ひとりひとりと、女神と人と。~改訂作業中~   作:M崎

14 / 32
 ※先に11話を読んでから、この話をお読みください。

 完成しました。
 11話よりも長い11.57話です。

 小数点をつけましたが、実は予想以上に重要な話です。
 気に入っていただけるといいのですが。

 それでは、どうぞ。




11.57話

 かくしてPV撮影は大成功の中幕を下ろした。

 NGの1つも無い、パーフェクトな「Shangri-La」の終わりだ。

 

 『―――カーット、オッケーッ!!!!』

 

 途端、脱力感と達成感が空気を包み、へたり込む9人の美少女。

 彼女らの顔には、やりきった、と言わんばかりの笑みが刻まれている。

 

 ハイタッチや拳をぶつけて互いを労う彼女らに向かって。

 その頑張りと絆に向かって。

 

 柊哉(しゅうや)は、我も忘れて、最大限の拍手と、最上級の感謝を贈った―――。

 

 

 

                      ★

 

 

 

 2015年7月12日、午後4時32分。

 

 

 本日の宴の主催者たる彼女らが、タオルで汗を拭きながら楽屋から出てくるのを、柊哉は笑顔と共に出迎えた。

 

 「―――よー、皆。あと、お疲れさまー」

 「あ、柊哉!!…ねぇねぇ、どうだったどうだった!?」

 「もう本当に最高。やっぱ生は違うね、映像とは違うよさがある」

 「ほんと!?…良かったぁ~、しゅう君に気に入ってもらえて。ね、海未(うみ)ちゃん?」

 「―――はい、非常に不本意ながら…」

 「およ?海未ちゃんにもついにデレ期が…!?」

 「そんなわけないじゃないですか。誰がそんなこと言いましたか?」

 「…まぁ、もうお前のツンデレには慣れたからいー「誰がツンデレですか!!」…なんでそこだけ聞いてんのよあなた…ま、ホントに良かったからいいんだけどさ」

 「じゃあ逆に、柊哉から見て直すところはあった?私たちが踊ってるぶんには、大丈夫だったんだけど…」

 「いやぁ~、無かったような気もするけど…」

 「何でもいいから言ってみて?遠慮なんてしなくていいよ?」

 「―――ま、強いて言うなら、連携かな…途中あれ、ってところがあった気がする…」

 「…あ、柊哉さんも気づきましたか?…実は私、1回サビのところでステップミスしたんですよ…あそこさえ大丈夫だったら完璧でした…」

 「海未ちゃんのミスなんてあんまり目立たないからいいじゃん。私だってたくさんミスしたんだよ?なんかなんにも言われなかったけど」

 「それは穂乃果(ほのか)ちゃんのミスも目立ってないってことじゃないかな…?」

 「うーん、そうかもしれないなぁ。うーん………ま、いっか。次直せば問題なし!」

 「穂乃果はまたアバウトな…はぁ、私が問題点を書いておきます」

 「ありがとう、海未ちゃん…しゅう君もコメント書いといてね?」

 「へーい、りょーかいっと。…くぁ」

 「眠そうだね、柊哉………あ、花陽(はなよ)ちゃんだ。おーい、こっちこっちー!」

 

 最初に出てきたのは、穂乃果、ことり、海未の2年生トリオ。

 

 「はーい、今行きます…あ、神城(かみしろ)さん!見に来てくれたんですね!どうでしたか?」

 「わぁ花陽ちゃーん!!すっごく良かったぞー、もうホントに!」

 「本当ですか!?なら良かったです!(にぱっ)」

 「―――…守りたい、この笑顔…」

 「ん?今柊哉、なんか言ったー?」

 「うんにゃ、別に何でもねーよ?…しかし(りん)よ。お前すげぇな、やっぱ。動きのキレがなんか違ぇ」

 「そうかにゃー?凛は普通に動いてるだけなんだけど…」

 「いや、それが既にスゲェわ…」

 「ま、凛になんか悪いところがあれば、ぱぱっと言ってくれればいいよー。…ところで、真姫(まき)ちゃんは今の、どう思うー?」

 「…そうね…まずまずじゃない?」

 「そうかな…私はそうは、思わなかったけど…途中頭が真っ白になっちゃったし…」

 「あ、凛も凛もー!暑かったのと踊りすぎたのとで途中くら~っ、と来ちゃったー…」

 「照明がキツかったのかしらね?…ま、まぁ、私は大丈夫だったけど…」

 「―――とか言って、一番ふらふらしてたの真姫だった気がするぞ?俺の見間違いじゃなきゃ」

 「なっ、そ、そんなわけないじゃないっ!!!バッカじゃないの!?」

 「お、落ち着いて、真姫ちゃん…」

 「…にしても、悪かったところなんて挙げればいくらでも出てくるにゃー」

 「そうだよね…」

 

 次に花陽、凛、真姫の1年生組。

 総勢6人の女神たちだ。

 彼女らは皆一様にキラキラした表情で、柊哉に感想を求めてきた。

 

 もちろん柊哉は褒める。

 「改善するようなことなんて無いよ」と、頭でも撫でんばかりの勢いで褒める。

 だが、会話の中で、それはいつの間にか反省会のようになっていた。

 いいところはいいところ、悪いところは悪いところ、と割り切るスタンス。

 そして、自分たちの良くないところを挙げて、改善に努めようとしている。

 

 (…うーわ、俺から言うことなしやん)

 

 更なる上を目指すリーダーの手腕に柊哉は脱帽。

 メンバーの意識の高さにも平身低頭。

 この同級生、後輩たちがいれば音ノ木坂は大丈夫だろう、きっと。

 

 …と、柊哉がウンウン頷いていると、後ろから別の声がかかってきた。

 

 「―――あら、柊哉じゃない。…最近どこをほっつき歩いてたのよ」

 「柊哉くん、にこっちの言うとおりやで。なんで最近いなかったん?」

 

 その2つの声の主は、3年生、(のぞみ)とにこ。

 心配しているのかしていないのか、よく分からない声色のにこと、こちらは本当に心配しているのか、気遣わしげな声を出す希。

 

 (…いねぇ)

 

 ―――だが、その輪の中に、絵里(えり)はいない。

 きちんと話す、と約束した、彼女はいない。

 

 不審に思った柊哉は、事の真偽を確かめるために、こしょっと希に話しかけた。

 

 「―――おい、そんなことより、どうして絵里がいないんだ?…まさか勝手にふらーっといなくなったんじゃあるまいな?」

 「ううん、そうじゃないんよ。…えりちは、ちゃーんと向こうにおる」

 「…なんかのスタンバイか?」

 「そんなわけないやん。えりちはね、柊哉くんを待っとるんよ」

 「俺を?…ちゃんと話すって、約束したから?」

 「―――そうみたいやね」

 「……分かった。ちょっち行ってみるよ。ありがとうのぞ―――」

 「わ・た・し・を・の・け・も・の・に・す・る・な・っ!」

 「あでっ」「いたっ」

 

 …のけ者にされてお怒りのスーパーアイドル矢澤(やざわ)にこ様にチョップされた柊哉と希は、同時にジトッとした目線を向ける。

 だが、2人のジト目を浴びてもなお、にこは毅然と言い放った。

 

 「―――2人だけでコソコソ話してんじゃないわよ!そういう話は、ちゃーんとにこにも聞かせなさいよね!?」

 「…なんか理不尽に殴られたなーと思ったらこういうことか。どうする、希?」

 「うーん、うちは別ににこっちに伝えてもええけど…柊哉くんは?」

 「………まぁ、伝える自体は別に全然オッケーなんだけど…」

 「けど?けど、何よ」

 

 希の軽い問いかけに、柊哉は言葉を濁して、下を向く。

 まるで何かから逃げるように、視線を下へと逸らす。

 

 (…いいのかな、言っても…)

 

 心の中は凄く申し訳ない気持ちで一杯だ。

 彼女の申し立てから逃げ、あまつさえ先延ばしにしようとしているのだから。

 

 常識的に考えれば、言うべきだと思うのは自明の理だろう。

 

 でも、なんとなく、今は、違う。

 何かが間違っているような気がして、どこかの違和感が警鐘を鳴らしているような気がして。

 

 そりゃあ、美少女の誘いを断るのはどうしようもなく申し訳ない。

 まったく最悪の気分だ、と柊哉は心中で吐き捨てる。

 こんなことでいちいち迷う自分が嫌になる。

 

 ―――でも、と前置きして、柊哉は思う。

 

 

 (―――…ここで自分が不用意に言ってしまって、絵里の厚意を傷つけるのは、もっと胸クソ悪ぃよなぁ…)

 

 

 頭から冷たい水をかぶりたいような、変な罪悪感に襲われる。

 美少女と美少女を天秤にかけてしまったことに対する、贖罪(しょくざい)の念が。

 

 でも、やるしかないんだよ、俺は、と、柊哉は襲い来る罪悪感を拳で殴って黙らせる。

 んんっ?という目を向けるにこの視線を目の前に感じながら、柊哉は意を決するように、ぽつり、ぽつりと言葉を紡いだ。

 

 「―――ごめん、にこ。その話は、また、後ででも、いいか?…あんまり、いい話じゃないんだ…それに、まだ終わってないから」

 「柊哉くん…?」

 「………………」

 「…俺は終わらせたい。終わらせて、また元に戻りたい…今日中に終わるかはわかんないけど、それでいいか、にこ?」

 

 柊哉は祈るように、ひとつ上の先輩の顔をうかがう。

 だいぶワガママな理論だ、という自覚はある。もちろん単純に聞き入れてくれるとは思わない。

 にこは柊哉に向かって聞いたのだし、柊哉の口からの説明を欲しているだろう。

 

 だが、ここで柊哉がとったのは、今は時間稼ぎ、とばかりの最悪の悪手だ。

 

 きっと消えない傷になるだろうし、どうしようもなく虚しくなる。

 

 「道」という漢字が「首」をも賭けて進むもの、ととれるのなら。

 「逃」という漢字を使えば、普通の「兆」倍後悔してしまうだろう。

 

 それでも、柊哉は、約束を破るわけにはいかない。

 答えをコロコロ変える奴は只の三流だ。

 

 「美少女」を愛すると決めた柊哉に、たたらを踏んでいる余裕は、ない。

 

 柊哉は決然と前を向いた。

 どう言われるにせよ、柊哉は前を向くしかないのだ。

 

 言葉で表せば「開き直った」柊哉に、暫し黙り込んでいたにこは、

 

 

 「―――…どうせそんなこと言うだろうと思ってたわよ」

 

 

 まるで投げナイフを地面に向かって投げたかのような、氷のような声音を、

 ―――()()()

 

 柊哉はきょとん、としてしまう。

 もちろんにこの対応にだ。でも怒りっぽい声音に驚いたのではない。

 

 (―――なんで下向いてる顔が笑顔なんだ…?)

 

 だが、柊哉が対応について何か言う前に、にこは顔を上げて、言った。

 

 「…柊哉はそういう人だもんね。この10日間、柊哉の気遣いはイヤってほど見てきたし」

 「…は?いやあんなの気遣いだなんて言わねーって」

 「いーえ気遣いよ。このμ’sは、柊哉のおかげで、既にいろいろ助かってんだから」

 「―――そーかねぇ…」

 「そうよ。だって柊哉、()()()()()()()()()()()()()()()

 

 にこのその何気ない指摘に、柊哉はあちゃー、と顔を手で覆う。

 

 (…バレてましたかー…)

 

 正直な話、あまりバラしたくはなかったのだが。

 でもバレたから、逆に結果オーライなのかもしれない。

 

 そんな柊哉の苦悩を知ってか知らずか、黙り込んだ柊哉に、にこはふっ、と頬を緩めた。

 

 

 「―――仕方ないわね。行って来なさいな。その代わり、あとでたっぷり聞かせてもらうからね」

 

 

 柊哉は限界まで目を見開いた。

 そして、こう思わずにはいられなかった。

 

 (―――カ、カッケェな…)

 

 人生の先輩。

 そんな言葉をまさに体現したかのように振舞うにこが、柊哉にはすごく眩しかった。

 どんなイケメンなんかよりよほど、その立ち姿は凛々しく、格好よかった。

 

 そしてそのにこの後ろから、もう1人の「人生の先輩」が慈愛とともに顔を出した。

 

 

 「―――柊哉くんは大丈夫。にこっちやみんなへの説明はうちがしとくから、…柊哉くんは、もうひと頑張りしてき?」

 

 

 (―――ったく、敵わねぇなぁ…)

 

 その希の言葉に。

 自分と3年生の間にある、人生の糧の違いを感じた柊哉は。

 何故かどうしようもなく、カッコいいところを見せたくなって。

 いつも以上に柔和な顔の彼女たちに向かって、精一杯のキリッとした顔を作った。

 

 「…ああ、分かった。行って来るよ…ありがとう、希、にこ」

 「悩んでる暇があったら早く行って来なさいよ」

 「うちの親友を頼んだでー♪」

 「おう…朗報を届けるよ」

 

 そう言って手を振ってくれるにこと希を後ろ目に。

 柊哉はくるり、と後ろを向いて、瞬間駆け出した。

 

 (…今だけは言うことを聞いてくれよ、俺の体…)

 

 もう超眠いし、ブッ倒れたいし、疲れたし、罪悪感で死にそうだ。

 

 でも。

 

 彼女らの厚意も、絵里の厚意も、無駄になんてしない。

 無駄なんて言わせない。

 

 自分へと託された信頼に、汚泥を塗るなんて絶対に許さない。

 

 そのためには、今、本能(おまえ)は邪魔だ。

 理性で押し通せ。

 根性を見せろ。

 

 

 ―――分かったら、さっさとケリつけて来い。

 

 

 己の鼓舞を幻聴した柊哉は、ギアをトップスピードまで上げて、絵里を探し始めた。

 

 

 




 いかがでしたでしょうか?
 自分としては昨日の朝5時に打ち終えたので、微妙な出来といえば微妙なのですが…。

 まぁ、クライマックスに向けて盛り上がったし、いいような気もします。
 感想、アドバイスなどありましたら、どうぞよろしくお願いします。

 さて、次はいよいよ12話、えりち編のクライマックスです。
 ものすごく長くなりそうですし、納得していただけるかは分かりませんし、2月15日に間に合うかどうかは神のみぞ知る!ってトコロなんですが。
 7話以下のフラグを怒涛の勢いで回収していきます。

 それでは、また12話で!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。