えっ、シスコン魔王様とスイッチ姫みたいな力ですか? 作:のんのんびり
「最近はずっと教会のお偉いさん用の服ばっかりだったから、魔法使い用の服は久しぶりだな。まぁこれも、装飾とかがじゃらじゃらついているから一人では着替えられないんだけど…」
「カナくんが魔法使いの重鎮として表に出ることは、滅多にありませんでしたからねー」
「これを着るのって、だいたい大御所相手の治療の時だったからな。むしろ、大衆の前に出るのは今回が初めてなのか?」
なるほど、そう考えると俺が主催者側になっている『杖大会』にこんだけのヒトが集まるのも無理はないのか。自分でも思うけど、外部のヒトが『
「……未だに初級魔法しか使えないのに、魔法使いで重鎮扱いなの詐欺じゃね?」
「お金って偉大なのです」
そんな身もふたもない…。子ども達に別れを告げて教会から協会に帰ってきた俺は、ラヴィニアに着替えを手伝ってもらいながら小さく肩を竦めた。利益重視の魔法使い達にとって、新設備や研究費を増やしてくれるだけで俺は尊敬の対象なんだよなぁー。本来お金をもらうなら等価交換が当たり前の中、理事長に「こういう研究をしたいけどお金が足りなくて困っています」と理由と金額の詳細を送付して、協会の利益になると判断されたら無償でお金がもらえるシステムとなっているのだ。研究の完成後は協会にしっかり還元してもらうことが条件だし、厳しい審査もあるみたいだけど今でも審査の予約で埋まっているらしい。
なお、これまでは俺が稼いでいるお金の半分ぐらいを協会に寄付して、メフィスト様が必要に応じて分配してくれていたんだけど、さすがに新組織のことを考えたら貯金は必要だと考えて半年前から二割ほどにしている。それで文句が出ないか心配だったけど、今回のような杖大会のようなものをまた開催すればガス抜きもできるだろうとメフィスト様に言われた。こんな混沌とした大会を、今後も定期開催する可能性がある未来に遠い目になりそうだった。
「カナくん、ばんざーいしてください」
「ばんざーい」
「……はい、できました。次は髪を整えますね」
「んー」
ラヴィニアに言われるまま両腕をあげると、腕回りと背中の衣装を引っ張って整えてくれた。それから優しく髪を櫛で
「いつもありがとう」
「どういたしまして。カナくん、髪が伸びてきましたねー」
「あぁー、どうしようか。朱雀から身体の負担を考えるなら髪は伸ばした方がいいって言われているんだよな。髪は生命力や魂の一部が宿っているから色々負担を肩代わりしてくれるし、術の触媒としても使える。でも個人的には邪魔だし、手入れとか苦手なんだよなぁ…」
前に女性陣にキレられたけど、肌や身体のスキンケアみたいなのは相棒が全部やってくれているので、こっち方面の知識を覚える必要が全くなかったのだ。ちなみにちゃんと相棒に「市販のスキンケアとか俺もやった方がいい?」って聞いたら、自分のお世話だけじゃ足りないのかと《やだやだ》されたので、俺のことはもう相棒の好きにしていいよって任せることにしている。
それにしても、髪は元々癖っ毛だったので、基本寝癖を直すぐらいしか弄ってこなかったんだよなぁー。俺自身は男で長髪なのはちょっと抵抗あるけど、俺の周りって長髪男子の方が実は多いんだよね。デュリオやリーバンは肩ぐらいまで伸ばしているし、正臣さんは先生から尻尾頭と呼ばれているぐらい長い。思わずうーん、と片手で伸びた前髪を摘まみながら悩んでしまった。
「朱雀が言うのなら間違いないですよ。カナくんの負担軽減のために必要なのでしたら、ちゃんと忠告は聞いておくべきです」
「えぇー、ラヴィニアは朱雀の味方なの?」
「カナくんが一番ですよ。だからこそ、カナくんの安全に繋がる方を選んでいるのです」
「……ぐうの音も出ない」
純粋に俺のためを思って言ってくれているのがわかるので、俺も腹を括るしかないかと溜息を吐いた。ラヴィニアと朱雀の両方に言われたのなら、間違いなくそっちの方がいいだろうし。正臣さんみたいに髪紐で後ろに縛っておく感じにするかー。渋そうな俺の顔を見たラヴィニアはクスッと笑うと、少し伸びた俺の後ろ髪を弄る様に指に絡めた。
「じゃあ、カナくんの髪が伸びたら私が毎朝結んであげますよ」
「えっ、面倒じゃない?」
「髪を弄るのは慣れていますから大丈夫です。朝にお邪魔じゃなければですけど…」
「全然。やってもらうのは俺なんだし、ラヴィニアならいつでも来ていいよ」
自分でやったら絶対に不格好になる自信があったので、ラヴィニアがやってくれるなら安心だな。それからも二人でたわいのない話をしながら準備をし、最後に灰色のローブを深々と頭にかぶる。傍からだと口元ぐらいしか見えないだろうから、見た目は偉そうな怪しい魔法使いって感じだ。雰囲気だけなら大物っぽい感じはするかも。
「確か、顔出しは今回しなくていいんだよな? 本名も公開しなくていいって」
「はいなのです。さすがに多くのメディアや陣営が報道していますからね。カナくんはまだ魔法学校に通っていますし、ご家族の安全を考えると一般公開は和平後がいいでしょうから」
「そっか…。インタビューとかもしかして求められたりする?」
「大会の最後に一言はありますね」
「まじかぁ…」
今後は『
教会は多少顔出ししているけど、あそこは猊下やデュリオ、事情を知る上層部が睨みを利かせてくれている。俺の顔を知るには、ヴァチカン本部まで出向けるだけの立場を持つ人じゃないと難しいし、それに教会が発信している週刊誌も俺に関することはしっかり規制してくれている。そもそも情報機器どころか、近代機器全般の使い方がわかっていない信徒が多い教会だからこそ顔出しや本名のままで問題なかっただけなのだ。
ちなみに俺の家族に関してだが、将来的には駒王町に引っ越してもらう予定になっている。このことは以前、裏の事情を家族に話した時に伝えていて、家のローンの心配をする父さんを禁断の預金通帳で遠い目にさせたのは記憶に新しい。家の場所も要望も大きさも予算も全部自由ってところに、家族は喜ぶどころかめっちゃガクブルしていたな。さすがは俺の家族、小心者である。
原作の兵藤家みたいな高層ビルみたいな家もできるけど、実家が駒王町に引っ越すなら仕事場が近くなる俺もそこに住むと考えるとあんまり広すぎるのはなぁ…。でも俺の立場的に来客のことを考えると客室や会議室も必要だし、部屋の余裕は絶対にあった方がいいんだよね。いっそのこと実家用と仕事用と家を分けて考えるべきか…。あっ、そういえば――
「ラヴィニアって和平後はどうするんだ? 俺は『
「えっ、私も当然カナくんについていくつもりでしたよ。愛実から私の部屋はどんな感じがいいか相談されていますし、メフィスト会長からカナくんのことを任されていますから」
当たり前のように首を傾げられてしまった。いつの間にかラヴィニアも同じ家に住むことが決まっていた件。いや、俺は大歓迎だけど…。えっ、いいの? そんなあっさりと年頃の娘さんを俺の家に預けちゃって…。転移魔法を使えば家から仕事場の距離なんて気にしなくていいんだろうけど。不思議そうにしているラヴィニアにこれ以上ツッコむのは良くない気がして、とりあえず後でメフィスト様や家族に確認しておこう。
「うん、まずは目の前のことに集中しようか。杖大会に主催者として審査側に参加するのはわかっているけど、俺って杖の良し悪しなんて本当にわからないぞ。コメントを求められてもすごいとしか言えないし、必要なら相棒の知恵を借りられるけどたぶんズレた回答になりそうなんだよぁ…」
「そこは安心してください、カナくんはゲスト扱いですから」
「そうなの?」
「はいなのです。むしろカナくんと接点を持ちたくて来ている人が多いので、あまりカナくんが表に出るのはよくないのです。でも、もしカナくんが「これがいい」というものがあったら、遠慮せず言っていただいて構いませんからね」
俺が気に入った杖があったり、質問したりしたい時以外は神妙に頷いているだけでいいらしい。職人として純粋に自分の力量をはかりに来た人ばかりでなく、『
つまり、本当に俺はいるだけでいい見世物パンダみたいな感じなのか。会場の混乱を考えたら、むしろ俺は出しゃばらないで大人しくしている方が警備側も助かる感じみたいだ。俺が大会に行くってだけで、聖書陣営側からも警備を出してくれているらしいし、初代様達が大会の屋台を満喫しながら裏で見守りもしてくれているらしい。聞くだけでも警備体制が厚すぎてちょっと引いてしまった。
「……こういう大会を開いてみて初めて実感したけど、俺って本当に箱入りだったんだなぁーってしみじみ思う」
「元々メフィスト会長は、カナくんをこういった大衆の前に出さないようにしていましたからね。ですが、カナくんの立場的に表に立たざるを得なくなりました。だから、一歩ずつ慣れていけばいいと思いますよ」
「うん、たくさんフォローしてもらうことになっちゃうだろうけどよろしくお願いします」
「ふふっ、もちろんなのです」
任せてください、とえっへんと胸を張るパートナーの頼もしさに感謝しながら、定刻に遅れないように俺達は会場へと向かった。
――――――
「おや、来たようだね。お迎えご苦労様、ラヴィニア」
「お待たせしました、メフィスト会長」
さて、やってきました杖大会の会場である。そして、大会の貴賓室で待っていたのは俺達の上司であるメフィスト様だが、普段の緩い口調じゃないバージョンは久々に見たな。いつもの好々爺のような雰囲気ではなく、背筋が自然と伸びるような協会のトップとしての威厳が感じられる。大会運営のために協会でも特権階級を持つ魔法使い達が傍で働いているので、上司としてプライベートの姿は見せないようにしているのだろう。こういう切り替えが為政者には必要なんだなぁ…。
「カナタも体調に問題はないようだね」
「はい、問題ありません。……仕事モード中のメフィスト様の口調には未だに慣れませんけど」
「はははっ、ONとOFFを切り替えるのは大事なことだよ。キミもいずれ出来るようになるさ。さすがに『
そう言ってモニターに映る会場の様子には、威厳のありそうなローブを着た初老のおじ様が審査席に座り、大衆やメディアへ向けてコメントを返していた。原作のリアスさんの使い魔が人間に化けて街の中でビラを配っていたように、使い魔が人間に化けて表向きの組織長をやってもらっているのだ。なので、世間一般や大勢の魔法使い達の中では使い魔である彼がトップだと思われていたりする。
「組織の長が使い魔だと見抜けるぐらいの実力があれば、その後ろに悪魔がいることもわかるからね。試金石として有効的に使わせてもらっているよ」
「影武者みたいな感じか。俺の知り合いって、みんなメフィスト様が理事長だって知っていたから変な感じだけど」
「そもそも『
「これまでカナくんが会ったことがある協会関係者は、大変優秀な魔法使いばかりなんですよ」
えっ、そうだったの? 『変革者』として関わってきた人達を思い出すと、確かにみんな凄腕だったような気がする。ラヴィニアに昔プレゼントした魔道具のブレスレットを作ってくれた魔女さんも、今にして思えばお守り的な効果で教会の戦士をぶっ飛ばす威力の水魔法が籠められていた。正臣さんに素材の依頼をしまくっていた魔法使い達も、彼が悪魔の眷属だって知っていたし、俺も普通に挨拶とかしていた。そうなると俺って、マジで協会に囲われていたんだなぁー。
「そういえば、メフィスト様。大会中の俺の動きはラヴィニアから事前に聞きましたけど、北欧陣営との会談ってどうなったんですか?」
「そっちは魔王セラフォルー・レヴィアタンが、女神フレイヤとのロックフェス対決後の打ち上げの時に外交官として話をしてくれたようだよ。さすがにどこに目があるかわからないから、この大会が終わった後に内密な話し合いの場を持つことを了承してくれたみたいだ」
ロックフェスの打ち上げという場で、セラフォルー様は主に『眠りの病』の治療についてを焦点に当てて相談していたらしい。他の戦乙女の目や耳、または盗み聞きする他勢力もいるかもしれない中で協定や和平に関する話は危険なので当然だろう。そのあたりはさらっと触れる程度で、アストラル方面の魔術について語り合ったそうだ。
つまり、北欧との和平に関する会談は杖大会が終わってからってことか。うーん、フレイヤ様にどこまで話すかが問題だよな。北欧には原作で敵対を示したアースガルズの
いや、すごくわかるよ。普通に領土侵害だって怒るのも無理ないと思う。でも、俺や相棒からしたら「そんなこと言われても…」である。それに今更、人間達に信仰を止めろなんて言えないし、謝るにしても原因の大本はすでに亡くなってしまっているのだ。必要なら謝るけど、その時代に生まれてもいなかった者達からの謝罪にどれだけの意味があるんだろう。
そういった諸々を世界のためだと飲み込んで、和平に賛成してくれたオーディン様の懐が深いだけなのだ。彼は原作の四巻で和平や神の崩御を知った時、『父なる存在を失った小僧共の足掻き』だと楽しむように口にしていた。つまり、『聖書の神様』や『初代魔王』が北欧陣営に対してやらかしたことを『過去』とし、残された子ども達の『未来』を受け入れてくれたのだ。
そういえばその時のオーディン様との会話で、確か女神フレイヤ様の双子のお兄さんである豊穣の神フレイ様とそんな話をしていたと思う。つまり、フレイヤ様に話せばお兄さんを通して、確実にオーディン様にこちらの言伝を秘密裏に頼むことが可能という訳だ。でも、異世界のことを話すのは難しいかもしれない。フレイヤ様との会談なら、当然彼女に就く護衛もいる。重要な話だからと彼女一人だけを呼びだすことは困難だろう。
異世界について知らないラヴィニアがいるため、ちらりと視線だけをメフィスト様に向けると、彼はわかっているというように頷いてくれた。
「聖書陣営と北欧陣営はこれまで不干渉を貫いてきた関係だ。北欧側もこちらの情報は欲しいだろうけど、警戒して当然だろうね。だからこそ、中立の立場に立つ者を間に挟むことでトップ陣による三者会談のような形を取ろうと思っている」
「二大陣営の中立に立てる別陣営っていうと――仏教勢力?」
「あぁ、だから初代殿達を警備としてこちらに寄越してくれたという訳さ。会談には
西遊記チームの豪華メンバーじゃねぇか! なるほど、俺の警備のためだけじゃなくて、その後にある北欧との会談も見越して異世界の事情を知る初代様達がわざわざ来てくれた訳か。北欧側も初代様達が間に入ってくれるのなら、こちらへの警戒を解いてくれるかもしれない。最終判断はフレイヤ様の裁量になるだろうけど、仏教陣営も関わるとなると、ただの聖書陣営の和平以上の何かを察してくれる可能性が高いだろう。
「その話し合いって、セラフォルー様とメフィスト様と俺と初代様とフレイヤ様の五人の予定で行う感じですか?」
「残念ながら、魔王セラフォルー・レヴィアタンは繋ぎをつくるだけで留めてもらったよ。今回の杖大会で彼女は非常に目立ってしまったからね。大会後の魔王と女神の動向を探る勢力は多いだろうし、二人同時に会談のために行方を
「
つまり、傍から見たら杖大会へ魔法少女として飛び入り参加して、偶然戦女神さまとロックフェスして、打ち上げで盛り上がって、人間界を満喫して帰って行っただけってことか。もうただの旅行じゃん。魔王の動向を探ろうとセラフォルー様を探っても、マジで魔法少女しか出てこない。趣味と実益も兼ねた囮役ってすごいな。
「じゃあ、フレイヤ様の動向は…」
「そもそも閉鎖的な北欧陣営がこの杖大会に参加を表明した大部分は、聖書陣営の動向を確認するためにその中心人物である『
「……今の俺にはまだ新組織のボスという肩書きも、神の子って肩書きもない。あるのは魔法使いとしての肩書きだけ」
「そういうこと。聖書陣営との会談なら周りもうるさいだろうけど、魔術が盛んな北欧のアース神族が気になる魔法使いに唾を付けに来たぐらいは別に不自然じゃないだろう。向こうもそういう体でくるだろうしね」
うーん、ややこしい。こういう政治面のやり取りって本当に難しいや。とりあえず俺とフレイヤ様が会うこと自体は、そこまで問題視されないって訳ね。
「でも、メフィスト様。北欧が俺から聖書陣営の動向を探ろうとしているって周りは思わないんですか? 俺って一応聖書陣営の停戦協定の立役者ですよね」
「カナタ、キミは神滅具を持っているとしても人間で、しかも子どもだ」
「えっ? はい」
「そんな人間の子どもが聖書陣営に関する重要な情報を握っているなんて普通思うかい? おそらく他の陣営から見たら、『
「……んん?」
何かその言い方だと、俺は聖書陣営にいい様に利用されている被害者っぽい? 俺の名前が停戦協定に使われているのは事実だけど、俺も自分の望みのために聖書陣営を頼りまくっているぞ。
「カナくん、世間一般からしたら三大勢力のトップ陣と人間の子どもが、『対等』に接しているなんて思わないのですよ」
「世間から見たキミは、特殊な神器を持っているだけの魔法使いに過ぎない。魔王の弟子であることも、総督の生徒であることも、次期神の子であることも公になっていない。知っているのは一握りの者だけだ。まさか言葉通り、本当に停戦協定を成立させた立役者であり、むしろ聖書陣営をぶん回した嵐の中心地とは思われていないってことさ」
二人に説明されて、ようやく世間一般との乖離がわかってきた。確かにラスボスクラスが、特殊な力を持っているからって人間の子どもと対等に接しているとは思わないわな。便利な力を使わせるための象徴として押し上げられただけの人間って思われているなら、そりゃあ重要な情報なんてもらっているとは考えない。俺の方が情報爆撃しちゃっている方なのに。
「ふむ、そう考えると悪魔である僕が北欧の会談に参加するのも余計な憶測を生みかねないか。初代殿もいることだし、ここは僕も囮役になっておこうかな。北欧以外にも理事長として話しておきたい勢力はいるわけだしね」
「えっ、まさか初代様が一緒とはいえ、俺一人でフレイヤ様と会談しろってことですか!?」
「それぐらい慎重に接しなければならない勢力ってことさ。そもそも仏教陣営だって、キミ一人で引き入れたようなものじゃないか」
いや、あれは朱芭さんの功績というか、『原作知識』という名の核爆弾の所為でして…。玄奘老師が家に乗り込んできた時も、俺は説法されただけで、ほとんど仏教陣営が動いてくれたおかげなんですけど…。ただ人間の俺一人なら戦女神であるフレイヤ様が護衛をつける必要はないため、自然と二人きりになれるだろう。
セラフォルー様がフレイヤ様に俺との面会が可能だって言伝をしているなら、堂々と俺に会いに来れるだろう。初代様なら足りないところをフォローもしてくれるだろうし、『
「ふむ、そろそろ時間だね。二人とも、準備はいいかい?」
「はい、問題ありません」
「俺も大丈夫です。はぁー、まずは杖大会に集中します」
北欧との会談については、また後でメフィスト様や初代様と詳細を詰めることにする。降って湧いたチャンスだけど、閉鎖的なアースガルズと繋がりを持てるかもしれない絶好の機会なのだから。杖大会は相槌を打っているだけでいいってお墨付きをもらっているんだし、選考はプロがやってくれるんだ。すごい技術とか見せられても拍手しかできない俺はのんびりと見学させてもらおう。
――――――
「やりました! 最終選考にこうして残れるなんて、みんなで頑張った甲斐があったね!」
「う、うん。まさか本職じゃない私達がここまで残れるなんて…。でも、あと残っている人達って有名なヒト達ばかりだよ。しかも、魔王や北欧神話の女神までいるなんて…」
「そうですね。正直に申し上げれば、私達の杖が選ばれる可能性は低いでしょう。本職に対抗するための魔法技術と近代魔術という物珍しさで勝負をしましたが、果たしてどこまで食い込めるか」
多くのライバルたちと競い合い、なんとか最終選考まで勝ち残った『
杖職人の名家と呼ばれる者達は、さすがは本職なだけあってルフェイ自身も思わず欲しいと思ってしまうほどの繊細な装飾や使いやすさ、発動効率の短縮化などの技術力のすごさを見せられた。北欧の魔法
ルフェイ達は魔女として間違いなく上澄みにいる人間だが、杖の制作において特出した技術はない。生真面目なエレインによる緻密なまでの構成力、ルフェイによる禁術をも用いた様々な魔法体系を編み出す才能、メレディスによるセキュリティー系統に特化した『施錠』と『解錠』の魔術、そしてアーサーの聖剣による研磨によって創られた最高の素材。まさに自分達の全力を籠めて作り上げた最高傑作である。
しかし、それでもあと一歩足りない。冷静に分析できてしまうからこそ、それを理解できるだけの力量があるからこそ、三人は不安げに大会を見守るしかなかった。
「何を心配しているのです。私達の杖ならきっと気に入ってくれるはずですよ」
「でも、お兄さま…。選考に選ばれるにはあと一歩足りなくって」
「そもそも前提が違います。私達はあそこに座っている魔法使い達に選ばれるために、あの杖を作った訳じゃないでしょう」
そんな中一人、アーサー・ペンドラゴンだけは紅茶を片手に優雅に大会の様子を見続けていた。むしろ、余裕すら感じられるほどだ。これまで大会の様子を眺めていたが、確かに彼女たちが不安に思うのも当然だろう。だが、この最終選考に残れたのなら唯一の逆転の目があることを彼はわかっていた。
アーサーにとってこの大会は、両片思い中のエレインとの交際を父親に認めてもらうために挑んだものだ。ルフェイとメレディスも身分差によって思いを通わせられない二人を間近で見ていたので、全面協力のもとに大会へ臨んでいた。このチームのリーダーはエレインであり、自分達が創った杖が選ばれれば彼女の実績として箔がつく。
それに攻撃や防御などの魔法の才がなく、セキュリティー魔法という日の目を見ない魔法の才しかなかったメレディスとしても、杖大会という技術を競い合う大会だからこそ功績を残せる希望が持てた。ペンドラゴン家としても、家宝の聖剣を持ち出した以上家の名を背負っている。四人それぞれが明確な目的を持って挑んだ戦いだったのだ。
「ルフェイ、思い出しなさい。私達があの杖を作ったコンセプトは何ですか?」
「それは、『
「えぇ、つまり私達は別に審査員に選ばれる必要はない。『
「それは、確かに…」
ハッとしたようにメレディスは審査席へ目をやり、選考が始まってから無言を貫く灰色のローブを目深く被った魔法使いへ視線を向ける。若いとは聞いていたが、まさかアーサーと同年代ぐらいの青年とは思っていなかった。大会の主催者側でありながらずっと姿を見せていなかったが、最終選考の審査でようやく彼が表に出てきた時は会場の誰もが釘付けになっただろう。
『
アーサー達も極論を言えば、『
おそらく主催者としての義理で審査に参加しているだけで、彼自身は一線引いたところにいるのだろう。それに歯痒そうにしている参加者も多いが、こうして表に出てきてくれただけありがたい。彼の名が流れてきてから六年以上経つのに、一切表舞台に立つことがなかったのだ。今回、初めて大衆の前に姿を現してくれただけでも快挙だろう。ここで騒いでまた裏に引っ込まれる可能性や、忌避されることは避けたいため、選考に選ばれるように、せめて名前を憶えてもらおうと大会への燃料となっていた。
「でも、本当にこの杖がお眼鏡に適うのかしら? 今の科学技術でもやろうと思えば再現できるものをわざわざ魔法に落とし込んだだけですよ」
「うーん、けどお兄さまが自分なら絶対に欲しいって断言していましたからね。他にアイデアもなかったですし」
「魔法を行使するための杖としての機能と、アーサー様の要望で付け加えた近代魔術と近代科学の応用。魔法使いとしての視点では特に必要な機能とは思えませんが、異質であるからこそのインパクトはあると思います」
「……仕方がないでしょう。そもそも『
「それはそうなんですけど…」
杖の制作過程で何度も話し合って、最終的には納得して作ったものの、やはり不安は残ってしまう。そんな彼女たちにアーサーは肩を竦めると、もうすぐ来るだろう本番に向けて静かに目を閉じて待つ姿勢に入る。大した情報がない中、アーサーが目を付けたのはこの大会が開催された理由だ。『パートナーとお揃いの杖が欲しい』という願いからこの大会が開かれ、技術や性能を競い合う場となった。
「……パートナーとお揃い。つまり、そういうことだろう」
時々隣に座る『氷姫』と視線を合わせ、微笑みを交わし合う様子を見せる『
「それでは、これから私達が製作した杖の紹介を始めさせてもらいます」
エレイン・ウェストコットは端正な立ち振る舞いで挨拶をした後、魔女としての相貌へと変わり金の刺繍の入った細身で筒形の魔法杖を掲げ、魔法力を杖に流し込んだ。杖に流れる魔法力の伝導速度、スムーズな魔法への変換技術。杖の先に魔方陣が現れ、詠唱による魔法のパフォーマンスを魅せる。審査員達も美しい魔法の流れに感心を示す。しかし、これだけでは足りない。エレインは次に魔法杖を真っ直ぐに用意された的へと向けた。
「
短い詠唱。それに関わらず、杖の先から発動した魔方陣が即起動して用意されていた的へと鋭い弾丸が見事に命中した。魔法力を杖の先に流すたびに、断続的に弾丸が飛んでいく様はまさにマシンガン。射出速さや威力も申し分なく、感心したようにラヴィニアは感想を述べた。
「なるほど、事前に魔法陣のスロットを杖に刻んでいるのですね。魔方陣をあらかじめ杖に籠め、『解放』のための呪文を唱えれば魔法力を注ぐ限り魔法を発動させることができる。この威力の魔法を安定して行えるのはさすがなのです」
「このように魔法を杖に籠める工程はメレディスの力が大きいです。魔術を杖に封じ込める『施錠』と、
「あ、あと、登録できる
エレインの説明に付け加える様にルフェイが手掛けた工程も伝えていく。アーサーが研磨した素材にルフェイが魔方陣を籠め、細かな微調整をエレインが行う。現在は三つの機能が盛り籠まれているが、改良を重ねればさらに杖自身が自動で発動できる幅は増えていくだろう。
「あらかじめ決めた工程なら杖そのものをオートメーション化できるという訳ですね。奇襲や咄嗟の防衛で役に立ちそうですが、メインで使おうとするのなら既存の魔法を登録して発動するだけでは少し物足りないですねぇ」
「はい、その通りです。こちらの杖はそもそも戦闘用ではありません。携帯用に持ち運びが便利な
『えっ?』
審査員の言葉に肯定を返したエレインに、魔法使い達はぱちくりと目を瞬かせる。己の命を預けるための杖ではなく、趣味を楽しむための杖。今回の大会の趣旨を考えれば、創る方向性が違うのではないかと意見されるだろう。その説明に訝し気な視線が向けられる中、エレインは二つ目の
「
エレインの言葉を聞き届けると、彼女が手に持っていた杖がふわりとひとりでに浮き上がる。杖はまるで明確な意思があるようにエレインの周りをくるくると飛び回った。これは原作のルフェイが箒で自由自在に空を飛び回る原型となる術式。空を自由に飛んでみたいという夢をかなえるために、数多の魔導書や禁術を解読し、それらを組み合わせて創り出したルフェイ・ペンドラゴンの努力の結晶。まるで無機物に命が吹き込まれたように、杖は空の上をふわふわと遊んでいた。
「そして事前登録で魔法を編めばこのようなこともできます――
次の瞬間、細身だった筒状が半分に分かれ、中から液晶のような薄い板が現れる。杖は自動的にエレインの周りを飛び回ると「カシャッ」と音を出してフラッシュのような光がたかれる。続いてルフェイとメレディスの周りを飛び回り、二人が恥ずかしそうにピースをするとまたフラッシュがたかれた。完全にきょとんとする周りに、エレインは冷静沈着に事実を告げた。
「このように空を飛びながら自動的に写真を撮ることもできます。あらかじめ魔方陣にどんな写真が欲しいかをインプットしておけば、この液晶に刻んだ魔方陣の容量分撮影が可能です」
「な、なるほど、確かに面白い技術です。『
「しかし、あまりにも遊び過ぎではないだろうか? 魔法の保存、オートメーション機能、即時発動の技術は確かに素晴らしいが」
「うーむ、写真なら映写機で十分だろう。持ち運びの便利さと魔法で繊細な動きができるとはいえ、それこそ既存のドローン技術で補える。わざわざこれだけの素材と技術を使って作るのなら、他に有効活用できる方法もあるのでは?」
近代魔術らしい発想に面白げな声や困惑の声が審査員達の中であがる中、一人ラヴィニアは「ありゃーです」と乾いた笑みを浮かべてしまっていた。その笑みは、決して彼らの作品に呆れたからではない。むしろ、よくぞ正解を引き当てたとすら思ったからだ。隣を見ると、明らかにうずうずしたように空飛ぶ
「すみません、質問です。その
『えっ』
審査員だけじゃなく、エレイン達も、大会に参加していた者達も、観客として会場で眺めていた者達も、全員がその声に先ほどまでのざわざわとした雰囲気がぴたりと止まった。
全員の視線がその声の主に注がれるが、見られている青年はジッと空飛ぶ杖に釘付けで全く気付いていない。声音からわくわくと期待を寄せているのがよくわかる。エレインは目を瞬かせて呆然としてしまったが、すぐに姿勢を正してキリっとした表情で質問に答えた。
「もちろんです。近代魔術を扱う『
「オート性能ってどれぐらいの精度があるんですか。それと撮った写真をフォルダごとに保存とかも可能なのかな。何だったら、映像を撮ることもできる?」
「は、はい。お答えします」
大会が始まってから無言を貫いていたはずの『
「うーん、映像記録はまだ難しいのか。書き込めるスロットが増えればいずれできるかもってことですか?」
「はい、今回の映写機の魔法は私が開発したものなので、お時間をいただければ改良は出来ると思います。エレイン、スロットへの書き込みはできそうですか?」
「効率化を進める研究や素材は必要ですが、やれます。メレディス、これらの機能を全て『施錠』し、手順通りのサイクルに合わせて『解錠』はできますか?」
「む、無茶ぶりを言うわね…。でも、いいわ。やってみせる。だってこれは私にしかできない『才能』なんだから」
それから『
「ラヴィニアとのお揃いの杖にするには違うけど。これはこれで個人的に欲しいなぁ…」
「えっと、差し上げましょうか?」
「いや、さすがに返すよ。むしろ俺が使いやすい様にオーダーメイドしたいし、なんだったらアップデートできたら教えて欲しいかな。必要な素材や資金がいるなら協力するよ?」
「……それは、私達の研究に投資してくれるという認識でいいだろうか」
思わず前に出たアーサーに、『
「うん、いいよ。『
「……可能なら、このチームのリーダーであるエレイン・ウェストコット個人と契約は可能だろうか」
「アーサー様…」
緊張にごくりと唾を飲み込み、真剣に頼み込むアーサーの様子に、『
つまりこれって、もしかして俺がこの二人のキューピット的な役割になるのか? 思わず生温かい視線になってしまい、『
原作では冷静沈着なのに割と戦闘狂でミステリアスなお兄ちゃんって感じで取っつきにくそうだったのに、なんだか年相応の身近さを感じてしまった。八重垣正臣という愛に生きる友人を持っていることもあり、好きな人と結ばれるために頑張るアーサーに親近感がわいた。
「わかった。魔法杖、楽しみにしています」
「はい、感謝いたします…」
「それにしても、よく空飛ぶ映写機なんて思いついたな。俺、写真を撮るのが趣味だって世間に公開していなかったと思うけど」
「あぁ、それは私もよくエレインとの日々を形に残したいと思っていたからですね。パートナーとお揃いの杖を所望するぐらいです。『氷姫』と恋人であるあなたなら興味を抱いてくれると思いました」
『…………』
「……ん?」
先ほどまで生温かく初々しいカップルの誕生を眺めていたところに、突然の不意打ちを喰らい、ラヴィニアと奏太は二人して時間が止まったように固まった。さらっとアーサーに示唆された関係性に、二人して否定も忘れて顔を真っ赤にして思考が止まる。ここまで明け透けに第三者から当然のように言われたのは初めてだったのだ。
アーサーは傍から見た二人の様子から、自分達と同じような関係性なのだろうと思って口に出してしまったが、明らかに動揺を隠せない二人の状態から色々察してしまった。
「……すまない。まさか、そっちもまだだったのか?」
「い、や、まだっていうか…」
「あの、その…」
「ダ、ダメですよ、お兄さま。こういうプライベートな部分は繊細なんですからね! すみません、本日はありがとうございました。メレディス、幸せで呆けちゃっているエレインをお願いね!」
「もう、仕方がないわね…」
ズルズルと兄夫婦(予定)の二人をステージの外へと運ぶ少女達の背を見つめた後、奏太とラヴィニアはどちらともなく視線をそっと合わせる。初対面の相手にそう見られた、ということが予想以上に意識してしまった。二人して曖昧に笑みを浮かべ合うと、それからは大会の続きにあえて意識を向ける様に努め合った。幸い、観客にはアーサー達のやり取りは聞こえていなかったおかげで、進行は問題なく進めることができた。
こうして、波乱だらけの杖大会は閉幕したのであった。