えっ、シスコン魔王様とスイッチ姫みたいな力ですか? 作:のんのんびり
「ありがとうございます、ミカエル様。お時間を取ってもらって」
『構いませんよ。それで相談したいこととは、明日足を運ぶ予定の『聖剣計画』についてでしょうか?』
「はい、確認しておきたいことがあります」
倉本奏太が『聖剣計画』に乗り込む前日、天使長であるミカエルに相談したいことがあると事前に話をお願いしていた。未だに
「以前、もし『聖剣計画』の研究者達が違法な研究を行っていたとわかった場合、強制執行を行う権限をもらったと思います。その場合、捕まった彼らの今後の処遇ってどうなるんでしょうか?」
『そうですね…。少なくとも、追放とまではいかないでしょう。彼らがやり過ぎた研究を行っていたとしても、それは元を辿れば教会のためです。違法行為への罰は必要でしょうが、それ以上の懲罰は周囲からの反発を呼ぶでしょう』
責任者としての地位の降格、しばらくの間の謹慎処分、不名誉な称号がついて回る。そういった処分は受けるだろうが、それ以上の罰を与えることはできない。彼らがどれだけやり過ぎた行いをしていたのだとしても、教会に反逆した訳ではないのだ。自分達の欲望が暴走した結果だが、教会のための研究である前提は崩れない。それすらも否定してしまうと、他の施設の研究者達を委縮させる可能性がある。トップとして許可を出した研究を、それに携わった研究者に全ての責を負わせてしっぽ切りにするのは組織への不信感に繋がってしまうだろう。
原作のバルパーが追放処分を受けたのは、教会の民意も相乗されていたからだ。聖剣の為と言えど、何の罪もない子ども達の殺処分は明らかに常軌を逸していると周囲から捉えられた。『皆殺しの大司教』と今後も一緒に仕事などできない、と判断されたから追放という処分が選ばれたのだ。バルパーを擁護する声がどれだけあるのかが彼の命運を分けると言ってもいいだろう。
奏太は当然ながら子ども達を救うために行動している。しかし、それはつまりバルパーに原作ほどの罪を背負わせないことと同義なのだ。彼は今後も教会で働くことになるだろうし、聖剣の研究を続けていくだろう。だが、原作で追放処分を受けてもなお、執念で聖剣を追い求め続けた彼を本当に野放しにしてもいいものか。しばらくは不名誉もあって動けないだろうが、彼がその程度で己の執念を諦めるとは到底思えなかった。
原作知識によって、バルパー・ガリレイの危険性を十分に理解している。聖魔剣という反発し合う要素が混じり合う、というありえない事象を「魔王と神の死によってバランスが崩れたから」という答えを瞬時に導き出せた頭脳。己の欲望の為ならどれだけの犠牲を払っても構わないと考える性根。その根底を変えない限りは、彼の存在は再び倉本奏太の前に現れるだろう。それもおそらく――バルパーにとって全てだった『聖剣計画』を潰した
「……危険の芽は事前に摘んでおくのが最善だ。俺にはそれができてしまう」
全てに絶望した人間は自暴自棄になって手が付けられなくなる。原作同様に、バルパーを亡き者にすれば安心だろう。レーシュの演算でも高い確率で敵対を示している。奏太の地位と信頼があれば、世界の為に人一人の命を奪うことぐらい容易い。それこそ命までは奪わなくても、今後再起できないぐらい叩くこともできるだろう。事前に危険を知っているからこそ、取れる手立てはいくらでもある。組織の長になるのなら、今後手を汚す覚悟だって必要かもしれない。
「ミカエル様」
――だけど、それだけは選んじゃいけない。世界の為とか、どれほど尊い志を掲げようと、奪っていい命なんてあっていいはずがないから。
『もう忘れたのかしら? 私は鳶雄を生かすために、とっくの昔に世界へ喧嘩を売っているわ。今更、世界を混乱させないためになんて言えない。奏太さん、あなたへ私の技術が継承されたことで世界が揺れることになったとしても、私にとって一番大切なものが変わらずそこにあるのなら、別に構わないと思っているの』
世界の流れに喧嘩を売ってでも、生かす道を選んでこそが幾瀬朱芭の弟子としての生き方ってものじゃないのか。
『……あなたも鳶雄も人を終える時が、いずれ来ることになる。それは避けられない運命だけど、あなたが私の弟子で鳶雄が私の孫であることは永遠に変わらないわ。たくさんの変化に戸惑うことはあるでしょうけど、決して変わらないものもあるのだと忘れちゃダメよ。それが芯となり、本当の強さへと繋がっていくのだから』
どれだけ環境に変化があっても、天使に変わっていくのだとしても、人らしさを忘れてはならない。
『人間はね、一度でも道を誤ると際限がなくなってしまうものよ。姫島を追放されて自暴自棄になりかけた私を支えてくれたあの人がいたから、私は今もこうやって真っすぐに歩くことができたわ。私は
恩師の言葉があるから迷わずにいられる。どれだけ甘いと言われても、この道こそが正しいと進んでいける。倉本奏太として笑って最後を迎えられるように悔いだけは遺さない。
『あなたを信じて託せる喜びを、こうして笑って鳶雄と過ごせる幸せに悔いなんてないわ。師である私が幸せだって言っているのよ、弟子として誇りに思ってほしいぐらいよ』
彼女の弟子として、師に顔向けできない道に意味なんてないから。
「バルパー・ガリレイの聖剣への執念を、俺は危惧しています」
『それは、嫌な予感…と言うものでしょうか?』
「はい、ただ罰を与えただけで終わるとは思えません」
通信越しのミカエルに緊張が走る。奏太の予感が外れたことはなく、常に最悪を引き当ててくる代物だ。故にどうしたいのか、と問いかけてくるミカエルの瞳に、奏太は逸らすことなく真っ直ぐに目を合わせた。
「だから、こっち側に引き入れたいと思います。彼が聖剣への執念を諦めないのなら、その道を俺が正します。傲慢と言われても、それが彼の生き方を曲げることになったとしても、誰も犠牲にならずに聖剣使いを完成させる新たな道を示す。その許可が欲しいんです」
『……聖剣の新たな道。天使長である私の許可がいるということは、これまであった天の概念を覆す方法ということですね?』
「聖剣は聖書の神様が与えた聖なる恩寵。その象徴に亀裂を入れるのは、これまで背信行為とされてきました。だけど停戦協定によって他陣営の技術を取り入れることができ、相棒という新たな後継者ができた今なら、別のアプローチがあってもいいんじゃないかと思うんです。そして、その先駆者はこれまで背信とされてきた行為を恐れない探求者でなくてはならない」
奏太の目的は『聖剣計画』の子ども達を保護し、『
異世界との戦いを控えるこの世界において、貪欲なまでの探求心は希少であり、それをコントロールできる術があるのなら出し惜しみするべきではない。原作のキャラクターとして見れば、バルパーに良い印象なんてあるはずがない。原作で敵という認識であり、仲良くできるビジョンも浮かばない。信用できるかと言われたら難しいと答える。それでも『聖剣計画』の技術は今後の戦力になり、それを真っ当な方向に整え、原作以上の聖剣の可能性を引き出させるには彼の頭脳と狂気は必要なのだ。
「意外ですね、奏太さんがそこまでその研究者を買っているとは…」
「考え方ややり方は嫌いですよ。正直あいつらがやってきたことを許したくないし、心から反省してほしい。そこを正さないなら手を取れるとは思えません。だけど、自分のこれまでのやり方を曲げてでも聖剣のために尽くす覚悟があるのなら、俺もそれに協力してもいいって思っただけです」
組織のボスとして手を汚す前に、清濁併せ吞むぐらいやってやる。それにバルパーを説得する材料がない訳ではないのだ。自分が求める未来のために、原作知識というアドバンテージを最大限に使ってみせる。そもそも原作の三巻で『聖剣計画』という聖剣の因子が足りないことで過去に起こった鬱展開を見せた次の四巻で、「特殊儀礼を施しました」で因子すら持っていない悪魔の兵藤一誠に聖剣『アスカロン』を渡せたのだ。
原作より過去の時代ではあるが、停戦協定による技術革新は同様に起こせる下地はすでにある。魔王、堕天使の総督、天使長の術式を施せば、ドラゴンの力を宿している神器に聖剣を合体させることができた。さらに人工聖剣使いである紫藤イリナが、天使化によって後天的に『聖剣オートクレール』を握れるほどの因子の強化を得られていた。デュランダル持ちのゼノヴィアの影響もあると書かれていたが、それは後天的に聖剣の因子を高める可能性がまだ残されているという答えにも繋がる。
なら頭聖剣の開拓者に任せれば、これらの要素から本当に新しい聖剣使いが生まれるかもしれないじゃないか。
「ミカエル様、どうか協力してください」
『……いいでしょう。もとより、神亡き今を生きる覚悟で我々はレーシュ殿と奏太くんを「後継者」と「神の子」に定めて手を取ったのですから』
「はい、ありがとうございます」
心からの感謝を告げる奏太へ、ミカエルも肩を竦めて微笑み返した。悪魔側からは『転生悪魔』の知識を、堕天使側からは『神器』の知識を受け取り、天使側も『天』の知識を提供しているのだ。その中には、当然聖剣も含まれている。これまで神が定めた概念を壊す技術革新の足音は、もうすでに始まっているのだ。
その足音を聞かせる福音がゆっくりと響き渡ろうとしていた。
――――――
「……デュリオ」
「カナたん?」
「たぶん、すんなり終わらなさそうな予感がするから、念のために頼みたいことがあるんだ」
子ども達や研究者達の目がビデオに集中していることをオーラ感知から察した奏太は、チラリと部屋の中に目を通していく。その目は普段の黒色から紅が混じり、部屋の構造や設備を文字通り見透していく。この講堂からそっと離れた研究者達の動向も確認して溜め息を吐きそうになった。子ども達の安全を第一に考えるなら、念には念を入れておくべきだと指先に半透明の蝶を呼びだした。
「俺の目を貸す」
「カナたんの目?」
「もしもの時は任せるよ、『
スッと人差し指を天井へ小さく向ける奏太に、デュリオはそれ以上の返事をしなかった。名前ではなく、称号で呼ばれたことにデュリオの目は教会の戦士として一瞬細まったが、すぐに何でもないように笑みを返してみせた。
『という訳で、ここで隠し味の雷光を使います。こうすることでお味噌汁の味がグッと深まるんですよ』
『オニニッ!』
『俺も初めの頃は口に含んだ瞬間に意識を失うという失態を犯したが、最強の白りゅ――』
《ヴァーリ》
『……最強の存在として味噌汁に負けるわけにはいかない。今では聖なる光によるダメージを瞬時に消し続けて完食できるぐらい異能を鍛えられた。修行としても悪くない一品だった』
《食事の時も修行する宿主を誇るべきか、そうじゃないだろとツッコむべきか…》
そうして堕天使のビデオが再生されて映し出されたのは、姫島朱乃と小鬼、お世話になっているヴァーリ・ルシファーだった。さすがにルシファーの名前と神滅具持ちなことは伏せているようだが、ちょこちょこ口を滑らせそうになったら相棒のアルビオンにフォローされていた。堂々と自分達が悪魔と堕天使のハーフだと告げる朱乃達に目を丸くした子ども達だったが、魔法少女や戦女神に比べたらあまりにも普通すぎて恐怖はわかなかった。新しい価値観はしっかり育っているようだ。
おっとりした柔らかい口調の美少女と最強大好き厨二病美少年に男女ともに「顔面偏差値たけぇ」と思わずマジマジと見てしまう。これが人外の妖艶さと言われれば納得だが、少なくともコロコロ変わる表情はどこか人らしさを感じさせた。初めて見る鬼の妖怪も、小さな腕をブンブン回すコミカルな動きに小さな笑みが浮かんだ。
『私は堕天使と人の間に生まれて、今は堕天使の組織で暮らしています。数年前まで、私は世間から隔離されるように暮らしてきました。父と母と三人だけで暮らす小さな世界。そうなった理由は色々ありますが、大きな要因は私と父さまが世間では悪い天使とされていたことです。最初の頃は、堕天使だからって理由で命を狙われることに悩んで、どうしてって泣くこともありました。私は家族と静かに暮らしているだけで、何も悪いことをしていないのにって』
小さな世界に風穴を空けた兄という存在が、姫島朱乃に世界を広げた。それは良い面もあれば、当然負の面とも向き合うことになる。家族だけの幸せな空間を恋しくなることも時々あるが、それでも生きていくために目を背け続けることはできない。堕天使は邪悪な存在だと教わってきた子ども達は、同じ年ぐらいの堕天使の血を引く少女の悲し気な表情に後味の悪そうな顔を浮かべた。
『でも、今はそういうヒトがいるのも仕方がないってわかっています。父さまは「雷光」と呼ばれる堕天使の幹部です。その娘である私を敵対していたヒト達が敵意を向けるのは当然ですから。あと正直に言うと、私も同じ堕天使の大人がまだ怖いと思うこともあります。父の存在が遠ざけてくれているだけで、人間の血を持つ私を疎むヒトもいるでしょうから』
だから、人に対して攻撃的な堕天使がいることも否定しない。自分だってそういうヒトは怖いから。堕天使が堕天使を怖がることに首を傾げる子ども達に、まるでビデオの向こう側から見えているかのように朱乃はクスッと笑った。
『でもそれって当然だって気づいたんです。だって、怖いヒトに人間も堕天使も関係ないじゃないですか。私は父さまや総督さん、副総督さんのような優しい堕天使を知っています。他の幹部のヒトとそんなに関わりはまだないけど、『
それはどこまでいっても自分の主観で捉えた世界だ。自分には優しくても、他者には厳しいヒトだって当然いるだろう。だけど、そんなの当たり前ではないか。全てのヒトが聖人君子なわけじゃない。
『そして、堕天使以外にもたくさんの人がいる。兄さまや姉さまみたいに私を妹のように可愛がってくれる人もいる。お料理や式神とかたくさん教えてくれたおばあちゃんもいる。兄さまと姉さまが私を甘やかしすぎなことを語り合える悪魔の友達もいる。堕天使の私に「すっごく日本人!」ってキラキラした目を向けてくれる教会の友達もいる。異形である私が手を取り合えるヒトの数は少ないかもしれないけど、こんな私を受け入れてくれるヒトもいるんだって温かさも知りました』
イリナと友人になって時々通信で話すようになると、彼女は「朱乃さんって人間の私と変わらないじゃん。優しくて礼儀正しくて家事も完璧で。むしろ私より和風美人で私の日本人がピンチだよー!?」と慌てたようにぷりぷりするのだ。そんなヒト達と関わってきたからこそ、朱乃も感じるようになったのだ。種族で世界を狭めてしまうのは勿体ないって。
『だから、私は誰かにとっての優しい堕天使になろうと思いました。堕天使のみんなを怖くさせないようにするのは無理だけど、私一人ぐらい怖くない堕天使がいてもいいんじゃないかなって。私を好きでいてくれる兄さま達を信じて、私自身を好きになってもらえるように頑張りたいって思ったんです』
だって嫌われるより、やっぱり好きでいて欲しいって気持ちは変わらないから。仲良く出来ないヒトはいるだろう。それでも一人でも仲良く出来るヒトが増えるのなら素敵なことだって思うのだ。だって、そんな生き方をしている兄は、誰よりも輝いて見えたのだから。
『兄さまから頼まれた時は、教会の子達にどんな風に堕天使について紹介したらいいのかすっごく悩みました。兄さまったらまた無茶ぶりして…って正直思いもしましたけど。でも、せっかくなら堕天使という枠を外して、もう私自身を知ってもらおうって思ったんです』
そう言うと姫島朱乃は人差し指を口元に当てて、魅惑的な眼差しでウインクを向けた。艶やかな黒髪がサラッと首元に流れ、潤んだ夕闇の瞳を流し目にする美少女の刺激的な姿に性別関係なく子ども達の顔は真っ赤に染まった。
『あらあら、これから私の魅力をたっぷり教えてさしあげますわ。私は優しいけどわるーい堕天使でもあるので、全力で好きにさせちゃいますね』
原作のような妖艶な微笑みを浮かべながら、しかしその瞳はいたずらっ子のように明るく輝く。堕天使の総督であるアザゼルが、堕天使としてトップレベルだと称賛した天性の魔性。最も魅力的に映る自分を意識し、堕天使としての武器も最大限に生かす。挑戦的な眼差しでぺろっと舌を出すと、ふふんと鼻歌を歌いながら準備を始めた。
そんな朱乃の後ろ姿をジッと見つめたヴァーリは、ビデオのレンズに視線を向けるとフンと鼻を鳴らした。
『……堕天使も悪魔もドラゴンも世間の嫌われ者さ。それを恐れるのは弱き者には当然だろう。最強となる俺からすれば、有象無象の気持ちなどどうでもいいことだがな』
ポツリと呟くような声を溢した後、ヴァーリは挑発的に口角を上げる。
『だが、奏太のやつがお前たちを選んだ。ならお前たちは、ただ恐れるだけの弱者ではないと思っていいのだろう?』
奏太が見出した原石に、まるで失望させるなと告げるようにヴァーリも朱乃の後を追った。ヴァーリからすれば、戦う相手が増えるかもしれないことは大歓迎だ。種族など関係ない。強いか、弱いかが重要なのだと爛々と瞳を輝かせる。そんなブレないヴァーくんに奏太は小さく噴き出すが、彼なりの激励の言葉なのだろう。弱者扱いされたことにムッとする数人の子ども達の様子を静かに見守った。
そうして、レッツクッキング! と割烹着を着て台所に立つと見事な包丁さばきを見せ、ビデオ越しでも良い匂いが漂ってきそうなグルメ番組に「ぐー」と腹の虫が段々と聞こえてくる。「なんて誘惑…」「めっちゃ美味そう」と料理風景を見ていたら、突然小皿で味見する朱乃のリップ音と美味しく出来て無邪気な笑顔を浮かべる姿にノックアウトされた。
『朱乃、魚の骨の固さを減らしておいたぞ』
『ありがとう。これで煮込む時間も短縮できるね』
『ラーメンはないのか』
『ヴァーリくん、今日は和食だよ』
『? ラーメンは何にでも合うだろ』
『万能調味料じゃないよ…』
そう言って魚を煮込みながら熱の調整で雷光がとび、異能の秘匿など頭に入っていないレベルで日常使いするヴァーリの「半減」も合わさり、着々と料理が一品ずつ出来上がっていく。途中で《ヴァーリ、一応外の人間に見せるものなのだから、私の能力はもっとこう相応しい感じで…。あの聞いて…》と涙目になっていそうなぬいぐるみの音声も入っていたが、ヴァーリは相棒に向かって不敵に笑った。
『任せろ。さぁ、この俺の奇跡と見間違うほどの異能の行使に痺れるがいい!』
『すごい、余分な水気や塩分が消えて、いい感じに仕上がってる!』
『ふっ、朱璃と特訓したからな。さらに頑固な汚れも俺の異能にかかれば他愛もない相手だ』
『ヴァーリくん、もうお手伝いのプロだね。雷光みたいに痺れちゃう!』
『クククッ、まだだ。この程度で驚いていたらついてこれないぞ? この俺の最強に震えるがいいっ!!』
アルビオンの要望通り、強者ムーブをしているつもりのヴァーリの高笑いがキッチンに響き渡る。どれだけ異能を自然体で素早く的確に使えるかを極めたその姿は、まさしく天賦の才と呼ぶにふさわしいものだった。ぬいぐるみは静かに天井へ目をやった後、無言で玉ねぎをむきむきする。今なら気合いで涙が出るような気がした。
「雷光で魚を焼いて、味噌汁をつくって…。異能で食事を作れるなんて初めて知った…」
「僕達も神器を持っているけど、こんな使い方をしてもいいのかな?」
「でも、あんなにも頑固そうな汚れを一発だし。何より便利そう」
「確かに能力の発動のラグはほとんどないし、異能の効果も的確でスムーズだった。あの領域に達するまでにどれほどの修行を…。これが最強の風格なのか」
倉本奏太がやらかしてきた軌跡をなぞるように、その背中を見て育ってきた子ども達の姿に着々と下地を築いていく無垢なお子様達。神器の異能を戦闘以外で使う素養は、間違いなく培われていっていることだろう。おじいちゃんとデュリオは、彼が魔王ルシファーの血族であり白龍皇でもあることを知っていたが『ヴァーくんは良い子だから大丈夫理論』を思い出して確かに大丈夫そうだなぁ…と心から思った。
――――――
美少女ってやっぱり正義だと再認識させられた姫島朱乃による悩殺タイムは、堕天使という種族を通り越して「とにかく可愛い」で結論付けられた。女の子も「クッ、可愛い!」と心臓を撃ち抜くあたり、さすがは原作でもトップレベルの人気ヒロインとして君臨していただけはある。甘え上手な妹のように翻弄したかと思えば、面倒見の良い姉のようにそっと誘惑してくる。姉も妹も体験済みで、堕天使の幹部を陥落させた朱璃の英才教育も合わさった朱乃に死角はなかった。
「今気づいた。新しい組織に加入したら、生朱乃ちゃんによしよししてもらえるかもしれないのか」
「――ッ!? つまり上目遣いでお姉ちゃん頑張って! って応援してくれる理想の妹もいけちゃう……?」
「えっ?」
空耳かなと穢れを知らない純粋な目で同志達に首を傾げたイザイヤに、サッと疚しい数人が目を逸らす。なるほど、これが聖職者が堕ちてしまう感覚か。なんと怖ろしいものだろう。でもすでに停戦協定をしているから、沼っても大丈夫という安心保証付き。なんてことだ。乗るしかない、この
「気にしないで、イザイヤにはまだ早いからね」
「うんうん、イザイヤはまだ知らなくても大丈夫だよ」
「むー」
もしここにトスカがいたら、イザイヤが悪い子になっちゃうー! って涙目になって怒りそうだしな、と同志たちの顔に寂し気な笑みが浮かぶ。これまで犠牲になってしまった同志たちのことを忘れた訳じゃない。それでも、彼らならきっと呆れながらも優しく笑ってくれそうな気がしたのだ。
「さて、最後は悪魔陣営のビデオだね。リアスちゃんって言って、現魔王であるサーゼクス・ルシファー様の妹さんだよ」
「その子は、どんな子なんですか?」
「悪魔らしくも情愛深い子だよ。貴族令嬢らしい優雅さもありながら、笑ったり、泣いたり、怒ったりする感情豊かな可愛い女の子。負けず嫌いで黒歌……その子の家族ともよく口喧嘩をしているんだけど、妹の白音ちゃんに喧嘩両成敗でよく怒られているんだ」
「……賑やかなヒトなんですね」
奏太の優し気な声音に、その悪魔の少女を彼は心から可愛がっているのだろうと伝わってくる。このビデオを見る前なら、悪魔と聞いて「どんな子なのか」なんて質問もできなかっただろう。イザイヤは少しずつ氷のように凍っていた感情が溶けてきていることを感じる。むしろ次は何が見られるのだろう、とちょっと楽しんでいる自分にも驚いてしまった。
『ごきげんよう、『聖剣計画』に携わる皆さま。私はリアス・グレモリー。上級悪魔よ』
バサリッと黒い翼を背中に生やし、何人も座れそうなソファーに優雅に座るリアスの姿に息を飲む。年齢は近そうだが、人間界では見られないような血のように
『ぷぷぅー! ちょっとリアス、固すぎ固すぎ。もう少しリラックスしなさいよー。そんなんじゃ、悪魔ってやっぱりこわーいって思われちゃうわよ』
『ちょ、ちょっと黒歌! 今、ビデオを回しているのよ! あとそんなにお腹を抱えて笑わなくてもいいじゃないっ!』
『私はリアス・グレモリー。上級悪魔よ。キリっ☆』
『黒歌ァァァッ!!』
ソファーから勢いよく立ち上がったリアスは、ビデオを回していたのだろう女性に顔を真っ赤にして追いかけ回しだす。それにリアスの真似が予想以上にツボったのか、女性としてあげちゃダメな咳き込み具合で逃げる猫耳の女性。思わずポカーンと見ていた子ども達だが、「しばしお待ちを」とクリップを持つ白髪の猫耳少女が画面に映る。お菓子をポリポリ食べる美少女に、先ほどまでの破天荒な少女達との縁を感じた。
『リアス姉さんがあーなったら、冷静さを取り戻すまで少し時間がかかります。黒歌姉さまは後でお尻ぺんぺんするとして、イングヴィルドさんこの
『うーん。ちなみに白音ちゃん、その食べているお菓子って何?』
『恋するドラゴンブラッドツリーと酸いも甘いも知るマジックマッシュルームをブレンドしたグラノーラです』
無音となり、パリポリとお菓子を齧る音だけが響いた。
『おいしいの?』
『味はなかなか…。マジカルパワー的なものを感じます。さすがはソーナさんおすすめです』
『……何事も経験』
えっ、もらうの? とファンタジー食材で作られたお菓子を分けてもらい、紫色の髪をした神秘的な美少女が同様にポリポリと食べだす。眠そうな目が一瞬、カッと見開かれたが納得したようにうんうんと頷いていた。名前にドラゴンが入っているのでもらったが、どうやら当たりだったらしい。自分達は何を見せられているのだろう、と思ったが幸せそうにもぐもぐする美少女達に眼福だからいいかと悟り出す。悪魔が一番平和だった。
『――はっ!? いけません。うっかりお菓子に夢中になってしまいました』
『もきゅもきゅ……!?』
『リアス姉さんの未来の眷属として、失態を取り戻さないといけません。姉さんの最初のプラン通り、魔王の妹としての優雅さと気品、悪魔貴族としてのミステリアスさを絶妙に醸し出しながら、他種族と手を取り合う寛大さと親切さもちらっと見せて「悪魔も意外と優しい?」って視聴者をコロッと転がして悪魔の株を上げなくてはなりませんから』
『もきゅっ!』
いや、全部暴露しているよ! とリアスが隠したかった部分を真剣な表情で叶えなくてはと拳を握りしめる白猫。同様に琥珀色の瞳の少女も隣で真似っこをする。グレモリー眷属にすげぇ馴染んでいるなぁー、とイングヴィルドの適応力に喜ぶべきなのに乾いた笑みが浮かんだ。元気そうで何よりである。
『ここは悪魔について私達で紹介するしかありません。えっと、私の名前は白音で、妖怪であり猫又です。あとさっきリアス姉さんを揶揄っていたのが姉の黒歌姉さまです。将来悪魔に転生予定となっています』
『私はイングヴィルド。数日前に目が覚めたら悪魔? になっていて、将来も悪魔になる予定です』
『……大変です。私達、悪魔歴が全然ないコンビです』
『本当だ、悪魔ってどう説明したらいいんだろう』
それを紹介するためのPVじゃなかったのかよ! と子ども達の中からツッコミが炸裂する。度重なるカルチャーショックによりカオスに慣れてきたことで、混沌耐性が生まれたおかげだろう。このグダグダがどうなるんだ、というか監修役はよくこれに許可を出したなと逆に心配にもなってくる。放送事故どころじゃなかった。
『んー、とりあえず私達なりに話してみる?』
『そうですね、それしかありません。といっても、私はグレモリー公爵邸にいる悪魔しかよく知りません。前の家はずっと部屋の中で過ごしていましたし』
『私も数日前まで悪魔が本当に存在していることすら知らなかったよ。お伽話に出てくる悪魔とは色々違うんだなぁー、って思ったのが最初の印象かな』
『そうなのですか?』
きょとんと不思議そうに首を傾げる白音に、イングヴィルドはそっと目を瞑って鮮烈に焼き付いた紅の光を瞼の裏に思い浮かべた。
『私は人間として生きてきたけど、ご先祖様がたまたま悪魔でその血が覚醒したことで後天的に悪魔になった。最初は自分が悪魔って存在になったことに現実が追いつかなくて。今でも自分が悪魔だってことを受け止められているか正直わからない』
レヴィアタンの血筋や神滅具について語るつもりはない。眠りの病のことも詳しくは語れないだろう。それでも、記憶はなくても人としての感覚を持つ自分だからこそ感じる思いもあるのだ。
『でもね、自分のこともわかっていない私でもわかることはあるの。リアスが良い子だってこと。黒歌が面倒見がいいってこと。白音が可愛いってこと。グレイフィアさんがすごいってこと。グレモリー家が温かいってこと。それだけしかわかっていない私だけど、それだけわかっていればこれからもきっと何とかなるって根拠なんてないけどそう思える気がするの』
『わからなくても怖くないのですか?』
『わりと心配性な黒歌に「あんた軽くない!?」って言われるぐらいには図太いらしいよ、私。だから参考になるかはわからないけど、難しく考えすぎてもダメだって思うの。リアスみたいに真正面からぶつかってくれるヒトはそうそういないってわかってる。それでも、そんなヒトと巡り合えたのなら、そのチャンスは絶対に逃しちゃダメだって言える』
琥珀色の瞳を優し気に細め、ビデオの向こう側に届けるようにイングヴィルドは絶対の自信を持って笑ってみせた。
『先生は――倉本奏太さんは必ずあなたたちを助けてくれる。悪魔とか、外の事とか、知らないことはいっぱいあるかもしれないけど、もうそんな難しいことは一旦置いておこう。私も悪魔について勉強中だから、一緒にこれから学んでいけばいいと思う。今一番大切なのは、先生は絶対にあなたたちを裏切らないってことだから』
たった三日間の付き合いなのに、イングヴィルドからの真っ直ぐな信頼の言葉に奏太は思わず頬を赤らめてしまった。まさか悪魔についての紹介PVで自分について触れられるとは思わず、気恥ずかしさから咳払いをしてしまう。子ども達はハッとして、奏太とイングヴィルドを交互に見つめる。言われてみればそうだ。悪魔や堕天使、魔法使いへの疑念を払拭するための時間ではあったが、同時に組織のボスである
ビデオに映る彼女たちは、みんな笑っていた。こうやってビデオを撮ることを快く承諾し、会ったこともない教会の子ども達へ真摯に向き合ってくれた。それはきっと根底には倉本奏太への信頼があったからだろう。
『自分でもどうしたらいいのかわからなくて、苦しくて、でも私らしく生きる方法もわからなくて。……そんな心の悲鳴を、奏太さん達が拾ってくれたんです』
『私を好きでいてくれる兄さま達を信じて、私自身を好きになってもらえるように頑張りたいって思ったんです』
『だが、奏太のやつがお前たちを選んだ。ならお前たちは、ただ恐れるだけの弱者ではないと思っていいのだろう?』
『今一番大切なのは、先生は絶対にあなたたちを裏切らないってことだから』
彼は種族や所属、勢力の垣根を越えた中心となる組織を創りたいと語っていた。最初は本当にそんなことが可能なのだろうかと思っていたが、これまでの映像を通して彼なら本当にできるのかもしれないと胸が熱くなってくる。夢を叶えるチャンスが今目の前にあるのだ。それを掴み取れるかは、自分達が踏み出す勇気の一歩のみなのだと気づいた。
『もう、さっきのはなし! Take2を撮るわよ! 黒歌、次に笑ったら本気で怒るからね!』
『はいはーい』
『えっと、姉さま。さっきのビデオは…』
『大丈夫よん。これはリアスだけじゃなくて、グレモリー眷属で作っていくものでしょ』
そう言って先ほどの醜態を映したビデオを削除したという体で、改めてリアスにTake2を撮ると告げる。そんな悪戯をする姉に白音は半眼の眼差しを浮かべるが、イングヴィルドと一緒に笑みを浮かべ合った。リアスは急いで乱れた赤髪を手入れし、さっきと同じポーズがいいか、それともこっちの方がいいかしらと云々と悩む姿も撮られていると気づいていない。それでいて、アクション! と撮影が始まると先ほどまでの取り乱した姿などなかったかのように、優雅な貴族悪魔を演出した。
さすがに色々知ってしまった手前、頑張っているんだなぁーと微笑まし気に見つめる目は優しくなる。そうしてリアスが語る悪魔についての話を聞きながら、子ども達は互いに目を合わせ合う。そこにあるのは、すでに答えが決まったことがわかる決意を籠めた輝き。不安や恐怖がないと言えば嘘になるが、それらを眩ませるほどの光を確かにこの目で見つけられたのだ。
「これが、俺が君たちに伝えられる全てだ。改めて、答えを聞いてもいいだろうか」
時間にすれば短かったはずなのに濃縮され過ぎた紹介PVが全て終わったことに、誰もがホッと息を吐きだす。たった四本のビデオで、ここまで価値観をひっくり返されるとは思っていなかった。疲労感は当然あるが、心に溜まっていた昏いものがすっきりと消えていったことについつい笑ってしまう。未来に希望を持つとは、こんなにも活力を与えるものなのかと自分の身体じゃないような感覚を覚えた。
イザイヤはポケットに入れていたトスカのリボンを手にし、柔らかく目を閉じる。そこには朝に感じた重苦しい焦燥が感じられなかった。彼女や犠牲になった同志達への申し訳なさはもちろんある。だけど、それよりもこんな未来が閉ざされた場所にずっと大事な同志達を置いていく方が嫌だと思ったのだ。
「一緒に外に出よう、トスカ」
イザイヤの溢した答えに、全員の覚悟は決まった。
「――そんな結末、認められる訳がないだろう」
ガァンッ! と怒りから発せられた轟は、夢見心地だった子ども達の目を覚まさせた。バッと振り返った先にいたのは、あまりの情報量に倒れていたはずのバルパー・ガリレイの憤怒を帯びた声音だった。ガリガリと頭を掻き、血走った眼を向ける初老の男性に「ヒッ…」と少女達は悲鳴を上げる。奏太はバルパーと子ども達の間を遮る様に立つと、淡々と言葉を紡いだ。
「これが結末だ、バルパー・ガリレイ。子ども達は自分の意思で未来を選んだ」
「ふざけるなふざけるなふざけるなァァァ!! 私がどれだけこの『聖剣計画』に全てを注いできたと思っているのだッ!? 全てだ、そう私の全てだッ!! それを貴様のような何もわかっていない小僧に壊されていいはずがないッ!」
「『聖剣計画』は終わったんだよ。子ども達から聖剣の因子を取り出す研究は、上の調査で安全上問題がないと判断されたら続けられるだろう。それまで子ども達はこっちで預かるし、あんたたちも上の判断を待てばいい」
「……それでは意味がないのだよ」
ガリッと爪に血が滲むことなどお構いなしに、バルパーは壊れたように嗤う。彼から発せられる執念という名の狂気に当てられた子ども達は、カチカチと歯を鳴らして身体を委縮させていく。ストラーダは奏太の傍に身を寄せ、腰に下げている聖剣に静かに手を当てる。ここにいる研究者達を無力化させることだけなら、彼一人で問題なく行えるだろう。油断なく構える猊下に、バルパーはさらに笑みを深くした。
「えぇ、えぇッ! 伝説の聖剣使いであるヴァスコ・ストラーダ猊下なら、ここにいる私達を無力化するぐらい簡単な事でしょう。だからこそ、私はその高潔さに縋るしかないと考えた」
壁際で子ども達を囲むように研究者達が無機質な銃口を向ける。それだけでなく、部屋の上部の壁が入れ替わり、ガトリングのような鈍い輝きを放つ噴射口が一斉に顔を見せた。その矛先は、全て子ども達に向けられていることにストラーダはギリッと歯を鳴らす。この部屋にいる敵意を持つ人間と無機質な機械の群れを相手に、子ども達の安全を守れるのかは賭けでもある。
「愚か者が」
「あなたが動けば子ども達に向けて撃ちます。少しでもおかしな動きをしても撃ちます。そして、時間も与えません」
バルパーが口元を覆うようなマスクをつけると同時に、研究者達も同様に口元を覆う。次の瞬間、シュー…と部屋の端から薬品のような靄が散布され始めたことに気づく。この講堂は窓は一切なく、元のつくりから密閉空間となるように作られていた。恐怖で引きつった顔を浮かべた子ども達は、必死にガスを吸わないようにと口元に手を当てるが逃げ道が一つもないことに涙があふれた。
「安心してください、ただの麻痺効果のあるガスですよ。猊下なら大丈夫かと思いますが、毒など使ってあなたを傷つけるようなことなどするはずがありません」
「この行為に意味はあるのか」
「ありますとも。そこの被験者たちから今すぐに必要な因子を取り除くだけですから。念願だった人工聖剣使いの完成は目前なのです。ただ急ぐため、数人ダメになってしまうかもしれませんが、その後に残った子どもは必ずお渡しすると約束しましょう」
朗らかな笑みを浮かべ、バルパーは己の渇望を満たすために必要な道具達を見るように子ども達を見据える。だんだんと感覚がわからなくなってきた身体に、一人ひとりと地面に膝がついていく。神器を発動しようとしたが、異能を抑制するための力も働いているらしく上手く発動しない。せっかくここまで足掻いてきたのに、希望が目の前にあったのにと悔し涙を浮かべた。
「子どもの希望を奪うのは、一番やっちゃいけないことでしょ」
そんな空間に軽口が叩かれる。普段温厚で優し気なデュリオの声音は――確固たる意志とプレッシャーが放たれていた。
「ジョーカーですか。神器の異能を抑制する力場を作っていますが、神滅具が相手なのは骨が折れるでしょう。しかし、あなたの異能でこの施設を闇雲に壊すよりも早く銃口が被験者に向かうでしょうな」
「この部屋に散布されているガスも、遠隔から操作されている銃器も、ここから随分離れたところで動かしているんスね」
「えぇ、想定された相手が相手でしたからね。だからこそ、それらを止めることはこの場では不可能で――」
そこまで言いかけて、バルパーの言葉は不意に止まる。何故ジョーカーは、この籠を構成する大本の場所がわかったような口調で告げたのかと。
「よかった。これだけ離れていたら、ここに被害を及ぼさなくて済みそうだ」
ひらりとデュリオの肩口に蝶が舞う。デュリオの金の瞳に紅が混ざったことにより、倉本奏太と同じ世界が映し出されていた。『
奏太自身だと効果的な活用を見出すことは難しく、便利な索敵ぐらいにしか使えなかった。しかし、高威力の遠距離攻撃を持つ者にその目があったのなら話は変わってくる。あらゆる遮蔽物を物理的に認識を消すことで百発百中の狙撃手を創り出せるのだから。
奏太に言われてから、デュリオはすでに動いていた。研究者達に気づかれない程の
「ッ……! 撃――!!」
『
刹那――全ての音が消えた。雷は研究所の頑丈な天井や壁を容赦なく突き破り、天よりの
「式神よ」
そして、異能で発動を隠し続け、準備していた術を開放する。この部屋にいる研究者達と同じ数のトビーくんが眼光を鋭くして目標を定めた。これ以上、研究者達の好きにはさせない。兵藤一誠が使う『
「――武装解除」
このあと滅茶苦茶魔法少女した。