えっ、シスコン魔王様とスイッチ姫みたいな力ですか?   作:のんのんびり

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第二百五十四話 設営

 

 

 

『ねぇねぇ、奏太。メフィストさんから夏のバカンスについて聞いたんだけど、あれって私達も行っていいのかな?』

「私達って、まさか家族みんなで来るってこと?」

『だって、無人島を貸し切って海を満喫するんでしょ。そんなの聞かされたら、行きたくなっちゃうじゃないの!』

 

 夏の予定を立てるために実家に今年の帰省について姉と話をしていたら、バカンス計画について聞かれてしまった。まぁ隠していたわけではないし、裏のことを知った家族を呼ぶこともできると言えばできる。ただ一般人であるため注意事項は色々あるし、俺は幹事であるため家族の傍でずっと対応はできない。さすがに安全とはいえ、裏関係初心者を放置はできないだろう。

 

「んー、言っておくけど裏の関係者ばっかりで一般人はいないけど大丈夫?」

『難しそう? でも、ラヴィニアちゃんや姫島さんの家の方々、クレーリアさんたちもいるんでしょ。他にどんなヒトが来るの?』

「えーと、魔王に悪魔に堕天使に天使に仏に女神に魔法少女にエクソシストに枢機卿に妖怪にドラゴンとか…」

『うわぁ…』

 

 ガチでドン引きした声が聞こえた。自分でも言っていてカオスだと思ったけど。

 

「今回の目的はみんなの顔合わせと、夏の海をみんなで楽しもうってことがメインだからさ。姉ちゃんたちもいずれ駒王町に住むんだし、みんなとの顔合わせって意味ではいい機会ではあるのかな」

『そうそう、それにメフィストさんから奏太が社長? になる組織の事務員とかどうかって誘われたのよね』

「えっ、マジで? そういえば、姉ちゃんも大学三年生だしそろそろ就活の時期か」

『父さんと母さんの仕事も近々転勤で駒王町近辺になるみたいだし、私も安全を考えたらその方がいいでしょ』

「……なんか、ごめん」

『気にしないの。その代わり、コネ採用は遠慮なく使わせてもらうからね!』

 

 こっちの事情に巻き込んでしまったことを、姉ちゃんはカラカラと笑って流してくれた。流されながらも、使えるものは遠慮なく使うところは姉らしいけど。それに裏関係を柔軟に受け止められる対人スキルは確かに貴重かも。俺の組織には表と裏の両方を経由する人が多くなるだろうし、裏関係に理解のある表の人間って実は少ない。昔朱雀からも、裏を知ってしまうとどうしても只人とは一線を引いてしまうものって言われたからな。

 

 姉ちゃんもコネだけって言われないように、大学の間に色々資格を取るための試験を受けているようだ。俺の組織じゃなくても、駒王学園の事務員も候補にあげているらしい。そんな緩い感じでいいのか心配だが、どうしても合わなかったら転職を考えればいいとか言えるのはさすがは現代っ子。裏の思考だとそんな簡単に陣営や仕事をポンポン変えられないからな…。俺もわりと裏側の思考に染まっているんだなぁー、と姉と会話しているとしみじみ感じた。

 

『ところで、その行く予定の無人島ってどこにあるの?』

「メフィスト様が色々探してくれていたら、セラフォルー様が「それなら、私が撮影でよく使う無人島はどうかな☆」って言ってくれてさ。どうせ旅館も建てたりするなら、そっちも魔王様にお願いした方が楽かなーって」

『島も旅館もそんな緩くていいの…?』

 

 おかしいな、姉ちゃんの就職談義中の俺みたいな顔された。裏に染まった現代っ子恐ろしいって言われた件…。

 

「太平洋の日本よりにある島らしくて、転移魔方陣でいけるみたい。今のところ絶海の孤島みたいに岩礁だらけで、砂浜もないから今一部エリアをバカンス用に改装してもらっている感じ」

『何年もかかりそうなすっごく大がかりな作業をさらっと言ってる…。太平洋っていうと、修学旅行で行ったハワイと案外近いのかしら』

「それなりに距離はありそうだけどね。ただ表の世界にはすでに見られない古代種や幻想種なんかを保護している島の一つで、表の世界には見つけられないようになっているみたい。危険な生き物も少ないみたいで、生き物を無暗に傷つけなければ大丈夫だってさ」

『へぇー、ちなみにどんな生き物がいるの?』

「ティラノサウルスとか、天空の魔鳥って呼ばれる伝説の魔物とか…」

『えっ、リアルティラノに触れるの!?』

 

 そこで怖がるより、目を輝かせるあたりが倉本家である。ラスボスの傍にいれば身の安全は大丈夫だよね! って認識できるところはもはや才能だってメフィスト様に呆れられた記憶が…。この姉、裏の世界でも何だかんだで逞しく生きていけそうだと実感した。

 

 ちなみにこの無人島、たぶん俺の原作知識が正しければ劇場版『マジカル☆レヴィアたん』の段ボールヴァンパイア神との戦いを撮影した無人島だよね。セラフォルー様が色々吹っ飛ばしても大丈夫だったみたいだし、戦闘大好きキッズ達が暴れても問題ない頑丈さはありそうだ。将来イッセー達が悲鳴をあげながら吹っ飛ばされる島だと思うと、大変感慨深いものである。

 

 

「んー、ただやっぱり裏のことをほとんど知らない姉ちゃんたちを放っておくのはなぁ…」

『言われてみると、危ないことはしないつもりだけど、私達も顔合わせをするなら裏のガイドみたいな人は確かに欲しいかも…。どこどこの組織で~とか、どこどことの繋がりで~とか言われても正直覚えきれる自信がない』

 

 これに関しては姉の記憶力の問題ではなく、裏の一般常識のあるなしが関わってくるから仕方がない。俺だって原作知識という下地があるから、膨大な人間関係や繋がりを把握できた部分が大きい。裏関係初心者からすれば、関係性を説明してくれるガイドが欲しいと思うのは当然だ。本来なら家族である俺がするべきなんだけど、残念ながらそれは難しいのが現状だ。

 

 だからと言って、知り合いにお願いするにしても一般人である倉本家と同じスケジュールを組んでもらうのは申し訳ない気持ちもある。せっかくのバカンスなのだから、それぞれがみんな羽を伸ばしてもらいたいのだ。誰かいないか? 裏のことに詳しくて、それでいて俺の家族への理解もあって、ほぼ一般人と同じ感覚で一緒に過ごせそうなちょうどいい立ち位置の人…。

 

「あれ、ちょっと待てよ」

 

 いるじゃないか、まさに俺が求めている人材がッ!

 

 

「――瓢稔(ひょうねん)師匠ぉぉっ! やっぱり俺が困ったときに、ちょうどいいポジションにいてくれるのはいつも師匠だァァッーー!!」

「ヒィィィッ!? で、弟子よ、来て早々に縋りつくな! あとそのテンションは、絶対に私の寿命が縮むことしか言わんだろっ!!」

「じゃあ、寿命を伸ばすためにバカンスに行きましょう! あっ、これ今年のお中元です。あとでここのみんなで分けられるようにお菓子もたくさん持ってきましたよ」

 

 毎年お中元とお歳暮は欠かさず渡しに来るので、俺はウキウキで師匠にアタックしに行った。師匠は俺からの袋を受け取ると、溜め息を吐きながら受付の人に荷物を渡してくれた。その間、師匠の知り合いに声をかけられ、いつもうめぇのありがとなと頭をガシガシと撫でられる。三ヶ月しかここで働いていなかったし、ここの人達は俺のことを詳しく知らないのに、こうして仲間みたいに扱ってくれるのは嬉しい気持ちになる。お土産効果もあるだろうけど、何だかんだで師匠の弟子だからって部分が大きいのだろうなと思った。

 

 それからいつもの個室に師匠と入り、俺はせっせとお茶の用意を始めた。前に師匠から立場的にお茶を出すのはこっちじゃね? みたいに言われたが、これは弟子としての義務みたいなものだと続けさせてもらっている。それに朱芭さんからお茶を習ってからは、師匠に美味いと言ってもらえるお茶を入れるのが楽しみの一つなのだ。今回はミカエル様から天界のお茶をもらったからそれにしよう。

 

「はい、師匠。ミカエル様からもらったお茶とウリエル様が握ってくれた天界名物のゴッドまんじゅうです」

「土産一つでフルスロットル過ぎんか。えっ、これ私がもらっていいものなのか」

「師匠のために天界らしいお土産が欲しい、ってお願いしたらもらったものだから大丈夫ですよ」

「あっ、お腹が…」

 

 任せろと俺はお腹を壊しやすい師匠のために黄色の蝶々をすでに待機済みだ。以前師匠に会ったのは俺が禁手に至る前の冬なので、俺がレベルアップした格好いい姿を見せなくては。前回までは悪魔・堕天使・魔法使い関係のお土産だったので、今回は新しく繋がりができた天界をメインにしてみたのだ。

 

「さらにお腹の弱い師匠のために、ミカエル様にお願いして作ってもらった特注腹巻ですよ! 天使の羽根がいっぱい入っているので、常にほのかに温かく聖なるパワーで健康もバッチシです!」

「えっ、天使長に私のお腹具合が知られているの…?」

「今回は天界尽くしだったので、次回は玄奘老師にお土産をお願いするので楽しみにしていてください」

「せめて私のお腹のことは伏せて。お願い」

 

 ふむ、お腹が弱いことを知られるのが恥ずかしかった感じか、それは俺の配慮が足りなかった。仏教陣営のお土産が終わったら、次は北欧のお土産を渡してあげたいし、また師匠が喜びそうなものを考えないとな。お金をかけたものは師匠が遠慮しちゃうから、せめて気持ちはこめたいのだ。俺の一番の師匠のためって言ったら、みんな快くお土産を用意してくれたしね。

 

「……色々情報は流れてきたが、停戦協定からもう半年以上経ったのだな」

「こっちは混乱とか大丈夫でしたか?」

「正月の頃は忙しなかったが、すっかり落ち着いたな。日本の駒王町を停戦協定の地にするとわかった時は、「魔法少女流星群が降ってくる地につくるとか聖書は正気か!?」とかなり騒がれたが」

「日本の土地とかの心配より、魔法少女(そっち)にビビられていたんだ」

「普通に馴染んでいることに、やっぱ聖書ヤベェ…と今はなっている」

 

 さすがは世界でも最大勢力と畏れられた聖書陣営。日本の裏社会が認める手腕だったようだ。

 

「尤も日本の五大宗家が静観していたからな、なら私達のような下の者が騒いだところでどうにもならん」

「日本の裏のトップが騒がないなら、大きな問題はないってことですもんね」

「それより例の魔法杖の世界大会の方がかなり反響が大きかった。日本が封印していたはずのサブカルチャーが、ついに世界へ侵略を開始したと」

「何で最新情報の全部で魔法少女が反響を搔っ攫っているんですか」

 

 とりあえず、日本は平和だとよくわかったわ。五大宗家の皆さん、いつもお疲れさまです。

 

 

「お前は問題ないか? 半年前とだいぶ状況が変わったのだろう」

「新しい組織を創るって話は前に電話で話したと思うけど、今はそれの準備をしているところかな。神器所有者の為の居場所を創る予定なんだけど、軌道にのってきたら異能持ちじゃなくても裏関係の仕事に携わりたい人たちの補助や斡旋所みたいなこともやりたいなぁーって思っているんだ」

「それは、フリーランスで働いている者達も加えるということか?」

「師匠、いつも言っていたじゃん。ここにいる者は自由を大切にしているが、後ろ盾がないから常に危険と隣り合わせな生き方をするしかないって。従来通りのやり方が好きな人は干渉しないけど、そうじゃないなら少しでも手を貸せないかなって」

 

 俺にとって古巣であるここでお世話になった期間は少ない。それでも始まりの場所であり、師匠との思い出の場所だ。それに、少ないながらも知り合いだっている。師匠は俺の考えに渋面をつくったあと、お茶を一口飲んで情報屋としての真剣な表情を見せた。

 

「時間はかかるだろうな。どれだけ好条件だとしても、新興組織にそう簡単に鞍替えはできんだろう。裏の世界で生きぬくには、警戒心がないと始まらん。信用とは実績をどれだけ積み上げたかだしな。むしろお前の考える条件でさっさと鞍替えしてくる者など、余程切羽詰まったものか、命知らずの馬鹿か、善意を食い物にしようと虎視眈々と利益だけをかすめ取ろうとする者ばかりだろう」

「実直な人ほど、捨て駒にされないか、その組織が本当に自分を守ってくれるのかを見極めるからですよね」

「美味い条件ほど綿密な下調べがいる。お前にとっては善意かもしれんが、こちらばかりが得をする制度ばかりだと善意を食い物にする愚か者に足元を掬われるぞ」

「じゃあ、俺が信用できる人から勧誘を勧めるってやり方はどうでしょうか? 師匠が言うように、いきなり大きく門戸を開くとトラブルを招く可能性が高いなら、この人なら大丈夫って人から誘って少しずつ大きくしていくんです。実績を積み上げるのにどうせ時間がかかるなら、焦らずのんびり信用を築くのはどうでしょう」

 

 勢力の拡大を目指す組織だったら、こんな悠長なやり方はできなかっただろう。だけど、別に俺はこの組織で何かを競う気がそもそもない。お金だって赤字より黒字がいいけど、そこまで利益だって求めていない。自分でも思うけど、目標は大きいのに非常に消極的な組織なのだ。ある意味、後ろ盾の強さと潤沢な金銭があるからこそできる道楽と思われても仕方がない。

 

「……それならスカウトとも受け取れ、そこで実績を積めば箔もつくか」

「それでそのスカウトした人が、信頼できる人をまたスカウトしてって感じで推薦制にしていけば、責任の所在なんかもはっきりすると思うんだ。それでまずは少しずつ人を増やしていくって流れ」

「そうなるとその最初のスカウト相手が重要だな。誰か誘いたい者に心当たりはあるのか?」

「師匠」

「うん、……うん?」

「だから師匠」

 

 俺が当然って態度で指を指したら、ピキッと固まる師匠。いや、今の話の流れで指名されない訳がないじゃん。

 

「……チェンジで」

「やだ」

「そろそろ老後も考えんとならん年で…」

「福利厚生保険バッチリで衣食住も全て完璧に揃えるよ」

「私でなくても、もっと適任のやつを紹介して」

「そもそも俺が師匠や師匠の知り合いの人たちが、安心して働ける職場がつくりたいからで八割考えた提案だし」

「権力のある公私混同上等の弟子が怖いッ…!」

 

 だって、師匠と一緒にまた働きたかったから…。天涯孤独だっていう師匠の老後をお世話する気だって満々ですよ、俺。それだけ師匠には恩があるのだから。師匠はもらい過ぎだとよく言うけど、この世界に転生して一番最初に俺が全幅の信頼を預けることができた人なのだ。当時孤独だった俺にとって、背伸びせずにただ甘えられて、不透明な未来を導いてくれる大人は彼しかいなかった。

 

 俺が『灰色の魔術師(グラウ・ツァオベラー)』への所属を決められたのも、メフィスト様やラヴィニアへの信頼や強くなるためもあったけど、師匠がいつでも帰ってきていいと言ってくれたのも大きかったと思う。なので俺としては、そんな難しく考えてほしくないんだけどなぁー。マジで師匠に恩返ししたいだけなのに。少女漫画とかでお金持ちで権力持っているヒーローが、ヒロインを囲い込もうとする気持ちがちょっとわかったわ。

 

「とりあえず、考えてはみてよ。少なくとも、俺が一番信頼できる人は師匠なことに変わりはないし。師匠がスカウトする人なら俺も信頼できる」

「責任重大過ぎんか」

「情報屋は人を見極めることが大事だって教えてくれたじゃん。弟子の目を信じてほしいな」

 

 さっきも言ったけど、まずは神器所有者の保護が軌道にのってからの未来の話だ。組織としての実績をまずは積み上げていく黎明期である。師匠が今の仕事に誇りを持っていることも知っているから、俺の意思だけは先に伝えておきたかった。にこにこと笑う俺に、師匠は呆れた表情を浮かべながら大きく溜め息を吐いていた。

 

 

「……ところで、バカンスの話に戻るんですけど」

「この流れでとどめを刺しに来る弟子に恐怖しかない。そもそも私はそういうイベントは、その、苦手だと…」

「それはわかっているんですけど、ちょっとこれはマジで師匠じゃないと頼みづらくて…」

 

 俺の周りからレアキャラ扱いされるぐらい陰でひっそりとしたい師匠の気持ちはわかるけど、今回は俺の家族が関わることなのだ。師匠にはすでに俺の名前や家族のことについては話しているし、情報屋だから世間の流れにも詳しい。裏世界初心者の家族が疑問に思ったことを、表と裏の視点から説明もできる。危険なことは事前に察知して離れられるし、裏から一歩引いた立ち位置を確保して誘導もできるだろう。

 

「それに、家族にはお世話になった師匠を紹介したくて。俺の家族を安心して任せられるのは、やっぱり瓢稔師匠しかいないって思って…」

「……んんん」

「駄目ですか…?」

「……正直気は進まんが、師としてお前のご家族に挨拶もしないのは礼儀に反するのも事実。私はご家族の傍にいるだけでいいんだな? 極限まで陰を薄くしていてもいいんだな?」

「はい、俺は幹事として動くので、一般人である家族の傍にいてほしいです」

 

 さすがは義理堅い師匠、めっちゃ頭を抱えながら依頼を受けてくれた。もちろん、しっかり雇用と金銭契約は結びますよ。私みたいな草臥れたじじいに超常の存在達はきっと気にしない…とブツブツ言っているけど、俺の知り合いたちの中でレアキャラ扱いされて興味津々であることは言わないでおいてあげよう…と空気を読んだのであった。

 

 

 

――――――

 

 

 

「さてと、これで参加人数は確定かな。俺の知り合いを呼んだだけなのに、すげぇ人数だなぁ…」

「こうして見てみると圧巻としか言いようがないね…」

 

 参加者リストと日程表、無人島の地図をテーブルに広げながら、俺とお手伝いの正臣さんは必要な項目を一つずつチェックを入れていく。無人島の生態系を崩さないために食材は各自持ち込みになり、足りなかったら転移魔法で付け足すことはできるからそこまでシビアに考えなくてもいい。建設予定の旅館は、こんなに必要ないだろってぐらい広く、部屋数に困ることもなさそうだ。生活面をあまり考えなくていいのは、こちらとしても助かるな。

 

 あと大人達でそれぞれ仕事の役割分担をしてもらうことになり、子ども達にはキャンプファイヤーのお手伝いをしてもらう予定だ。分担された仕事以外は基本自由時間で、遊泳時間と森の探索時間と範囲だけは決めておく。必要な仕事ができたら、臨機応変に対応していくって感じでスケジュールを組んでいこう。

 

「正臣さん、遊泳時間がお昼だと悪魔の皆さんが厳しそうですかね?」

「んー、確かにそうかも。活動自体はできるけど、子ども達はあまり日に当たり過ぎると肌によくないと思う」

「なるほど、じゃあデュリオに天候操作してもらって遊泳中は曇りにしてもらおう」

「そういうところが奏太くんだよね…」

 

 せっかく便利な神滅具があるのに、使わないなんて勿体ない。デュリオがいれば天候の心配は一切しなくていいので、雲一つない満天の星空という夜景をつくり放題だ。夜はラヴィニアにお願いして、水上を凍らせてスケートリンクを設営予定だし、もしイングヴィルドが海を操る異能を使いこなせそうだったら、流れる海のプールとか、ウォータースライダーができれば子ども達も絶対に大はしゃぎだろう。

 

 ちなみに俺と正臣さんの男二人でこういう地道な作業をしている間、女性陣は現在買い物中である。ベリアル眷属とラヴィニアだけでなく、姫島一家や倉本家、紫藤さんの奥さんと大所帯で駒王町のショッピングモールへ出かけている。バカンス用の持ち物を買うためもあるが、今年用の水着を買いに行ったのは言うまでもない。男は黙って裏方作業を頑張りますよ。

 

「フレイヤ様からもおニューの水着は絶対よ! 課金も辞さない! ってすごい圧力のメールが届きましたしね」

「水着って課金要素だったんだ」

「添付メールに北欧の水着カタログを大量に送られて来た時はビビりましたけど」

「そりゃあ、みんな快く買い物に送り出すね」

 

 ラヴィニアに新しい水着を買いに行かせないと女神が降臨しかねなかったので、トップがきちんと仕事の調整をしてくれた。送られたカタログの中身が、原作のリアスさんや朱乃さんが着ていたようなヤバいやつばっかりだったので、このままだと俺が大変な目にあうと確信してクレーリアさん達真っ当な女性陣に買い物を任せたのだ。車の運転や荷物持ちはバラキエルさんに全部任せることになったが、きっと朱璃さんにむっつりだといじめられて喜んでいることだろう。

 

「悪魔側の部屋割りだけど、リアスちゃんと眷属候補のみんなは、グレモリー一家と同じ棟の方がいいのかな」

「あぁー、今回グレイフィアさんはオフ…。魔王の奥さんとして息子さんとバカンスに来る予定みたいだから、リアスちゃん達は子ども同士の部屋にしてあげた方がいいかも。前に義姉さんモードのグレイフィアさんはきびしいからってプルプルしていたし」

「メイドじゃないグレイフィアさんか…。それだとあんまりお仕事はお願いしない方がいいかな」

「サーゼクス様の眷属が何人かお手伝いに来てくれるみたいなので、そっちに色々お願いすることになりそうです。あと、グレモリー一家の隣はローゼンクロイツ一家にした方がいいかな。ミリキャスくんとリーベくんも、友達が傍にいた方が楽しめるだろうし」

 

 俺が知っているサーゼクス様の眷属であるベオウルフさんと炎駒さん以外にも、もう何人か護衛やお手伝いに来てくれる予定らしい。彼らには主に力仕事や、子ども達の見守りを頼むことになるだろう。夜は宴会場でお酒を飲んだりして楽しんでもらう予定だ。ちなみに北欧の神々と確執があるサーゼクス様の眷属の『戦車』であるスルト・セカンドさんは、自分がいたら面倒なことになるからと欠席らしい。彼も北欧には色々言いたいことがあっただろうに、こういうところは大人だなと思う。

 

 ちなみにセラフォルー様は妹と一緒の部屋で寝たいとのことだったので、そこは相部屋にしておく。仕事で行き帰りが多いアジュカ様とファルビウム様の部屋はこのあたりで、ディハウザーさんは子ども達の部屋からちょっと近いところにしよう。リアスちゃん達も憧れの皇帝に会えたら嬉しいだろうしね。それにクレーリアさんと正臣さん(バカップル)の部屋の近くにお義兄さんがいたら、どっちも居た堪れないだろうし…。

 

「海のライフセーバーは、バハムートさんとサーモン・キング一家がやってくれるから問題なし」

「伝説の神獣と手足の生えた魚類だらけの海か…」

「森の方は沖田さんが百鬼夜行で森の安全を見てくれるそうです」

「立派な肝試しスポットだね…」

 

 子ども達の安全には変えられないからね。そんなわけで、悪魔側の部屋割りを雑談しながら決めていく。俺が今回初めて会うのは、サーゼクス様の一部眷属とアガレス眷属ってことになるな。リアスちゃん達の予想通り、駒王町を管理する三人目はシーグヴァイラ・アガレスさんになったみたいだ。リアスちゃん達の友人であり、今回は駒王町の管理者としての顔合わせと俺への挨拶も兼ねている。

 

「アガレス大公家のお嬢さんか…。あのよく効く胃薬で有名なところだよね」

「名前だけは何故かめっちゃ聞きましたからね、アガレス家。もうなんかお馴染みな感覚なのに、初対面なの不思議だわ」

 

 皇帝のレーティングゲームストライキ事件から、ずっとお世話になっているからね。主に胃薬の。俺の知り合いはアガレス家の胃薬によくお世話になっているから、そこのお姫様とわかったらみんな日頃の感謝を伝えていそうである。うん、初登場に気後れすることなく疎外感は絶対に感じないから問題ないだろう。

 

「ふぅ…、悪魔側はこれで以上かな」

「こうしてみると、悪魔側の関係者が多いね。家同士の繋がりや眷属との関係とかも複雑だったよ」

「その分、堕天使側は楽ですよ。アザゼル先生と姫島一家、あと中等部の教員になる予定のベネムネさんだけですから」

 

 さすがに襲撃があったばかりの堕天使陣営は、シェムハザさん含めて仕事三昧らしい。バラキエルさんは家族サービスがあるから仕方がないとして、バカンスに出かけるアザゼル先生とベネムネさんに、幹部勢が「鬼! 悪魔! 魔法少女!」と言ってストライキを起こしかけたらしいけど。相変わらず賑やかだな、堕天使陣営…。

 

 なお、姫島朱雀も当然こっちの部屋を希望された。朱乃ちゃんも久しぶりに姉と一緒の布団で寝られるとウキウキしていて、朱璃さんとバラキエルさんは夫婦水入らずの時間を過ごしてもらうそうだ。朱乃ちゃんにはSMプレイは隠しているみたいなので、こっちも気づかないふりをしておく。せっかくのお休みなんだし、色々な意味で羽を伸ばしてもらいたいしね…。

 

「ヴァーリくんと美猴(びこう)くんも遊びに来るんだよね…。大丈夫なの、その『殿下』的な部分は?」

「為政者のみんなはすでに知っていることですし、次期聖書の神の後継者について知っている子ども達なら、ルシファーの血筋という秘匿情報が一つ増えても今更って感じだから大丈夫かなって」

「情報の洪水を流しまくって麻痺させただけじゃ…」

「それに、どうせ来年には赤龍帝である兵藤一誠くんと顔合わせをしてもらう予定でしたからね。せっかくみんな集まるので、ドライグをおっぱい賛歌で沈める計画も相談する予定です」

「うん、僕は何も聞かなかったことにするよ。だからその計画に僕を巻き込まないでね」

 

 アルビオンさんごめん、僕は力になれないようだ…。と頭痛が解消されたお祈りを正臣さんは天に捧げている。とりあえず、今回集まる子ども達ならヴァーくんのことを外に漏らすことはないだろうし、彼の性格的に隠すことなく堂々としているだろう。もし魔王の血筋に不安がっていたら、俺のヴァーくんメモリアル劇場はいつだって開幕準備はバッチリだ。魔王と天使長を説得させた実績は伊達じゃない。

 

「天界はミカエル様とガブリエル様のお二人の部屋があればいいみたい。ラファエル様とウリエル様、あと何人かの熾天使(セラフ)が顔見せには来るって言っていたかな」

「生涯でもお目にできるかわからない尊い方々の部屋割りを、元教会の戦士の僕が決めている事実に心がだいぶ麻痺してきているよ」

「慣れる慣れる。おじいちゃんは護衛も兼ねて、ミカエル様達の傍を希望していたからそこで。アーシアちゃんはトスカちゃん達と相部屋にして…。イリナちゃんは久々に家族水入らずの時間を過ごさせてあげたいし、紫藤一家はその隣にしておくかな。イザイヤくん達は緊張しているだろうし、デュリオの部屋も近くにしておこう」

 

 アーシアちゃんやイザイヤくん達からすれば、初めての為政者との顔合わせになるのだ。原作の様子を見れば、本物の天使を拝めただけで涙を流しながらお祈りして昇天しちゃいそうである。また悪魔や堕天使といったこれまで聖典で邪悪だとされていた種族に会うと考えれば、覚悟はしていてもガチガチなのは予想できた。初めての顔合わせの時は、ボスである俺が傍についてあげた方がいいだろう。

 

「畏れ多くてフリーズしちゃったら、神の奇跡(相棒)で治してあげるって言えば向こうも安心だよね」

「奏太くん逆。そっちの方が本来畏れ多いから」

 

 

 そんな風に駄弁りながら聖書陣営の部屋割りを決めていき、仏教陣営からは玄奘老師と美猴くんの保護者として初代様が来てくれるらしい。初代様には前回は大変ご迷惑をかけたので、高級なお酒はしっかり用意しておこう。そして直接ご本人は降臨できないが、雲外鏡と呼ばれる地獄と通信ができる鏡の妖怪を持参してくるようで、北欧との会談では釈迦如来様も話に参加されるそうだ。さすがに神話同士の首脳会談を代理だけに任せるわけにはいかないからとのことだ。

 

 次に北欧陣営はフレイヤ様が先に島に訪れて推し活を存分に楽しんでから会談の準備を行い、夜に魔方陣でアバンチュールをするという理由で主神たちを連れ出して来るようだ。部屋はサウナが完備されている施設の近くが良いとのことで、汗が流せる温泉も用意されている。部屋の装飾はそれぞれの神話に合わせないといけないから、そっちもあとで相談しないとな。

 

「そんで最後に、協会組はメフィスト様と俺、ラヴィニアとリーバンは個室で、正臣さんとクレーリアさんは同室でいいんだよね?」

「あはははっ…、うん。お願いします」

「師匠と家族の部屋もこっちの棟にして、魔法少女たちもこっちでいいか」

「……魔法少女って僕の記憶だと五百人ぐらいいなかったっけ?」

「さすがに全員呼んだら旅館の景観が終わるので、交代制で手伝いとバカンスを楽しんでもらう予定ですよ」

 

 いくら数百人は入れそうな規模の旅館でも、自重はしますよさすがに。ようやくまとまった部屋割りに、正臣さんと二人でふぅ…と息を吐き出す。あとはこれでいいのかの最終確認をして、スケジュールをしおりにしてみんなに配るだけだ。それにしても、イベントの計画ってこんなに大変だったんだなぁ…。これまでメフィスト様に丸投げしていたから、今後は少しずつお手伝いしていこう。

 

「楽しそうだね、奏太くん」

「へへっ、そうかも。こうして大人数でわいわいできるの初めてだからさ。せっかくなら、みんなも楽しんでほしいんだ」

 

 俺が干渉したことで変わった世界の流れ。それでも、それぞれ立場は違っても、こうして再びめぐり合わせることができたことに嬉しくなった。俺は肩を解すように伸びをしながら、もうすぐ訪れる賑やかな夏の始まりを感じるのであった。

 

 

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