えっ、シスコン魔王様とスイッチ姫みたいな力ですか?   作:のんのんびり

230 / 247
第二百三十話 目覚め

 

 

 

「うーん、そろそろかな」

「奏太さん、イングヴィルドは起きそう?」

「呼吸とオーラは安定しているし、昨日より顔色も良くなっている。肉体と精神の接続も神器とのパスによって問題なさそうだね。あとは彼女の回復を待つだけだよ」

 

 心配そうにベッドに眠るイングヴィルドさんの手を握るリアスちゃんは、俺からの診断を聞いてギュッとさらに力を込めていた。いつ目を覚ましてもおかしくないのだが、九十年以上眠っていた弊害か、肉体の方が目覚めるための準備としての「休眠状態」だろうと判断している。病気としての眠りではないのは間違いないと思う。

 

「倉本奏太様、あなたのお身体の方は…」

「あぁー、その昨日はご迷惑をおかけしました。久しぶりに全力で禁手を使った反動で…。ぐっすり眠ったのでもう大丈夫ですよ」

「昨日は奏太兄さんが倒れたって聞いて、びっくりしたんですよ」

「心配をかけてごめんね。ありがとう」

 

 傍で控えていたグレイフィアさんは俺からの診断にホッとした後、次に心配の言葉をかけてくれる。白音ちゃんも不安そうに白い耳がへにゃりとなっていた。無理をしたつもりはなかったし、必要なことだったけど、こうも心配されてしまうとくすぐったさと申し訳なさを感じる。

 

 そう、イングヴィルドさんの神器を目覚めさせるために精神世界に潜ってからすでに一日が経っていた。あの後、彼女の精神世界から意識が覚醒したと同時に、それまで相棒に消してもらっていた禁手の反動が一気に身体へフィードバックされた影響でそのまま昏倒してしまったらしい。気づいたら次の日の朝で、目覚めて一発目でメフィスト様からお叱りを受けました。女性陣にも心配をかけさせてしまったので反省である。

 

 やっぱり「干渉(インターフィア)」は他の異能よりも消耗が激しいな。他者の意識に干渉できる異能は破格だけど、まだまだ使いこなすには時間がかかりそうだ。今回は相手の意識がそもそもなく、神器という道しるべがあったから問題なかったけど…。こんなヤバい異能を煩悩で目覚めさせて、相手の状態関係なくノーリスクで使える兵藤一誠の『乳語翻訳(パイリンガル)』がいかにぶっ壊れているのかがよくわかるなぁ…。そりゃあ、敵も恐れるわ。

 

「ところで、メフィスト様達はまだ協議中ですか?」

「えぇ、奏太様から聞いた新規の神器の誕生……それも神滅具級かもしれないということにてんやわんやです」

「てんやわんや…」

「あんたって何かする度に魔王達を胃痛にさせているわよね」

 

 あのグレイフィアさんが哀愁の漂う表情で遠い目をしている…。最強完璧メイド様がてんやわんやで言葉を濁したぞ。そんなグレイフィアさんの様子に、近くの椅子に座ってお菓子を食べていた黒歌が胡乱気な目で溜め息を吐いていた。俺もまさかここまで上層部を騒がせることになるとは思っていなくて…、メフィスト様に精神世界であったことを軽い気持ちで報告したら絶句されてしまったけど。

 

 俺の場合、原作の神器のヤバい部分を色々知っていたから、「聖書の神様が亡くなっても神器は自動で更新される」ということに納得できてしまった。聖と魔の境界線が曖昧になり『聖魔剣』が生まれたり、バロールの欠片と融合したことで普通の神器が「準神滅具」として生まれ変わったり…。聖書の神様がいなくなってもあれだけの変化を生んでいたのだから、『勝手にポン』ぐらいしてもおかしくないのかなーと思ってしまった。

 

 しかし、『ハイスクールD×D』の原作知識(常識)を知らない為政者側からしたら、完全に寝耳に水のことであった。

 

「『神器勝手にポン事件』でアザゼル先生が研究者としての歓喜の表情と、為政者としての胃痛の表情で情緒不安定さを見せていましたね」

「勝手にポン事件…」

「玄奘老師が精神統一で唱えていたお経をバックミュージックにして、ミカエル様は顔を手で覆って「神よ、どうして我々に試練を与えるのですか…」って泣き笑いの表情でお祈りをしていたなぁ…」

「えっと、神滅具なのは確定なわけ?」

「うーん、そこはまだなんとも。イングヴィルドさんの神器の詳細や威力はまだ判明していないし、研究者の方に詳しく調べてもらう必要はあるよ」

 

 もちろん事件名は相棒からである。これまで不透明だったシステムの情報が相棒によって表へ出されるたびに、保護者の皆様が大変なことになっている件。リアスちゃん達は俺からの話に唖然としながら、天使と堕天使に憐憫の気持ちを向けていた。悪魔側も『眠りの病』についてわかったことや対処法について上から下へ大変らしい。為政者の皆さん、毎度丸投げになってごめんなさい。

 

 ただもし神滅具だったとしても、すぐに世界に向けて発表はできないだろう。魔王レヴィアタンの血を引くイングヴィルドさんを表に出すのは難しいし、注目を集めさせるわけにはいかない。それに永い眠りによって体力も落ちているだろうし、何より記憶の混濁が見られていた。しばらくは安静が一番だろう。

 

 

「ただ神器が勝手にポンするのは、確かに予兆はあったなぁって」

「えっ、そうなんですか?」

「うん、少し前に勧誘したアーシアちゃんが持っている『聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)』がその証拠さ」

「確か『対象がどんな種族でも回復させることが可能な神器』でしたよね」

「そうそう。どんな種族でも回復できる神器なんて……そもそも異種族を嫌っていた聖書の神様が創ると思う?」

 

 俺からの指摘に思わずハッとしたように顔を見合わせていた。原作の時から不思議には思っていたのだ。神様が創ったはずの神器なのに、原作の教会で異端扱いされてしまった異能。それに回復系の神器には元々『救護聖人による再起(ホーリー・リサシテーション)』という「神様を信仰する者しか癒せない」という制約を持ったものがあった。こっちは間違いなく聖書の神様によって創られたものだろう。

 

「システムが『世界』から情報を抽出して神器を創っているのなら、『聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)』は『和平』に向けて水面下で動いていた流れを感じ取ったからできたものなんじゃないかな。聖書陣営はもう戦争ができる余力はなく、手を組む未来を読み取れたからこそ――」

「異種族が手を取り合うことを予期したシステムが、『どんな種族でも回復できる神器』を創った」

 

 俺の言葉の端を繋げるように、目を見開くリアスちゃんが続きを語ってくれた。俺はその通りだと頷いてみせる。先生もこの考察には信憑性を感じてくれた。神器は聖書の神様が創った物という『固定観念』があったから、トップ陣は特にそれに囚われてしまっていたのだと思う。

 

 そうなると、聖書の神様が亡くなった後に製造された神器の中には、今回のイングヴィルドさんみたいなとんでもないものがこの世界のどこかにあってもおかしくないのだ。神様が存命中に創った神滅具(ロンギヌス)の数は十三個。しかし、その枠を越える未知の可能性が示されてしまった。そりゃあ、十三の神滅具の動向を監視してきた為政者の皆さんからしたら阿鼻叫喚だろう。

 

「奏太様、今度爆弾を投げる時はできれば期間を開けてもらえると…」

「奏太さん、私からもお願いね。ミリキャスには魔王としての格好いいお兄様を見せてあげたいから、フェニックスの涙で胃薬を流し込む草臥れた姿を見せるのは妹としても…」

「いや、俺も意図したことじゃ……はい、気を付けます」

 

 奥さんと妹さんから真面目に懇願されてしまった。俺だって今回の情報爆撃は不可抗力だったんだけど…。とりあえず相棒に他に伝えておかないとまずいことはない? って根掘り葉掘り聞くのはやめておこう。相棒なら必要な時に話してくれるだろう。これ以上、情報を上乗せするのはまずいことは理解しています。

 

 

「まぁ、奏太のやらかしはいつものこととして、私たちはこっちを何とかしなきゃでしょ」

「こっち?」

「イングヴィルドよ。この子が目覚めるのなら、この離れにずっと押し込めているわけにはいかないじゃない。グレイフィア達が何かしら事情があってこの子を隠しているのはわかっているし」

 

 テーブルに頬杖をついてベッドに眠る少女を指差す黒歌に、リアスちゃんと白音ちゃんも確かにと頷く。これまでは『眠りの病』という不治の病が立ち塞がっていたため、彼女の身分は考慮しなくてよかった。だけど、目が覚めたのならその身分が彼女の足かせになる。レヴィアタンの血筋は悪魔にとって軽視できないのだから。

 

「永年の眠りによって落ちた体力を取り戻すためにもしばらくは公爵邸で預かるとして、記憶が曖昧になっている可能性が高いんでしょ。しかも元いた場所だって、この子を知っている人間はすでに寿命で亡くなっている。ヤバそうな神器を持っていることを考えても、野放しにすることもできない」

「……人間界に返してあげても、誰もイングヴィルドを知る人はいないのよね」

「だからって、このまま公爵邸で匿い続けるのも難しいんじゃない? 私はリアスの家庭教師としてここに置かせてもらっているけど、後ろ盾が何もない不安定さはよくわかっているわ」

 

 彼女が目覚めることは朗報だけど、同時に問題も浮き上がる。グレモリー公爵に席を置かせてもらっている黒歌だからこそ、宙ぶらりん状態になるイングヴィルドさんを心配しているのだろう。彼女の言う通り、今後のイングヴィルドさんには後ろ盾が必要だ。それも旧魔王派に万が一バレても守ることができるぐらいの。

 

「あの、奏太兄さんのところでイングヴィルドさんを預かることはできないのですか? 兄さんは神器所有者の為の組織を創っていますから」

「白音ちゃん…」

「申し訳ありませんが、それは難しいと答えます。あなた達も薄々感じている事情によって、彼をこれ以上巻き込むのは余計な火種を生みかねないわ」

 

 白音ちゃんからの問いに、グレイフィアさんは難しい表情で答えた。俺もそれは考えたけど、神器だけならこちらもそれなりに手は打てた。だけど、レヴィアタンの血筋がそれを難しくさせたのだ。相棒関係で俺の近くにいるヒト達は注目の的になるだろうし、もしレヴィアタン家にバレたら問題になりかねない。

 

 カテレア・レヴィアタンの性格的に、敵対していた聖書の神様の後継者にレヴィアタンの血筋が下るなんて憤慨ものだろう。こちらに対して殺意を抱いて標的にされかねない。悪魔側からしたら、ただでさえ旧魔王派を刺激するだろう俺の存在に、更なる火種を任せるなんて厚顔無恥すぎると断られた。危険だと判断したなら、メフィスト様やミカエル様、玄奘老師も首を縦には振らないだろう。

 

 原作ではカテレア・レヴィアタンは原作の四巻で亡くなったけど、過去の時代ではあまりにも厚い壁過ぎる…。せいぜい主治医として時々関わるぐらいの距離感がギリギリだと言われた。俺が後ろ盾になるのは難しい。でも、他に旧魔王派を牽制できるだけの後ろ盾って言われるとパッとは答えられない。他の組織に預けるにも、彼女の境遇を考えると心配にもなる。

 

「後ろ盾…。つまり、イングヴィルドを堂々と守れる立場が必要ってこと?」

「えぇ、そうなります。そうですね、あなた達には伝えておきましょう。彼女の持つ血筋について」

「大昔人間界で子どもをつくった悪魔の子孫で、隔世遺伝によって悪魔の血が覚醒したって聞いていたけど、その悪魔が誰かは判明していていたってこと?」

「彼女は初代魔王レヴィアタンの末裔なのです」

 

 おそらくイングヴィルドさんが目覚めるのなら、子どもとはいえ傍にいるリアスちゃん達に事情を説明しない方が危険だと判断したのだろう。グレイフィアさんの話に呆然と目を見開くリアスちゃん達は、口を挿むことなく静かに事情を聞く姿勢を続ける。大人たちが何故これほどまでに慎重に動いていたのか理解したようで、不安げな表情でイングヴィルドさんを見つめていた。

 

「魔王レヴィアタンの血筋ねぇ…。確かにあそこの本家は頭がヤバそう。奏太に預けて一族の恥を消し去るため、って名目で戦争を吹っ掛けられたら協定的にもまずいものね」

「彼女の魔力や異能的にレヴィアタンの血筋であることがいずれバレる可能性は高いわ。それまで身を隠し続けないといけないし、彼女自身にも身を守る術を教える必要があるでしょう」

「そんな、イングヴィルドさんは何も悪くないのに…」

 

 グレイフィアさんからの説明に白音ちゃんはへにょっと眉と耳を下げた。

 

「だって、イングヴィルドさんは何も知らなかったんですよね。ずっと人間だと思って暮らしてきて、突然悪魔の血に目覚めたと思ったら「眠りの病」が発症しちゃって。それで家族や親しい人ともお別れになって一人になってしまったのに、理不尽に命まで狙われて自由も奪われるなんて…」

「白音…」

「私も両親はいなくて、ナベリウス家ではずっと部屋の中で過ごしていました。でも、私には姉さまがいました。今ではリアス姉さんやグレモリー家のみんながいます。ここでの暮らしも制限がある自由だけど、私が私としていられる大事な居場所です」

 

 じわっと涙目で俯く妹に、黒歌は優しく抱擁をしていた。彼女の言う通り、確かに理不尽だと思う。全てを失ってしまった少女に俺達ができること。ぐすっと鼻をすする音が響く中、ギュッと一度拳を握りしめたリアスちゃんが白音ちゃんの傍へと近づき、そっと白髪を撫でた。

 

「ありがとう、白音。ここを大事な居場所って言ってくれて。そうよね、白音の言う通りそんなのおかしいもの。それでも理不尽がこの子に襲い掛かってくると言うのなら、それを撥ね退けられる力を持つしかない」

「リアスちゃん?」

 

 覚悟を決めた眼差しで妹分の頭に手を置くリアスちゃんに目を瞬かせていたが――ベッドの布が擦れるような音と掠れた声音が耳に入り、全員の意識がそちらへと向かった。

 

 紫色の長い髪と細い身体がゆっくりと起き上がり、薄ぼんやりと開かれた瞳は琥珀の輝きを放っていた。あまり力が入らないのか身体を支える腕は頼りなく、ベッドボードにゆっくりと身体を倒している。何度も目元を手で擦り、寝ぼけた様子でこちらへと視線を移していた。少しずつ理性の光が瞳に入ってくると、俺の方を向いてこてんと首を傾げた。

 

「……あれ、夢で会った先生天使様?」

「先生でいいよ。おはよう、イングヴィルドさん」

「おはよう…?」

 

 まだ覚醒しきれていないみたいで精神世界の時と同様にぼんやりとした表情と声に笑いそうになる。でも、無事に目覚めることができてよかった。グレイフィアさんがいつの間にか水を用意していたみたいで、それをサッと差し出しているところはさすがである。今度はリアルメイドさんに驚いていたけど。

 

 イングヴィルドさんは不思議そうにしながらも、もらった水をゆっくり喉に流していく。しばらく水を飲む音だけが響き、落ち着いたようにホッと息を吐いていた。その後、どうして眠っていたのか自分自身に首を傾げ、ここはどこなのかときょろきょろと豪華な一室を眺めている。困惑はあれど、少なくともその目に恐怖は感じなかった。

 

 精神世界でも思ったけど、肝が据わっているというかなんというか。でもこれなら現状を伝えられそうだし、身体的に問題はなさそうかな。起きたばっかりでまだ夢うつつって感じだから、俺は一旦部屋を出ておこう。着替えや身支度もあるだろうしね。

 

 そう思って扉に向かおうとしたら、先ほどまで白音ちゃんの頭を撫でていたリアスちゃんがすごい勢いでイングヴィルドさんの方へと駆け寄った。リアスちゃんは彼女の両手をギュッと握り、パチパチと驚く琥珀色を見つめ返す。そんな突拍子のないリアスちゃんの行動に驚く俺達を他所に、紅髪の少女はキラキラとした表情で微笑んだ。

 

「おはよう、イングヴィルド。あなたが目覚めてくれて嬉しいわ!」

「えっと、ありがとう…?」

「私はリアス・グレモリーよ。あのね、早速なのだけど…あなたに言いたいことがあるの!」

 

 初対面なのに勢いが一直線過ぎる。真っ直ぐな思いが詰まった言葉に、困惑しながらも頷くイングヴィルドさん。グレイフィアさんと黒歌が「あっ、これは暴走してる」と慌てて止めようとしたが間に合わず、リアス・グレモリーは誰もが魅了されるような妖艶さと幼さを含んだ表情を浮かべて笑った。

 

 

「イングヴィルド、私の眷属に――家族になりましょう!」

 

 

 胸元まで掲げた両手を握り込むリアスちゃんと、ポカンと口を開けて固まるイングヴィルドさん。グレイフィアさんは一度深く深呼吸をすると、リアスちゃんの首根っこを掴んで部屋の外へと退出させたのであった。

 

 

 

――――――

 

 

 

「もう、グレイフィアったらひどいわ! ヒトを猫みたいに!」

「いやぁー、アレはしょうがない」

「というか、何で私たちまで出されたのよ…」

「えっと、みんな混乱していたから、あの場はグレイフィア様に任せるべきかと」

 

 ぷりぷりと廊下に出されたことに頬を膨らませるリアスちゃんに、俺は乾いた笑みを受けべるしかない。ついでとばかりに猫姉妹も放り出され、グレイフィアさんが身支度やある程度の事情を説明することになった。廊下で棒立ちしていても疲れるので、とりあえず近くの部屋で準備が終わるまで待つことになったのだ。

 

「というか、リアス。あんた本気なの? グレイフィアの話は聞いていたでしょ」

「聞いていたわ。つまり旧魔王派に負けない後ろ盾があればいいんでしょ。彼らが文句を言ってきても跳ね返せる「権力」と「武力」。それなら現魔王であるお兄様の妹であり、グレモリー公爵家の長女である私の眷属になれば、私たちは家族として堂々とイングヴィルドを守ることができるわ」

 

 呆れた声音の黒歌に胸を張って返すように告げるリアスちゃん。確かに今のイングヴィルドさんの立場は非常に危うく、宙ぶらりんだ。グレモリー家が彼女を護りたくても、悪魔社会の掟がそれを難しくさせる。それなら、いっその事身内として取り込んでしまえばいいのだと強い眼差しで告げた。自分の可愛い下僕(眷属)に手を出すなら、容赦はしないと。

 

「でも、リアス姉さん。さっきグレイフィア様がレヴィアタン家に狙われるかもしれないって」

「そもそも現魔王を輩出するグレモリー家は、旧魔王派からすればすでに敵認定よ。今更厄介事の一つや二つ抱えたところで変わらないわ」

「家に手を出せなくても、あんた個人が狙われるかもしれないのよ」

「ふんっ、ドンときなさい! 私はリアス・グレモリー。いずれレーティングゲームのトップに立つ夢を持っているのよ。その程度を退けられない主じゃ、夢なんて叶えられるわけがないわっ!」

 

 心配げな白音ちゃんと少し怒り気味に諭す黒歌に、リアスちゃんは己の矜持をかけて答えていく。黒歌はそれでも声を出そうとして、顔を上げたリアスちゃんの真っ直ぐな視線にたじろぐ。猫姉妹を見つめる翡翠色の瞳はどこまでも強い光を宿していた。

 

「それにどうせもっと強くならなきゃいけなかったしね。お母様に『滅びの魔力』の訓練をしてもらったり、グレイフィアに戦闘技術を教えてもらったり、お兄様の眷属のみんなからアドバイスをもらったり色々してきたもの」

「そこまでする必要がある? あんたは公爵家のお姫様よ。レーティングゲームに参加していた『(キング)』は、貴族悪魔らしく下僕を駒のように動かすだけだった。優雅な暮らしをやめて、泥臭い鍛錬に費やさなくても…」

「私は強くならなきゃいけないの! だって、そうしないと――黒歌を私の眷属に迎え入れられないじゃない」

 

 正月の駒王町探検ツアーの時に、リアスちゃんがこぼした本音を思い出す。黒歌の言うような悪魔貴族としての『(キング)』だと、結局前の主と同じで黒歌に頼り切るだけになってしまう。リアスちゃんはそれが嫌だった。黒歌を一人で戦わせないために、自分も隣に立って戦えるようになりたいと告げていた。

 

『私は、黒歌と一緒にレーティングゲームの楽しさを味わいたいの。一緒に戦って、上を目指すために作戦を考えて、黒歌と肩を並べられるような(キング)になりたいっ』

 

 その想いを成就させるために、大事な家族とこれからも一緒に笑い合えるように、リアスちゃんはすでに道を選んだ。最上級悪魔レベルである黒歌を己の資質で眷属にする。レーティングゲームのトップに立つという夢もあるけど、それよりもまずその目標を叶えることが彼女にとって一番大切なのだ。

 

 以前、俺はリアスちゃんの思いをグレモリー家のみんなや黒歌に伝えるべきだと話した。黒歌もそれに思い至ったのか、先ほどまでの言い合いになりそうな雰囲気が急激に萎んでいくのがわかる。むしろリアスちゃんが強くなりたいと思う動力源が自分だと改めて思い出し、カァーと頬に赤みが帯びていた。

 

「そ、それは…」

「あっ、リアス姉さん。その時は私も姉さまと一緒に眷属にしてくれる約束です!」

「もちろん、忘れていないわ。でも、本当にいいの?」

「はい、だって私にとって姉さま達がいるここが自分の居場所だから」

「もう、白音大好き!」

「私も大好きです」

 

 黒歌は危険だと説得しようとしても言葉が出てこず「あー、うー」と唸り、白音ちゃんとリアスちゃんはキャッキャウフフと抱き合ってくるくる回っていた。いやぁー、見ていて面白いというか、個人的に眼福である。それと同時に、この世界のグレモリー眷属、もしかして原作よりもヤバいことにならないか? と遠い目にもなった。

 

「ちなみにリアスちゃん、イングヴィルドさんに渡す予定の駒は?」

「『女王(クイーン)』よ。彼女と目が合った時に、ビビッ! ときたの」

「えっ、黒歌じゃないんだ」

「黒歌は『女王(クイーン)』って柄じゃないですから。『女王(クイーン)』は『(キング)』の補佐として動き、時に『(キング)』に代わって冷静に状況を見て眷属を動かす副司令塔。黒歌の場合、わりと頭に血が上りやすいし、自由に動いて突っ込んでいく方が強いですし、そもそも書類仕事とか事務的なことを手伝ってくれなさそうですし…」

「えぇ、書類仕事からは全力で逃げるわよ」

「威張んなよ、最年長」

 

 さすがは『(キング)』である、よく眷属候補のことを理解している。二人の付き合いは間違いなく長いけど、『女王(クイーン)』の資質的に黒歌には合わないってことか。確かに『女王(クイーン)』は眷属の中で一番多く役目を割り振られる。自由人の黒歌にそんな役職を与えても、逃げ出されて余計に労力を使うことになる未来が見えた。英断である。

 

 しかしそうなると、一番駒としての価値が高いものを使っちゃうわけか。『兵士(ポーン)』の駒が駒価値一、『僧侶(ビショップ)』と『騎士(ナイト)』の駒が駒価値三、『戦車(ルーク)』の駒が駒価値五だったはずだ。確かにイングヴィルドさんの駒はどれかって言われたら、俺も『女王(クイーン)』かなって気はする。彼女の才能なら「兵士」「僧侶」「騎士」「戦車」の全ての駒特性を使いこなせるだろう。

 

「でも、『戦車(ルーク)』の駒で眷属にするのは難しくないか…?」

「あら、奏太さん。駒を使って眷属にする時は、複数の駒を使ってもいいんですよ。黒歌の前の主が『僧侶(ビショップ)』を二つ使って黒歌を転生させたようにね」

「でも、リアスちゃんの『僧侶(ビショップ)』の内の一つは『変異の駒(ミューテーション・ピース)』だから…」

「『戦車(ルーク)』を二つ使えば駒価値十になります」

 

 貴重な『戦車(ルーク)』の駒枠を一人のために二つ使うという豪快さ。黒歌の為なら惜しくはないと態度からわかる。黒歌もたぶんもったいないと止めたんだろうけど、これはリアスちゃんが聞かなかった感じかな。でも、それなら確かに今のリアスちゃんでも届く可能性がある。

 

 今の黒歌は前主の『僧侶(ビショップ)』の駒によって転生しているから、そこはアジュカ様あたりが上手いこと調整してくれるのだろう。持つべきものは製作者の伝手である。そうなると、本来の原作で『戦車(ルーク)』だった方は…。

 

「ちなみに白音ちゃんは?」

「私は『僧侶(ビショップ)』か『騎士(ナイト)』で悩んでいます。『戦車(ルーク)』を二つ取り込んだ姉さまは、高い攻撃力と鉄壁さに、仙術や「キャスリング」で搔きまわしもできます。私はこれまでの姉さまの代わりに術による支援系になるか、素早さを生かした仙術でかく乱するサブアタッカー系になるか。非常に悩ましいところです…」

「さすがはゲーム知識が豊富な白音ちゃん」

 

 めっちゃチームの戦術を考えて悩んでいた。リアスちゃんが黒歌を眷属にするまでにまだ時間はあるから、もしかしたらその間に新しい眷属だって増えるかもしれない。それを考慮しながら決めるのもアリだと熱心に語ってくれた。黒歌と一緒に訓練しているから術方面にも明るいし、原作からフィジカル面も才能があった。これはこれで楽しみである。

 

「と、とにかく、まずはイングヴィルドから転生していいのか許可をもらうところからでしょ!」

「もちろん、全力で勧誘するわよ! 私の眷属になってくれるなら、独りぼっちになる経験なんて二度とさせないって誓うもの」

「リアス姉さんは来年には人間界へ留学しますし、眷属としてならイングヴィルドさんを人間界に連れていけますね。冥界に残すより、駒王町にいる方が血筋のことも隠せそうです」

 

 そんなわいわいとする未来のグレモリー眷属達にだが、残念なお知らせがある。正直この空気に水を差したくはないのだが、これは伝えておかないと。

 

 

「その、非常に言いづらいんだけどさ」

「何よ、奏太」

「たぶん、今のリアスちゃんの資質だとイングヴィルドさんを悪魔に転生させるのは難しいかもしれない」

『えっ…』

 

 三人同時にピキッと固まった。うん、そういう反応になるよね。

 

「えっ、えっ? だって、イングヴィルドは悪魔の血が覚醒したとはいえ裏のことを何も知らない一般人でしょ? 神器はすごいかもしれないけど、『女王(クイーン)』の駒だって使うのに」

「彼女の資質、たぶん飛びぬけているんだよね。神器に魔王の血に豊富な魔力を持った才能の塊。これら全部が合わさっているんだよなぁ、イングヴィルドさん」

『…………』

 

 うん、やっぱり絶句しちゃった。原作のイッセーでさえ、『兵士(ポーン)』の駒を八つ使って転生させることができた。アレだって神滅具が七、兵藤一誠が一という駒価値だったはず。それに当てはめると、神器に駒価値七を使うとして、残りの資質を駒価値二で補えるかと言われると…。

 

 俺からの指摘に少女達の目にウルウルした膜が見え、俺も心苦しく思う。彼女達なりに覚悟を持って、家族になろうとイングヴィルドさんを眷属に誘うつもりだったのだ。黒歌のように待ってもらうにも、彼女の血筋がそれを許してくれない。グレモリー眷属候補ってだけだと、やはり後ろ盾としては弱いのだ。

 

 でも、何とかしてあげたい――と思考の海に入りかけたその時、相棒から思念を感じて思わず背後を振り返った。

 

 

「それなら、俺が協力しよう。レヴィアタンの血筋をグレモリー家で保護してくれるならこちらとしても助かるからね」

「アジュカ様っ!?」

「ごきげんよう。キミがそうやって云々と考えるとまたろくでもない解決方法を提示しかねないので、本来はあまり干渉しないんだが、今回は特別に裏技を使ってあげよう」

 

 だから朝に続いて、もう爆弾を投げるのはやめてくれと真剣な顔で言われてしまった。先ほどグレイフィアさんとリアスちゃんにも似たようなお願いをされたことを思い出し、視線を明後日の方向へ向けておく。いやぁー、まだ考える前だったので大丈夫ですよ…はい。たぶん朝に聞いた俺からの報告に、イングヴィルドさんの容態と神器に関する数式を見に立ち寄ってくれたのだろう。目の光がちょっとなくなっていたし。

 

 とにかく、製作者様からの協力を取り付けられるのなら、願ったり叶ったりだ。リアスちゃん達も目を輝かせ、アジュカ様に頭を下げて感謝を告げていた。それからグレイフィアさんからイングヴィルドさんの身支度が終わった知らせを受け、俺達は彼女たちが待つ部屋へと向かうのだった。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。