えっ、シスコン魔王様とスイッチ姫みたいな力ですか?   作:のんのんびり

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第二百三十四話 段取り

 

 

 

「ふむふむ、子守歌系を歌うと眠りと気力の低下、応援歌だと歌声がオーラを増強させてやる気もアップ。イングヴィルドの気持ちが籠められた歌ほど効力が上がる感じか」

「そうなると奏太みたいにドラゴンを使い魔にするのがやっぱり良さそうね。戦闘を任せるタイプとイングヴィルドを守護するタイプの両方が欲しいわ」

「イングヴィルドなら複数のドラゴンとも契約できそうだしな…」

 

 原作でアーシアちゃんが蒼雷龍(スプライト・ドラゴン)のラッセーくんだけじゃなく、黄金龍君(ギガンティス・ドラゴン)のファーブニルとも契約し、さらに邪龍とも複数契約していた。彼女の場合は可憐な容姿と純真無垢な心がドラゴンに慕われていた。イングヴィルドも素質があるし、神器の効果も考えると一人でドラゴン戦隊とかつくれそうだ。

 

 だが、歌声が聞こえる範囲じゃないと効果がないから常にドラゴンの傍にいないといけないのがネックだな。拡声器越しに歌を歌えば離れた場所でも効力を発揮できそうだけど、毎回大音量でライブをするようなすごい絵面になりそうだ。必要ならやりそうだけど、戦闘の度にイングヴィルドがマイクを持って突発ライブを開催する。それはちょっと…とさすがに本人も引き気味だった。

 

 うーん、もっと効率的にイングヴィルドの異能を発揮させる方法は他にないかな?

 

「あっ、ちょっと待てよ」

『えっ』

「イングヴィルドの歌声を録音しておけばいいんじゃね! そうすればドラゴンの首に歌声を録音した機器を取り付けて常にパワーアップできるし、次のタンニーンさんとの模擬戦の時にイングヴィルドの子守歌を録音したやつを流せば、今度こそ魔法少女コンパクトを絶対に当てられ――」

 

 隣からすごい勢いで頭をパーンされた。

 

「お前は本当にろくなことを考えないな!」

「せ、先生が壁まで吹っ飛んで…」

「大丈夫だよ、ヴィー。よくあることだから」

「裏の世界のコミュニケーションって命懸けだね」

 

 おかしいな、最近の大人達が容赦なく手をあげるようになってきた気が…。デコピンされたり、頭パーンされたり、俺の頭に物理ダメージを与え過ぎである。何故か相棒からもしゃーないみたいな思念を感じるし…、自己回復できるからかツッコミに容赦がない件。

 

「……だが、発想自体の確認は必要だな。録音した音声でも効果があるなら、対策を考えなければならん。済まないが其方の歌を録音させてもらってもいいか」

「は、はい。わかりました」

 

 緊張した面持ちで歌ったイングヴィルドだったが、結果から言うと録音した音声に異能の効果は発揮されなかった。念のため応援歌や子守歌なども試してみたが、特に変化はないようだ。それに残念なような、ホッとしたような表情で全員が肩を撫で下ろしていた。確かに録音もOKなら敵側に利用される可能性もあるから、異能の効果はその場限りって方が扱いやすいだろう。

 

 それからいくつか確認したいことを確かめた後、わかったことを研究レポートにまとめてアザゼル先生に転送する。タンニーンさんからもイングヴィルドと相性が良さそうなドラゴンを探してくれるらしい。まだまだ病み上がりであるイングヴィルドの体力を考慮して、今回はこのぐらいでいいだろうとお開きになった。

 

「海は人間界に来た時に試すとして…。どうせなら夏ぐらいにグレモリー眷属で海へバカンスに行くのもありかもな」

「わぁ、それいいですね! 私もずっと冥界で暮らしていたので、海に行くのは初めてです!」

「バカンスかぁ…、悪くないわね。せっかくなら水着も新調しちゃおうかしら」

「海はイングヴィルドにとっても馴染みが深そうだし、記憶の回復にもよさそうね」

「ありがとう、みんな」

 

 俺からの提案にイングヴィルドが遠慮がちにリアスちゃん達を見たが、大賛成でノリノリな様子に嬉しそうに笑っていた。本人も海へ行けることにわくわくしているようだ。夏までまだ数ヶ月あるし、それぐらいなら泳ぐのは体力的に難しくても海辺を散歩するぐらいならできるだろう。

 

「シロは海が初めてなのか。じゃあ、リンが波との戦い方を教えてやるぞー」

「初めての海で波に大騒ぎして人を生傷だらけにしたドラゴンが何を…。あと、ちゃっかり便乗するつもりかよ」

「えっ、先生は来てくれないの…?」

「イングヴィルドさん、罪悪感を感じるような悲しい声音はやめなさい。この天然小悪魔め」

 

 一応主治医として、あと神器の研究のためにも同行はするつもりだけどさ。でも、さすがに女性陣だらけの海に男一人は恥ずかしいので応援は呼ばせてもらおうかな。それにせっかく人間界に行くのなら顔合わせもしておいた方がいいだろう。

 

「どうせなら駒王町に集まる予定のメンバーも誘ったらどうかな。アーシアちゃんも悪魔や堕天使と顔を合わせる機会があった方がいいし、人間界ならアザゼル先生も来てくれると思う。あと俺もラヴィニアや朱雀、リーバンとかデュリオあたりのイングヴィルドと年齢が近い友人を呼べるしさ」

「何だかすごい大所帯のバカンスになりそうね…」

「さらっと神滅具(ロンギヌス)だらけの魔境になってるんだけど」

 

 その分、保護者も沢山だから最強の布陣が出来上がるよ。おじいちゃんとかバラキエルさんとかルシファー眷属も来てくれるだろうから、たぶん世界一安全なバカンスになるだろう。そうだ、せっかくならヴァーくんも参加できるかアザゼル先生に相談しよう。ルシファーの血筋とか心配事はあるけど、朱乃ちゃんや朱璃さんが傍にいれば大丈夫だろうし、友達の美猴(びこう)くんも誘ったら楽しんでくれそうだ。

 

 それに、イングヴィルドの異能が二天龍であるアルビオンにも効果を及ぼすのかはちゃんと確かめておきたい。もし二天龍であるアルビオンにも効果を発揮するなら…。俺の計画に大いなる進歩をもたらすことになる。いずれ二天龍関係は駒王町組にも伝えなきゃいけなかったし、大人組とそのあたりは調整しないとな。今のところ思い付きってだけだから、俺の方でスケジュールを合わせられるか確認しておこう。

 

「あの龍王様、わざわざ私のために来てくれてありがとうございました」

「構わない、こちらとしても有意義な時間だった。あと、俺のことは名で呼ぶといい。悪魔に転生した時点で、すでに元龍王でしかないからな。それに、今後の付き合いも長くなるだろう」

「それじゃあ、俺はタンニーンさんを見送ってくるから今後のこととか先に考えておいてくれ」

 

 神器の効果的に海やドラゴンがいないグレモリー邸で暴走の心配はなさそうだし、しばらくは体力の回復に専念しながら知識や魔力の勉強に専念することになるだろう。頭をぺこりと下げるイングヴィルド達に挨拶をし、俺はタンニーンさんを見送るために一緒に廊下へ出る。お互いにしばらく無言で歩いた後、溜め息を吐くようにタンニーンさんは肩を竦めた。

 

 

「まったく、またとんでもない神器が発見されたものだ…」

「えっ、なんでこっちを恨めしそうに見るんですか? 今回、俺は何も悪いことをしてないですよね」

「確かにお前が原因でないことはわかっている。だが、こうも厄介事を定期的に発掘されるとな…」

 

 疲れたような声音でこっちを半眼で見つめてくるタンニーンさん。俺は基本「あっ、見つけちゃった」で放っておくわけにはいかないから、とりあえず報告することの方が多いだけなんだけどなぁー。その所為か最近の保護者達は俺からの連絡ってだけで、ビクッと肩がちょっと跳ねるようになったらしい。俺はトラウマの化身か何かですか…?

 

 そんな愚痴を隣で聞きながら、目覚めたばかりで龍王すら影響を及ぼす神器の誕生に改めて頭が痛そうにしていた。ドラゴンの保護に力を注いでいる彼からすれば、イングヴィルドの存在を放置することはできないだろう。悪意を持つ者にその力を利用されたら、間違いなく多くのドラゴンに影響を与えることになるのだから。

 

「世界に周知される前に発見できたことと、こちらで保護できたことが救いだな。本人の性質も善良であり、リアス・グレモリーの眷属になるのなら魔王の後ろ盾もある。……血筋を理由に旧魔王派に奪われることだけは俺としても阻止したい」

「……現魔王政権にダメージを与えるためにドラゴンを操って強襲とかやらかしそう?」

「その場合、先兵として利用されるのは俺が冥界で保護している同胞達になるだろう」

 

 俺からの懸念にギリッと怒りに歯を鳴らすタンニーンさんに、俺も無言で頷いた。彼らが原作のようにテロ行為に加担し、無差別に悪魔社会を荒らすつもりなら自分たちの手を汚さずにドラゴンを嗾けられるイングヴィルドの異能を欲してもおかしくない。彼女なら協力したくないと抵抗するだろうが、英雄派にいたレオナルドのように無理やり神器を暴走状態にして操られる可能性もなくはない。

 

「だが、イングヴィルド・レヴィアタンの異能は今後のドラゴンの治世に大きな貢献を齎すだろう。故に俺もまた彼女を護り、さらには後ろ盾としても表立って関われるように個の繋がりをつくる必要があると判断した」

「イングヴィルドとの繋がりをつくる。まさかタンニーンさん自身が、イングヴィルドと契約するってことじゃ…」

「……さすがに俺自身が契約するのは難しい。だが、俺と深い関係がある者を契約者にするのはどうかと考えている」

 

 魔龍聖であるタンニーンさんと深い関わりがあるドラゴン。タンニーンさんが後ろ盾になるなら、仕事関係だけじゃなく、プライベートでもイングヴィルドと関わりがあるのだと外に示す必要がある。タンニーンさんの眷属ドラゴンさん達かと思ったけど、彼らも彼らで自分たちの領地や仕事がある。イングヴィルドの護衛として常に傍で控えるのは難しいだろう。

 

 それに、リアスちゃんがレーティングゲームの選手として戦うなら、タンニーンさんとの試合をする場合に味方が被ってしまう。諸々のことを考えると、タンニーンさんの眷属ドラゴンさん達と契約するのは無理そうだな。

 

「イングヴィルドの護衛も兼ねているなら実力もあって、さらにタンニーンさんやリンみたいな変身能力……転生悪魔が持つ魔力のようなものが必要ですよね」

「あぁ。それと彼女の歌によるオーラの上昇や高揚感は、精神を律する力のある誇り高いドラゴンでなければ力に溺れかねないだろう。それでいながら重要な役職などについておらず、自由に動ける者が望ましい」

「……いるんですか? そんな全ての都合が揃ったドラゴンさん」

「はぁ…、一人だけな。こちらの説得に応じてくれるかはわからんが」

 

 えっ、ドラゴンの王様であるタンニーンさんの言葉でも従ってくれるかわからないドラゴンがいるの? 俺の疑問を浮かべた表情に遠い目になったタンニーンさんは、先ほどよりも深い深いため息を吐いた。

 

「俺の息子。三男のボーヴァ・タンニーンだ」

「えっ」

「なお、反抗期の真っただ中でな。今は冥界中を飛び回り、強い者を探しては喧嘩を吹っ掛けているらしい」

 

 まさかのタンニーンさんの御子息さんとは…。そりゃあ、種の繁栄を第一に考えているタンニーンさんが、自分の子どもをつくっているのも当然か。確かに血のつながりがある家族が契約相手なら、間違いなく後ろ盾として十分過ぎるだろう。それにしても王様として完璧なタンニーンさんでも、一人の父親として子育てに苦労しているんだな。

 

 うーん、三男のボーヴァさんか…。俺の知る原作には出てこなかった相手だ。タンニーンさんの息子さんなら当然転生悪魔である父親の魔力を引き継いでいるだろうし、親の欲目もあるかもしれないけどタンニーンさんが実力も精神力も任せられると太鼓判を押している。イングヴィルドの護衛兼、契約相手としては申し分ない相手だろう。問題は反抗期故に素直に引き受けてくれるかどうかってところか。

 

「長男と次男とは連絡を時々取っているらしく、俺もそちらから頼んでみるつもりだが…」

「長男さんと次男さんはお仕事に真面目な感じで?」

「あぁ、領地の一部経営や外交、社交などの仕事を任せている。俺が王としてドラゴン達をまとめられるのも、家族の手助けのおかげもあるだろう」

「なるほど、優秀を絵に描いたような家族構成…」

 

 タンニーンさんと関わっていると忘れそうになるが、本来ドラゴンの性質は気性が荒く、血の気が多くてプライドが高い。長い目で理性的に律し、真面目に仕事ができるまめなドラゴンの方が希少なのだ。ボーヴァさんの荒くれ者のような性質も、ある意味でドラゴンらしいとも言える。俺にはヴァーくんっていうバトルジャンキーな弟がいるからな。何となくだけど、ボーヴァさんが家族に対してコンプレックスを抱いてもおかしくない環境のように感じた。

 

 タンニーンさんの様子的に、ボーヴァさんは反抗期でやんちゃだけど決して邪龍に堕ちるような危険性はないと判断している。タンニーンさんの領地で悪さをする魔物の討伐なんかもやってくれるそうだ。お兄さんたちみたいに経営で父親の力になれないけど、力は有り余っているって感じなのかな。ただその力を上手く活かしきれていないように思った。

 

「……タンニーンさん。もしボーヴァさんに連絡がつくようなら、王様としてじゃなくて父親としてボーヴァさんの力が必要で頼りたいんだって言ってみてくれませんか」

「む、父親としてか…」

「はい、さらにボーヴァさんのように実力があるドラゴンにしか任せられないとか、多くの強敵に挑むことになり負けてはならない責任があるとか」

「煽てているのか、プレッシャーを与えているのか…。事実ではあるが」

 

 ここはボーヴァさんじゃなければ責任ある大役を任せられない! って父親に頼まれるからこそ効果があるのだ。正直、俺は反抗期の息子さんが本気でタンニーンさんを嫌っての行動とは思えない。タンニーンさんは俺も尊敬する格好いい大人の一人だからな。むしろタンニーンさんの息子としての自分をすごく気にしているような気がする。

 

 平和を求めるタンニーンさんと原作のアザゼル先生、己の力を高めようと戦いを求めるボーヴァさんとヴァーリ・ルシファー。何となくだけど、このまま冥界で力を持て余して燻るより、荒波に放り込んで発散させるのが一番だと思うんだよね。リアスちゃん達がいずれ強敵に立ち向かうことになるのなら、兄として少しでもその苦労を取り除けるように率先して戦力の斡旋をしてあげたい。喜べ、ボーヴァさん。君の願いはようやく叶う。バトルジャンキーには、やっぱり倒すべき相手が必要だよね!

 

「俺もバトル大好きな知り合いがそれなりにいますからね。イングヴィルドと契約するなら、その有り余っている力を高め合うライバルを何人か紹介だってできますよ!」

「あ、あぁ…。何故だろう、この我が子を千尋(せんじん)の谷に突き落とすような感覚は…」

 

 ブツブツと呟いては眉間に皺を寄せるタンニーンさん。しかし、他に良い案は思い浮かばなかったようでとりあえず息子さんに連絡を入れてみることにしたらしい。うんうん、尊敬するタンニーンさんが認めるほどの御子息さんならきっと耐久力も忍耐力も精神力も大丈夫なはずだ。これは良い繋がりをゲットできたぞ!

 

 ヴァーくんと美猴くんならキラキラした目で毎回戦いを挑むだろうし、駒王町の魔法少女達もドラゴンや魔物素材でパワーアップした力を色々試したいってうずうずしていたし、龍王クラスならイングヴィルドの歌の耐久テストもできるだろう。さすがに王様として大事な仕事があるタンニーンさんで耐久テストはできないけど、無職のボーヴァさんならそこらへんの問題がなくなるからね。

 

 あっ、そうだと俺は頭が痛そうに悶々としているタンニーンさんに向けてポンッと手を叩いた。

 

「ちなみにタンニーンさん。ちょっと気になったことがあるんですけどいいですか?」

「どうした改まって」

「タンニーンさんの感覚でいいんですけど…。イングヴィルドの歌の効果って、二天龍や龍神クラスにも届くと思いますか?」

 

 機会があれば直接確かめるつもりはあるが、まずはタンニーンさんの意見も欲しいと思った。真剣な眼差しで答えを求める俺の声音に気づいたのか、タンニーンさんは先ほどまでの表情を変えて腕を組み、無言で数秒ほど考え込んでいた。しばらくして答えをまとめたのか、顰めた眉間はそのままで静かに頷いて見せた。

 

「異能の効果は届くだろうな。俺の時もそうだが、イングヴィルド・レヴィアタンの歌を自分が受け入れているならそのまま歌の効力が発揮される。これは二天龍も龍神も変わらないだろう。だが眠りなどのデバフ効果の場合は、自分の意思に反していると判断すれば抵抗力が働く。その抵抗力はドラゴンとしての格やオーラ総量によって決まると考えている」

「…………」

「体感ではあるが、おそらく彼女が本気で歌えば今の二天龍では完全に防ぐことは不可能だ。戦闘は可能だろうが、『倍加』や『半減』などの異能を行使することさえ難しいだろう。全盛期のあいつらなら、もしかしたら俺でも手が届くところまで力が削られるかもしれんな」

 

 なるほど、全盛期の二天龍が龍王クラスまでランクが下がるかもしれないのか。改めて聞くととんでもない効果だ。だけど、これである一つの脅威に対抗するための手札ができた。つまり『三日月の暗黒龍(クレッセント・サークル・ドラゴン)』のクロウ・クルワッハにも効果があるってことだ。原作で彼は全盛期の二天龍と同格まで力を蓄えていたはずである。

 

 彼は魔神バロールの元眷属であり、ケルト神話の「戦い」と「死」を司る邪龍である。そして、封印されることも討伐されることもなく生き残り、粛々とその年月を修行に費やしてきたストイックなドラゴンだ。最初は敵として現れたけどリゼヴィムの卑劣なやり方に袂を分かち、最終的にイッセー達の味方になってくれた。

 

 だけど、この世界で同様に味方になってくれるかは未知数。このヒトもドラゴンらしくマイペースでバトルジャンキーだったからなぁ…。彼の場合は小細工なしで正々堂々と戦う方が印象は良さそうな気はするけど、だからって対策なしで無策のままでいるのは危険だろう。彼以外にも危険なドラゴンはいるかもだしね。

 

 無難に帰ってもらうためのドラゴン用の最高級バナナセットは常に用意しているけど…。子ども達が真っ直ぐに戦えるように、俺ぐらいは卑怯なやり方でも保険を考えておくべきだろう。もしもの時は、歌って弱らせたところに謝罪のバナナを押し付けて帰ってもらえるようにお願いするとかな。ふっ、頭を下げて頼み込むのは得意分野だぜ。

 

「そして龍神……オーフィス相手は正直俺も断言はできない。だが、確実に力の何割かは削ることができるだろう」

「無限を有限に?」

「そこまで力を奪えるかはわからん。だが、イングヴィルド・レヴィアタンには禁手という手段がまだ残っている。龍神に対する切り札の一つにはなるだろう」

 

 つまり、『龍喰者(ドラゴン・イーター)』であるサマエルの毒と同様の効果を一時的とはいえオーフィスに与えられるかもしれないってことか。タンニーンさんには異世界のことや、オーフィスと敵対するかもしれないことなどを詳しく伝えていない。だけど、俺達が裏で何かしらの対策のために動いていることは気づいているだろう。そういった疑問をこうして飲み込んで、静かに協力してくれる姿勢に感謝しかない。

 

 異世界関連は特にオーフィスにバレてはいけないため、今の彼女が唯一興味を示す同胞であるドラゴンにはあまり異世界関連で動いてほしくないのだ。実際、ドラゴンの保護活動に忙しいタンニーンさんが異世界の対策に向けて動けることは少ない。それなら異世界については知らせず、それとなく協力をお願いする方がいいとメフィスト様は言っていたと思う。

 

「参考になったか?」

「はい、ありがとうございます。ちなみにタンニーンさん、もう一つだけ」

「まだ何かあるのか」

「さっき二天龍でもイングヴィルドの歌に多少の抵抗は出来るって言っていましたけど、それには自分の意思に反していると判断する必要があるって言っていましたよね」

「……言ったな」

「つまり、意識がない相手にならそもそも抵抗すらさせず直撃で頭を歌だらけに出来るってことですよね」

「おい、待て。その質問は色々待て」

 

 何ですか、タンニーンさん。この質問も非常に大事なことですよ。真剣な俺の眼差しに冷や汗を額に浮かべたタンニーンさんは、何度か口をもごもごした後にお腹のあたりを手で押さえていた。

 

「……その質問に肯定を返すと、俺は特定の誰かに非常に取り返しのつかない何かをしてしまうような予感しかしないんだが」

「大丈夫ですよ、ちゃんと直撃させた後はフォローも兼ねてイングヴィルドに歌で回復をお願いしますから」

「大丈夫の使い方が違う。お前はドラゴンを何だと思っているんだ」

「もちろん、誇り高い最強の種族ですよ! だからこそ、どんな絶望的状況でも決して折れることなく立ち上がる不屈の精神力を持っていると俺は信じています!」

 

 俺は心からドラゴンの凄さとその耐久力を信じていると声を大にして伝える。多少精神的に打たれ弱いところがあっても、お薬で精神安定をはかることになっても、そのまま傷跡を残すことなく敗北して沈んでいくなんてありえない。胸を張って自信満々にキリッとした顔で告げると、タンニーンさんはハイライトが消えた瞳で無言のまま黄昏ていた。

 

「……お前のことだ。俺が答えずともどうせやるつもりだろう」

「まぁ、そうですね」

「そうか…。なら、その時が来たら被害者に伝えてくれ。俺からの詫びとして、こいつの頭は責任をもってパーンにすると」

「えっ…、それはちょっと…。マジで痛いので暴力はいけないと思います」

精神的暴力の化身(お前)が言うな」

 

 気の所為かな、すごく不名誉な副音声が聞こえたような…。とりあえず、ドラゴンであるタンニーンさんから詳細な情報をもらえたのは助かった。まさか俺が求めていたピースがこうして見つかるなんて、やはりこれは運命なのかもしれない。イングヴィルドの異能が判明した時、俺の脳裏に間違いなく過ぎった異能の使い方。最も効果が望めるタイミングでマッチポンプをしなくてはならなかった俺にとって、まさにこれは福音である。

 

 もうこれは――世界がドライグをおっぱいに沈めろと言っている。黄昏である聖書の神様が定めた難解な封印を、暁光である相棒の時代に解放できる手段をこうして俺達の下に届けてくれたのだから。深い眠りについているため意識がまだ覚醒していないドライグの頭をおっぱいでいっぱいにして、乳龍帝として産声を上げさせるのだ!

 

 

 

 あれから疲れたように肩を落とすタンニーンさんを見送り、リアスちゃん達とも別れを告げ、俺の三日間の冥界旅行は無事に完遂することができた。結果から言えば、『眠りの病』の治療に風穴を空けることができ、イングヴィルドという患者兼友人が増え、そして新たな神滅具の誕生に立ち会うという成果もあげられた。聖書陣営の大人たちは現在大変忙しいため、俺は俺で出来ることを頑張ろうとやる気に満ち溢れていた。

 

 という訳で、レッツ相談タイム!

 

「玄奘老師やりました! これでドライグをおっぱいに確実に沈められる段取りが整いました。あとはイングヴィルドに歌ってもらう『おっぱいドラゴン賛歌』を創るだけですよ!」

 

 笑顔で今回のことを報告する俺に、通信の鏡越しに見える老師は目元を手で覆って肩を震わせていた。あまりのスムーズさに感動しているのだろうか。原作関連を共有できる玄奘老師なら一緒にわかってくれると思っていました。

 

「あぁ…、覚悟していたとはいえ着々と悪魔の所業が形になっていく…」

「確かにイングヴィルドは悪魔ですから、彼女のおかげで計画が形にできそうですね!」

「……そうですね。もうここまできたら私も悟る面持ちで挑みます」

 

 深く深呼吸をして気持ちを切り替えたらしい老師様は、ちょっと自棄になった声音で相談の続きを促してくれた。そう、俺達にはまだ重要な最後のピースが足りていないのだ。これを無くして、「おっぱいドラゴン」とは呼べない。しかし、それをつくるには大きなパラドックスをはらんでしまうのだ。

 

「原作にあった「おっぱいドラゴンの歌」。乳神様がご所望のこの歌をこの世界に誕生させるのは非常に困難を極めます。まず、現段階でおっぱいドラゴンの歌を世に出すのはNGです。おっぱいドラゴンがそもそも誕生しておらず、さらに歌詞に登場するスイッチ姫に該当する存在がまだいない。そんな状態でこの歌を世に広めても、意味不明なただのおっぱいソングになってしまいます」

「そうですね、ただ頭がおかしい曲が生まれるだけです」

「それでは意味がない。「おっぱいドラゴンの歌」は原作のように多くの人々に希望を与え、龍神すら魅了する英雄の歌じゃなければいけない。乳神様もただ原作の曲を作っただけじゃ納得しないでしょう」

 

 つまり、原作の「おっぱいドラゴンの歌」はこの世界にはまだ早すぎる。しかし、イングヴィルドにドライグを歌で起こしてもらうには、おっぱいソングは必要不可欠だ。そこで俺は考えた。今必要なのは英雄の歌ではなく、まずは英雄の誕生を祝う讃美歌こそが求められているのではないかと…!

 

「つまり、ドライグ殿を起こすための新しいおっぱいソングをこちらで創るということですか?」

「そうなります。ついでに駒王町のおっぱい教のテーマソング(讃美歌)としても採用する予定です」

「まぁ神を信仰する曲ではないなら、悪魔でも問題なく讃美歌は歌えるでしょうが…」

 

 玄奘老師は難しい顔で考え込むと、何とも言えない表情で首を傾げた。そう彼が考えるように新しく歌をつくるなら、大きな壁がまだまだ立ち塞がっているのだ。

 

「しかし、奏太さん。その賛歌の作詞、作曲、振り付けなどはどうするのです? 私も詩や歌集などは嗜んでいますが、さすがにその…おっぱいソングを創れる自信はなく…。あと事情を知るのは十王様方だけですが、トラウマを再発させてしまう危険性があるためさすがに頼めませんし…」

「えーと、俺も音楽関係やセンスはさっぱりで。なので、ここは素直にその道のプロに頼りましょう」

「頼るってまさか…」

「はい、作詞はアザゼル先生。讃美歌の作曲ならミカエル様に。振り付けは魔王様に。未来で「おっぱいドラゴンの歌」を創った方々の「おっぱいドラゴン讃歌」なら間違いありません!」

 

 俺に大人たちのような才能はないからな。おっぱいソングを創るなら、彼らほどの適任者はいない。俺からの指摘にたらりと頬に汗が流れた玄奘老師は、目を瞑って小さく唸った後しばらくして受け入れるように静かに頷いた。

 

「……そうですね、そろそろ悪魔と堕天使と天使にも我々のおっぱい計画の共犯になってもらいましょう。確かに仏教陣営だけでおっぱいを背負うのは荷が重い案件でした」

「玄奘老師…、気を落とさないでくださいね」

「いえ、気は全く落としていません。むしろさっさと巻き込みたいです。前回同様、相棒さん経由で二天龍に聖書の神による封印があったことを発見したという流れでいきましょう。解析の結果、二天龍の「和解」が解放の条件であることも」

「はい、相棒も説明が面倒だからそれでいいそうです。聖書陣営は過去に二天龍と戦っていますからね、普通のやり方じゃ「和解」が無理なのは理解してくれそうですし」

「……私怨も込めてノリノリで作りそうですね」

 

 乳神様に頼まれていたし、いずれ「おっぱいドラゴンの歌」を原作同様にみんなには作ってもらう予定だったのだ。だったら、おっぱい讃美歌の作成のために予定が多少早まるぐらいなら大丈夫だろう。世界の平和のためにみんなで共犯になって、赤龍帝と白龍皇を無事に和解させられるように頑張るのだ!

 

「しかし、今は奏太さんの情報爆撃で皆さん徹夜続きでしょう。おっぱいを投下するのはしばらく待つべきでは」

「でも、玄奘老師。今の多忙過ぎるが故の徹夜テンションで歌を作ってもらうべきか、この騒動が落ち着いて時間ができてから真面目におっぱい賛歌を作ってもらうべきかならどっちが精神的にいいと思います?」

「……それは、究極の二択ですね」

 

 こうして、おっぱいドラゴンプロジェクトは本格的に始動したのであった。

 

 

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