ひとりひとりと、女神と人と。~改訂作業中~   作:M崎

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 どうも初めまして。M崎と申します。
 ラブライブ!のSSを書くのはこれが初めてで、分からないところなどもまだまだありますが、どうぞよろしくお願いします。

 さて、本編を始める前に、先に言っておきます。
 この話には、アニメやゲームとの矛盾がいくつかあります。

 それは、
 ・既にμ’s(彼女ら)は有名になっている(1年前、穂乃果たち2年生組が1年生のときに結成済み)。
 ・曲の発売順を大幅に変更。
 ・主人公以外にも、アニメや小説、公式設定に存在しないキャラクターが登場する。
 の3つです。

 おそらくすごく読みづらいと思いますが、こういうものだと思って読んでいただけると幸いです。

 それでは、0.97話をどうぞ。
 出来れば読み飛ばさないでください、お願いします。
 

 ※5月4日追記

 最初にプロローグを追加、そして大幅改稿しました。
 そしてこのAct.1は、言うなればあらすじの説明回です。




Act.1 Prologue
0.97話


 

 ―――2014年、9月13日。

 ―――東京都千代田区、外神田。

 ―――世に言う「聖地・秋葉原(アキバ)」と呼ばれる、中央通りの路上。

 ―――そこに出来た特設ステージの前で、ひとりの少年が、夢を見ていた。

 

 

 (…すげぇ)

 

 

 驚く少年の目の前では、女の子たちが、可愛らしい衣装をつけて、踊っていた。

 

 精一杯、力いっぱい、踊っていた。

 

 メロディーに合わせて、ステップを踏んでいた。

 

 少年が見た限り、彼女たちは少年と同年代くらい。

 少年と同じように「青春」を生きる中高生くらい。

 

 でも、彼女たちは少年と違って、きらきらと(まばゆ)く、燦々とまぶしく、輝いていた。

 

 

 (…すげぇ、すげぇ…!)

 

 

 興奮した少年の目の前には、たくさんの(ファン)たちがいた。

 1000を優に超える、老若男女さまざまな、人がいた。

 

 その全員が、目線という目線を彼女たちに向けて、踊っていた。

 彼女たちの一挙一動に、彼女たちの唇から紡がれる旋律に、文字通り酔い痴れていた。

 

 そして全員が、彼女たちに、言葉にできる声援と、言葉にならない声援を、送っていた。

 

 

 「がんばれーっ!!!」

 「いいぞーっ!!!」

 「大好きだよーっ!!!」

 

 

 ひとつひとつの声が合わさり、こだまして、大音量となって彼女らに降り注ぐ。

 

 

 それは、もしも自分に向けられていたら…とぞっとするくらいの注目だった。

 およそ彼女たちに向けられる量ではない、ある種の「数の暴力」だった。

 罵倒ではないはずなのに、応援してくれているはずなのに。

 

 少年だったら恐怖に顔をそむけてしまう。前を向いていられなくなってしまう。

 

 

 ―――でも、彼女らは。

 

 

 「―――みんなーっ、ありがとーっ!!!」

 「これからも、凛たちをよろしくにゃーっ!!!」

 「一緒に歌って、踊ろうよーっ!!!」

 

 

 彼女たちは、そんな衆目の中でも、物怖じすることなく、楽しそうに、歌っていた。

 声援に手を振って、別の世界へと人を誘って。

 

 今この場にいる人々に、大きく幸せな夢を魅せて。

 

 

 (…ああ、すごいなぁ)

 

 

 ―――すごい。

 ―――すごい。

 ―――すごい。

 

 夢見る少年の心は、ステージの上で踊る9人の女の子たちに対する、賛美で満ちていた。

 彼女たちに対する尽きぬ興味が、ふつふつと浮かび上がってきていた。

 この少女たちに、強く惹かれ、強く好意を抱いていた。

 

 

 ―――そして。

 

 曲が終わるころには、少年は彼女たちの虜になっていた。

 

 

 「最高だったよー!!!」

 「また聞かせてねーっ!!!」

 「「「アンコールっ!!!」」」

 

 

 「みなさん、ありがとうございますっ!!!」

 「でもざんね~ん。にこたちにはぁ、アンコールをしている時間はないのっ」

 「ごめんなぁ、次こそはちゃんとアンコールするから、許して、な?」

 

 

 人々の拍手に包まれる彼女たちに、少年も心の底からの拍手を送る。

 

 大好きになった彼女たちに、一人のファンとして、少年は祝福を送る。

 

 その呼び止めに手を振る彼女たちに、少年は掌が痛くなるまで手を叩く。

 

 

 「じゃあね、みんなーっ!!!また来てねー!!!」

 

 

 そして彼女たちがステージの袖に消える瞬間。

 

 

 ファンたちの拍手が一瞬大きくなるそのタイミングで。

 

 

 少年はひときわ大きく手を叩き。

 

 

 ―――心の中で、こう、叫んだ。

 

 

 

 (―――すげぇ、すげぇよ、μ'sっていうアイドルは!!!)

 

 

 

 これが、日本一のスクールアイドル・μ'sとの出会い、一目惚れした瞬間。

 そして、少年が、「美少女」を、好きになった1日。

 ―――少年にとって、忘れられない1日である。

 

 

 

 

                  ★

 

 

 

 それから9か月後。

 

 「転校だぁ?」

 

 少年―――名を、神城柊哉(かみしろしゅうや)―――は、条件反射的に聞き返した。

 それほどまでに唐突に、用件だけを、端的に、告げられたのだ。

 2015年の6月26日、昼休み。

 東京都某所、私立安津(やすづ)学園。

 放送で呼ばれ、理事長室に召喚されたと思ったらこのザマ。

 意味わかんねぇよ、と柊哉は天を仰ぐ。

 

 「―――そうだ。…神城、キミは7月1日をもって、この安津学園高校を、去ってもらう」

 「理由は?」

 

 しかし、呼び出した当の本人―――この学園の理事長(72・ハゲ)は、淡々と同じ言葉を繰り返すのみで、ほかに何も言わない。

 まるで何もなかったかのように、後に付け加えた疑問も完全無視。言いたいことは言ったとばかりに椅子にふんぞり返っている。 

 

 (―――コレだよ…)

 

 その傲岸不遜な態度に、柊哉は悔しさのあまり唇を噛んだ。

 

 あの理事長(ハゲ)は、柊哉の言葉なぞ全く聞いちゃいないのだ。

 わが道を行き、他人は省みない。

 要件を告げるだけならまだしも、マイペースを貫き、気まぐれに質問に答える。

 非常に頭に来る対応の仕方だ。反吐が出る。

 

 「もう1度言うぞ?―――何故俺が転校しなければならないのか、その経緯を教えろ、ハゲ」

 

 だから柊哉は、尊敬語も丁寧語も地平線の彼方にブッ飛ばして、もう1度、理事長(ハゲ)に同じ質問を問うた。

 恐らくどうあがいても一発で退学になるであろう質問の仕方。

 だが今回ばかりは致し方ない。

 何せ全く説明を貰っていないのだから。

 

 理事長(ハゲ)は、あからさまな不機嫌面のまま、鼻を一つ鳴らすと、柊哉に対して理由「だけ」告げる。

 

 「―――お前が選ばれたからだ」

 「いっちょんわからん」

 「―――お前が選ばれたからだ」

 「分からんといったぞ?」

 「お前が選ばれたからだ」

 

 何度聞かれても、補足説明もなしに同じことしか言わない理事長(ハゲ)に、柊哉は今度こそキレた。

 つかつかと理事長(ハゲ)のデスクへ近づくと、その胸倉を思い切りつかむ。

 

 「繰り返して分かると思ったかバカ野郎が。ハゲは思考能力まで抜けていくのか」

 「今ので分からないかバカ野郎が。脳味噌がエアウィーブで出来てんのか」

 

 だが理事長(ハゲ)は柊哉の睨みに真っ向からぶつかってくる。

 妥協する気は全くないらしい。

 あるいは、一生徒に負けるような要素がないとでも言うのだろうか。

 

 (…イラッと来るジジイ!!!)

 

 だがどちらにせよ、それは柊哉の怒りをさらに増長させるだけ。

 ガンの応酬。

 年齢差50歳以上の2人が、至近距離でにらみ合いを効かせている。

 譲らない。譲れない。譲りたくない。譲ってはいけない。

 柊哉は目の前の脂ぎった老け顔を睨みつける。

 

 

 その状態のまま、2分が経過。

 

 

 先に折れたのは、理事長(ハゲ)だった。

 

 

 「…もういい、脳味噌がカニ味噌の半分しかないお前でも分かるように、1から丁寧に説明してやる。感謝しろ若造が」

 

 ひとつため息をついた理事長(ハゲ)は、説明の確約を約束する。

 そこには仕方ない、教えてやろうという圧倒的な上から目線があった。

 柊哉はそれにイラッと来るが、精神力で殴る衝動を抑え込み、笑顔を作る。

 

 「はん、最初からそう言っとけやハゲ。老いぼれ風情が一々回りくどいことすんな」

 

 ストレートな罵倒を与えながら、あえて引き下がり、一度下手に回る。

 

 「―――んで、理由は何だよ」

 

 そして即座に柊哉はもう一度理由を問うた。

 

 これこそが最優先事項である。

 理由がなければ、柊哉はどこにも行く気はない。喜んでここに居座ってやる。

 だが逆に言えばちゃんとした理由さえあれば、柊哉としてはどこに送られても構わないのだ。

 

 それほどの肝の据わった感情が、先ほどの口論の結果、柊哉の心に生まれていた。

 理事長の口から語られるであろう、「理由」をじっと待つ。

 

 「………………」

 「………………」

 

 間に沈黙が訪れた。

 片や「はよ喋れや…」という柊哉の沈黙。

 片や「まぁ待ちな…」という理事長の沈黙。

 

 果たしてどちらが勝つのか。

 

 待つこと数十秒。

 

 

 今度は柊哉が先に折れた。

 

 

 「―――まぁ、まずは理由じゃなくたっていい。俺がどこに転校するのか、いつから転校するのか、とかそういうとこから、懇切丁寧に説明してくれ」

 

 

 

 胸倉から手を放して、柊哉が下したのは「妥協」と「代替案」。

 それも理事長の意向を汲んで、柊哉の意向も織り交ぜた、完璧な「寄り道」。

 

 「…あぁ、分かった」

 

 その甘すぎる代替案に、理事長(ハゲ)は意外と素直に、椅子に身を沈めて、応じた。

 柊哉としては願ったり叶ったりの展開。

 内心小躍りしたい気持ちを封印し、柊哉は最初に「WHERE」と問う。 

 

 「んで、どこに行くんだよ俺は」

 

 理事長はその問いに少しだけ目を開くと、次には机の上で手を組んで、ぶっきらぼうに言った。

 

 「―――神城。今回お前の行く学校は、少しというかだいぶ特殊でな」

 

 ―――なぜか、声のトーンを1段階落として。

 

 (…あら?変なスイッチ踏んだ?)

 

 その声の出し方に、「何かあるな」と直感で感じ取った柊哉は、しかしそれを表に出すことはせず、更に情報を引き出すために、わざと不思議そうな顔を作った。

 

 「?」

 「まあ別に、特別な何かがある、というわけではないのだが…ここからの話は俺とお前だけのものだ。絶対に他人には漏らすな」

 

 (…いや、確実に何かあるな)

 

 そして次のセリフで、柊哉の疑念は確信へと変わる。

 理事長(ハゲ)の言い回しが妙に回りくどい。まだるっこしいというかくどい。

 そしてやたら機密性が高すぎる。

 「絶対に(イグザクトリー)」、と言った以上、この後確実にアレな話があるはずだ。

 

 一瞬の隙間で考え抜いた柊哉は、フン、と鼻を鳴らして、面倒臭そうに応じる。

 

 「仰々しいことだなー。…まぁ、分かったよ。俺の将来を決める大事なお話だからな」

 

 そして耳を傾けた。

 理事長(ハゲ)が語るであろう話へと。

 これから先の自らの行く末が決まる道標(みちしるべ)へと。

 

 柊哉の期待を一身に背負った理事長(ハゲ)は、今度はただ不機嫌そうに、さも嫌そうに、言葉を呟いた。

 

 

 

 「―――お前の行き先は、神田小川町にある、国立音ノ木坂学院という、入試倍率4倍の超有名校、それも女子高だ。良かったな、神城。通学先がむさくるしい男子高から華々しい女子高にクラスチェンジだ」

 

 

 

 「―――あ、確かにこれは誰にも言えんわ。お前間違ってねぇわ」

 

 その夢のような言葉に、柊哉は驚くよりも先にまず理事長(ハゲ)の気遣いに感謝した。

 確かにそうだ。これは呼び出してここで話すべきだ。

 十中八九蜂の巣をつついたような大騒ぎになる。それも「羨ましいぞコノヤロウ」という、清々しくも本気の殺意だ。リアルに身の危険を感じるし、何よりとても鬱陶しい。

 

 理事長(ハゲ)も同じ気持ちだったようで、柊哉の斜め左上に視線を向けながら、ため息をついていた。

 

 「…だろう。俺としても面倒ごとはこれ以上増やしたくない」

 「でしょうね。…で?なんで俺が転校せにゃならんの?」

 

 柊哉はそのため息に相槌を打って、すぐさま次の話題へとシフトチェンジ。

 それも聞いた「いつ」ではなく、一番聞くべき質問、「なぜ」を聞いた。

 前の「どこ」だけでこれだけ大きな爆弾を抱えているのだ。

 順番を無視して、理事長(ハゲ)に聞いても誰が咎めよう。

 

 (…それに、こんだけ意味不明なこと言ってりゃ、流石に何かしらの説明があるだろうしな)

 

 柊哉はさらに彼の義務感も考えて、理事長からの言葉を待つ。

 

 だが、事情は柊哉の考えとは全く違っていた。

 理事長(ハゲ)はその質問に、何故か「呼吸の仕方を説明しろ」と言われたかのような、何とも言い難い顔をしてこちらを見ていたのだ。

 そしてそのまま、ばつが悪そうに進言してくる。

 

 「…一応、音ノ木坂の『男女共学化試験』の体験入学生というくくりだ」

 「ほうほう?つまり、女子高に一回男子をぶち込むというアレだな?」

 「そうだ。―――だが…」

 「…だが?」

 

 

 「…その依頼が本当だという保証がどこにもない。…もっと言えば、音ノ木坂が出しているかどうかすらも怪しい、ということだ」

 

 

 一度喜びかけた柊哉は、その次に流れた衝撃の事実に目をひん剥いた。

 

 「…おい、どういうことだ…?」

 「知らん。俺に聞くな。…通う学校は音ノ木坂学院で決定だから、つべこべ言うな」

 「意味わかんねぇよ…」

 

 柊哉がいくらぼやいても、理事長(ハゲ)はただ首をすくめるばかり。

 どうやら本当に何も知らないようだ。隠し事をするときに出る、「いっひっひ」という感じの、あの邪悪なオーラがどこにも見当たらない。

 これじゃ追及は無理か、と柊哉は歯噛み。

 

 これは、わざと話に乗り、その「音ノ木坂学院」に直接聞きこむしかないだろう。

 絞り出せるだけ絞っておきたかったが、何も知らないのでは手の打ちようがない。

 

 「…分かった。その話に乗ってやる。俺が女子高に通うようになんのはいつからだ?」

 「―――お前の転出は、前も言ったとおり7月1日、来週の水曜日だ。それまではここに通え。制服やら地図やら準備物やらは明日送る」

 「りょーかい。何から何までありがとなー、ハゲ」

 「気にすんな」

 

 軽い挨拶とともに、理事長(ハゲ)に大まかなスケジュールを聞き、ひとしきり感謝。

 

 そして理事長室から出て、木製のドアを音を立てて閉める。

 

 (…にしても、女子高、か…)

 

 その直後。

 柊哉は、先ほどの言葉が心にじわじわと満ちてくるのをはっきり自覚した。

 ゆっくりと、上質なチョコレートを熱で溶かすような、濃密な歓び。

 「(一応)女子高に通える」という、誰も感じることの出来ない優越感。

 先程の理事長の爆弾で飛びかけていたが、自分は女子高に通うのだという、変わることのない事実。

 

 (…マジの話で、7月から女子高、か…)

 

 それが体全体に行き渡った刹那、柊哉は拳を握り、天に掲げて、叫ぶ。

 

 

 

 「―――やったぜ!!…俺の人生、勝ち組だ!!」

 

 

 

 ―――それから7月1日までの4日間、柊哉はウキウキワクワクのまま、眠れない夜を過ごしたとか過ごしていなかったとか。

 

 

 

                    ★

 

 

 

 (…やー、神保町の駅から近くて助かった。半蔵門線万々歳だぜ)

 

 そしてついにやってきた、7月1日、水曜日。天気は爽やかを通り越して普通に暑い、ピーカンの空だ。

 炎天下の中、神城柊哉は1人、女子高・国立音ノ木坂学院の前に立つ。

 若葉に色づいた桜の下、高2なのに新品の制服を纏い、まるで転校生のように。

 当然視線の嵐だ。「なんじゃコイツ…」という奇異と殺意の嵐。

 

 (―――ま、そりゃ注目食らうよな…)

 

 だが、まぁそれも納得はいく。なんせここは天下往来の神保町なのだ。人も車もわんさかお通りするのだ。

 そんな場所にある女子高の校門前に、男が1人、7月初め、プロローグモードをバリバリ漂わせながら佇んでいる。

 周りから見ればどう考えてもおかしい奴だ。

 

 (…くっそ、落ち着かねぇ…怖いよこれ…まぢ怖いよ…)

 

 当然、心は狂っている。緊張と不安、それに少しの恐怖で。

 だが柊哉は、それらを自己暗示で無理やり押さえつける。

 

 「―――俺は大丈夫、俺は大丈夫。別に僻まれるようなこたねぇ、俺は普通に通うだけ、視線なんぞに負けてたまるかっての。俺は、大丈夫っ!!」

 

 そう結論付けて、柊哉は強引に思考を切る。それ以上、考えないようにする。

 考えたら、また不安のどん底に落ちそうなので、もう、これでおしまい。

 この状況の時点で、もはや「普通」とは呼べないことに、柊哉は気づかない。

 

 (―――つーか、それよりも…)

 

 しかし今の柊哉には、それ以上にもっと気になることがあった。

 否、気になる、というよりかは、気にする、というべきか。

 下手したら最悪の展開をも生みかねないこの今の状況。

 端的に言うと、

 

 

 ―――ただいま、絶賛大遅刻中である。

 

 

 ハゲ(理事長)が言うに、集合時刻は午前8時30分、のはず。

 遅刻寸前、と言ったくらいの時間だ。

 

 しかし今の時間は、

 

 「…おい…。10時52分とか、シャレにならんぞ…」

 

 集合時間を2時間もオーバー。遅刻も遅刻、大遅刻。

 1時間目どころか3時間目くらいまで始まっている勢いだ。これは酷い。

 生徒からの印象は最悪だろう。

 まぁちゃんとした遅刻理由があるにはあるのだ。

 言っても信じてもらえないだけで。

 

 それらの事実が指し示す真実はひとつ。

 

 (あー…こりゃ女子高ライフは無理だな)

 

 潔い諦念、それだけ。

 ―――「絶望」の2文字、ただそれだけ。

 つまりはこの高校で、カッコつけたデヴューを飾ることは出来ない、という残酷な真実。ただのキャラ崩壊?否、それより前に、信頼が得られないのだから、「キャラ」も何もない。そこには不審、不信があるのみ。

 もう、諦めるしか、ないのだ。

 

 (…んじゃ、どうするか。今日中に、この学校で、うまーくやり過ごす方法ねぇ…)

 

 残された可能性は。

 渾身の土下座と最高の好印象を引っ提げて、教室と理事長室に滑り込めば、運良く、信用が戻るかもしれない、というだけ。

 いくら考えても、ここから失われた信用が簡単に戻るとは思えない。

 

 「あるえ?高すぎないすか、俺の女子高ライフの難易度?…やっぱ遅刻なんてすんじゃなかった…」

 

 ぶつぶつと独り言をつぶやきながら、(きびす)を返して、後ろを向く。

 言いようのない諦観を抱えて、校門の周りをウロウロと歩き回る。

 

 

 ―――そのとき。

 

 

 柊哉の後ろ、校門の傍に、柊哉以外の別の人間が、登場した。

 

 『………………っ!!』

 

 音ノ木坂学院は女子高なのだから、やってきたのは当然女子。それも、どこかハーフの感じ漂う、綺麗な金髪美女だ。

 そのあまりの美しさに、周囲の人は思わず息を呑む。

 憧れの人の登場に、思わず時間を停止させる。ただ現れただけなのに、彼女に見惚れてしまう。空気を入れ換えてしまう。

 それほどまでに、美しく優雅で、人目を惹く行動。

 

 これぞ、「美少女」。

 

 

 しかし残念ながら、柊哉は1度で、その動きに気づかなかった。

 興味をなくしたかのように、もう、帰宅しようか、なんて考えて、校門から遠ざかっていた。

 

 (あー、止めだ止めだ!俺はもうここじゃ上手くやっていけねぇ!!)

 

 やけくそのように頭をかきむしり、帰る気満々だった柊哉を、1つの声が、呼び止める。

 

 

 「―――随分と遅かったわね。貴方が、理事長がおっしゃっていた神城柊哉くん、かしら?」

 

 

 大逆走。

 その澄んだ声が聞こえた瞬間に、柊哉は華麗なるバックステップをとった。

 そしてF1もかくやの鮮やかなターンを決めて、校門近くまで猛ダッシュ。

 

 (…おい、あれは、まさか)

 

 それは、聴いたことのある声だったから。

 それは、久しく聴いていなかった、女子の声だったから。

 それは、大好きな歌手の歌声に、そっくりだったから。

 

 門までの20メートルを、息切れもする暇も無く走りきった先。

 音ノ木坂学院の正門前に、悠然と立っていたのは。

 

 

 「―――但し、初日から遅刻とはどういう意味かしら?神城くん」

 

 

 ―――それは天啓のようなものだったのかもしれない。

 柊哉の前に立っていたのは、ひとりの、美少女。

 彼女は、見間違いでなければ。

 柊哉の大好きなアイドルグループ、「μ’s」のメンバーのひとり。

 「9」の点呼をとる3年生、絢瀬絵里(あやせえり)

 正門の前に、たった一人で、優艶に、風雅に、立っていた。

 

 思わず柊哉は見惚れてしまう。

 立ち姿に、髪色に、纏うオーラに。

 瞬間、立つ2人の間を、初夏の爽やかな風が吹きぬけた。

 

 

 ―――この日が、神城柊哉とμ’sの織り成す、長く短い9ヶ月のスタート。

 7月1日。

 彼は「美少女」に、夢を見る。

 

 

 

 




 いかがでしたでしょうか。

 感想や評価など、お待ちしております。

 それでは、また!

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