ひとりひとりと、女神と人と。~改訂作業中~   作:M崎

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 どうも、「書きたいネタに文章がつながらない病」に絶賛侵蝕され始めました、M崎です。
 今回は前に比べて、異様に書くのに時間がかかりました。
 難しかったんですよ…。

 実はこの14話、メインヒロインたる海未ちゃんがほとんど登場していないのですが、これからの行く先を決める上で結構重要な話となってくる話です。
 なので小数点をつけずに、「14話」とカウントさせていただきました。

 それでは、どうぞ。

 ※4月5日追記

 13話より読み始めた人は、一度9話最後を読んでください。



14話

 2015年7月13日、月曜日。

 

 この日神城柊哉(かみしろしゅうや)は、高坂穂乃果(こうさかほのか)(みなみ)ことりという2人の女神に、とある相談を持ちかけていた。

 

 「―――すまん、今回相談することは、他でもない、海未(うみ)に関することだ」

 

 机の上で両手を組み、目の前で見守る美少女をじっと見つめて、相談の内容を打ち明ける。

 彼女(うみ)のことで、少し相談があると、問題を提起する。

 

 場所は音ノ木坂学院第1棟2階、2年2組教室。

 窓際の列、後ろから2番目と、3番目の席。

 時間は夕方、17時12分。

 黄昏時(たそがれどき)の空気の中、本来向くべきでない後ろ方向に座る柊哉は、淡々と、最初から本題に切り込んで、言の葉を紡ぐ。

 

 「ものすごく不躾(ぶしつけ)なお願いだが、聞いてほしい…」

 

 柊哉の静かな声音は、教室の中で、まるで波のように広がっていった。

 

 「………………」

 

 その真剣味からか、対面に座る2人は、固唾をのんでこちらを見つめている。

 

 柊哉は内容へ入ろうと、次の言葉を脳内から探し出し、喋ろうとした。

 

 「――――――」

 

 だが、最初の言葉以外、柊哉の口は喋るのを躊躇(ためら)うように動こうとしない。

 動け、動け、と命令を出しても、口は堅く引き結ばれて、動こうとしない。

 

 (…やっぱこうなったしー…)

 

 単刀直入に内容を告げるのはいくらトコトン主義の柊哉の脳といえど恥ずかしいのか。

 赤面して文字通り口を(つぐ)んでしまった柊哉は、やはりな、と少し苦笑した。

 この反応はある程度予想がつく。

 むしろこうならなかったほうが、柊哉は自らに驚くだろう。

 

 なぜなら柊哉は、全く自分のガラに合わないことを相談しようとしているのだから。

 そりゃ少しは躊躇もするし、少しは言わないほうがいいのかな、という気持ちもわいてくる。

 当然の反応だ。

 

 (―――でも、今は言わなくちゃならんだろ)

 

 しかし柊哉は、「それでも認めるのは『少し』だけだ」と、自らに言い聞かせる。

そして、次の瞬間には自嘲の感情を完全に滅却して、迷いを振り払うように、相談の内容を言い切った。

 

 

 「―――俺は、海未と、もっと仲良くなりたい。…今のような関係じゃなくて、もっと違った…少なくとも1人の友人として認められるくらいには、海未と向き合いたい」

 

 

 その柊哉の「相談」に、2人の女神は、はっと虚を突かれたように固まった。

 

 蓋を返せばなんてことない「相談」。

 それは「もっとあの人と仲良くなりたい!」「どうやったらあいつと友達になれる?」というような、ただの友人関係の相談だったのだ。

 この世に生を受けた誰だって一度は相談するであろう、友人関係の相談。

 

 ただ、およそ全ての初対面の人間から「軽薄」という評価をもらう柊哉にとって、それは全く縁の無さそうな相談でもあった。

 

 「「………………」」

 (…やっぱ固まるよな、そりゃあ…俺らしくねぇもん…)

 

 柊哉は彼女らの反応に、落胆よりも先に大きな同情を感じる。

 相談に驚かれたのは仕方のないことだし、全然柊哉(じぶん)らしくないのも事実だ。

 彼女らが驚愕の反応をとるのは、間違ってはいないだろう。

 

 柊哉がそこまで納得したところで、ずっと黙っていたことりが、確認のように問いかけてきた。

 

 「―――ええっと、しゅう君?」

 「…ことり?」

 「その、つまり…しゅう君は、海未ちゃんと友達になりたい、ってことでいいんだよね…?」

 「…そうだよ。その解釈で間違ってない」

 

 それに柊哉が肯定の返事を返すと、穂乃果は「ほぁ~」と腕を組んで、ことりは「う~ん…」と頭に手をやって、考え込んでしまった。

 

 暫しの沈黙。

 彼女らの反応を待つ柊哉は、ふと外の景色に目を向ける。

 

 陽は既に西に傾き、燦々と輝く光がオレンジの色を帯びて、きらきらしていた。

 陽光が全てに、薄くオレンジをかけて、世界を(だいだい)に塗りつぶしていた。

 

 柊哉はその情景を綺麗だ、と思った。

 でもそれと同時に、残酷だ、とも感じた。

 

 それは夕凪の神秘。

 昼という時間の通過を惜しむ、空の魅せるワガママ。

 神に昼の延長を祈り、認められなかった空が、最後に放つ置き土産。

 

 ―――その色が、透き通るようなオレンジ色だから、夕方の世界は橙に染まる。

 ―――そして、それに押し負けるから、柊哉の思考は(くら)いオレンジに染まる。

 

 だがそのオレンジ色に負けず劣らず、己を世界に主張する女神―――穂乃果は、熟考の泉から復活すると、柊哉の葛藤を全く無視して、いつも通りに言い放った。

 

 

 

 「…うん、柊哉の言いたいことはわかった!…それで、どうする?」

 

 

 

 「…はっ?」

 

 その言葉が耳に届いた瞬間。

 柊哉はまず耳を疑った。

 自分がおかしいのではないか、と疑った。

 そして反論しようとした。

 「本当にそれでいいのか」と、疑問を呈そうとした。

 

 だがその反論は、柊哉の耳元で囁かれた、とろけるような音色が許さなかった。

 

 「―――しゅう君、穂乃果ちゃんの言うとおりだよ?」

 「ことり…」

 「くよくよ悩むより先に、することがあるんじゃない?」

 

 にっこり笑った、その微笑みが柊哉の反論をせき止めた。

 柊哉は驚いた顔で、自らの左を見やる。

 気づかぬ間に左のほうに動いていた、可愛らしい表情で微笑むことりのほうを見やる。

 

 「…私も穂乃果ちゃんも、手伝ってあげるから♪」

 

 にこっ、と。

 呆然とした柊哉の視線を受けたことりは、その微笑みを、花咲くような笑顔に変えた。

 

 それはまさに「可愛い」としか形容しようのない笑み。

 天使の笑顔(スマイル)

 

 (…っ、ははっ…やっぱ穂乃果とことりに相談して正解だった…!)

 

 そのスマイルに、柊哉は何故か、救われたような気持ちになった。

 今までの自分がバカらしくなって、晴れ晴れとした気持ちを錯覚した。

 

 「―――はは…」

 

 軽く、本当に軽く、笑いを零す。

 自分の道化さ加減に。

 穂乃果たちに遠く及ばない自分の心に。

 まだまだ子供だった自分に。

 

 (…じゃあ、子供は子供らしく、はっちゃけて行こうか)

 

 そして。

 それをようやく自覚した柊哉は。

 まるで滝行をしてきた後のような、憑き物が落ちたような表情になって。

 未だ正面でうんうん唸っている穂乃果の前で、相好を崩した。

 

 

 「…そうだな、何とかしなきゃな。…行動しないと、結果なんてついて来ねぇし…!」

 

 

 (有言実行、ってか…!!)

 

 その言葉で本当に吹っ切れた柊哉は、凝り固まっていた上体を、後ろにうーん、と反らした。

 緊張という(かせ)から解放された柊哉の筋肉が、喜びの悲鳴をあげながら弛緩していく。

 

 それが伸びきったとき、柊哉は勢いよく体を元に戻して、机にガシャン、と両手を叩きつけた。

 そして少しだけ驚いた2人の女神に向かい、柊哉は改めて、相談を打ち明ける。

 

 以前とは全く違う、どこか剽軽(ひょうきん)さも漂わせた口調で。

 

 

 

 「…さて。海未と仲良くなるためには、具体的に何をすればいいと思う?」

 

 

 

 その、雰囲気がまるで変わった相談に、まずは穂乃果が反応した。

 勢いよく、「待ってました!」と言わんばかりに手をビシッ、と挙げる。

 

 柊哉は威勢を損なわぬよう、素早く指名した。

 

 「はい、穂乃果」

 「海未ちゃんに直接聞いたらいいと思う!」

 「それじゃ俺が穂乃果とことりを呼んだ意味がないだろうが。それは最終手段だ」

 「…じゃあ、海未ちゃんの好きなものでもあげたらいいんじゃないかな?」

 「海未が犬みたいじゃねぇか…調教するんじゃないんだから…」

 「あはは、確かにねー。でも、海未ちゃんはそうすると結構喜ぶよ?」

 「ほほーう?…ちなみに海未の好物って?」

 「うちの饅頭、穂むら名物穂むらまんじゅう!!…略してほむまん!!すっごく美味しいから、今度柊哉も食べに来てよー!」

 「略すと普通に美味そうだな…よし。メモメモっと。ほかにはー?」

 「う~ん…海未ちゃん、アイドルのことは大好きだし、もっとμ’sを盛り上げる、っていうのはどうかな~?」

 「え、海未ってアイドル大好きなのか…?てっきり、『あんな露出の多い恰好を着るなんて…』とかって、結構嫌がるタイプっぽく見えたんだが…」

 「初対面の人は普通そう思うよ…?でも、海未ちゃんって、ああ見えてアイドルに憧れてるから。アイドルのお仕事も、いやいや言いながらだけど、きっちりこなしてくれるんだ♪」

 「おいマジかよ…確かに『ラブアローシュート』って言ってる時点でそうじゃないかとは思ってたけどよ…でも、マジか…」

 「だって、私の家に花陽(はなよ)ちゃんが初めて来たとき、海未ちゃん私の部屋でアイドルのポーズとってたし」

 「ウソだろ…?海未にアイドルって、効きそうにないって思ってたのにー…まぁ、いいや。メモしといてーっと…まだある?」

 「えー?ほかにはー…うむむ~…あるかなぁ…?」

 「…考えてみたら、海未ちゃんと仲良くなった理由って、穂乃果ちゃんが海未ちゃんを鬼ごっこに誘ったから、ってだけだし…」

 「そうだよねー…」

 「…私たち、海未ちゃんと仲良くする方法なんて知らないね…」

 

 だが最初の勢いは、話を進めていくと、徐々に小さくなっていった。

 口調の威勢良さも、今となっては沈黙しか残していない。

 そして、考え込むように視線を下げて、必死に模索する彼女らを見て、柊哉も何も言えなくなる。

 

 やはりこれは「不躾な」お願いだったのだろうか。

 彼女らに相談せず、「ひとりで」解決すべき問題だったのだろうか。

 しかしそれでは、希との約束と自らの行動が矛盾してしまう。

 「ひとりで」行動してしまえば、その瞬間に希との約束が意味をなさなくなってしまう。

 

 ではどうすればよいのか。

 2つを両立させるには、自らはどう行動すればよいのか。

 

 と、柊哉が悩み始めたその時である。

 

 「あーっ、そうだ!!!!」

 

 何か名案でも思い付いたのか、穂乃果が席から勢いよく立ち上がった。

 

 「うおぅっ!?…どしたー、穂乃果―?」

 「わっ!?…どうしたの、穂乃果ちゃん?」

 

 穂乃果の突然の行動に同時に驚いた柊哉とことりは、同時に同じ質問をする。

 その質問に、当の穂乃果は、「聞いて!!」と言外に主張するキラキラした瞳で、その「名案」を得意げに叫んだ。

 

 「…知らないのなら、見つけるしかないじゃん!!」

 「―――ええと、どゆこと?」

 「分かんない?つまりね…―――」

 「?」

 

 

 「―――海未ちゃんのあとをつければいいんだよ!!」

 

 

 「アウトォッ!!!」

 

 柊哉は全力で反対した。

 普通に反論した。

 

 確かに海未のことは好きだし、2人目の推しである以上、柊哉としては何かしら仲良くなりたいとは思う。

 だが断じてストーカーになりたいわけではない。

 海未のプライベートを侵害したいわけではない。

 

 柊哉はそんな意味も込めて、穂乃果の「名案」に物申した。

 

 「それって俺ただのストーカーだよなぁ!?」

 「うん、そうだよ?」

 「…そこまですると、俺流石に超嫌われると思うぞ!?」

 「えー、でも、これしか思いつかなかったしー…」

 「…お前はそう言えるかもしれんけどな、俺としては死活問題なんだよ!!…ことりもそう思うだろ!?」

 「それ、すっごく面白そうだね、穂乃果ちゃん!!」

 「でっしょー?」

 「No kidding!?Say that it is a lie, Kotori!?(嘘だろ!?嘘だと言ってくれよことりサン!?)」

 

 しかしことりが賛成に回ったことで、柊哉の良識ある抗議はいとも簡単にスルーされた。

 柊哉は予想だにしないこの結末に驚愕。

 思わず英語まで使って、ジーザス、と己の境遇を嘆き、机に突っ伏してプルプルと震える。

 

 (―――ことりさん穂乃果に弱すぎでしょう…?)

 

 そんな柊哉を見て、穂乃果は心配するな、というふうにヒラヒラと手を振った。

 

 「…大丈夫だよー、私もことりちゃんも一緒だから」

 「それ今の俺からすれば不安要素でしかないんだけど!!」

 「バレないようには気を付ける!!」

 「普通はそうするもんだと思うぞーっ!」

 「まああとは、海未ちゃんだし、大丈夫でしょ」

 「I am the most anxious about the word "all right" for me…(その『大丈夫』っつー言葉が一番心配なんだが…)」

 「ご、ごめん。私、そんな複雑な英語はちょっとわかんない」

 「ああ、そういえばこの子はこういう子だった…」

 「あ、あはは…で、でもさ、しゅう君」

 「…なんでせう?」

 「なんかちょっとだけ、楽しそうって思わなかった?」

 「………………」

 「…あ、思ったんだ~♪」

 「――――――…思ってないです」

 「嘘つくんじゃないっ!!柊哉絶対面白そうって思ったでしょ!?」

 「じゃあ、決まりだね♪」

 「とほほ…身から出た(サビ)ってこういうことか…」

 

 

 ―――結局、言い包められた柊哉は翌日から、海未のストーキングをすることとなった。

 余談だが、今日の練習中、絵里(えり)に「どうしたの、柊哉。とても顔色が悪いけど…」とものすごく心配されてしまったがために、柊哉はこの決断を死ぬほど後悔したそうな。

 

 

 

                    ★

 

 

 

 

 それと同時刻。

 

 

 園田海未(そのだうみ)は、自分以外誰もいなくなった弓道場で、誰にも聞こえないように、本当に小さく言葉を零した。

 

 喉の奥に留まっていた魚の小骨を、言葉の流れで取るかのように。

 少しだけ震えている吐息と一緒に、蒸し暑い7月の空気に溶け込ませるように。

 

 それは意識して言ったわけではない。

 それは考え込んだ結末ではない。

 それは自らを省みたわけではない。

 

 それは彼を認めようとしたわけでもない。

 

 本当に、無意識に。

 何故か、ふわりと、軽やかに。

 疑問符を風に乗せて。

 

 思い返すのは、あの言葉。

 

 

 『―――大丈夫、あいつは俺が助けっから。任しときぃ☆』

 

 

 

 「―――『助ける』って、何を、ですか…?」

 

 

 

 




 いかがでしたでしょうか?

 柊哉くんはついに半ストーカー紛いのことまで始めてしまいました。
 全国の海未ちゃんファンの皆さま本当にごめんなさい。
 そして海未ちゃんごめんなさい。

 次の15話から本格的にストーキングを始めていきます。
 もしかしたら小数点つきの話があるかもしれません。

 それではまた。
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