ひとりひとりと、女神と人と。~改訂作業中~   作:M崎

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 どうも、最近目薬の色が透明から赤色に変わりました、M崎です。
 目薬を差すと、周りの友人から「お前充血してんのか?ただの変態だな」と言われました。泣きたい。

 さて、この13話から新ヒロイン・海未ちゃん編です。
 前のえりち編と違って、わりと日常もの系で頑張っていきます。

 至らぬところなどあると思いますが、温かい目で見守っていただけると幸いです。

 それでは、どうぞ。

 ※4月5日追記

 私の話は、一応同一時間軸です。
 が、現在試験的に各個独立させています。



Act.3 園田海未
13話


 

 

 7月13日、月曜日。

 神城柊哉(かみしろしゅうや)は、普通にハイテンションだった。

 

 「―――なんで柊哉さんと一緒にされるのですか…」

 「俺の運だってーの。俺が悪いわけじゃないやい」

 「柊哉さんが悪いんです。…今日の運勢はいったいどうなってるんでしょう…」

 「俺は今日の運勢最高だったぞ?…どうしても気になるんなら、(のぞみ)にでも占ってもらえば?」

 「…本当にそうしてみましょうか。そうすれば、少しは大丈夫になるかもしれませんし」

 「マジになって考えんでも良かろうに」

 

 国立音ノ木坂学院、第1棟2階、2年2組教室。

 一番左側、窓際の列の前から5番目。

 柊哉はそこで、隣の席に座る音の女神、園田海未(そのだうみ)が深刻そうにため息をつくのをニヤニヤと見守る。

 睨まれたってどこ吹く風だ。

 柊哉は柊哉(じぶん)のペースを全く崩さない。

 

 「―――はぁ…本当に、どうしてこうなったんでしょう…」

 

 海未が柊哉のそのスタンスにすら息を()き。

 そしてまるで罪を悔いるように疑問を風に乗せたのを聞いて。

 柊哉は心の中で、その質問に答えた。

 

 ―――話は、およそ40分前にまで(さかのぼ)る、と。

 

 

 

                        ★

 

 

 その40分前。

 

 文字通りの「大爆睡」「大遅刻」「大説教」という3つの「大」に見舞われた柊哉は、なんとか教室のドアに到達出来た。

 

 「………つ、ついた…」

 

 ガラッ!!と大きな音を立ててドアをブチ開ける柊哉。

 その音は思いのほか大きかったようで、先生も生徒も一瞬体がビクッ、と跳ねている。

 そして直後に、クラス中の視線が柊哉の身一つへと降り注がれる。

 詮索と、疑問の意味も兼ねて、だ。

 

 だが柊哉は「遅れてすみません…」と教師に一礼するのみで、あとはオールスルーで、自分の席へと着席した。

 すぐにカバンを横のフックにかけ、教科書を取り出そうとする。

 

 (―――…あっ)

 

 しかしかけようとしてかけ損ねた。

 柊哉の手を離れたカバンは、フックの横をすり抜け、重力に従って落下する。

 

 それが地面に到達した瞬間、ガシャン、と盛大な音が鳴ってしまった。

 その音が左耳に響いてきて、柊哉は思わず耳を押さえる。

 

 まあ、幸いなことに中身は出なかったようだ。周りに物が飛び散らかっている様子はない。

 柊哉は心中で「セーフ」と唱える。

 

 だがその後にほっと一息つくような間はなく、柊哉はすぐに別の問題に気付かされた。

 先程の遅刻とカバンの騒ぎで、白昼堂々だいぶ大きな注目を集めてしまったらしい。

 教室(じゅう)の視線を頂戴した。

 

 「―――ご、ごめん」

 

 気恥ずかしくなった柊哉は、申し訳なさげに軽く手を挙げて、たくさんの目を牽制(けんせい)する。

 今のは故意じゃない、でも俺が悪かった、という謝罪と釈明の右手だ。

 敬礼みたいなポーズになってしまっているが、この際仕方がない。

 

 半ばギャンブルのような気持ちで反応を待つ。

 

 だが一応納得はされたらしく、柊哉を取り巻く視線はゆっくりと離れていった。

 柊哉は安堵のため息。

 

 そのため息と同時に、1人の声が近づいてきた。

 

 「―――遅かったですね…」

 

 なんとなく不機嫌そうな声。

 でも心配してくれている声。

 柊哉は彼女の咎めるような声に、言い訳もせずに皮肉で返す。

 

 「―――悪かったな、遅くなって」

 

 話の相手は、μ’s(音の女神)の一柱、園田海未(そのだうみ)

 柊哉と同じ2年2組所属のクラスメイトにして、今現在柊哉の隣の席の美少女だ。

 柊哉に向ける冷たいその表情は、裏を返せばどこまでも透徹で美しい。

 柊哉の2人目の推しだ(ちなみに1人目は花陽(はなよ))。

 

 そんな柊哉にとっては超大好きな美少女である海未は、柊哉の言動に、驚いたように目を丸くしていた。

 

 「…別に柊哉さんが悪いだなんて言ってませんよ。なんで謝るんですか?」

 「遅刻したことには変わりねぇだろ?俺がやっちまった過ちなんだから、俺が謝るのがスジってもんだろ」

 「―――そういうものでしょうか?」

 

 柊哉の答えになおも疑問を(こぼ)す海未に対し、落ちたカバンをフックにかけなおした柊哉は4時限目の世界史の教科書を一式引っ張り出しながら、どこまでも楽観的に告げる。

 

 「そーそー。自分のことは自分でなんとかする、ってこったー」

 「…確かにそうですね。一理あるかもしれません」

 「だろ?」

 「…ということは、今回のことは柊哉さんが悪いということですよね」

 

 納得をもらえたと思ったらカウンターパンチ食らった。

 にこにこと微笑む海未に向かって、柊哉はやっちまった、という表情で頭をかく。

 

 「―――あー…そういうことになるかなー…」

 「良かったです。これで柊哉さんを見直さなくて済みました」

 「アンタ俺のことホントに嫌いだな…」

 

 弁明どころか、大好きな美少女に遠まわしに「嫌い」とまで言われてしまった。

 傷心の柊哉は涙ぐみながら、海未にずっと感じていた疑問を投げかける。

 

 「…なぁ、海未」

 「なんでしょう?」

 「俺のどこがそんなに嫌いなの?」

 「え。…そ、それは…」

 「いやね?思い当たるフシは結構あんのよ。例えば初対面でおちょくったりとか、公開告白とか言っちゃったりとか」

 「…よく分かっているじゃないですか。逆にどうして聞いてきたんですか?」

 「だってさ?嫌われるにしろ、ここまでストレートに『嫌』って言われちゃうとさ?なんで嫌われたのかなーって思っちゃうわけよこれがー…」

 「う。…た、確かに…」

 「ねぇもうほんとなんでなんだろなー…俺はこんなにも海未ちゃんを愛しているというのに!!」

 「―――そういう何につけても軽薄なところですよ!!」

 

 その話に海未が興味を示し始めたので、調子に乗って大好き、と演説したら、彼女は顔を真っ赤にして席から立ち上がっていた。

 ガタンという音とともに立ち上がった海未は、声色どころか左手まで震えている。

 それ「だけ」見ている柊哉には、彼女が恥ずかしがっているんだか怒っているんだかまったく区別はつかない。

 だが、たぶん十中八九怒っているだろうなー、と考えた柊哉は、とりあえず海未と同じように立ち上がって、演説を始めた。

 

 「…ひどいよ海未ちゃん!!俺の言葉が信用できないの!?」

 「貴方の言葉はどこか胡散臭いんですよ!!でなかったらこんなところで立ち上がってません!!」

 「はぁ!?俺の言葉が胡散臭いだってぇ!?」

 「ふざけないでください!!私は結構本気で言っているんですよ!?」

 「じゃあ言わせてくれ!俺だって本気だよ!胡散臭くも嘘くさくもねぇわ!!真実真実、英語で言うならTRUE(トゥルー)だよ俺の言葉は!!」

 「どう考えてもそれはFALSE(ウソ)でしょう!!今の言い回しといい、柊哉さんの言動はまるで詐欺師みたいですよ!?」

 「どこがだよ!!俺の海未に対する愛情は本物だ!!異論は認めねぇぞ!!」

 「…ほらまたそうやってすぐに愛情とかそういう言葉を…!」

 

 周囲お構いなしに「大舌戦」を繰り広げる海未と柊哉。

 もはや夫婦漫才の様相を見せ始めたその会話を、周りのクラスメイト達が面白そうに見ていることに2人は気づかない。

 …気づく暇もなく論戦しているからだ。

 

 その途中で、頬を染めて(うつむ)いた海未に、ここぞとばかりに柊哉が攻勢を仕掛ける。

 

 「大好きな人に大好きと伝えて何が悪い!俺はμ’sを、この2年2組を、この女子高を愛してるんだ!!嫌だといっても何度でも言ってやるからな!!」

 「そこで開き直るのは間違っているでしょう!?大体私だってこの学校は好きですし、μ’sの仲間も好きですが、そこまで声を大にして宣言するのなんて穂乃果(ほのか)ぐらいのものですよ!?」

 「うえーいじゃあ俺が穂乃果の仲間になってやるよ!…ところで海未さん」

 「何ですか!?」

 「さっき言ってた、『μ’sの仲間も好き』って、それ俺も入ってんの?」

 「え?…あっ」

 「え…あっ」

 

 失言に気づいた海未が慌てて顔を背けたのを見て、柊哉も今更ながらに今の状況に気づいた。

 

 あれだけ席から立ち上がって論戦していたのだから、当然前の時以上の視線が、柊哉と海未に集まっていた。

 そして今は授業中。静かに先生の講義を受けるべき時間。

 つまり周りは静かな状態だ。あの愛の告白もばっちし聞かれていたらしい。

 クラスメイトがニヤニヤと、からかうように笑みを向けていた。

 

 柊哉にとってはそれだけでも普通に赤面もの。

 海未と反対方向に顔を背け、「くそっ、気づかなかった」と小さく歯噛みする。

 

 だが喜劇はまだ続くらしい。

 前に立っていた世界史の大船渡(おおふなと)先生が、呆れたような表情でこめかみを押さえながら、柊哉と海未に苦言を呈したのだ。

 

 

 「―――夫婦喧嘩は他所でやってもらえるかしら」

 

 

 その言葉に、今度こそ2年2組教室は大きな笑いと指笛に包まれた。

 授業どころではない、大騒ぎ。いつ教頭先生が飛んできてもおかしくない状況だ。

 

 そんな状況下、柊哉と海未に出来ることは、「すいません…」と謝りながら席に着き、互いに睨みあうことしかなかった。

 

 

 

                    ★

 

 

 

 結局その授業のあと、昼休憩から6時限目の終わりまで、柊哉と海未はさんざんからかわれた。

 クラスメイトからの質問攻めにあったのだ。

 

 例えば。

 「ねぇねぇ、神城(かみしろ)くんと園田さんって付き合ってるの!?」とか。

 「2人ってお似合いだねー。馴れ初めはどんな感じだったの?」とか。

 「柊哉くん、園田さんのことが好きだったんだ~。まあ、可愛いよね~」とか。

 その他諸々、クラスメイトから2人の関係について超たくさんの質問をもらった。

 一応海未のことを考えて、答えははぐらかしていたが、柊哉としては満更でもないようなむずがゆいような、そんな気持ちだった。

 

 しかし柊哉のお相手、海未としてはその仕打ちが納得いかなかったらしい。

 6時限目が終わり、放課後へと突入した時間帯。

 そこでとうとう堪忍袋の緒が切れたのか、彼女は部活の道具をひっつかんで教室の前へと走り、教壇の前に仁王立ちして、クラス全員に向かって、大声で叫んだ。

 

 

 

 「―――私と柊哉さんは、皆さんが考えるような、そんな関係ではありませんっ!!」

 

 

 

 大音声で、必死に。

 叫ぶだけ叫んで、そのまま逃げるように教室のドアから出て行った海未を見送った2年2組所属の34名の女生徒は。

 ゆっくりと、真偽を確かめるように、柊哉のほうへと視線を向けた。

 

 柊哉はその統率された動きに(おお、すげー)と苦笑しつつも、ちゃんとした事実を告げる。

 

 

 「―――まあ、事実だよ」

 

 

 その言葉で興味を失くしたのか。

 はたまた思った通りじゃなかったことに落胆したのか。

 34人の美少女は「なあんだ」と呟きながら、普段通りの日常に戻っていった。

 

 柊哉はそれを目の端にとどめながら、ふと想像する。

 

 彼女らはどこへ向かうのだろうか。

 部活に向かうのか、帰宅途中の青春を楽しみに向かうのか。

 もしくは神保町へショッピングに行くのかもしれないし、はたまた自らの家へと直行するのかもしれない。

 選択肢は様々だ。柊哉は速攻で選択肢を絞るのを諦める。

 

 だがこれだけは言える。

 それは彼女らの知る世界であり、柊哉の知る世界ではない。

 やむを得ない事情がない限り、むやみやたらに柊哉が手を出すべきものではない。

 

 それが彼女らの「世界」なのだから。

 

 だからそれを柊哉は席に座ったまま見届ける。

 動くでもなく、言い訳するでもなく、ただ座っているだけで。

 

 彼女らと「世界」を隔てるように、柊哉は自らの「世界」を作る。

 

 それが功を奏したのか、やがて10分もすると、教室には人っ子1人いなくなった。

 

 柊哉ひとりだけが存在する、つい10分前とは打って変わった寂しげな教室。

 夏至を過ぎたのに、太陽は未だ南西の空で燦然と(またた)いているのがちらつく。

 カーテンのピンク色が目に眩しい。対比するような黒板の深緑が目に優しい。

 

 そんな寂寥の空間の中で、柊哉は椅子に座り、ただ存在する。

 何者にもならず、また何者にもなろうとせず、自らの席から一歩も動かない。

 目を閉じて、己の心を洗うように、黙想する。

 

 柊哉はここで1人、ある人物を待っていた。

 その人物は、柊哉(じぶん)にとって大切な人で。

 自分の大好きな、μ’sのメンバーで。

 自分の今の悩みに答えてくれそうな人で。

 

 ―――園田海未、という人物を、おそらくもっとも知っているであろう人物で。

 

 待つこと数十分。

 教室の右前にかかる時計の長針が、およそ半回転したくらい。

 

 柊哉以外誰もいなかった2年2組教室に、女神が舞い降りた。

 

 

 「―――失礼しまーす…あ、柊哉ー!30分も待たせてごめんっ!!」

 「失礼します…あ、しゅう君!!ごめ~ん、なかなか練習抜けられなかった~」

 

 

 柑橘のような瑞々しい、溌溂とした声色の女神と。

 ふわっとした、甘い天使のような声音の女神。

 

 この2人が、柊哉がずっと待ち望んでいた人物だ。

 柊哉はすっと閉じていた目を開ける。

 そして笑顔になって、手招きして自らの世界へと2人を迎えた。

 

 

 「―――いーや、俺にとっちゃこのくらいなんでもねぇさ。…来てくれてありがとな、穂乃果(ほのか)、ことり。練習抜かして来てもらって、ごめんな?」

 

 

 高坂(こうさか)穂乃果と(みなみ)ことり。

 隣の2年1組所属で、μ’sでは「1」と「2」を冠する、海未の幼馴染。

 柊哉の心強い助っ人であった。

 

 「うぅん、全っ然大丈夫!むしろ呼んでくれてこっちこそ嬉しいよ!」

 「私は大丈夫!それより、何か悩みがあるんだよね?…私で良ければ、相談に乗るよ~?」

 

 そんな2人に感謝の旨とちょっとした謝罪を伝えると、2人の女神は「大丈夫」と異口同音に告げて、拳をぐっ、と握った。

 穂乃果もことりもやる気のようだ。柊哉は素直に感心する。

 

 「おお頼もしい。俺の同級生は頼もしいこったね」

 

 彼女らの眩しさに目を細める。

 お日様のように明るい穂乃果と天使のように慈悲深いことり。

 同じ16歳とは思えぬ頼もしさ。

 

 柊哉は感動で涙を流しそうになりながら、本題を切り出した。

 

 

 

 「―――さてと。んじゃ、少し相談してもいいか?」

 

 

 

 




 いかがでしたでしょうか?

 実はこの13話の総製作時間、なんとたったの5時間でした。
 何かが舞い降りたかのように筆が進んだ…これはいったいどういうことだ…。

 そして柊哉はまたやってくれました。授業中に論戦とか、そうするつもりはなかったのに…。
 毎度毎度いい具合に期待を裏切ってくれる頼もしいスパイですよ彼は。

 それでは、また14話で。
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