まずは一言お詫びを。
19話お待たせして本当に申し訳ございません‼︎
今ここで何を弁解しても言い訳にしかならないので、ここでは何も言いません。
都合があけば、ゴールデンウィークまでには投稿致します‼︎
そして海未ちゃん編の続きを読みたい方は、19話の更新を待ってください。よろしくお願いします。
さて、本編とは別ルートの真姫ちゃん誕生日編。
死に物狂いで打たせてもらいました。
4月19日には間に合わせる!という意気込みで。
そのせいか、恐らく1話単位では最長記録を更新しております。
それでは、どうぞ。
2016年、4月19日、火曜日。
時刻は午後4時22分。
高3に進級した
「―――っ!!…柊哉!」
「ん?」
空に響く、とても澄んだ声。
クリアとしか言いようがない、それなのに聞くだけで甘く、痺れてしまいそうな声。
その声に名前を呼ばれた柊哉はそちらを振り返り、そして驚愕した。
「―――…え、
そこにいたのは柊哉の後輩、新2年生・
彼女はトレードマークのつり目を若干伏せて、癖のように赤髪の先を触っていた。
道端で名前を呼んだのが恥ずかしかったのか、頬は薄紅の色に染まっている。
していることはそれだけなのに、それだけで大層可愛らしい。
そして、その美しさからか、どんな場所にいても抜群に目立つ。
まさに、紅は園生に植えても隠れなしとはよく言ったものだ。
美少女はどのような場所に居ても美少女なのだ。
(―――おぉ、久しぶりに真姫見た気がするわ。いやー、やっぱり可愛えぇのう)
暫しそんな真姫を愛でていると、ふと目が合った。
つり目をまんまるくさせて、こちらを見ている。
彼女も、ようやく自分が見られていると気づいたらしい。
それに柊哉はにこっ、と微笑んで、小さく手を振る。
「……………っ!!!…~~~!!」
すると真姫は、一瞬嬉しそうに微笑んで、次に顔を真っ赤にして、最後に顔を背けて手で覆うという、ある意味器用なデレ方を見せてくれた。
そのいじらしく可愛らしい姿に、柊哉は思わず顔がほころんでしまう。
真姫はやはり可愛い。
柊哉はその事実を改めて認識しながら、真姫のもとへと近づいた。
「―――真姫、久しぶり。3月以来か?」
「…ひ、久しぶりね、柊哉…げ、元気にしてた?」
「…おう、そりゃもう超元気だったよ。今は真姫ちゃん見たからさらに元気」
「ぅえぇっ!!?そ、そう…それは、良かったわね…」
「ん、よかったよかった」
「――――――…うん…」
「…およよ~?もしかして、真姫ちゃんも俺に会えたの嬉しかったりするのかな~?」
「なっ…!!そ、そんなわけないでしょ!?意味わかんない!!」
「だから意味わからんくはないって。現に、俺は嬉しかったしな」
「―――…っ!!…もう、これだから柊哉は…うぅ~!」
柊哉の褒め殺しに、真姫は今まで以上に頬を紅潮させ、顔を背ける。
柊哉はずっとニヤニヤしっぱなしだ。
可愛いのと、照れくさいのと、何より面白いのとで。
そのまま見守ること数秒。
う~!と唸っていた真姫は、ゆっくり顔を上げると、おそるおそる、といった感じで、柊哉のほうを振り向いた。
「―――…わ、私も、嬉しかったわよ!…柊哉と、会えて…」
「…ん、そりゃよかった」
その真姫の一言に柊哉は、心の底から会えてよかった、と小さく微笑む。
これだから美少女のファンはやめられないのだ。
いつも違った彩を魅せてくれるから。
華やかで美しく、またしなやかに強いから。
(美少女見るのはやっぱ至上の喜び!!って感じだね。最高)
柊哉が自分のポリシーを再確認していると、真姫が言葉に詰まりながらも、真摯に話しかけてきた。
「―――しゅ、柊哉っ」
「おう、俺は確かに神城柊哉という奴だけど、どしたん?」
「茶化さないで!!…あ、あのね…」
「?」
だが、いつもハキハキと言葉を話す真姫にしては、どうにも言葉の歯切れが悪い。
いったいどうしたのだろうか、と柊哉は首を傾げる。
その真姫は、柊哉を上目遣いで見上げて、恥ずかしげに質問を紡いでいた。
「―――きょ、今日って…何の日だか分かってる…?」
「分かってるに決まってんだろ。真姫の誕生日、4月19日でしょ?」
それに柊哉は即答。
忘れるはずもない。
忘れるわけがない。
今日は女神の生誕祭、
その答えに、真姫は満足そうに、こくっと首を縦に振る。
「…そう、今日は私の誕生日。よかった、忘れてなかったのね」
「俺がμ’sメンバーの誕生日を忘れるわけがないだろ?最重要事項だっつの」
「…ほんとに?」
「ホントにホントだよー?」
柊哉のおどけたような回答に、じゃあ、と真姫は前置きして言葉を続ける。
気持ち頬が、また薄く染まっているように見えたのは気のせいか。
「―――ちょっと、付き合ってくれる?」
―――否、気のせいではなかったようだ。
それは最上級の殺し文句、男子にとって最高級のご褒美とも呼べる一言。
(…お、おおう…)
当然くらっときた柊哉は、当然錯乱。
なんとか返答するのに精一杯だった。
「こちらこそ、末永くよろしくお願いします…」
「は?柊哉、何言ってんの?」
「え?俺、今日から真姫ちゃんの恋人なんでしょ?」
「違うわよ!!…そ、そうじゃなくてっ!!…か、買い物に付き合ってってこと!!」
「あら、そーゆーことか。残念…」
「…そういうとこ節操ないんだから…」
「…ん、まぁいいや。俺も行くよ、真姫ちゃん」
「…途中ではぐれないでよ?」
「どこまでもついてゆき、いつでもお守りしますよ、真姫お嬢様」
「―――っ!!!…これだから柊哉は…!!」
「はっはー」
柊哉の勘違いから、あれよあれよと会話はつながる。
その結果、真姫はまたも紅の色を濃くしてしまった。
頬の紅は、もはや髪色と同じくらい赤い。
そんな姿も可愛いのだから、美少女とは罪なものだ。
そんな可愛らしい真姫を見て、柊哉はおどけるように言葉をつないだ。
「―――んじゃ、騎士は姫にお供するとしましょうか、真姫様?」
★
その後。
2人は地下鉄に乗り込み、いくばくか電車に揺られて、とある駅で降りた。
そして改札を出て、少し歩き、待ち合わせによく使われる広場のイスに並んで座る。
真姫がどこからか取り出した地図とにらめっこしならが、柊哉はぽつりと言葉を漏らした。
「…ほうほう、真姫ちゃんはここで買い物がしたいのねー…」
「ちょっと、どういう意味よ?」
「いや、やっぱり真姫ちゃんって女の子だなーって思っただけ…まー、俺も助かるけど」
「私はどこからどう見ても女の子!…私が男の子に見える!?」
「んにゃ、そんなことはないって。真姫ちゃんは可愛い美少女よー?」
「―――…もう、柊哉!!」
「ははー、可愛い奴め」
混沌と雑踏の最中、真姫と柊哉は2人、じゃれあいながら、話し合う。
柊哉と真姫が今いる
この日本をつなぐあらゆる鉄道網の中心。
数多くのものが入り混じる大都市、東京の中でも、屈指の人が集まる場所。
左を見ても右を見ても、見渡す限りの人、人、人…。
柊哉は、いろんな空気が混じり合って、どうにも落ち着かない気分を味わっていた。
(人に酔うのなんて、久しぶりかもしれん…)
柊哉が軽くめまいを覚えていると、なんとか復活した真姫が柊哉を呼び止めた。
「ん?」と反応する柊哉に、真姫は地図を指差して、次に行く場所を示す。
「…じゃあ、まずはここに行くわよ」
「へー、駅の地下にユニ○ロなんてあったんだー…」
「知らなかったの?…まぁ、別にいいけど…」
「俺にだって知らない場所くらいあるさ。―――じゃ、行こうぜ」
「ええ、行くわよ。ついてきて」
「了解」
そして2人は歩き出す。
人ごみに揉まれながら。
人の波の中を、わざと逆らうように。
2人の世界と東京の雑多な空気を、分け隔てるかのように。
2人は歩む。
(…それにしても…)
歩きながらふと柊哉は思う。
時折柊哉のほうを振り返りながらも、前をずんずん歩いていく真姫は、何度見ても、やはり可愛らしく美しい。
それも女神のような、人を導く、人を惑わす、美しさなのだ。
人類を凌駕した、世に言う美少女なのだ。
つまり柊哉が言いたいのは。
(―――真姫ちゃん可愛いかきくけこ!!って言っちゃう気持ち分かるわこりゃ…)
真姫は恐ろしく目立つということだ。
現に、先ほどから柊哉に突き刺さっている目線のおよそ9割は、羨望と嫉妬の目線のブレンド。
言葉を変えるとするならば、「なんでこんな奴とあんな可愛い子が2人で一緒にいるんだ?」という、いらだちを含んだ疑問の目線だ。
それも、男性だけでなく、何故か女性も含まれている。
周りの全員ほぼすべてが、柊哉のことを胡乱げに見ているのである。
完全に針のむしろという状況。
柊哉としては居心地悪いことこの上ない。
(…美少女って、男女通じて評価高いんだな…。美少女ファンとしては嬉しいけど、いざこっちの立場になってみるとキツいもんがあるわ…)
柊哉は改めて、日本において美少女という人種は貴重だということを実感した。
そしてその美少女といられる自らの幸せを、心に深く噛みしめる。
それ以上のもやっとしたやるせなさも、一緒に噛み砕いてしまう。
それでいくぶん気が楽になった柊哉は、堂々と真姫の横を歩くことにした。
――――――。
「―――柊哉、なんでそんなに胸を張って歩いてんのよ」
「いや、真姫ちゃんに負けない男になろうと思いまして」
「………………」
「大マジですが」
「…何それ、意味わかんない」
「マジトーンは止めようか」
―――あまり、受け入れられはしなかったようだが。
そんなこんなで歩くこと数分。
道中、手をつないだり腕を組んで歩いたりなどのイベントも起こらず。
平穏無事に、真姫と柊哉は目的地のアパレルショップにたどり着いた。
(…ほー、まさか本当にあったとは…)
柊哉は思わず店の軒先を見上げる。
その先には、どこでもよく見るあの赤いロゴマーク。
全国チェーンで、外国進出もしているとある有名な企業の店舗だ。
リーズナブルなのにオシャレ、という服装がそろっていることから、年代を問わず人気は高い。
この店でも、老若男女さまざまな人たちがショッピングを楽しんでいた。
それをフォローする店員さんも、にこやかに、分け隔てなくサービスを提供している。
どこかアイドルにも通じるその日常の空気に、柊哉は心中で舌を巻いた。
「…やっぱユニ○ロはすげえや」
そして意見の賛同を貰おうと、隣に立っている真姫の方向を向く。
「―――何ぼーっとしてんのよ。ほら、早く行くわよ」
「…あらー、真姫ちゃんには俺の気持ちは分からないのねー…」
だが。
柊哉が先程から感心しどおしであるのに対し、真姫の反応は非常に淡白なものだった。
柊哉のほうを一瞥するのみで、そのまま店内に入る真姫を、柊哉は慌てて追いかける。
すぐに真姫に追いついた柊哉は、会話の隙間を埋めようと、思い浮かんだ疑問を真姫に問うた。
「っつうか、俺も行くのん?」
「当たり前じゃない。どうしてそんなこと聞いたの?」
「いや、俺は外で待っとけー、とか言われるかと一瞬思っただけだよ」
「…いくらなんでもそこまで薄情じゃないわよ…」
「まあ待てと言われたところで、俺更衣室以外は真姫ちゃんについていく気満々だったけどねー」
「…っ、な、なに言ってんのよ!?」
「え?だって、俺言ったじゃん。『どこまでもついてゆき、いつでもお守りしますよ、真姫お嬢様』って」
「―――~~~っ!!…行くわよ、柊哉っ!!」
「おう、そう言ってくれてありがとさん」
追いついたと思った距離が、また離れてしまった。
柊哉のほうを見ずに、早足で前を歩く真姫を見て、柊哉は頭をかく。
(―――うーん、どうしたもんかねぇ)
やはり真姫とは、どうにも距離感がつかめない。
少し端をつかんだと思ったら、また振り放されて、遠くなる。
でもふとしたきっかけでそれは大きく近づき、逆にふとした出来事で大きく広がってしまう。
一定の「距離」を持たず、自由気ままに、でもそれ以上に繊細に、「距離」を変える。
そんな真姫はまるで猫だ。
気高く美しく、人一倍純粋でクール、だけど寂しがり屋でちょっぴり不器用。
西木野真姫を知れば知るほど、より可愛らしく思えてくると同時に、どこかつかみづらくなってくる。
今までの「普通」が、普通でなくなっていく。
変な疑問に、がんじがらめにされていく。
―――その真姫のイメージは、本当に西木野真姫の本質なのだろうか。
でも、不意にやってきたこの自問には、すんなりと答えることが出来た。
(―――んなもん、追っかけてみないと分からんだろ、考えるだけ無駄だよ無駄)
自分は導く立場ではない。
追いかけるほうの立場だ。
掴めないその背を追って、真姫を、μ’sを、徐々に知っていくのだ。
何せ自分はμ’sの中で一番の若輩者なのだから。
―――「先輩」の背中を見て、振る舞いを学ぶのは当然のことだろう。
(俺もまだまだだなー、知らないことが多すぎる)
もう10ヶ月もμ’sに所属しているはずなのに、まだまだ無知だった自分を、柊哉は笑った。
(…じゃ、追っかけるか、真姫を)
―――そして柊哉は真姫を追いかける。
「―――ねぇ、柊哉!!」
「はい、なんでこざいましょ?」
「…し、柊哉は、どの服が私に似合うと思う…?」
「真姫ちゃんなら何を着ても似合うし、可愛いと思うぞ?」
「うぇっ!?…きっ、急にどうしたのよ!?」
「本当のことしか言ってないぞ俺はー。真姫ちゃんは可愛いんだから」
「なっ、もう、意味わかんないっ!!!」
「…まあでも、強いていうなら、この白いワンピースだな。完全に俺の好みだけど」
「―――へぇ、柊哉ってこういうのが好みなんだ…」
「…?…なんか言った?真姫ちゃん」
「べ、別に何も言ってないわよ…。…それにしても、本当にこれ可愛いわね」
「人間でも画像でも服でも、可愛いものを選ぶのには自信がありますから」
「…また柊哉はそんなことを言う…っ!!」
「俺はいたって大真面目」
「―――まぁ、もういいわ…。…じゃ、これ買う」
「え?…マジで?」
「私はいたって大真面目よ?」
―――つかめなかった距離感を、今度こそ自分のものにするために。
―――悶々と悩ましいこの距離に、今日こそ決着をつけるために。
★
時刻はそれから45分後。
真姫は、柊哉と一緒に、最初の広場のイスに戻ってきていた。
また2人で、最初と同じイスに座り、じゃれあいながら談笑する。
その景色は最初と同じ。
でも最初と違うのは、柊哉の手に、紙袋が存在していること。
それも中身は、大好きな柊哉が「好み」と言ってくれた、白いワンピースだ。
(…今日はいい日ね)
ただそれだけなのに、頬が緩んで仕方がない。
真姫は柊哉に見えないように、小さく、柔らかく微笑む。
普段なら頬がこわばって出来ないはずのそれは、今日に限ってはすんなりと出来た。
自分の中の幸せ、という感情がメーターを振り切っているらしい。
ことりや
鏡で確認しなくても、分かってしまう。
自分の心が、こんなにもふわふわと、楽しげに弾んでいるのだから。
だとしたら。
(―――柊哉には、こんな緩んだ顔、見せられない…っ!)
余計に、柊哉を見るのが恥ずかしくなって、頬が熱くなる。
真姫は顔を背けておいて正解だった、と安堵。
流石に真正面からこんなだらしない顔を見られたら、平静を保てないかもしれない。
懸命に手で頬を扇いで、熱を吹き飛ばそうとしてみる。
「良かったな、真姫。いいものが買えて…やー、楽しいわー」
だがそんな真姫の表情が見えていないはずの柊哉は、真姫の心を見透かすように、今日の感想を漏らした。
おかげで真姫はまたも真っ赤に。
緩んだ頬が、嬉しすぎて元に戻らない。
せっかく落ち着きかけていた心臓も、またまた甘く
(…ずるいわよ、柊哉…もう、柊哉なんて知らない!!)
完全なる無自覚でやっているであろう柊哉に、少し怒ってしまった真姫は、既に真っ赤な頬を、ぷくっと膨らませてみた。
不器用でも精一杯、怒っていることをアピールしようとしてみる。
だがそれは当然届かない。
顔を背けているのだから当然だろうが、それ以上に柊哉が気づいてくれない。
真姫がうぅ~、と唸っているのもお構いなしに、柊哉は語り始める。
「―――なぁ、真姫」
「………………」
「…今から結構重要なこと言ってもいいか?」
「―――………いいわよ、別に」
「さんきゅ」
それは先程の真姫の表情なんて、全く見ていないかのような、平常通りの声音だった
。
なんとなく気に入らない。
柊哉が自分を見ていない、という事実が、どうにも許せない。
心の奥がチリッとはじけて、少し痛い。
それだからなのか、真姫はぶっきらぼうに、極力不機嫌さを出した感じで、返事を返した。
真姫のわずかな怒りを、なんとか柊哉に気づいてもらおうと、わざと突き放して返答した。
だがそんな真姫の返答すらもスルーして、柊哉は言葉を紡ぐ。
「―――俺さ、最初、真姫が分かんなかったんだ」
「…っ、柊哉…?」
突然打って変わったシリアスなテンションの柊哉に、真姫は驚いた。
それまでの怒りなんてどこへやら。
言われたことの意味が分からなくて、条件反射で名前を小さく呼んでしまう。
柊哉は真姫の呼びかけに、小さく微笑で応じるのみで、次の言葉を続けた。
「…真姫は、クールで、自分をあんま表に出さなくて、ちょっと強気な女の子だって、最初俺は思ってた」
「………………」
「―――まぁ、それも含めて俺の好きな真姫だからさ。別に何も言う気はない」
「…柊哉」
「だけど、な…」
会話の中に、ぽつりと差し込まれた否定の一言に、真姫は今度こそ振り返る。
「―――俺は、気づいてなかった。ただ無知なだけだった」
そんな真姫の目に入ったのは、普段のひょうきんさを消して、真剣な表情で語る柊哉。
その身は、触れれば切れる刃のように、鋭い雰囲気を纏っている。
周りの空気なんて置いていくような、周りとは違った空気。
でも、どこか自虐的で、すぐに消えてしまいそうな危うさが同時にあった。
景色に小さくヒビが入る。
矛盾という圧力に耐え切れなくなって、瓦解の一途をたどろうとする。
そんな中、柊哉は悔いるように、残りの文言を吐き出した。
「―――真姫はもっともっと、それこそ俺の考える以上に、可愛い女の子で。大好きな美少女で。…それが分かった瞬間………俺は、真姫との距離が、つかめなくなったんだ」
真姫は黙ってその告白を聞く。
黙って聞きながら、内心でその告白に異を唱える。
(―――…柊哉は、何を言っているの?…分からないのは、柊哉のほうよ…?)
そう。
距離がつかめないのは、柊哉のほう。
真姫が歩み寄ろうとすると、のらりくらりと避けて、少しだけ距離を離す。
いつも肝心なところではぐらかして、なかなか実態をつかませない。
そのくせいつもいいところで登場して、準備万端で恰好をつける。
真剣なときと、軽薄なときと。
大胆に切り込んでいくときと、石橋を叩きまくっているときと。
その差異が大きすぎて、柊哉の本当の
自分は本当に柊哉と離れているのか、近くにいるのか、分からなくなってしまう。
過去を参考にしようとも、柊哉はこれまで出会ったどの人間とも似ていない。
父親にも、親戚にも、
まして、長く一緒にいた、μ’sのメンバー8人とも…。
それがまた、真姫の混乱を大きくしている。
(…柊哉って、どういう人間なのか、分からない…)
真姫がひそかに思い悩む中、柊哉の独白は続く。
呼びかけてくる柊哉の声が、やけに重い。
「…なぁ、真姫ちゃん」
「――――――」
そして、真姫が頷く間なんてなく、柊哉の口から、言の葉の旋律が飛び出してくる。
誰も望まない、でも必然の、不協和音の旋律が。
「―――…俺は、ちゃんと、真姫に歩み寄れているかねぇ?」
投げかけられた疑問は、酷く鈍重で………酷く、強張っていた。
質問自体は、YESとNOで答えられるはずなのに。
大好きな「神城柊哉」が出している質問のはずなのに。
真姫のどこかがシグナルを出す。
これは、だめだ。
なんか、だめだ。
―――どうしても、違うんだって叫びたい。
そのシグナルの意味に気づいた時には、既に真姫は叫んでいた。
「―――それは違うわよ!!」
イスの上で張り上げたその声は。
周囲の怪訝そうな視線も、固定観念も、真姫の心にかかったタガも、すべてを吹き飛ばし、君臨する。
まるで戦争を申し込むかの如く、毅然として決然とした声。
驚く柊哉をよそに、真姫はさらに大きく、声をあげた。
「―――柊哉は、とっくの昔に、私には…私たちには、歩み寄っているわよ!!」
そう。
相も変わらず、柊哉との距離感は、つかめない。
遠いのだか近いのだか、いつになっても分からない。
でも、これだけは言える。
何も柊哉を知らない自分でさえ、こうとだけは言える。
―――柊哉は、μ’sのメンバーひとりひとりには、既に、歩み寄っているのだ。
「…それを分からなくしているのは、柊哉のほうじゃない!!…いつもいつも、知りたいときに自分をぼかして、自分をつかませなくして…」
勢いが徐々に失速していく。
だんだん悔しくなってくる。
それに加え、虚しさまでもが真姫の心を震わせる。
それでも、最後まで、真姫は言葉を絞り出す。
レモンを搾るときの最後の一滴が、濃縮されて一番酸っぱいのと同じように。
最後に漏らしたその言の葉は、ふんだんに真姫の気持ちがこもっていた。
否、こめた。
「…私は、柊哉とどんな距離感で接すればいいのよ…」
その言葉は、どんな願い事にも勝る、悲痛な告白だった。
2人の関係性を、大なり小なり変えてしまう、ある種の文言だった。
それこそ、言い終わった真姫が、言いすぎてしまった、と後悔するほど。
大きすぎて重すぎた、懺悔の自白だった。
真姫はこっそり柊哉の顔を窺う。
柊哉は何も言わずに聞いていた。
その表情には怒りも、嬉しさも、もっといえば…悲しみも、なかった。
真姫はそれを不思議に思って首を傾げる。
なぜなら、柊哉の表情は。
そのどれでもなく。
―――唇の端をつり上げて、…笑っていたのだから。
「―――…ははっ、そーだったんだ…」
そして小さく
それはまるで何かに納得したかのようで。
清々しい気持ちと、自嘲する気持ちが入り混じっていて。
それを真姫は問い詰めようとした。
いつもの柊哉らしくない、何をやっているんだと。
―――だが、それよりも早く。
西木野真姫の大好きな少年、神城柊哉は、声を上げた。
今までの行動から考えられる、およそ考えつくとは思えない結論を、主張した。
それはばかげているとしか言いようのない持論。
同じμ’sとして9ヶ月、ともに過ごしてきた人とは思えない結論。
しかしそのときの柊哉の声は、それまでのどの言葉よりも真剣な声音だった。
「―――じゃあ、やり直そう。俺と真姫との距離感を、一度リセットしよう」
真姫は目を丸くする。
柊哉の言葉の方向性に、ではなく。
…自分が今まさに言おうとしていたことを、柊哉が言ってくれたことに。
真姫は驚く。
―――バカげているはずのそれが、ちっとも嫌じゃないことに。
「…ダメかね?」
柊哉の問いかけに、真姫は首を振る。
「…それなら良かった」
すると柊哉は、まるで緊張の糸がほぐれたというように、大きく腕を伸ばした。
それを見守る真姫は、ふと気づく。
そしてその事実が認識されると同時、今までの会話の全てに納得がいった。
(―――そうか。…柊哉も、不器用だったんだ)
柊哉も、不器用。
その一言は、真姫の心に、普通にすんなりと入って来る。
それが当然の帰結といった風体で。
さも当然と、堂々と。
そして。
(…どうしようかしら………なんか、すごく………嬉しい…!)
それを認識したら、次にあふれてくるのは歓喜と愛情。
彼と同じであることが、たまらなく嬉しくて、たまらなく、愛おしく思えてくる。
主張を語る彼の瞳が、彼の大きな優しさが、走馬灯のように駆け抜ける彼との思い出が。
ひとつ学年が上のこの少年の全てが、たまらなく、好き。
真姫の頬なんてまた真っ赤。
でも、今回はそれを隠す気なんて微塵もない。
それ以上にすることがあるから。
言葉をつづる。
大好きな柊哉へ、と書き出しに書けるくらいの。
普段ならば絶対に言えない、恥ずかしいセリフを。
―――勢いに任せて、言ってしまう。
「………じゃ、じゃあ…距離感をつかめないんだったら…ま、また、作るわよ、柊哉」
「―――おう」
「―――…こ、今度は………っ、いっ、一番近くが、いいんじゃない…?」
★
誕生日。
それは、つかみ損ねていたものを、もう一度手にすることが許される日。
そして、
―――
西木野真姫の誕生日、4月19日。
この日、彼女は、自分の大好きな少年と、再びやり直して、自分の距離を、決めた。
~Happy Birthday 真姫~
神々の、祝福があらんことを―――。
いかがでしたか?
感想などいただけると幸いです。
それでは!