えっ、シスコン魔王様とスイッチ姫みたいな力ですか?   作:のんのんびり

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第二百三十三話 検証

 

 

 

「という訳で、今日は俺が冥界にいられる最終日なのでイングヴィルドの神器について色々調べたいと思いまーす」

『おー』

 

 俺からの宣言に未だベッドの住人であるイングヴィルドは、パチパチと手を叩いて盛り上げてくれる。リアスちゃんたちも椅子に座って一緒に拍手をしてくれるので、こういうノリがいいところは助かる。黒歌なんて面倒そうに肩を竦めるだけだからな。ちなみにグレイフィアさんはイングヴィルドの朝の仕度を手伝ってくれた後は仕事に戻り、何かあったら声をかけるように言われていた。

 

 三日間という短い冥界滞在だったが、なかなかに濃い時間だったとしみじみする。眠りの病の治療の成功はよかったことだけど、まさかそれで悪魔の出生の秘密がついでで発見されちゃったり、さらについでで神器が勝手にポンすることが発覚したり、イングヴィルドの血筋や才能のことでドタバタしたり、俺というより周りの大人たちが大変そうだったなぁ…。メフィスト様なんて一昨日からずっと公爵閣下と一緒に話し合いをしているみたいだし。

 

「ちなみに今日の体調はどうだ? 無理しても良いことなんてないからな」

「まだ少し眠気はあるけど大丈夫。……次の日の朝に当たり前のように目が覚めたことへの安心感の方が強い」

「……そっか」

「改めて先生、私を起こしてくれて本当にありがとう」

「どういたしまして。俺も力になれてよかったよ」

 

 改まったお礼に気恥ずかしさを感じるが、こういう時は素直に気持ちを受け取るべきだろう。夜に寝て、朝に目覚める。そんな当たり前を彼女はようやく取り戻せたのだから。昨日と今日の診察からも、彼女の病は神器によって無事安定している。眠気は体力の回復の為もあるだろうが、しばらくは様子を見るしかないだろうな。

 

「ふふふ、ちなみに昨日の夜はね。私と白音もイングヴィルドのベッドで一緒に寝たのよ」

「はい、イングヴィルドさんが眠ることに不安にならないようにギュッと」

「うん、私が不安な間は一緒に寝て起こしてくれるって言ってくれたの」

「おぉー、両手に花じゃん」

 

 昨日は二人一緒だったが、今後は交代で一緒に寝る予定らしい。美少女が三人仲良くベッドで眠るシチュエーションって微笑ましいな。眠ることはまだ怖いみたいだけど、トラウマのようなものはなさそうでそこは安心かも。女の子三人のぽわぽわ空間にほのぼのした俺は、ニヤッとその輪からちょっと離れている黒猫に目を向けた。

 

「で、黒歌は一緒に寝ないの?」

「ちょっと私はそういうのは…」

「え…」

「あ、あんたもそんな残念そうな声を出すんじゃないわよ! 何、私とも寝たいわけっ!?」

「うん」

 

 たぶん妹と一緒に寝られるのいいなぁー、と考えていそうだったシスコンに話を振ってみたら顔を真っ赤にされた。そんな黒歌の憎まれ口にイングヴィルドはキラキラした目で頷く。邪気が全くない素直な返事に、黒歌の方がドギマギしていた。

 

「えっ、いや…、うんって……」

「だめ?」

「――ッ、だめじゃないわよ、もうっ!」

 

 すげぇ、あの黒歌が早々に白旗を上げた。俺から話を振っておいてアレだけど、さすがの悪猫も天然には勝てなかったようだ。そんな誰かと一緒に寝る気恥ずかしさにプルプルしている黒歌を横目に、イングヴィルドは隣にいる白音ちゃんへニコッと視線を向けた。

 

「その時は、白音も一緒に寝よ」

「えっ、イングヴィルドさんと姉さまとですか?」

「うん、その時は白音が真ん中」

「わ、私が姉さまとイングヴィルドさんの抱き枕に…」

 

 姉さまと一緒に寝るなんていつぶりだろう…、とぼそっと嬉しそうに尻尾を揺らす白猫の様子に、イングヴィルドはクスッと笑って黒歌の方へウインクした。黒歌も妹と一緒ならと先ほどまでの羞恥心よりも、ちょっと嬉しそうに黒い猫耳がピクピクしていた。こ、これはどこまでが天然で確信犯なんだ…。イングヴィルド恐ろしい子…。

 

「ちなみに先生」

「お、おう、なんだ?」

「悪魔の文化って服を脱いで寝るのが主流なの?」

「そんなこと俺に聞かないでッ!?」

 

 こてんと純粋な顔で爆弾を放り込まないでよ! たぶん原作知識からリアスちゃんとの添い寝で感じたことなんだろうけど…。さすがに悪魔の夜文化まで俺は知らないから! なお、リアスちゃんは隣で「寝る時に服を脱ぐことの何がおかしいの?」と不思議そうに首を傾げている。さすがは『ハイスクールD×D』のメインヒロインであった。

 

 

「あぁー、とりあえず本題に戻ろう。神器だよ、神器! イングヴィルドが魔力の大部分を封印するなら、今後の彼女の武器になるのは神器の異能ってことになるだろ。俺がいる内にある程度は力の事を知っておくべきだ」

「私の神器…。その神器のおかげで、私は目覚めることができたんだよね」

「神器は宿主の魂と繋がっている。神器を活性化させることで眠りの病による肉体との接続不良を無理やり繋ぎ合わせたって感じだな」

「……だから、先生は何度も完治はしていないって言っていたわけか」

 

 不安になるかもしれないが、主治医として正しいことを患者に伝えておくことは大事だ。昨日は悪魔についてや、今後のことで情報が手一杯だっただろうから、改めて俺の方から神器(セイクリッド・ギア)について詳しく話すことにする。残念ながらグレモリー公爵邸は神器に関する資料が少ない。ルシファー眷属がみんな神器持ちではないのもあって、この邸で神器を持っているのは俺とイングヴィルドだけなのだ。

 

「昨日のうちにアザゼル先生に連絡を取って、色々調べてもらったり研究資料をメフィスト様経由で送ってもらったりしたんだ。しばらくは難しいだろうけど、機会があったら堕天使の研究所とかで詳しく調べてもらった方がいいと思うよ」

「……アザゼル先生?」

「うん。堕天使の組織のトップ」

「……リアス、聖書陣営は停戦したって聞いたけど、悪魔の私が他組織の研究所へ簡単に行けるものなの?」

「普通は難しいんだけど、奏太さんだから…」

 

 アザゼル先生なら種族なんて気にせず、新しい神器ってだけで大興奮で招き入れてくれると思うよ。しかし、曖昧な表情で笑うリアスちゃんに何かを察したのか、イングヴィルドはそれ以上ツッコまず黙々と話を聞く姿勢になっていた。おかしいな、出会ってまだ二日目なのにもう俺の格好いいお医者様のイメージが壊れかけている気がする。何とか挽回しなくては! と俺はキリッと表情を引き締めて神器についての説明を続けた。

 

「聖書の神様が創ったシステムによって、ランダムに送られる人間だけが持つ異能」

「そうそう、ちなみに神器はただ異能を発揮するだけの道具じゃない」

「そうなの?」

「イングヴィルドがアジュカ様を見た時、警戒心みたいなものが内側から溢れていただろ。あれは神器による危機察知能力だ。神器は宿主を護ろうとする意思を持っている。今回の接続不良の解消だって、イングヴィルドを助けるために積極的に神器が動いてくれたおかげだ」

 

 俺は昨日のうちにアザゼル先生にお願いしていた、初心者向けの神器資料をイングヴィルドに手渡す。それに目を通しながら、自分の胸のあたりを不思議そうに手を当てていた。たぶん昨日の感覚を振り返っているのだろう。彼女がグレモリー邸で目覚めてから、あまり取り乱さずに済んだのは神器による善悪センサーのおかげもあると思う。

 

 ちなみに俺の相棒が神器システムそのもので、聖書の神様の後継者云々は今回関係ないので割愛しておく。一度に大量の情報を流されるとパンクするからな、報告会の時の大人達のように。俺のことや神器については、リアスちゃん達が折を見て教えておいてくれるだろう。資料をまじまじと眺めるイングヴィルドの疑問点を答え、神器の実体験などを話しておいた。

 

「神器に意思が…」

「あぁ、生涯の相棒ってやつだな。神器は宿主の魂と繋がっているから一蓮托生。死ぬまで共に生きることになる」

「私の神器は『終わる翠緑海の詠(ネレイス・キリエ)』って名前だよね」

「うん、そしておそらく『海』と『ドラゴン』に関わりがある神器だと思う」

 

 イングヴィルドの精神世界で宿主を護るように眠りについていた神器の意思について話すと、仲良くなれそうな雰囲気にホッとしていた。神器の中には宿主の肉体を乗っ取ろうとするタイプもあると話したからだろう。リアスちゃん達は新規神滅具かもとは聞いていても、海とドラゴンという要素であったことに驚いていた。

 

「話はできるの?」

「うーん、元々魂が封じられているものなら会話は出来るけど、そうじゃない場合は基本思念だけだ。肯定とか否定ぐらいは何となくわかる。でも、諦めずに四、五年話しかけ続ければ反応を返してくれるようになったぞ。喜怒哀楽が何となく感じられるようになるし、自分一人じゃ難しい異能の補佐を代わりにやってくれるし、怪しい人がいたら注意してくれるし、寝坊したくない時は目覚まし代わりになってくれるし、買い物をする時に事前にお願いしたらメモ代わりになってくれるし、今日の晩御飯を何にするか栄養バランスも考えて教えてくれるし…」

「あれ、神器ってお母さん…?」

「イングヴィルド、こいつの体験談は半分ぐらい聞き流していいから」

「えっ、ひどい。ちゃんと実際に経験したことも含めて話しているのに」

「裏世界初心者に変人の体験談をさも普通の事のように語るな」

 

 黒歌から呆れ声でツッコまれた件。いや、でも実際の経験談は貴重っていうじゃん。神器の素晴らしさは武器として使うだけじゃなく、日常でも大活躍できることなんだし。リーバンだって俺の言う通り、目に宿る神器に二年近く鏡越しに話しかけ続けたおかげで、能力範囲の制御や神器とのマルチタスクがだんだんできるようになってきたって言っていたのだから。なお、俺に報告していた時の彼の表情は諦観と若干の遠い目になっていたけど。

 

「ごほんっ、とにかくだ。イングヴィルドの神器の発動条件は、おそらく『声』なんじゃないかって思っている」

「私の声が発動条件…。でも、今も普通に話しているよ?」

「視力を媒介にする神器は『目で見る』ことを意識することで発動する。そして、『終わる翠緑海の詠(ネレイス・キリエ)』という名前や、イングヴィルドの精神世界で神器が思念による偶詠(ぐうえい)を謳っていたことを考えると、たぶん『歌』がキーワードなんじゃないかって考えている」

 

 このあたりは俺だけの考えじゃなく、相棒やアザゼル先生とも見解を相談し合った結果だ。俺の槍やヴァーくんの翼のような『目に見えるタイプ』の神器じゃない場合、ラヴィニアや鳶雄のような別個体が内に宿っているか、多くはその人間の五感や音に宿っている可能性が高い。もし『詠』が発動条件なら視力ほど暴走事故は少なくなるが、制御のたびに『詠』を歌うと考えたらちょっと大変かもな。

 

「どんな歌でもいいの?」

「こればっかりは試してみないことにはなんとも。ちなみに何か歌を覚えていたりする?」

「……たぶん童謡っぽいものはいくつか浮かんだかも。少し恥ずかしいけど歌ってみる」

「あっ、先に言っておくけど聖歌関係はNGね。俺と白音ちゃん以外全員に効果抜群(クリティカル)だから」

「悪魔って大変だね…」

 

 そういえば私も悪魔の血に目覚めたんだっけ? とうっかりしていたとポンッと手を叩くイングヴィルド。この子、しっかりしているようでポヤポヤしているのも素っぽいんだよなぁ…。本当に大丈夫なのかちょっと心配にもなる。目覚めて二日目で割と柔軟に対応できているイングヴィルドもすごいんだけどね。

 

 それから彼女は目を瞑り、何度か深呼吸をして心を落ち着かせる。そして胸に空気を吸い込んだ瞬間――柔らかな旋律が部屋全体を包み込むように放たれた。俺でも知っている有名な曲で、身体に負担をかけないぐらいの声量のはずなのに、まるでこの空間全てを支配してしまうような力が感じられた。俺は目を見開き、神器の反応を確かめると微かだけど淡い薄紫色の粒子がオーラのように漂い始めていた。

 

 やはり俺達の見解通り、『声』が発動条件なのは間違いない。しかし、これはおそらくだけど――不発だ。彼女の神器の異能は、たぶん『対象となるもの』がちゃんと存在するってことだろう。

 

 

「わぁー、イングヴィルド上手!」

「はい、素敵でした!」

「ありがとう。でも、人前でこうして歌うのは少し恥ずかしかったかも」

 

 短めの童謡であったため、時間にすればそこまで長くはなかったけど…。容姿と歌声、神秘的なオーラが合わさるとまさに歌姫って感じで思わず引き込まれてしまった。俺も拍手をして誉め言葉を伝えると、イングヴィルドは照れくさそうに頬を赤らめていた。

 

「奏太、妙なオーラがイングヴィルドの周りを漂っていたみたいだけど、あんたの見解は?」

「あっ、そうです。兄さん、イングヴィルドさんが歌ったら周りに薄紫色の光が浮かんでピカピカしていたので、神器の異能は発動したってことですか?」

「正確には神器の発動条件を半分は満たしていたって感じかな」

「半分?」

 

 四人の不思議そうな視線を受け、俺は小さく肩を竦めると自分でも頭の中で情報を整理していく。イングヴィルドの神器は、どうやらかなり限定的に力が働くタイプの可能性が高い。こういうタイプの神器はかなり珍しく、俺の知る原作では登場していなかったと思う。原作の神器ってわりと汎用性の高いものが多く、どんな状況でも発動はできるものが多い。だが、彼女の神器はそれに当てはまらないってことだ。

 

「イングヴィルドの異能は確かに発動していた。だけど、その異能の効果を発動できる『対象』がこの場にいなかったから不発になった。俺はそう捉えている」

「不発…? つまり、その『対象』がいないとイングヴィルドの神器は効果を発揮できないということですか?」

「簡単に言えばそうなる。イングヴィルドの神器は限定的に効果を発揮するタイプで、逆に言えば効果を及ぼせる『対象』がいなければ何も起こらない」

「何も…。それならそんなに危険な神器じゃなさそうね」

「まさか」

 

 リアスちゃんがきょとんとした目でこっちを見るが、俺は真剣な表情でイングヴィルドと視線を合わせる。俺の態度から真面目な話だと察したのか、全員が静かに耳を澄ませていた。普段使いができないほどの限定的すぎる条件、俺からすれば心当たりがあり過ぎる。俺の持つ『神依木』の起源と一緒だ。神性を憑依させることに特化した才能で、相棒や乳神様のような高位の神性を地上に下ろすことができた。一部の対象に対して、とてつもない効果を発揮するってことだ。

 

 イングヴィルドの神器はすでに『詠』という難易度の高い発動条件を持っている。彼女が神器の習熟度を上げればいずれ『声』で発動可能かもしれないが、それはしばらく後の事だろう。その上、効果を及ぼす対象が限られているという制約まで持っている。俺が思うにこれだけの「制約」持ち、しかも神滅具級の可能性もあると考えると『効果を及ぼす対象に対してなら無類の威力を発揮する』ぐらいはあってもおかしくない。

 

 しかも俺は、彼女の精神世界でその『対象』となりそうなものをすでに見つけてしまっているのだから。

 

「神器の中には発動条件と制約によって、他の神器以上の力を発揮するものがある。例えば『異能の棺(トリック・バニッシュ)』という封印系の神器は、発動条件に『所有者の体力や精神力を費やす』というものだ。発動条件が重い代わりに、自分より強い相手だろうと『一定時間特定の対象の能力を封じる結界』を張ることができる」

「発動条件が重いほど、威力が増すってことね」

「言われてみると、戦闘中に歌うのって難しそうです…」

 

 これは原作のサイラオーグさんの眷属である『僧侶』、ミスティータ・サブノックさんの神器の能力だ。彼はこの力でゼノヴィアさんの聖剣デュランダルや剣技を封印し、あと一歩のところまで追い詰めていた。サブノックさんの異能は『仲間がいること』が前提のスタイルで、自分一人で敵を倒す想定の神器ではなかったと記憶している。

 

「次に制約な。俺の場合だったら、『有である1のみが対象で0のものには干渉できない』って感じで何かしらの制約が神器にはある。当然制約も重ければ重いほど効果は絶大だ。イングヴィルドの場合、異能の効果を発揮できるものが限定されている時点ですでに大きな制約を結んでいるに等しいんだ」

「つまり、対象以外には無害でも、対象に値するものには絶大な効果を発揮してしまうかもしれないってこと?」

「そういうこと。そして俺は先ほど、イングヴィルドの精神世界で見てきたものを教えただろう」

「……『海』と『ドラゴン』ね」

 

 俺からの説明で理解が及んだのか、みんなの表情から緊張が読み取れた。黒歌も苦虫を噛んだような表情で考え込んでいる。もし最強種であるドラゴンに何かしらの影響を与えられる、それこそ海の水を操るように操作できる場合は下手したら情勢すら引っ繰り返せてしまうだろう。

 

「冥界に海がないことを考えると、そっちは人間界に行って確かめるしかない訳ね。でももし『海水』が対象なら、ただの水はどうなのかしら? 湖や川なら冥界にもあるけど」

「そのあたりはイングヴィルドの体力が回復したら、そっちで確かめて欲しいところかな。少なくともそこのお盆に入っていた水に影響は出ていなかったから、水なら何でもいいって訳ではないと思う」

「……うん、何となくだけどただの水じゃ駄目ってわかる」

 

 胸に手を当てて神器からの思念を感じ取っているのか、俺の言葉にイングヴィルドは頷くようにこくんと首を縦に振った。俺は水を操る神器を幾つか知っているが、『海水』限定でしか操れない神器は初耳だ。普通なら海という広大な範囲と膨大な質量を操るなんて不可能だと言いたいけど、マジで神滅具クラスならあり得てしまうのがヤバいんだよなぁ…。

 

 

「でも、先生。冥界に海がないならすぐに試せないし、それこそドラゴンなんてもっと危険で会うのは難しいんじゃ…」

「あっ、それなら大丈夫。俺の使い魔がドラゴンだから、ちょっと召喚してくる」

「……リアス、ドラゴンってこんなに簡単に出てくるものなの?」

「普通はありえないんだけど、奏太さんだから…」

 

 んー、でももしイングヴィルドの神器が『ドラゴン』を対象にするなら、どれぐらいの威力を発揮できるのかは検証しておきたい気持ちもある。ドラゴンは『ハイスクールD×D』の世界にとって重要な立ち位置だ。そのドラゴンに対して、どのような効果を及ぼすのかを知っておかなければならないだろう。

 

 あと、リンだけだと万が一の暴走のことを考えると、理性を持って止められる大人も必要だと思う。俺が次に冥界に来るのはイングヴィルドの体力が回復して、リハビリもだいぶ進んだ頃になる。今日中に確かめられるなら、次の課題をどうするか繋げやすいだろう。メフィスト様とグレイフィアさんに連絡を入れるついでに聞いてみようかな。

 

「リアスちゃん、ついででタンニーンさんにも連絡してみてもいい? 今暇だったらリンと一緒に来てくれませんかって」

「兄さん、ついでで龍王様を呼ぼうとしないで」

「……リアス、龍王様ってこんなに簡単に呼び出しちゃっていいの?」

「もう、奏太さんだから…」

「とりあえず、奏太だけは常識外に置いておきなさい。それが一番精神的にマシになるから」

 

 おかしいな、困った時の某猫型ロボット並みに役立つことをしているはずなのに…。何でだんだんみんなの目が遠くなっていくんだろう。それにもし俺の予想通りなら、ドラゴンに対して強い力が働く可能性のある神器を魔龍聖であるタンニーンさんが放っておくとは思えない。自分達にどれくらい、どのような影響があるのか王として知っておきたいだろう。

 

「それにイングヴィルドにとっても、タンニーンさんとの繋がりはあって損にはならないと思うぞ。もしイングヴィルドの異能が『海』と『ドラゴン』に影響を及ぼすものなら、冥界に海がない以上ドラゴンから力を借りるのが一番だ。リアスちゃんの眷属としてレーティングゲームに参加するなら余計にね」

「確かにイングヴィルドの魔力がしばらく封じられてしまうと考えると、その間の頼みの綱は神器になる。海水が常に傍にあるかわからない状況だし、それなら奏太みたいにドラゴンと契約する方が確実に戦力になるわ」

「私、ドラゴンと契約ができるの?」

「ドラゴンとの契約は、ぶっちゃけ相性と広い心と経済力があれば何とか…。野生のドラゴンを捕まえるより、タンニーンさんの領地で暮らすドラゴンの中からイングヴィルドと相性がいい相手を見繕ってもらう方が安全且つ、実力も保証されている。あの領地で暮らすドラゴンは、子龍の頃からしっかり教育されているからな。俺みたいに使い魔契約をするか、盟友契約にするかはそのドラゴンとの要相談になるだろうけど」

 

 まぁ、オスのドラゴンなら自分からイングヴィルドと契約したいってやつもいそうだけどなぁ…。火竜さんの巣にいたオスの子龍達なら、マジで美少女や美女ならコロッと懐きそうだ。ドラゴン側からしても、現魔王ルシファーの妹であるグレモリー眷属の『女王(クイーン)』と契約するなら悪くない話だろう。リアスちゃんはレーティングゲームのトップを目指しているから、血の気の多いドラゴンも満足できそうな職場である。

 

「でも、奏太さん。さすがに最上級悪魔であるタンニーン様にお願いするだけなのは失礼に値するんじゃ…」

「そこはイングヴィルドの異能を確かめてからになるけど。『終わる翠緑海の詠(ネレイス・キリエ)』の力でタンニーンさんにとって利益になる契約をイングヴィルドが結べばいいのさ。俺もタンニーンさんと「ドラゴンにとって毒となる成分の除去」といった食料改善の協力を契約で結んでいる。だから個人的な融通だって聞いてくれるし、余ったドラゴンや魔獣の素材なんかをカイザーさんに横流しして魔法少女の強化もできるんだ」

「カイザーさんに、魔法少女?」

「踏み込んじゃ駄目よ、イングヴィルド。その領域に触れるのはまだあんたには早いわ」

 

 こてんと首を傾げるイングヴィルドに、黒歌が真面目な表情で肩に手を置いて念押ししていた。黒歌にとって魔法少女はすでに領域外の存在らしい。案外最初の方に魔法少女という領域(理不尽)を知っておいた方が、後々どんな常識外なことが起こっても受け止められる度量ができるよ。アレが普通だと感じる駒王町出身のイリナちゃんが物語っている。

 

 話がちょっと逸れたが、タンニーンさんならイングヴィルドのことを黙ってくれるだろうし、柔軟な対応もしてくれるだろう。俺は一旦部屋を出て、メフィスト様やグレイフィアさんにイングヴィルドの神器で分かったことを報告し、タンニーンさんに連絡を入れていいか聞くと頭が痛そうに俯かれた。そういえば、まだ悪魔の出生やら神器勝手にポンやらなにやらのゴタゴタで大人たちは未だにバタバタでしたね…。三日連続で本当にすみません。

 

 主であるメフィスト様が「ごめん、タンニーンくん。そっちは丸投げになりそうだ…」と哀愁を漂わせてボソッと呟いているのが印象的でした。とりあえず、メフィスト様からタンニーンさんに連絡を入れてくれるそうなので、俺はリンに召喚していいか通信をかけることにした。

 

「リン、今グレモリー邸にいるんだけど来れるかー?」

『公爵邸のおいしいお菓子っ!』

 

 来て欲しい理由も聞かずに即答したぞ、この食欲旺盛ドラゴン。しかも返事がそれかい。グレイフィアさんに乾いた笑みを見せると、通信魔法でお菓子の手配をしてくれた。いつも最高の気配りありがとうございます。以前グレモリー邸にお邪魔していた時の食事の美味しさを覚えてしまったらしい。デュリオの影響で美味しいもの巡りで舌も肥えていくし、どんどんグルメドラゴンになっていっているなぁ…。

 

 

「という訳で、これが俺の使い魔のリンな」

「やっほー、リアにシロにクロ。あと初めましてのヒトー」

「わぁ、本物のドラゴンだ…。えっと、私はイングヴィルド。よろしくね」

「よろしくー。イング…ヴィルド――うーん、……『ヴィー』でいい?」

「えっ、うん。なんか新鮮」

 

 相変わらずうちのドラゴンは、名前を省略する癖があるな。別にそのヒトを下げている訳じゃないんだけどね、リンなりの友好の証でもあるし。ちなみにリンがしっかり名前で呼ぶ相手には基準が実はある。昔からラヴィニアのことをちゃんと名前で呼ぶのは、初めて火竜の巣に彼女が訪れた時に自身の熱を冷ますことができなくて死にかけていた(姉弟)を救ってくれた恩人だかららしい。あと名前で呼ぶのはクレーリアさんとその眷属の方、そして朱璃さん、……つまり、美味しい食事を作ってくれるヒトである。リンなりの敬意の表し方のようだ。

 

 俺の腕の中で元気よく右手を上げて挨拶をする赤い子龍にイングヴィルドは目を丸々とさせると、興味津々という感じで目を輝かせる。もう視線から触っていい? と訴えかけているようで、俺は小さく笑うとリンの許可を得てから触らせてあげた。ベッドの上に飛び乗ったリンにそっと触れ、ツルツルしながら仄かに温かい鱗の感触に感動しているようだ。目覚めてからぽやっとしたような泰然とした雰囲気を纏っていたイングヴィルドが、十七歳の女の子らしい表情を浮かべていることに微笑ましくて笑ってしまった。

 

「ドラゴンって生命力に溢れているんだね。紅い炎のような膜がゆらゆらしてる」

「えっ、イングヴィルド。リンのオーラが見えるの?」

「これがオーラ…。たぶん見えてる。でも、リンちゃんだけみたい」

 

 きょろきょろと俺達へ視線を移したイングヴィルドは、不思議そうに首を傾げた。俺や猫又姉妹のように仙術を齧っていない限り、平常時の他者のオーラを把握するのは難しい。ドラゴンに対して強い感応(かんのう)能力を持っていると考えていいだろう。大人しく撫でられていたリンは、そんなイングヴィルドの様子に目を向けて喉を鳴らした。

 

「むむむー」

「どうした、リン?」

「んーと、言葉で表現するのは難しいんだけどー。何かね、ヴィーからは逆らいづらいオーラみたいなのが感じられる」

「……近寄りがたいってこと?」

「んーん。同時に惹かれてしまう魅力? みたいなのも感じるの。弛緩と緊張の両方が行ったり来たりって感じで…。むー、よくわからないー」

 

 リンなりに思ったことを口に出しているようだけど、自分でも言葉が上手くまとまらないらしい。おそらくリンの本能が、イングヴィルドに対して恭順(きょうじゅん)を表しているのかもしれない。近寄りたい気持ちと畏れ多い気持ち、この両方がせめぎ合っているって感じかな。今のところ、イングヴィルドに触れられることに問題はないようだ。

 

 それにしても、この世界でも最強種の一角を担うドラゴンが本能で何かを察知するレベルか…。メフィスト様からタンニーンさんとの連絡がついたと通信があったこともあり、待っている間イングヴィルドはリンから普段の生活や、ドラゴンと契約する時の心得・注意点などを聞いていた。リンはメイドさんが運んでくれたお菓子をイングヴィルドに食べさせてもらいながらご満悦のようだ。うちのドラゴンは初対面の人にも本当に遠慮しないなぁ…、と呆れてしまった。

 

 

「まったく、お前は毎度毎度何かしら騒動を呼び起こして来るな…」

「あっ、タンニーンさん! お久しぶりです、去年の夏休み以来ですね!」

「あぁ…、あの地獄の模擬戦以来…。すまんが、あの尊厳破壊兵器のことは思い出させないでくれ」

 

 どうやら魔法少女コンパクトもまた存在だけで、最強のドラゴンが本能で拒否反応を発揮するものに至ったらしい。

 

「ごきげんよう、魔龍聖タンニーン様。私の眷属候補のためにわざわざ来ていただき感謝いたします」

「うむ。今回はメフィストとグレモリー公爵から新規神滅具候補であり、我々ドラゴンに影響を与えかねない力についての検証を依頼として頼まれている。だからそこまでかしこまる必要はない」

「ありがとうございます」

 

 なるほど、プライベートとしてではなく、仕事の依頼として引き受けてくれたって訳ね。大人達も世界に影響を与えかねない神滅具相手なら、そりゃあ慎重に検証をしたくもなるか。それなら遠慮せずに頼めそうだ。タンニーンさんは普段の十五メートル級の大きさではなく、部屋に入れるように子龍ぐらいの大きさに変身してくれている。紫色の精悍な顔付きのドラゴンの登場に、イングヴィルドの目がまた輝きを増していた。

 

 イングヴィルドがレヴィアタンの血筋であることはメフィスト様からすでに聞いているみたい。なので、タンニーンさんも忙しい合間を縫ってきてくれたので、早速これまでの検証でわかったことや異能について俺から説明を入れていく。イングヴィルドの向かい側に座り、悠然と腕を組んで耳を傾けたタンニーンさんは思案気に頷いていた。

 

「なるほど。確かにイングヴィルド・レヴィアタンの異能の効力、効果を王である俺が確認し、把握しておく方がいいだろう。実際、こうして向かい合っているだけで本能が『脅威』を訴えかけているからな」

「脅威? 私が龍王様の?」

「あぁ、下級ドラゴンなら粛々と首を垂れるだろう。プライドの高い同胞だろうと、其方を無下に扱うことはできまい。ドラゴンと対等な契約関係を結ぶつもりなら、上級や最上級クラスを勧めよう。その纏う神器のオーラだけで、大抵の龍は委縮してしまう」

 

 龍王様直々の見解に、ここにいる全員が驚きに目を見開く。まさかタンニーンさんがここまで断言するほどのレベルとは…。これはもしかして、俺の想定以上にイングヴィルドの神器はヤバいのかもしれない。龍王クラスが畏れを感じるのなら、下手したら二天龍――龍神クラスまで禁手に至れば手が届く可能性がある。そうなったら、レヴィアタンの血筋どころの話じゃなくなるぞ。

 

 俺の懸念にタンニーンさんは無言だが、視線で頷いてくれた。もし龍神オーフィスを利用していた『禍の団(カオス・ブリゲート)』あたりにイングヴィルドの異能がバレたら狙われかねない。イングヴィルドを不安がらせないために遠回しに警告してくれているのだ。タンニーンさんが上級以上と契約しろ、と暗に言ったのは優秀な護衛で固めろと言っているようなものなのだから。

 

「さて、早速だが其方の神器の力を見せてもらおう」

「はい。といっても、私は歌うことしかできないけど…」

「イングヴィルド、神器って言うのは思いの力で威力や方向性が決まる。だからまずは、ドラゴンがリラックスできるような、ゆったりした気持ちになって欲しいみたいな感じで歌ってみたらどうだろう」

「それなら、子守唄にしてみる」

 

 まだイングヴィルドの神器がドラゴンにどう影響を与えるかわからない以上、暴走とは反対の鎮静方向に向かわせるべきだろう。タンニーンさんに異論はないようで、リンもイングヴィルドの隣でわくわくしたように座っている。胸に手を当て一呼吸を入れた後――イングヴィルドの優し気で儚げな眠りの歌が響き渡った。

 

 先ほどと同様にイングヴィルドの周囲に薄紫色の粒子が舞い、彼女のオーラが照明のようにあたりを照らす。相変わらず引き付けられるような歌声に感動していると、ポスッ! とベッドから物音が鳴った。俺がそちらを見ると、リンが目を瞑って「すぴー」と鼻息まで鳴らすほど熟睡していた。俺は慌ててタンニーンさんの方へ振り向くと、彼は微睡んだ目を必死に堪えるように歯を食いしばっている。牙を力強く噛みしめ、手元が固く結ばれている様子に、それだけ必死に衝動を抑えているのだと感じた。

 

「これは…、なかなかのものだな……」

「タンニーンさん、大丈夫ですか?」

「あぁ…、倉本奏太。すまないが、神器の異能でこの眠気と、先ほどの鎮静の歌によって受けた効果を消してもらってもいいか」

「わかりました」

 

 イングヴィルドが歌い終わると、タンニーンさんは大きく息を吐き出す。俺は相棒の異能で蝶々を呼びだして言われた通りに力を使った。それにしても、タンニーンさんの様子的にどうやらドラゴンに対して眠気を誘うだけじゃなくて、何かしらのバッドステータスも付与されていたみたいだ。イングヴィルドは少し不安そうにしながらも、眠ってしまったリンをちょんちょんと突っついている。どうやら多少の刺激では起きない程、眠りは深いようだ。

 

「まず俺のような龍王クラスじゃなければ、そこの火の子のようにあの強烈な眠気には逆らえないだろう。さらに歌声を聴き続けるほど身体から力が失われていき、気力までごっそりと削ぎ落とされた。もはや意地で意識を保っていたようなものだ。正直、あの状態で反撃に移るのは難しい。結論から言えば、イングヴィルド・レヴィアタンの歌声を聴いた龍の多くは無力化されてしまうだろう」

「ドラゴンの無力化…。しかも龍王クラスまで」

「まるで頭の中が歌声で埋め尽くされるような感覚だった。おそらく今回のような鎮静方面ではなく、使役を目的とした歌だったなら服従させ従わせることもできるだろう」

 

 つまり、イングヴィルドの異能は「ドラゴンに影響を与える歌声」ってことか。鎮静目的なら眠らせて無力化でき、使役目的なら歌声が届く範囲にいるドラゴンに言うことを聞かせられる。悪いことを考えたら、いくらでも思いつきそうな凶悪な異能である。それならと俺は不安げにしているイングヴィルドに向かって、ニッと笑みをみせた。

 

「イングヴィルド、次はドラゴンが元気になる歌を歌ってみてくれ」

「えっ?」

「イングヴィルドの異能が「ドラゴンに影響を与える」ものなら、デバフを付与するだけじゃないはずだ。応援する気持ちで鼓舞すれば、ドラゴンのやる気を呼び起こして強化することもできるってことさ。イングヴィルドの歌で、ドラゴンを元気にさせられるかもってことだよ!」

 

 異能と向き合う時に大切なのは自分の力を恐れないこと、使い手として前を向くことだ。悪い使い方ができるなら、当然良い使い方だっていくらでも見つかる。こういう時は切り替えていくことが大事なのだ。俺からの提案にイングヴィルドは最初呆然としていたけど、ギュッと拳を握りしめた後、覚悟を決めたようにこくんと頷いてくれた。タンニーンさんも椅子に座り直し、耳を傾けるように目を閉じた。

 

 始めは恐る恐るだった歌声はだんだんとテンポと調子が弾んでいき、気づけば明るく溌溂とした思いが溢れていく。すると、先ほどまで熟睡していたリンの耳や尻尾がピクリと動き出し、不思議そうな様子で瞼を手で擦っていた。歌声が響くほど身体が自然と揺れてリズムを取り出し、鼻歌まで一緒に歌いだすほど陽気に合いの手まで入れだしていた。まだ子龍とはいえ、上級ドラゴンのリンがここまで影響を受けるとは…。

 

「タンニーンさんどうですか?」

「ふむ、これはすごいな…。先ほどまで抜けていった力が一気に回復しただけじゃない。むしろ活力まで(みなぎ)ってくるようだ。自分のオーラが奥底から滾々(こんこん)と燃え上がっていくのを感じる。この歌声が燃料になっているのか、いくらでもオーラを増せそうだ」

 

 俺の目から見ても、タンニーンさんの紫色のオーラが爛々と輝くように溢れているのが分かる。熱気のようなものがゆらゆらと見えるほどなので、普段オーラを感知できないリアスちゃんもぽかんと口を開けていた。歌声一つでここまで効果を発揮できるのか…。これは海を操る異能の方も用心しておいた方が良さそうだ。

 

 とりあえず今は、リンが「ヘイヘイ!」と楽しそうに踊りながら合いの手を入れているイングヴィルドの歌声をゆったり鑑賞しますか。今後元気になったら、いつかラヴィニアにもイングヴィルドを紹介して一緒に歌ったりとかもできるかもしれない。神滅具持ちの歌姫によるデュエットとかすごい豪華である。俺もリコーダーぐらいでいいなら頑張って演奏しよう。

 

 こうして異能の検証をタンニーンさんと煮詰めながら、しばらくはみんなで歌を楽しむ時間を過ごしたのであった。

 

 

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