…いや、別に久しぶりでもないですね。
前回の9話で、おかげさまで非常に大きな反響を頂き、本当に感謝しております。
あと、UAがついに1万を超えました!!
今後ともどうぞよろしくお願いします。
さて、今回の10話ですが。
えりち編のクライマックスへの布石です。
それでは、どうぞ。
―――だが。
翌7月11日、
彼は何の前触れもなしに、忽然と、姿を消したのである。
これはいったいどういうことか。
もちろん、すぐに集まって、μ’s全員で対応を協議した。
だが、「時間が無い」ということで、結局前日リハーサルを行うにとどめた。
柊哉の行方は分からずじまい。
彼の姿を確認できぬまま、日付は
★
2015年、7月12日、日曜日。
PV撮影、当日。
今や日本中で有名になったスクールアイドル、μ’sの姿は、都内のスタジオにあった。
「このスタジオも久しぶりだね!前来たときはもっとたくさん人がいた気がするけど」
「穂乃果ちゃん、前に来たの3週間前だよ?…そんなに久しぶりってわけでも、ないと思うよ?」
「―――それに、前来たのはアルバムの告知映像の撮影でしたからね」
「アルバムとシングルだったら、そりゃアルバムの方が人が来るやんね~」
「でも、ここまで練習してきましたし…やっぱり、成功させたいですね♪」
「成功させなきゃ柊哉にも格好つかないにゃー!」
煌びやかに着飾った衣装で、華やかに会話する姿は、まさに花束の如し。
一人一人の個性だけでなく、全員を1つに束ねることで、更なる良さも引き出す。
まさに9人の音の女神と化す。
そんな賑やかなスタジオの中で、1人、浮かない顔でうつむく女神がいた。
(――――――)
「9」の番号を冠する3年生、
だが今普段の理知的でクールな表情は影を潜め、集団から少し離れたところに立ちすくんでいた。
それもそうだろう。
昨日、謝ろうと思っていた人物が姿を現さず、気持ちが空回りしてしまったのだから。
はぁ、と小さなため息が漏れる。
おとといの決意は完全に宙ぶらりんになってしまった。
これからどうすればいいのだろうか。
―――そんな弱音を嘲笑うかのように、絵里の頭には小さな考えが浮かんでは消えて、浮かんでは消える。
頭を振っても消えようとしない。バブルのように、ぱっと浮かんで、ぱっと消える。
そんな
そういえば、だ。
(柊哉が昨日来なかった理由…)
柊哉は、何故昨日来なかったのだろうか。
確かに未解決のままだ。
損はないし、
絵里はゆっくりと、答えを吟味してみる。
…5秒ほどで仮説は浮かんだ。
(―――柊哉に、何かあったのかしら…?)
柊哉が来ない理由は、考えられるとしたらそこしかない。
柊哉自身に何か出来事が起こったのだ。
だが、何故今頃になって…?
1つの疑問に答えると、また新たな疑問が2つも3つも湧いて出てくる。
そんな連鎖に、顎に手を当てて絵里が熟考していると、
「―――まーた端っこにおるー」
癒しの声が響いて、絵里の肩越しに、親友、
希は顔を見せた直後、くるりとターンして絵里の前に躍り出る。
何もかも見透かしたようなその眼差しは相変わらず、だが衣装が変わっているおかげで、どこかちぐはぐな印象が見えるのは気のせいか。
「何考えとるん、えりち?」
そんな希は、はてな、と首を傾げて、絵里に今の心情を尋ねてきた。
「尋ねる」という疑問の動作。
―――とはいえ、彼女の
絵里はそんな親友の笑みに、疲れたような「はぁ」というため息をもって応えた。
「―――そんなこと言っといて、ほんとは分かってるんでしょ?希…」
「ふふ、バレた?…ま、今のえりちの考えとることくらい、ちょっと考えたら分かることやけどね」
「希まで柊哉みたいなこと言わないでよ…もう、自分がバカみたいに見えてくるじゃない…」
「
「ありがとう、希…それにしても、柊哉、何で昨日、練習にも来なかったのかしら…?」
「―――まぁ、柊哉くんは、気まずくなった、って感じるタイプじゃなさそうやけど…」
「そうよね…むしろあの手この手で仲直りを迫って来そうよね…」
(―――ええ、そんな感じよね、柊哉って)
口に出した後、絵里は自分の言ったことに、自分でああ、と納得した。
確かにそうだ。
柊哉は、恐らく「ケンカ」「対立」という状態をよしとは思わないはず。
十中八九仲裁を図るだろう。
だが、と絵里は否定を差し込む。
あの人は、神城柊哉は、
「―――真正面からは、来そうに無いけど…」
「…そうやね…」
面と向かって、「ごめんなさい」とは一発で言わないだろう。
後ろから、周りから、徐々に外堀を埋めていって、触手で
自分や相手が「ごめんなさい」と言う
(…素直じゃないんだか正直なんだか…)
まったく、なんと面倒臭い男だろうか。
そこまでするのだったら、もう直接来ればいい気がしてくる。
回りくどいやり方だ。
自分も空回りしているのならば、向こうも盛大に空回りしているではないか。
と、そこまで考えたところで、絵里は正面の希が、とても不思議そうな顔をしているのに気づいた。
「―――?えりち、何で笑っとるん?」
「…へ?」
言われて頬を触ってみると、なるほど、口の先が少しだけ上がっている。
どうやら自分は、いつの間にか笑っていたようだ。
無意識に、柊哉のことを考えながら。
―――――――。
柊哉のことを、考え、ながら…。
…。
…何故か途端に恥ずかしくなってきた絵里は、ふいっと顔をそむけて、明後日の方向を向いた。
「…な、なんでもない。笑ってなんかないわ」
「ほんとに~?」
「…なんでこっち見ようとしてくるの?」
「ん?…ちょっと、えりちの顔色でも見ようかなーと思って」
くるっ、くるっ、とターンして、果敢に絵里の顔をのぞき見ようとしてくる希から、顔を連続で背けて逃げ回っていると、
『―――そろそろ本番入りまーす、スタンバイお願いしまーす』
本番を告げる呼びかけが、絵里だけではない、μ’s全員に発せられた。
そのアナウンスに、絵里も希もふざけるのをやめて、きりっと前を向く。
ここからは本番だ。
スクールアイドルとして、しっかりとやらねばならぬこと。
μ’sの新曲、「Shangri-La Shower」のPV撮影。
音の女神の最新の旋律を、世にもっと送り出すための映像。
今このときだけは、練習通りを、練習以上を、出さねばならない。
柊哉のことは、今はそっと頭の端へ。
(―――よしっ!)
絵里は改めて気合を入れなおすと、他の8人と一緒に、
「「「「「「「「「…はいっ!!!」」」」」」」」」
★
一方。
絵里の頭の奥に捨て置かれた
「―――ふわぁ~ぁ。ねみぃー…」
外の空気を目一杯肺に吸い込んだ柊哉は、大きく伸びをする。
と同時に、筋肉まで伸びきってしまったのか、伸びに負けず劣らずの大きな欠伸が漏れ出た。
口を隠す暇も無く、柊哉の口の奥がご開帳。
柊哉は慌てて口を閉じる。
「…っと、はしたないな…にしても眠いわー…」
…その所作はみっともないが、構っている余裕も無い。
それ以上に気になることがあったからだ。
「…今、何時だ…?」
そう、現在の時刻。
今何時?という、非常にシンプルな問いだ。
柊哉は寝ぼけ眼で、6年も愛用している自慢の腕時計の文字盤に目を走らせる。
…見ると。
アナログ時計の長い針と短い針が、ちょうど、直角になろうとしているところだった。
(―――つまり、今の時間は…)
…10時38分。
…。
「―――…あの野郎絶対あとでブッ殺してやるぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
その事実を確認した刹那、柊哉は天に向かって物騒に
人も天使も女神も煙たがっているだろうが、もうこればっかりはどうしようもない。
好奇や軽蔑の目線などお構いなく、天界に聞こえるぐらいの大音声で、
(…まぁ、これでスッキリしたことにしといてやろう…)
…ひとしきり吼えた柊哉は、怒っていてもしかたがない、と、舌打ち一発。
気持ちを切り替えて、襲い来る眠気を黙らせた。
「―――うーし、行くとしますか…皆も、待ってるだろうし…」
そしてそのまま、柊哉は次なる目的地へとふらふら歩き出した。
「…ああくそっ、眠い!!!」
…まあ、その足取りは赤子のようにおぼつかなかったが。
★
PV撮影のちょうど合間の時間。
μ’sの9人は、休憩スペース、と書かれた場所で、思い思いの休息を取っていた。
そこには、伸びをして凝りを解す女神もいれば、衣装を気にしたり、水分補給をしたりする女神もいる。
女神は気紛れ。彼女らそれぞれが、それぞれの休息方法を実践して、体を休めようとする。
だが等しく、その空間には「会話」というものが存在していた。
楽しいお喋りこそが、最上のリラックスと言わんばかりだ。
その、美少女同士の華やかで遠慮のない会話の応酬が、この空間の中で繰り広げられる。
そしてここ、
「…それにしてもこの衣装、何とかならないものなのでしょうか…その、凄くスースーして、全く落ち着かないのですが…」
「えー、そう?私はこの衣装好きよ?アイドルらしいじゃない」
「あはは…でも確かに、この衣装は私、ちょっとやりすぎたかもしれない」
「…そうね、流石にこれだけじゃ、心もとない気持ちになるのも分かるわね…」
話題は今、彼女たちが身に着けている衣装に関してである。
「Shangri-La Shower」での彼女らの衣装は、とにかく布面積が少ない。
他の曲も大概だったが、この面積の少なさはガチ水着の「Mermaid festa」に匹敵するレベルだ。
上はまるでビキニのチューブトップ、下もマイクロミニスカートと、これからどこに泳ぎに行くのか、と言わんばかりの装い。
曲のコンセプトに沿う形としてはあながち間違っていないのかもしれないが、倫理的な観点や、自分の恥ずかしさを考えると、ちょっと…と首を傾げざるを得ない。
それに。
「…ていうか、ここ寒くない?」
「うん…冷房効きすぎだと思う…へくちっ」
「うう~、やっぱりスカートが短すぎます~…」
「ここだけ冬みたい…」
それに、この薄着と超高性能な冷房のおかげで、いい加減寒いのだ。
スカートの裾を懸命に引っ張る
いくらロシアに行ったことがあるとはいえ、ここまで薄着だったわけではない。
早く普段どおりの制服を着たい、と、頭の端で無意識に考える。
そう、頭の端でだ。
頭の端、ということは、今まで考えないようにしてきたある考え事に触れてしまう、ということで…。
(―――…あ…)
―――そのことに気づいた絵里は、静かに目を伏せた。
(…ああ、もう…柊哉のことは、撮影が終わるまで考えないようにするって、宣言したじゃない…)
ついに一端を考えてしまった。
己の浅慮、約束の守れなさ加減に腹立たしくなる。
言ったことも守れないのか、と自分を殴りたくなってくる。
(…もう、いいわ。宣言してしまったんだもの、今更後には引けない)
しかし自分を殴る直前、絵里は正義感からか、少しだけ、その言葉に耳と頭を貸すことにした。
一度宣言した以上、後には退けないと判断してのことだ。
だが。
(―――でも、どうしようもないのよね…)
―――そう、これである。
これこそが、柊哉のことを横にやった理由だ。
いくら考えても、柊哉のことには、全く答えが出ない。
疑問だけは鮮明に残っている。式もまあ、分かる。
でも、肝心の答えにたどり着こうとすると、方程式の途中でぼかされてしまうのだ。
それなのに、のんきに考えようと言ったって、そんなもの、ただのいたちごっこだろう。
(もう、柊哉のバカ…)
絵里は小さく、柊哉をなじる。
ああ、なんと面倒な男なのだろうか。
あのひょうきんな行動と言動のせいで、自分の考えすらもかき乱される。
自分の頭を、混乱の渦へと叩き込もうとしてくる。
「…こうなったのもみんな、なんにも見てない柊哉が悪いのよ…」
ちょっぴりイラッ、とした絵里は、誰にも聞こえないような小さな声で、理不尽な責任転嫁をした。
全く落ち着かないが、今はこうやって、相手に八つ当たりをするほか無いのだ。
悪気はある。けど謝りたくない。
と、可愛らしく、ありていに言えば「
「―――ったく、好き勝手言いやがって、絵里の奴…ああ、もう、眠いなぁ、チクショッ!!」
―――瞬間。
絵里は信じがたい声を耳にした。
それは女性とは全く違うトーンの声色。
聞いたことのあるひょうきんな喋り方。
―――そして、自らのことを「絵里」と呼び捨てる呼び方。
この3つの条件が揃う人なんて、自分の父親のほかにもう1人しかいない。
絵里は無意識に立ち上がっていた。
声の主を探そうと、きょろきょろ辺りを見回していた。
一刻も早く見つけなければ、とはやる気持ちが、いつの間にか絵里の中に沸き起こっていた。
「―――どうしたの?絵里ちゃん。突然立ち上がったりなんかして」
他のメンバーが絵里の突発的な行動を見て、首をかしげている。
どうやら、あの声は自分にしか聞こえていなかったようだ。
―――言うべきか言わないべきか、絵里は一瞬だけ迷った。
言うべきかもしれない。
けど言わないほうがいいのかもしれない。
時間の進行が、絵里の思考のスピードに置いていかれる。
そんな、切り取った瞬間の中で下した絵里の判断は、
「…ごめんなさい。ちょっと通してもらえるかしら?」
―――「言わない」だった。
別に言ったっていいのだ。
言おうが言うまいがどっちだっていいのだ。
ただ、
…今回の事に関して、絵里は1人で対話したかった。
もっと単純に言えば、「恥ずかしかった」という、ただそれだけのことだ。
(…どこから聞こえた…?)
「―――…っ…」
「…あ、ちょっと、絵里ちゃん!?」
絵里はつい先ほどまで話していたメンバーに断りを入れて、休憩スペースを飛び出した。
その勢いを維持したまま、騒がしいスタジオ内をぐるりと見渡す。
周囲からの奇異の目線も、今だけは忘れていられた。
それ以上に優先するものが、自分を取り巻く悪意を忘れさせてくれた。
だが、少し見渡しただけでは、何も見つからない。
もちろん、自分の探し求める人も。
(―――…あ、ステージの上なら…)
と、ここで打開策に気づいた絵里は、ステージの近くまで歩み寄り、その上に階段を使って上った。
ここに来れば、一段高いステージ上なら、全体が見渡せると考えてのことだ。
ステージの中央で仁王立ちになり、声の主を探す。
スタジオを出入りする全ての人物にくまなく目を走らせる。
誰一人、表情のわずかな動きまでも見逃すまい、と。
だが、それでも見つからない。
高いところから、注意深く探してさえ、見つからない。
あの声は空耳だったのだろうか、と、絵里は思いたつ。
もしや、自分はそれほど、柊哉に謝りたかったのだろうか。
柊哉と、顔を合わせたかったのだろうか。
―――そう思ってしまった絵里の両頬に、今更ながらに、カッ、と朱が差す。
「―――い、いないみたいね…やっぱり柊哉は見てなかったんだわ…」
いずれにせよ、柊哉はここにはいなさそうだ。
他のメンバーも自分を心配して出てきたし、これ以上邪魔をするわけにはいかない。
絵里はステージを後にし、踵を返して休憩スペースへと歩き始めた。
表情は堂々とした、いつもの絢瀬絵里そのもの。
だが階段を下りる、その歩みには少しの迷いがあった。視線もせわしなく両側へとやられる。
未だ未練はあるらしい。
だが、正面方向ばかりを見ていたからなのか。
はたまた、女神を神が見捨てなかったのか。
「―――誰が見てないって?」
(―――やっぱり、いるじゃない…)
精一杯カッコつけたような声が響いてきた直後、絵里は体をその方向へ向けた。
驚いたような表情と、安堵の色を浮かべながら。
果たして。
「―――俺が見てないわけがないだわぁ~あ…ああもう!!喋ってる途中に邪魔すんなこの欠伸!!!」
絵里の探し求めた人、神城柊哉は。
精一杯のカッコつけを盛大に失敗して。
制服姿ではなく、私服姿で。
バックの太陽を背負うように、ステージの上に、
何故か意味も無くキレているその姿に。
とんでもなく滑稽な、彼の姿に。
絵里は再会を喜ぶよりも先に、ほんの少しだけ、唇を動かしてしまった。
―――唇を笑みの形にするとともに、「よかった、ちゃんと柊哉だ」と。
いかがでしたでしょうか?
それではまた、11話で!
来週投稿できたら私の受験が終わったものだと思ってください。
そこからはまた以前のペースに戻します。
追伸
bibiが新曲出しましたね。初登場2位とかすごいじゃないですか。
…いや、でもですね。
SMAPの邪魔はしちゃだめでしょう(3位)…。