ひとりひとりと、女神と人と。~改訂作業中~   作:M崎

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 はい1月中に打てました、M崎でございます。
 新年明けましておめでとうございます。

 今回もわりかし重要な話ですので、是非感想をいただけるとありがたいです。
 シリアステンション書きづらい…。

 それでは、どうぞ。

 不定期更新は2月に解除できるとありがたいのだが…。

 ※6月9日追記

 5月31日、挿絵を追加いたしました。
 知り合いの神絵師様に描いていただいたのぞえりです。
 惚れ惚れするほど綺麗な絵です。
 皆様もとくとご覧あれ(ステマ)。





9話

 2015年7月10日、金曜日。

 国立音ノ木坂学院、校舎屋上。

 

 

 絢瀬絵里(あやせえり)は泣いていた。

 静かに、だが情熱的に、涙を流していた。

 

 (―――やりすぎて、しまった…)

 

 流麗な黄金の髪(イエロートパーズ)の隙間から、小さな涙の雫が零れ落ちる。

 それは幻想的でありながら、同時にどこか絵画のような情景。

 夏の暑さなんぞどこにも見当たらない、神秘的な光景。

 

 その情景の中心にいる絵里は、心の奥底を問い詰めていた。

 

 「柊哉(しゅうや)…」

 

 小さく、今ここにはいない人物の名前を唱える。

 迷惑をかけてしまった人。

 絵里のエゴに立ち合わせてしまった人。

 

 絵里の心の中には大量の罪悪感と、言い知れない憤りの残り香が、ぷすぷすと(くすぶ)っていた。

 つい5分前の自身の行動を再三思い返し、もう何度したか分からない反省をする。

 

 (非は、私にあるのにね…)

 

 あの時はカッとなって柊哉を責めてしまったが、基本、柊哉に非は無いのだ。

 全て、絵里自身に原因があることだった。

 

 「考えたら、柊哉に責任が取れるわけが無いじゃない…―――」

 

 柊哉は雑務職であって、生徒会長ではない。

 生徒会長、という肩書きを持っているのは他ならぬ自分自身だ。

 責任をとる、という責任があるのは、生徒会長たる自分自身なのだ。

 

 少し冷静になって考えれば、絵里にはすぐに分かることだった。

 では何故、あの時、絵里は柊哉に冷たく当たってしまったのか。

 

 これも屋上に来てすぐ分かった。

 

 「私が、柊哉を過大評価しすぎていたのね…」

 

 自分が、頼りすぎていたのだ。

 神城(かみしろ)柊哉という男に、任せすぎたのだ。

 

 確かに柊哉の仕事のペースは恐ろしく速い。

 完成度も高い上に、仕事もきちんとこなすため、事務職としてはうってつけの人材だろう。

 

 だが、絵里は。

 

 その能力を買いかぶりすぎていたのだ。

 

 柊哉が、全てを完璧にこなすことなど出来はしないと、分かっていたのに。

 

 「――――――っ…」

 

 また一筋、絵里の目から涙が溢れてくる。

 一陣の風が吹いた。

 その風は絵里の制服を揺らしはしたが、絵里の両頬をつたう涙を乾かしはしない。

 

 考えても考えても、事実が突きつけてくるのは「絵里(じぶん)が悪い」という文言。

 心を占める罪悪感に、(かす)かな矜持(きょうじ)すらも押しつぶされそうになる。

 

 

 ―――そんな、夕焼け空の下。

 

 

 「―――やっぱり、ここにおった…」

 

 

 新たな女神が、屋上に来臨した。

 

 絵里は静かに振り返る。

 その女生徒は、屋上に続くドアを開け放った体勢で、絵里を真摯に見つめていた。

 目に宿るのは心配と不安。

 

 絵里は、安堵と羞恥を混ぜた声で、その女神の名を呼ぶ。

 

 「―――………(のぞみ)

 「えりち…」

 

 絵里の親友は。東條(とうじょう)希は。

 どこまでも、自分のことをよく分かっているようだった。

 

 「―――良かった、誰もいなくて」

 

 ―――否、分かっている「ようだった」のではなく、「既に」分かっている。

 家族に次いで、絵里と付き合いが長いのは希だ。このくらいすぐに見抜かれる。

 だからこそ、分かっている上で、絵里を真摯に見つめていたのだろう。

 希の口からは、まるで気づいていないかのように、普段どおりの会話が出てきた。

 

 本当は、涙の意味に気づいているはずなのに。

 

 「えりち、昔はいつも屋上(ここ)におったもんね。よくここで、1人で昼ごはん食べてた」

 「………………」

 「自分が浮いてた、って自覚してたやろ?」

 「―――昔は、ね…。今は、μ’sの皆もいるし、浮いたって思ったことはないわよ」

 「そっか。あれからもう1年くらい経つんやね…うちもあん時は若かったなぁ…」

 「ちょっと。まるで年をとったみたいに言わないの。私までおばあさんみたいじゃない」

 「ふふ、そうやね。うちらまだ18歳なのにね」

 「私に至っては17歳よ…もう、それなのに、背だけ伸びちゃって…」

 「大丈夫やて。えりちは可愛いんやから、もっと自信持ち?」

 「―――無理よ…私なんて…また、勝手に失望して…」

 

 しかし、希の優しさのおかげで戻りかけた自信が、自分自身の重い言葉でまたスーッと消えてゆく。

 それと同時に、頭をかきむしりたいようなむず(がゆ)い気持ちが、絵里の中に沸き起こった。

 自信と痛痒(つうよう)

 気持ちと気持ちとが(せめ)ぎあい、そして、一方(じしん)が無様に負けていくさまを幻視して。

 

 絵里は静かに、残りの言葉を希に告げる。

 

 

 

 「―――…見限って、自分の気持ちに嘘をつくんだわ…」

 

 

 

 話の脈絡が無いなんて分かってる。

 でも、自分の短所を言わない限りは、この気持ちと折り合いをつけられない。

 

 何故かふと、そう思った。

 

 だから絵里は、静かに弱音を吐いた。

 他ならぬ自分の親友の、希だけに。

 もやもやしたこの気持ちを(すす)ぐために。

 

 ただそれだけで、絵里の中に残るわだかまりが、少しだけ、口から出て行くように、絵里は感じた。

 目には見えぬ、だが心で感じる、小さな流れ。

 

 そして、そのわだかまりの流れを、希も感じたのかもしれない。

 

 今まで見た中で最も静謐な笑みを浮かべて、絵里を励ます。

 

 

 「―――大丈夫。虚言も妄言も、それらを口に出した時点で、それは自分の気持ちの1つなんや。失敗なんて何度でもする。またやり直すだけや」

 

 

 絵里は目を見開いた。

 

 「―――本当に、そう、思う?希…」

 「思わんとこうやって言わないよ。えりちはうちの大切な親友やしね、涙に寄り添ってあげるのが粋、ってものだと思わん?」

 

 絵里の問いに、希はさも当然のように言い切った。

 

 一陣の風が、夕焼け空を切り裂く。

 

 (―――希…)

 

 ああ、目頭が熱い。

 希の声と、自分の吐く震える吐息しか、耳に入ってこない。

 希が絵里を見る目はどこまでも慈愛に満ちているし、親友(じぶん)を励まそうとしているのもわかる。

 だが何故だろう。

 

 涙腺が緩んでしまう。

 悔し涙がこぼれそうになってしまう。

 

 涙を誤魔化そうと、絵里は空を見上げる。

 雲がオレンジ色に染まった、夏の夕焼け。

 

 (―――寂しい)

 

 でも、嬉しい。

 

 感情が浮かんでは消えて、泡沫(うたかた)のように。

 

 残ったものは何も無い。

 笑顔とはこんなにも自分を無に帰すのか。

 

 ならば、希の笑顔も、柊哉の笑顔も、μ’sの笑顔も、絵里(じぶん)の笑顔も。

 同じ、笑顔だ。

 

 気持ちが渦を巻く中、ほとんど無意識に、だが痛烈に、絵里はそう感じた。

 

 「…それに…」

 

 絵里の視界の外。

 今までずっと、絵里を暖かい目で見ている希は、そのまま、言葉を続ける。

 

 

 

 「―――…頑張ってる人が報われないなんて話、聞いたことがないやん♪」

 

 

 

 (―――あ…あぁ…)

 

 ―――励ます、という次元の話ではなかった。

 

 ―――その言葉には、糾弾も、抱擁も、激励も、叱咤も、全てが入っていた。

 

 ―――深く考えて(ささや)いたわけではないのだろう。

 

 ―――だが、その言葉には確かに。

 

 

 ―――絢瀬絵里(あやせえり)東條希(とうじょうのぞみ)が共有する何かが、あったのだ。

 

 

 「―――………っ…」

 

 絵里の両の目から、とめどない涙が溢れてくる。

 自分の行動に対する反省と、自分の行動を認めてもらったことに対する感謝が、止まらない。

 相反する2つの感情が、今このときは溶け合い、安心感を与えてくれた。

 零れ落ちる雫が、頬を伝い、制服の襟に染みこむ。

 

 その染みが首をひやりと冷ましたとき、絵里は初めて、自分が熱っぽかったことに気づいた。

 やはり少し、熱くなりすぎていたのかもしれない。

 

 そう認識した瞬間、絵里は何故か、涙が熱を帯びたように感じた。

 いや、頬が熱を帯びたからだろうか。

 

 (―――ちゃんと、向き合わなきゃ…)

 

 慌てて涙を拭い、前を向く。

 

 後ろなんて向くのはもう止めだ。

 生徒会長としての最後の1週間を前に、後ろなんて振り向けない。

 

 「…えりち」

 

 微笑む希に、絵里は小さく、頷きを返して、言った。

 

 依頼を。

 望みを。

 決断を。

 

 「―――希…」

 「…なぁに、えりち」

 「私…」

 

 ああ、もどかしい。

 言いたいのに、声がかすれてしまう。

 言わなきゃいけないのに。

 

 気持ちをリセットしようと、絵里は小さな小さな、深呼吸をする。

 すっ、はっ、と、空気が口の周りを動く。

 

 (―――よしっ)

 

 決意を固める。

 そしてほとんど涙声になりながらも、絵里は言った。

 

 

 

 「――――――私…やっぱり、謝りたい…」

 

 

 

 その願いは、何よりも尊い願い。

 その想いは、何よりも強い想い。

 

 願いを聞き届けた(しんゆう)は、言い切った絵里を暫し驚くように見つめていた。

 

 「―――その言葉、ちゃんと聞いたで?…えりち」

 

 でも。

 その直後に、希は突然、大輪の花が咲くような笑顔を見せて、絵里に抱きついてきた。

 

 全く受け入れ態勢になっていなかった絵里は、目を白黒させる。

 

 「―――ちょっと、希っ?」

 「えりちのその言葉を、10日間、ずっと待っとったよ…」

 

 だが希の静かな感謝と包容力が、絵里の凝り固まった固定観念を(ほぐ)し。

 いつしか絵里も抱きしめ返していた。

 

 親友2人、抱き合う屋上。

 漏れ聞こえてくるのは小さな嗚咽。

 やましい感情など一切入らぬ、2人だけの空間。

 

 そしてまた、一陣の風が、屋上を一際きつく揺らした。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

                      ★

 

 

 

 同時刻、別の場所。

 ―――音ノ木坂学院第1棟、3階、2年2組教室。

 

 

 女子高特有の甘い空気の残滓が残る、夕焼けに染まる隔絶された空間。

 「青春」というほろ苦くも切ないものが確かに存在する、騒がしいコミュニティ。

 

 時刻は17時42分。

 

 本来今の時間なら、誰もいないはずのこの場所に、今日は来訪者の姿があった。

 

 夕日をバックに、窓際の机に腰掛けて佇む来訪者。

 まるで写真かの如く完成された光景。

 

 その光景の只中にいる来訪者の名は、神城柊哉(かみしろしゅうや)

 

 彼は今、スマートフォンを取り出して、電話をかけていた。

 騒がしい声が、夕空に反響する。

 

 

 「―――はぁ!?んなもん知らねーし!!俺がいようがいまいが関係ないよなそりゃ!!?」

 『―――――――』

 「…わーったよ。俺は何とかできないからそれはそっちで頼む」

 『―――――――』

 「うっせぇなあ、正論過ぎて言葉が出ねぇよ…あ、用件忘れるとこだった」

 『―――――――』

 「迷惑じゃねぇから!!面倒なことは1個も頼まんから!!」

 『―――――――』

 「んじゃ言うぞ?つーか、ちょっと代わってくれ…」

 

 

 

 「…あ、お前、ちょっと頼みがあるんだ。聞いちゃくれねぇか、慶佑(けいすけ)?」

 

 

 

 ―――次なる一手を、女神に示さんがために―――。

 

 

 

                      ★

 

 

 

 同時刻、さらに同じ場所。

 

 

 園田海未(そのだうみ)は、少しの間、我を忘れていた。

 

 (―――柊哉(しゅうや)、さん…?)

 

 茫然自失というわけではない。

 恋焦がれて周りが見えなくなっているわけでもない。

 

 少しの興味。

 

 俗物だったはずなのに。

 苦手だったはずなのに。

 

 何故か浮かんでくるその興味を、海未自身よく分からずに受け入れていた。

 

 

 

 きっかけは些細なことだった。

 

 5分前。

 

 弓道部の練習が終わり、帰ろうとする海未は、教室に忘れ物をしたことに気づいた。

 そして、先輩や同級生に断りを入れて、再び教室へと舞い戻った、

 

 ただ、それだけであった。

 

 しかし、誰もいないだろうと思われていた教室には、既に先客がいた。

 

 (…げ。し、柊哉さん…)

 

 それは、海未の苦手とするクラスメイト、この学園唯一の男子生徒、神城(かみしろ)柊哉であった。

 自分のことを「好きだ」と言ってのけた、あのひょうきんな彼だ。

 

 柊哉は海未(じぶん)のことが好き―――らしい。

 そんな柊哉と、自分が、夕暮れの教室で2人っきりで邂逅したらどうなるか。

 自分がこの教室に入った途端、すさまじい勢いで抱きつかれるか写真を撮られるかするだろう。

 

 (―――ここは入らないほうが得策ですね)

 

 海未はほとんど即決で、ドアの外で柊哉が出るのを待つことにした。

 待つことくらい良くある話だ。それに、あの柊哉のことだし、きっとすぐに出て行くだろう。

 

 だが、海未の思いとは裏腹に、待てど暮らせど柊哉が姿を現さない。

 

 中から楽しそうな会話が漏れてくるだけ。

 

 (―――遅い…)

 

 痺れを切らした海未は、ドアの隙間から少ーしだけ中の様子を(うかが)った。

 

 

 

 ―――そして、次の瞬間には、我を忘れて、その光景をまじまじと見ていた。

 

 

 

 夕焼けのオレンジ色の光が差し込む教室。

 その中心に佇む柊哉。

 神秘的とは決して呼べぬも、何処か作り物めいた美しさを感じる光景。

 

 その光景の美しさもさることながら、海未は別の場所に注目していた。

 

 

 

 「―――大丈夫、あいつは俺が助けっから。任しときぃ☆」

 

 

 

 それは柊哉の言葉。

 

 どんと胸を張るように、通話口の相手に告げた言葉。

 

 

 ―――海未はその言葉にこそ、少しの興味を抱いたのかもしれない。

 

 気づけば忘れ物をしたことも忘れて、海未はその光景を見ていた。

 

 

 




 …支離滅裂っ!!!
 なんともいえないですね…。

 希がキューピッド化してるような…。
 えりちごめん!!マジすんませんしたっ!!(土下座)

 次の話で挽回できるかな…。

 それではまた、10話で!!
 たぶん2月ですはい。

 かよちんの誕生日編を打てなかったです泣きたい。


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