えっ、シスコン魔王様とスイッチ姫みたいな力ですか?   作:のんのんびり

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第四十七話 選択肢

 

 

 

 素早く封筒から便箋を取り出した皇帝は、書かれている内容を即座に目で追っていっている。夜も更けてきたため、空腹を感じた腹に俺は、晩御飯をかき込んでいっておく。人間でも食べられるものを選んでもらったので、大変おいしくいただけました。今は待っているだけで手持ち無沙汰だし、真剣な話が始まった時にお腹が空いて、腹の虫が鳴いたら恥ずかしいからな。何も間違ったことはしていない。

 

 それにしても、後で見せてもらうつもりではあるけど、魔王様の手紙には何が書かれているんだろうか。タンニーンさんはしばらく酒を嗜んだ後、腕を組んで静かに待っている。だけど視線はディハウザーさんに向けられているので、俺と同じように内容が気になるのだろう。

 

 それから数刻後、手紙を読み終えたディハウザーさんは、眉間に皺を寄せて何かを考え込んでいるようだった。彼の表情を見ても、新しい打開策が見つかったという感じではない。では、いったい何が書かれていたのだろうか。

 

「ディハウザーさん。アジュカ様はなんて……?」

「……現政府の実情と、今現時点でベルゼブブ様が手を差し伸べられる範囲。そして、後日行われる魔王様たちとバアル大王との会談の日時と場所だ」

「何? 魔王が大王と会談するなど、聞いたことがないぞ」

「秘密裏だそうです。どうやら、世間に表だって話せない内容らしい。そこへ行けば、バアル大王と直接話せ、魔王様を見届け人とすることで、今回の話を内輪に収めることができるかもしれないと」

 

 バアル大王と直接話せる機会っ! 確かに古き悪魔達の親玉と言えば、バアル大王が真っ先に思い浮かぶ。元七十二柱の悪魔の家柄の第一位という肩書きは、今でも冥界に強い影響力を持っている。暴走している古き悪魔達も、バアル大王の一声がかけられれば大人しくならざるを得ない。大王家がクレーリアさんを認めたのなら、周りは文句なんて言えないだろう。

 

 それにしても、世間に表だって話せなくて、魔王と大王家が話し合うような内容…。この時期的に、もしかして和平に関してだろうか。三大勢力の和平なんて大きなことが、原作みたいにいきなり決定、なんて普通はしないだろう。十年ぐらい前から、話し合われていてもおかしくない。

 

 大王というより、古き悪魔たちの許可を得るのに難航しても仕方がないと思う。大王自身は自分の考えは変えないけど、世界の情勢や悪魔側の損得を考えて動ける悪魔だ。しかし他のやつらは基本、変化を望まないめんどくさい性質である。自分の命と体裁をまず天秤にかけて、ようやく動くようなやつらなのだ。

 

 和平なんて、絶対にごねまくるだろう。現状の三竦み状態じゃやばい、とわかっていても堂々と愚痴と文句を言っていそうだ。きっと原作では、情勢を見たバアル大王が魔王様たちの案に了承したから黙っただけな気がする。まさかと思うけど、悪魔の政府側が旧魔王派の行動に気づけなかったり、和平に関する世間への行動が遅れていたりしたのは、古き悪魔達を説得するのがものすごく大変だったから……とかってないよな? 他に時間が割けなかったぐらいに。

 

 天使や堕天使側は、下っ端の暴走はあっても、基本トップがGO! を出したら組織全体で動けるところである。しかし、悪魔側はトップが許可を出しても、目の上のたんこぶが堂々と鎮座しているのだ。サーゼクス様たちは、いくら力があっても暴君ではない。間違いなく、頭の固い彼らへ向け、諦めずに何度も話し合いをしたのだろう。

 

 そう考えると、……今さらながら、原作の魔王様たちって和平を結ぶためにものすごく頑張っていたんじゃないのか? それこそ、真っ白になるぐらいに。他を疎かにしていい理由にはならないけど、それでもちょっと同情したぞ。アジュカ様にハンカチを返すときに、渡す予定の菓子折りを奮発しよう。

 

 原作ではさらっと流されていたけど、古き悪魔たち(あいつら)に原作のような和平を認めさせたって、よっぽどだと人間の俺でさえわかる。悪魔陣営のめんどくささが、すごいなぁ…。俺、冥界関係には関わりたくないや。今回の件が終わったら、俺は人間界でラヴィニアたちとのんびり暮らしていくんだぁ……。

 

 

 ちょっと遠い目になってしまったけど、話を戻そう。なんでも魔王様たちが話し合う場所は、アウロスと呼ばれる所らしい。ここ、空中都市アグレアスの目と鼻の先にある、アガレス領の町だ。うろ覚えだけど、そこはソーナさんの夢の学校第一号に選ばれた場所だったような気がする。そこってあんまり、有名ってほどの場所ではないんだよね。一部の人には、知られている場所らしいけど。

 

 原作でリアスさんたちが、若手としての注目度から『若手四王(ルーキーズ・フォー)』と呼ばれていたけど、その内の一人にシーグヴァイラ・アガレスさんが選ばれていたはずだ。俺が知っている原作知識には、彼女はあまり出てきていないため、どういう人なのかわからない。生真面目そうなヒトらしいし、ソーナさんと似たタイプなのだろうか。ちょっと気になるな。

 

 俺がアガレス大公家について、知っていることは少ない。確か、現政府と古き悪魔達の衝突や、数多くある悪魔の派閥をまとめるという、恐ろしく胃に来そうな中間管理職の役目を担う家だった、ということぐらいである。自由奔放な悪魔の中にも、真面目なシェムハザさんポジションが存在するとは…。みんな、もうちょっと労わってあげようよ……。まぁ、そういう緩衝材的な役割をしているアガレス領だからこそ、今回の密談の場所にも選ばれたのだと思う。

 

 年末の試合の調整で、皇帝はしばらくアグレアスに滞在するし、偶然アウロスに足を運ぶこともあり得るだろう。あそこは観光用の町ではない、のどかで農耕を主に行っている田舎町だ。皇帝が試合前の休息に訪れることもあるだろうし、その時にアガレス大公に挨拶へ行くことだってあるかもしれない。まぁ、色々理由は作らないといけないかもしれないけど、バアル大王と魔王様たちの居場所がわかっているというのは重要な情報だ。アジュカ様もそこにいるだろうし、皇帝のフォローを陰ながらしてくれるかもしれない。

 

 

「例えばそこで、大王様に駒のことを言って、魔王様たちにクレーリアさんを助けてほしい、って直接お願いしたりするのは駄目ですかね?」

「無理だな。忘れているかもしれんが、クレーリア・ベリアルは、聖職者との恋愛という禁忌を犯している。現政府の実情では、魔王としてそれを許容するわけにはいかん」

「悪魔のトップが、敵対組織の相手を堂々と認める訳にはいかないからか…」

「さらに言えば、駒のこともそうだ。内乱を引き起こしかねない問題で大王を脅すなど、魔王としても許容できん。サーゼクス・ルシファーの性格上、粛清は取りやめさせられるだろう。しかし、クレーリア・ベリアルの自由はなくなる。冥界に連れ戻されるか、悪ければ犯罪者として追放といったところか」

「そんな……」

 

 それじゃあ、クレーリアさんの命は助かっても、八重垣さんと離れ離れにされるってことじゃないか。確かにこのまま駒王町の管理者としてはいられないかもしれない。冥界でディハウザーさんの傍にいれば、監視はされるかもしれないけど生き残ることはできるかもしれない。そこで、和平まで待つって方法もあるかもしれないけどさ……。

 

 また追放を選んで、八重垣さんと一緒にいる方法もあるけど、教会が黙っていないと思う。はぐれ悪魔の末路は悲惨なものばかりだ。後ろ盾のないまま、三大勢力から狙われることになってしまう。

 

 そうなったら、『灰色の魔術師』がそんな彼らに手を差し伸べることはできないし、保険としてお願いしていたアザゼル先生の力を借りて、裏でひっそりと暮らしてもらうしかなくなるだろう。二人共追放という形で結ばれるかもしれないけど、はぐれへの世間の対応は冷たい。姫島朱璃さんのように、ずっと付け狙われる可能性もあるだろう。命を狙われ続ける恐怖におびえながら、過ごすことになってしまう。

 

 ……そうだ。そうなるってわかっていたから、俺は古き悪魔たちにクレーリアさんを諦めてもらうように落としどころをずっと考えていたんだ。しかし、大王と直接話をするには、魔王様も認める内容でなければならなくなる。『王』の駒の危険性は、魔王であるアジュカ様が否定的な意見を述べていた。つまり、古き悪魔へ『駒』を使った交渉はできないという訳だ。アジュカ様は、魔王だ。魔王である彼が危惧した内容そのままで話し合いに臨むなど、愚策でしかない。別の交渉のカードが必要になるということである。

 

 俺はクレーリアさんたちを救いたい。命を助けられるだけで、十分なのかもしれないこともわかっている。それでも、友達が幸せに笑って生きてほしい、という願いを俺は捨てたくない。俺は生きているだけで、自分が幸せだとは思わない。みんなが傍にいて、笑っていてくれるから、幸せだと感じるんだ。そのために足掻いてきたんだから。

 

「古き悪魔たちへの交渉に、『駒』は使えないか…。というか、それだと魔王様から頑張ってもらってきた、この『王』の駒の資料の使い道が、ディハウザーさんに駒の存在を伝えるぐらいしか役目がないってことじゃ……」

「だろうな。アジュカ・ベルゼブブもそれがわかっていたから、お前に資料を渡せたのだろう」

 

 タンニーンさんからの肯定の言葉に、ガクッと肩が落ちる。確かに、皇帝に『王』の駒を認知してもらうことはできたけど、それ以上にこれが爆弾すぎて下手に使えない。冥界の民に知られたら、暴動必至。現在の他勢力に知られたら、悪魔社会が大変なことになる。関係ないヒトたちに知られる訳にはいかないのだ。

 

 うーん、『王』の駒という持ち札。彼らに見せる以外で、本当に使い道はないのだろうか?

 

 

 

「……となると、選択肢は二つという訳か」

「えぇ、そうなりますね」

「タンニーンさん? ディハウザーさんも。選択って何が……」

「先ほども話したが、クレーリア・ベリアルの命を救うことだけなら今でもできるだろう。しかしその場合、彼女には監禁か追放、または表向き死んでもらうといった方法をとってもらう他ない。古き悪魔たちの目から逃れるためにはな」

 

 このまま彼らへの交渉カードが見つからなければ、そうせざるを得ない選択肢。俺が最初に考えていた、十年後の和平まで隠れ住んでもらうという選択もできなくはないだろう。だけど、できればそんな選択肢を選びたくはない。

 

「……それじゃあ、もう一つの選択肢は?」

「古き悪魔たちに交渉できる材料を渡し、クレーリアを見逃してもらう。魔王様たちにはその証人となってもらうようにするんだ。裏取引としてね」

「『駒』以外に、交渉できる材料…」

「私の座っている、皇帝の椅子さ」

 

 一瞬、息が止まる。目を見開く俺の反応に、皇帝は仕方がなさそうに笑った。

 

「私もゲームの闇に染まるという手もあるが、それは私の築きあげてきた誇り(今まで)が許せない。ならば、近いうちに混乱少なく引退を宣言し、第一位の座を空位にする。ランキングトップの変わらぬ現状が続いていたレーティングゲームに、訪れた新たなる風。老獪共は喜々として宣伝し、競わせ、利益を得ていくことだろう」

「駄目です。そんなの、駄目ですよっ! そんなことをしたら、クレーリアさんだってッ……!」

「だが、これが最も被害が少ない。クレーリアのこれからか、私が皇帝の座から降りるか。その二つの選択肢だけが残されている。そしてその答えを、私はもう得ている」

 

 そう言って、優しい色を宿した灰色の瞳のまま、クレーリアさんが書いた手紙を彼は胸に抱く。彼の言葉に、声がでなかった。俺は、彼の覚悟を知っている。だってこのヒトは、十年後の未来で自分の全てを捨ててでも、クレーリアさんのために復讐できるヒトだったから。

 

 だったら、今。自分が築き上げてきたものを捨てることで、クレーリアさんを救える選択肢が彼の目の前にあったとしたら――

 

 

「クレーリアか、私か。どちらかしか道がないのなら、私が進もう。憧れであったプロプレイヤーとなり、ゲームの内容を高め合い、そしてその頂点に立つことができた。私はもう十分に、レーティングゲームを楽しんださ」

 

 違う。俺の願いは、こんな選択肢じゃない。

 

「魔王様と大王様の会談に赴き、大王様へ私の椅子をカードに古き悪魔達を抑えてもらう。魔王様たちも、それが最も被害が少ない方法であるとご理解いただけるだろう。ベルゼブブ様もいらっしゃることだしな。八重垣さんのことも、バアル派から教会と話をつけてもらわなければならない。……クレーリアには、私から話をしなければな」

 

 俺は…、俺はこんな選択肢を用意するために……、ディハウザーさんに会いに来たんじゃない。確かに、彼を頼りに俺はここまで来た。他力本願で、情けない方法だとしても、みんなが笑っていられる未来をつくりだせる可能性があったから頑張ってきたんだ。クレーリアさんと八重垣さんが一緒にいられて、眷属のみんなも笑っていられて、皇帝も王者として頑張っていられて……。

 

 そんなの、夢物語だって本当はわかっている。皇帝一人で、古き悪魔たちに立ち向かい続けるなんて不可能だ。俺の願いが、ただのわがままなことも知っている。現実を見たくなくて、理想ばかり考えている大馬鹿だとも思う。それでも――

 

 

『お前一人では、到底届かなかっただろう。だが、お前の行動が周りを動かした。それは、お前の力だ。お前自身が引き寄せた、夢物語を現実へと繋げるために集めた結晶たちであろう』

 

 そうだ、思い出せよ。今この瞬間だって、俺にとっては夢物語だったんだ。それでも、こうしてちゃんと現実になったじゃないか。俺一人じゃどうしようもなかった夢が、みんなと力を合わせることで叶えることができたんだろうがァッ!

 

「一人じゃ、……叶えられない。そうだ、そんなの当たり前のことじゃないか」

 

 俺一人じゃ足りなかったように、皇帝も一人じゃ……足りないんだ。夢物語を現実へと繋げるために、必要な結晶が。きっとあるはずなんだ。こんな俺にだって集めることができた結晶。皇帝である、ディハウザーさんだからこそ使える手札が、まだきっとあるはずだっ!

 

 アジュカ様は言っていた。今のままじゃ、古き悪魔達へ向ける引き金にはならないって。駒のことをばらすだけなら、ただ冥界を混乱させるだけの血を流すだけの方法でしかない。だから、そうならないために、もっとみんなで考えようと思ってここへ来たんだろう。ここで止まってしまったら、本当に終わってしまう。

 

 考えろ、考えるんだ。ここで頭を働かせなくてどうする。『王』の駒を使って、古き悪魔達へ引き金を引くことはできない。彼らと交渉するには、それこそブラフだと悟られず、むしろ本当に撃っちゃってもいいような弾丸を籠めなくてはならないのだ。皇帝側に益があり、古き悪魔達にとって損となるカードが。

 

 だけどその籠める弾には、冥界の民や魔王様を納得させる必要がある。そうじゃなきゃ、民の暴動につながってしまう恐れから、魔王が止めざるを得なくなるからだ。つまり、魔王にも益があるか、無関心を貫けるものでなくてはならない。

 

 さらには、皇帝と上層部が敵対関係になれば、今後の彼への圧力もあるだろう。この交渉の後も、彼らがディハウザーさんに下手に干渉できないぐらいの影響力が必要になる。つまり、今後も上層部と戦えるだけの何かしらの力がいるということだ。

 

 

 ……あぁー、もうなんなんだよ、本当に! なんでこんなにも、めんどくさいことになるんだよ。だいたい、別に皇帝は悪いこと何もしていないじゃん! 頑張って手に入れた皇帝の椅子を、ただ明け渡すとか絶対におかしいよ。むしろ、魔王様からレーティングゲームの運営権を強奪したり、家のために八百長をしたり、不正で裏金をもらっていたり、駒でズルしたりしている古き悪魔(あいつら)の方がどう考えても悪党じゃないか!? 魔王様たちだって本当は、この現状をなんとかしたいと考えているだろうに…。

 

 立ち位置的には、ディハウザーさんが絶対にヒーローだよ。巨悪に立ち向かう王者、なんて響きとかカッコよくない? 今だって、すごい人気なんだぞ。冥界の子どもたちから、さらに大人気になること間違いなしだ。それこそ民衆だって、皇帝とあいつら、どっちの意見が正しいのかなんて、こんな風に提示されたら考えなくてもすぐにわかることで――

 

 

「……あれ、ちょっと待てよ」

 

 思わず、声が漏れた。クレーリアさんのこと、上層部のこと、魔王のこと、皇帝のこと、冥界のこと。全部が全部複雑に絡み合いすぎて、もうどうしようもないんじゃないかって考えていたけど、……本当にそうなのだろうか。

 

 もしかして、難しく考えすぎる必要なんてないんじゃないのか? さっき俺が考えた通り、レーティングゲームの現状をみんなに正しく伝えたらよくないか。そして、ゲームに対して失望ではなく、改善へと向けるような希望を持たせればどうだろう。

 

 レーティングゲームは、悪魔の地位や爵位や名誉、そして興奮や希望や笑顔にも繋がる――『夢』そのものだ。決して、上層部のための遊び場なんかじゃない。だから問題は、その伝え方と方向性なだけなんじゃないのか?

 

 皇帝である、ディハウザー・ベリアルだからこそ持つ手札。あいつらには真似できない方法。それは、……彼の実績だ。そして、冥界のファンのみんなと築き上げてきた今までがある。あいつらが軽視していた皇帝の力。それが間違いであったと、存分に身をもって味わわせてやったらいいんじゃないだろうか。

 

「……赤龍帝は、王道。白龍皇は、覇道。なら、皇帝は……正道を」

 

 クレーリアさんを救うことが、俺たちの目的だ。そして、そのためにはレーティングゲームの闇を作っている古き悪魔をなんとかしなくちゃいけない。聖職者との恋愛をしている悪魔を助ける、という目的自体は冥界的には褒められたものではないだろう。だけど、手段だけならどうだ。レーティングゲームの闇を晴れさせるという行為自体は、冥界の社会的には何も間違っていないのだ。

 

 原作では、突然の暴露と大量のズルの発覚によって、暴動へとつながろうとしていた。だけど考えてみれば、何もいきなり『(ニトロ)』を冥界にぶち込む必要なんてないじゃん。それよりも、もっとぶち込みやすい爆弾がいくつもあるじゃないか。爆弾に驚いても、暴走しない程度のものを。そして、その爆弾をぶち込んで原作みたいに放置なんてせず、レーティングゲームの王者としての正統性をもって、主導すればどうだろうか。

 

 レーティングゲームは、悪魔間で大人気のスポーツで、当然多くのメディアが関係している。その皇帝であり人気のある彼は、それこそ一誠たちのように映画や様々なテレビ番組に出演しまくっていた。つまり、彼個人のメディアとの伝手を持っている。おそらくあいつらの子飼いがやっているメディアもあるだろうが、先手必勝で引っ掻き回せば、あいつらの介入を遅らせることもできるかもしれない。

 

 現悪魔の社会は、人間的な価値観を持った悪魔が数多くなっている。合理的な考え方ではなく、感情を伴った考え方をするのだ。だからこの世界では、正義の魔法少女である『マジカル☆レヴィアたん』が人気となり、『おっぱいドラゴン』がヒーローになれた。

 

 どんなにテロ組織や、クリフォトに冥界が襲撃されようとも、冥界のヒトたちは『おっぱいドラゴン』を信じて声援を送り続けたじゃないか。ある意味流されやすいということなのかもしれないけど、それでもその思いが主人公を強くした。冥界のヒトたちの思いは、決して軽い訳じゃない。力がない訳じゃないんだ。だったら、彼らの力を暴動へではなく、正しい方向に導くことができればどうだろう。

 

 その力は全て、ディハウザー・ベリアル(ヒーロー)のものになるんじゃないのか?

 

 

「ディハウザーさん、タンニーンさん! トッププレイヤーであるお二人に、ちょっとお聞きしたいことがあるんですけど」

「カナタくん?」

「……嫌な予感がふつふつとするが、どうした」

「レーティングゲームのプロって、……お給料ってちゃんと出ます? 保障ってしっかりしていますか?」

『はぁっ?』

 

 やっぱりこの二人、仲良しなのかもしれない。というか、真面目に質問をしているんだから、俺の質問に答えてほしいんだけど。なんで二人して、そんな呆れたような目で見てくるんですか。泣きますよ。

 

 思い出すのは、原作でリアスさんがロスヴァイセさんを買収していた場面である。保険金がしっかりと設定されていて、さらに掛け捨てではない。基本賃金に戦乙女が戦慄していた。それぐらい、悪魔の年金や健康保険に魅了されていたのだ。それらは、人の欲望を刺激する悪魔らしくもあり、同時に冥界の仕事関係は人間界のような側面を持っている可能性が高い。もしそうなら、たぶんアレもOKなはずだ。周りへのインパクトもあって、一応正統性のある理由にもなると思う。

 

 正直、俺が考えた方法で上手くいくかどうかなんてわからない。ぶっちゃけ運の要素が高いし、完全なる思いつきだ。だけど、クレーリアさんか、ディハウザーさんのどちらかが犠牲になるなんて、俺はごめんである。だったら、最後まで足掻いてやるさ。俺は人間だからとか、悪魔の問題だからとか。もう知るか、このやろうッーー!!

 

 初志貫徹、使えるものはなんだって使ってやる! 冥界が抱える大事な問題なんだから、……冥界のみんなで考えるのが当たり前だよね! 別に暴動までは起こさないからな。表側にまで影響が出ている歪みなんだし、原作みたいにニトロをぶち込まれるぐらいなら、ちょっと騒がしくしてもいけると信じようっ! 上手くいけば、古き悪魔たち上層部への交渉カードになる。アジュカ様もフォローする、って前に言ってくれたし、たぶん大丈夫なはずだ。

 

「あぁー、あと、もう一個。ディハウザーさんに、お聞きしたいことがあるんですけど」

「な、なんだい」

「ヒーロー役、とかってできますか?」

「……映画や俳優の仕事もしているから、まぁ何度かしたことはあるが」

「うんうん。なら後は、証拠の確保だな。信頼できるメディア関係者を見つけて、演出も力を入れないと。あっ、『王』の駒の資料をあの人たちに使ってもいいのかを、アジュカ様たちにも相談しないとな」

 

 なんてったって、彼らは当事者なんだし。『王』の駒という、巻き込める手札はちゃんと持っているからな。でも、これにはディハウザーさんの協力が必要不可欠だ。皇帝が許容してくれなかったら、彼らを味方にすることはできなくなる。彼らを一番知っているのは彼で、説得できるのもおそらく彼だろうと思うのだ。今回の件で向けるべき矛先は、一つに絞らなければならないから。

 

 これでいいのかはわからないけど、他に思いつく方法はない。後々考えなければならない問題も多いだろう。全てが終わった後の上層部の動きだって、気をつけなくちゃならない。というより、アジュカ様からの了承をもらえるのかが一番の問題である。冥界を守る魔王としては、クレーリアさんか皇帝のどちらかに犠牲になってもらった方が冥界の安全を守れるからだ。

 

 それでも俺は、どちらかが犠牲になる選択肢と、二人共犠牲にならない選択肢、どちらを選ぶのかなんてわかりきっている。魔王様やみんなを信じて、俺は俺にできる全てでやってみるしかない。もう赤信号、みんなで渡れば怖くないだッ!

 

 

「……皇帝よ、覚悟しておけ。たぶん、だいぶひどいことになりそうだぞ、これは。俺はもう諦めた」

「えっ」

 

 タンニーンさんが皇帝の分も含め、お酒をさらに注文し出す。真面目に話し合っているのに、どんだけ飲む気なんですか。ディハウザーさんも、俺とタンニーンさんを交互に見た後、おずおずと勧められたお酒を飲みだしたんですけど。大人ってなんかずるい。

 

 とりあえず、勝手に酒盛りを始め出した二人に向け、俺は思いついた内容を話すのであった。

 

 

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