ひとりひとりと、女神と人と。~改訂作業中~   作:M崎

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 …あ、あれぇ…?

 書けちゃったよ…?何でか知らんけど12月中に8話書けたよ…?

 全く自分の緊張感のなさに笑いが出てきますよ。

 ということで、お久しぶりの8話、どうぞ。

 まだまだ不定期更新ですよー?とりあえずの生存報告でございます。

 あと、今回ちょっと長めです。
 大体5800文字くらい。




8話

 7月10日、金曜日。

 音ノ木坂学院生徒会室は、少しだけ、重い空気が立ち込めていた。

 もやもやっとした感覚を左手に持ちながら、柊哉は歯噛みする。

 

 (―――くそっ…)

 

 自分の気持ちを、左手で握りつぶす。

 

 やってしまった、という感情もあった。

 後悔もない、と言えば大嘘つきになる。

 絵里(えり)をつい追い出してしまった、という罪悪感もあった。

 追いかけられなかったことに悔しさも感じた。

 

 というか、それら全部を含めて、柊哉の心の7割。過半数を占めている。

 

 だが、柊哉の感情の残り3割は、罪悪感でも悔悟の念でもない。

 

 柊哉は握りしめていた左手を無理やり開いて、空気に問いかけた。

 

 「やっちまったぜオイ…どーすりゃいいのん?」

 

 それに答える人はいない。

 夕凪の空気が、薄いガラスの入った窓をカタカタと揺らすだけ。

 誰もいない空間で、1人、空気に問いかけている柊哉が存在するだけだ。

 

 ―――その、はずだったのに。

 

 「…そうやねぇ…まぁ、えりちを怒らせたら、元も子もないやん?」

 

 癒しのハイトーンボイスが、問いかけに応えるように、柊哉の後方からかかってきた。

 

 それは本来なら聞こえるはずの無い声だが、聞こえる可能性が2番目に高い声。

 絵里に次いで、この生徒会室に来る可能性の高い人の持つ声。

 そして、柊哉の大好きな、アイドルグループの1メンバーが歌う声。

 

 柊哉はその声に振り返りはせず、代わりに困ったように言葉を紡いだ。

 

 「―――なんでいんのよ、(のぞみ)…」

 「ふふ、うちはえりちのことなら何でも知っとるんよ、柊哉くん」

 

 その声の主―――東條(とうじょう)希は、少し余裕の無い柊哉と違って、いつも通りの声音。

 今も、あの見透かすようなミステリアスな碧眼(エメラルド・アイ)で、柊哉を見ているに違いない。

 

 柊哉は、それに多少の苦笑と少しの安心感を感じながら、後ろを振り返った。

 

 「絵里といえば希、希と言えば絵里だからな…まぁ、いるんじゃないかとは思ってたよ」

 「それは嬉しい言葉やけど、今は柊哉くんの問題だよ?ちゃんと考えな」

 「ま、そりゃそーだよな…ああもう、今更ながらに現実が突き刺さってくる…」

 「そりゃあ、えりちを泣かせたんやからね。うちとしても、本来なら鉄拳制裁のコースなんやけど…」

 「本来なら…?」

 

 柊哉はその聞き慣れない言葉に首を傾げる。

 今が「本来」でないのなら、それはなんだというのだろうか。

 

 だがその答えは、柊哉が問う前に、希のほうからもたらされた。

 

 「―――今回はそうも言ってられんのよ。だから、うちが助けたる」

 「ふうん…止むに止まれぬ事情があるってことか。よく分からんけど、了解。んで、手助けってのは?」

 「うちが、えりちと柊哉くんを仲直りさせたる、って言っとるんよ。うちの気紛れやから、次あるかどうかは分からんよ?」

 「ほうほう身に余る光栄ですな。その気紛れ、のポイントが今ここに来たのか」

 「せや。…そんでどうする、柊哉くん?」

 

 そこまで言うと、希は言葉を切り、柊哉の答えを待つかのように目を閉じた。

 この時間を利用して、柊哉も少し考えてみることにする。

 

 確かにこの取引はメリットがでかい。

 柊哉は、絵里に関してまだ知らないことが多すぎる。誰よりも絵里を傍で見てきた希の知識をアテに出来るのは、心強い。

 それに希なら、上手くやってくれるのではないか、という淡い期待もあった。「自分が楽を出来るのではないか」という甘えは、無いといえば嘘になる。

 

 「―――遠慮しとくよ」

 

 だが柊哉は、それを知った上でなお、断った。

 

 「…理由は?」

 「希が苦労するからだろ」

 

 希が理由を伺うように言葉を発しても、柊哉は条件反射的に理由を返せた。

 その泰然とした目に気圧されたのか、希は「ふーん…」と頷いて言葉を切る。

 

 だが柊哉のこの理由、半分は本音で半分は嘘だ。

 

 「希を大切にする」という理由のほかに、柊哉は「これは俺の解決すべき問題だ」という、ある種のプライドみたいなものを抱えている。

 自分が問題を作ったのだから、自分がそれを解かねばなるまい、と。

 他人から見れば唾棄すべき、ちっぽけなプライドだ。

 しかし、この問題は人に対して作ったわけではない。他人に見せるために、汗水たらして作ったわけではないのだ。

 

 そしてこの手の問題は、自分が何かしらのアクションを見せないと、状況は変わらない。

 柊哉はこれまでの経験から、それを身にしみて痛感していた。

 それにこれは、自分自身の本能やカン、常識、といったものが、柊哉を苛んだ結果だ。

 そしてそれらは宣言した。

 

 他人を頼る、という行為が、どれほどまでに面倒な行為か、知らないわけがあるまい、と。

 

 故に柊哉は断言する。

 

 このプライドを守り抜くために、他人には頼らない。

 自分自身の力だけで、事を動かす、と。

 

 「大丈夫だって。俺の問題なんだし、俺が解決するよ」

 「…………ふぅん、そうか。そりゃ、そうやなぁ…」

 

 結論付けた柊哉がきっぱりと言い放つと、希も納得したかのように引き下がる。

 それに柊哉は、ほっ、とため息をついた。

 

 そう、これでいいのだ。自分さえ無理をすれば、大好きなμ’sの手を煩わせなければ、これで…。

 

 柊哉がそう、回想していた、そのときである。

 

 

 

 ――――――パァン。

 

 

 

 小気味いい破裂音が、柊哉の右頬を打ち抜いた。

 

 そのとっさの出来事に柊哉は反応できず、目を白黒させる。

 自分は平手打ちされたのだ、と脳が感じるのにすらタイムラグがあった。

 だがそれよりも速く、綺麗な音は生徒会室の壁で反響して、小さなエコーを形作る。

 それが耳に届いた瞬間、遅れるように右頬がじんじん、と痛み出す。

 

 反射的に右頬を押さえた柊哉は、目線だけを前方に向けた。

 

 「――――――」

 

 目線の先にいた、柊哉を平手打ちにした張本人―――東條希(とうじょうのぞみ)は、いつもと変わらぬ笑顔で、事態がつかめていない柊哉に、こう言い放った。

 彼女の華奢な左手を、振り抜いた体勢のままで。

 

 

 「―――柊哉くんは何も分かっとらん」

 

 

 苛烈。

 

 辛辣な声音が、柊哉の心を突き刺す。

 疑問と反復が()()ぜになって、柊哉の脳内で荒れ狂う。

 納得の感情は見えない。

 自分が何を間違ったのか、が分からない。

 柊哉は悩む。

 

 (―――でも)

 

 だがそんな柊哉にも、これだけは分かった。

 笑顔なのに、突き放したような希の冷たい目線。

 見透かすように透徹(とうてつ)なのに、慈愛すらも垣間見えるちぐはぐな色の目。

 

 この目は、自分を見ている。

 内なる自分を見ている。

 自分の本性を、()ている。

 

 (これは俺に非があるやつやな…)

 

 何処か居心地の悪いものを感じながら、柊哉は理由を問う。

 

 「…理由を、聞こうか…」

 「柊哉くん、全部1人で何とかしようとしすぎ。無理しとるのが丸分かりや」

 「でも…これは俺の問題で…俺が解決しようとしなきゃいけなくて…」

 

 だが希を前に、言葉がだんだんと尻すぼみになっていくのが、柊哉にも分かった。

 

 それはどこかで、希の論理に納得しているからかもしれない。

 自分の方がおかしいって分かっているのかもしれない。

 

 確かに、希の言葉は正論だ。

 自分は、少し10日間で頑張りすぎたかもしれない。

 しかし、それだってまだ許容範囲だ。

 自分はもっと頑張れる。

 

 そう信じていかないと、正解なんて導き出せない。

 

 (そうだ、俺は、そうでなくては)

 

 これは自分の信念だ。

 意地っ張りでプライドの高い、神城柊哉(かみしろしゅうや)という男の、小さな自尊心(いじ)だ。

 それを少しでも、希に分かってもらいたくて。

 小さな言葉でも懸命に、たどたどしくも鮮明に、柊哉は結論の欠片を語る。

 

 

 だが希は、その倫理すらも一刀両断に付した。

 

 

 「そんなわけない。自分1人で解かなきゃいけないのなんて、テストと入試だけだよ?それに…」

 

 そこで言葉を切った希は、2、3度息を吐いて、コンディションを整える。

 そして、一番言いたかった言葉を言うかのごとく、真剣な瞳で、言った。

 

 

 

 「―――今の柊哉くん、今のえりちとそんな、大差ないで?」

 

 

 

 (あ…―――)

 

 ズン、と。

 柊哉は頭を横いっぱいに殴られるかのような衝撃を受けた。

 目を見開き、言葉を脳で反芻(はんすう)する。

 

 考えてみたらそうだ。

 絵里は、穂乃果(ほのか)が生徒会長に立候補したことを、誰にも打ち明けなかった。

 自分だけの問題だ、と割り切って、絵里1人で解決しようとした。

 字面だけ聞けばさぞかし誉れ高い行為に聞こえる、そんな行動を起こそうとした。

 

 ―――だがその結果、絵里は、柊哉の些細な言葉によって、あそこまでメンタルを崩すほどの精神状態になってしまったのだ。

 希の言う、「無理をした」結果。

 

 「―――…こう言っちゃなんだけどね…えりち、ちょっと1人で頑張りすぎたんかもしれん。抱え込みすぎたのかもしれん。…でも、それを知っているのに、何も出来なかった自分も…ちょっとだけ、悔しい」

 

 希は柊哉と向き合って、独白する。

 綺麗な翠色(エメラルド)の瞳は哀しげに伏せられて、地面よりも少し上を見つめている。

 柊哉は黙って聞いていた。

 希の自虐が、翻って柊哉を虐げているように思えて、何も言えなかった。

 一文字一文字が、柊哉の胸にのめりこんでくるような感じがして、ただただ圧倒されていた。

 

 (…ああ、そうか)

 

 そして、先ほどは感じなかった、納得、の2文字が体を駆け巡る。

 

 希の言うことは、何一つ間違っていない。

 空論でも暴論でも反論でもない。

 正論でしかない。

 柊哉は、正論にいちゃもんをつけて、間違いを見ないようにしていたのだ。

 最初から、柊哉(じぶん)が間違っていたのだ。

 間違っている、という確固とした事実に気づけなかった柊哉(じぶん)が。

 

 希の声が空間を振るわせ終えた瞬間、柊哉は自問を開始する。

 

 もしも。

 もしもの話。

 隣で頑張っている人がいたら、柊哉はどうするだろうか。

 おそらく、…否、十中八九、柊哉は助けるだろう。

 それが例え向こうの迷惑になったとしても、見捨てるよりかはマシな結論だ。

 影ながら、ひっそりと、環境を整えて、暗躍するだろう。

 

 だがそれすらも出来なかったら、柊哉はどうするのだろう。

 たとえば、本人から手助けを拒否されたときは?

 ゴリ押しでいってもいい。

 表向きは断って、裏で手伝ってもいい。

 ヒーローを装ってもいい。

 でも、それすらも出来なかったら、柊哉は―――黙って見ているしかない。

 

 例えそれが―――自分の唯一無二の、親友であったとしても。

 

 希はそれが許せないのだ。

 ただ横で見ているだけ、というのが、たまらなく辛いのだ。

 1人の人間が無理をして、壊れていくさまをただ、見守るだけであることが、辛いのだ。

 

 「えりちが頑張っとるのに、それを無視した自分は…もっと、辛い」

 

 そしてその感情は、柊哉の心に大きなパンチを繰り出した。

 まともに食らった柊哉の心は、大きく揺らぐ。

 

 納得、という2文字で絆された柊哉の自尊心(プライド)が、静かに(くずお)れてゆく。

 

 と脆くなったそこに、駄目押しのストレートが叩き込まれた。

 

 「だからうちは…えりちを助けたい。それが、うちのすべきことだと思うから。…お願いや、柊哉くん…うちも、えりちのこと、手伝わして?」

 

 これは本心からの、お願い。

 おそらくは柊哉に見せた、希の初めての懇願。

 自分自身の感情を偽り、プライド、という一言でその全てを覆い隠していた柊哉の目に、それは酷く、(はかな)く映った。

 

 そしてその時点でもう既に、柊哉に「断る」という選択肢は無かった。

 

 「―――分かった。俺が悪かったから…その、絵里のこと、手伝ってくれないか…?」

 

 頭をかきながら、逆に柊哉の方が頭を下げる。

 ごめんなさい、の意味も、手伝ってもらえますか、の意味も込めて。

 

 希もそれを見てようやく、ふっ、と表情をほころばせると、大きな胸を張って、力強く告げた。

 

 「―――よし。うちに任しとき。柊哉くんよりも、いい仕事してあげる」

 

 その魅力的な微笑みを見て、柊哉も小さく肩の力を抜く。

 想像より遥かに重い仕事をしていたのか、回した肩は、予想以上に重かった。

 

 パキポキ、と音を鳴らして肩をまわす柊哉に、希もクスリ、と笑う。

 

 「―――あー…肩が痛い…」

 「今更痛むくらいなら、もっと働けるやんね?」

 「おい。それはまるで俺が仕事をし足りない、と言っているみたいじゃないか」

 「実際欲求不満やろ?」

 「まー、そーだな…とか言うわけ無いだろ…絵里のこともあるし、ちょっと力抜いてから、だな…」

 「そーやね。それじゃ、柊哉くんは先に帰り?生徒会の仕事も片付いたし、今日くらいはうちに任せてみ?」

 「りょーかい」

 

 柊哉は無造作に放り投げられていたカバンをひっつかむと、帰る支度を5秒で済ませる。

 そして生徒会室のドアまで歩み寄ると、軽く手を上げた。

 

 「じゃーな…絵里のこと、頼んだぞ」

 「うん。お疲れ様、柊哉くん」

 

 希の声が、耳元でリフレインする。

 別れの挨拶と同時に、柊哉は生徒会室を出た。

 振り返り、ドアをゆっくりと閉める。

 

 ドアの隙間から見えた希の顔は、どこまでも優しそうで、どこまでも慈愛に満ちていた。

 

 

 

                     ★

 

 

 

 神城柊哉(かみしろしゅうや)がいなくなった後の生徒会室で、東條希(とうじょうのぞみ)は静かに息をついた。

 ため息をつくと天使が1人逃げる、などと言われているが、この際仕方がない。

 

 (―――まさか、えりちと柊哉くんがケンカするなんてね…)

 

 吐息と共に、希は7月1日以来の事実と、7月10日の新事実を確認する。

 柊哉が転校してきたこと、生徒会に入ったこと、μ’sに入ったこと、絵里と仲たがいしたこと…。

 

 ―――希が、柊哉の頬を叩いたこと。

 

 (―――うち、まちがってないよね…)

 

 希は困ったように微笑む。

 自身が取った行動は、柊哉にとって、プラスに働いたのかどうか、少し自信が持てなくなってきたのだ。

 

 だが、柊哉を殴ったことに関して、仮にもしそれがマイナスに働いたとしても、希に謝るつもりはさらさら無かった。

 なぜなら、今までの全ての事実を推敲して、柊哉がとった行動は間違っている、と思ったのだ。

 だから希はその頬を叩いた。

 

 叩かなければ、彼は多分、もう1度、取り返しのつかない大ミスをすると、本能的に感じたから。

 

 希はおもむろにポケットから1枚のタロットカードを取り出す。

 自分の愛用のカードだ。もう4年は使われているだろう。

 でも、希は大切に大切に使ってきた。傷なんてつけさせなかった。

 そんな、綺麗な1枚のカードに描かれている絵柄は―――「愚者(ザ・フール)」。

 

 「―――うちも、柊哉くんも、道化(ザ・フール)のように動いとるわけじゃ、ないんよ…」

 

 0の番号を冠する「バカ」のカードを、希はシルクのような右手で(いと)おしげに撫でた。

 

 

 

 




 か、書き方を忘れている…!
 1ヶ月のブランクって怖い。

 あ、えりち編なのにえりちが出てねぇ…。
 ま、わりかし重要な話なので、8話ってカウントするってことで。

 …というわけで、これを励みに、受験勉強を頑張って生きたいと思いまする。

 それではまたいつか、9話で。

 次は1月か、2月か…?

 追伸

 ごめんね柊哉くん。
 明日誕生日なのに時間が無くて誕生日編打てなくてごめんね?
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