えっ、シスコン魔王様とスイッチ姫みたいな力ですか? 作:のんのんびり
「そうだ、キミはゲームは好きかい?」
「ゲームですか? はい、好きですけど」
いただいた資料を持ってきた封筒の中に入れ、落とさないように封を閉じた。ようやく緊張が解け、肩の力が抜けた気がする。そんな俺へ、ふと思いついたようにアジュカ様から声をかけられた。
「そうか、それはいいね。なら、俺がやっている『ゲーム』に参加してみないかな。まだ調整中なところも多いけど、意見をもらうには実際に参加している『ユーザー』に聞くのが一番だからね。ケータイ一つでできるよ?」
「えーと、すみません。俺はまだ携帯を持たせてもらっていないんです。小学生ですし。月額の料金設定とか家族割ができる機種とか他の機能設定とか、色々家族で話をしないといけませんし、親からは高校生になったら持ってもいいと言われているんです。裏関係は魔方陣で通信ができるので、今のところ必要性もあまり感じなくて。興味はあるんですけど、ごめんなさい…」
「いや、それなら仕方がない。断る理由として何かがズレているような気はするけど、趣味は楽しむものだからね。なら、また会える日を楽しみにするよ」
またって、そんな気軽に魔王様に会える日が来ちゃっていいんですか。そう思っていたら、魔方陣の描かれたカードのようなものを手渡された。どうしよう、ものすっごく見覚えがある。恐る恐る聞いてみたら、やっぱりメフィスト様から以前いただいたものと似たようなものだった。へぇー、これがアジュカ・ベルゼブブ様の文様なのか。なんてものを俺に渡してくるんですか。資料とか預かったし、なんかあった時に連絡手段があった方がいいのはわかるけど。
なんだか予定とは違って、とんでもないお方と出会ってしまったものだ。でも、ある意味で結果オーライだったってことかな。悪魔の駒に関する資料をいただけたし、アジュカ・ベルゼブブ様からの手紙ももらえた。内容はわからないけど、今回の件を打破できるきっかけの一つになれるかもしれないだろう。クレーリアさんやディハウザーさんを切り捨てたくない、ってアジュカ様は言ってくれたんだ。これほど、心強いことなんてない。
俺はもう一度魔王様に頭を下げ、封筒をリュックの中へ丁寧にしまった。まずはメフィスト様に、アジュカ様と出会ったことをしっかり報告しておかないとな。皇帝との話し合いの内容も突き詰めないと駄目だし、タンニーンさんが仲介を繋げてくれる日を待たないといけない。いつになってもいい様に、準備できることはやっておかないと駄目だろう。魔王様が魔方陣でここから転送してくれるそうなので、恐れ多いけど心遣いに感謝した。
「そういえば、このフロアへ侵入する時、わざわざ扉を槍で刺して能力を発動させていたね」
「えっ、はい。俺の槍は刺さないと概念的な消滅ができないので。魔術的な効果を消すには、それしか方法がないんです」
「……確か、キミ自身が概念的な効果を使う場合は槍で刺す必要はない、だったね。なら、これぐらいなら教えてもいいか」
アジュカ様は人差し指を走らせ、空中に魔方陣を展開した。それに驚く俺へ神器を取り出すように言われる。ビックリはしたけど、それに異を唱える理由も特にないので、素直に相棒を手のひらへ呼び出した。
「この魔法陣は、あの扉と同じような構成と魔力量にしてある。この魔法陣の構成の一部を、さっきと同じように消滅させてみるといい」
「いや、あの…、槍で刺すことができないと効果は発動できなくて」
「神器に自分の魔法力、またはオーラを纏わせてみるんだ。それができたら、魔方陣に槍の先端を当ててみろ」
魔法力やオーラを纏わす? 相変わらず自分のペースで唐突に行動されるけど、言われたとおりにとりあえずやってみるかと思った。俺は槍を握る手から、魔法力を神器に流す様に意識する。初めてやることだから時間がかかったけど、なんとかできたと思う。魔力ならイメージでできるんだろうけど、魔法力だと順序つけてやらないといけないから、難しいんだよな。練習がいりそうだ。
「えっと、できましたけど」
「神器の効果を発動させながら、俺の作った魔方陣へ魔法力ごと干渉させてみるといい」
「魔法力を干渉させる?」
「神器に意識を集中させることはできるだろう。要領は同じだ。神器の力を魔法力へ通して、対象に意識を浸食させるんだ。物理的に槍を刺すことができないのなら、概念的な事象を間にはさめばいい。実際に試してみるのが一番だろう」
そこまで言うと、アジュカ様は口を閉じてしまった。俺は魔法力を纏わせた神器を眺め、目の前の魔方陣を見据える。俺は今まで槍で物理的に刺せないものへ、概念的な効果を発動させることができなかった。魔法や魔方陣のような明確な形がないもの、水やスライムのような液体系のものなどだ。だから以前、冥界へ行ったときに現れたアメーバのような生物は、俺にとって相性の悪い相手となっていた。
俺自身に消滅の効果を及ぼすことは、槍に触れさえしていればできる。なら、俺の魔法力やオーラにだって力を使うことができるかもしれない。概念的な事象には、同じく概念的な事象をぶつければいい。両手で神器をしっかりと構え、槍の先端を空中で展開されている魔方陣に当てると同時に、自分の魔法力をアジュカ様の作った魔方陣へ流していった。
……これ、かなり難しい。できない訳じゃないとは思うけど。でも、他者の力が通ったものに自分の力を流すのって、かなりの集中力と体力がいるぞ。直接刺す時は神器の効果そのものを辿れるけど、概念的なものを纏って刺すと負荷をより感じる。魔方陣とは事象を起こす答えそのものである。その完成された答えに別のものが入り込んでくれば、抵抗されてしまって当然だろう。
相手の魔力が俺の力を跳ね返そうとする力が働いて、上手く俺の魔法力を魔方陣に流し込むことができない。水とか他者の力が働いていないものなら、もうちょっとやりやすいんだろうけど。難度の高さから徐々に息が上がっていき、脂汗が顎にまで伝わってきた。こんなにも抵抗感があったら、この魔方陣全体に干渉できるようになるのにどれだけかかることやら……。
「あれ、待てよ」
そうだ、俺の魔法力は今、俺の神器を通して流しているんだよな。神器の効果を魔法力に直接通せるなら、いっそのこと魔方陣からの抵抗そのものの概念を消しちゃえばいいじゃないか。完成された答えだからはじきとばそうとしてくるのなら、その答えを消滅させちゃって、俺の魔法力が入り込んだものをこの魔方陣の答えにしちゃえばいいんじゃないだろうか。そうすれば、スムーズに構成を消滅させることができるはずだ。
魔法とは計算である。超常現象やあらゆる事象を、数式や方程式といった法則を操って再現させる理の力。俺がさっきまでやっていたことは、『1+1=2』という数式に『1+1(+1)=2』と絶対にありえない式をねじ込もうとすることだ。そんなの抵抗されて当然だろう。だったら、答えを消しちゃえばいいのだ。『2』という答えを消して、俺の式が正解ってことにしちゃえば抵抗はなくなるはずだ。『1+1(+1)=(3)』という魔方陣にしてしまえば、いけるんじゃないか。
「
俺は神器から流し込んでいる魔法力に、消滅の効果を纏わせる。この魔方陣の答えを消し、俺の魔法力を一気に流し込むのだ。すると、かなりの魔法力が流れていってしまったけど、先ほどまであった抵抗感がなくなり、完全に魔方陣に俺の力を干渉させることができた。おぉ、できた! これでこの魔方陣のどの部分の構成も、概念消滅させることができるぞ!
「できました、アジュカ・ベルゼブブ様! すごい、本当にできちゃったよ。これで概念的なものや液体とかにも、魔法力を流したら効果を発動できるようになるんですね!」
「…………」
「……魔王様?」
「……構成を一部消すだけなら、そこだけに魔法力を干渉させて消滅させればすぐにできただろう。最初に扉の魔方陣の構成を消したように」
「あっ」
確かにそうだ。一部だけ消す「
「キミ、自分が今何をしたのかわかっているのかい」
「何って、この魔方陣に俺の魔法力を入れちゃっただけですよね。一部だけでよかったのに」
「構成を消すどころのレベルじゃなくて、キミはこの魔方陣を自分のものにしてしまった。つまり、奪ったんだよ。その魔方陣は答えを書き換えられたことによって、俺の魔法ではなくなった。俺なら奪い返せるが、他の者では答えを書き換えられてしまったらどうしようもないだろう。キミの魔法力が入ったこの形が、完成形となってしまったんだ」
「えーと、意味がよく?」
「俺が使う『
なるほど、疑似仙術とか疑似気配遮断みたいな感じで、アジュカ・ベルゼブブ様のような力を疑似的に使うことができちゃったってことか。
「――えっ? それ、できちゃっていいんですか」
「普通に考えれば、まずいだろう」
「……まずいんですか?」
「他者の術式を乗っ取れるからな。さらに答えを消して新しい方程式を作りだしているから、キミがこの概念消滅を極め、魔法使いとして実力をつければ、相手の術式を奪うだけでなく操ったり、形式を変更して使用することもできるようになるだろう。他にも色々応用ができそうな力だからな」
原作でアジュカ様が無双している時に、そんなことをやっていましたね。旧魔王派の魔力を、自分のもののように操作して倒していた。彼には魔力や魔法、異能といったあらゆる現象や事象を数式や方程式に当てはめて、操ることができるのだ。ウィザードタイプや異能者にとってみれば、天敵のようなお方であった。
「……俺、どうしたらいいですか?」
「…………」
「俺、本当にこんなつもりで、能力を発動させようだなんて全く考えていなくて。物理的に刺せないものにも概念消滅ができたら、便利だなーって程度の思いで、別に魔王様のようなことがしたかった訳じゃないんです。シ、シスコン魔王様みたいな神器だなぁー、とかネタ的な扱いをしていた、所為ですか…。俺がバカで考えなしで、アホな…所為でっ……」
「待て、泣くな。ここで泣かれても困る。おい、本気で泣き出すな。すまない、俺も見通しが甘かった。悪魔のために動いてくれる礼として、切っ掛けの一つを示すだけのつもりだったんだが…。わかった、悪いのは俺だ。悪かったのは全部こちらだ。ティッシュをやるから、鼻水を垂らすなっ」
妖艶でミステリアスと言われる超越者様に、鼻水を拭いてもらうことになるとは思っていませんでした。さらに溜息を吐きながら、頭が痛そうに項垂れるアジュカ・ベルゼブブ様というレアなものを見ることになるとも考えていなかった。貸していただいた高級そうなハンカチは、ちゃんと洗ってクリーニングにも出して、絶対にお返しさせてもらいます。本当にごめんなさい。ご迷惑をおかけしました。
しかも、「全部俺が悪い」と明言したからと、律義に今回の件をサポートしていただけることにもなった。やったよ、みんな。俺のバカな行動でアジュカ様の協力をしっかりいただけたよ。嬉しいんだけど、すごく悲しいよ。
ちなみに、メフィスト様に今回の事を報告したらポカンと口を開けられて、「アジュカくんがねぇ、ある意味さすがはカナくん…」と褒められたのか呆れられたのか、よくわからないお返事をもらった。タンニーンさんには確実に呆れられた。アザゼル先生に報告をしたら、腹を抱えて噎せるまで笑われた。いつかシェムハザさんに色々チクって、仕返ししようと思う。
こうして、俺のアジュカ・ベルゼブブ様の隠れ家訪問は、予定外に次ぐ予想外が重なって大変混沌な状態になりながらも、なんとか終わることができたのであった。
――――――
『今日のミルたん
その日、紫藤トウジは天使を見た。
「パパっ! ねぇ、見て見て!」
彼の目の前には、楽しそうに笑う愛娘。いつもは一つ括りにしている栗色の髪をツインテールにし、ひらりとミニスカートが舞う。やんちゃで遊びたい盛りな娘は、動きやすい服がいいと男の子が好むような服装を普段から着ていた。そのため、女の子らしい衣裳に身を包んだその姿は、親の贔屓目もあるが天使そのものである。紫藤トウジは
「えっと、似合うかな?」
「もちろんだよ、イリナちゃん!」
超特急で取ってきたカメラで何枚も写真を撮りながら、ちょっと恥ずかしそうに聞く娘にサムズアップで返事をする。白い帽子に純白の衣装。肩を露出するノースリーブに、二の腕まであるドレスグローブがきれいに映える。着慣れない衣裳を確認するように、紫藤イリナはクルクルと回った。
「えへへ、やったぁー! ミルたんさん、私も少女になれたよ!」
「娘さんが喜んでくれると思って、用意してよかったにょ。次はファンタジーパワーを集めて、少女パワーを強くしにいくんだにょ」
「ふぁんたじーぱわー? うーん、よくわからないけど、次はそれを集めたらいいんだね。パパっ、私もミルたんさんの悩みを一緒に考えて、パパのお手伝いをするからねっ!」
「牧師さん、ミルたんが少女になるための相談にまたくるにょ。よろしくお願いするにょ」
大好きなお父さんのために、お手伝いを頑張ろうとする健気な娘の姿とネコミミの巨漢。まさかのお揃いの衣装である。
『えっ、紫藤さん。お腹を壊したの?』
「お薬をもらったら大丈夫だそうにょ。でも心配にょ」
『……そっか、紫藤さん。八重垣さんを粛清するべきか、胃に穴が空くかもしれないぐらい悩んでいたんだな。報告ありがとう、ミルたん。俺、紫藤さんがこれ以上苦しまないように頑張るよ』
「ミルたんも頑張るにょ。牧師さんが元気になる様に、毎日教会へお祈りに行くにょ」
「ミルたんっていったい何者だったんだろう…。それにしても、イリナって女の子だったのか。知らなかった」
さらに、紫藤イリナによってミルたんのお悩み相談のお手伝いをすることになった兵藤一誠は、ミルたんにお姫様抱っこで搬送されていった突然倒れた幼馴染のパパを見ながら、イリナの本当の性別を十年早く知ることになったのであった。
第四章 始動(紫藤)編 ―終―