ひとりひとりと、女神と人と。~改訂作業中~   作:M崎

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 さて16話です。

 申し訳ありません、急いで打ち出したもので、検閲が全くできていません。
 誤字報告をしていただけると幸いです。

 それでは、どうぞ。




16話

 

 海未(うみ)のストーキングは、翌15日も続いた。

 

 

 放課後、東京都千代田区、神田小川町。

 柊哉(しゅうや)たちの通う音ノ木坂学院の最寄り駅が存在する町。

 見渡す限りビル、車、人の三拍子で、看板や店構え、商品の他には灰色、白、黒といった無彩色のものが多い、THE・都会というような光景だ。

 とはいえ、目に入るものはたいして真新しい光景でもない。普段通りの、見慣れた神田の日常だ。しかしそれに7月の暑さがプラスされるだけで、それは一層鬱陶しく見える。

 

 

 (―――今日はなーにが見っれるっかなー♪)

 

 

 ―――だが、ストーキングが一周半回って楽しく思えてきた今の柊哉にとっては、そんなことは心底どうでもよかった。

 

 

 「…柊哉、なんかすごく楽しそうだね」

 「普通に楽しくなってきたんだよなぁ、これが」

 

 柊哉は隣で一緒に見張ってくれている穂乃果(ほのか)のジト目を、冗談交じりに軽く受け流す。

 そのままぐぬぬ、と睨んでくる目線もスルー、逆にその目線を周囲に配る。

 今の柊哉には、良くも悪くも「前しか」見えていなかった。

 正面に見える自らの「ターゲット」にしか向いていなかった。

 

 穂乃果もそんなことは重々承知しているのか、それ以上睨むことはしない。

 諦めたような息の音が聞こえると同時に、話を切り替えてこちらに話を振ってくる。

 

 「―――柊哉、今日はどこまで行くつもりなの?」

 「海未が家に入るまで…と言いたいとこだけど、そこまでしたらマジのストーカーだからな。御茶ノ水のロッ○リアが最終目的地」

 「そこでことりちゃんと合流するわけだね!?」

 「おおよ。そこで昨日と同じように情報を集めて、明日の日程を立てよう」

 「分かった!」

 「…って、穂乃果もこの状況楽しんでないか?」

 「うん、私は楽しいよ?…海未ちゃんのあとをつける、なんて言いだしたの、私だしね」

 「…まー、穂乃果はどこに行っても、結構楽しめそうだしなー…」

 「やってみないと分かんないことだし、今日もたぶん、大丈夫だよ!!」

 「確かに」

 

 柊哉は穂乃果の「うがーっ」というガッツポーズに、追跡中だということも忘れてクスリ、と笑う。

 

 (穂乃果のポジティブシンキングには、毎度毎度舌を巻かされるねぇ)

 

 やってみなければ分からない。

 確かにその通りだ。スタートラインの手前で挫折するのと、スタートしてから引き返すのとでは、恰好が大きく違うだろう。

 もちろん、「まだマシ」なのは後者だ。

 

 そして穂乃果は、これまでいろんなことを「やってみて」、結果を出してきたから、こうも言葉に説得力があるのだろう。

 

 ―――と、柊哉は勝手に納得しておく。

 そろそろ動きだす頃合いだ。ことりが海未の手を引いて別の場所に移ろうとしている。

 

 「…うし。んじゃ、今日の追跡(ストーキング)を始めようか」

 「りょー、かいっ!!」

 

 穂乃果の元気の良い返事を背に、柊哉は動き出すタイミングを見計らんと、ビルの陰からこっそり顔を出した。

 

 柊哉の視線の先には、ことりと楽しげに会話する海未がいる。

 そのふんわりとした柔らかな微笑みは、どう控えめに評価しても美しい。

 

 凛冽で、芯の強さと賢さを兼ね備えた才媛で、純正統派美少女。

 園田海未を一目見た人は皆そういう評価を下す。

 

 

 ―――しかし柊哉は、先日の追跡により、海未にはそれ以外にも表情があることを知っている。

 

 

 普段の海未からは想像もつかないような、可愛らしく、愛らしいところが。

 

 

 「―――さぁーて、今日はどんな海未が見れるかな?」

 

 

 はたから見たらイエローカードすれすれのセリフを吐きながら、柊哉は海未のストーキングを再開した。

 

 

 

                     ★

 

 

 

 結論から先に言うと、本日も盛りだくさんだった。

 

 

 昨日と同じように、隣にいることりと会話しながら街の喧騒を歩く海未。

 芯の通ったまっすぐな姿勢で、紺の髪を揺らして歩みを進めるその姿は、7月の日差しの中にあっても、どこか涼しげですらある。

 まさに「青」を冠する女神のごとし、とは言いすぎだろうが、強烈な印象を残す美少女であることは間違いない。

 海未に微笑まれた世の男は、みな軒並み昇天していくのではないか。

 そんな予感を抱いてしまうほど、凛として可愛らしい少女なのだ。

 

 そんな美少女である海未は、ある店の前で突如動きを止めた。

 そしてそのまま、隣にいたことりと、言葉を交わし始める。

 こういった場所で立ち止まること自体は良くある話なので、普段通りならその場で待機、といった具合だ。

 

 「…あり?…あいつら、あんなとこで何してんだ?」

 

 ―――しかし今回問題なのは、立ち止まったこと自体に対してではない。

 ―――立ち止まった()()に対しての、大きな問題だ。

 

 柊哉と同じことを思ったのか、口からポロリと、穂乃果が問うてくる。

 ありえない、という心情が、ふんだんに乗った声で、ゆっくりと、疑問符をつけてくる。

 柊哉に、確認するために。

 

 

 

 「―――あそこ…コスプレショップ、だよね…?」

 

 

 

 「…ああ。間違いないな…」

 

 その問いかけに、柊哉は静かに肯定を返した。

 できれば間違いであってほしかったが、事実は結局変わらないので、頷くしかなかった。

 

 そう。

 海未とことりの視線の先にあったのは、世間一般でいう「コスプレショップ」と呼ばれる店の面構えだったのだ。

 漫画やアニメのキャラクターに扮するアレである。

 そのためのグッズを取り揃えた、いわゆる「マニアックなお店」である。

 

 そんな、普通の人ならまず近寄らないであろうお店の前に、サンプルとして展示してある衣装を見て、2人は楽しそうに会話をしているのだ。

 これには流石の穂乃果も度肝を抜かれたらしく、唖然とした表情で2人を見やっていた。

 

 「…ことりちゃん、次のライブの衣装は1から作るって言ってたけど、またコスプレみたいなのするのかな…?」

 「また?…あんな感じのやつ、前にもやったのか?」

 「μ’s(わたしたち)の写真集の撮影で一回いろんなの着たんだよー。…私は、割と楽しかったけど…」

 「海未はどう思ってたか分からん、ってことか…でも、あれ見る限り楽しそうだけどな…」

 

 柊哉の指さす通り、海未は赤面こそしているものの、あまり嫌がる様子は見られない。

 もはやあのコスプレを見るくらいなら慣れてしまったのだろう。

 

 そもそも、アイドルを輝かせ、可愛く魅せるためには、華やかな衣装が必要不可欠なのだ。

 当然コスプレもするだろうし、傍目から見たら「なんじゃこりゃ!?」というような格好もしなければならないときだってあるだろう。

 しかしアイドルは、そんな状況下でも笑みを絶やさない。絶やしてはいけない。

 恥じらいは捨てろ、と習い、アイドルは笑顔を「作りに」行くのだから、とは、先輩、にこの語る「アイドル」の理想像である。

 確かに柊哉も納得できる理論だし、非常に筋が通る、素敵な言葉だと思う。

 

 ―――ただし。

 

 

 (―――海未ではどうなるか分からんけどな…)

 

 

 穂乃果と柊哉は同時に頭を抱える。

 そう、これだ。これが大きく関わっているのだ。

 

 柊哉が好きになった園田海未という人物は、実は人前に出るのが苦手で、ミニスカートのスカート丈を恥ずかしがってしまう、可愛い少女だ。

 凛とした佇まいと性格で、頼れる司令官のような存在なのに、時には膝を抱えて落ち込むこともある、たまにギャップの激しい同級生なのだ。

 そんな海未が、最近の、やたら布面積の少ないコスプレ衣装を着る、ということが、柊哉には想像できなかった。

 というか、想像しようとしたら普通に鼻血噴きそうになった。

 

 (…だめだ、俺にはハードル高ぇっ…!!)

 

 いつもの制服姿や、アイドル衣装を着ている姿なら想像出来るのに…!!と、柊哉が悔しげに呻いていると、横にいた穂乃果が鋭く叫び声をあげた。

 

 「あっ!!!海未ちゃんとことりちゃん、あのお店に入ってったよ!!」

 「ぬぁに!?…分かった、すぐ行こう!!」

 

 その叫び声に速攻で反応した柊哉は、即海未の後を追おうと勢いよく立ち上がる。

 だがそのまま追いかけようとしたところで、穂乃果が制服の上着の裾をつかみ、それをさせなかった。

 

 「ちょっ、まだダメだよ、柊哉!…海未ちゃん入ったばっかりだし、バレるかもしれないよ?」

 「ぬう…もしバレたら、海未は何も着てくれなくなっちゃうだろうなー…」

 「いやそれは別にいいんだけど…でも海未ちゃん、1回怒っちゃうとながーく怒るから…」

 「今現在進行形でそうなってるよ…」

 

 柊哉はため息をつく。

 大きく、大きく、ため息をつく。

 海未とのすれ違いもそうだが、それ以上に、今の状況の可笑しさにため息をついた。

 本当に、人生うまくいかないものだ。全部偶然の産物だというのが末恐ろしいほどには。

 

 「―――さってと、じゃあどーすっかなー…」

 「もうちょっと待ってから行けばたぶん大丈夫でしょ!…海未ちゃんも着替えはじめてるだろうし」

 「それはとても素晴らしいことだ!!ぜひ行かねばっ!!…って、あ…」

 「?…どうしたの、柊哉?怖い顔して」

 「くそっ…ちょっと、俺はあの店には入れそうにねぇな…」

 「え?なんで?」

 

 その「偶然」は、追跡する(ストーキング)にあたって、柊哉の身にさらに大きな問題をもたらしてきた。

 柊哉はその事実の示す難易度の高さに、ギリッ、と奥歯を噛みしめる。

 

 その歯ぎしりの音を聞いたのか、半ば条件反射的に問いかけてくる穂乃果に、柊哉は疲れたような笑みで応えた。

 

 

 「―――今ことりと海未が入ってったあそこ…実は俺の知り合いの店なんだよ…」

 

 

 先ほど2人が入店したコスプレショップ。

 あれは柊哉の知り合いが経営している店であった。

 それも2か月前とかではなく、つい3日前、7月12日に利用したばかりのお店。

 

 いきさつはこうだ。

 

 とある理由でDJに扮装する必要があった柊哉は、DJっぽい衣装を探し求めて、この店にやって来た。

 ようやく柊哉の目に留まる衣装が見つかり、その服を購入しようと、レジへ向かう。

 そこで、レジ打ちをしていた店長が、柊哉の後輩、真姫(まき)の缶バッジをつけていたのに気づいたことが、仲良くなった直接の原因だ。

 「それ…μ’sですよね?」という一言から始まったその会話は、5分、10分と続き。

 いつしか完全に打ち解けて、店長とアドレス交換までしてしまったのだ。

 

 そんな強烈な印象のお客を、普通忘れるはずがない。

 

 故に、あの店に柊哉が入った瞬間、店長に見つかって即ゲームオーバーだ。

 ストーキングをあの店まで続けることは非常に難しいだろう。

 

 では外で待っていればよい。リスクを冒さずに、待ち続けることだって可能ではないか。

 だが残念なことに、その提案の答えは断じて否である。

 

 理由はただひとつ。

 

 海未のコスプレ姿をみすみす見逃すなど、海未のファンとしてあってはならないことだからだ。

 

 おそらく一生後悔するであろう。心の傷となって消えなくなるだろう。

 柊哉にとって、逃したら次が無さそうな選択肢であるがゆえに、その魅力はとても大きい。

 「可愛い美少女」、という柊哉にとっての至高を、当の柊哉が避けて通れるはずもないのだ。

 

 だがほぼ確実にストーカーがバレてしまう上に、コスプレ姿を勝手に拝見したことで海未からさらに嫌われる恐れがある。

 そうなってしまえば、柊哉のHPとMPは全損、攻撃力も防御力もほとんど0。

 完全に「腑抜け」になってしまう。

 

 まさに究極の二択。

 まさに世界の選択。

 かつて今までに、これほど「両方ハイリスク・ハイリターン」という質問を見たことがあるだろうか。

 

 「―――柊哉、どうするの…?」

 

 穂乃果が見守る中、柊哉は黙想してたっぷり30秒悩む。

 悩み、悩み、悩み。

 選択肢のリスク、リターンを正直に計算し。

 理性と本能をせめぎ合わせ。

 

 そして。

 刮目。

 

 

 

 「―――まあいいや、行こう」

 

 

 

 柊哉は普通に店へ行くことにした。

 

 「軽いっ!!」

 「―――別に軽くはないよ~…これが俺の、選択です」

 「あんまり悩んでなかった気がする!!」

 「気のせい気のせい~…さ、行こうぜ、穂乃果」

 「うぅ~…分かったけど~…」

 

 穂乃果がその「普通さ」にツッコむのを、だが柊哉は華麗にスルー。

 きょろきょろと一瞬辺りを窺うと、穂乃果の手を取って、道へとその身を踊らせた。

 

 どこか納得いかない表情のままの穂乃果も、柊哉に引かれてついてくる。

 

 

 「―――…ここだな」

 

 およそ40mの距離を駆け抜けた先に、目的の店はあった。

 コスプレショップ「天竺」。相変わらず、店名が何を示しているのか全く分からない。

 白とグレーの街中にあって、極彩色のここだけ外国にいるかのような、大きすぎる異彩を放っている店だ。

 言葉は悪いが、どう見ても「怪しい」店である。

 

 「…ここ…?」

 「うん、ここ」

 

 穂乃果も呆れたようにその店構えを見やっている。

 何してるんだろう、といった感じの、何かフォローしきれないものを感じているらしい。

 

 (…うん、まあ初対面だったら誰だってこうなる)

 

 その気持ちは柊哉もとてもよく分かるので、あえて何も言わずに黙っておく。

 代わりに彼女に笑みを向けて、ドアのほうへとゆっくり忍び足で近寄って行った。

 

 「―――――」

 

 柊哉はくすんだ白色の手動ドアを、片手でゆっくり押し開けて、僅かに空間を開ける。

 キィ、という柊哉にしか聞こえないような音を立てて、人が入れるくらいの空間が出来た。

 

 「(………行くぞ)」

 「(…うん)」

 

 柊哉と穂乃果はアイコンタクトを取り、互いに無事を確認。

 

 そしてするりと空間に身を入れて、店の中へと潜入(スニーキング)した。

 

 

 

 

 …ここで「偶然を装っとけば良かったんじゃね?」と柊哉が思ったのはまた別の話である。

 

 

 

 

 

 

 「ねぇ、海未ちゃん?…こういう衣装、どう?」

 「…うーん、可愛いのは可愛いんですけど…ちょっと、露出が多い気がします…」

 「おへそが見えちゃうだけだよ~?別に、露出が多いってわけじゃないよ~」

 「でも下のホットパンツ…ものすごく短くありませんか?」

 「これは…短すぎるね…絵里(えり)ちゃんや(のぞみ)ちゃんが着たら大変なことになりそう…」

 

 一方そのころ。

 海未とことりの2人は、コスプレショップで、次のライブの衣装について話し合っていた。

 今見ているのはカウボーイの格好だ。露出が多すぎるらしく、2人とも否定的。

 海未自身も、これを着て人前で踊れ、というのは何があっても遠慮したいところだ。

 

 「…じゃあ、これは却下だね。ほかのものを探そっか」

 

 結果否定されたカウボーイの衣装を、ことりはさっとラックに戻す。

 海未はその衣装を着ることがなくなったことに、ほっと安堵のため息。

 

 「―――う~~~ん…」

 

 しかし、衣装選びは、ここにきて手詰まりになってしまった。

 ことりもインスピレーションがわかないのか、しきりに腕を組んで、首を傾げている。

 

 ひとつひとつ手に取って確認してみても、良さそうなものがない。

 どれも、海未にとっては露出が多すぎるのだ。

 ここまできわどいものしか集まっていないことが逆に珍しいほど、布面積が少ないのだ。

 

 (…これを着て前に出るのはさすがに恥ずかしいですね…)

 

 海未は近くにあったセーラー服をとってみる。

 当然ヘソ出しルック、スカートは膝上25センチ、脇腹のところまで開いている。

 まるで、というかどう見ても痴女のような恰好だ。

 これを着て踊っている自分の姿が想像できないし、想像したくもない。

 

 それではどうしましょう、と、衣装について海未なりに考えていたそのときである。

 

 ことりが、ぽん、と手を打って、海未ににっこりと微笑んできたのだ。

 

 「ねえねえ、海未ちゃん」

 「はい?なんでしょうか?」

 

 

 「―――ファッションショー、しない?」

 

 

 

 




 いかがでしたでしょうか?

 おそらくストーキングはまだ続きます。あと1話で終わるかな…?
 2年生は難しい…。

 それではまた、17話で。

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