら、次は悪魔の『眠りの病』の研究に俺は入らないといけないんですよね。古き悪魔や悪魔の上層部との契約って理由もありますが、命の危険がある病の研究を後回しにするのは俺も嫌ですし」

「……改めて思うけど、カナくんもだいぶ忙しいよね」

 

 クレーリアさんから労わりの言葉をもらいながら、俺も乾いた笑みを溢した。こればっかりは俺にしかできないことだから仕方がない部分もある。停戦協定を結んだとはいえ、次期聖書の神様の力を宿す相棒を危険視するのは敵対していた悪魔側からしたら当然のことだ。その不信感を少しでも緩和させるには、こちらが有益な存在だと示す必要があった。

 

「その分、新組織に関しては大人の皆さんが主軸で進めてくれています。悪魔側は新組織の立地や建設、他組織との外交や契約を担ってくれて、堕天使側は神器に関して教鞭を取ってくれる人材の育成や教育計画、教会側は人としての戦闘訓練や世界中から神器所有者を見つける目や足になってくれます。裏側の世界で生きるための指導や訓練は協会の魔法使いにも何人かお願いしているところみたいです」

「まさに組織の垣根を越えた一大プロジェクトって感じですね」

「前にカナくんから聞いた仏教陣営の皆さまは?」

「そっちは正式に和平が成立した後になるかな。新規の神器所有者の情報を見つけたら知らせてくれるみたいだから、今は世界の混乱を避けるために協力は最小限になっています」

 

 正確には、仏教陣営は異世界対策を優先してもらうために他神話との繋ぎを最優先でお願いしているのが事実だけど。これは二人に伝えられないから、表向きの情報を教えるしかない。神器所有者の為の組織は俺が言ったことなのに大人たちに丸投げは本当に申し訳ないけど、俺にしかできないことを優先するべきだと全員から説得されてしまった。

 

 治療に研究に組織経営とか、さすがに俺だけだと無理だ。それなら、できるヒトにお願いするべきである。自分でいうのもなんだが、人脈がバグっている自覚はあるからな。使わない手はない。

 

「組織経営とかさっぱりな素人の俺がやるより、経験者に任せるのが一番だからな」

「それも一つのトップの形ではあるよね」

「いざって時は、カイザーさんにもお願いできるし」

「えっと、開発局長って呼ばれているドラゴンヘッドを被った魔法少女さんだよね…? だ、大丈夫なのかな? その、神器所有者の人が魔法少女にされちゃったりとかは…」

 

 以前駒王町で挨拶をした時のインパクトがまざまざと残っているクレーリアさんが俺の提案に不安そうにするが、そのあたりは安心して欲しい。意外とカイザーさんってアレで感性はまともな人だよ? 悪の組織のボスだったから周囲を困らせることはあっても、子どもや一般人にトラウマを植え付けてはならないって絶対に手をあげなかった。どれだけ自分たちが不利になっても、組織全体でその掟を守り切ったのだ。だからこそ、駒王町であれだけ暴れたのに住民に何だかんだで受け入れられた訳である。

 

「魔法少女に勧誘することはあると思いますけど、無理やり魔法少女にするようなことはやりませんよ。魔法少女は正義の象徴ですからね、基本やりたいヒトしか勧誘はしません。同意なしで魔法少女にしていいのは敵や悪いことをした相手、戦術って認めてくれる心の広い方だけです」

「……つまり、神器所有者で悪いことをしちゃった人は」

「魔法少女にして性根を鍛え直せばいいですよね」

 

 俺がさらっと言うと、めっちゃドン引きされた。でも、一番効果的だと思うよ? 例の借金夫婦も、魔法少女を天秤にかけたら真面目に働くようになったし。現在の駒王町の治安維持は、教会と魔法少女のみんなで担ってくれている。魔法少女達は慈善事業をする傍らで、自給自足体制も築いているし、独自の開拓ルートを使って商売も始めている。福利厚生もいいから、無職にも優しいのだ。

 

 俺も色々投資しているし、潤沢な研究費で魔法少女コンパクトを大量に生産しているので人手はあればあるだけいい。無一文の犯罪者も問題なく初日から魔法少女として働かせることができるシステムだ。保護した神器所有者が全員真っ当に生きてくれるかはわからない。でも、悪いことをしたら魔法少女に生まれ変わるってルールがあれば多少の抑止力ぐらいにはなると思った。

 

「任せてください、クレーリアさん。俺も新組織のトップに立つことになりますから、安心安全な駒王町の街作りに協力は惜しみません。悪いやつは根こそぎ魔法少女にしますので、クレーリアさんは安心して管理者業務を頑張ってくださいね!」

「ありがとう…。本当にこれでいいのか心が迷子になりそうだけど、カナくんの善意とペナルティーの恐ろしさはしっかり伝わったよ」

 

 うんうん、どういたしまして。ビシッと親指を立てると、クレーリアさんも同じように返してくれた。目は遠かったけど。

 

「カナくん…。もう難しいことは放り投げて、とりあえず魔法少女にしてしまえばいいやって思っていません?」

「……だって、効率的で全年齢性別対象に出来て、見た目に目を瞑れば道徳的で効果も抜群なんだもん」

「否定できないのが悲しい世の中だね…」

 

 ラヴィニアにジト目の眼差しをもらってしまい、俺は頬を掻いて視線を逸らす。悪いヤツは全員魔法少女にしてしまえば世界は平和になるかもしれない、とか頭の隅でしか考えていないからね。あまりにも強力過ぎるんだよ、魔法少女っていう概念が。さすがは正義の象徴である。

 

 

「えーと、そういえばカナくん。その腰につけている飾りってどうしたの? 以前はつけていなかったよね?」

「あっ、これですか。ついこの間、お礼でもらったんですよ」

 

 クレーリアさんからの明らかな話題転換だったが、俺もその流れに素直にのることにした。この前の朱芭さんの四十九日法要の時に、朱雀からもらった飾り縄をさっそくつけてみた訳だ。注連縄代わりと思うと微妙な気持ちになるけど、どこにでもつけやすいという点は間違いない。

 

「へぇー、蝶の模様になっていてオシャレだね」

「その飾り縄、朱雀からのプレゼントですか?」

「うん、前に朱芭さんと一緒に簪をプレゼントした時のお礼だってさ。神職関連の知識って秘匿技術が多いから、色々教えてくれる朱雀には感謝しているよ。これなら飾りとしてつけられるし、どこにでも持っていけるからさ」

「……どこでも」

 

 ジッと俺の腰のあたりを見つめるラヴィニア。何だか羨ましそうである。

 

「ラヴィニアも欲しいのか? なら、朱雀にもう一個作って欲しいってお願いしようか」

「えっ、そ、それは朱雀に悪いのです! それに私が見ていたのは欲しかったからではなくて…」

「うん…?」

「すみません、自分でもこの気持ちが上手く言葉にまとめられないのです…」

 

 心から申し訳なさそうにするラヴィニアに、俺の方こそ気にしていないと伝えた。彼女自身も言っていたが、戸惑っていそうなのがよくわかる。俺は他者のオーラを感じ取ることに敏感だからか、さっきのラヴィニアの様子的に羨ましく思っていたのは確かだろう。あまり物欲の強くない彼女にしては珍しいと思ったのだ。だけど、飾り縄が欲しい訳ではないのか…。

 

 首を傾げる俺の視線に恥ずかしそうに視線を彷徨わせるラヴィニア。そんな俺達の様子をおやおやという表情で頬に手を当てて、微笑ましそうに見つめるクレーリアさん。しばらくすると、考えをまとめたらしいラヴィニアがおずおずと口を開いた。

 

「私も、カナくんにプレゼントをあげたいと思ったのです」

「あげるって、ラヴィニアから俺にってこと?」

「はい…」

 

 こくんと頷くラヴィニアに、俺は人差し指で頬を掻いた。うーん、これはどう応えるべきなんだろう。いつもお世話になっているお礼ってことかな? だとしても、それはお互い様だって俺は思っている。それならそれで、気にしなくてもいいよって普段なら言うんだけど…。でも、なんとなくラヴィニアのこのお願いを拒んではいけないような直感が働いた。

 

 俺は自分のこういった直感を無視してはならないと思っている。実際に何度も助けられてきたからだ。ならここは、素直にラヴィニアのお願いを聞くべきだろう。しかし、どう切り出せばよいか迷ってしまう。そんな俺達を見たクレーリアさんが、仕方がないなぁという表情でウインクをした。

 

「ラヴィニアちゃん、カナくんにプレゼントをあげたいのよね。それも……出来ればいつも身に着けてほしいなぁって感じのプレゼント」

「えっ!? な、なんで…」

「ふふっ、ちょっとした女の勘。その気持ちの理由は今はまだわからないだろうけど、いずれわかるようになるから大丈夫。今日はお姉さんが先導してあげるわね」

 

 ニッコリと笑みを浮かべたクレーリアさんに、戸惑いながらも頷くラヴィニア。俺とラヴィニアだけだとわたわたするだけだっただろうから、ここは彼女に任せた方がいいだろう。人差し指を口元に当てて俺の方を上から下に眺めたクレーリアさんは、不意に先ほど点検のためにテーブルに置いていた杖を見据えた。

 

「そうねぇ、カナくんの役に立って、ラヴィニアちゃんだからこそのプレゼントって考えれば…。カナくん、今使っている魔法の杖ってだいぶ年期が経っていたりしない?」

「そうですね。協会に入った時にメフィスト様からもらった杖なので、もう六年ぐらいは…」

「うんうん、じゃあちょうどいいかも。カナくんも魔法使いとしての経験を色々積んだだろうし、そろそろ中級者用の杖に変える時期じゃないかな」

 

 言われてみると、確かに六年前だから初心者用に使いやすい杖ってことでもらったと思う。シンプルで使い心地も良かったから、ずっと変わらず使い続けていた。魔法を使う時の補助具だし、護身のために常に身に着けている物なのは間違いない。思い出の品で愛着もあるけど、クレーリアさんの言う通りでもある。俺はテーブルに置いていた杖を片手で持ち上げ、クルクルと見まわしてみた。

 

「カナくんは杖の良し悪しってわかる?」

「えーと、さっぱりです」

「でしょ? そこで優秀な魔女であるラヴィニアちゃんなら、今のカナくんにぴったりの杖を選べるんじゃないかな。メフィスト会長の杖に思い入れはあるだろうけど、パートナーからもらった杖も素敵じゃない?」

「それはもちろん」

 

 クレーリアさんの宣伝に同意を示すように、うんうんと思わず首を縦に振ってしまった。続いてラヴィニアの方へクレーリアさんは振り向くと、まだアピールポイントがあるよと伝えるように人差し指と中指を二本立ててピースを作った。

 

「それと…、ラヴィニアちゃんもカナくんと一緒に杖を買い替えるのもありよ?」

「えっ、私もですか?」

「もちろん、カナくんとお揃いの杖にね」

「――ぴゅっ」

 

 ピクッと肩を揺らしたラヴィニアは、自分の杖と俺が持っている杖を交互に見比べた途端、何やら小さな鳴き声のような声をあげて俯いてしまった。クレーリアさんに視線を移すと、もうニッコニコな表情である。アレはラヴィニアの反応を見て楽しんでいるなぁ…。私にもこんな時期があったなぁーと呟きながら、俯くラヴィニアの頭をいい子いい子するように撫でていた。

 

 ラヴィニアの様子からして、一緒に杖を買いに行くってことで決まりでいいのかな。実際、俺一人じゃ杖の買い替えなんてできないので、ラヴィニアに選んでもらった方が助かるし嬉しい。せっかくなら性能の良い杖を使いたいしな。

 

「ちなみにー、カナくんはラヴィニアちゃんとお揃いってところはどう思う?」

「いいと思いますよ。あと俺の反応を見たいなら、すでに姉と母の所為で鍛えられたので期待しないでくださいね。小学生の頃からラヴィニアと一緒に実家へ帰ったら、何故かお揃いのパジャマや食器等を用意されてニヤニヤされた歴史があるのでもう耐性がついてしまっています」

「カナくんのご家族って、濃いよね…」

 

 しみじみと呟かれてしまった。俺が正臣さんやヴァーくん、朱雀をついつい弄っちゃう性格は、間違いなく倉本家の遺伝だと思いますよ。それにしても、その当時は俺とお揃いでも天然を発動して特に気にもしていなかったはずのラヴィニアが、今更そのことで反応するとは…。チラッとクレーリアさんに視線を送ると、アイコンタクトを受け取ったようで両手で拳を握りしめて小さなエールを送られてしまった。

 

 クレーリアさんがラヴィニアの戸惑いにあえて明言をせず、アドバイスだけを送ったのは彼女自身の気持ちが芽吹くのを待つためだろう。俺は後ろ手に髪を掻き、静かに吐息を漏らした。今なら鈍感系主人公たちがちょっと羨ましく思う。まぁ、本当にただの勘違いって可能性もあるかもしれないけど…。

 

 アザゼル先生と話した時のことを思い出す。ラヴィニアはグリンダさんという心の支えを失ったことで、俺に対して依存傾向のようなものがより感じられるようになった。みんなの気遣いや時間のおかげで少しずつ傷は癒えてきているけど、奥底にあるトラウマは消えていない。だからこそ、俺は彼女の答えを待つ必要がある。大切なパートナーだからこそ、しっかり向き合いたいのだ。

 

「カナくんは、それでいいですか…?」

「もちろん、喜んで。じゃあ、今度一緒に買いに行こうな」

「――はい!」

 

 両手で杖を抱きしめて、嬉しそうに笑顔を見せるラヴィニアに俺も笑みを返した。

 

 

 

――――――

 

 

 

「デュリオってさ、女の子と付き合ったこととかある?」

「うえぇッ!! お、女の子とッ――!?」

「ごめん、ガチで人選ミスったわ」

 

 あわわっと顔を真っ赤にしてあたふたするピュアボーイ過ぎる反応に俺は素直に謝罪した。そうだよ、原作で煩悩なんて一切感じない天使の中の天使だったデュリオにこの手の話は無理だろ。彼女を作るより、子ども達の笑顔が優先のキングオブお兄ちゃんだぞ。原作ではイッセーのハーレムに関してさらっと流していたけど、この時期はまだまだお年頃のようである。

 

 ラヴィニアとクレーリアさんとのおしゃべりが丁度よく終わった頃に迎えに来てくれたデュリオと共に、ヴァチカン本部へといつも通り転移をした俺達。先ほど無事に今日の分の治療を終わらせ、今は禁手で減った体力を回復するために休憩中であった。頭から湯気が出ている純情少年に手を合わせてペコペコしていると、傍で俺達の会話を聞いていた猊下が肩を揺らして笑っていた。

 

「ククッ、戦士デュリオ。まだまだ修行が足りんぞ」

「ちょっとじいさん、修行で何とかなるもんじゃないっスよ…」

「煩悩は時に判断を鈍らせる。愛を否定するつもりはないが、常に冷静な思考が必要だ。まぁ、戦闘時は問題ないだろうが」

「当たり前っスよ。そこは命に関わることですから」

 

 おじいちゃんからの小言に当然のように頷くデュリオ。相変わらず、教会の戦士の皆さんの戦闘に関する切り替えはさすがである。まぁ、煩悩とかは特に魔の者の常套手段だしね。イッセーみたいに戦闘中でも煩悩優先で戦える方が稀だろう。むしろ煩悩まみれの時の方がバフがかかって強い時もあるからよりヤバいんだけど。おっぱいドラゴン、改めて理不尽な存在である。

 

「すみません、こっちの都合なのでさっきの話は気にしないでください」

「こっちもごめん。そっち方面はあんまり力になれそうにないし…」

「はっはっはっ、若もお年頃という訳ですな」

 

 微笑まし気な猊下の笑い声に頬を掻きながら、そろそろ出発しましょうと立ち上がった。感覚的なものだけど、禁手による負担は回数を重ねるごとに減っている気はする。これならいずれ禁手時に二回能力を発動できる日も近いだろう。治療に関してもコツが掴めてきたし、『理解(ビナー)』のパッシブ効果のおかげで効率もどんどん上がっている。歩みは遅いかもしれないけど、自分でも成長が感じられた。

 

「まずはイリナちゃんを迎えに行かないとですね。イギリスの訓練所にいるんでしたっけ」

「えぇ、エヴァルド・クリスタルディの師事を受けていると聞いております」

「クリスタルディ助祭枢機卿っスか! 俺も教えを受けたことがあります」

「確か様々なエクスカリバーの能力を引き出せる、技巧派の実力者ですよね」

「うんうん、クリスタルディ先生は厳しいけど優しい人だよ」

 

 デュリオにとって自慢の先生なのか、イリナちゃんを迎えに行くついでに会えるのが嬉しそうだ。エヴァルド・クリスタルディ助祭枢機卿は、原作でヴァチカンのナンバー四として登場し、多くの教会の戦士達に戦い方や心得を教えた恩師とされている。紫藤イリナ、デュリオ、ゼノヴィアといった原作の教会メンバー全員がお世話になっていたらしいけど、ここでイリナちゃんと関わりができるとは。

 

 彼は原作ではストラーダ猊下と同様に教会の戦士達によるクーデターの旗頭の一人として前線に立っていた。彼自身は聖書陣営の同盟に関してデュリオ達に厳しいことを言っていたけど、本当は納得がいかない戦士たちの気持ちを代弁して伝えていた。その想いを汲み取ったデュリオの能力である『虹色の希望(スペランツァ・ボッラ・ディ・サポネ)』によって戦意を喪失してくれたけど、もし真正面から戦っていたら『D×D』メンバー達も厳しい戦いを強いられていたことだろう。

 

「戦闘師事といえば、イリナちゃんは駒王町にいた頃アーメンパンチを極めていたんですよね。もしおじいちゃんがよければ、イリナちゃんに色々教えて欲しいなぁーって思っていたんですけど」

「ほぉ、拳主体とは面白いですなぁ。得物を使った戦闘を戦士エヴァルドから教わっているでしょうから、機会があれば私も参加してみましょう」

「さらっと教会最強にお願いしちゃうあたりが、カナたんだよね…」

 

 大事な妹分のためですから。教会の方々からしたら豪華すぎて遠い目になりそうだけど。

 

 

 休憩用の部屋から出て、ヴァチカン本部の廊下を三人で歩いていると何人もの教会関係者と不意に視線が合った。さすがに治療を始めて何ヶ月も経つからか、最初の頃にあった見世物状態は段々なくなってきている。最近では治療された子どもの数も増えてきたため、不審感を感じる視線はないし、むしろ敬意を表す人も現れてきた。デュリオが当初に言っていた通り、実力を示すのは確かに有効的だったのだろう。

 

「…………」

 

 その代わり、彼らと目が合うと畏怖のような、どこか『違う生き物』を見るような視線と交わる様になった。不治とされていた死病を癒す存在。治療すれば感謝だってされたし、畏敬の思念も感じられた。それでも、どこか見えない壁のようなものが彼らとの間にあり、『自分達とは違う存在』なのだとその目が訴えているようだった。

 

『彼らが裏で自分の力を異質なものを見るような目で見ていることを――人間ではなく、まるで「人を治療できる生物」のような感じで――』

 

 あぁ、なるほどなぁ…。癒しの力を発現した当初、俺だって同じことを考えたじゃないか。『彼女』のような境遇を。待遇に不満はないし、みんなよくしてくれる。自分の力が役に立つのが嬉しいし、導いてくれた相棒に感謝だってしている。確かに、よく似ているな…。

 

「カナたん、どうかした?」

「いいや、何でもない」

 

 だけど、違いがあるとすれば――俺は自分の意思でこの道を選んだことだ。そして何より、一人じゃない。こちらを心配そうに見つめる二人の目に俺は肩を竦めて笑い返す。周りからの視線を外し、真っ直ぐに前を見据えて歩き出した。

 

 

 ヴァチカン本部からイリナちゃんがいる教会の施設まで移動するには、天界の技術によって作られた転移門を通ることになるらしい。魔法とは違ったギミックで動いているらしいけど、まぁ用途はいつも使っている転移魔法と同じだろう。イギリスの教会支部へと繋がっているようで、そこからは自分の足で向かうことになるようだ。

 

 ヴァチカンから任務でイギリス方面に行く教会の人達が、俺達の方を見てギョッと目を見開いているのが見える。教会の最高戦力が二人も一緒に歩いているんだから、思わず硬直してしまう気持ちはわかった。意図せずスムーズに順番を譲ってもらうことになり、ちょっと申し訳ないなぁ…という気持ちになっていたが、ふと転移門の前にいる二人組の戦士が目に入った。

 

 見ただけで歴戦の戦士だと思わせる風格を持った三十代ぐらいのイタリア系男性神父。無精髭を生やしているが、オールバックでまとめられている容姿からは精悍さが感じられた。感知の感覚からコートの裏側に聖剣の波動を察知し、この時代だから天然ものの聖剣の因子を持っている戦士なのかと思わず感心してしまった。

 

 そして、そんな男性神父の隣にいたのは小さな背丈の少年。年頃はヴァーくんぐらいで、幼さが感じられる可愛らしい容貌だ。肩口あたりに切りそろえられた白髪の髪を後ろで一つ結びにし、周りのざわつきからこちらへ不審そうに赤い瞳を向けていた。……ちょっと待て、白髪で赤い瞳? ついつい二度見をしてしまったが、このような特徴を持つ子どもを俺は原作知識で知っていた。

 

 以前対峙したジークフリートと面影のある容姿。それは英雄シグルドの遺伝子を持っている証拠でもあり、戦士養成機関シグルド機関の所属であることも示している。ジークフリート以外にこの特徴を持っている相手を俺は一人だけ知っていたし、この時期ならまだ教会の所属でもおかしくない。だけど、まさかこんなところで会うか? と頭を抱えたくもなった。

 

「少し厄介な相手とかち合ってしまったな…」

「じいさん、知り合いですか?」

「お前も名なら聞いたことがあるだろう。エクスカリバーの兄弟剣とされる聖剣ガラティンを所持する聖剣使いの一角――ダヴィード・サッロ殿だ」

「……あちゃー、わりと過激派のお方っスね」

 

 おじいちゃんからの紹介を聞いて小声で目元を手で覆ったデュリオは、さりげなく俺の前方に立って前方の神父からの視線を遮るように立った。どうやら名のある教会の戦士らしいけど、あんまり友好的ではない感じなのかな。できれば、俺達のことは気にせず先に行って欲しいけど、周囲の様子からこちらに気づいた男性は獰猛な笑みを浮かべていた。あっ、ダメですねこれは。

 

「これはこれは、ヴァスコ・ストラーダ猊下。それに『天界の切り札』と謳われる戦士デュリオ・ジェズアルドも一緒とは…。ということは、そこにいるのが例の魔法使いという訳ですか」

「……っ」

 

 不敵な笑みを浮かべて戦意を隠さないダヴィード・サッロさんのオーラに、ごくりと唾を飲み込みかけた瞬間――

 

「わーおわおっ! センセ、センセッ! このムキムキのとんでもないオーラを纏っているお方が噂の猊下ですかい!? でもって、そっちのイケメンの兄さんが『煌天雷獄(ゼニス・テンペスト)』っていう神滅具(ロンギヌス)の所有者やんすねっ! すんげえ強そうで興奮マックスでございやすよォッ!」

「……うわぁ、キャラが濃えぇ」

 

 ギラギラとした眼差しでぶっ飛んだ言動と合わせてピョンピョン飛び跳ねる白髪の少年のハイテンションに色々吹っ飛ばされてしまった。どうしよう…語尾の脈絡がなさ過ぎて、よく一息で言い切ったなぁと思わず感心してしまった。この年代の頃から、原作の片鱗を垣間見てしまった気分だ。

 

 他にも原作には出ていないシグルド機関出身者はいるだろうと希望を持っていたが、さすがにこんなのが他にもいる方が悪夢である。強者オーラを滲み出していたところを弟子のテンションで邪魔されたダヴィードさんは、片眉をピクピクとさせていた。

 

「……フリード」

「うおぉーっと、そんなすんごいお方達に囲まれてちゃってるそっちのお兄さんが、噂に聞きし謎の魔法使いのお偉いさんですかい! ちょっーと前なら、遠慮なくチョンパしちゃってましたがセンセにダメになったと聞いたんでぇ、バキューンはお休みでやんすなっ! 俺はフリード・セルゼンと言いやす。以後、お見知りおきを…ヘヘヘッ!」

「えっと、ど、どうも…」

 

 なんでアーシアちゃんに会いに行こうとしたら、別の原作の登場人物とエンカウントすることになるんだよぉ…。アーシアちゃんが初登場した原作一巻から、一緒にいた最古参なのは間違いないけどさっ! そんな原作繋がりはいらないよ!? まぁ、おじいちゃんとデュリオが一緒だから大丈夫だとは思うけど…。それに言動は危険極まりないが、こっちを攻撃する意思みたいなのは本当にないみたいだ。

 

 あと何というか、原作で感じられた見境なく愉悦を滲ませていた狂気みたいなのが薄い様に感じた。隣にいるおじいちゃんとデュリオからの覇気に一瞬ビクッとなっていたので、その影響もあるだろうけど。お互いに武器は抜いてないが一触即発だった空気に、これでは話にならないと先にオーラを引っ込めたのは聖剣使いの方だった。弟子の不始末を謝罪するように、溜め息を吐いていた。

 

「落ち着け、フリード。猊下の御前だ、今は俺が話をする」

「およよっー? ボスってば、もしかして(おこ)ですかい?」

「…………」

「はいな、センセッ!」

 

 ダヴィードさんの空気からやり過ぎを察知したのか、直立不動で元気に返事を返すフリード・セルゼン。言われた通りに素直にお口をチャックしているが、先生に怒られちゃったぜ☆ と構ってくれたのが嬉しそうな様子を隠さないいたずら小僧のような表情をしていた。それに俺は目を瞬かせてしまった。

 

 確かに原作の面影はあるし、言動や行動もヤバいけど、この時期のフリード・セルゼンは原作の『彼』ほどまだ堕ちていないのだとふと直感が働いた。だって大好きな師に甘える姿は、年相応の少年そのものだったから。

 

「本当に前途多難だなぁ…」

 

 どうやら今回の教会訪問は簡単には終わらなさそうである。教会関係のごたごたは、まだまだ大変だと小さく肩を竦めたのであった。

 

 

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