えっ、シスコン魔王様とスイッチ姫みたいな力ですか? 作:のんのんびり
第四十四話 パートナー
「はい、カナくん。結界魔法に関する資料なのです」
「ありがとう、ラヴィニア。その…、ごめんな。色々と」
「気にしていませんよ。むしろ私としては、もっと頼ってほしいと思っているのです。……私も、もっとお手伝いができたらいいのですが」
四大魔王のお一人であるアジュカ・ベルゼブブ様との邂逅から、数日が経過した。季節は十二月に入り、世間ではクリスマスや年末のことで盛り上がりを見せている時期だ。そしてここ、魔法使いたちのいる『灰色の魔術師』でも、様々な人種がいるので人によっては忙しそうに活動していたりする。
今回はちょうど休日だったことと、以前協会で頼んでいたものが仕上がったとのことで、俺は久しぶりにここへ足を踏み入れることになった。反撃の準備が始まってからはあまりこっちに来ることができなかったので、ラヴィニアとこうして顔をあわせるのも久しぶりだ。通信では何回もやり取りをしていたけど、やっぱり直接話せるとどこか気持ちがホッとする。たぶん、彼女の包み込んでくれるような雰囲気のおかげかもしれないな。
「十分頼りにさせてもらっているよ。俺の方こそ、個人的なことを手伝わせてしまっていて、正直申し訳ないんだけどね」
「メフィスト会長が関与している件です。私も無関係とは言えませんよ?」
「でも、ラヴィニアはラヴィニアで仕事が忙しいだろうし、『灰色の魔術師』が関与しているとばれたらまずい件だからこそこそするしかないしさ。やっぱり、負担をかけちゃっていると思う」
「むぅ…、カナくんは頑固なのです」
ジトッとしたラヴィニアの視線に、俺は乾いた笑みを返すしかない。それでも、今回の件に彼女をできれば関わらせたくない気持ちがある。俺はクレーリアさんたちと友達だけど、ラヴィニアにとっては会ったこともない相手だ。古き悪魔との因縁なんて、彼女には本当に関係ないことなのである。魔法の解析や相談相手になってもらっているだけで、俺としては十分心強い限りだ。
今回も俺が気配を消しながら探った、駒王町に張られている結界についての大まかな資料を作ってくれた。俺じゃ魔方陣や魔法についての知識が足りなくて、神器で干渉するのが難しい。構成を力技で適当に消去してしまうことはできても、それだと概念的な干渉ができないのだ。アジュカ様の隠れ家にあった魔方陣のように、ラヴィニアから事前に方程式の答えをもらっていないと俺ではどうしようもない。
アジュカ様から神器の新しい可能性を教えて……、うん、教えてもらった技。予想外な自爆をしてしまったり、頭を抱えさせてしまったりしたけど、自分のオーラや魔法力を媒介に使うことで魔法陣に干渉して、疑似『
わかっていたことだけど、俺の実力不足が本当に響く。できそうなことややりたいことがあっても、自力や意識が足りなくて、それが届かない。裏へ本格的に足を踏み入れてから、アザゼル先生やみんなのおかげでかなりできることは増えているんだけどな…。メフィスト様から「焦るな」って言われているし、仕方がないことともわかっている。原作のような急激な成長を望んではいけないし、きっとやっちゃいけない。強くなるって、難しいもんだなぁー。
「そういえば、メフィスト会長から聞きましたが、駒王町でご協力いただいている方がいると聞きました」
「えっ、あぁ、ミルたんのことか。ミルたんには教会の様子を伺ってもらっているんだ。最近は紫藤さんの胃の経過報告が多いけど」
「カナくんのお仕事仲間なんですよね。どんな方なのですか?」
「どんな…、えーとそのぉ……。ま、魔法少女に憧れている
「わぁ、じゃあ私と気が合いそうなのです!」
魔法少女(真)と魔法少女(壊)の邂逅。やめてくれ、それだけはやめてくれ。絵面が凄まじい。あとラヴィニア、『漢の娘』の単語に疑問を持って。俺が言いよどむところを察してほしい。でも彼女なら、ミルたんのことをなんだかんだで受け入れちゃいそうなのがあれだけど…。ラヴィニアって、相手が敵対者でない限り、誰に対しても自然体で接するからな。やっぱり、天然は強いです。
さて、ラヴィニアと会話をしながら、俺はこれまでの経緯を頭に巡らせる。彼女には簡単にだけど、これからのことをある程度は話しておくべきだろう。俺の考えだけでは足りないところがあるとわかったし、何か突破口になる手がかりはほしい。確か魔王様の隠れ家に行ったところまでは、話をしたと思う。でも、王の駒については彼女へ話すことができない。もしものとき、知っているというだけで命を狙われかねないからだ。
俺が王の駒について話したのは、クレーリアさんと八重垣さん、ルシャナさんの当事者三名。そして、メフィスト様とタンニーンさんだけだ。アザゼル先生に話すのは、メフィスト様に止められた。いくら友人で決して悪用することはないとわかっていても、それでも他組織の長なのだ。悪魔の問題に深入りさせるのは、双方ともに良いことはないと言われた。実際、今回の焦点はクレーリアさんたちを救うことだ。悪魔の問題を解決することじゃない。
それに関しては、先生もわかっているのか深く聞かれることはなかった。今回の件では、アザゼル先生はあくまで保険として動く。堕天使の組織は関係なく、個人としての好意なのだ。そのことで詳しく話せない俺に、「余計なことは気にせず、お前はやるべきことに集中しろ」と呆れたように言われた。アジュカ様の技を疑似再現しちゃったことに大笑いはされたけど、先生のさっぱりした性格はこういう時にすごいなと思う。
「とりあえず、アジュカ様から資料と手紙をもらったから、それをディハウザーさんに届けなくちゃいけない。手紙は何が書かれているのかわからないのが、ちょっと困っているけどね」
「資料には、そのクレーリアさんが狙われる訳が書かれているのですよね?」
「うん、ちょっと資料を見たけどそんな感じかな」
資料には悪魔の駒に関する製作の過程が載っていた。王の駒のことだけでなく、他の駒の事も載っていたのは、アジュカ様が言っていた工夫の一つなのだろう。あと、研究資料的な印象を受けたし、どこか悪魔の駒に関して批判的に書かれているような気もした。ディハウザーさんに資料は見せるけど、もしかしたら証拠として古き悪魔も目にする可能性がある。魔王が用意した物だと気づかれない為なのかもしれない。
メフィスト様からは、現政府と古き悪魔関係以外で王の駒を知り得ている可能性があるのは、旧魔王派に属する者ぐらいだろうと言っていた。さすがのバアル派の悪魔も、旧魔王派関連に首を突っ込んで藪を突きたくない。安全圏で変化を望まない彼らが、現政府に関して批判的なこの資料の出所に関して深入りしたくはないだろう。ディハウザーさんも反政府派になりかねないかと思ったが、そこは多少強引だが理由はなんとかなるだろうとのこと。他ならない皇帝の様子を探っていたのは彼らだ。旧魔王派と全く接触がないのは、彼らが一番よく知っている。
流れとしては、表向きこの資料はディハウザーさんを焚き付け、現政府の攻撃材料にするために旧魔王派っぽいヒトが用意したものとする。皇帝の性格なら、この資料の出どころを探るより、内容に注視するのは目に見えている。旧魔王派らしき誰かさんが、今回の粛清について偶然知り、駒の情報をディハウザーさんに流すことで現政府を混乱に貶めようと策謀した。ディハウザーさんの手に入れた資料は、あくまで彼を利用するための手段。とすることで、まんまと利用されたことに彼が怒られたりはするだろうけど、この資料を手に入れた経緯はうやむやにできる。なんせ彼は、利用されただけなので。
そのあたりの細かい調整は、アジュカ様がしてくれるだろうと思う。この資料を俺に渡して、皇帝に矛先がいかないようにするって言ったのは彼なんだし。旧魔王派の方々には、濡れ衣を被せちゃうことになるけど、実際に現政府を混乱させようと陰で色々やっているのは事実らしい。原作では冥界に引きこもっている的な感じだったけど、やっぱり確執は大きいんだな。最終的に、世界を敵に回す規模のテロ組織を作っちゃうのだから相当だろう。
「あっ、そうだ。いっそのこと、今回の件をきっかけにして、
「悪魔の政府について詳しくなくて、力になれないのですが……。あまり無茶はしないでくださいね、カナくん」
「しないしない。俺は人間だし、悪魔の問題に人間が深入りするのはよくないのはわかっているから」
ただ、旧魔王派は本当に俺にとっては死亡フラグの塊なんだよね。人間なんてなんとも思っていないだろうし、むしろ下等生物だと考えている。何よりも俺の持っている神器が、まんま彼らの復讐対象の親玉であるサーゼクス様とそっくりな能力と色なのだ。「なんかそれを見たら、イラッとした」で無礼打ちしてきそうな恐ろしい連中なのである。だから俺としては、ぜひともこのまま原作が始まる十年後まで、冥界に引きこもっていていただきたい。
悪魔の問題を解決するなんて俺にできる訳がないけど、こっちにとって、通り魔的死亡フラグである旧魔王派は抑えておいてほしい、という気持ちはある。完全に自分の都合だけど、悪魔側にとっても悪くない話だよね。原作通りになるのかはわからないが、テロ組織を運営するかもしれないヒト達なので。まぁ、今回の件が無事に終わったらアジュカ様にそれとなくお願いしておけばいいか。現政府と旧魔王派とのことは、知っている人は知っている事実なんだし。
ただあの人の場合、興味のないことにはめんどくさがりそうだから、あんまり期待はしないけど。こっちの確執は原作知識でしかよくわからないんだし、これぐらいの軽い考えでいいだろう。ぶっちゃけ、ただの思いつきだからな。
「カナくんは、これからどうするのですか?」
「とりあえず、まずはディハウザーさんとコンタクトを取らなきゃいけないかな。これが成功しないと、今までのことも水の泡だ。魔王様からの手紙の内容も気になるしね」
「近いうちに、タンニーンさんと冥界へ行くのですよね」
「うん、気配を消しながらタンニーンさんにくっ付いていくことになると思う。強大な龍王のオーラに紛れ込めば、上級クラス以上でも誤魔化せるみたいだ。メフィスト様や駒王町組には、魔王様から教えてもらった懸念は話している。俺が皇帝と話している間に、他の方法が見つかればいいんだけど……」
俺よりは確実に頭がいいヒト達なんだし、古き悪魔達が今回の件にこれ以上干渉しないように切れる手札を見つけてくれることを祈ろう。俺も皇帝と話しながら考えたり、彼とも相談したりするつもりだけど、俺って考えすぎる癖があるみたいだからな。それで良い方向に向かったことがあんまりない。
むしろ、軽く思いついた方法の方が上手くいったような気が――いやいやそれはない。きっとない。超越者様に鼻水を拭いてもらったあの事件を思い出せ。俺の精神衛生上のために、今はこれ以上考えるのはやめよう。悲しくなるから。
「そんな訳で、俺はしばらく冥界へ行くことになると思う。学校は病欠で休んで、家族には暗示をかけることになっちゃうけど。さすがに、緊急事態だしなぁ…」
「あっ、それでしたら私がやりますよ。カナくんの家の場所は知っていますから」
「えっ、わざわざラヴィニアに、そんなことのために日本へ来てもらう訳には……」
「パートナーの負担を減らすのは当然なのです。それに、カナくんは私の大切な友達です。友達を助けるためにカナくんが頑張っているのなら、私も
協会を二人で歩いていた足は、自然と止まることになる。ラヴィニアの真っ直ぐで意思の籠った言葉に、俺は否定の言葉をすぐに返せなかった。ラヴィニアの気持ちは、俺だってわかっているつもりではあるのだ。もし俺が彼女と逆の立場だったら、どんな些細な事でも助けになりたいって思っただろうから。だけど、彼女が今回の件に関わる必要性はなく、魔法使いの組織が表だって動いてはいけないのも事実である。
どんな小さな事でも協力させてほしい、という彼女の好意を俺は切り捨てるべきなのだろうか。彼女への迷惑と心配を考えるのなら、ここはそれでもしっかり断るべきだ。だけど、彼女の思いを切り捨てたくない、という矛盾した気持ちも……確かに俺の中にあった。
「正直こんなことになって、もう十分に迷惑をかけていると思っている。俺はパートナーだからこそ、ラヴィニアの負担になりたくないよ…」
「今年中にやるべきことは、全て終わらせています。メフィスト会長も、カナくんがいいって言ってくれたら、冬季休暇をとって友達の家へ遊びに行ってもいい、と前に言ってくれました」
「根回し早すぎないか」
俺の懸念事項をあっさりと解決してきた。いつの間に、メフィスト様からそんな許可をもらっていたんだろう。最近忙しそうにしていたから、やっぱり魔法使いも年末は大変なんだなー、と俺は考えていた。だけどまさか、彼女が忙しかった理由って、このための時間を作るためだったのか?
ジッとこちらを見つめてくる碧眼に、俺はラヴィニアの心の内に気づく。あっ、これは折れない。普段から天然でおっとりとしたラヴィニアだけど、一度やると決めたら折れる気配が全く感じられなくなるのだ。今回のことだって、もう完全に俺の逃げ道が塞がれている。俺がラヴィニアを協会へ引き留めるために使っていた理由を、彼女自身が消し飛ばしてしまった。
その事実にようやく理解が追いついたと同時に、彼女は一歩こちらへ近づいて、にっこりと優し気に笑う。威圧感も何もない、純粋で綺麗な笑みだ。思わず、見惚れてしまうほどに。だけど、……逆らえない何かがあった。
「カナくん、私はあなたを助けたい。どんな小さなことでもあなたの力になりたいのです。だから、私も一緒にカナくんの問題へ巻き込ませてください」
ストレートで、芯の籠った優しい願い。彼女の微笑みと合わさって、顔が赤くなってしまっているのが自分でもわかった。これらを意図せず、全て天然でやってくるから恐ろしい。俺、ラヴィニアには逆らえる気がしないです。
「お、お願いします…」
「はいなのです!」
そんな俺が彼女へ返せたのは、ヘタレ全開の了承の言葉だった。無理だよ、あの状態のラヴィニアの言葉を断る気概が、俺にある訳がないだろ。絶対に断ったら、すんごい悲しそうな顔をするよ。そんな顔を見るぐらいなら、頭を下げてお願いを受け入れるぐらいする。
嬉しそうなラヴィニアの様子に完全に絆されながら、俺は張っていた肩の力が抜けたのであった。
――――――
「ふぅー。早い内にお願いしていたから、結構早めにできたな」
それから、日本での予定や転移方法について話しながら、『灰色の魔術師』をラヴィニアと歩いていた俺は、予定していた期日よりも早めに仕上がった品物を無事に受け取ることができた。突然二つもお願いする形になったから忙しかっただろうに、ラヴィニアからの紹介だからと優先的に頑張ってくれたらしい。
作ってくれた美人魔女さんに「男の子なんだから、頑張りなさいよぉ」とニヤニヤしながら言われたけど、友達にクリスマスプレゼントを渡すだけで何を想像しているんだろう。小学生だぞ、俺たち。もう一個のプレゼントは、間違いなくリア充用だけど。
俺が頼んでおいたものは、以前八重垣さんと買い物へ行ったときに話していた魔道具である。八重垣さんも俺と一緒に魔道具を買うことにしたから、シンプルだけど可愛らしいネックレスをクレーリアさんへ選んでいた。
魔道具はなかなかいい値段がしたけど、八重垣さん用のプレゼントと金額を比べたら、俺の方はかなり安くしてもらったようだ。作ってくれた魔女さんに、今度改めてお礼を渡しに行こう。とりあえず、駒王町へまた行ったときに、八重垣さんにクレーリアさん用のプレゼントを渡すつもりである。
俺が頼んだプレゼントは、小学生が渡すものとしては高価すぎるかもしれないと思ったけど、ラヴィニアのためになるものをどうしても渡したかった。彼女には本当に感謝しているし、こんな死亡フラグ満載の世界で神滅具をもって生まれたんだ。些細な力にしかなれないかもしれないけど、友達を守ってくれたら嬉しいと思った。お金がまた貯まったら、今度は家族の分もお願いしてみようかな。
「はい、ラヴィニア。もしかしたら、今回の件でクリスマス当日に渡せないかもしれないから、ちょっと早いけどクリスマスプレゼントっていうことで」
「えっ、私にですか?」
「あぁー、雰囲気はないけどさ。俺なりに日頃の感謝を込めて」
俺は先ほどもらった紙袋へそれっぽく見える様に簡単にリボンをつけて、ラヴィニアに手渡した。女の子にこんな風にプレゼントを渡すのは初めてだから、ちょっと緊張する。彼女の性格なら受け取ってくれるのはわかっているけど、それとこれとはやっぱり違うのだ。羞恥から頬を掻く俺に、ラヴィニアは花が咲いたような満開の笑顔を見せてくれた。この笑顔が見られただけで、俺はもう満足です。
「ありがとうございます! ここで開けてみてもいいですか?」
「もちろん。一応、ラヴィニアの邪魔にならなさそうなアクセサリーを選んだつもりなんだけど…」
「あっ、ブレスレットなんですね。可愛いらしいのです」
紙袋から丁寧に取り出したプレゼントを見て、視線からつけてもいいか? と感じ取ったので頷いて返す。それにラヴィニアは手首にブレスレットをゆっくりと通し、右腕を宙へと掲げた。天井の明かりが反射して、飾りがきらきらと輝いているように見える。
ラヴィニアは嬉しそうに目を細めて、ギュッとブレスレットごと自分の腕を抱きしめた。彼女の好きな青や水色をベースに、女の子らしく桜色の優しいアクセントを選んでみたのだ。ラヴィニアの反応から、まぁ悪くないのかなとちょっと自信がついた。
「これ、
「うん、もらってくれると俺は嬉しいかな。お守り的な効果なんだけど、ブレスレットに水の魔方陣が刻んであって、ラヴィニアの身に害が起こりそうになったら発動する仕組みみたい」
「能動ではなく、受動タイプなのですね。相手からの攻撃を防ぐ、または緩和の効果があります。でもあまり使いすぎると、魔法力にブレスレットの耐久そのものが耐え切れなくなっちゃいそうです…」
ラヴィニアが氷の神器の使い手だからか、水の魔法がやっぱり相性として良いみたいだ。俺が選んだ付与効果は防御タイプで、そう何度も使えるものではない。本当に緊急的な危機に発動するようなもの。彼女の実力的に自分で防いだり、反撃できると思うけど、もしもの時用にと考えたのだ。八重垣さんのクレーリアさん用のプレゼントも、これと同じ効果だったりする。
さすがに何度も使えたり、威力の高い効果を付けるのは無理だった。だから、
「うーん、これは敵の攻撃を私が受ける訳にはいかなくなったのです。カナくんのプレゼントを壊したくないのですよ」
「いや、その気構えは嬉しいけど、自分の身を優先してくれよ。物は壊れても直せるけど、人はそういう訳にはいかないんだから」
「それは、わかっているのですが…。いえ、今言うべき言葉は違いますよね。カナくん。素敵なプレゼント、どうもありがとうございました」
「あぁ、どういたしまして」
ちょっと悩まし気な表情をしていたけど、すぐに切り替えたようで、改めてお礼を言われる。ラヴィニアに怪我がないのが一番だし、それでプレゼントが壊れたのなら俺自身は本望だと思う。ただ、彼女はそのあたりが気になるみたいだ。そこはちょっと失敗したかもしれない。確かに、人からもらったものが壊れたら罪悪感を感じちゃうか。俺はなかなかいいプレゼントだと思っていたんだけど、少し反省だな。ラヴィニアの言うとおり、彼女が危険な目にあわなければ問題ないことではあるんだけどさ。
俺に魔道具の製作とかができれば、壊れても気軽に渡せるんだけどな。そんなスキルは当然ないので、ないものねだりである。もし壊れてしまったら、修理に出すしかないだろうけど、費用ってやっぱり高いのだろうか。使い捨て型の魔道具は手ごろな値段で買える分、買い替えが激しい側面がある。継続的に何度も使える魔道具って、恐ろしく高額なのだ。俺のお小遣いが軽く、数十回以上文字通りとぶ。
多くの魔法使いが、金欠で悩む理由がよくわかるよ。研究費用的にも、自衛手段用にしても、お金が理不尽なほど簡単に消えていってしまうのだ。……あれ、消える?
「なぁ、ラヴィニア。もしかしてなんだけどさ。壊れた魔道具に相棒を突き刺して、『魔道具の損傷』を消滅させたら、使い捨ての魔道具を何度でも再利用して使えるようにならないかな? 身体の損傷は治せるんだし、魔方陣や物の損傷だっていけるかも」
「……魔道具に必要な魔力を再び補う必要はありそうですけど。その、カナくん…」
「んっ?」
「これは、思ったのですが。魔道具だけでなく、この世界には戦いによって壊れた高名な武器や道具が数多くあるのです。もし神器を刺すことで、それらを何度でも再利用できちゃったりしたら……」
「えーと、できちゃったりしたら……」
あぁー、うん。とりあえず、わかった。ラヴィニアの言いたいことが、よぉーくわかったよ。ごめんね、パートナーが本当に考えなし過ぎて。お互いになんとも言えないような笑みを顔に貼り付け、さっきまでの会話はとりあえず今はなし、ってことにしようと結論した。
後でメフィスト様やアザゼル先生に報告をして、この思いつきをどうしたらいいのかを聞くことで二人で納得する。結果的に丸投げになっちゃうけど、それがきっと一番良い方法だと思ったので。
それから理事長室に行って、挨拶や近況報告をした後。先ほど話していた道中での思いつきを伝えたら、「カナくん…」となんだか恒例になってきたような保護者の反応に、俺は相変わらず申し訳なさに頭を下げるのであった。