19話遅れて本当にすいません!!
もうかえすがえすごめんなさい、本当にごめんなさい!!
一応言い訳させてもらいますと、まさか4月がこんなに忙しいなんて思いもしなかったんです。
そしてそこにスランプが重なってしまい、もう一文字も打てないという状況に…。
それでは、お待たせしました19話です。
このお話を読んでくださっている海未ちゃんファンの皆さま、本当にすいませんでした…。
あとお手数ですが、このお話は一度9話を読んでから見ることを切におすすめします。
時は7月16日、16時07分。
国立音ノ木坂学院、第1棟2階、2年2組教室。
天気は大雨。
それも「台風」の日本襲来を告げる、暴風と雷雨を一緒くたにしたような豪雨だ。
まさしく滝のように降る雨は、人間の本能を刺激し、危険だ、と感じさせるに足る。
現に
ピロリン、ピロリン、と、音は健気に帰宅を促す。
しかし柊哉は、その忠告を無情にも無視せざるを得なかった。
「―――…あの日、柊哉さんは…誰を、助けたんですか?」
解き放つように告げられた質問。
苦悩と焦燥、そして好奇心がふんだんに含まれた「尋ね」。
この教室にいるもうひとりの人物、
疑問をぶつけた彼女は、柊哉の答えを、どこか困惑しながら待っていた。
まるで、自分は何故こう問うているのか分からない、というふうに。
もろく壊れてしまいそうな、左右に揺れる海未の瞳。
その瞳の奥にともる真剣さを視認した柊哉は、逆にいたって普通に答え始める。
「…助ける、ねぇ」
「………………」
「―――まー俺はそんな御大層なことをした覚えはない。それに、しようとしたって出来ないしな」
軽く告げられたその回答に、海未は小さく身震いしたようだった。
その震えは、予想した答えが得られなかったからなのか、それとも柊哉が嘘をついていると思ったからなのか。
いずれにせよ、柊哉には知る由もない。
海未本人の考えることは、柊哉には分からない。
その海未は、震えを引っ込めると、きっと柊哉を睨んで、異論を押し挟んだ。
「―――ですがあの時…柊哉さんは、確実に『助ける』という言葉を使っていました…」
「…………………」
柊哉は思わず閉口してしまう。
その言葉の裏に潜む非難に、何も言い返せなくなってしまう。
それが突きつけるはたった2文字。
矛盾。
虚構と欺瞞とすれ違いの後に行きつく最後の砦。
世間一般で言う間違いの象徴。
思い切りその砦にぶち当たった柊哉は、静かに、だが必死に、言葉を返す。
まるで気づかなかった事実を、何とか飲み下そうとするように。
自分の過ちを、どうにかして修正しようとするかのように。
「…そうなのかな…」
「はい…」
「………………ねぇ、海未ちゃん」
「?…何でしょう?」
「―――…すごく、つかぬことを聞くよ」
「…どうぞ」
「その言葉さ、海未ちゃんの、空耳だったってこと、ない?」
「聞き間違いはありません。…あんなに印象深かった言葉を、忘れようがありません」
しかし、「過ち」は事実であった。
修正の利かない、確固たる真実…で、あった。
海未の決然とした声を聞けば一発で分かる。
嘘をついている色ではない。
ということは、だ。
柊哉はその事実が指し示す事象―――言葉通りの「大言壮語」に、軽く、本当に軽く、笑う。
自らの発した言葉の、壮大なスケールを嘲笑う。
「はは…マジか。―――俺、『助ける』、って、言っちゃったのか…」
そして柊哉は囁くように後ろの言葉をつなげた。
本当に小さく、過去の自分に反抗して。
なんという大ボラ吹きか、と。
だが柊哉がいくら文句を言ったところで、過ちはもう戻ってこない。
柊哉は諦めたように息をひとつつくと、くるりと海未のほうに向き直った。
「―――わかった。質問に答えるよ」
そして、出来るだけ簡潔に、海未が何か言う前に、答えを述べる。
「助ける」という言葉に、違和感を覚えながら。
「―――…俺は確かに、あの電話で、ある一人の女の子を、『助け』ようとした」
「…」
海未はその答えに、大きく瞠目していた。
おそらく戸惑っているのだろう、目に不安の色が見え隠れしている。
その不安は、柊哉の信頼か、はたまた柊哉の声色か。
―――それとも、「安心出来ない」不安なのか。
柊哉はそれに気づかなかったことにして、自らの
「―――その子は、困ってた」
「………………」
「…その子は、自分の行き先が分からなくなってて、いろんな人と衝突してた」
「………………」
「当然、俺とも衝突したよ。ケンカもしたし、すれ違いもした」
「…そう、ですか…」
「でも俺は、そんな子を、助けたいって思ったんだ。だから、あの電話をかけた」
もう過ぎ去ってしまった過去を、柊哉は粛々と、だが
「…そしていろいろ準備をして、いざ助けよう!!と、俺は彼女に踏み込んだんだ」
「………………」
「…でも…――――――」
「……………?」
「……………」
不意に、言葉が切れた。
同時に居心地の悪い、静かな時間が降り立つ。
外に降る雨音が、やけに大きく聞こえる、そんな沈黙が。
「……柊哉、さん…?」
その沈黙を変に感じたのか、海未がこちらを覗き込んでくるのが、柊哉には見えた。
おそらく、今までの海未との距離感で、一番近い距離。
あと15センチも手を伸ばせば、海未に
だが―――。
「―――…でも、それはすぐに、間違いだって、気づいたんだ」
―――今の柊哉に、それを楽しむ余裕は、何処にもなかった。
こちらを見ている海未の表情が凍り付く。
無理もない。
きっと今、
海未に見せられるような、いつもの笑顔なんてしていないはずだから。
―――酷く、感情のない顔をしているだろうから。
無機質な顔色と声色で、柊哉はさらに続ける。
「俺なんかが手を出すべきでないほど、彼女は強かった。むしろ助けに来た俺のほうが叱られちゃったよ」
「………柊哉さん、あなたは…」
「はは、笑っちゃうよな。俺が助けに来たはずなのに、俺のほうが『おかしい』って言われてんだぜ?」
そこで柊哉はまたも言葉を切る。
今度はわざと重く。
伝えなければならない、という気迫をありありと宿らせて。
「―――つまりは、だ…。俺が救うべき彼女に、俺は
自虐、自嘲、自暴自棄。
思いつく限りの、自分を貶める感情が、我が物顔で心をのさばってくる。
後悔、
思いつく限りの、海未に申し訳ない気持ちが、心の内なる自信を焼いていく。
そして。
それらに侵蝕され、少し弱くなった柊哉は。
小さな弱音を、雨音に紛らせた。
「―――結局、俺は…誰も、救えないのかなぁ…」
小さくて、でも大きな、その一言。
言ってしまってから、柊哉は自己嫌悪に陥り、驚きに目を見開く。
そういえば、の話だ。
何故、自分は海未にこの話をしているのだろうか。
自分は、「質問された」はずなのに。
質問に答えたまでは良い。
では何故、自分は。
―――それ以上のことを、海未に話してしまっていたのだろうか。
(…あれ…?…俺、なんで…)
柊哉は束の間の疑問にとらわれる。
今までの自分こそが滑稽に思えてくる。
急に、どこか熱くなっていた心が、すぅっと冷却されていくのが分かる。
そして悟る。
自分のしでかしたことが、どれだけ海未に申し訳ないことか、と。
そして悟る。
訂正しなければ。
もう一度言い直さねば。
言葉が二度と帰って来ないのなら、言葉で言葉を塗りつぶすしかない。
柊哉は「すまん、海未」と謝ろうとした。
頭を下げようと、頭を振ろうとした。
―――だがそれよりも、ずっと黙って聞いていた海未が、きっと顔を上げるほうが早かった。
「―――柊哉さんは、不器用なんですね…」
何故か、どこか悟りきったような、優しげな笑みで。
「―――海未…ちゃん?」
予想だにしないその笑みに、柊哉は驚く。
今の会話の流れとはあまりに違うその優しさに、言葉が詰まる。
海未は穏やかな表情のまま、あやすように柊哉を諭す。
「―――別に?…なんでもありませんよ、柊哉さん?」
「絶対なんでもなくはないでしょう?何か心境の変化でもありましたか?」
「自意識過剰もほどほどにしてください」
「それは禁句だぞ海未ちゃん!!俺の話バサバサ切るなし」
「思ったことを言ったまでですよ」
「余計ダメージ受けるっつの」
「バカなんですか?」
「海未ちゃんキャラ変わってない?」
「…見損ないました…そこまでメンタルが弱いなんて…」
「最初から見損なっている気がするのは果たしてぼくだけなのでしょか…」
違った。
諭すどころか慰めついでに辻斬りされただけだった。
精神的に極大のダメージを食らった柊哉は、近くの机にばたっと伏せる。
もうなんか動きたくない。
雨の音が自分を慰めているようにしか聞こえない。
しくしくとひとり男泣きしていると、海未が諦めたようについた息の音が聞こえた。
「―――だから、気にすることなんてないんですよ。…助かったかどうかなんて、助けられた人が判断するものですから」
「………っ!!」
柊哉は即起き上がった。
なんだか逃がしてはいけない気がして、即体を起こした。
そして追いかけるように目線を海未へとやる。
柊哉の視線の先にいた海未は、既にドアのほうを向いていて、表情はわからない。
ただ。
「―――それでは先に失礼します。…早くしないと置いていきますよ、柊哉さん?」
ドアをわずかに開けた刹那、小さく漏らしたその言葉は。
今までの海未のどの言葉よりも、柊哉をいたわるような、慈愛に満ちていた。
ドアがぴしゃりと閉まる。
扉の奏でる音が、エコーの如く教室を縦横無尽に反響する。
そしてどこか嬉しそうに聞こえる雨の音が、静寂を許さないかの如く降り注ぐ。
そのまま停止すること20秒。
何とか再起動した柊哉は、まず、目を静かにつぶると。
(―――…海未推し、万歳)
心中で、無音で感無量の快哉を上げた。
最高の気分で、静かに、だが感動を前面に表して、ただ真上に手を挙げた。
柊哉は嬉しかった。
自分の全く気付かなかった視点から、自らの行動を顧みられたことが、嬉しかった。
大好きな海未が、自分の行動を否定しなかったことが、たまらなく嬉しかったのだ。
挙げていた手をおろす。
満ち足りた気分で、外を見渡す。
相変わらずの雨模様。
台風襲来も現実味を帯びてくるくらいの超雷雨。
だが今の柊哉には、その豪雨の音がリズムを刻み、弾んでいるように聞こえた。
(―――…うーい、んじゃあ、ちゃっちゃと追うとしますか)
そのメロディで気分が軽くなったように感じた柊哉は、空欄だった日誌の感想を急いで書き終えると、ドアの外へと駆け出した。
★
それから少しあと。
「―――
柊哉はライブハウス・「
時刻は約束の16時30分ちょうど。
柊哉は汗と雨を拭いながら店内へと足を踏み入れる。
店内は静かなにぎやかさを持っていた。
暗く重厚な濃い紫や黒、ネオンサインのような赤、緑といった、夜をイメージさせる色が店の壁や天井を賑わせている。
いかにもライブハウス、といった風体で、夜な夜なパーティーが繰り広げられていてもおかしくない会場だ。
どこか場違いな雰囲気を醸し出す雨ざらしの「
自分でも何を言っているのか分からなくなった柊哉は、ひとつ笑いをこぼして、店内をぐるりと見渡してみた。
それに支配人やボーイは出払っているようだ。受付カウンターにも人の姿はない。
代わりに奥のホールから楽しい音楽が漏れ聞こえてきている。
それは柊哉が聞いたことのある音楽。
柊哉の大好きな音楽。
どうやら彼女らは先に入って練習しているようだ。柊哉の許可なしでも入れたらしい。
(…まぁ、ここの支配人がμ’s好きだからな。本人たちが来れば何としても入れるに決まってる)
柊哉は迷わず奥のホールの扉を開けた。
音量が突然大きくなったのと、天井でミラーボールがくるくると明滅しているのを視認。
すると途端、既に中に入って練習していたメンバーから苦情と非難の声が飛んできた。
「もー、遅いよー、柊哉ー。あんまり遅いから、勝手に入っちゃったー」
「待ちくたびれちゃったにゃー。練習もはじめてるよー」
「日直の仕事って、そんなに時間のかかるものじゃないでしょ!?」
「…本当にすまんね、にこ、
柊哉は謝りながらメンバーのいるステージへと上がる。
それと同時に、にこが流れていた音楽を一度切った。
メロディーの余韻が波となって空気を揺らし、波のようにすぐにいなくなる。
小さく息をついて呼吸を整えていると、
「―――それで、どうしてそんなに遅れたん、柊哉くん?」
「おう、希。いや実はですね?教室から出ようとしたら、生徒会の書記ちゃんに捕まりましてね?」
「…私、何か仕事を残してしまっていたのかしら…?」
「
「それで?結局、何が原因で遅れたのよ」
「そっからいろいろ、書記ちゃんの仕事の誘いを断ってたりなんやかんやしてたら、まぁこんな時間になってしまいましたってこと。マジすまねぇ」
「ふぅん…まぁ、しゅう君に悪気はないわけだし、仕方ないよー」
「ありがとうことりちゃん…俺はその言葉に救われたよ…」
なんとか事情を説明し終えた柊哉は、次に質問を飛ばす。
「んで?今は
「そう。うちらも久しぶりにする曲だから、ちゃんと練習出来て良かった…柊哉くんも気が利くやん♪」
「もったいないお言葉です、希さん…」
「それにですよ!!!」
「おおう、
「このライブハウス・
「お、そうなのか?」
「そうなんです!!………理由を説明しますとですね、ここはアイドルの神聖地・秋葉原からほど近く、アクセスが良くて誰でも来やすいというのが挙げられます!」
「………確かに、神保町や淡路町からは近いよなー、ここ」
「また、伝説的アイドル・
「…そんなに行きたかったんだな…」
「さらにですよ!!!幻のビデオ、『でんでんでん』でそのHYSYのライブが紹介されたことでここはもっと知名度を伸ばしているんです!!今ではここでライブを開くことが、ラブライブ!優勝に次ぐ全スクールアイドルの憧れとまで言われるくらいです!!…かの有名なPuresmile、
どこか興奮したような花陽にまくしたてられた柊哉は、ふと頭の右端がズキンと痛んで、反射的に手で押さえる。
(…ん?A-RISE?)
今の花陽の話に出て来た、高名なアイドルグループ。
どこかで聞いたことのある、頭に引っかかったその名前は、今は脳内メモリに封印しておく。
それ以上に、柊哉の第1の推しである花陽の喜ぶ姿が嬉しくて、柊哉は顔をほころばせた。
「そんなに気に入ってもらえたなら、俺としてもとった甲斐があるよ」
「はいっ!!…本当に、本当に、嬉しいです!!」
「―――あぁ、やっぱ可愛いなぁ、俺の推しは…」
「かよちんの喜ぶ姿はとーっても可愛いにゃー!」
「凛もそう思うか、俺もだ」
花陽が笑顔の花を咲かせるのを見て、同じ思いを共有した柊哉と凛は固い握手を交わす。
可愛いは正義、と改めて思う柊哉に、花陽はさらなる質問をかぶせてきた。
「なんで柊哉さんは、こんな超人気ライブハウスが取れたんですかっ!!?」
「ん?ああ、実はここ、俺の―――」
「―――…柊哉さんの知り合いが経営しているライブハウスなんですよ、花陽。柊哉さんのツテで取って来たそうです」
「そうなんですかっ!!!?」
だが、花陽の質問に答えたのは、柊哉ではなく
突然の乱入、決め台詞のかっさらい。
それだけの暴挙をしてなお、すまし顔の海未に、柊哉は咎めるような目線を向ける。
「それは間違っちゃいないがなんで
「これ以上柊哉さんに説明させると、またすごく時間がかかってしまうではないですか」
「…確かにそうだな。このまま40分間くらい花陽ちゃんと会議してたかもしんねぇ」
「会議ってなんのですか…」
「もちろんアイドルとμ’sに関することですよー」
「私もそれなら40分は余裕で話せますよ、海未ちゃん!!」
「花陽まで柊哉さんに毒されないでください!!」
「え、俺って毒だったの?」
「柊哉さんが毒じゃなかったら誰が毒なんですか?」
「いや、俺以外のμ’sメンバーは全員清らかなる天使だから、消去法だと毒は俺になるんだが…」
「っ!!」
海未と半ば口論になりかけていた柊哉が真顔で告げた言葉に、海未がそっぽを向いてしまった。
(…あれ?…今の天使って言葉、マズった?…あ、これヤバくないか…?)
訳も分からず、ただ何となく自分の言葉がまずかったような気がして、首を傾げる柊哉。
そして直後、MPに轟沈寸前のダメージを食らった。
柊哉は何とか現実世界に踏みとどまって、何かから必死に耐える。
しかし。
「―――ああいうのを真顔で言えるのが、柊哉のすごいところよね…」
「やっぱり…なんかちょっと、柊哉の褒め方って、すごくくすぐったいね…」
「柊哉くんのはベタ褒めを通り越してるから…どこかこそばゆく感じるのかもしれんなぁ…」
「しゅう君って、たまに無意識でああいうことするよね…」
さらにほかのメンバーの内緒話という追い打ちを食らって、柊哉は今度こそ撃沈した。
今の言葉は本当にまずかったらしい。
だが訂正するのはなんとなく面倒なので、柊哉はステージの端っこで体操座りをした。
(ぼくはμ’sに信頼されてない…ぼくはμ’sに信頼されてない…)
自己暗示をかけながらがくりと落ち込む。
そんな感じでいじけていると、後ろを向いていた海未が、雰囲気をリセットするかのように声を張り上げた。
「さ、さぁ、そろそろ練習を再開しますよ!!柊哉さんも来たことですし、思う存分に踊りましょう!!」
「「「「「「「「「はいっ!!!」」」」」」」」」
その声に、柊哉も含めた全員が一斉に返事を響かせるのは、既にいつものことだった。
いかがでしたでしょうか?
次の20話は、なんとか投稿できるときに投稿したいと思っています。
それではまた、20話で!!