ようやく終わりましたぜ。
3ヶ月もお待たせしてしまって申し訳ありません。
ということで速攻11話です。
今回もまだ布石ですかね。
柊哉くんに頑張ってもらいましょう。
あと今回凄く微妙なところで切ってしまったからか、若干短めです。
だいたい4800文字くらいですかね。
それでは、どうぞ!
2015年、7月12日、日曜日。
そこにピリッとした空気はない。
だが緊張感がない、と言えば嘘になる。
片や、絵里の方は安堵と緊張がない交ぜになった、ちぐはぐな表情で、相手を気遣うように見上げ。
片や、柊哉の方は普段通りの飄々とした笑みを浮かべ、余裕と心配を織り込ませながら相手を見下ろし。
―――そして、どちらも相手の瞳だけを真摯に見つめ、視線を交錯させていた。
2人以外の景色が、まるで置き去りにされたかのように、2人はお互いしか見ていない。
全くの会話もなしに。
ただ、相手を内面を探るかのような、重たい沈黙が間に横たわっていた。
「「………………」」
そのまま2人、見つめ合うこと数十秒。
先に沈黙を破るどころか壊したのは、案の定、柊哉のほうだった。
「―――…ぁあもう!俺完全に失敗してるやんけ…」
柊哉は疲れたように言いながら、その歩みを階段へと進めたのだ。
そのまま1段、また1段と、ステージの短い階段を下りる。
カツン、コツン、という音だけが、絵里の耳に響く。
絵里はそれをじっと見つめていた。
何となく、柊哉なら何かしてくれるような気がして、柊哉を見つめていた。
加速した時間の中、柊哉は一歩ずつ絵里に近づいてゆき、そして。
「…まぁ、絵里に会えたし、結果オーライとするか…」
絵里の立つ場所の目の前まで、自らの足で下りてきた。
もう手を伸ばせば届く距離だ。本当に至近距離。
ものすごく近くにいる、皮肉ったように喋る柊哉に、絵里は我慢できずに言葉をかけた。
「―――…何をしてたの、今まで…」
「ん?ああ…ちょっと、色々あってな…まぁ、そのへんのことは後で話すよ」
「…後って、この撮影の後?」
「そーだ。…くあぁぁ…ぁあもう…欠伸止まんねぇよ…」
「―――………ねぇ、柊哉?」
「んぁ?何だよ、絵里…」
絵里は視線を柊哉の足元へとやる。
眠たげな柊哉。両目にはくっきりとした
何か、徹夜までするような苦労をした後なのだろうか。
絵里はそこになんともいえない申し訳なさを見て、謝ろうというあの決意を再び燃え上がらせた。
(―――…言わなくちゃ)
絵里はここに来て、緊張感が最高潮に達したのを自覚した。
MV撮影のとき以上の緊張が、絵里の心にどっと押し寄せた。
そうだ。
絵里はこれから、今までのことを謝らなければならないのだ。
自分がやってしまったこと、自分がいけないと思ったことを、全部。
言わなければならない、とは分かっている。
でもいざ言うとなると、少しだけ気恥ずかしさが訪れるのも事実だ。
まして自分の個人的なことだと、普段よりも尚更、言うのを
(…たった一言言うだけじゃないの!…何で言えないのよ、私…)
ああ、「ごめんなさい」の一言を言うだけなのに、何故これほどもどかしいのだろうか。
絵里はやるせなさで胸が一杯になってくる。
だが、言わなければ終わらない。終われない。
意を決して、絵里は固く閉じていた口を開いた。
たった一言を、伝えるために。
「ごめんなさ―――」
「―――今、謝るなよ…」
―――しかし。
柊哉はその一言さえも、やんわりと止めて見せた。
最初の6文字すら言わせずに、一刀両断にしてみせた。
(…柊哉…?)
絵里は泣きそうな顔で柊哉を見上げる。
その表情には、怒りではなく、迷いと不安が現れていた。
どうしたらいいのか、と、問いかけるような色が見えた。
絵里は、怒っている怖い先生に話しかける子供のように、無意識な上目遣いで、柊哉の解答を待つ。
―――絵里の視線の先にいる柊哉は、その問いかけに、やはり飄々とした笑みを保ったまま、答えた。
「―――謝るのは後にしよう。まずはMV撮影を終わらそうや」
その
どういうことだ、という困惑の表情になって、柊哉を見る。
「…いや、俺からも話してぇことはい~っくらでもあるんだが…まぁ、仕事してからでも、いっかなーって」
「どういうこと…?」
「い、いや…別に今言うことでもないしなぁ…」
その視線を照れくさく感じたのかどうかは知らないが、柊哉はそっぽを向いて、髪をかきあげながら、どもるように告げた。
その柊哉の姿は、まるで言いたくても言えないことがある、といった風体で…。
口元から零れそうになる言葉を、必死に飲み下そうとしているかのようで…。
―――絵里は、その姿を見て、今、柊哉が何を言いたいのか、はっきりと察した。
(…もう…素直じゃないんだから…)
微笑ましくて頬が緩む。
自然と軽い気持ちになる。
柊哉が可愛く思えてくる。
絵里の推測が正しいのなら。
今さっきの言動の後、柊哉はこう言おうとしたはずだ。
『―――そんなことよりも、笑ってない絵里なんて、らしくないぜ?』
と。
なんともまぁ恥ずかしいセリフだ。
だから柊哉も、少し
それが最上級の心配だと分かって、言うべきか言わないべきか吟味しているのだろう。
…まあ、だからこそ、絵里はこうして笑っているのだが。
―――絵里の笑みに気づいた柊哉は、どことなくむっとした感じで、絵里に話しかけて来た。
「…おい。なんだその笑みは。まるで俺の内側を見ているようでこそばゆいんだが」
「ふふ、別になんでもないわよ」
「でも笑みは止めないんだねぇ~。お~い、それ以上笑うんだったらその可愛いほっぺたうにゅーんって引っ張るぞ~?」
「あら、柊哉って意外と擬音が可愛いのね…ふふふっ♪」
「うっせ。つーか何だ?なんかあったのかよ、絵里?」
「柊哉も理由を言わないんでしょう?だったら、私も秘密」
「ちぇっ、まぁ可愛いから許すけど…っておい。俺の顔そんなに面白い?」
「…そんなわけないでしょう?ひょっとこのお面でもつけてるんじゃあるまいし」
「―――む~、なんか怪しいなぁ…」
「だから、別に怪しくなんてないわよって、何度も言ってるじゃない。しつこい男は嫌われるわよ?」
「マジすんませんでした冗談です本当に魔が差したんですごめんなさい」
少しからかって、怒りをちょっとだけ声音に混ぜてみたら本当に土下座した柊哉を見て、絵里はまたさらに笑みを零す。
その笑みを見て、「あ、からかわれた」と感じたのか、柊哉はまた元のむすっとした表情に戻る。
「…んだよもう。調子狂うわー…」
「私が狂わせてるのよ。気に入ってくれた?」
「ああもうそりゃあとても。―――つーことで絵里よ」
途中から大脱線した会話を、柊哉が真剣な声音で元に戻す。
軽薄な口調だが、いつものおちゃらけた感じは影を潜めていた。
触れれば斬れる真剣、とまでは行かないが、触れれば切れる紙のような鋭さがそこにはあった。
「………………」
絵里が静かに前を向き、またもとの緊張が戻ってきたそのとき、場は整ったとばかりに、すうっ、と息を吸い込んだ柊哉は微笑む。
「―――謝るより先に、笑顔を振りまいて来てくれ。俺はそれが、何よりのご褒美だ」
ニカッ、という音が似合う、そんな笑顔で告げられたその言葉に。
絵里は今までの決意が報われたような様を感じて。
でもそれ以上の強い決意がまた新たに湧いてくるような気がして。
やっぱりカッコつけてるじゃない、と、素直に微笑んで、頷いた。
「…ええ、分かったわ」
「おう。そうしといてくれ」
柊哉と2人、笑みを紡ぐ。
ほら、もうこれで仲直り。
また、
でも、とても涼やかな先送り。
絵里はつい昨日まで出来なかったその光景を、噛みしめるように脳に焼き付けた。
★
―――そして音楽は再開された。
「Shangri-La Shower」。
その2番からの再スタートだ。
『―――はい音楽始まりまーす、3、2、1』
3、2、1のカウントスリーから、あのリズミカルなシンセサイザーの音が溢れ出す。
大きなスピーカーから、待ちぼうけをこらえ切れなくなった音符が飛び出してくる
それがスタジオの中を、一気にμ’sの色へと染めていく。
煌びやかな照明にキラキラと反射するかのように、音は縦横無尽に飛び回る。
そんなリズムがスタジオを
「~♪」
歌詞が耳を駆け抜けた。
ただの音符に、「楽」という文字が付属されてくる。
スタッフも照明も、スピーカーでさえ、楽しげにコーラスを奏でる。
まさに「
女神の楽園で、音楽の宴に迷い込んでしまったかのようだ。
柊哉は思わず手を止めそうになる。
自分は本当にここにいてよいのか、という疑問すら湧いてくる。
もしかして、自分は、決して踏み入れてはいけない女神の園に、侵入してしまったのか、と。
―――だがそんな小さな悩みは、目の前で歌う9人の女神が、全て帳消しにしてくれた。
「~♪」
音符が飛び跳ねる中、宴の主催者である音の女神たちは、周りの視線に気づかぬまま、それぞれがとても気持ちよさそうに、羽を伸ばしていた。
綺麗。
その一言だけが、今の全てを表す。
流麗な音符の流れに沿って、弾ける2サビが耳に届く。
今のμ’sのメンバーは、本当に、天使のように軽やかで、女神のように美しかった。
柊哉は、ほう、とため息をつく。
素晴らしすぎて言葉も出ない。
全く、仕事をしておいて本当に良かった。
(―――つーか、可愛いっていう次元じゃねぇだろ今のμ’s…)
ハイテンションな興奮の最中、柊哉は静かに思い立つ。
そう、今の彼女らに感じるのは可愛らしさだけではない。
確かに可愛いのだが、それ以外にも何かを感じるのだ。
その「何か」とは何か。
それは、夏なのにどこか涼しげに感じる、今の空気。
その場の雰囲気すら、美少女は美しく着飾り、それぞれに
音楽に負けないその輝かしい色が、今の柊哉にはくっきりと見えた。
と、じっと見ていた柊哉は、その色のひとつと目が合う。
「………………」
一瞬の視線の交錯の後、何事も無かったかのように撮影に戻ったアクアブルー。
他の色に交じって、でもしっかり自分の存在を主張して。
柊哉はその
曲は間奏を終えてラスサビだ。
宴の終わりを惜しむように、飛び交う旋律も激しさを増す。
(…俺のしたいこと、ねぇ…)
―――と、ふと、柊哉の耳は歌詞の一文をとらえた。
その一文は突然やってきて、突然強烈な印象を残して離れていく。
柊哉は、その歌詞に倣って、自分のやりたいこととは何なのか、考えてみた。
自分が
自分が
その「答え」とは、何だ。
柊哉は考えて考えて考える。
頭の奥底までひっくり返して、ひとかけらの希望を、捜し求める。
自分のやりたいこと。
自分が本気で願うこと。
自分が「欲しい」と願い、だがそれでも手に入りはしなかったもの。
柊哉はひとつだけ、その「答え」を見つけた。
(―――そうか。俺はこれが欲しいんだな…まぁ、今はまだ無理だけど…)
柊哉は、その答えが、自分の脳に妙にすんなりと入ってきたことに驚く。
そして「答え」が「目標」へと、流れ作業のように変化されていく。
柊哉は、μ’sに対し、自分に「目標」を与えてくれたことに最大限感謝して。
その「目標」を、最優先事項だとばかりに、大事に大事に、胸に抱え込んだ。
―――想いと祈りのこもった光のシャワーが、スタジオへと降り注ぐ―――。
えりち可愛いよえりち。
というか、こんなんでいいのでしょうか…すごく不安なんですが。
途中とか「Shangri-La Shower」の説明しかしてないですし…。
感想やコメントなど、募集してます。
連続投稿ですので、そのまま次の11.57話をお楽しみください。