えっ、シスコン魔王様とスイッチ姫みたいな力ですか?   作:のんのんびり

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第二百三十六話 結び

 

 

 

「あ、あわわわっ…!? た、大変ですっ、お兄さま! エレイン!」

「どうしたんだい、ルフェイ。そんなに慌てて」

「淑女がそのような大きな声で走ってはなりませんよ、ルフェイさま」

 

 倉本奏太が冥界へ行く少し前――イギリスにあるウェールズのとある貴族の屋敷にて、魔法使いの卵として教育を受けてきた一人の少女が興奮気味に目をキラキラさせて大好きな家族の下へと駆けていた。手には先ほど発見した主に魔法使いへ配られる新聞のような情報誌を持っていたが、エレインに注意されて慌ててカチコチと歩いたがもう早く知らせたくてたまらないと気持ちが急いているようだった。

 

 そんなルフェイに従者であり、教育係でもあるメイドのエレインは小さく肩を竦めながらも仕方がなさそうに笑ってテーブルへ誘導し、椅子へ座れるように配慮する。兄であるアーサーも珍しい妹の様子が気になり、テーブルをセットしてくれたエレインに感謝を述べながら椅子に腰かけた。いつもおっとりとした妹だが、魔法関係になると今のように周りが見えなくなることがある。それに小さく笑みをこぼしながら、目を輝かせる妹に落ち着きなさいと兄として頭を撫ぜた。

 

 ルフェイ・ペンドラゴンは十歳になる魔法使いの卵である。そして原作では、禍の団のヴァーリチームに所属していた唯一の常識人枠の魔女であった。なお、魔法の腕に関しては非常識であり、黒魔術や精霊魔術、果てには禁術と呼ばれるものまで興味の向くままに習得してしまう天才でもある。テロ組織が瓦解した後は悪魔であるイッセーと契約する魔法使いになり、ヒロインの一人として味方になっていた。

 

「私は席を外しましょうか?」

「いいえ、エレインにもぜひ見て欲しいの! というより、魔女としてのエレインにお願いしたいこともあるから」

「……ペンドラゴン家のメイドとしてではなく、魔女としての私を所望とのことですね。わかりました」

 

 ルフェイからの言葉に立場を切り替えると、先ほどの柔和な話し方からキリッと表情を引き締め、彼女の魔法使いの師の顔に変わる。エレイン・ウェストコットはルフェイの従者であると同時に、魔術結社――『黄金の夜明け団(ゴールデン・ドーン)』に所属する魔女でもあった。長い黒髪を上の方で一まとめにした端正な淑女であり、実力は原作のヴァーリがなかなかの使い手だと感心するほどである。

 

 『黄金の夜明け団(ゴールデン・ドーン)』は魔術的な歴史から見れば新参の組織であるが、有名な魔術結社として名が上がるほど実力者も多い。主に近代魔術を扱う組織であり、最先端の科学も取り入れたり、禁術だって研究したりする。時代の最先端をいく新しい風を吹かせよう! と日夜研究している組織であった。

 

 そんな『黄金の夜明け団(ゴールデン・ドーン)』の三人の発足者の一人であるマグレガー・メイザースは、サーゼクス・ルシファーの眷属である『僧侶』。禁術大好きで悪魔研究家だったマグレガーの後ろ盾もあり、冥界との繋がりも強い。イギリスに本拠地があることもあり、英国の名家である「ペンドラゴン家」とも関わりが深かった。

 

 ウェストコット家はそんな組織の発足者の一人であり、魔法使いの中では名家である。だからこそ、貴族の娘であるルフェイの教育係兼従者として認められ、表向きメイドとしてエレインは十七歳という若さでペンドラゴン家に仕えていた。ルフェイに促されて同じテーブルについたエレインは、彼女が持ってきた情報誌に目を落として数秒後……驚きに目を白黒させた。

 

 

「えっ、何ですか……この大会は? 『灰色の魔術師(グラウ・ツァオベラー)』主催でありながら、身分がしっかりしているならどの組織や個人も参加可能な世界大会? それも大悪魔であるメフィスト・フェレス会長が主催を務める正式なものなんて」

「それだけじゃないの! 人間界や冥界にあるあらゆる素材や資材もちゃんと大会のために使うって申請すれば用意してくれて、一部天使や堕天使の組織のものも使えるかもしれないって! 作ったものはオークションで売られて利益の大半は向こうになっちゃうけど、その代わり費用はいらないし、売れた値段によっては一部還元もしてくれるみたい」

「プラマイゼロどころか、利益しかありませんね。たとえ手元に残るのが少ないお金でも、出費や材料を一切気にせず、自分にとって最高の研究成果を形にできる。それこそ作ったものを有名な魔法使いに使ってもらえれば、それだけで宣伝効果は計り知れません」

 

 メイドとしてははしたないかもしれないが、魔女としてあまりにも魅力的な内容にルフェイと同様に目を輝かせるエレイン。隣で「妹とエレインがめっちゃ可愛い」と心の中でニマニマしていた思春期アーサーくんは、普段なかなか見られない年相応な表情を見せる少女達の様子にご満悦だった。

 

 アーサー・ペンドラゴンはアーサー王の末裔で、原作では武者修行(家出)として『禍の団(カオス・プリケード)』の英雄派に所属していたが、「なんか合わない」とその足で自由気ままなヴァーリチームに所属を選んだ突風のような青年である。見た目は紳士的な風体でスーツにメガネで理知的なのだが、普通に色々ぶっ飛んでいる。なお、今は妹大好きで、幼馴染でもあるメイドのエレインに片思い中のただの思春期お兄ちゃんであった。

 

「でも、なんのためにそんな大規模な大会を開くんだい?」

「えーと、『変革者(イノベーター)』さんとパートナーさんの新しい杖を作るためみたいです。この大会で優秀な成績を収めた魔法使い達を集めるのが目的みたいで…。大会費用や資材ルートもほとんどご本人で用意されていて、正直規模がすごすぎます……」

「なるほど。あの『変革者(イノベーター)』様が関わっているなら、大会規模を『灰色の魔術師(グラウ・ツァオベラー)』だけで収める方が暴動が起きますね。むしろ誰にでも権利がある方が混乱は少なくなるでしょう」

「……大会で優秀な成績を収められれば『変革者(イノベーター)』との接点ができるかもしれない、か。それは確かに気になるな」

 

 人間界だけでなく、今あらゆる業界で名を知らない方がおかしいとまでは言われている『変革者(イノベーター)』の影響力。しかし、これほど有名なのに本人の情報はほとんど出回っていない徹底ぶりなのだ。あの永きにわたる聖書陣営の戦争を止めた立役者であり、おそらく世界最高峰の癒し手。さらに最上級の素材を格安で用意してくれて、しかも研究のための資金提供までしてくれることから我の強い魔法使い達がこぞって協力的なことでも有名だった。

 

 少なくとも魔術業界や人間界で『変革者(イノベーター)』に対して悪意のある噂や行動をしようとした瞬間に、業界のお偉いさん達が自主的にフルボッコにして心象を良くするための点数を稼ごうとするレベルだ。彼の治療で助けられた者や資金提供によって立て直せた魔法使いも多い。後ろ盾のヤバさを考えれば、誰だって敵対するより友好関係を結びたいと思って当然だろう。

 

「本来なら世界大会なんて陣営や派閥、業界のしがらみなどもあって難しいものですが、一般の魔法使いが『変革者(イノベーター)』様とのパイプを繋げられるかもしれない唯一の道ならなりふり構ってはいられないでしょう。政財界の権力者達も魔法使いを雇ってでも参加を表明しそうです」

「……ルフェイ、もしかしてこの情報誌は父も?」

「はい、むしろお父様からいただきました」

「あの人は…」

 

 価値観の違いから父親との折り合いが悪いアーサーは、妹の興味を政治的に利用しようとするやり方に眉を顰めた。おそらくルフェイが魔法の師であるエレインに相談するのも織り込み済みだろう。彼女には『黄金の夜明け団(ゴールデン・ドーン)』との繋がりがある。ペンドラゴン家の代表としてルフェイを参加させ、あわよくば権力者たちへの牽制とチャンスをものにしたいのだろう。

 

 父親の思惑に溜め息を吐きたくなったが、この大会がどれだけ魅力的かは二人の反応からもわかる。二人にとって良い経験になるのは間違いないし、不本意だが父親からの後押しもある。まだ十歳の妹と片思い中の女性を得体のしれない魔法使い達の集団に放り込む気はないので、アーサーも付き添いとして当然参加する予定だ。

 

 あとこれはちょっとした下心だが、もしこの大会でエレインが優秀者として名前を残せたら、自分の恋人として父親を説得できる交渉材料にできるかもしれない。『変革者(イノベーター)』との繋がりを一番欲しているのは父なのだから、パイプを持つエレインの価値は跳ね上がる。あれ、この大会最高じゃないか? むしろテンションが上がってきたぞッ! とアーサーもすっごくやる気がわいた。

 

「しかし、二人とも杖を作ったことはあるのか?」

「本職ではありませんので、プロの職人には勝てないでしょう。しかし、この大会は杖本体だけでなく、杖に籠める魔術式や補助術式、発動効率の向上などの専門技術を競う部門があります。私とルフェイさまはそちらを担当し、ウェストコット家から杖職人の派遣をお願いしようかと。『黄金の夜明け団(ゴールデン・ドーン)』でも、おそらく多数の参加者が出るでしょうから、そことも話し合いをしませんと…」

「わぁ、エレインが所属している魔術結社の人とも一緒に参加できるの?」

「えぇ、私の知り合いに声をかけてみます。……そうだわ、確かルフェイさまと年の近い女の子が一人いたはずです」

「えっ、私と同じ年なのにもう働いている子がいるの!?」

 

 エレインがふと口にした同年代の魔女がいるという言葉に、ルフェイは興奮気味に身体を前に押し上げた。貴族の子女としての交友関係はあっても、魔法使いとしての交友関係は狭い。ルフェイは魔女として優秀過ぎたこともあり、同年代ではあまり話が合わないのだ。そんな彼女と同年代で、しかもすでに魔術結社で働いている実績まで持っている相手がいるなら気になるのは当然だった。

 

「あの子はセキュリティー系統の魔法が得意で、施錠や解錠ならすでに結社でもトップレベルだったはずです。その子がいれば、私達の魔法を杖に籠める幅が広がるかもしれません」

「セキュリティー系統の魔法か…。あまり目立つような魔法ではないが、今回に限っては特定の個人の為の杖をつくることが目標だ。むしろセキュリティーシステムの高さは、実用性を考えれば当然重要視されるだろう」

 

 エレインの説明を聞いて、アーサーも人選に納得気味に頷く。自分の技術を遺憾なく発揮できることも重要だが、大会の目的も忘れてはならない。そう考えると今回の大会では、本来は裏方になっていただろう職人や魔法使い達が脚光を浴びる絶好の機会になるのかもしれない。派手な魔術や威力が高い魔法とは違う、縁の下の力持ち達が競い合う場になるだろう。

 

「その子の名前は?」

「メレディス・オールディントン。『黄金の夜明け団』所属の魔法使いで気さくで可愛い子よ。きっとルフェイさまとも友達になれますわ」

「エレインの紹介なら間違いないだろう。よかったな、ルフェイ」

「はい、お兄さま! すっごく楽しみです」

 

 エレインに微笑まれ、兄に頭を撫でられたルフェイは、期待と緊張を胸に大会に臨むための訓練に熱を入れることになった。後日、エレインの紹介で顔を合わせることになったメレディスは、赤みのある鳶色の髪と碧眼を持つ同じ年の女の子で早速意気投合した。初めの頃はお互いに緊張しっぱなしであったが、自分の力を大会で証明できることに二人ともやる気十分で、話の合う魔法使いの友人として自然と仲も深まっていった。

 

「がんばろうね、ルフェイ!」

「もちろんだよ、メレディス!」

 

 そんな妹の笑顔にご満悦の兄は、妹とエレインのために材料を数ミリ単位で綺麗に切れるように頑張らないとと『聖王剣コールブランド』の修行を頑張るのだった。

 

 

 本来の歴史でもルフェイとメレディスはいずれ出会い友人となるが、最後は敵同士として相対していた。一年にも満たなかった友人関係。それでもほんの少しのかけ違いで、お互いに相手のことを思って遠慮してしまったことが決定的な亀裂となり、もう後戻りできなくなってしまった正史。

 

 そんな未来があったことを知らず、二人の無邪気な少女は手を繋ぎ同じ目標に向かって歩みを進めていった。

 

 

 

――――――

 

 

 

「んー、杖職人大会って今どうなっているのかなぁー。なんか参加人数がエライことになった所為で、開催期間が延びに延びてようやく終わりが見えてきたらしいけど…」

「カナたんって一応その大会の当事者だよね。そんな適当でいいの…?」

「いやぁー、俺は魔法に関しては素人だからさ。コネでお願いした大量の材料と怖くて見れない通帳のお金を放出しただけだから。メフィスト様やラヴィニア、有名な魔法使いさん達がある程度選考してくれるから、最後の審査の方には参加するつもり」

 

 約束通りラヴィニアから送られてきた中継ビデオを片手に、思わず俺は遠い目になる。ちなみに内容はまだ見ていない。絶対にカオスなことになっているだろうし、メフィスト様が監修してくれたみたいだからきっと大丈夫だろう……と信じたい。渡された時、めっちゃ疲れた顔をしていたけど信じています!

 

 他にも監修兼保護者経由でもらったビデオがあることを確認し、あとは最後のビデオをもらいに直接現地に赴くことになった。俺の傍らにはおじいちゃんとデュリオがいて、二人とも先日から開催されている世界大会に興味津々の様子だった。実はこの大会、教会側もめっちゃ影響を受けていたのだ。

 

 せっかく冥界以外にも伝手があるんだし、という考えでミカエル様とアザゼル先生にも資材をお願いしたら厚意でたくさんいただけたから、大会で使っていいよーとノリで放出した。そして、教会で働く武器職人や錬金術師たちが覚醒した。天界素材なんて滅多に人間界に出回らないものが使える欲求に勝てず、魔法使いの大会なんて知るか! と信徒のプライドをかなぐり捨ててでも参加表明を示したのだ。

 

 当時『週刊ぶれいぶエンジェル』が荒れに荒れたらしいが、上層部がむしろノリノリというか、教会の技術力の方が世界一ィィィッ! なことを見せつけてこいっ! と快く送り出したらしい。なにやっているんですか、教会上層部。『変革者』が俺だってわかっているから、二代目聖書の神様の神の子の杖を作ることと同じだから宗教的にむしろやってこいなスタンスだったようだ。メフィスト様がめっちゃ遠い目をしていたな。

 

「そんな大騒動だったみたいだけど、意外と治安は良かったみたいなんだよな。世界中の魔法使いや教会関係者が集まったみたいなのに」

「それだけ若との繋がりを欲する者が多かったことと、大会が魅力的だったのもあるでしょう。何より若は和平の象徴であり、実際に聖書陣営が手を取り合った証明を大量の材料として提供してみせました。そんな大会で騒動を起こせば、聖書陣営への敵対行為として捉えられてもおかしくありません」

「あとなんか警備もすごかったらしいっスよ。小さな諍いとか小競り合いは実際あったみたいだけど、どこからともなく空から丸太が降ってきて、『ミルキーマジカル☆』って謎の言葉が聞こえた途端に、暴れていた人達が光り輝いて無力化されて写真を撮られながら次々に逮捕されたって…」

「うんうん、やっぱりトビーくんとコンパクトを大量に提供しておいてよかったよ。カイザーさん達に警備依頼をしておいて正解だったな」

 

 メフィスト様が大会運営で大変そうだったので、よかったらと思ってお願いしておいたのだ。カイザーさんも「ボスからの正式な依頼じゃー!!」って嬉しそうだったし、相手が魔法使いなら「魔法少女魔法」しか使えなくなるコンパクトの効果は絶大である。大会の会場前にも、ちゃんと「悪いことをしたら魔法少女にします」って注意看板も立てて、運営規則にもきちんと書いてあるから問題ない。

 

 それにしても、ついに魔法少女達も世界進出したんだなぁー。何だか感慨深い。今回の警備の成果で新しい魔法少女が増えるってミルたんもホクホク顔だったし、お礼とお祝いの品も改めて届けないとな。あっ、そうだ! どうせなら、今回の大会で良い魔法の杖があったらオークションで競り落として魔法少女達にプレゼントしてあげよう。戦力アップも間違いなしだ!

 

「……『週刊ぶれいぶエンジェル』に載っていた、世界を震撼させた恐怖の警備生命体って魔法少女のことだったんだ。そりゃあ、平和になるね」

「そのおかげか不穏な輩の影はなくなり、純粋に己の持つ技術を競い合うことができた。ある意味で今回の大会は、「魔法使いと教会との融和政策の一環」にもなりましたな」

「まさかの経済効果すぎる」

 

 マジで「風が吹けば桶屋が儲かる」みたいな連鎖をしていっているなぁ…。最初はただの思い付きで始めたことだったのに。クレーリアさんがまたぷるぷると泣いちゃいそうだ。まぁこの世界って理不尽なことが多いし、みんなのストレス発散の場にもなれたって好意的に思っておこう…。

 

「それで、カナたん。これからイリナちゃんとアーシアちゃんにお願いしたビデオをもらいに行くんだよね」

「そうだな。あと聖剣計画の子ども達を保護出来たら、一時的に預かってもらう予定だから改めてお願いしにいこうかなって」

 

 さて、最後のビデオの受け渡し場所はイリナちゃんがお世話になっている教会の施設である。監修はクリスタルディさんに全部お願いしちゃったけど、きっと大丈夫だろう。お礼の品もちゃんと用意したし。アーシアちゃんはイリナちゃんから日本語や文化の勉強をしによく遊びに来ているようで、二人の仲良しさが続いているようで微笑ましい限りだ。

 

 聖剣計画の子ども達は俺達の予想だと、かなり過酷な状況に置かれている可能性が高い。そんな彼らをすぐに大移動させるのは現実的ではないため、療養も兼ねてこちらの教会施設で預かってもらうことになっていた。予定では新組織の発足は来年の春頃なので、それまでにイリナちゃんから日本について学んだり、アーシアちゃんの神器で傷を癒してもらったりと考えている。あとクリスタルディさんもいるので、修行ついでに体力も付けてくれるだろう。

 

「まずは教会関係の子ども達同士で仲良くなることが一番だろうしね。ついでにイリナちゃんってアザゼル先生が魔改造した遠距離通話で家族だけじゃなくて、よく朱乃ちゃんやリアスちゃんとも話しているみたいだから子ども達の緩和剤にもなってくれそうだし」

 

 イリナちゃんの存在って本当に助かっているんだよな。種族や立場に捉われずに友達付き合いができる子って貴重だし、天真爛漫で明るい性格はみんなを引っ張っていってくれる。ミカエル様が彼女を自分のA(エース)に選んだのも納得だな。

 

 

「こんにちは、イリナちゃん。アーシアちゃんも。元気にしていたかな?」

「お兄ちゃん、もちろん元気にしているよー!」

「こんにちは、奏太さん。はい、私もイリナさんも元気いっぱいです!」

 

 事前に連絡を入れていたからか、二人とも入り口の前で待っていてくれたみたいだ。今日は訓練の日じゃないからか、アーシアちゃんとお揃いのシスター服を着たイリナちゃんに新鮮な気分になる。俺からの視線に気づいたのか、似合ってる? とくるっと一回転してスカートをひらりとさせた。いつも動きやすい服装が多かったけど、こうして女の子らしい衣装を着たイリナちゃんの可愛らしさはさすがはヒロインだと感心した。

 

「二人とも、今回は協力してくれて本当にありがとう」

「私も楽しかったから気にしないで。それにお兄ちゃんの組織の第一期生候補だとしても、私にとっては同じ教会に所属する仲間でもあるんだから。私にできることなら遠慮なく頼って欲しいと思っているよ」

「私もイリナさんと同じ気持ちです。それに、私は勧誘される側の不安がわかります。自分が知らない未知の世界へ足を踏み入れることが、どれだけ勇気のいることなのかを…。だからその不安を少しでも解消できる手助けができるのなら、ぜひ協力させてください」

 

 俺からのお礼に、当然のことだとにっこり笑みを返してくれるイリナちゃんとアーシアちゃん。うん、やっぱり子どもたちに頼んだのは正解だったみたいだ。リアスちゃん達も駒王町で今後協力し合うことになるかもしれない仲間のためなら、って快く引き受けてくれた。子どもたちはもう種族や陣営という名の垣根を、とっくに超えているのだなと感慨深くなった。

 

 それからおじいちゃんとデュリオにも挨拶を交わし、せっかくなので用意してもらったお茶を一杯もらうことにする。二人からそれぞれ撮ってくれたビデオを受け取りながら、アーシアちゃんを勧誘しに行った日からこれまでのことを教えてもらった。アーシアちゃんは代理で来てもらっている方と交代しながら聖女の仕事を行い、週の半分はイリナちゃんのところで勉強をさせてもらっているみたいだ。

 

 アーシアちゃんという回復役ができたこともあり、先生の訓練もその分熱が入って大変なんだよー、とテーブルに突っ伏すイリナちゃんにみんなで笑ってしまった。アーシアちゃんはこちらの施設にも随分馴染めたようで、イリナちゃんにアーメンされた戦士達を癒していたら一部から女神のごとく崇められているらしい。恥ずかしそうに赤面する聖女様にほっこりした。

 

「そっか。アーシアちゃんも楽しんでいるようでよかったよ」

「はい、それに新しいお友達もできたんですよ」

「イッセーくんたら、アーシアを紹介したらずっと見惚れていたんだよ。アーシアが可愛いのは事実だけど、こんなに可愛い幼馴染がずっと一緒にいたのにさー」

「ふふっ、でもイッセーさんにイリナさんのシスター服を見せたら、びっくりされてずっと見惚れていましたよ」

「ま、まぁ、私だって可愛いはずだもん。うん」

 

 アーシアちゃんの言葉にその時のことを思い出したのか、紅くなった頬を隠すようにイリナちゃんは栗色の髪を手で弄っていた。二人の会話に俺は目を見開いたが、紫藤家とテレビ通話が繋がっているのなら兵藤家とも関わりがあって当然ではあるだろう。裏のことは話せなくても、イリナちゃんとイッセーくんは仲の良い幼馴染同士なのだから。

 

「イッセーくんと友達になったんだね」

「初めの頃はお互いに言語が通じなくてジェスチャーばっかりでしたが、私は英語を、イッセーさんは日本語を教え合うようになったんです。私は世間知らずだから、他にも色々教えてくれました」

「私が二人の通訳の先生役になっているんだよ。イリナってすごいんだな、って褒めてくれるけど今更だよねー。イッセーくんはもっと早く気付くべきなんだから、えへへっ」

 

 腕を組んでプンプンとしながら、でも嬉しそうに鼻をひくひくさせるイリナちゃんに、俺と目が合ったアーシアちゃんと微笑ましさに笑みを浮かべ合った。来年には二人とも日本に帰って来るとわかったイッセーくんは、現在英語を猛勉強しているらしい。純真なアーシアちゃんを駒王町のカオスから護るためにも、言語の壁を突破しなければならないと燃えているようだ。うん、さすがはイッセーくんである。

 

 ただ裏のことを知ったら、翻訳魔法が付与された魔道具をあげようかと思っていたけど、勉強自体は悪いことじゃないから今は応援するだけにしよう。それに、アーシアちゃんと二人三脚で言葉を覚え合うのが一番楽しいだろうからね。俺もラヴィニアと毎日勉強したのは良い思い出だし、ちゃんと身についたものは忘れないからな。

 

「そうだ、二人の夏の予定もついでに聞きたくてさ。来年駒王町に集まる予定のみんなや俺の友達を呼んで海へ遊びに行かないかと思っているんだ」

「えっ、みんなで海に行くの!? 行きたい、行きたいっ!」

「はうぅ…、みなさんと一緒に海へ行けるなんて夢みたいです…」

 

 イッセーくん同様に、アーシアちゃんはテレビ通話でリアスちゃんや朱乃ちゃんとは簡単な顔合わせをすでにしているらしい。それでも、実際に会えるとなると緊張で頭がいっぱいになってしまったようだ。せっかくなら楽しんでほしいし、二人とも海の予定は問題ないようで安心である。

 

「若、ちなみにどこの浜辺を使う予定かは決まっていますか?」

「えっ、それはまだ決めていないですけど…。前にアザゼル先生が用意してくれたのは堕天使の領地だったし」

「でしたら、今回は無人の島をまるごと一つ借りるのはいかがでしょうか」

「……うわぁお」

 

 さらっとスケールがでかいアドバイスをもらってしまった。しかし、おじいちゃんの助言は理解できる。今回は過去最高人数での集まりになるだろうし、ヴァーくんや美猴(びこう)くんのやんちゃ組も呼ぶなら、気兼ねなく遊べる広大なスペースがあった方がいいだろう。あの二人なら、保護者としてついてきてくれた強者にバトルジャンキーを発揮しちゃいそうだしなぁ…。

 

 それにイングヴィルドの神器の異能を確かめるなら、万が一の被害が起きないように表への影響は最小限にしたい。それなら表からの干渉を避けられる無人島はむしろありだ。遠慮なく海で実験だってできるし、子ども達も遠慮なく遊びまわれるし、警護をするうえでも楽だろう。食事や休憩スペースは事前にお願いしておけば、悪魔や堕天使による謎の建築技術で何とでもなりそうだ。

 

「それにもし聖剣計画の子ども達を保護できて、その子達も海に参加できそうならさらに大人数になっちゃいそうだしね」

「あぁ、言われてみれば確かに…。そこまでの大人数になるなら、範囲のあるプライベートビーチより、もう島一個自由に使える方が良さそうだな」

 

 デュリオに言われて頭の中で改めて人数計算をしたら、ちょっと気が遠くなってしまった。それにしても、俺の交友関係も随分広まったものだとしみじみしてしまう。そして俺の金銭感覚というか、計画規模も明らかにおかしくなってきたような気が…。いやいや頑張れ、俺の中の一般市民! 負けるな、俺の一般市民的な性根っ! このままじゃラスボスクラスと同じレベルになってしまうぞ!?

 

 そんな風に夏の計画を話し合って時間を待ち続けた俺達は、ついに施設への立ち入り時間が迫って来たことに緊張に顔を見合わせた。今回ばかりは相手が相手だから失敗は許されない。アーシアちゃんの時は「聖女」に目が眩んでいたとはいえ、保護者である大人達は善人で話し合いで解決することができた。しかし、バルパー・ガリレイは話し合いで解決できるような相手ではないだろう。

 

 俺達のピリッとした空気を感じ取ったのか、イリナちゃんとアーシアちゃんは頷き合い、そっとテーブルの片付けなどをしてくれた。胸の前でギュッと拳を握りしめたイリナちゃんは、俺達へ向けて真剣な眼差しを向けた。

 

「お兄ちゃん頑張って、気を付けてね」

「応援ありがとう、イリナちゃん」

「悪い人達だったら、みんな魔法少女にしちゃえばいいんだからね!」

「もちろんだ、任せておけ」

 

 激励と一緒にサムズアップをし合う俺達に、何か言いたげだけど言えないような顔のデュリオとおじいちゃんに、こてんと小首を傾げるアーシアちゃん。おかげで程よく緊張も解れたので、俺は少女達の頭を優しく撫でて笑顔で別れを告げたのであった。

 

 

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