えっ、シスコン魔王様とスイッチ姫みたいな力ですか?   作:のんのんびり

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第五十二話 家族

 

 

 

 俺こと、倉本奏太の家族構成は、母、父、姉、俺、という平凡な四人家族である。母と父は共働きで帰りが遅く、前世の記憶を思い出す前はそれが少しだけ寂しいと思ったことがあった。そんな俺に、現在高校一年生の姉ちゃんはよく世話を焼いてくれたと思い出す。姉の心配性を今でも無下にできないのは、そういった倉本家の歴史があるからかもしれないとなんとなく考えた。

 

 そんな姉、倉本愛実(くらもとまなみ)は、ごくごく平凡な一般人である。当然ながら、両親もどこかの高貴な生まれとか一切なく、波乱の人生なんてものもない一般人。当たり前のようにある、平凡な家族そのもの。だからこそ、神器を持って生まれ、そんでもって前世の知識なんてオカルト現象が起こっているのは本当に俺だけなのだ。俺だけが、どう考えても突然変異としか言いようがない異端なのである。

 

 この家族に生まれたことは後悔していないし、俺にとっては大切な場所で掛け替えのない人たちだ。それでも、俺についての真実を話すことができないのは、今の温かい場所を壊したくない思いと、俺の弱さゆえだろう。彼らに真実を話しても、巻き込んでしまう可能性が増えるだけで、しかも本人たちはどうすることもできない。裏関係に関わらないように注意はしてくれるかもしれないし、こっちを理解してくれるかもしれないけど、もし拒絶されたらと考えてしまうと足が竦んでしまう。

 

 兵藤一誠もそう考えたから、ずっと両親に告げられなかったのだろう。あそこまで家を魔改造されて、大量美少女豪邸になっても貫き通したところはちょっと呆れるけど。リゼヴィムに攫われてしまったことで、息子の今までを知ることになってしまった両親は、それでも一誠を愛し続けた。物語だから、と言われればそれまでだが、彼と同じように一般人の家族を持つ俺としては、羨ましさを感じてしまう。

 

 最後まで真実を隠し続けるのが正しいのか、真実と向き合うことが正しいのか。俺の家族ならきっと、と考える思いもあるけど、『禍の団』にいた『闇夜の大盾(ナイト・リフレクション)』の使い手は、きっと一般人を家族に持った人物だったと思う。そして、拒絶され、絶望し、曹操に拾われて洗脳されて、捨て駒になってもいいと自暴自棄に力をふるっていた。これから先、裏に足を踏み入れ続けるのなら、この問題は解決するまでずっと悩み続けることだろう。

 

 

 さて、クレーリアさんたちを助けるために冥界へ行き、皇帝との話し合いが終わったこの日。やっとの思いで人間界に帰ってきた俺が、どうしてこんな重い内容を考えることになったのか。その理由は、なんてことはない。……ただの現実逃避である。

 

「初めましてなのです、カナくんのご家族の皆様方。私はラヴィニア・レーニと言いまして、カナくんのパートナーです。カナくんと一緒に、共に支え合って、これからもずっと頑張っていきたいと思っています。不束者ですが、よろしくお願いします」

 

 普段の魔法使いとしての衣装ではなく、日本旅行用に着てきたコートを脱ぎ、姿勢を正した金色の少女は、案内された居間で膝を折り、指を綺麗にそろえて深々とお辞儀をした。おそらく彼女の真面目な性格的に、日本に来たのだから日本式で挨拶をするべきだろうと考えて行ったことなのだろう。挨拶が古風すぎるというか、丁寧すぎる気はするけど、間違った作法ではない。しかし、美しい挨拶と一緒に放たれたセリフに、俺の頬が引きつった。

 

 沈黙。静寂。停止。あらゆる言葉が浮かんだが、俺含め、倉本家全員の動きを止める天然発言を満開の笑顔で告げるラヴィニア。あまりの美少女オーラに当てられていた倉本家に向けて、明らかに色々言葉が足りない自己紹介。いや、わかっている。裏のことを言わないように気をつけたら、彼女の丁寧で天然な性格的に、こうなってしまうのはわかっている。でも、ラヴィニア。そこはさ、普通に「友達です」の一言でいいと思うんだ…。

 

「……大変だわ、お赤飯を買ってこないと」

「母さん、祝いの酒も頼む。奏太がこんな可愛い子を連れて来るなんて…。二年生ぐらいから一緒に風呂に入ってくれなくなったが、男としてしっかり成長していたんだなぁ……」

「奏太のパートナー。小学生の弟に先を越されるなんて、……あれ? つまり、このお人形さんみたいに可愛い子は私の妹に…。妹、妹かぁ。……奏太、よくやったね!」

「母さん、買い物袋を持たないで。父さん、いきなり泣き出さないで。姉ちゃん、目をキラキラさせながら親指をこっちに向けないで。みんな、落ち着こう。盛大に落ち着こう」

 

 ラヴィニアは、ただのお仕事でのパートナーなんです。相棒的な関係なだけなんです。天然なんです。裏関係者なら魔法使いのこととか、メフィスト様の庇護のことを話せばいいけど、当然ながら一般人である倉本家にそんな説明をする訳にはいかない。ラヴィニアが外国人なこともあって、「パートナー」という単語の意味も深読みされてしまっている。

 

「えーと、勘違いしているかもしれないけど。ラヴィニアとは普通に友達で、パートナーという意味も違うからな」

「……えっ、カナくん」

「あの、ラヴィニア。違うからな。ラヴィニアとはちゃんとパートナーではあるんだけど、今倉本家は多大な誤解のもと、俺たちがあっちの意味でのパートナーとして受け取られているから弁解しているだけだからね。だから、そんな傷ついた表情をしないでください。すみません。本当にごめんなさい。ラヴィニアとパートナーで心から俺は嬉しいです!」

 

 どうしよう、みんな味方のはずなのに、味方がいない。というより、誰とも戦っていないはずだよね。友達を家に招待しただけで、何でこんなにもお腹が痛くなってくるの。あっ、ありがとう相棒。胃痛を消してくれたのは嬉しいけど、ついでにこの状況もなんとかできたりは……しないよね。うん、知ってた。

 

 

 

「夏休みは奏太のことありがとうね。奏太からホームステイ先のことは聞いたり、写真で見ていたりはしたけど、こうしてお話ができて嬉しいわ。奏太はよく連絡を取っているって聞いているけど」

「はい、毎日お話をさせていただいています」

「ほうほう、毎日…」

「……姉ちゃん、さっき誤解はちゃんと解いただろ。なんでそんな生温かい目で見てくるんだよ」

「いやだって、毎日でしょ?」

「…………毎日だけど」

 

 初っ端からハプニングがあったものの、無事になんとか乗り切ることができました。ラヴィニアがお泊り会に来ると家族には事前に伝えていたので、今日の晩御飯は日本料理ということで特上寿司を食べられた。わさびでツーンとしているラヴィニアを微笑ましく見ながら、楽しい夕食の時間を過ごすことができたと思う。今は姉ちゃんとラヴィニアの三人で、リビングでのんびりと談笑していた。

 

 そんな時、姉ちゃんからの突然の奇襲に、俺は眉をひそめる。毎日連絡を取っているのは、魔法の講義を受けるためとか、裏の勉強をするためとか、近況を報告し合うためとか色々あるのだ。裏の関係者へなら当たり前のように言える理由も、当然家族には話すことができない。しかし、一応表向きの理由ならあるので、そちらで弁解するしかない。

 

「ほら、夏休みの時に見学させてもらったラヴィニアの保護者(お父さん)のメフィストさ…んの会社に俺が興味があって、将来そこに就職したいって前に話しただろ。海外企業だし、今の内に勉強できることとか教えてもらっているんだよ。ラヴィニアは飛び級して、メフィストさんのお手伝いとかしているからさ。英語とか資格の話とか、色々あるんだよ」

「あっ、そういえばラヴィニアちゃんのお父さんは社長さんなんだっけ。今更だけど、すごいなぁー」

 

 姉ちゃんの感心したような声を聴きながら、ホッと息を小さく吐いた。現在『灰色の魔術師』に所属している俺は、当然ながら将来もここの所属である。ラヴィニアのパートナーとして、メフィスト様の部下として、魔法使いとして、ずっと貢献していくことになる。組織に加入すると決めた時点で、将来が決定するのはすでに覚悟の上だ。神器のことがあるから、組織を抜けることなんてできないし、裏切る理由だってないしな。

 

 ちなみに、魔法使いは表側にもそれなりに進出はしている。夏休みの時にお世話になった旅行会社のように、表でもよく耳にする企業を運営していたりするのだ。最大規模の魔法使いの組織だからこそ、人間社会で活動しやすいようにバックアップをする。元々が人間の組織故、人間社会に混じるのは簡単である。三大勢力間の中で、悪魔寄りではあるが中立に位置する魔法使いの根は、結構深いらしいとラヴィニアから聞いていた。

 

 そんな訳で、家族にはメフィスト様が経営している海外企業の一つに就職したいとすでに話をしている。表にもちゃんと名前があり、しかも履歴書にだってしっかり残せる。そこの社員として働いているという架空の事実をつくり上げることができるため、表側からは違和感がないのだ。

 

 

「海外かぁ…。英語だらけの国で暮らすなんて、私は自信がないな。冬休み前にある期末試験の英語にもう四苦八苦だよ」

「そういえば、高校はもうそんな時期だっけ」

「そうだよー。奏太も来年からは中学生になるんだから、テスト期間は他人事じゃなくなるからね」

 

 中学の頃から、テスト前になるとバタバタする姉ちゃんを見続けてきたからね。それにしても、中学校かぁー。普通に姉ちゃんと同じように近所の中学校に通うつもりだけど、間違いなく帰宅部になるだろうな。放課後は仕事や訓練で忙しくなるだろうし。休まないといけない日もあるだろうから、内申点は良くしておかないと。家族を心配させたくない。

 

 しかし、思えばあと数ヶ月で裏世界に入って一年経つのか…。本当に劇的に変わったものだと思う。なんせ去年までは、しがない一般人でしかなかったのだ。原作の登場人物にもたくさん会えたし、修行だって見てもらっているし、しかも原作崩壊もしまくっている。人生何があるかわからない、とはまさにこういうことを言うのだろう。

 

「英語ですか。よろしければ、カナくんのお家にお世話になっている間、私もお手伝いできるところは協力できると思いますよ」

「えっ、本当に!? いや、でも小学生に…、でも英語の点数は捨てがたい……」

「……ちなみにラヴィニア、この問題は解ける?」

「計算問題ですか? 仕事柄、いつも扱っていますのでこのぐらいでしたら」

「!?」

 

 近くにあった姉ちゃんの数学の教科書を手渡すと、パラパラと内容に目を通して、なんでもないように告げるラヴィニア。魔法使いである彼女にとって、理数系は敵ではないのだ。姉ちゃんには、ラヴィニアが学校を飛び級している天才少女とは伝えているので、改めて彼女の頭の良さを知ったみたいである。

 

 テストで毎回燃え尽きている姉を見て、前世の知識がある俺としては手伝ってあげたいと考えても、当然ながら普通の小学生として過ごしている俺にはそれができない。だけど、容姿も含めて浮世離れしているラヴィニアなら、そのあたりの抵抗も少ないだろう。ラヴィニアも倉本家にお世話になるのなら、何かお手伝いがしたいと言っていたので、それならと思ったのだ。文系は自力で頑張ってもらうしかないけど。

 

「うぅ、高校生としてのプライドはあれど、成績によるお小遣いアップには代えられない。ラヴィニアちゃん! お願い、関数の問題を教えて! 英語もお願いします!」

「はい、お任せくださいなのです」

「それでよかったら明日、最近評判のパンケーキのお店に案内してあげるわ。ハワイからの本格仕様で、すっごくおいしいのよ。もちろん、私からのお礼にね」

「わぁ、ありがとうございます!」

 

 甘いものが大好きな女子同士、楽しそうに会話を弾ませている。ちょっと男の俺としては疎外感を感じるけど、このあたりは仕方がないだろう。この会話のおかげか、お互いへの緊張感が消えたみたいで、今は楽しそうに食文化の違いやファッションの話で盛り上がっている。

 

 これからもラヴィニアが倉本家に遊びに来るかもしれないし、仲良くなってほしいと考えていたから、とりあえずはよかったのかな。メフィスト様からも、ラヴィニアに一般の女性との関わりを経験してほしい、って言われていたしね。俺は肩を竦めると、会話を楽しむ二人をリビングに残し、とりあえず自分の部屋に向かっておくことにする。着替えを用意して、今の内に風呂にでも入って時間を潰そうと思ったのだ。

 

 

 ディハウザーさんとの話し合いが終わり、俺はすぐに人間界へ帰った。その時に、駒王町組には事の顛末と、これからのことを通信で伝えておいたのだ。ちなみに、「ストライキをすることになりました」と伝えたら、ベリアル眷属全員から総ツッコミされることになったけど。八重垣さんは、「悪魔社会も世知辛いんだね…」としみじみしていた。

 

 ちなみに、放心していたベリアル眷属の中で一番に回復したのはクレーリアさんで、「お兄様の雄姿を絶対に録画しなきゃッ! あぁ、でも、人間界だと冥界のチャンネルに繋がらない! 冥界で直に応援したいけど、私が勝手な行動をしたらまずいよね…。うぅぅ…、せっかくのお兄様のカッコいいお姿がっ!」と元気に悔し涙を流していた。いつも通りのクレーリアさんで安心した。

 

「そういえば、まだミルたんには連絡していなかったか。ストライキの決行は予定通りなら、クリスマスあたりにはできるだろうし、原作通りなら粛清はまだのはずだ。今日はもう遅いし、明日連絡しておかないと」

 

 冥界から人間界に帰って、駒王町組に連絡して、ミルキー魔法使いさんたちのところへ行って、ラヴィニアを二人から引き取って、倉本家に帰ってきたという流れだったため、なかなかのスケジュールだった。とりあえず、みんなへの報告が終われば、暫くは身体を休めることができそうだ。冥界で事が起きるまでは特に急ぎの用事はないため、休める時に休んでおくべきだろう。せっかくラヴィニアだって、日本に来てくれたんだしな。

 

 あっ、そうだ。ミルたんとは基本通信でしか話せていないし、魔法使いさんたちにもラヴィニアがお世話になったし、一度顔を見せに行ってもいいかもしれない。魔法少女魔法の練習に、付き合わされる可能性があるのが怖いけど…。

 

「ディハウザーさんには、明日の夜ぐらいに連絡を入れたらいいかな。ベルフェゴールさんとアバドンさんとの話し合いがどうなったのかも、確認しないといけないし」

 

 家の廊下に立てかけている時計の時刻を見て、昨日の皇帝との会話が蘇る。正直、彼のやる気スイッチを知らぬ間に押してしまったらしいので、色々な意味で(相手が)大丈夫なのか気になるのだ。ディハウザーさん、すごく溌剌としていたからなぁ…。別れ際の爽やかな笑顔が、頼もしくもあり、ちょっと別の意味で怖かった。

 

 そんなことを一つひとつ考えながら部屋に向かった俺は、とりあえず今日はゆっくり休もうと自分の部屋の扉を開ける。そして、無言で扉を閉めた。一度深呼吸をして、意識を落ち着かせる。おかしいな、何やら普段なら部屋にあるはずがないものが置いてあるぞ。昨日までの疲れから、幻覚でも見たかと思って、もう一度扉を開けた。

 

 そしてそこには、先ほど見た光景と同じように――俺のベッドの隣に敷かれている、布団一式セットが目に入った。

 

 

「……ちょっと、母さんっ! なんでラヴィニアの布団を俺の部屋に敷いているんだよっ! そこは女の子同士、姉ちゃんの部屋で寝てもらうべきだろ! えっ、初対面の姉ちゃんじゃ、緊張しちゃうだろうし、小学生同士で別に恥ずかしがることはない? いや、そういう問題じゃなくてさっ!?」

 

「カナくん、元気ですねー」

「もう奏太ったら…。あの子、変なところでませているのよね」

「私、お友達のお家にお泊り会は初めてなので、すごく楽しみだったのですよ!」

「そっかぁ、じゃあそれを奏太に伝えたらいいんじゃないかな。本気で嫌なことは断るみたいだけど。そうじゃないなら、昔っからお願いされたことは断れない性格みたいだから」

「ふふっ、そうなのですね」

 

 

 その後、笑顔のラヴィニアからのお願いを断ることができず、同じ部屋で寝ることになってしまったのは不可抗力である。悟ったというか、開き直った俺は、せっかくのお泊り会なんだからとラヴィニアとのおしゃべりを楽しむことにした。一応、寝ぼけて俺のベッドに入って来ようとしたら、全力で俺を起こしてほしいと相棒にお願いしたので、きっと大丈夫なはずだ。

 

「それでは、暫くの間はゆっくりできるのですね」

「まぁ、そうだな。八重垣さんにクレーリアさん用のクリスマスプレゼントを届けたり、教会の様子を探ったりはするけど、俺にできることは今のところ待つことだけだからな」

「なるほど。ずっとカナくんは頑張ってきたのですから、少しぐらい休まないと身体を壊してしまうのです。カナくんが倒れちゃったら、みんな心配しちゃうのですよ」

「そうかな。うん、気を付ける」

 

 ラヴィニアの真っ直ぐな気遣いの言葉に、俺は気恥ずかしさから頬を掻いてしまう。彼女が本気で俺を心配してくれているのがわかるので、しっかり気持ちは受け取っておく。俺には突っ走る癖があるみたいだから、ラヴィニアがこうしてストッパーになってくれるのは、色々とありがたいことなのだろう。

 

「そうだ、昨日は改めてごめんな。冥界行きを延長しちゃって、不都合な事とかなかったか?」

「問題ありませんでしたよ。カナくんのお友達の方と一緒に、魔法少女として一人の女の子の願いを叶えることができましたから」

「……えっ? 俺の友達? 魔法少女に、女の子?」

 

 お互いに布団とベッドに入って始まった会話に、早速違和感を覚える。よくわからないが、勘のようなものが俺に詳しく聞かないとまずいと警鐘を鳴らしているような気がした。俺の友達とのことだが、ラヴィニアの同僚である魔法使いさんと悪魔さんのことではおそらくない。では、他に裏関係で俺が友達と呼べる人物は……。

 

「……もしかして、ラヴィニア。ミルたんに会った?」

「はい! あんなにも真摯に魔法少女になろうと向き合う方は初めて見たのです。私も立派な魔法少女になるために、たくさん刺激を受けられたと思います」

「あぁー、そっか。あぁ、うん。そうだよね、いてもおかしくないよね。そもそも、ミルキーファンに紹介したの俺じゃん。まぁ、仲良くなれたのなら、よかった、のか……?」

「そこで、紫藤トウジさんの娘さんが、胃痛に苦しむお父さんのお腹に良いものを探したいと思ったみたいで、私たちも協力したのですよ。ミルたんさんと一緒に、神秘の国と言われたジパングを巡り、ダーククリーチャー『ゲルゲルモ』との戦いを経て、見事幻のファンタジー食材をゲットできたのです!」

「どうしよう、その神秘の国らしい出身の俺ですら、会話の内容を半分も理解できない」

 

 大変だ、正統派の魔法少女だったラヴィニアが、D×D風の魔法少女になっていっている。ミルたんやセラフォルー様的な、理不尽方向に進化していないか? あれ、これパートナーとして止めるべきなんだろうか。でも、D×D風魔法少女って、原作でも屈指の理不尽枠として君臨している最強格だぞ。強くなることはこの世界で生き残るうえで重要な要素ではあるけど、これは相棒としてどう判断すればいいのだろう。

 

「……ちなみに、そのファンタジー食材はどうしたの?」

「もちろん、その日に娘さんに渡しました。なんでも涙を流しながら、お父さんに全部食べてもらえたそうですよ。私たちも頑張った甲斐がありました!」

「…………謎のファンタジー食材、全部食べたんだ。紫藤さん」

 

 ミルたんもラヴィニアも、完全に善意で行動しているからな…。紫藤さんの男っぷりと、イリナちゃんへの愛がすごい。ずっと胃痛で苦しんでいるらしいけど、紫藤さん本当に大丈夫かな。粛清前でこんなにもメンタルダメージを受けているなんて、そりゃあ原作で罪滅ぼしに八重垣さんに殺してくれ、とか言っちゃってもおかしくないよ。今回のことが全部無事に終われたら、紫藤さんに胃薬でも送った方がいいかもしれない。

 

 そんな風に、ぶっ飛んだ近況報告を終えた後、電気を消して静かに眠りについた。姉以外の女の子と一緒の部屋で寝るのは初めてなので、しばらく緊張したのは思春期なんだし仕方がない。また明日、色々これからのことについて話をしよう。

 

 ちなみに翌日、隣の布団がもぬけの殻で、姉ちゃんの部屋から悲鳴があがったのは、ある意味お約束だろう。期待していなかったといえば嘘になるけど、とことんモブへのラッキーイベントは手厳しいらしい。とりあえず、寝ぼけて姉ちゃんのベッドに潜り込んだのだろうラヴィニアを回収しに、俺はのんびり欠伸をしながら、ベッドから起き上がるのであった。

 

 


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