完成しました。
11話よりも長い11.57話です。
小数点をつけましたが、実は予想以上に重要な話です。
気に入っていただけるといいのですが。
それでは、どうぞ。
かくしてPV撮影は大成功の中幕を下ろした。
NGの1つも無い、パーフェクトな「Shangri-La」の終わりだ。
『―――カーット、オッケーッ!!!!』
途端、脱力感と達成感が空気を包み、へたり込む9人の美少女。
彼女らの顔には、やりきった、と言わんばかりの笑みが刻まれている。
ハイタッチや拳をぶつけて互いを労う彼女らに向かって。
その頑張りと絆に向かって。
★
2015年7月12日、午後4時32分。
本日の宴の主催者たる彼女らが、タオルで汗を拭きながら楽屋から出てくるのを、柊哉は笑顔と共に出迎えた。
「―――よー、皆。あと、お疲れさまー」
「あ、柊哉!!…ねぇねぇ、どうだったどうだった!?」
「もう本当に最高。やっぱ生は違うね、映像とは違うよさがある」
「ほんと!?…良かったぁ~、しゅう君に気に入ってもらえて。ね、
「―――はい、非常に不本意ながら…」
「およ?海未ちゃんにもついにデレ期が…!?」
「そんなわけないじゃないですか。誰がそんなこと言いましたか?」
「…まぁ、もうお前のツンデレには慣れたからいー「誰がツンデレですか!!」…なんでそこだけ聞いてんのよあなた…ま、ホントに良かったからいいんだけどさ」
「じゃあ逆に、柊哉から見て直すところはあった?私たちが踊ってるぶんには、大丈夫だったんだけど…」
「いやぁ~、無かったような気もするけど…」
「何でもいいから言ってみて?遠慮なんてしなくていいよ?」
「―――ま、強いて言うなら、連携かな…途中あれ、ってところがあった気がする…」
「…あ、柊哉さんも気づきましたか?…実は私、1回サビのところでステップミスしたんですよ…あそこさえ大丈夫だったら完璧でした…」
「海未ちゃんのミスなんてあんまり目立たないからいいじゃん。私だってたくさんミスしたんだよ?なんかなんにも言われなかったけど」
「それは
「うーん、そうかもしれないなぁ。うーん………ま、いっか。次直せば問題なし!」
「穂乃果はまたアバウトな…はぁ、私が問題点を書いておきます」
「ありがとう、海未ちゃん…しゅう君もコメント書いといてね?」
「へーい、りょーかいっと。…くぁ」
「眠そうだね、柊哉………あ、
最初に出てきたのは、穂乃果、ことり、海未の2年生トリオ。
「はーい、今行きます…あ、
「わぁ花陽ちゃーん!!すっごく良かったぞー、もうホントに!」
「本当ですか!?なら良かったです!(にぱっ)」
「―――…守りたい、この笑顔…」
「ん?今柊哉、なんか言ったー?」
「うんにゃ、別に何でもねーよ?…しかし
「そうかにゃー?凛は普通に動いてるだけなんだけど…」
「いや、それが既にスゲェわ…」
「ま、凛になんか悪いところがあれば、ぱぱっと言ってくれればいいよー。…ところで、
「…そうね…まずまずじゃない?」
「そうかな…私はそうは、思わなかったけど…途中頭が真っ白になっちゃったし…」
「あ、凛も凛もー!暑かったのと踊りすぎたのとで途中くら~っ、と来ちゃったー…」
「照明がキツかったのかしらね?…ま、まぁ、私は大丈夫だったけど…」
「―――とか言って、一番ふらふらしてたの真姫だった気がするぞ?俺の見間違いじゃなきゃ」
「なっ、そ、そんなわけないじゃないっ!!!バッカじゃないの!?」
「お、落ち着いて、真姫ちゃん…」
「…にしても、悪かったところなんて挙げればいくらでも出てくるにゃー」
「そうだよね…」
次に花陽、凛、真姫の1年生組。
総勢6人の女神たちだ。
彼女らは皆一様にキラキラした表情で、柊哉に感想を求めてきた。
もちろん柊哉は褒める。
「改善するようなことなんて無いよ」と、頭でも撫でんばかりの勢いで褒める。
だが、会話の中で、それはいつの間にか反省会のようになっていた。
いいところはいいところ、悪いところは悪いところ、と割り切るスタンス。
そして、自分たちの良くないところを挙げて、改善に努めようとしている。
(…うーわ、俺から言うことなしやん)
更なる上を目指すリーダーの手腕に柊哉は脱帽。
メンバーの意識の高さにも平身低頭。
この同級生、後輩たちがいれば音ノ木坂は大丈夫だろう、きっと。
…と、柊哉がウンウン頷いていると、後ろから別の声がかかってきた。
「―――あら、柊哉じゃない。…最近どこをほっつき歩いてたのよ」
「柊哉くん、にこっちの言うとおりやで。なんで最近いなかったん?」
その2つの声の主は、3年生、
心配しているのかしていないのか、よく分からない声色のにこと、こちらは本当に心配しているのか、気遣わしげな声を出す希。
(…いねぇ)
―――だが、その輪の中に、
きちんと話す、と約束した、彼女はいない。
不審に思った柊哉は、事の真偽を確かめるために、こしょっと希に話しかけた。
「―――おい、そんなことより、どうして絵里がいないんだ?…まさか勝手にふらーっといなくなったんじゃあるまいな?」
「ううん、そうじゃないんよ。…えりちは、ちゃーんと向こうにおる」
「…なんかのスタンバイか?」
「そんなわけないやん。えりちはね、柊哉くんを待っとるんよ」
「俺を?…ちゃんと話すって、約束したから?」
「―――そうみたいやね」
「……分かった。ちょっち行ってみるよ。ありがとうのぞ―――」
「わ・た・し・を・の・け・も・の・に・す・る・な・っ!」
「あでっ」「いたっ」
…のけ者にされてお怒りのスーパーアイドル
だが、2人のジト目を浴びてもなお、にこは毅然と言い放った。
「―――2人だけでコソコソ話してんじゃないわよ!そういう話は、ちゃーんとにこにも聞かせなさいよね!?」
「…なんか理不尽に殴られたなーと思ったらこういうことか。どうする、希?」
「うーん、うちは別ににこっちに伝えてもええけど…柊哉くんは?」
「………まぁ、伝える自体は別に全然オッケーなんだけど…」
「けど?けど、何よ」
希の軽い問いかけに、柊哉は言葉を濁して、下を向く。
まるで何かから逃げるように、視線を下へと逸らす。
(…いいのかな、言っても…)
心の中は凄く申し訳ない気持ちで一杯だ。
彼女の申し立てから逃げ、あまつさえ先延ばしにしようとしているのだから。
常識的に考えれば、言うべきだと思うのは自明の理だろう。
でも、なんとなく、今は、違う。
何かが間違っているような気がして、どこかの違和感が警鐘を鳴らしているような気がして。
そりゃあ、美少女の誘いを断るのはどうしようもなく申し訳ない。
まったく最悪の気分だ、と柊哉は心中で吐き捨てる。
こんなことでいちいち迷う自分が嫌になる。
―――でも、と前置きして、柊哉は思う。
(―――…ここで自分が不用意に言ってしまって、絵里の厚意を傷つけるのは、もっと胸クソ悪ぃよなぁ…)
頭から冷たい水をかぶりたいような、変な罪悪感に襲われる。
美少女と美少女を天秤にかけてしまったことに対する、
でも、やるしかないんだよ、俺は、と、柊哉は襲い来る罪悪感を拳で殴って黙らせる。
んんっ?という目を向けるにこの視線を目の前に感じながら、柊哉は意を決するように、ぽつり、ぽつりと言葉を紡いだ。
「―――ごめん、にこ。その話は、また、後ででも、いいか?…あんまり、いい話じゃないんだ…それに、まだ終わってないから」
「柊哉くん…?」
「………………」
「…俺は終わらせたい。終わらせて、また元に戻りたい…今日中に終わるかはわかんないけど、それでいいか、にこ?」
柊哉は祈るように、ひとつ上の先輩の顔をうかがう。
だいぶワガママな理論だ、という自覚はある。もちろん単純に聞き入れてくれるとは思わない。
にこは柊哉に向かって聞いたのだし、柊哉の口からの説明を欲しているだろう。
だが、ここで柊哉がとったのは、今は時間稼ぎ、とばかりの最悪の悪手だ。
きっと消えない傷になるだろうし、どうしようもなく虚しくなる。
「道」という漢字が「首」をも賭けて進むもの、ととれるのなら。
「逃」という漢字を使えば、普通の「兆」倍後悔してしまうだろう。
それでも、柊哉は、約束を破るわけにはいかない。
答えをコロコロ変える奴は只の三流だ。
「美少女」を愛すると決めた柊哉に、たたらを踏んでいる余裕は、ない。
柊哉は決然と前を向いた。
どう言われるにせよ、柊哉は前を向くしかないのだ。
言葉で表せば「開き直った」柊哉に、暫し黙り込んでいたにこは、
「―――…どうせそんなこと言うだろうと思ってたわよ」
まるで投げナイフを地面に向かって投げたかのような、氷のような声音を、
―――
柊哉はきょとん、としてしまう。
もちろんにこの対応にだ。でも怒りっぽい声音に驚いたのではない。
(―――なんで下向いてる顔が笑顔なんだ…?)
だが、柊哉が対応について何か言う前に、にこは顔を上げて、言った。
「…柊哉はそういう人だもんね。この10日間、柊哉の気遣いはイヤってほど見てきたし」
「…は?いやあんなの気遣いだなんて言わねーって」
「いーえ気遣いよ。このμ’sは、柊哉のおかげで、既にいろいろ助かってんだから」
「―――そーかねぇ…」
「そうよ。だって柊哉、
にこのその何気ない指摘に、柊哉はあちゃー、と顔を手で覆う。
(…バレてましたかー…)
正直な話、あまりバラしたくはなかったのだが。
でもバレたから、逆に結果オーライなのかもしれない。
そんな柊哉の苦悩を知ってか知らずか、黙り込んだ柊哉に、にこはふっ、と頬を緩めた。
「―――仕方ないわね。行って来なさいな。その代わり、あとでたっぷり聞かせてもらうからね」
柊哉は限界まで目を見開いた。
そして、こう思わずにはいられなかった。
(―――カ、カッケェな…)
人生の先輩。
そんな言葉をまさに体現したかのように振舞うにこが、柊哉にはすごく眩しかった。
どんなイケメンなんかよりよほど、その立ち姿は凛々しく、格好よかった。
そしてそのにこの後ろから、もう1人の「人生の先輩」が慈愛とともに顔を出した。
「―――柊哉くんは大丈夫。にこっちやみんなへの説明はうちがしとくから、…柊哉くんは、もうひと頑張りしてき?」
(―――ったく、敵わねぇなぁ…)
その希の言葉に。
自分と3年生の間にある、人生の糧の違いを感じた柊哉は。
何故かどうしようもなく、カッコいいところを見せたくなって。
いつも以上に柔和な顔の彼女たちに向かって、精一杯のキリッとした顔を作った。
「…ああ、分かった。行って来るよ…ありがとう、希、にこ」
「悩んでる暇があったら早く行って来なさいよ」
「うちの親友を頼んだでー♪」
「おう…朗報を届けるよ」
そう言って手を振ってくれるにこと希を後ろ目に。
柊哉はくるり、と後ろを向いて、瞬間駆け出した。
(…今だけは言うことを聞いてくれよ、俺の体…)
もう超眠いし、ブッ倒れたいし、疲れたし、罪悪感で死にそうだ。
でも。
彼女らの厚意も、絵里の厚意も、無駄になんてしない。
無駄なんて言わせない。
自分へと託された信頼に、汚泥を塗るなんて絶対に許さない。
そのためには、今、
理性で押し通せ。
根性を見せろ。
―――分かったら、さっさとケリつけて来い。
己の鼓舞を幻聴した柊哉は、ギアをトップスピードまで上げて、絵里を探し始めた。
いかがでしたでしょうか?
自分としては昨日の朝5時に打ち終えたので、微妙な出来といえば微妙なのですが…。
まぁ、クライマックスに向けて盛り上がったし、いいような気もします。
感想、アドバイスなどありましたら、どうぞよろしくお願いします。
さて、次はいよいよ12話、えりち編のクライマックスです。
ものすごく長くなりそうですし、納得していただけるかは分かりませんし、2月15日に間に合うかどうかは神のみぞ知る!ってトコロなんですが。
7話以下のフラグを怒涛の勢いで回収していきます。
それでは、また12話で!