えっ、シスコン魔王様とスイッチ姫みたいな力ですか?   作:のんのんびり

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第八十五話 武器

 

 

 

 世界には、どれだけ必死に願っても止められない流れというものがある。運命ともいえるその因果は、矮小な人間では抗うことさえできない。それこそ神性を宿すものだって、その流れに逆らうことを諦めて流される者だっている。俺がどれだけ強く願っても、叶わないことはたくさんある。だが、往生際が悪いと言われようと、最後までとりあえず現実逃避したいのが、人間ってもんじゃないのかっ!

 

「想いの力に神器の能力が比例するのなら、相棒。俺のこの切実な想いを受け取って、……地獄の夏休みを消滅できないかっ!?」

「カナくんが、相変わらず神器さんにとんでもない無茶ぶりをしているのです」

 

 ちなみに相棒からは、簡潔に『無理』の二文字思念をいただく。これ、一考すらせずに一刀両断する勢いの即答だった。まぁ、アザゼル先生との修行でわかった事だけど、今の俺では時間空間因果関係を消滅させることが出来ない。というより、どうやったらそんなとんでもないものを消せるんだ、って思う。強く願うにしても、やり方が分からなければ、俺ではどうしようもない。

 

 小さく溜息を吐いて、肩を落とす。夏休みはもう仕方がない、と心の中では諦めている内容であったため、大人しく冥界へ行くための準備に取り掛かることにする。前回と同じように吸血鬼対策セットを入れ、正臣さんからもらった十字架もリュックの中に詰めていく。だけど、さすがに前回と同じ手はタンニーンさんに効かないだろうなぁ。

 

「はぁ…。タンニーンさん、なんであんなにスパルタなんだろう。冥界に着き次第、一年間の成果をまずは見せてもらうってさぁ……」

「確かにまずは模擬戦から私たちの成長を見て、これからの修行の段階を決めるのはよくあることです。当事者は大変ですけど…」

 

 俺は一緒に冥界への準備を進めるラヴィニアと目を合わせ、お互いに乾いた笑みを浮かべ合った。神器持ちとはいえ、ドラゴンの王様と戦闘とか泣きたいに決まっている。本当なら、全力で回避するべき運命であった。だが、一年前から修行フラグが突き刺さり、それを折ることが出来なかったから現在があるのだ。去年は駒王町の粛清事件とか大きな事件もあったから、夏休みフラグを折る方法など考える時間なんてなかったのである。

 

 明日、ついに決行される地獄の冥界行き。今回はメフィスト様が冥界行きの魔方陣を用意して、直接連れて行ってくれる流れになっている。俺とラヴィニアだけじゃ、冥界に行くことはできないので、やはり保護者同伴じゃないと難しいからな。後で、アザゼル先生と冥界で合流するらしいけど、みんなお偉いさんなのにいいのだろうか。特にアザゼル先生とは、通信ゲームで遊ぶことはできても、仕事が忙しいようで直接会うのは久しぶりだ。時間を割いてくれるのはすごくありがたいと同時に、更に修業がレベルアップしそうなのが本気で怖いです。

 

「うーん、それにしても戦闘かぁー。さすがにタンニーンさんの隙をついて、もう一回十字架攻撃は難しいよな…」

「そうですね。去年の戦いは、タンニーンさんが手加減をしてくれていて、尚且つ油断していました。しかし、あの方は戦闘本能の高いドラゴンです。自分を破った相手への対策をしないはずがありませんし、慢心による二度目の敗北を許容できる方でもないのです」

「……俺達のことをよく知っているからこそ、俺達のフィールドへ堕ちないように対策をされるってことか」

 

 そう考えると、今までの俺が戦ってきた相手って、みんなこちらを見下す、または慢心していたように思う。人間の子ども相手に、本気になるなど普通に考えれば大人げないしな。だからこそ、俺は相手のそんな隙を容赦なく崩すことで、強者に勝ちを拾うことが出来たのだ。相手が最も力を発揮するフィールドで戦う気など、俺にはさらさらない。最初から、全力で相手を引きずり堕とす気満々だ。もちろん、それを相手に気づかせないように当然注意はする。

 

 だが、今回は二度目の強者との再戦だ。お互いに相手の手口を知り合っている者同士。正直に言えば、圧倒的にこちらの分が悪い。タンニーンさんは、俺とラヴィニアが真正面から戦う気がない事を知っている。アザゼル先生に通信でタンニーンさんのことを相談した時も、「確実に警戒しているだろうな。お前らは、良い意味でも悪い意味でも、何をしてくるかわからない」と楽し気に笑っていたことを思い出す。

 

 だが、小細工なしの正面衝突などしても、天地がひっくり返っても俺達に勝ち目はない。気合いや根性で何とかなるほど、タンニーンさんは甘い相手ではない。そして、この模擬戦で今後の修行のレベルが変わる、とまで言われているので、ただ負けるなど俺達にはできない。だって、タンニーンさん相手に情けない戦闘になったら、彼の性格的にこちらの根性を叩きなおすと告げ、絶対に酷い目にあうのが確定だ。全力で頑張るに決まっているじゃん。

 

 つまり、確実にこちらが小細工をしてくるとわかっている相手と、まともに戦闘をしなくちゃならないのだ。生粋のパワータイプ相手に、どんな無理ゲーだよ。

 

 

「総督さんから、何かアドバイスがあったりはしませんでしたか?」

「先生から? えっと、……『もしお前らに勝機があるとすれば、それはお前らの持つ武器、強みを最大限に生かして流れを引っ掻き回すことだろう』だったかな」

「私とカナくんの武器は、神器と魔法ですね。でも、それだけでは…」

「タンニーンさんには届かない」

 

 まともな戦いでは勝てない。こういう時、強者の在り方が羨ましく思う。俺の知り合いのみんななら、こんな風に悩まなくても、タンニーンさんと真正面から戦えるのだから。なんか今更だけど、俺ってば戦力差が開きまくっている相手としか戦ったことがなくないか? ドラゴンの神器なんて持っていないのに、すごい理不尽だ。

 

 アジュカ様やディハウザーさん、アザゼル先生にメフィスト様だったら、タンニーンさん相手にいい勝負をするだろう。あとリュディガーさんや正臣さんだって、真正面からじゃ厳しくても負けない戦い方をよく知っていると思う。いっそのこと、みんなに代わりをお願いしたい。俺達の修行のためだとしても、魔龍聖レベルと戦闘とか普通ならありえない。

 

 だったら、ラスボス級相手にラスボス級をぶつけるのは、別に間違っていないだろう。人脈だって、一つの武器と呼べるのだから。

 

「……ん、ちょっと待てよ。人脈も武器なら、その繋がりから道を作るのも一つの戦い方か?」

「カナくん?」

「クレーリアさんとルシャナさんは常識的なヒト達だから、彼女たちのあの反応はこの世界では普通と言ってもいいよな。なら、常識ドラゴン代表のタンニーンさんにも、もしかしたら効くかもしれない? あと、正臣さんは元教会関係者だから、悪魔祓い的な方法も色々知っているだろうし…」

 

 すでにタンニーンさんが、こちらが悪魔の弱点を突いてくることを警戒しているのなら、もういっそのこと開き直って悪魔の弱点を集中狙いしちゃった方が良くないか?

 

「確か神器は、その特性が色濃く出てくるものだよな。ドラゴンの特性を持つ神器だから、龍殺しが弱点にもなるし、口から火だって吐ける。なら、氷の神器だって元の液体である水の性質を含んでいるはずだから、……ラヴィニア! ちょっとこれができるか教えてくれ!」

「えっ、なんですか?」

 

 俺の声掛けに「なんだかデジャヴュなのです」とポツリと呟くラヴィニアだが、俺の方へ素直に耳を傾けてくれる。俺は原作のイッセーたちの様子を思い浮かべながら、思いついた内容を彼女へ告げていった。

 

 

「……それは、やったことがなかったのです。なので、試すことはできると思います。ただ…」

「……ただ?」

「いえ、総督さんの言っていた『私たちが持つ武器、強みを最大限に生かす』というのは、カナくんのことなのかもしれないですね。こういう時に改めて思いますが、カナくんが味方でよかったです」

 

 ラヴィニアがホッと息を吐いている姿に、俺は不思議と首を傾げてしまう。俺が味方でよかったって、普通に考えたら逆の立場じゃないか。神滅具持ちで優秀な魔法使いであるラヴィニアが味方なんて、俺の方がありがたいぐらいである。俺一人じゃ、確実に詰んでいる。彼女がいるからこそ、作戦を考える余地があるのだ。俺は、自分が使える範囲でなら勝つために何でも使うけど、逆に言えばそれしかできないからな。

 

 それに、俺と彼女が戦ったって、十中八九俺が負ける。この世界で、神滅具を持つ相手と敵対するなんて自殺行為にも等しいだろう。何よりもまず、俺は彼女を傷つけることができない。武器を向けることすらもできないだろう。物理的にじゃなくて、精神的な理由で。ラヴィニアは俺の中で、失いたくない大切な友達なのだから。

 

「俺はずっとラヴィニアの味方だよ。敵対なんてありえないし、する気もない。これからも『灰色の魔術師(グラウ・ツァオベラー)』で一緒に頑張るパートナーなんだからな」

「カナくん…、……そう、ですよね」

 

 ふと、どこか歯切れが少し悪かったラヴィニアに、俺は目を向ける。俺と目が合うと、いつもと同じように微笑み返してくれた。「ちょっと、ぼぉーとしちゃっていたのです」と優しく目を細めながら。さっきのは、気のせい……なのだろうか。ラヴィニアが嘘をつく理由もないし、メフィスト様からも彼女と一緒にいることを認められている。同じ組織で働く同僚で、容姿も性格も良くて、誰かのために一生懸命になれる、俺には勿体ないぐらいの優しいパートナーだ。

 

 それだけわかっていれば、今は十分だと思う。たとえ、……俺が彼女の過去を何も知らないのだとしても。俺がラヴィニアについて知っているのは、彼女と初めて出会った一年分しかない。少なくともラヴィニアは、俺の持つ原作20巻分の知識には現れない人物だ。だから、ラヴィニアに関しては原作など関係なく、倉本奏太として接してきた記憶しかない。だけど、彼女を信じるのに前世の知識なんて必要ないと思っている。

 

 それに、原作で語られていた。神器を持つ者は迫害を受けたり、親族から異質な力を恐れられたりして、辛い幼少期を過ごす者もいると。それがラヴィニアに当てはまるのかはわからないけど、軽率に彼女の過去を聞くことはできない。ラヴィニアなら教えてくれるかもしれないけど、無理やり聞き出したい訳じゃないのだ。それに、話したくないのなら、それでいいと思う。過去なんて知らなくても、俺がラヴィニアの味方であることは決して揺るがないのだから。

 

 なら、その笑顔に誤魔化されよう。「そっか」と俺もいつも通りに笑って、何でもないように彼女へ返事を返す。さっきまでの会話は切り上げ、タンニーンさんとどうやって戦うのかに話を戻しておく。お互いに意見を出し合いながら、明日の冥界行きに向けて準備を進めるのであった。

 

 

 

――――――

 

 

 

 そんな作戦会議から次の日。メフィスト様に連れられて訪れた冥界で、タンニーンさんは前回戦った場所と同じところで、威風堂々とした姿で待っていた。俺はタンニーンさんへ挨拶をし、皇帝との試合のすごさを語り、改めて去年手伝ってくれた感謝やお礼を渡しておく。

 

 俺からのお礼に、どこか遠くの方を見る様に目を一瞬逸らされたが、すぐに邪悪なドラゴンらしいニヤリとした笑みを返してくれた。お酒を一杯飲んでいたから、ドラゴンの肝臓に効きそうなお土産を選んだけど、たぶんよかったらしい。

 

 さて、持ってきた荷物をいつもの古い遺跡の中へと置き、いくつか必要な物を袋に入れ、お世話になる赤龍さん達に挨拶をし、デカくなったチビ達にノリでのしかかられそうになるのを必死に避け、早速模擬戦の始まりとなる。チビ達には後で遊んでやる、と言ったら素直に聞いてくれたけど、俺の身長よりもデカくなったドラゴンの相手が控えていることに遠い目になった。

 

 引率として来てくれたメフィスト様が、前回のアザゼル先生のように、もしものためにここへ残って模擬戦を観戦するようなので、なおさら恥ずかしいところは見せられない。俺とラヴィニアは頷くと、この一年間の成果をタンニーンさんへ見せるために足を前に進めた。

 

「よろしくお願いします、タンニーンさん」

「よろしくお願いします」

「あぁ、こちらも存分に胸を貸そう。今回は前回のようにはいかんぞ」

 

 前回と同じように手加減はしてくれるようだ。ただ前回とは違い、一発当てたら終わりではないらしい。今回は勝ち負けというより俺達の成長を見るため、タンニーンさんがOKを出すまで踏ん張れたらいいようだ。例の一発当て勝負は、また修行の最後にでもやるつもりらしいのが、少し泣けてくる。とりあえず、ちゃんと俺達が力を出し切ったら、そこで終了のようなので全力で挑もうと思う。

 

「さぁ、お前たちの力を見せてもらおうか。倉本奏太、ラヴィニアよ!」

「それでは、いかせてもらいます! 私のお人形よ、『永遠の氷姫(アブソリュート・ディマイズ)』!」

「さらに、神器合体(セイクリッド・ユニゾン)消滅の紅緋槍(ルイン・ロンスカーレット)』!」

 

 ラヴィニアの唄と共に出現した氷の姫。それに間髪を入れず、俺は即座に分解した相棒を勢いよく氷へ突き刺す。神滅具を使った訓練は危険が多いため、あまり大々的に行うのは難しい。そこでまず俺達が訓練したのは、神器合体に到るまでのスピードを縮めることだ。こちらの準備を相手がずっと待っていてくれる方がありえないのだから。

 

 ラヴィニアの神滅具の冷気で相手との間にブリザードを発生させ、動きを阻害しながら氷の人形は瞬きの内にその姿を変えていく。俺はその過程を目に映すと、すぐに今回のために正臣さんと協力して作って持ってきた切り札の準備をした。俺達の神器の発動スピードに、タンニーンさんは楽しそうに笑みを浮かべている。

 

「ふむ、実戦に目を向け、何より思い切りも良くなっている。だが、前回でその人形の動きはある程度把握できているぞ。どれだけその神器を操れるようになったのか、試させてもら――」

「もういっちょ、道具合体(アイテム・ユニゾン)!『正臣さんといっぱい作った聖水』in氷姫!」

『えっ……』

 

 俺は重さを消滅させて持ってきた、魔法で保管していた大量の聖水を袋から取り出すと、氷の神滅具へ向かって勢いよく投擲した。それに、タンニーンさんはポカンと口を開け、メフィスト様が頭に手を当てていた。今の俺達がタンニーンさんに唯一対抗できるだろう手段は、聖なる力しかない。しかし、そんな悪魔の弱点を狙うのが、すでに相手には知られてしまっている。だったら、『全て』の攻撃が弱点になってしまえばいい、と考えた。

 

 氷に水が含まれているのは、当然の知識だ。水蒸気と水と氷の性質なんて、小学校で習う学習である。だったら、その氷の中にある水に聖なる力を纏わせたらいい。昨日ラヴィニアと魔法訓練所で試した通り、俺がブン投げた聖水ボールが作成途中だった『永遠の氷姫(アブソリュート・ディマイズ)』の中へと吸い込まれていった。

 

「顕現せよ、『聖氷姫人形(セイント・ディマイズ・ギアドール)』!」

 

 ラヴィニアの碧いオーラと俺の紅いオーラが混ざり合い、さらに相棒の力を使った『性質の書き換え(リライト)』で神器と聖水の抵抗を消し、親和性を高める。もともと神器は、聖書の神が作った道具だ。なら、聖なる力と相性が悪い訳がない。本来なら他人の神器に効果を及ぼすのは難しいのだが、今回は抵抗を消すだけである。聖水が巡り切って馴染めば、問題なく稼働できるだろう。

 

 

「――ッ!? まさかっ……!」

 

 氷姫が腕を振り上げると、彼女の手から先ほどと同じようにブリザードが吹き荒れる。それにタンニーンさんが目を見開き、瞬時に吹雪が届かないぐらいに距離を空けると、苦々しく歯を食いしばった。少し離れたところにいるメフィスト様が、魔法で結界を張り、溜息をついていた。

 

「なるほど、聖なる力を含ませた吹雪か。『永遠の氷姫(アブソリュート・ディマイズ)』の副次的効果である天候すらも利用した、魔に対する自動迎撃フィールド。悪魔や魔の者にとって、天敵としか言えない凶悪さだねぇ」

「それだけではないな。この吹雪は、神器の力によって生まれている。消費した聖水を再び積もった雪から吸い上げ、本体に循環させ、止むことのない『永遠の聖なる白(セイントホワイト)』を生み出す。並みの悪魔や魔物なら、雪に触れたところから大火傷だろうな」

 

 さすがは、メフィスト様とタンニーンさん。瞬時に『聖氷姫人形(セイント・ディマイズ・ギアドール)』の特性を見抜いてしまった。この吹雪に関しては、完全なる偶然の産物だった。昨日、聖水を正臣さんといっぱい作ったあと、試しに氷姫にぶっかけて実験してみたのである。その時、発生した吹雪に人間である俺達はただ寒いだけで気づかなかったが、様子を見に来たクレーリアさんがめちゃくちゃビビっていたのだ。

 

 悪魔である彼女が、聖なる気配へ敏感に反応したのは当然だろう。ラヴィニアが調べたところ、聖水を取り込んだ氷姫が発する吹雪に、退魔の力が含まれていることがわかった。なかなかに凶悪な能力になって驚いたが、当然ながら弱点もある。大量の聖水を事前に用意する必要があること、その聖水は有限であること、そしてこの『永遠の聖なる白(セイントホワイト)』が副次的に発生しただけのただの吹雪であることだ。つまりこちらが操作することはできず、敵味方関係なく魔の者にダメージを与えてしまうのである。

 

「だが、メフィストのように常時結界を張ることができれば、防ぐことは難しくない。聖水の量も有限であるが故に、広範囲に『永遠の聖なる白(セイントホワイト)』を及ぼすことはできないみたいだな。そして、使用した聖水分を循環させることなく、消費させればいずれなくなっていく。循環比率はさすがに100%とはいかないだろうから、時間の経過とともに効果は薄れていく、といったところか…」

「……正解です。というか、見ただけでそこまでわかるとかおかしくないですか」

「単純に経験の差だ。むしろこんなものを、子どもの発想で作るお前達がおかしいだろう」

「えー」

 

 思わず、文句が出てしまった。ちょっとできるかな? と思ってやってみたら、意外にできちゃっただけである。神器ってすごい。しかも、聖水と神器は既存のモノなんだから、誰だって思いつく要素があってもおかしくない。聖水攻撃はイッセーが不死鳥であるライザーと戦う時に使っていたから、悪魔戦として印象深かったのもあるけど。

 

「神器を合体させたり、聖水を含ませて神器を加工させたり、そういった今まで誰もやろうとすら考えなかった自由な発想が、カナくんの武器であり、強みなんだろうねぇ。僕らのような古き者や、工夫の必要性を感じることがなかった強き者、そしてこの世界の常識に疑問を抱かず追従する者には、持つことが出来ない武器だよ」

「えっと、そういうものですか?」

「そういうもんだよ。さっ、おしゃべりはここまでにしよう。そろそろタンニーンくんが仕掛けてくるよ。彼の炎なら、聖水の吹雪や氷ごと消し去ってくる。油断しないようにね」

「タンニーンさん相手に、油断とか絶対にできませんよ」

 

 メフィスト様の言う通り、相手は魔王級のドラゴンなのだ。聖水は彼の弱点とはいえ、それで倒せるほど甘い相手ではないのは当然である。前回と同じように一撃勝負だったら、この吹雪でかなり有利になれただろうけど、今回は俺達の戦い方を見るのが目的の模擬戦だ。おそらく、タンニーンさんは氷姫を消滅させようと活発に動いてくる。多少の聖水の雪など、ものともしないだろう。

 

 それでも、前世でやっていたモンスターゲームみたいに、地面タイプや氷タイプが持っていた砂嵐や霰のような特性を利用して、少しずつダメージを蓄積させることができる。メフィスト様のように魔力で身体を膜で覆われるかもしれないけど、それならそれで相手の魔力を削ることができるし、魔力による大きな攻撃を咄嗟に放てないだろう。

 

 今回だって、タンニーンさんの得意なフィールドで戦ってなんかやらない。『聖氷姫人形(セイント・ディマイズ・ギアドール)』を前回は囮として使ったけど、今回は天候を利用したHit and away(ヒットアンドウェイ)による蓄積ダメージで戦う。とにかく、彼の炎から逃げ回り、時々接近してブリザードだけ浴びせたり、チャンスがあれば攻撃をする程度でいい。

 

 今思うと、これ完全に疑似砂パ・霰パ戦法である。しかも、聖水は魔のものにとっては毒みたいなものだし、氷姫は氷の塊だから防御力が高いし、ビュンビュン飛んで逃げるしで、どこのよろいどりさんなんだろうか。

 

 氷だから再生能力が高くて、しかも俺の神器の能力を使えば完全回復もできると思うので、はねやすみまで完備だ。炎が弱点なのもシンパシーが強い。この世界にも前世と似たようなモンスターゲームがあるので、いつかよろいどりさんを育てて、アザゼル先生に『砂毒影分身回復よろいどりさん』をぶつけてみよう。

 

 

「さて、ここまでは作戦通りか。それじゃあ、ラヴィニア。予定通り、おんぶするぞ。今回は逃げ回りながらの攪乱が、俺の仕事だからな」

「はい、カナくんが冥界に適応できるための魔法はすでにかけているのです。お人形さんの操作は任せてください」

 

 そう言って、魔法で俺の背中に自分の身体を固定すると、片手で杖を振って氷姫を起動した。独立具現型の神器の弱点は、持ち主が狙われやすいことだ。しかも神器合体中は、その操作の難しさからラヴィニアは自衛ができない。それなら、自由に動ける俺がラヴィニアを連れて逃げ回ればいい。俺の首元に腕を回す彼女の身体を支え、魔法のおかげでこちらも両手を自由にできる。

 

 俺は左手に相棒を持ち、すでに超常決戦を始めている神滅具とドラゴンから距離を取る。今までの修行の成果もあり、現在俺が使える消滅の枠は五つになっている。その内の四つを『聖氷姫人形(セイント・ディマイズ・ギアドール)』に使っているのだ。聖水の抵抗の消滅が常時必須であるため、氷姫が使える消滅の能力は前回と同じで実質三つ。下手に枠を削れないため、俺が使えるのは一つしかない。そのため、当然最後の枠をタンニーンさんの攻撃に使う訳にはいかず、逃げることに使用するのがベストだろう。

 

 タンニーンさんはちらりと俺達を見たが、迫り来る氷姫に視線を元に戻す。前回同様、タンニーンさんと真正面から相対できるのは、神滅具だけである。俺達に彼を攻撃する手段はほとんどなく、脅威なのは彼が目を向けている氷姫だけなのは変わらない。俺が前回のように十字架を投げようとしても、聖なる気配を警戒しているタンニーンさんはすぐに気がつくだろう。

 

 同じ手は二度も通じない。そして、逃げるために消滅の能力を使うため、神器の能力で彼を攻撃することができない。タンニーンさん相手に、俺程度の魔法なんて効果もないだろう。俺の役目は、独立具現型神器の宿主であるラヴィニアを守るために、逃げ回ることしかできないのだ。

 

「でも、だからって……ただ逃げ回っているだけじゃ勝てない」

 

 先ほどタンニーンさんも言っていたが、時間の経過は俺達にとって敵である。氷姫だけじゃ、タンニーンさんにはたぶん届かない。俺の存在も彼にとって、脅威の一つと認識してもらい、攪乱に成功してこそ勝機が生まれるだろう。そこまで考えた俺は、みんなとの繋がりから見つけた方法を試すことにした。

 

 正直に言えば、絶大なドラゴンのオーラを纏うタンニーンさんに効果は出ないと思う。だけど、常識があるタンニーンさんだからこそ、『無視ができない』攻撃になると思うのだ。なんたって、俺も同じように効果を無効化できるけど、アレが飛んで来たら嫌だ。精神的に嫌すぎる。当たらないで済むのなら、当たりたくない。全力で回避に専念する。実体験だから、間違いない。

 

 俺は森の中に身を隠しながら、吹雪が荒れ狂う戦場を見つめる。タンニーンさんが遠距離から炎を吐こうとする瞬間を狙い、俺は懐に忍ばせていた秘密道具を右手に構え、神器の効果を纏って一気に射程範囲まで距離を詰めた。俺の気配を感じ取ったのだろうタンニーンさんが、小さな驚きを見せる。本来なら、俺に攻撃手段なんてない。ここで十字架を投げたって意味もないだろうからな。

 

 しかし、俺にはコレがある。俺はあえて手に持つ秘密道具の名を、その効果を大々的に告げた。

 

 

「喰らえ、タンニーンさんっ! アザゼル先生作、性転換銃だァァァァッーー!!」

「性転かっ……、ハァァァアアァァッーー!?」

 

 飛んだ。文字通り、反射的な速度でドラゴンが飛んだ。俺が右手に持つ銃から解き放たれた性転換ビームを、あの魔龍聖が全力で回避した。例え当たっても、彼なら無効化できるだろう。ミルたんのオーラに負けたしな、この試作品。だけど、誰だっていきなり性転換銃を向けられたら、普通はビビるよね。

 

 なお、試作品であることはあえて伏せる。そして、何よりも効果的なのが、あのアザゼル先生が作った事なのだ。何をふざけているのかと思われるような物に、全力を尽くすあの総督様の作品だ。しかも、初見の秘密道具。怖い、普通に怖い。効果もさながら、どれだけの威力があるのかも未知数。俺はタンニーンさんに効果はないだろうとわかっていても、彼自身にはわからない。実際に当たって、確かめてみるまでは。

 

 しかしである。性転換するとわかったビームを、本当に効果があるのか確かめるために、実際に当たることが出来るだろうか。しかも、元六大龍王の一角であり、ドラゴンの中の王とも呼ばれるタンニーンさんがである。命懸けの戦闘なら、負けられない戦いであったのなら、彼も腹を括っただろう。だが、こんな子どもの戦闘で、それなりに手加減をした余裕のある戦闘で、彼がその決断を下せるだろうか。

 

 さらには、性転換銃の無理やりな回避によって隙が出来たタンニーンさんへ、氷姫の一撃がタイミングよく決まる。まともに聖なる攻撃を喰らったタンニーンさんは動きを止め、その隙に俺は森の中へオーラを消して潜み、再びタンニーンさんと氷姫の戦闘を窺う。そして、相棒の合図に従って性転換ビームを戦場に撃ち込んでは、とにかく逃げまくって、混乱させるだけさせた。

 

 氷姫にフレンドリーファイヤーすることもあったが、そもそも無機物の氷に感情や性別の区別はあまりないようで、特に気にせず戦闘続行。むしろ、フレンドリーファイヤー推奨で、タンニーンさんにビームが当たるように仕向けさせもした。さすがはラヴィニア、こういう時の彼女は結構容赦がなかったりする。

 

 

「……うん、悪魔の僕もびっくりするぐらい、息の合った悪魔のような攻撃だねぇ」

「メフィストォォォッーー!! お前の子どもの教育はどうなっているんだァッ!? ドラゴン相手に精神攻撃を仕掛けてくる、ろくでもない成長をしているぞォッ!!」

「僕は基本放任主義で、子ども達の好きなことをやらせてあげているだけだからね…。むしろ、アザゼルとリュディガーくんとアジュカくん達の方が、関わりが強いかもしれないぐらいだよ」

「今名前が挙がった全員、ろくでもない大人の筆頭なんだがッ!?」

 

 さすがは、タンニーンさん。この広い峡谷に響き渡るぐらいのキレのあるツッコミである。研究が大好きで『不真面目を体現したような人物』と称される、堕天使の総督。精神攻撃が大好きでちょっと悪い知識を教えてくれる、番狂わせの魔術師。ゲームが大好きで唯我独尊を地で行く、超越の魔王。ディハウザーさんとも話すんだけど、彼はシスコンであること以外、稀にみる大変常識的な悪魔である。今更だけど、これだけ濃いヒト達に囲まれていたら、影響ぐらい受けると思う。みんなキャラが、もう尖がっているからね。

 

 それからしばらくして、無事に模擬戦は終了した。終わった瞬間に、魔力でチビドラゴンにわざわざなったタンニーンさんから、勢いよく頭を尻尾でどつかれたけど。怒りで性転換銃(試作品)を壊されそうだったので、アザゼル先生からの借りものだと告げて、なんとか保護する。「とりあえず、あの元凶(バカ)からしめる」と獰猛な牙を見せて、怒りのオーラを噴き出す魔龍聖様。

 

 やらかしたのは俺だけど、そもそもの製作者である先生の冥福を静かに祈った。タンニーンさん、なんだかんだで子どもには優しいからね。後頭部が未だにヒリヒリして痛いけど。ラヴィニアの神器でたんこぶを冷やしてもらい、メフィスト様に感心と呆れを含んだ微笑みをもらい、相棒からは『自業自得』的なアホの子を見るような思念をいただく。

 

 ちょっと待って、相棒。模擬戦中、相棒だってノリノリで思念を送っていたと思うんだけど? そう心の中で考えると、さらっとスルーされたような気がする。俺は「このやろう」とぺちぺちと相棒の柄を叩いておいた。ラヴィニアに生温かい視線を向けられたから、すぐにやめたけど。

 

 こうして、裏社会に入ってから二度目となるドタバタした夏休みが始まったのであった。

 

 

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