えっ、シスコン魔王様とスイッチ姫みたいな力ですか? 作:のんのんびり
「無事か、倉本奏太ッ!」
「あっ、バラキエルさん! えっと、すっごいボロボロですね…」
堕天使の幹部が着用するアーマーに焦げ跡がいくつもつき、深手はないようだが多少の手傷が見られた。サタナエルさんが転移で去った後、大勢の堕天使の部下を引きつれて部屋に入ってきたのはバラキエルさんだった。俺は赤い蝶を出してバラキエルさんの肩に止めると、とりあえず治療を開始しておく。バラキエルさんは急いで俺の方へ足を進めると、ホッとしたように肩を下ろしていた。
「ふん、遅かったな」
「コカビエル、何故お前が…。いや、ここは感謝を述べておくべきか。倉本奏太を保護してくれて助かった」
「こいつに関しては、ただの任務のついでだ。サタナエルには逃げられてしまったがな…」
忌々しそうに舌打ちをするコカビエルさんは、サタナエルさんが逃げたあたりを睨みつけている。彼が別れ際に言った『カオスをもたらす者たち』に所属する「味方」の存在。あれほどの高速詠唱に、あの人数を一気に転移できるのはかなり上澄みの魔法使いが複数いなければ不可能な芸当だ。こっちの神器の情報を持っていかれてしまったけど、高位の魔法使いが敵側にいるという情報は得られた。
それにしても、『カオスをもたらす者たち』か…。原作には出てこなかった組織名だ。似たような名前に『
とりあえずわかることは、サタナエルさんが『
「アザゼル先生達の方は大丈夫なんでしょうか?」
「お前の無事を知らせたと同時に、サタナエルの研究施設から放たれた合成魔獣の討伐にあたっている。おそらくそれらも転移によって運び込まれたものだろう」
「それって、魔王様達が戦ったっていう例の…?」
「あれほど凶悪なものではなかったが、如何せん数が多い。あの再生力と凶暴性には手を焼かされた」
バラキエルさんが転移させられたのはサタナエルさんの研究室だったらしく、そこで複数の合成魔獣に足止めさせられてしまったらしい。またアザゼル先生のところにも現れたらしく、施設の防衛システムと魔獣の討伐を同時に相手をしていたようだ。俺も手伝った方がいいか尋ねたが、堕天使の総力で問題なく片付くと言われた。そもそも護衛対象である俺を戦場に立たせる方が問題だと言われたら大人しくするしかない。
「お前の異能によって、奪取された防衛システムに亀裂が入ったおかげで外と連絡がつけられた。本部にいるシェムハザが権限を奪い返し、今は被害状況を確かめているところだ」
「随分好き勝手されたものだな」
「グリゴリの研究記録はこの施設が奪取されたと同時に、アザゼルが事前に抹消コードを入力していたようで流出は防げた。宝物庫の方も荒らされたようだが、そちらもある程度は防げたらしい。アザゼルが心配していたのは、倉本奏太の安否だけだったからな」
「先生、マジで対策はめっちゃしていたんですね」
組織の長として、組織のダメージを少しでも緩和できるようにそっちを優先したのは間違っていない。危ない目にはあったが、幹部であるバラキエルさんと裏でコカビエルさんの二名を派遣してくれていた。裏切者が俺をターゲットにするかわからない状況で、組織の守りを疎かにできないのはトップとして当然だろう。裏切者の裏には、アジュカ様ですら手を焼くネビロス家の影があったのだから。
結果的に言えば、堕天使の裏切者をあぶり出すことができて、組織の被害も最小限に抑えられた。だけど、面倒な事態になったのは確かだろう。たぶん俺、サタナエルさんに完全に目をつけられたよな…。ネビロス家にも俺の存在が伝わるだろうし、『カオスをもたらす者たち』がこのまま大人しくしているとも思えない。コカビエルさんを勧誘した時も、世界に混乱をもたらすことを話していた。
おかしいなぁー、和平までは聖書陣営内でのゴタゴタしかないと思っていたのに、何かとんでもないものが生えてきていない? 俺が原作を変えた所為なのか、元から原作に含まれていた要素だったのか…。とにかく、俺も『カオスをもたらす者たち』の動向には注視しておいた方がいいだろう。
それからしばらく堕天使達がバタバタと復旧に忙しなく活動している様子を眺めた後、煤けた髪をガシガシと搔きながら悠然と歩くアザゼル先生と幹部のみんなが姿を現した。頭を下げる部下たちに先生はテキパキと指示を出し、別のところへと移動させていった。それからようやく俺達の方に振り向くと、組織の長としての顔ではなく、疲れながらも安心したように笑った。
「よぉ、無事だったみたいだな。……悪かったな、助けに入れなくて」
「先生も大変だったってわかっていますから、皆さんも無事でよかったです。それにコカビエルさんが助けてくれたので大丈夫でしたよ」
「そうか。頼みを聞いてくれてありがとな、コカビエル」
「……任務だったからな。それに、ヤツの思い通りに事が進むのは面白くなかっただけだ」
先生からのお礼にそっぽを向いて憎まれ口を叩くコカビエルさん。あれこのヒト、実はツンデレ属性なのかな…? なんかお礼を言われるのがむず痒くて、素直に受け取れないヴァーくん属性を感じた。サタナエルさんに誘われた時も、アザゼル先生の悪口を言いまくっていたけど、口で言うほど嫌っている感じではなかったし。原作のコカビエルさんを俺は知っていたけど、目の前にいる彼からは先生との間に確執は見えなかった。
「コカビエルさん、サタナエルさんを拳一つで壁まで吹っ飛ばせてすっごく強かったんですよ! さすがは聖書に記されし堕天使の武闘派の幹部だって思いました!」
「……ふ、ふん、当然だ。そもそも鍛え方が違う」
「見えない攻撃も簡単に防いでしまうし、黒い羽根を自在に操って倒しちゃうところもめっちゃ格好よかったです!」
「あれぐらいのことで騒がれてもな。貴様もアザゼルの生徒なのだ、精進するがいい」
やっべ、このヒト面白れぇ…。褒めれば褒めるほど、ムズムズした顔でそっぽを向いていくぞ。アザゼル先生とバラキエルさんに呆れたような目を向けられたけど、止めないところを見るに内心面白がってはいるらしい。原作でもリアスさんとイッセーの言葉にはちゃんと反応を返してくれていたし、神滅具とアザゼル先生の生徒ってことでそれなりに認めてくれたって感じなのかな。
「えっ、コカビエルったらサタナエルに一撃入れられたのに逃げられちゃったの?」
「どういう意味だ、ベネムネェ…」
「だって一撃入れられたってことは、魔法少女にできたんでしょ?」
「はぁっ?」
きょとんとするベネムネさんの疑問に、ぶち切れかけたコカビエルさんだったが、その後に続く言葉に宇宙猫になっていた。
「あぁー、俺は魔法少女コンパクトを使おうと思ったんですけど、コカビエルさんからしまえって言われてしまって…」
「えっーー! ちょっとコカビエル、あの最凶兵器を使わなかったのッ!?」
「なんて勿体ないことを…。サタナエルは顔は良いから敵なら人権無視で好き勝手出来る分、良い面白素材になれたかもしれないのに…」
「舐めプ? コカビーさん、舐めプなのだ?」
「何っ!? それは戦士の風上にも置けないなッ!!」
「――貴様らッ、叩き切ってやるわァァァッーー!!」
光の剣をブンブン振り回して追いかけ出すコカビエルさんに、キャー! と笑って逃げだす幹部一同。なるほど、普段のコカビエルさんの立ち位置がなんとなく見えたような気がした。
「カナタ、コカビエルのヤツはお前の勘からみても問題なさそうか?」
「俺の善悪センサーってことですか? それなら、全く反応しないです。サタナエルさんから裏切らないかって誘われても、バッサリ断っていましたし」
「ははっ、そうか…」
他のヒトには聞こえないように、こそっと聞かれた内容に俺はこくんと頷く。俺も原作知識から警戒していたけど、いざ会ってみたら特に何も感じなかったのだ。口や態度が悪いのは元々の彼の性格なんだろうし、人間や神器に興味がないのも本当だろう。それでも共闘する時、このヒトなら大丈夫だとなんとなく思えた。アザゼル先生はそれだけ聞くと、どこか嬉しそうに幹部達のわちゃわちゃを眺めていた。
コカビエルさんは、戦争以外の方法で望みを叶えるって言った先生の言葉を信じた。おそらく、原作ではなかった変化なのだと思う。いつの間にそんな約束をしていたのかと思ったけど、こればっかりは永年の付き合いを持つ先生とコカビエルさんの問題だ。友人同士の誓いなら、部外者の俺はあまり口出ししない方がいいのだろう。サタナエルさんのことは残念だったけど、先生なりに得るものがあったのならよかった。
「あの、先生。サタナエルさんに、俺の神器の異能が『概念消滅』だってことがバレちゃいましたけど、大丈夫ですかね…?」
「大丈夫…とは一概に言えねぇが、今後『カオスをもたらす者たち』がお前の異能を前提に対策を講じてくると考えておくべきだろう。ただ、お前の異能は出来る範囲が広い分、全てを対策しきるのは向こうも難しいはずだ。それにレーシュのことはバレなかったんだろう?」
「はい、そこは隠しきりました。聖槍を見せたのは一瞬だし、相棒のオーラは消していたので」
「良い判断だ。和平までにこの問題が解決できればいいがな…」
俺が表に出れば、神器の異能がバレるのは時間の問題ではあった。それが少し早まったと思っておこう。先生の心配通り、和平の時に俺と相棒のことを公表する予定だったけど、『カオスをもたらす者たち』に目をつけられた状態だと考えるとどんな妨害が起こるかわかったもんじゃない。仏教陣営、北欧陣営と順調に和平への道筋が出来てきていたのに、ここでまさかの敵対勢力が現れたことに溜め息を吐きたくなった。
正直敵対勢力の台頭は、英雄がまだいないこの時代において未知数過ぎる。イッセーくんとヴァーくんはまだ小学生で、リアスちゃん達だって鍛えているとはいえ、成長途中の子ども達を戦場に送るわけにはいかない。原作のグレモリー眷属達のような勢いのある若手であり、周囲からの
「今後『
「……ネビロス家や高位の魔法使いも絡んでいるとなると、堕天使だけの問題じゃなさそうですしね」
悪魔側はネビロス家の問題があるし、天界側は次期神の子である俺が狙われたこともあって、おそらく聖書陣営全体の敵として扱われることになるだろう。聖書全体を敵に回すって本来なら命知らずと思われるだろうけど、それだけ彼らの技術力を上は危険視しているってことだ。
「おそらく向こうもしばらくは動かねぇだろう。サタナエルやネビロス家のやり方から見て、次にやつらが動くとしたら自分達が都合よく操れる新たな
「それって、ナベリウス分家みたいにってことですか?」
「冥界か、人間界か、はたまた別の勢力か…。とにかくその実験の尻尾を掴んで、引きずり出すしかねぇだろうな」
サタナエルさんが幹部として過ごしていた間に奪われた情報もいくつかあるから、そこからまずは洗い出してみるとのこと。あと、これから襲撃があったことや、サタナエルさんの裏切り、そして『カオスをもたらす者たち』の情報をトップ陣で協議するらしい。俺も参加するべきか聞いたが、今日はとにかく休めと言われてしまった。実際、俺にできることはないし、疲労を感じているのも事実。日頃から訓練をしているとはいえ、やっぱりガチの戦闘は慣れないなぁ…。
それから遊んでいた幹部のみんなもさすがに原状復帰のための仕事に戻り、コカビエルさんには改めてお礼を告げておく。今回は慌ただしいお別れになっちゃったけど、今後は堕天使の方々とも交流を深めていきたいものである。バラキエルさんとコカビエルさんは残党処理のために向かい、先生は俺が色々消し飛ばしちゃった施設の復旧に遠い目をしていた。さすがは元祖ラスボスの嫌がらせ技、堕天使のトップにも効果抜群だったらしい。
「おっ、お前の迎えが来たみたいだな」
「迎えって、……メフィスト様?」
アザゼル先生の言葉に振り向くと、背の高い赤と青の髪色が目に入り、安堵から無事であることを知らせようと手を振りかけて――それよりも早く飛び込んで来た真っ白な柔らかいものに体当たりされた。息が詰まって変な声が出たが、顔にかかる金色の髪に気づいて何とか体勢を整える。俺は小さく息を吐き出すと、ポンポンと彼女の魔女帽子を安心させるように叩いた。
「……カナくん、無事ですか?」
「うん、無事。ごめんな、心配をかけさせたみたいで」
「怪我もないです?」
「ないない。コカビエルさんが助けてくれたし、俺だってそれなりに鍛えているんだからな」
隣でアザゼル先生が口笛を吹いてニヤニヤしているのがムカつくが、最優先はこっちなので後でシェムハザさんに悪の魔法少女組織がグリゴリに爆誕しました! とだけ報告しておこう。そろそろ副総督の誤解を解いた方がいいんだろうけど、俺からは絶対に伝えてやらない。盛大に勘違いされた後に、ぜひ怒られてください。
「迎えに来てくれてありがとう。ラヴィニアの顔を見たら、すごく安心したよ」
「……もう少し、このままでもいいです?」
「いいよ、気が済むまで」
高校二年生の青少年にはちょっときついものは色々あるが、小学生の頃から鍛えた賢者モードを嘗めるなよ。スマートに格好をつけたいお年頃なんだからな。それに、ラヴィニアを不安にさせてしまったことは受け止めないと。俺だって彼女が襲われたって聞いたら、絶対に冷静ではいられないだろうし。俺も彼女が隣にいると実感できて、ようやく安心感が心に沁みた。
しばらくぎゅっと抱き着かれた後、落ち着いたらしいラヴィニアが頬を赤らめながら離れてくれた。俺も赤くなっているだろうから、二人でその様子に笑ってしまう。おかげで、強張っていた顔や思考もいい感じに解けた気がする。今どうしようもないことを考え過ぎても、心が疲弊するだけだしな。『カオスをもたらす者たち』への不安は尽きないが、今は無事に帰ってこれたことを素直に喜んでおこう。
「やっといつもの顔に戻ったな」
「……そんなに違いましたか?」
「お前が狙われたのは事実だから、今後も警戒が必要なのは間違いない。だが、常に緊張したままじゃ疲れるだろう。お前にとって潜在的な敵ができるのは初めての経験だからな、少しずつ息の吐き方を覚えていけよ」
メフィスト様だけでなくラヴィニアも迎えに呼んでくれたのは、先生なりの配慮だったらしい。確かにこれまで俺が戦ってきた相手って、その後は解決済みになったことが多い。それか保護者のみんなが俺を隠してくれていたことで、潜在的な敵ができないようにしてくれていた。こういうところが敵わないな…、と大人達の優しさに感謝した。
「さてと、メフィスト。お前をここに呼んだのは、カナタのためだけじゃねぇからな」
「あぁ、敵が使った魔方陣の調査だろう。これでも魔法使いの組織の理事長だからねぇ、どの魔法系統の術式を使っているかぐらいは探れるはずさ」
メフィスト様からよく頑張ったね、と頭をよしよしされた後、彼をわざわざ呼んだ理由になるほどと納得する。確かに謎の魔法使いの痕跡を辿るなら、魔法に精通した専門家を呼ぶのが当然だ。メフィスト様はサタナエルさんと生徒たちが消えたあたりに魔方陣を起動させ、使われた魔法力や術式の痕跡を探り出す。さらにアザゼル先生が提供した映像端末から、転移時の様子も確認していた。
俺はその作業を相棒の解説を聞いて「すげー」と感心しながら見ていたが、隣にいたラヴィニアの顔がだんだんと強張っていったことに気づいて振り向く。そこには信じられないように目を見開く彼女がいて、何度も映像に映る魔方陣と魔法力の痕跡に視線が行き来する。それに嫌な予感が胸中に浮かんだ。彼女はおそらく知っているのだ、この魔法力の痕跡を…。
そんなラヴィニアの様子に気づいたメフィスト様が、静かに目を伏せて溜め息を溢した。おそらく、彼もラヴィニアと同じ結論に至ったのだろう。アザゼル先生は、二人の様子から何かを察したのか言葉を待つように佇む。口を開きかけては下を向くラヴィニアに、首を横に振ったメフィスト様は温度のない瞳で答えを告げた。
「確証はない。だけど、この魔法陣や術式の痕跡、そしてこの魔法力の波長を僕は知っている」
「……サタナエルとその生徒だけでなく、大量の合成魔獣を送り込める高位魔法使いの集団をか」
「遥か昔、『
メフィスト様の答えに、俺は息を飲んだ。その組織は、ラヴィニアが元いた組織であり、彼女の恩師であるグリンダさんが所属していた場所。メフィスト様の答えに、ラヴィニアは何も答えない。どこか認めたくないと揺れている瞳は、だけどそれこそが真実だと映しているかのようだった。唇を噛みしめるラヴィニアに、俺は彼女を支えるように肩へ手を置いた。
「……間違いないんですか?」
「さっきも言ったけど、確証はない。だけど、専門家として可能性は高いと言うしかないねぇ」
「この魔法力はまさか『東の魔女』の…。でも、もしあの魔女たちが送られたのだとすると、まさか『大魔法使い』が動いたのですか……」
俺を襲った堕天使の幹部の協力者が、ラヴィニアが元いた組織の魔女だった。もちろん、そう仕向けるように巧妙に偽造された痕跡の可能性だってまだある。だけど、メフィスト様とラヴィニアの様子から、かの魔女達ならやりかねない動機があるのかもしれない。グリンダさんが攫われた後に、ラヴィニアが『オズの魔法使い』に連絡を取ったが未だに連絡がつかないと教えてもらったことがある。
グリンダさんが攫われた事件は、もしかしたら『カオスをもたらす者たち』と何か関係があったのかもしれない。『
「メフィスト会長、答えてください。グリンダを攫った犯人は『オズの魔法使い』なのですね?」
「……気づいていたんだね」
「あの当時は気づいていませんでした。ですが、考えるほど彼女達しかいなかったのです。グリンダの隠れ家を知っている者は限られています。それに『南の魔女』であるグリンダがいなくなったのに、組織に全く動きがなかったことも…。何よりあの炎の跡には、心当たりがありましたから」
ラヴィニアの心を守るため、彼女が無茶をしない様に伏せられていた犯人の名前。この様子だと、彼女はだいぶ前からあたりをつけていたのだろう。メフィスト様はラヴィニアの問いに一度目を伏せた後、当時検証して分かった見解を述べていく。その間、ラヴィニアの震える手が俺の手に触れたのに気づいて、ここにいると伝えるように強く握り返した。
「大丈夫か、ラヴィニア…?」
「動揺していないとは言えないかもしれません。ですが、グリンダに繋がる手がかりをようやく掴めたのです」
『オズの魔法使い』は自分達だけの特別な時空間を持っていて、外からの干渉を受け付けない。彼女も基本グリンダさんを間に挟んで、そこの魔女達と関わりを持っていたらしい。『オズの魔法使い』に探りを入れたくても、彼女達の世界に干渉する手段が難航していた。そこに『カオスをもたらす者たち』との繋がりを見つけられたのだ。
「カナくんを危険な目にあわせた『カオスをもたらす者たち』を、私も追う理由ができました。もし『オズの魔法使い』が本当に関わっているのなら、私は彼女たちに聞かなければならないことがあるのです」
「はぁ…、この魔女っ娘も頑固だからな。……カナタ、お前も同意見か?」
「サタナエルさんに狙われた俺を、先生たちが心配しているのはわかっています。『カオスをもたらす者たち』の危険性から考えたら、俺は安全な場所にいた方がいいことも。だけど、ラヴィニアとグリンダさんを一緒に探すって俺は約束したんです」
たぶん天界陣営や仏教陣営からは危険だって止められるかもしれないが、俺だって無関係って訳じゃない。それにあのサタナエルさんのことだ、俺が身を隠し過ぎると出てこざるを得ない手を打ってくる可能性が高い。たとえば、俺の知り合いに手を出すとか…。少なくとも、『カオスをもたらす者たち』を俺も追っているとわかれば、わざわざ面倒な手口を広げる必要性はなくなる。
「それに和平を進める俺達の障害に、彼らは間違いなくなります。先生が話していた捨て石どころか、もっと厄介な相手と手を結ぶ可能性だってある。なら、彼らを追う手を緩めるわけにはいきません」
「総督さんや魔王さん達にとっても、因縁の相手であることはわかっています。ですが、組織の有力者である皆さんが、常に彼女達を追うことに専念するのは難しいと思うのです」
「先生たちは和平への交渉や、他にも
原作では為政者たちが動けない代わりに、グレモリー眷属や『D×D』のみんなが実働隊として活動していた。だけど、この時代にはまだ英雄がいない。なら、その代わりになるとまでは言えないけど、俺達若手にできることはやらせて欲しい。俺とラヴィニアの言葉に、先生とメフィスト様は仕方がなさそうに溜め息を吐いた。
「これは、ミカエル達を説得するのは俺の役目になるんかねぇ…。絶対に面倒な会議になるな」
「僕もフォローするよ。それに子ども達の巣立ちを、年寄りの心配で阻害しちゃダメさ。だけど、君たちだけを実働隊として動かすことはしないし、僕達の指示はしっかり聞くことが条件だ。特にカナくんはわかっているね」
「はい、カナくんは私が絶対に守るのです」
「えーと、はい。よろしくお願いします…」
ちょっとツッコミたいところはあったけど、戦闘力的に考えれば俺が一番下なので大人しく頷いておきます。とりあえず、危険だからって理由で俺だけ仲間はずれにはならなさそうでホッとした。
「そういえば、今度やるバカンスでお前と関わりがあるやつらを呼ぶんだったよな」
「えっ、はい。そのつもりでしたけど…」
「なら、その呼んだメンバーの中でお前が声をかけられそうな実働隊のメンバーを集めてみろ。若手同士の混成チームになるだろうから組織同士の兼ね合いなんかも必要だろうし、組織の長としての練習にもなるだろ」
「えぇー…」
いやいやいや、小学生や中学生だって多数いるのに何言っているんですか。そんなこと言ったら、戦闘大好きキッズ達が嬉々として参加しちゃうでしょ。それに将来を担う若手であるリアスちゃん達には、今は学業や管理者としての仕事、それに自分磨きに専念させてあげたいし…。
「お前、この件がそんな簡単に終わると思っているのか? ネビロスやサタナエルを相手にするんだ、俺は下手したら数年はかかってもおかしくないと思っているぞ。そんときには、そのガキどもだって成長している。お前がそいつらをどう使ってやるかも、そいつらの今後に繋がっていくことになるだろうぜ」
「何も危険な任務に従事させるばかりが協力ではないよ。困ったら僕達に相談したらいいし、先ほどカナくんが言ったようにできることを一つひとつ試してみたらいいさ」
「しばらくは向こうの動きを待つことになるんだ。若手代表として色々と挑戦してみな」
数年単位と言われて、確かに例の人工超越者の事件は三年も前のことだ。彼らが慎重な性格で、なかなか尻尾を見せないことはこれまでが物語っている。彼らにとって興味のある研究対象や、実験ができる環境を手に入れられるかなんてこちらはわからないのだ。ただ長命種である彼らと違い、魔女達は人間だからさすがに数十年も待つなんてことにはならないだろう。数年の内には動くと見ていいと思う。
そもそも、本来の歴史では約5年後には和平が成立しているのだ。その間に動きがあると見るべきだと思う。将来の若手であるリアスちゃん達にいきなり命がけの戦闘をさせてしまうより、経験を積ませるぐらいのお手伝いならお願いできるかもしれない。まぁこのあたりは本人たちの意思が重要だろう。無理強いしたい訳でもないし。実際、俺とラヴィニアだけで動くのはダメって言われているから、仲間になってくれるヒトは必要だ。
「……バカンスといえば、フレイヤ様にお願いしたら俺とラヴィニアのためならって手伝ってくれるかな」
「やめようね、カナくん。あの駄女神、後方腕組みしたいからって理由で本当にやりかねないから」
「他神話を巻き込むのはもう少し考えろ、馬鹿。ただでさえこっちは、悪魔と堕天使が黒幕な所為で面倒を起こしているっていうのによ…」
もちろん『カオスをもたらす者たち』の情報の共有はするけど、この件はまだ聖書内でのもめごとだ。リゼヴィムみたいに世界規模の問題を起こしたなら、他神話への協力をお願いすることはあっても、神話内でのもめごとを外に持ち出すのは基本NGとのこと。異世界のことでそこらへん麻痺していました、すみません…。
「よーし、とりあえず気が重くなる話はもう終わるぞ。せっかくお前が企画した夏のバカンスがもうすぐあるんだ。久しぶりに顔を会わせるやつも多いんだし、まずは子どもらしくたくさん遊んで来い。やつらのことで気を張り過ぎて、夏の海を楽しまないのは勿体ないぞ」
「そうだね、ここからは僕達大人に任せて、カナくんとラヴィニアちゃんはしっかり羽を伸ばしなさい」
先生とメフィスト様があえて俺達を子ども扱いしてくれる気遣いに、俺達は肩を竦めて笑った。確かに心配事はあるけど、先生の言う通り幹事の俺が不安そうな顔をしていちゃダメだろう。教会側はアーシアちゃんや元聖剣計画の子ども達の初顔合わせがあるし、イングヴィルドに海を見せてあげたいし、ヴァーくんと美猴くんがやんちゃし過ぎないように見ておかないといけない。朱雀とも朱乃ちゃんアイドル計画について話し合うことが色々あるしな。
それに忘れちゃいけない北欧陣営との秘密のトップ会談だってあるのだ。フレイヤ様がチョメチョメするためって理由で自ら身体を張って連れてきてくれるんだし、異世界対策としては重要な局面となる。北欧の神様が喜びそうなものも用意しておかないとな…。いっそ、ガブリエル様に頼んで水着を着てもらったら一発な気もするが、魔王少女様が対抗意識を燃やしてエライことになる未来しか見えん。魔法少女水着バージョンでも添えといたら、中和されるかな…。
よし、とにかく先生たちの言う通りだ。まずは思いっきり夏を楽しむことだけ考えよう! 俺はまだ少し硬かったラヴィニアに夏の準備について声をかけると、彼女もクスッと笑って同意してくれた。こうして、堕天使陣営への二度目の訪問は波乱と共に終わったのであった。
堕天使陣営編はこれで終わりになります。シリアスが続いたので、次回のバカンス編はみんなでわちゃわちゃしたいなと思います。