えっ、シスコン魔王様とスイッチ姫みたいな力ですか?   作:のんのんびり

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第二百四十八話 構想

 

 

 

「はーい、これがみんなにお土産で買ってきた魔法少女ミルキーのお菓子の詰め合わせセットだよ! たくさん買ってきたから遠慮なく食べてね☆」

「えっ、いらな――」

「受け取っておくべきだ、アザゼル。拒否したら『お菓子じゃない方がよかったのね☆』と解釈されて、キーホルダーセットや大量のフィギュアなどが自宅に届くことになるぞ」

「……食べて消費できることに感謝しましょう」

 

 粛々と受け入れた聖書のトップ陣(大人達)は、大量に用意された可愛い女の子がプリントされたスナック菓子を片手にパリポリと雑談をして暇をつぶしていた。四大魔王からはサーゼクスとアジュカ、そして杖大会に参加して北欧の女神と打ち上げをして旅行を満喫してきたセラフォルーが揃っている。ちなみにファルビウムは、お腹が痛くなるのと仕事なら、仕事の方がマシだと結果は事後報告でお願いと冥界に残ることを選んだ。誰よりも働きたくない魔王が働く方がマシと呼ばれる会合に集まった大人達は、もはや無心の域にまで達してきていた。

 

「あぁー、この待つ時間がマジで胃に悪い。あいつ、さすがに今回は大人しくしているよな?」

「相手は北欧の女神ですからね。メフィスト・フェレスからの連絡もまだありませんし、会談が長引いているのかもしれません。セラフォルー殿、会場や女神の様子はどうだったのですか?」

 

 ガツガツとスナック菓子を口に放り込んで気を紛らわせようとするアザゼルに肩を竦めたミカエルは、お土産のお菓子に同封されていたおまけシールに一喜一憂するセラフォルーへ声をかけた。杖大会の最終日が北欧との会談になるとわかっていたため、聖書陣営のトップたちは予定をあけて待機していたのだ。閉鎖的な北欧と繋がりを作れるかもしれない絶好の機会であり、万が一の事態が起こった時に迅速に動けるように人間界へ集まっていた。

 

「うーん、やっぱり大きな大会だったからね。派閥同士の争いとか小競り合いが最初はちょこちょこあったみたいだけど、ミルたん達が何人か魔法少女にしたあたりから目に見える喧嘩はほぼなくなったから割と平和だったよ☆」

「アレ本当にひどいけど、見せしめとしてこれ以上のものはないと言えてしまうところがすごいよね…」

「しかも本人たちは見せしめとは思っておらず、純粋に警備上の備品として扱っている。そんな相手と事を構えるぐらいなら、一時の不快感や激情を抑える方がはるかにマシだろう」

 

 遠い目をしながら感心するサーゼクスに、アジュカも呆れた目をしながら諦観を浮かべる。普通ならこんな警備方法を採用するなんて倫理的にできないだろうが、魔法少女組織のボスという肩書きを持っている相手に文句を言う方がそもそもお門違いだ。嫌なら戦うな、は当然の処世術である。

 

「それに裏でコソコソするタイプは、初代様達が騒ぎになる前に捕縛してくれていたみたいだからね。あとで詳細を送ってくれるって言っていたかな」

「今回は聖書としてではなく、あくまで人間がメインとなる魔法使いの大会だったから、私達は迂闊に介入できなかった。『たまたま』お祭りを楽しみに来ていた初代殿達が、大会に水を差す不届き者を『善意』で止めてくれただけだからね。あとでお礼の品を届けないと」

「安心して、サーゼクスちゃん! すでに魔法少女ミルキーのお菓子セットは配送済みよ☆」

「魂を飛ばしてる場合か、サーゼクス。このままだと俺達も奏太くんの同類(倫理観がない)と見られるぞ」

 

 冥界のファルビウムに急いで連絡を取って、きちんとお礼の品を届けてもらう手続きをしてもらった。冥界にいてもお腹が痛くなることからは逃げられないらしい。

 

「あと大会自体は良いところまでいったんだけど、魔法少女チームは最終選考にあと一歩残れなかったんだよね。カナたんとラヴィたんのための杖なら、魔法少女の杖でもいいと思ったのに…」

「むしろ世界大会に突発で参加して、あと一歩までいけた魔法少女の技術力が怖いけどな」

 

 魔法少女以外には使用することすら難しい見た目と能力を持っているという特大のデバフがついて、あと一歩まで評価されたことにアザゼルは頬が引きつる。実際、あの杖大会には名高い職人や魔法使いが多数参加していたのだ。北欧の女神が釣れる規模の世界大会だと考えれば、突発参加で持ち込んだ杖で評価されたことに驚きと同時に薄ら寒くなる。普段から魔法少女にどんだけ金と人材をぶっこんでいるのかと、そこのボスに言いたくなった。

 

 ただそのおかげで、セラフォルーが魔法少女の杖を持って大会に参加したことをふざけていると咎める者はいなかった。なんせ見た目や性能はアレだが、間違いなく高い技術力や魔法が編み込まれていることをプロだからこそ理解できてしまったからだ。それだけの技量を持っているなら、世界大会に魔王が出たいと思ってもおかしくない。女神に接触するためという目的を、高い技術力が隠れ蓑にしてしまったという訳だ。頭が痛い。

 

「とりあえず、私はカナたんへの繋ぎを作って、あとは実家が医療関係だからそこから『眠りの病』に関する技術提供のやり取りがしたいって話しかしなかったよ。護衛や店員もいたし、お店のVIP専用の宴会場だとしても誰が聞き耳を立てているかわからないもの。女神フレイヤもそこは理解して、聖書(こっち)に関することはさらっとしか聞いてこなかったわ。一応、今後は友好的な関係を持ちたいって態度は感じ取ってもらえたと思うけどね」

 

 打ち上げ中は魔王でも外交官としてでもなく、大会の参加者同士の飲み会という態度を双方共に崩さなかった。『眠りの病』に関しても魔王としてではなく、あくまで医療関係者として北欧の技術に興味があるという流れに持っていっていた。外交官としての相貌で報告をするセラフォルーに、できるとしたらそんなもんだろうとトップ陣達は頷き合った。

 

 セラフォルーからの大会報告を聞き終わった為政者たちは、飲み物を口に含んで静かに息を吐く。そして、先ほどまでの緩い報告会から真剣な眼差しで続きを口にした。

 

 

「となると、北欧との繋がりはやはり奏太くんに任せるしかありませんね。彼にはあまり重責を背負わせたくないのですが…」

「だが、あいつは組織の長になる道を選んだ。そして、神相手なら俺らより人間のあいつに任せた方がいいと判断したのは俺達(こっち)だろう。何より今回は初代殿もいるし、『お土産(アレ)』もあるんだ」

「……ふむ、アジュカ殿。『アレ』は主にあなたやアザゼル、フェレス会長やローゼンクロイツ殿と言った技術や魔術に詳しい者達に任せていますが、どれぐらいの完成度なのですか?」

 

 奏太ではなく、初代孫悟空に託すことを選んだのはそれだけ扱いが難しいものだったからだ。万が一でも女神と主神以外の者の手に渡ってはならないため、細心の注意を払って封印された小箱。ミカエルからの疑問にアジュカは腕を組んで小さく呻いた後、疲れたように肩を落とした。

 

「完成――とは技術屋としてお世辞にも言いたくない出来ではあるが…。それでも、現時点でこの世界にはない全く新しい系統の術式だと北欧なら解析(理解)できるだろうね。この世界の魔法は、多かれ少なかれ魔術のルーツとされる「死者の書」や占星術、ケルト神話やドルイド信仰などが息づいている」

 

 しかし、『アレ』は違う。根本的なつくりからして、この世界には存在しないはずのもの。アジュカ達はある程度自分達にも理解できる術式に変換して作ったものの、その多くの技術は未だに正体不明(ブラックボックス)のまま。言うなれば携帯電話の使い方は何となく操作してわかっても、その携帯電話がどのように作られているかはわかっていない。こういう効果があるらしいが、どうしてそうなるのかはわからない状態なのだ。

 

 それでも『叡智の結晶』であるレーシュの解析と、最高峰の技術者と魔術師の手によって確かに新しい系統の術式が生まれたのだ。『Under world's Life form』――略称『UL(ウル)』に対抗するためにつくられた新魔法。『高位精霊神(エトゥルデ)』が『UL(ウル)』と戦うために、心血を注いで編み出してきた異世界の魔法の歴史。その重みは術式に精通してきた者だからこそより深く感じられてしまった。

 

「この術式を調べれば調べるほど、俺達が敵対する邪神の恐ろしさを実感してくる。今回俺達が創り出せた術式が何か分かるか? ただ俺達が――敵を『認識』できるためだけの術式だ」

「敵を認識する……?」

「全ての機械生命体が纏う外皮には、こちらのあらゆる認識を歪ませる力が自動(パッシブ)で働いているんだ。つまり、俺達は敵が目の前にいても見えない。気づけない。認識すらできないんだ。オーラや魔法力、闘気なども相手から一切感じることができない。そんな敵をようやく『いるかもしれない』と認識できる……かもしれない術式。それが今の俺達に創り出せた術式さ」

 

 アジュカからの説明に、声を上げられる者はいなかった。強い弱いの次元じゃない、そもそも現時点では戦いにすらならないのだという事実。そんな出鱈目な相手が自分達の敵なのだ。異世界『E×E(エヴィー・エトゥルデ)』の壁の高さを改めて実感する。じっとりとした汗を感じた面々へ、アザゼルは特大の溜め息を吐きながら空気を入れ替える様にパンパンと手を叩いた。

 

「暗くなるのもよぉーくわかるが、それでも俺達は一歩前進した。俺達にはまだ時間がある。時間こそが俺達の武器になる。だからこそ、この歩みを早めるためにはこの世界でもトップクラスの魔法・魔術を扱える北欧神話の協力が不可欠だ。故に俺達は危険だとわかっていても、主神オーディンに異世界の技術を見せることを選択した」

 

 主神オーディンほどの使い手なら、その術式がこの世界の歴史に一切存在していないにも関わらず、気が遠くなるほど古代から創り込まれてきただろう歴史の矛盾に気づくだろう。そして、この世界には存在しない『敵』を認識するためだけに創られたものだとも。聡明な彼なら聖書陣営と仏教陣営が、北欧陣営とただ和平をしたいだけではないのだとわかる。決して分が悪い賭けではなかった。

 

 だが、異世界の技術を自分達の手の届かない場所へ渡してしまったのも事実。故に彼らは確実にオーディンの手に手渡されるまで、どんな事態になっても動けるようにしたのだ。しかしすでに杖大会が終わり、北欧との話し合いが始まってもおかしくない時間でありながら未だに連絡が届かない。あのメフィスト・フェレスが予定通りに連絡できないということは、何か不測の事態が起きたのかもしれない。

 

 不安が少しずつ増長していった場に――魔力の反応が感じられた。アジュカは確認後、急いでその通信を繋げるとそこに映ったのは額に汗をかき、明らかに憔悴しきったメフィスト・フェレスの姿が映し出された。普段から隙を見せない優雅な佇まいを見せる大悪魔が、これほど消耗している様子を見せるとは…。緊張が場を包み、ごくりと喉が鳴る音が響いた。

 

 

『すまない、連絡が遅くなってしまった。単刀直入に言う――緊急事態が起きた』

 

『――ッ!?』

 

 大悪魔からの予断を許さないような声音に、聖書陣営は一斉に腰を浮かせた。

 

「まさか、襲撃者でも現れたのかッ!?」

「それとも北欧との話し合いが決裂、または危険な状態である可能性がっ…?」

「例の『アレ』に何か不具合があった、もしくは不測の事態に陥った場合も…!」

 

 推測を口にしながら、誰もが一刻も早く駆け付けられるように足に力を入れる。いったいどんな緊急事態が起きたのかと全員から緊迫とした視線を受けとったメフィスト・フェレスは、神妙な表情で頷くと重々しく口を開いた。

 

 

『カナくんとラヴィニアちゃんが、ついに――お互いの恋心を自覚したッ!!』

 

『詳しく聞こう』

 

 立っていた姿勢から全員きちんと椅子に座り直すと、取り出した酒を片手に食い気味に話しの続きを促した。確かにとんでもない緊急事態だッ! 真面目な話をしている場合じゃねぇッ!! 気分はもうお祭り状態の保護者達なのであった。

 

 

 

――――――

 

 

 

『あのー、フレイヤ様との会談が終わったので報告に……。あの、何ですか?』

『いやいや、どうぞどうぞ』

『……過去最高にやりづら過ぎるっ!』

 

 メフィストからの緊急事態の報告から数刻後。要人との話し合いや杖大会の後始末のために退出した上司と入れ替えで、次に奏太から連絡を入れたがすでに出来上がった大人達の顔に頬が引きつってしまった。もう口元がにやけまくっている大人達の反応に、完全に今回の恋愛相談会談が筒抜けなことを奏太は理解した。

 

 初代孫悟空から保護者達へ女神との会談の内容を伝えるために、事前に決めていた通信手段で繋げたがあまりにも緊張感がなさすぎる。聖書陣営にとって念願だった北欧との繋がりのはずなのに、空気が大変生温かい。一応、こちらが話すのを促してくれているので、質問責めにされないことにホッと小さく息を吐いた。

 

『えっと、その、聞かないんですか?』

「お前から話すなら聞くが、こっちは十分に楽しんだからお前の口からはいいかなってよ」

『……ん、楽しんだ?』

「メフィストから連絡をもらった後、すぐに隠密系の使い魔を飛ばして廊下でのラヴィニアの宣言(あのやり取り)は聞けたからな。さすがにこれ以上は無粋ってもんだろう」

『ガチのデバガメしていやがった、この大人達ッ!?』

 

 貴賓室の部屋の中でのやり取りは結界などで見られなかったが、ラヴィニアが迎えに来た後のやり取りは結界外の廊下だったことを思い出す。つまり、どこに目が合ってもおかしくなかったのだ。真っ赤になって小さく呻き声をあげる奏太に、良いもの見させてもらったと後方腕組み体勢でにっこりなラスボス達だった。

 

 奏太の様子から、少なくとも悪い結果にはならなかったのだろうと感じた大人達は、女神への相談内容については聞かないことにしていた。おそらく聖書陣営には話しづらい内容も含まれているだろうと察し、二人の恋愛に関しては今後も見守るつもりでいる。生温かい大人達の空気に気恥ずかしさで頭を抱えたくなるが、揶揄うような反応がないだけマシかと奏太は考え直した。

 

『その、とりあえずフレイヤ様との会談は無事に終えられました。メフィスト様に言われた通りの内容をオーディン様へ秘密裏に伝えてくれることを確約してくれましたし、初代様が持ってきた『お土産』も受け取ってくれました』

「こちらからすれば、最上の結果ですね。特に条件とかはつけられませんでしたか?」

『特にはなかったです。恋愛話になると押しが強いけど、俺の相談にものってくれたし、俺の言葉なら信じられるって快く伝言を受けてくれたし、すごく優しい女神様でした!』

「……あの北欧最強の戦女神が、ただ優しい訳がないんだがな」

「改めて思うけど、外交官視点から見てもカナたんってすごいよね。自分の武器を最大限に活用してる」

 

 心配そうに奏太の話を聞いていたミカエルの隣で、堕天使と悪魔は呆れた顔で笑うしかなかった。神にとって人間とは庇護対象だ。もともと裏表のない性格で、素直に感情や尊敬を表す人間の子どもを無下にする善神はそういない。フレイヤからすれば、愛の女神である自分に取り入る魂胆など微塵もなく、純粋に好きな相手を思っての恋愛相談ができたことが一番嬉しかったことだろう。

 

 外交で大切なのは、いかに相手が欲しがるものを手札として用意して、それを自分の損にならない様に適切に切れるかが重要だ。この世界でもトップに位置する神々からすれば、欲しいと思うものは大抵労せず手に入れてしまうものである。そんな神々を納得させられるものを用意できるかは、神話同士の外交において非常に難しい点なのだ。それを天然で突破して、信用まで勝ち取れるのは人間である倉本奏太の強みでもあったのだろう。

 

「マジで神様ホイホイ過ぎるだろ、こいつ」

「レーシュ殿に始まり、仏も女神も誑かしてしまうとは…」

『ちゃんと結果を出したのに、俺の評価がひどくないですか? あっ、そういえばフレイヤ様から、今度モフモフした猫が引く戦車を見せてあげるから、ラヴィニアと一緒に北欧へ遊びに来ないかって言われたんですよ。他にもいっぱい北欧にはモフモフがいるって教えてくれて…』

「キミがホイホイされるんじゃない!」

「さすがは女神フレイヤね、モフモフを外交手段に使うなんてっ…!」

「今日もお茶がおいしいですねぇ…」

 

 賑やかな悪魔と堕天使陣営と奏太のやり取りに色々諦めて(慣れて)きたミカエルは、「まぁ奏太くんですからね…」で胃薬(お茶請け)を優雅に飲み込んでおく。これが聖書のトップ陣による首脳会議の様子だと誰が想像つくだろうか。誰もが立場を忘れた訳じゃないが、素の自分らしく接することができるのは、倉本奏太という潤滑剤のおかげもあるのだろう。この少年の前で自分を大きく見せる必要がないと、自然と肩の力が抜けるのだ。これが新しい聖書の在り方として代わっていくのだろうな、と肩を竦めてしまった。

 

 

「ところで奏太くん。女神フレイヤが主神オーディンへ繋ぎを作ってくれたのはわかりましたが、こちらと会談をするかの返事はどのように届くかわかりますか?」

『それなら、フレイヤ様とメル友になったのでオーディン様がOKしてくれたら返信してくれるそうですよ』

「こいつ、この世界の数多の男たちが欲して止まない女神との直通の連絡手段をさらっともらってやがる…」

 

 女神フレイヤは人間との関わりを好む神であり、恋愛相談を聞きに人間界へ降りることもある。それに趣味のロックのインスピレーションを得るために、人間界の演奏を聞きに席のチケットの予約などをちゃんととるために電子機器の扱いは一通りできたのだ。魔法や術式に精通した北欧と安全に連絡を取る手段として、人間の機器を利用するのは最適だった。少なくとも人間を見下すような神なら、人間の技術など目もくれないだろうから。

 

『……あっ。今、ちょうどフレイヤ様から返信が来ました』

「オーディンからの返事か?」

『えっと――《随分なものを寄越してくれたな、悪餓鬼ども。首を洗って待っとるがいい》だそうです。これ、めっちゃ怒っていません?』

「ブチ切れてるのはわかったな。とりあえず、返事としては十分だろう」

 

 北欧側の意図は、確かに十分すぎるほどに伝わった一文であった。フレイヤからのメールには、主神オーディンが聖書側からの『お土産』を解析した途端に、豊穣神フレイを連れてヴァルハラの奥へと消えていった(むね)が書かれていた。北欧の最高神二人が揃って姿を消すことに疑問を持つ者もいるだろうが、そこは「わたくしが報告ついでにお兄さまと上司へ推し活について語りまくっていることにするわね」と誤魔化してくれたらしい。通りすがりの悪神を四時間半拘束させた実績があるので、誰もが目を逸らすしかない完璧な理由だった。

 

 返信内容は物騒だが、聖書と仏教からの会談要請を北欧の主神が受け入れるとわかり、ホッとトップ陣は息を吐く。それにどうやら例の『お土産』は、北欧のプライドに無事に火をつけたこともわかった。本来神話同士の会合がこんなにあっさり決まることはないのだが、北欧に影響を与えられる女神を味方につけられたのが大きすぎた。ならば、あとは場所を整えるだけである。

 

『フレイヤ様から、予定通り夏のバカンスの時に会談(推し活)に来るからね!だそうです』

「良い空気吸いまくってるな、北欧の女神」

「しかし、そうなると奏太くんが予定していた無人島に我々も集まる必要があります。話し合うための応接室が必要ですし、日を跨ぐ可能性も考えたら宿泊スペースもあった方がいいでしょう」

「リアス達も久しぶりに友人に会えると楽しみにしているんだ。せっかくなら、子ども達が楽しめる遊戯室も欲しいな。それに外交には接待も必要さ」

「あっ、じゃあカラオケボックスとかも入れちゃおうよ! フレイヤちゃんも大喜びだね☆」

『えーと、無人島にホテルかなんかを建てようとしてます? 数日借りられそうな無人島をメフィスト様が探してくれていますけど、さすがに勝手に建てたらまずくないですか?』

「もういっそ、島を買い取れよ」

『高校生に島一個、ノリで買収させようとしないでください』

 

 今のところ、バカンスぐらいにしか使わないだろう無人島を買う理由が思いつかない。値段自体は奏太の持つ預金を使えばできなくはないだろうが、間違いなく手持無沙汰になるし、管理にだって莫大なお金がかかるだろう。

 

「組織の長になるなら、自由に使える土地の一つや二つは持っておくものだぜ?」

『そうだとしても、今はまだ早いですよ。ただ宿泊施設とか応接室は必要だと思うので、メフィスト様に簡易的な建物を建てていいかは確認してもらいます』

「せっかく建てるなら日本の旅館のような建物にしたらどうだろう。温泉での裸の付き合い、そして何より北欧で息抜きと言えば……サウナだ。彼らにとって、サウナは日常の一部と言っても過言ではないからね」

「でしたらプールか、身体を冷やせる湖なども必要でしょう。北欧はサウナの流儀にこだわりを持つ者も多いようですから」

「風呂入って、サウナ入って、そんで夜は酒飲みながら(はい)にしゃれ込むってな。三神話の中で誰が一番の豪運の持ち主か決めようじゃねぇか」

『あの、俺の話聞いてます? なんで規模がどんどん大きなことになっているんですか? 実はみなさんもバカンスを楽しみにしていたりします?』

 

 実際、北欧の神を呼ぶならしっかりした建物は必要だろうが、明らかに大人達の楽しみの方に比重が傾き過ぎである。自分達も来ることが確定なら、ついでにバカンスを楽しみたい願望が溢れすぎだった。よっぽど疲れた心を癒したくて仕方がないのかもしれない。気づけば数百人ぐらい余裕で入りそうな建物ができそうで、メフィスト様に交渉を頑張ってもらおうと遠い目で奏太は溜息を吐いた。悪魔の謎建築技術があれば、実際不可能ではないのだから。

 

『麻雀はやってもいいですけど、賭け事とかはなしにして下さいよ。子ども達もいるんですから』

「へいへい。聖書と仏教と北欧で卓を囲むとなると、もう一席は奏太に……いや、お前はダメだな」

「えっ、どうしてだい」

「俺とシェムハザとバラキエルとこいつで、前に麻雀をやったらシェムハザとこいつで首位争いをして、俺とバラキエルでだいたい最下位争いになってつまらなかったからだよ。こいつ、相手の上がり牌だけは絶対に振り込まないし、勘でこっちの捨て牌を鳴いていつの間にか役をつくってくるからな。奏太とだけは賭け事はしねぇって決めてる」

『……いや、だってなんとなくわかっちゃうから』

 

 実際、奏太も内心これはズルかもしれないと感じたので完全に運が絡むゲーム以外は基本参加しないようにしていたりする。やろうと思えば概念を捻じ曲げた透視だってできてしまうので、表のカジノなどにいけば稼ぎ放題なのだ。叡智の結晶さんが絶好調過ぎた。

 

 

『はぁ…、とりあえず俺の方は、これで夏まではゆっくりできそうで安心しました』

「こっちは調整とか諸々の手続きで気が遠くなりそうだけどな。そうそう、例の幹部連中との集まりの日にちがだいたい決まったぜ。来月あたりを予定しているが、いけそうか?」

『夏休みの前あたりですね。一ヶ月あれば子ども達のことや杖の制作も一段落しているだろうから大丈夫ですよ』

 

 アザゼルからの言葉にハッと意識を切り替えた奏太は、少し緊張を滲ませながらこくりと頷く。ついに堕天使幹部との会合になるのだ。もう六年の付き合いだというのに未だに接触したことのある堕天使が、アザゼルとシェムハザとバラキエルとその家族だけなのである。よく奏太が箱入りなことを揶揄うアザゼルだが、彼も十分に過保護だと言えるだろう。

 

 ただ今後を考えれば、神器所有者を保護していくことになる『HSD×D(止まり木)』にとって、堕天使の神器に対する理解の深さや人間への教導法を学ぶ必要が出てくる。それに現在堕天使の組織で働いている一部神器所有者を、新組織の教員として雇いたいとも思っていた。彼らと接触し、面会をするためにもその教導者である堕天使達との顔合わせは必須。新しい神滅具を見たい幹部達の癇癪を抑えるためもあるが、奏太としても良い関係を築いていきたい気持ちは強かった。

 

「そうそう。一応顔合わせで問題なければ、幹部の一人を駒王町に在中する予定ではあるんだ」

『えっ、駒王町にですか?』

「今のところ、堕天使側の使者が朱乃だけだと負担が大きいだろう。そいつは『堕ちてきた者たち(ネフィリム)』で朱乃の担当教官をやっていて、神器にも精通しているから新組織の相談役にもなれるしな」

『朱乃ちゃんの教官さんなら、人間への偏見もなさそうですね』

 

 姫島朱乃が『堕ちてきた者たち(ネフィリム)』で訓練を受けているのは奏太も当然聞いており、ちょっと困ったところもあるけど賑やかで面白い教官だとはなんとなく聞き及んでいた。朱乃が信頼している先生と一緒に勤務ができるなら、確かに心強くあるだろう。

 

『名前は確か……ベネムネさんですよね』

「あぁ、あってるぞ。『神の子を見張る者(グリゴリ)』の書記長で、幹部で唯一の女性堕天使だ。まぁ、戦時中はバーサーカーなんて呼ばれてもいたが、今ではだいぶ丸くなったもんよ」

『は、はぁ…』

「そいつを駒王学園の中等部の教員として派遣する予定だ。そうすれば学園側に都合をつけやすくなるし、色々調整もしやすいからな」

 

 アザゼルからの説明に、なるほどと納得したように頷く。言われてみれば、こちらの事情を知るのが生徒だけでは動きづらい場面も当然あるだろう。教員の立場として、朱乃達をサポートする人員を派遣するのは理に適っている。実際、原作でのこの役割は『神の子を見張る者(グリゴリ)』の総督を辞めたアザゼルが担っていたものだ。まだ現役である彼の代わりに、幹部であるベネムネに白羽の矢が立ったという訳だろう。

 

「詳しいことが決まったらまた連絡する。今回はよくやったな」

『はい、わかりました』

「あと、ラヴィニアと進展があったらいつでも聞くからな」

『そこは余計なお世話です! ……ただ、今後のことはちゃんと考えていきます』

 

 十七歳の少年らしく羞恥に顔を赤らめる様子に、大人達は無言で肩を竦め合った。彼の持つ肩書きや異能によって責任を背負わせてしまっている分、子どもらしく青春を過ごさせてあげたいと思うのは大人としての義務だろう。たくさん悩んで、しっかり答えを出せばいい。それぐらいの時間はつくってみせる。

 

 そうして奏太との通信が終わり、今後の構想を話し合ったトップ陣達は、それぞれの自分達の役目へと再び足を進めるのであった。

 

 

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