えっ、シスコン魔王様とスイッチ姫みたいな力ですか? 作:のんのんびり
「大丈夫ですか、リアス姉さん…」
「ふふっ、大丈夫よ白音。私はグレモリー公爵の娘で、魔王の妹で、将来レーティングゲームのトップを目指す身だもの。伝説の魔鳥が私の未来の眷属の使い魔になるなんて光栄よ。例え、毎週人間界の海へ連れて行って遊ばせることになろうとも、魔王の眷属である大型魔獣の皆さんも週末に時々遊びに来ることになろうとも、週末のグレモリー邸が終末の魔物だらけの宴会場になろうとも、このリアス・グレモリーが全部受け止めてみせるわ!」
「これぞまさに終末の魔物ならぬ、週末のケモ達…」
「うぅ…、お母様とお父様になんて言えば…」
紅髪の少女がしくしくと顔を伏せ、白い猫耳の少女がよしよしと頭を撫でて慰めている。普通に可哀想で、何て声をかけたらいいのかわからない。うちの眷属候補がすみません…、と魔王の奥さんがタオルを渡してくれたので、イザイヤ達はゴシゴシと無心で頭を拭くしかない。いえいえ、こちらこそうちのボスがすみません…、と恐縮するしかなかった。この旅館に集まった者たちは、多種多様な種族や陣営の垣根を越えて一気に親近感がわいた瞬間であった。
そして、海で遊んでいた巨大獣達が伝説の魔物であり、今回紆余曲折あって山の向こう側で宴会することになったと説明され、もうどこからツッコめばいいのかわからない。集まった面子を考えれば、自分達の安全に関しては絶対に問題ないことだけは救いだろうか。
「あの巨大な鳥さんが、旧約聖書に載っている天空の魔鳥なのか…」
「それを使い魔にできた、ってとんでもないことだよね?」
「でも、不思議…。畏れよりも大変だなぁ…って感想しか出ない」
「毎週、海で遊ばせるだけで伝説の魔物と契約ができるとか普通に考えて破格なんだろうけど、あの光景を毎週見せられるんだよな」
「なんか、どんまい…」
ぷるぷると気丈に振舞うリアス・グレモリーに、心の中で同情する一同。異種族と人間が仲良くなれるのか、という心配は出会って五秒で解決した。心が一つになるって素晴らしい。色々あり過ぎて、すでに常識が麻痺してきた子ども達であった。そんな周りの空気は読まずに、友人を見つけたイリナは笑顔で挨拶をしに手を振った。
「やっほー! リアスさんに白音ちゃん、久しぶりだね!」
「あっ、イリナさん。お久しぶりです!」
「えッ、イリナっ!? ちょっ、ちょっと待ってちょうだい…! 白音、変な顔になっていないわよね?」
「大丈夫ですよ」
「ふぅー、よかった。……こほんっ、ごきげんようイリナ、そして天界や教会の皆さま方。魔王サーゼクス・ルシファーの妹にして、グレモリー公爵の娘であるリアス・グレモリーです。駒王町の管理を任される悪魔の代表の一人としてお見知りおきください」
イリナの登場に驚愕を浮かべ、その後ろにいるミカエル達を目にして、リアスは大慌てで姿勢を正すと貴族の令嬢モードで優雅に頭を下げた。バカンスらしい若葉色のワンピースを手にカーテシーを見せる紅髪のプリンセスにイザイヤ達はほぉ…と思わず息を吐く。先ほどまでの涙目で小鹿みたいに震えていた姿を見てしまっているので、切り替えの速度に思わず感心してしまった。彼女の目が「お願い、誤魔化されて!」と訴えているように感じるのは気のせいだと思っておこう。
教会で幼少期から悪だと教わり、敵対してきた貴族悪魔との初対面だが、紹介PVのビデオで見せた年相応の姿を思い出し、次に先ほどまでの様子を振り返った子ども達の顔には恐怖や緊張よりも、生暖かい笑みが浮かんでいた。初っ端から
「初めまして、リアス・グレモリーさん。私はミカエルです。このバカンスのために、悪魔の皆さんには多大な支援をいただいたと聞いて感謝しています。今後は良き隣人としてよろしくお願いしますね」
「ご丁寧にありがとうございます。この旅館を整えてくれたメイドたちに、ミカエル様のお言葉をしっかり伝えさせてもらいます。あと、この島の整備はほとんどお兄さまの眷属がやってくれたのですが…」
「それでは、後で改めてお礼をお伝えしましょう。今は難しそうなので…」
リアスとミカエルは無言で旅館の扉の方へ視線を向け、説教する魔王と説教される次期神の子、そしてそれをスルーする天使と部下の構図を思い出して、それ以上はお互いに触れないことにした。円滑なコミュニケーションには、空気を読むスキルも必要である。ミカエルとガブリエルは為政者である自分達が傍にいては、子ども達も交流しづらいだろうと先に部屋へと案内されていった。紫藤一家は大黒柱が現実にゲルっていたので奥さんが付き添い、旅館入り口には残った子ども達でにぎわいを見せていた。
「そういえば、他のみんなは?」
「私達以外は先に自分達の部屋へ向かったわ。私達はイングヴィルド……海の水を操っていた子ね、あの子と黒歌を待つために入口で待っていただけだから」
「主催者の兄さんが
『あぁ…』
リアスと白音は眷属候補の二人を、グレイフィアは夫を待つために待機していたと聞き、イリナたちは納得気味に頷く。確かにアレはどのぐらい時間がかかるかわからない。魔王の息子さんは久しぶりに会えた
「それでイリナ。そろそろ新しい仲間を紹介してくれるかしら」
「もちろん! 私と同じ教会の使者として、駒王町へ赴任することになったシスターのアーシアだよ。前は聖女の仕事をしていて、回復もすっごいんだから」
「あ、あの、初めまして。元聖女のアーシア・アルジェントと言います」
「初めまして、アーシア。私はリアス・グレモリーよ。ふふっ、そんなに恐縮しなくてもいいわ。同じ駒王町に赴任する仲間として、今後もよろしくね」
「はい、よろしくお願いします!」
イリナに背中を押されてあわあわしながらも、しっかり目を合わせて丁寧にお辞儀をするアーシアに、リアスは微笑まし気に声をかける。リアスと握手をしながら嬉しそうにはにかむアーシアに、悪魔に対する不安感は感じられない。悪魔は人間の感情に敏感だ。貴重な回復役というだけでなく、教会の人間でここまで異種族に対して好意的に接することができるのは珍しい。奏太が直々に彼女を推薦した訳だ、と感心した。
「それから、こっちのみんなが以前は聖剣計画に携わっていたけど、今はお兄ちゃんの組織の部下になった『
「あなた達がそうなのね。奏太さんに紹介PVを頼まれた時は驚いたけど、あの時のビデオが少しでもあなた達の為になったのなら嬉しいわ」
「いえいえ! こちらこそ私達のためにありがとうございました」
頭では大丈夫だとわかっていても、やはり緊張で少し声が上ずってしまったことに申し訳なさそうに頭を下げる。そんな恐縮する彼らに、リアスの隣でじっとしていた頭部に猫耳が生えた小柄な少女が、恐る恐るといった感じでお菓子の袋をハイッと差し出した。
「あの、私は白音です。えっと、お近づきのしるしです」
「えっ、ありがとう」
「私も、その、初めての人には緊張しちゃう気持ちはわかるので…。だから、みんなと少しずつ仲良くなれたらと思います」
「……そうですね。私達も少しずつ仲良くなっていきたいです」
お菓子を受け取るとささっとリアスの背後に隠れて、白い尻尾と一緒にこちらを覗く白音の言葉に、緊張の糸が少し解けたのがわかった。ボスも言っていたが、急いで交友関係を結ばなくてもいいのだ。これまでの生き方から急には変われなくても、自分達のペースで進めていけばいいのだから。
ほっこりした気持ちで白音からもらったお菓子の袋を見て、『マジカルフレーバー☆地獄の魔物詰め合わせセット♡』と書かれていることに気づいて全員が固まる。自信満々な顔で「私の一押しです」と、キラキラした目でこちらを見つめてくる小さな小猫に一切の悪意はない。あんな目で見つめられたら、食べるしかないじゃん。バカンス初日で二度目の覚悟を決めた子ども達であった。
「いやぁー、バカンス初日が説教から始まるとは思わなかったわ」
「ここにいる全員がこんな始まりになるなんて思ってなかったと思うよ」
「ところで、デュリオ。すんごい微妙そうな顔でお菓子を頬張っているけどそれは?」
「白音ちゃんからもらったお菓子。確かに美味しいんだけど、アラクネの毒の成分を魔法で美味しく大変身☆ ってパッケージにでかでかと書かれるとさ…」
「えっ、美味しいなら俺ももらう。……おぉ、確かに舌が痺れるようなパチパチとした刺激と甘さが癖になりそう。さすが白音ちゃんの選んだお菓子」
「えっへん」
自己紹介やお菓子を食べている間に無事に説教は終わったようで、旅館に辿り着いた奏太は見知った子ども達の集まりを見つけて声をかけた。興味津々で二個目のお菓子を食べだす奏太に、デュリオは「さすがカナたん…」とポリポリと一緒に口へ入れる。安全性が問題ないなら、美味しければよし! というボスの柔軟性に「僕達もいずれこの領域にいかないといけないのか…」とお菓子をポリポリしながら戦慄する子ども達であった。
「白音ー、お姉ちゃんもう正座で足が限界なのぉ。慰めてぇー」
「自業自得です。……もう、仕方がないですね」
「おかえり、イングヴィルド。朝からずっと神器の異能を使って大丈夫だったの?」
「ただいま、リアス。うん、総督さんに異能の使い方や意識の向け方、呼吸の整え方を教えてもらったからそんなに疲れなかったよ」
「海で異能を使ってまだ二日目なのに、もう使いこなしている…」
才能が怖い、と異能を使いこなすのに年単位必要だった奏太も別の意味で戦慄していた。
「そういえば、お兄さま達とアザゼル総督は?」
「ジズさん達が遊んだ後の海や砂浜が問題ないかチェックしてから来るってさ。ルシファー眷属の人たちがケモ達が遊んでも壊れないように魔力で防いでいてくれたから、そんなに時間はかからないと思うよ」
「じゃあ、皆さんが帰ってきたら、ついにバカンスの開始ですね」
興奮が隠しきれない様子で声を弾ませる白音の言葉に、イザイヤ達はふと顔を見合わせる。バカンスが始まれば、幹事である奏太が忙しくなるのは当然。それなら、今のうちに先ほど紫藤トウジから言われたことを相談するのが最適ではないかと考えた。今すぐ答えが欲しい訳ではないが、このバカンスの間に何かしら案を思いついてくれるかもしれない。
「あの、ボス…。急ぎではないんですけど、ちょっと相談にのってもらってもいいですか?」
「ん、別に構わないぞ。その様子的にみんなからの相談って感じかな」
「はい、実は――」
紫藤トウジから日本の学校へ留学する際に使用するファミリーネームについて話すと、「あぁー…」と納得気味に奏太は頷いた。確かに急いで決める必要はないが、大事な事でもある。今後日本で暮らすなら、日本人である奏太に相談したくなった気持ちも分かった。彼らからの相談を聞いたグレモリー眷属達やデュリオも、一緒に考えるように視線を宙へと向けた。
「そっか、名前は大事だよね。せっかくなら家族との繋がりが感じられるものがよさそうだけど…」
「日本で暮らすなら、漢字を使った方が馴染みやすいかしら。総司に聞いたら、いくつか案は出してくれそう」
「でも、語呂も大事じゃない? みんなで揃えるにしても、私だったら言いづらい名前は嫌よ」
「むぅー、ネーミングセンスだと、私はお力になれる気がしません」
「白音が名前をつけると、だいたいシロとかクロになるもんね。私も名前を決める時は、何となく直感でつけちゃいそうかな」
「でも、イングヴィルドの言う通り、こういうのはフィーリングも大事よ。これがいい! ってビビッとくる感覚も大切だと思うの」
「リアスの場合、直感に従い過ぎな部分もあるけどね…」
原作で自分の眷属を決める時も、レーティングゲームでトップを目指すという目標を決めながら、性能度外視でほぼ直感で決めていた豪運を思い出し、奏太は乾いた笑みを浮かべる。黒歌も肩をすくめて、呆れたように溜息をついていた。だが、出会ってまだ数分しか経っていない彼らのために一生懸命意見を交わす彼女達の姿に笑みがこぼれた。
奏太も考えを巡らせようと朱芭との修行で仏教用語を覚える際に、漢字の意味などを色々勉強させられたことを思い出す。それに懐かしくなりながら、ふとリアス・グレモリーが「聖剣計画の関係者」に「新しい名前をつける」ことに対して記憶が呼び起こされた。
『姫、この子が例の『
『ええ、名前は……ないようだけど』
奏太が思い出したのは、原作のイザイヤが死に、悪魔へ転生して間もない時の出来事。悪魔に転生した自分が受け入れられず、また悪魔であるリアスさんが信じられなくて、何度も脱走して「はぐれ悪魔」になりそうだった頃。その時の彼にとって「イザイヤ」という名は、実験体として処分された名前だからと決して名乗ることはしなかった。そんな彼を導くために呼ばれたのが沖田総司であり、彼らの師弟関係の始まりでもあった。
少しずつ折り合いをつけ、関係を築いていったことで、リアス・グレモリーと信頼を築いた彼に彼女が命の次に与えたものが「新しい名前」だった。だが原作とは違う結末を迎えたことで、この「名前」は存在しないものとなってしまったのだ。彼に気に入って欲しいと原作の彼女が一生懸命に考えた思い。奏太は原作とは違う対面となったイザイヤとリアスをゆっくりと見つめ、視線を向けられて不思議そうな顔をする二人に目を細めた。
「……
「ゆうき…?」
『――
原作の彼女が彼にこの名前を与えたいと思ったのは偶然かもしれない。だけど、これほど彼の――彼らの為の「新しい名前」に当てはまるものは他に思いつかなかった。
「『木』は、君たちが今後所属する『
「みんな一緒だった過去も、私達それぞれが向かう未来も表しているんだね」
「そして『祐』は、神の助けや幸福、助け合いの心を意味する漢字なんだ。これまでみんなは聖剣のために、神様の助けになるように頑張ってきた。そしてこれからは俺や相棒だけでなく、たくさんの人々を助けるために頑張ろうとしてくれている。他者へ手を差し出す優しさや勇気を持つみんなが、幸福に恵まれて欲しい。俺達もそのために助け合いたいって思っているから」
教会や聖剣への復讐のために強くなろうとしていた彼に、リアスさんが与えた新しい命と名前。彼女の言う通り、本当にフィーリングで決めただけなのかもしれない。それでも、リアスさんが木場祐斗さんの未来を願って籠めた気持ちが感じられた。
「祐木…、祐木イザイヤか」
「祐木トスカ。うん、響きは悪くないかも…?」
「そうね、私も何だか心が温かく感じたわ」
「えーと、とりあえず俺からの候補の一つってことで。決めるのはみんななんだし、さっきも言っていたけど急ぐ必要はないんだ。いろんな人に相談したり、話し合ってみたらいいよ」
「はい、ありがとうございます」
ぺこりと頭を下げた子ども達に、奏太はヘラッと笑って返事を返した。リアス達もそんな彼らのやり取りを見て、どこか嬉しそうに微笑んだ。すると、ひょこっと猫耳を覗かせた白音が、うーん…と唸るように可愛らしく小首を傾げた。
「リアス姉さん、そう言えば私達も来年には駒王町へ行くのですよね。黒歌姉さまとイングヴィルドさんも一緒に」
「えぇ、そのつもりよ」
「でも、私も姉さまもイングヴィルドさんも、決まったファミリーネームがありません」
「あっ、本当だ。じゃあ、いっそみんなでグレモリーにしちゃう?」
「えぇー、黒歌・グレモリーは何かちょっと…」
「なんで嫌そうなのっ! ちょっと黒歌、グレモリーに何か文句でもあるわけ!?」
微妙な顔をする黒歌に、頬を膨らませながらぷりぷりするリアス達の様子を見て、イザイヤ達は賑やかだなと笑ってしまった。実際、イングヴィルドはその血筋を隠すために「レヴィアタン」の名前を原作のように名乗ることができない。笑われてしまったことにリアスは小さく咳払いをすると、こっちもちゃんと考えておくわよとそっぽを向いた。
こうして、共通の話題に花を咲かせながら、新たな出会いの一歩を子ども達は踏み出したのであった。
――――――
「という訳で、お待ちかねの海水浴の時間到来!」
「おぉー。さっきまで週末の光景のインパクトでちゃんと見てなかったけど、確かに綺麗な海だねー」
「終末の魔物達が、みんなの中で週末のケモ達で定着しようとしてる…」
先ほどまでとは違って穏やかな海の様子に、クワッ…と欠伸をしながら使い魔のリンは感慨深そうに呟く。親しみがあった方がいいかもしれないが、伝説の魔物の扱いがそれでいいのかと、奏太はちょっと疑問に思った。でも、水遊びに狂喜乱舞するケモ達に威厳はなかったので大丈夫だろう。周りからの体裁を気にするタイプなら、さすがにあんなにハッチャけない(かわいそうなドラゴン参照)
ケモ達の宴によって朝の時間が押してしまった関係で、とりあえず堅苦しいのは抜きで、まずは海で遊びながら交流を深めようということになった。今回は為政者達による真面目な集まりではなく、プライベートなバカンスが目的なのだから、わざわざ始まりの挨拶のようなものは必要ない。奏太自身は幹事であり、今回のメンバーを招集した代表者であるため各陣営に挨拶回りはする予定だが、あとは各々好きに過ごしてもらって構わない想定だ。
一応の食事の時間といった大まかな予定や、為政者とその関係者以外には事後報告になるが北欧との会談を予定している時間帯は一部施設の利用を制限することになる。なお、女神フレイヤに関しては「会談の前に推し活に来るからね!」と事前に連絡をもらっていたので、そろそろこの無人島に到着してもおかしくないだろう。特に迎えは必要ないとのことだったが、北欧らしく転移魔方陣で来るのかもしれない。
「おっ、兄ちゃんだ。こんちはー、相変わらず色々やらかしてたなぁー」
「あっ、ヴァーとおサル」
「……俺っちが猿なのは間違ってねぇけど。孫悟空の末裔に向かってそのネーミングはどうなのよ、ちびっ子」
「リンの方が本来大きい。なのにリンをチビっていうおサルは頭が悪い」
「美猴、自分より背が低い相手を何でもかんでもチビと表現するのはやめた方がいいぞ」
「ヴァーリ! 俺っちの味方をしてくんねぇのかよ!?」
ガーンと効果音がつくように隣を見る友人に、ヴァーリは呆れたように肩を竦める。リンと美猴は初対面の頃からお互いにこんな調子であるため、すでに見慣れた光景であった。リンはベーと舌を出すが、それに奏太は溜め息を吐いてやり過ぎだと鼻先をツンツンと突く。それに不貞腐れながらも、リンは奏太に凭れかけるように砂浜に寝転んだ。困った使い魔と友人に、奏太とヴァーリは揃って溜め息を吐いた。
「まぁ、仕方がないよ美猴くん。ヴァーくんはお姉ちゃんっ子だからね」
「おい、その解釈はおかしいだろ」
「へぇ~。まぁ、確かに朱乃ねーちんの頼みもよく聞いてるもんな」
「うんうん、ヴァーはリンの弟みたいなもんだからねー」
「さっきまで喧嘩していたくせに、こういう時だけ意気投合するな!」
ニヤニヤと揶揄うように視線を合わせる美猴とリンに、ヴァーリは顔を赤くして毛を逆立てた。そんな友人とのやりとりを微笑まし気に携帯の動画に収める兄が一番の元凶だろう。弟の成長日記は現在進行形で更新中だった。
「そういえば、アルビオンは一緒じゃないのか?」
「ん、白龍皇なら
「あぁー、そういえばお薬もらっていたっけ。来年の春に一撃必殺する予定だから、老師も大詰めにかかっているんだなぁ…」
「……何か今、めっちゃ不穏なことを言わなかったっスか?」
口元を引きつらせる美猴に、奏太はニッコリ笑みを浮かべるとサササッと離れてそれ以上は危機察知が働いた。 初代の師である
「あっ、
「う、うん!」
「こら、リーベ。砂浜を走ると危ないから気を付けなさい」
「ゴォー」
「ははっ、子どもはやっぱり元気だね」
次に海辺に現れたのは、親子四人組だった。ローゼンクロイツ一家とグレモリー一家は、リーベ・ローゼンクロイツの治療以後、同じ年の息子を持つ父親同士で交流を深めていた。悪魔の出生率は低く、同世代の悪魔がいないことは多い。特にグレモリー公爵家と付き合いができるほどの爵位や実力がある家となると、ほぼリアスの世代で固まってしまっている。サーゼクスは身分や派閥で差別をするつもりはないが、現魔王の息子であるミリキャスの友人となれば利用しようとする者や旧魔王派の暗殺対象にされる可能性もある。そのため、下手に下位の者や後ろ盾のない者を懐に入れれば双方共に不幸になりかねない懸念もあった。
だが、リーベ・ローゼンクロイツは悪魔と人間の子であるが、レーティングゲームの第七位であるリュディガーの息子であり、彼の主である
リュディガーとしても、自身が転生悪魔であることや、息子が人間とのハーフであることを考えて息子の友人は慎重に選ばなくてはならないと考えていた。そんな二人の思惑が一致したのは当然ではあった。グレモリー家の情愛は有名であり、人間であろうと見下したりしない。そして、ローゼンクロイツ家は貴族の派閥から離れていて、父親の実力の高さや後ろ盾も十分。もちろん息子たちの相性が大切だが、一考する価値はあった。
そして、リーベとミリキャスは大人達の心配をよそに友人関係を築き、今回は初めてのお泊り会に大興奮していた。水着に着替えた父親たちは、海で遊びたいと急かす息子達に根負けして妻に一言告げて先に出てきたわけだ。パラソルの下で集まっていた奏太たちのところに集まると、リーベの独立具現型神器であるライナが初対面であるヴァーリと美猴を見つけ不思議そうに仮面に隠れた顔で首を傾げていた。
「こんにちは、リーベくん、ミリキャスくん。ライナも久しぶりだね」
「ゴォー」
「ふふっ、ライナは相変わらず
「ごきげんよう、奏太さん。すみません、もしかしてお話し中でしたか?」
トテトテと奏太に近づくとモフモフしやすいように自分から身を屈めてくれるライナに、奏太は嬉しそうに両手で柔らかな毛を丁寧に撫でだした。主を助けてくれたお礼なのか、奏太が一番喜ぶことを察知して自分から動くあたり献身の鏡である。そんなデレデレした主を見た使い魔のドラゴンは、無言で奏太の膝に乗るとべしべしと尻尾を叩き出す。無言の抗議に仕方がないなぁ…と名残惜しそうにライナの頭を撫で終わると、紅い鱗をヨシヨシと撫でだす。何だかんだでリンに甘い男性陣なのだった。
「大丈夫だよ、紹介するね。こっちの銀の髪の男の子がヴァーくんで、尻尾が生えた男の子が美猴くんだよ」
「そうなんですね、僕はミリキャス・グレモリーです。よろしくお願いします」
「リーベ・ローゼンクロイツです。よろしくお願いします、ヴァーくんさんと美猴さん!」
「ヴァーリ・ルシファーだ! お前は何で一々その呼び方で紹介するんだ!」
純粋な子ども達からの呼び方にシャー! と猫のように奏太へ怒りを見せたヴァーリだったが、「えっ…」と固まった紅髪の少年の驚愕した顔にふと怒りが霧散した。アザゼルから情勢について学んだついでに、悪魔貴族の家族構成も一応頭に入っている。その中で、グレモリー家で暮らす幼い少年が誰の息子なのかぐらい知っていた。ヴァーリは咳払いをすると、腕を組んで不敵な笑みを浮かべた。
「ルシファーって、父さまと同じ…」
「ふっ、そうだ。お前の父親が継いだルシファーの名。その初代の血を受け継ぐのがこの俺、ヴァーリ・ルシ――」
「僕には、お兄ちゃんがいたんですね……!」
『違うっ!』
「か、母さまに僕にお兄ちゃんがいたことを伝えなくちゃッ!」
「やめてくれ、ミリキャスッ! 違う、違うから! パパは浮気なんてしていないから! グレイフィア一筋だからね! ママに言ったら、パパ半殺しじゃ済まないことになるからお話を聞いてくれェェェッーー!!」
幼児の勘違いに、夫婦の危機を察知したサーゼクス・ルシファーが威厳を吹っ飛ばして息子に泣きつく。もう涙すら流していた。そんな現魔王を目の前で見ることになったヴァーリは、自分の言動が勘違いを引き起こしたことを知り、やっべという顔をしながら視線を彷徨わせる。違う、もっとこう、ただ格好よく決めたかっただけなのに…。こうして、今後「ルシファー」の名前を出す時はもう少し慎重にしよう、という配慮をヴァーリは学んだのであった。
「なるほど、父さまの「ルシファー」は魔王の象徴を表すための名前で、ヴァーリさんの「ルシファー」は前魔王様の家系の名前なんですね」
「理解してくれて本当によかったよ…」
「……勘違いさせて、すまない」
何とか幼児でもわかるように懇切丁寧に説明したおかげで、無事に誤解が解けたことに双方共にホッとする。そして、ようやく現魔王と旧魔王のルシファーの名前を冠する者が対峙する舞台ができたことに、ヴァーリは内心ウキウキしていた。別に今の魔王に対して敵意も恨みもない。彼の地位に対して未練も羨望もない。ただ、己の血に宿るルシファーの名を継いだ新たな魔王をこの目で見たかった。そして、自分という存在を目に焼き付けたかった。
「……それで、君がヴァーくんなんだね」
「あぁ、その通――」
ちょっと、待て。シリアスな雰囲気に似つかわしくない呼び方に、ヴァーリの頬が引きつった。さっきの奏太の紹介を聞いたからにしては、初対面なのにどこか言い慣れている気がする。しかも、初代ルシファーを名乗ったヴァーリのことを警戒することなく、何故か微笑ましそうに見てくるサーゼクスの態度に嫌な予感がした。
「待て。その、呼び方は…?」
「えっ、あぁ。前に奏太くんが見せてくれたヴァーくんメモリアルの印象が強すぎて、つい」
「…………」
「子どもであるキミに罪はないことは知っている。ただ現魔王として、初代魔王の曾孫であり、リリンの孫であり、神滅具である白龍皇を宿すキミのことを聞いた時は警戒したさ。ただ、……その後見せられた『ヴァーくんは良い子だから大丈夫理論』を証明するために三十分に凝縮された
「私達ということは、まさか他の魔王も?」
「うん…」
「まさか、天使も?」
「その、停戦協定に参加した全員で見たから…」
本気でショックを受けて呆然とするヴァーリの様子に、ちょっと気の毒になってきたサーゼクスは気まずげに頷く。ゆっくりと元凶に振り返ると、「ヴァーくんのために頑張ったぜ!」と親指を立てられた。殴りたい、この悪意無き笑顔。
その後、今回集まった有望な若手や強者を
「うわぁ、あれが海なんだ。海は塩辛いと聞いていますし、家で教えてもらった通りにお、泳げるかな…」
「なんだ、海は初めてか?」
「はい、冥界に海はなかったですから」
「僕も遠くから海を見たことはあるけど、入るのは初めて」
「……仕方がない。俺が見ておいてやる」
「本当ですか、ヴァーリ兄さま!」
「に、兄さまはやめろ…」
ミリキャスとリーベからの無垢な笑顔に、ヴァーリは素でたじろいだ。ちょっとした善意のつもりだったが、予想以上に子ども達に懐かれている気がする。おそらく父親が良い子と言っていたので、じゃあ大丈夫だと子どもなりに判断したのだろう。それにこれまで自分より年下がいなかったため、このように兄と呼ばれることは気恥ずかしかった。
サーゼクスとリュディガーに助けを求めるように視線を彷徨わせるが、二人は子ども達を止める様子はない。奏太が弟だと可愛がっていることも知っているが、直接この目で見て幼子にたじたじになっている様子に、本当に年相応の少年なのだと感じたのだ。さっきもミリキャスに向けて、誤解させたことを真摯に謝罪をしていたし、不遜な態度は見せるが悪い子ではないというのはわかった。
「せっかくの機会だ、お兄ちゃん達と一緒に遊んできなさい。パパたちはちゃんと見守っているからね」
「おい」
「えっ、達ってまさか俺も入っているっスか?」
「うーん、そうだなぁ。では、あとでうちの眷属の誰かと模擬戦をする権利をあげると言ったらどうだい?」
「……現ルシファー眷属との試合」
それは確かに魅力的だとヴァーリの目が好奇心に煌めいた。怒りを抑えて奏太に模擬戦を組ませる約束をさせたのも、今回は交流目的のバカンスであり、喧嘩を吹っ掛けるのはダメだと口酸っぱく言われたからだ。なお、約束を破ったら反省するまでラーメン禁止令を出されるので、ヴァーリにとってそれは死活問題だった。そのあたり、朱璃は本当に厳しい。だからこそ、ルシファー眷属と合法で戦えるチャンスがあるなら是非とも受けたかった。
「いいだろう。その権利のった」
「俺っちも現魔王の眷属とやれる、っていうなら面白そうだな。ガキどもと遊ぶだけでいいんだな」
「あぁ、でも子どもの体力についていくのはなかなか大変だよ?」
「はっ、ヴァーリのやつにスタミナで負けてからは、そっちも鍛えるようにしてるんだぜぇ」
そうと決まれば、と砂浜を走り出した子ども達と一匹に、大人達も見守るようにその様子を眺めた。そんな微笑ましい光景に、一人奏太は「あっ」と声を出した。
「……リーベくん、今海に入ろうとしていますよね」
「うん、してるね」
「一緒にライナもついてっていますよね」
「……いるね」
「海って水ですよね」
『
なお、このあと雷光味噌汁で鍛えられた半減能力で、ライナがヴァーリに無害な聖水を作れるまで修行のつもりで意地でも海から出なかったヴァーリなのであった。
このあと、