えっ、シスコン魔王様とスイッチ姫みたいな力ですか?   作:のんのんびり

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 どうも、作品を読んでいただきいつも感謝です。今回は今後の流れをまとめてみました。それにしても、気づけば9周年に突入していたことに自分でもびっくりである。


第二百二十七話 報連相

 

 

 

 アーシア・アルジェントちゃんを駒王町の使者に勧誘してから数週間が経った頃。去年の年の暮れに行われた停戦協定から約半年程度が経過したことも踏まえ、今日は協力者全員が集まる大報告会の日になっていた。なんだかんだで忙しいトップ陣が勢揃いするのは難しいので前々から期日を決めていたのだ。各々個人的に連絡を取ったり、相談したりはしているみたいだけど、全体に共有するべきという情報を持ち寄り、報告したり、協議をしたりするのが目的である。

 

 聖書陣営である悪魔、堕天使、天使のトップはもちろん、魔法使い代表のメフィスト様、仏教陣営代表の玄奘老師という錚々たる面子。そこに入ってしまう俺に首を傾げそうになるが、一応は将来の組織のトップだしね。なお、三年分の秘密暴露事件の後から、「こいつに悩みを溜めさせたら碌なことにならねぇ!」と絶対参加が義務付けられている。皆様の中で俺は爆弾か何かですか…?

 

 前回全体で集まったのは俺がやらかして仏教陣営が説法しに突撃したぶりだから、こうして全員が揃う場面は相変わらず圧巻である。個々で会ったり、連絡したりすることは多いんだけどね。悪魔側はアジュカ様との概念修行の時に、堕天使側は治療のために施設へ二週間に一度、天使側は教会での治療時や辺境に行く時等々。だからか、このメンバーの中で一番の情報通は俺だったりする。

 

 そんなわけで、俺が起因の問題関係もだいたいここで共通の話題としてあげられやすいのだ。

 

『それじゃあ、今回の報告会をさっそく始めるぞ。まず最初に報告する順番を決めるが、……カナタ関連で報連相があるヤツは挙手』

 

 映像越しのアザゼル先生による最初の掛け声から早速、全勢力がビシッと手をあげる統率された光景。俺に関する報連相だけ別のカテゴリーに分けられていることに遠い目になる。そんな異様な光景に何も疑問を持つことなく納得気味にアザゼル先生は頷くと、テキパキと振り分けを始めた。

 

『じゃあ次に胃に優しい順に分けていくぞ。素の状態で聞いて問題のない内容のヤツ挙手』

『天界からは二件ほどあります』

「魔法使い側からは一件だねぇ」

『堕天使も一件だから胃に優しいのは合計四つか…』

 

 胃に優しいかの質問でスッと無言で手を下ろした仏教陣営と悪魔陣営と俺にアザゼル先生の口元が引くつく。最低でも三件は胃に優しくないことが確定したからね。メフィスト様の部屋で一緒に報告会を受けているので、隣からいそいそと胃薬を用意する保護者の姿が見えた。ついでに蝶も飛ばしておきます。

 

『では、まずは天界から。アザゼル、堕天使側に事業の相談をお願いしたいのです』

『ん? カナタ関連でうちに事業相談ってことか?』

『はい、堕天使の羽根を定期的に狩り――いえ、毟――ごほんっ、抜け落ちた羽根でよいので大量に提供してもらいたいのです』

『おい、胃に優しい話はどこにいった』

 

 天使長様、夏用羽毛布団(ハルマゲドン)をまだ諦めていなかったんだ…。相棒の助言で天使の羽根でできた枕やシーツ類などを送ってもらったので、感謝も込めてこの時期まで使い続けていた。だけど、さすがに夏が近づいてきたこともあり、そろそろ天使の羽毛布団は収納の時期かなとは思っていたのだ。しかし、相棒(後継者)にお褒めの言葉をいただけた羽毛布団団体としては、夏用を諦めきれなかったのだろう。

 

『実は今も継続的に『天使の羽根共同募()(ガチ)』は続けています。そして今後は天国の素材で作った最高品質の生地を信者達に内職で作ってもらい、限定品として天使の羽毛布団を製作できるように考えています』

『さらっと羽毛布団で壮大な事業計画を考えていやがる…』

『我々もこれまでのように引きこもってばかりではいけませんからね。天界名産の『ゴッドまんじゅう』と並んで、羽根の数量的に量産は難しいですが天界の目玉ブランドとして発展させていこうと思っているのです』

 

 やべぇ、俺の羽毛布団発言がきっかけで天界が総出でえらいことになってる。ミカエル様の後光がウキウキで輝いているわ。

 

『冬用羽毛は私達で用意できますが、しかしそれではまだ不完全なのです。私達の壮大な布団計画には、夏用(堕天使)の羽毛が必要不可欠なのですからっ!!』

堕天使(ヒト)の羽根を夏用羽毛扱いしてんじゃねぇぞッ!?』

『まさか! 堕天使の羽根は夏用というだけではありません! 私たちの羽根だとオプションで聖なる力が付与されてしまう関係で聖具になってしまいますが、堕天使の羽根なら魔の者でも問題なく使用できるのです。つまり、種族や季節で使い分けもできる素晴らしい仕様になるということです! 奏太くんから悪魔の血が入った使い魔と眠れないのが…とアンケートに書かれていたので、そこも考慮した最良の結果なのですよ!』

『カナタてめぇっ! さらっとこの信仰バカ共を焚きつけているんじゃねぇよッ!?』

 

 いやだって、使い心地のアンケート用紙が送られてきたから誠意をもって答えるべきだと思って…。

 

「……カナくん、今後は天使相手の発言には気を付けるんだよ」

「……今後は気を付けます」

 

 映像越しに喧嘩を始める堕天使と天使のトップを背後に、メフィスト様から頭が痛そうに注意を受ける。ごもっともです、はい。でも、リンと一緒に眠れる夏用羽毛布団は素直に楽しみなので期待して待っています。

 

 

『さて、事業計画は後でまた詳しく詰めるとして…。もう一つ報告したいことは、ストラーダ猊下から打診された『聖剣計画』の施設への訪問と、その被験者だった子ども達の保護を上として許可しますということです』

「本当ですか!」

『えぇ、実際奏太くんの言う通り、『聖剣計画』の表向きの理由通りなら『聖剣の因子』を抜きとった子ども達を『聖剣の因子を研究する施設』に置いておく正当な理由はなくなります。本来の研究目的は達成できませんでしたが、それでも人工聖剣使いを作る礎を築くことはできました。もう十分に子ども達は教会のために報いたと言っていいでしょう』

 

 おじいちゃん経由でお願いしていた『聖剣計画』の施設訪問と子ども達の保護を、ミカエル様から直々にOKをもらえたことに嬉しさで笑顔になった。ちなみに停戦協定前は秘匿されていた『聖剣計画』だけど、技術や情報交換も兼ねてここにいるトップ陣にはすでに知らされている。邪神との戦いを考えれば、お互いの戦力把握は大事だからね。悪魔と堕天使側は、人工的な聖剣使いが増える前に協定を結べたことにホッとしているようだった。

 

『確か『聖剣の因子』を持っているだけでなく、剣の才能があり、神器(セイクリッド・ギア)を所持している選ばれた子ども達が研究に使われているんだったか。それなら奏太の考えている組織の第一期生として申し分ないな。裏に関する知識もあり、才能も確約されているんだ。そいつらを立派に育て上げることが、新しい組織の最初の仕事って訳だな』

「先生の言う通りです。『聖剣計画』のために子ども達は幼い頃からずっと頑張ってきたんです。神器所有者の為の組織のボスとして、彼らに力の使い方を教え、神器と共に生きるための知識を授け、そして未来への選択肢を与えられる…そんな居場所になってみせます」

 

 夢はでっかく、でも堅実に一歩ずつ。俺が拳を握って力説する姿に周りから小さく笑われたが、困ったときは頼りなさいと応援して支えてくれる大人達に感謝しかない。施設訪問は危険があるかもしれないが、そもそもおじいちゃんとデュリオがいれば戦力的に問題はない。むしろ気を付けないといけないのは、バルパー・ガリレイが子ども達を人質に取らないかってことだ。下手に相手を刺激しないように戦力は最小限にして、研究の摘発ではなく、あくまで新組織の勧誘としての訪問だと印象付ける必要がある。

 

 バルパー達からすれば違法研究の証拠である子ども達を処分するつもりだったのに、勧誘に来る存在はまさに青天の霹靂(へきれき)だろう。断りたくてもトップが許可を出しており、違法研究じゃないという看板を掲げていた手前、正当な手続きで訪れる俺達を追い返すこともできない。彼らに出来ることといったら、俺からの勧誘を子ども達自身が蹴って「この研究所に残りたい」と言わせるしかないが…。まぁ、そうは問屋が卸しませんよっと。

 

「これは再び俺のプレゼン(りょく)が火を噴く時か…」

『あの、奏太くん…。前回みたいなプレゼンは別に必要ないですよ。聖女の勧誘の時と違って、『聖剣計画』の研究者達の行いが明らかに違法行為だと判断したのなら強制執行を上として認めますから』

「えっ、いいんですか?」

『むしろしてください。だからもう事前確認のプレゼンはいいです…』

 

 勝手にプレゼンしたらマズイかなと思って、上の許可が必要かと考えていたら、まさかの物理でやっちゃっていいよとミカエル様からのGOサインが出てしまった。マジか、太っ腹である。違法研究者だったとしても、一応教会のために研究していた人たちだから手荒な真似はできないかと思っていたのだが…。でも、天使長がいいって言うなら俺は遠慮なく『最強師弟』にお願いしますよ!

 

『ところで奏太くん、新しい組織の事で気になっていたんだけど…』

「はい、サーゼクス様」

『その、そろそろ新組織の名前は決まったのかい? 『聖剣計画』の子ども達を勧誘するにも不安がらせないために必要だろうし、私達の方でも手続きをするにあたって『組織の名称』が必要な場面も増えてきてね』

「あっ…」

 

 新組織の土地や契約関係を担っている悪魔側からの真っ当な意見に俺は固まる。やべぇ、俺も新組織って言い続けていて、うっかりしていた。いや、一応ちゃんと考えてはいるんだよ。元々原作の『D×D』のような他種族みんなで協力できる組織になればって構想はあったけど、今現在は人と異形を繋げるための組織って名目が大きい。表では神器所有者のためであり、裏では異世界対策に向けた秘密組織となる。

 

 相棒の時のようにアザゼル先生のネーミングセンスに任せるという手もあるけど…。以前玄奘老師に相談したら、相棒を昔からよく知る先生だからこそつけられたネーミングであり、新組織の構想を最もよく知っているのは俺で原作知識にも関連しているため、ふさわしい名前をつけるのは難しいだろうって言われた。どんなに悩んでもいいから納得のいく名前をあなたが付けなさい、と諭されたのは記憶に新しい。

 

「えっと、名前は急いだ方がいいですか…?」

『いいや、まだ急ぎのものはないから大丈夫だよ』

「わかりました。でも、確かに子ども達を勧誘する時に名前も決まっていない組織だと、不安に思われるのは当然なので早めに決めたいと思います」

 

 これは俺の落ち度なのでしっかり頭を下げておく。実際、アーシアちゃんを勧誘する時も最初は不安そうにしていたし。名前からのイメージや印象って大事だからな。『聖剣計画』の被験者は、虐待混じりの研究をずっと受けてきた子ども達だ。それでも夢を持ち続け、幸せな未来を諦めなかった。そんな子ども達を迎え入れる組織の名前は、彼らが安心できるようなものでありたい。

 

 

「さて、天界からは以上だね。次に僕からだけど、『オズの魔法使い』について共有しておこうと思ってねぇ」

『……『物語』の名としては聞いたことがありますが、魔法使いの組織としての名では聞き馴染みがありませんね』

「そうだろうねぇ、この組織は基本表の世界には出てこない。普段は次元の狭間の中に独自の結界術で魔法領域を作り、その世界で暮らしている。遙か昔、『灰色の魔術師(グラウ・ツァオベラー)』から分裂した魔術師達による組織だ。そして君たちが知るその『物語』は、この組織が元になったと言ってもいい」

『つまり、物語通り『エメラルドの都』は存在し、東西南北に四人の強力な魔女が存在すると』

 

 天界からの報告が終わり、次は自分の番だとメフィスト様が口を開く。ラヴィニアと関係があるということで俺やアザゼル先生は事前に聞いていたけど、悪魔や天使側は驚いたように目を瞬かせていた。玄奘老師には俺の方から名前だけは伝えていたけど、興味深そうにしていた。メフィスト様は『オズの魔法使い』に関する資料を指先一つでみんなに転送し、顔の前で手を組んだ。

 

『その組織が今後私たちの障害になると?』

「和平の障害になるかはまだわからない」

『わ、わからないのですか?』

「先ほども言ったけど、この組織は表に出てこないからねぇ。僕も彼らが何を目的にしているのか明確な情報を持っていない。裏で暗躍はしているだろうけどね」

 

 意味深なメフィスト様の言葉に、首を傾げる一同。確かに危険かもしれないが、わざわざこの場で注意喚起をする必要性がわからないのだろう。ぶっちゃけ、何かしら暗躍しているだろう組織なんて数えきれないほどあるのだから。

 

『何故、この組織の情報を?』

「この組織はやらかしたからさ。……ラヴィニアちゃんを泣かせた」

『そして、カナタが絶対に泣かせると誓った組織だ』

 

 メフィスト様とアザゼル先生からの答えに、この場にいるトップ陣の全員の口元が引きつった。「あっ、なるほど」と言葉もなく納得の空気感が漂う。いや、それでいいんですかトップ陣の皆さん! ラヴィニアのことは『永遠の氷姫(アブソリュート・ディマイズ)』の所有者としてや、俺のパートナーである情報は持っているのだろうけど…。全員から「そいつらやらかしたなぁ…」で共有できちゃうんですか。

 

 確かにグリンダさんとダンガムを取り戻すことをラヴィニアと約束はしたし、彼女を泣かせたやつらを許すつもりはない。この報告会の前にメフィスト様から『オズの魔法使い』について教えてもらい、彼らの情報を探るために協力を仰ぐことにもちろん同意した。なお、ラヴィニアにはグリンダさんを攫った犯人のことはまだ伝えていないけど、彼女の精神状態を加味しながら時期を見て伝えるとのこと。どっちみち、オズと連絡手段を持つラヴィニアの協力は必要なのだから。

 

『つまり、その組織に対して奏太くんが動くことは確定事項ってことですね』

『それも絶対に泣かせると誓うレベルで』

『わかりました、こちらでも注視しておきましょう。奏太くんがやらかし過ぎないためにも』

「ありがとうございます。でも、素直に喜べないのは何でだろう…」

 

 ラヴィニアのために助かるんだけど、悪魔、天使、仏教陣営からのアツい協力体制に遠い目になる。うん、このもやもやは『オズの魔法使い』にぶつけよう。そうしよう。

 

 

『さて、それじゃあ最後の胃に優しい報告は堕天使からだが、事前にメフィストには伝えていたがカナタをうちの幹部連中に会わせたいと考えている。理由はそろそろあいつらがブチ切れそうだからだ』

「理由がひどい」

『いえ、堕天使ならありえますね』

 

 しみじみと頷くアザゼル先生とミカエル様。きっと天使時代の幹部の皆さんを思い起こしているのだろう。メフィスト様から夏休みに堕天使の組織に顔合わせに行って欲しいみたいなことは聞いていたけどさぁ…。研究大好きな堕天使達にとって、新規神滅具なんて研究し甲斐のあるものをずっと隠されているも同じだからな。しかも、自分たちの施設で治療行為までやっているのに見に行くことすら禁じられている。そりゃあ、キレそうになるか。

 

 ただアザゼル先生も別に意地悪で俺との接点を持たせないようにしていた訳じゃない。組織内に、それも幹部レベルの権限を持つ裏切者の存在を危険視していたからだ。だけど、ネビロス家の情報が広まってからその裏切り者も一切の証拠を出さないように立ち回っているらしい。証拠もなく、長年苦労を共にした友人達を疑いたくないのは当然だろう。

 

 俺の原作知識から考えると、実際に原作で離反したコカビエルさんと原作で登場しなかったサタナエルさんが裏切者の候補に入るけど…。もしかしたら俺の知らない未来の原作で、別の幹部だったりミスリードの可能性だって十分にある。なんせ俺は『ネビロス家』という重要な名前を知らなかったのだから。

 

『しかし、アザゼル殿。裏切者がいる中に奏太くんを連れていくのは危険ではないですか?』

『それはわかっているさ。だが、裏切者の目的もわからず、カナタに興味を示すかも不明だ。もしかしたら、これまで尻尾を出さなかったヤツが、これを機に動く可能性だってある』

『囮として彼を使うと?』

『怖い顔すんなよ、ミカエルもな。少人数で順番に会わせるより、いっそ幹部全員と一斉に顔を会わせる場を設けた方が危険も減らせると思ったんだよ。裏切者もさすがに俺や幹部連中全員を相手にできないだろ』

 

 玄奘老師とミカエル様から俺に対する危険で難色を示されたが、堕天使の幹部の皆さんと友好関係を築いておきたいのは俺だって同意だ。個々で会いに行くのは調整が難しいし、会うだけなら一回で全員分を終わらせる方が効率的なのは間違いない。幹部側も堕天使の技術が漏洩しているかもしれないのは耳にしているらしく、俺の安全を考えればその一回でも当分は納得してくれるだろうとのことだ。

 

 それにしても、堕天使の幹部全員か…。原作の知識で一応知っているけど、だいたい濃い面子だったんだよなぁー。正直一対一で会いたくない相手が多すぎる。コカビエルさんとか何を話したらいいかわからないし、アルマロスさんは魔法研究者なのにアンチマジックに嵌まっているムキムキだし、サハリエルさんは二言目には改造を推してくるマッドだし、サタナエルさんは底が見えない感じだったし…。

 

 タミエルさんとベネムネさんぐらいじゃね、癒しなのは…。いや、原作で施設に見学へ来た朱乃さんに父親のドMを暴露して女王様衣装を着せていたあたり普通ではないな。どうしよう、ここまで何をしてくるかわからないって理由で気が重いのは初めてだよ。とりあえず、堕天使のオカン(シェムハザさん)の傍を離れないようにしようと心に誓ったのであった。

 

 

 

――――――

 

 

 

『さてと、気は重いが…。次は胃に優しくない報告の方に入るか…』

『胃に優しい内容のはずが、すでにお腹はいっぱいですけどね』

 

 それから堕天使側の訪問はさらに予定を詰めていくことを話し、ついに本番だと言わんばかりに周りの空気が重たくなる。全員が無言でテーブルの上に胃薬を用意し、いつでも水が飲めるようにポットまで準備している。傍らにフェニックスの涙らしき容器も見え、お香を焚いたり、術式を発動したり、お経を唱えて精神統一したりすること約十分。まさに戦場へと向かうかのような気迫が空間全体を占めていた。

 

『ちなみに、胃に優しくないレベルとしてはどれぐらいなんだ?』

「あっ、それなら俺から話しますよ。むしろ俺としては胃に優しい報告だと思ったんですけど、先に報告を聞いたメフィスト様が胃薬を飲んじゃったので念のため」

『お前、今度は何をやらかしたんだよ…』

「えぇー、今回の報告は俺がやらかしたんじゃないのに」

 

 俺からの報告は新しく駒王町のメンバーに加入することになった、アーシア・アルジェントちゃんの紹介である。聖女として活躍した実績を持ち、天然だけど健気で優しい女の子だ。物理的にも精神的にも胃に優しいことで間違いない。俺は彼女の紹介のために『アーシア・アルジェントちゃんを勧誘する100の理由』の上映会をしようとしたが全力で止められてしまったので、しぶしぶ簡単な説明をしておいた。

 

 ちなみに現在のアーシアちゃんはイリナちゃんの教会に週に一度遊びに来て、文化や言語を勉強したり、クリスタルディ猊下の修行で生傷の多いイリナちゃんの回復をしたり、イリナちゃんがアーメンしちゃった戦士の回復をしたりと充実した日々を送っているようだ。俺も時々様子を見に行き、同じ治療要員として神器のコツを教えたり、駒王町の風景やみんなの映像記録を見せたりしていた。

 

『別にこれだけなら何も胃に悪くないんじゃないか? むしろ回復要員が増えたと考えたらプラスだと思うが』

「ここで話が終われば、僕だってそう思ったよ…。だけどね、やっぱりカナくんの妹分は一味違ったのさ」

 

 首を傾げる一同の中、唯一原作知識で知っていた玄奘老師だけが無言で遠い目をしていた。そうですね、俺もうっかりしていました。原作では当たり前すぎたけど、今の時代において彼女の回復は異端だったことを。そもそもこれが原因で原作時は追放だってされたのだから。

 

「イリナちゃんとアーシアちゃんの所に遊びに行った時に、せっかくならと悪魔や異形に慣れておいた方がいいかなと思って、その日は使い魔のリンも一緒に行ったんです。その時、たまたま足に小さな怪我をしていたリンに気づいて、アーシアちゃんが善意で神器を使って治療を施したんですよ」

『おい、まさか…』

「見る見るうちに回復しまして…。俺の護衛としてそれを見ていたおじいちゃんとデュリオが、口をあんぐり開けて固まっていました」

 

 最強おじいちゃんの貴重なワンシーンでした。たぶん意識も少し飛びかけていた。リンは転生悪魔の血を引くドラゴンである。教会のこれまでの常識的に、回復系の神器(セイクリッド・ギア)は異形に効果を発動しないとされていた。悪魔やドラゴンなんてその筆頭だろう。その常識をアーシアちゃんは善意で覆してしまったのだ。

 

「相棒曰く、『対象がどんな種族でも回復させることが可能な神器』とのことです」

『……ほんの半年前なら、追放処分を受けていてもおかしくなかったですね』

 

 片手で顔を覆うミカエル様は項垂れるように呟いていた。何故回復系の神器は異形を治療できないとされていたのか。そもそも異形を治療する機会がないのもあるが、『救護聖人による再起(ホーリー・リサシテーション)』という信徒のみしか回復効果を及ぼせない神器が存在していたからもある。

 

 確か現在教会の最高位の治療者としてディートヘルム・ヴァルトゼーミュラーさんの名前があげられるけど、彼の神器がそれだったりする。一番有名な治療者の神器の効果が常識として浸透していたことや、『聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)』は汎用性があるだけの治療神器だと思われていたのもある。実際、アーシアちゃんは過去に怪我をした子犬を助けるために力を使ったのが始まりだったのだから。

 

『どんな種族でもってことは、堕天使のような邪悪な存在だって回復できるってことか。なるほど、周囲の信仰に影響を及ぼしかねないなら、『システム』を管理する天使としては無視できないよな』

「もっとも、今は『システム』が自我を持ったことで受ける影響をコントロールできるようになったから、信者の信仰に問題ないなら多少は目を瞑ることができるようになっただろうけどねぇ」

 

 アザゼル先生とメフィスト様の見解に、ミカエル様は静かに頷いている。少しして気持ちを切り替えることができたのか、深く息を吐きだしていた。頭は痛そうにしていたが。

 

Sr.(シスター)アーシア・アルジェントにとって、奏太さんとの出会いは運命だったのでしょう。主を信仰している心優しき少女を理不尽に傷つけずに済んだ。それでいいと思います』

「ありがとうございます、ミカエル様!」

 

 もちろん、教会の信徒には出来る限りアーシアちゃんが異種族を治療している姿は見られないようにとだけは忠告をいただいた。和平が叶ってしばらくしたら、相棒の力によって『和平の証として異種族にも回復効果があるように異能を一部変化させた』と周知させることにするらしい。色々と配慮してくれて助かります。

 

『まっ、こっちとしてはありがたいことだけどな。駒王町には今後も様々な種族が集うんだ。バラキエルの心配性も少しは収まるかもな』

『私としても、リアスが危険な目にあうことが減るなら幸いです』

 

 原作と違って停戦協定を結んでいるから大丈夫だろうと思っていたけど、無事にアーシアちゃんのことが認められて何よりである。俺はたぶん色々忙しいだろうから、異種族が集まる駒王町に回復役が常時いてくれる安心感はありがたい。原作のグレモリー眷属が強くなった背景には、彼女の癒しの力による後押しも間違いなくあっただろうから。怪我や故障を気にせず全力で修行ができる環境って大事だよね。

 

 おかげで回復役の俺がいる時は、ヴァーくんと美猴(びこう)くんのやんちゃ坊主組は倒れるまで修行するのがデフォルトになってしまっている。リアスちゃん達も強くなることに貪欲だし、アーシアちゃんの回復は聖女時代と変わらずメキメキと上がりそうな予感しかしない。いつもヴァーくんのやり過ぎにプンプンしている朱乃ちゃんに、修行大好きキッズ達の様子も見てくれるようにお願いしておこう…。

 

 

『それで玄奘殿、カナタに関係する胃に優しくない報告とは…?』

『ふむ、これは奏太くんからというより、レーシュ殿から齎された情報なのですが…。ミカエル殿に頼みたいことがあるのです』

『私というと……天界にですか?』

 

 玄奘老師からの報告に、俺は仏教陣営に頼んでいた原作関係(裏方)の仕事をここで頼むのかと思案した。俺と同じ原作知識を共有する仏教陣営だからこそ、秘密裏に先を見据えて動くことができる。本来なら俺達が知り得ないはずの情報だけど、最近まで意思疎通ができなかった『叡智の結晶』である相棒を間に挟めば多少の強引さは緩和される。特に聖書の神様に関連することならなおさら。

 

『今回は奏太くんの相談役として聞いた内容なのです。レーシュ殿から「あれっ、ちょっと待てよ」と不意に思いだしたかのような軽いノリで言われたようで』

『おい、やめてくれ。そのセリフは腹に来る…』

 

 ビクッと肩を跳ねさせ、呆れた表情で溜め息を吐く聖書陣営。俺に関すること以外での相棒のマイペースさに振り回されてきた経験を感じる。しかし、そんな空気を読まず深刻な表情のまま老師は続きを話した。

 

『なんでも聖書の神が遠出をしている時に、天界の維持を任されていた当時の『システム(レーシュ殿)』がたまたま目撃したようなのですが』

『主の不在時に?』

『……「神の目を盗んで、生命の実と知恵の実を盗んだ者がそういえばいたなぁーと」』

『――ちょっと待てェェエエエッーー!!』

 

 明らかにさらっと聞き流せない爆弾情報が投下されたことにガタガタガタッ!? と椅子から立ち上がる皆さん。隣にいたメフィスト様がすんごい目でこっちを見てくる。うん、予想はしていたけど視線が痛い。本来ならリゼヴィムしか知らない情報を辻褄が合うように伝えるためにはこうするしかなかったとはいえ…、非常にお腹が痛いです。

 

 できればこんな強引な方法で原作知識から得た情報を伝えるのは危険だったけど、さすがにこの情報を無視する方が危険だと玄奘老師と相談して強行することになったのだ。リゼヴィムの母であるリリスがまだ人間の頃に、自慢げに息子だけに語っていた内容。聖書の神様すら欺いた罪の証。原作ではリゼヴィムがそれを見つけ出し、『666(トライヘキサ)』の復活の糧にしていた。

 

 聖書陣営にとって無視できない『創世記』の遺物。エデンの園の中央部にあった二本の木からなる果実のことで、現在の天界ではすでに実は成っていないという。伝承でアダムとイブが『知恵の実』を食してしまい、『生命の実』まで食べられてはならないとエデンの園を追放された話は有名だ。だけど、知恵の実と生命の実の両方を盗みだした者は初耳だろう。

 

『おいこらレーシュッ!! あれ、ちょっと待てよ…で思い出す内容じゃねぇーんだよッ!? そもそも見ていたのなら親に伝えろよ!!』

「先生、相棒を怒らないでください! 当時の相棒は世界をくるくる回すことしか興味がなかったんですっ!」

『それはそれで大事だけどなぁッ!?』

 

 ガンッ! とテーブルに拳を打ってぷるぷると項垂れるアザゼル先生。ミカエル様は手でお腹を押さえてすでに撃沈しており、サーゼクス様とメフィスト様は特大なる天界の不祥事に頬を引きつらせていた。当時天使だった先生含め、天界側はオーバーキルだったらしい。

 

『……だが、盗んだにしては人間界にそれらの実が降りた形跡はなかったはずだぞ。冥界や冥府も同じだ。さすがに実を使われた形跡があったら、ヤツだって気づくはずだ。現にアダムとイブが実を食った時は、瞬時に気づいて対処していたからな』

『レーシュ殿の見間違えじゃないのなら、盗んだ者は実を使わず、尚且つ他の世界にも持ち込まなかったことになる』

「ということは、天界のどこかにその二つの実を隠した可能性があるってことだねぇ」

 

 そして、その実は未だに見つかっていない。神の死亡と同時に実の生育は停止しているので、すでに永い年月は過ぎているだろう。さすがに時が経ち過ぎていることからすでに干からび、本来の力も失われているはずだと思うが、万が一のこともある。導き出された考察を聞き、よろよろと起き上がったミカエル様は胃薬をフェニックスの涙で流し込み玄奘老師へとゆっくり視線を向けた。

 

『つまり、玄奘殿。あなたが天界に頼みたいことは、その失われた二つの実の捜索を行いたいということですね』

『えぇ、こちらとしても無視はできないと思います。そして、できれば大々的に捜索するのではなく秘密裏に行いたい。すでに盗人が亡くなっている可能性は高いですが、その実を隠した者に縁者がいないとも限りませんから』

『神の目を盗んで、気づかれないように隠すような者が相手ですからね。しかし、天界に実を隠したのなら、我々がそれを感知できないはずはないのですが…』

『確かにな。特にあのやろうの感知を出し抜いたと考えれば、よっぽど俺達では考えもつかないような隠し場所を選んだってことだろう』

 

 はぁー、と深い溜め息を吐くとアザゼル先生はガシガシと黒髪を手で掻いた。アザゼル先生は聖書の神様を嫌いながらも、誰よりもその能力を高く評価している。しばらくして、ふと思いついたように口元に手を当て、じっとりとした目で老師の方へ己の考えを述べた。

 

『つまり、天界であっても目が行き届かない場所。そして、天使に捜索を頼むだけでなく冥途の玄奘殿たちも秘密裏に捜索を行いたいと意見を述べたことを鑑みるに――』

『……天国と地獄の双方に繋がる死者の中間地点である『煉獄(れんごく)』。それがあなたの考えている答えですか?』

『えぇ、その可能性が高いと思っています』

 

 アザゼル先生の考えを繋げるように答えたミカエル様に、玄奘老師は深々と頷いて見せた。さすがはトップ陣、たったこれだけのヒントでここまで導き出せるとは。『煉獄』は天界の第三天と繋がっていて、とにかく広すぎることで有名だ。その奥地を捜索すると考えれば、人手はいくらあっても足りないだろう。

 

 元々聖書の神様が、冥府を参考にして構築したと言われているのが『煉獄』である。天国には行けなかったが地獄にも墜ちなかった人が行く中間的な所で、最終的に天国へ行けるように罪を清める場所とも言われている。ハーデス様が聖書陣営を嫌っている理由の一つって、たぶん冥府(自分の家)をパクられたからってのもありそうだなぁ…。実際、原作では煉獄と冥府はひっそりと繋がっていたらしいし。

 

『はぁ…、とんでもない難題ですね…』

『ですので、私たちの方で主に捜索をしたいと考えています。そちらは和平に向け、獅子身中の虫をあぶり出すことに集中してください。冥途と煉獄は地獄同士の繋がりが多少ありますので十王様の権能が届くでしょうから。その許可をいただきたいのです』

『……わかりました。私達としてもあまり人員を割ける余裕がないのは事実ですから』

 

 それからも煉獄での活動について意見を述べ合い、ある程度かたちになったところで、後は天界と冥途で要点を詰め合うことにしたようだ。表で活動する聖書陣営も大変だけど、裏方としてフォローしてくれる仏教陣営の縁の下の力持ち感が半端ない。俺からも感謝を伝えるようにペコリと頭を下げておいた。

 

 

『さてとようやく最後の報告になりそうだが、……悪魔陣営の報告はこれ以上の爆弾ってことはないよな?』

『いや、さすがにアレ以上は…。私のところの報告もそれなりの爆弾だと思っていましたが、今のに比べたら霞みそうかな。どちらかというと悪魔側の問題なので…』

 

 アザゼル先生が戦々恐々と聞くと、上には上があるものですね…、としみじみと遠い目で返す魔王様。そういえば、悪魔側の報告は最近のことであんまり記憶にないな。他の報告は全部既知のことだったけど、サーゼクス様からの内容に心当たりはない。それから首を傾げる俺の方へ視線を向けると、魔王様は申し訳なさそうに口を開いた。

 

『こちらも突然の事態に困惑していてね。実は奏太くんに折り入って頼みがある』

「えっ、俺に頼みですか?」

『あぁ、単刀直入に言うと奏太くんに冥界へ来て診て欲しいヒトがいるんだ』

 

 俺に直接診てほしいヒトがいる? サーゼクス様からの言葉に疑問符が頭に浮かぶ。確かに俺は治療者として名前があがっているけど、わざわざ冥界に呼ぶほどのことだろうか。冥界にはどんな傷だって治せるフェニックスの涙だってあるのに。それに治療が必要なら、人間界に来てもらう方が手っ取り早いだろう。

 

『ほら、神器症の治療がある程度落ち着いたら、悪魔特有の『眠りの病』について研究するって話があっただろう。どうやらそれを聞きつけた旧魔王派閥に属していた貴族悪魔が、なんとか治療できないかとこちらに秘密裏に連絡を取ってきたんだ』

『旧魔王派閥の悪魔が、因縁の相手であろう現魔王に助けを求めたということですか』

 

 サーゼクス様からの話の内容に、思わずきょとんと眼を瞬かせた。つまり、その連絡をしてきた旧魔王派閥の悪魔は、身内が『眠りの病』にかかっているから俺に直接診てほしいと魔王ルシファーに直接依頼をしてきたってことか? 秘密裏に頼んだところは疑問だけど旧魔王派閥だから、現魔王に頼るのを周りに知られたくなかっただけかもしれないけど。

 

 でもそれなら、サーゼクス様ではなくてセラフォルー様に頼むべきじゃないだろうか。冥界で『眠りの病』に罹ってしまった悪魔は、大抵シトリー領にある専属の病院に搬送されていると聞いている。治療設備も充実しているだろうし、患者としてなら守秘義務だって守ってくれるだろう。いずれセラフォルー様にお願いして、患者棟を見せてもらう予定もあった訳だし…。

 

『おいおい、いくら相手が権威のある悪魔だからって、それはさすがに横暴すぎるだろう』

『私達も最初は断ろうと思ったのだが、……さすがにその患者の正体を聞いて断れなくなった。助かる可能性が僅かでもあるのならと藁にも縋る気持ちでこちらに託してきたんだ。現在その『眠りの病』を発症した患者はグレモリー公爵家で匿っている』

「……公共の病院で面倒を見ることができない、それも魔王の生家で存在を隠さなければならない厄介事という訳だねぇ」

 

 眉根を寄せて難しい顔で告げたメフィスト様に、サーゼクス様は無言で頷き返した。魔王であるサーゼクス様が無視できない、旧魔王派閥に関係がある『眠りの病』の患者。少なくとも俺が持つ原作知識にはない情報だろう。だけど、どこか心臓のあたりがドクドクと何かを予感させるような鼓動を感じさせた。

 

『その患者の名は、イングヴィルド・レヴィアタン。前魔王レヴィアタンの血族が人間と交わって生まれた子孫であり、隔世(かくせい)遺伝によって悪魔(レヴィアタン)の血を色濃く受け継いでしまったことで『眠りの病』を発症させてしまった……十七歳の元人間の少女だ』

 

 こうして、胃に優しくない大報告会は新たな波乱を呼び起こして終わったのであった。

 

 

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