―――ごめんなさいっ。
本当ににこ様ごめんなさいっ!!
まさか、誕生日を間違えて覚えてしまっていたとは…。
7月25日だとずっと思っていました…。
「7月22日だよ?」ってリア友に言われたときの絶望といったら!!
ということで慌てて打ち出した短いにこ様誕生日前編です。
たぶん、前、中、後で分けると思います。
それでは、どうぞ。
2015年、7月22日。
私、
「…とうとう今日ですわね!」
びしっとイスの上に立って宣言します。
これは何にも代えられない、今日しかないのです。
今日は、私にとって…いや、この家族みんなにとって、大切な日なのですから!
「…なぁに~…?」
これは眠たそうに目をこする虎太郎にも分かってもらわなければならないのです。
家族みんなでしなければならないことなので、虎太郎が分かってない、なんてことは決して許されないのです。てろーんと垂れる鼻水を拭いてあげながら、私は虎太郎に問いかけます。
わが妹、ここあも、私に続いて、虎太郎の耳元で言います。
「もうっ、こたろう!…私たちには、ぜ~ったいに、忘れちゃいけない日があったでしょ?」
「そう!ここあの言う通りです!…こたろう、思い出して…?」
姉妹そろって言っても、虎太郎は首をはてなとひねるだけ。どうやらまだよく分かっていないようです…。むむ、虎太郎にも分かるように言うのって、難しいですね。どうやったら伝わるんでしょうか。
ここあは変わらず虎太郎に話しかけています。虎太郎はなんか、混乱?しているみたいです。たくさんいろんなことを言われて、何がなんだか分からなくなっている、っていうのでしょうか。あ、またモグラたたきのゲームに戻ってしまいました。ここあも困ってしまっています。どうしましょう…。
と、そんなぼやっとしてた虎太郎も、ここあの言葉に、何かを思い出したようです。
ピコピコを中断して、私のほうを見て、小さく何か言ったのです。
「…ぅあー…あー…あ、誕生日…」
虎太郎はちゃんとえらい子でした!
そんな虎太郎の頭をなでなでしながら、私はもう一度イスの上に立ちます。
「そうです!!…えー、こほんっ!今日、7月22日は、お姉様の誕生日なのです!」
ここで私はまたも決めポーズ。これはお姉様―――矢澤にこが、私たちに教えてくれたポーズです。とってもかっこいいので、私もよく使っています。何せお姉様は「すーぱーあいどる」なのですから!
ここあもその言葉に大きくうなずいて、私のほうを見ています。
「うんうん!…こころ、今年はどうやってお姉ちゃんを祝うの?」
「ふふふ、よく聞いてくれました!!」
「…あー…」
「あ、こたろうも、ちゃんと聞いておいてね?」
「…わかったよ、おねーちゃん…」
虎太郎がここあのヒザの上に座ったところで、私はここあの質問に答えます。
「ここあ、こたろう。私たちは、お正月に、お年玉をもらいましたね?」
「うん!」
「…うん…」
「それに、少し前に、おばあちゃんの家に行ったとき、おこづかいをもらいましたよね?」
「そうね!」
「…ぼくも、もらった…」
「そうです!!…ということは、私たちは、今、お金をたくさん持っているはずです」
「え?………あ、待って、分かった!!」
「…?」
「ここあ?」
「つまり、こころは、『そのお金を使って、お姉ちゃんにプレゼントを買おう』って言いたいんだよね?」
さすがここあです。私の言いたいことを、ちゃんと分かってくれています。やっぱり、双子っていうのが大きいんでしょうか?
何はともあれ、私は、ちゃんとした答えを言ったここあに、グッドサインを返します。
「その通りです!!それも、ちょっと豪華なプレゼントなんて、どうでしょうか!!…いつも、たくさん働いている、お姉様に、プレゼントですわ!!」
そう。これが私の考えていたこと。ちょっと難しい言葉だと、「サプライズ」!これならお姉様も、きっとびっくりしてくれるはずです!
―――それに、もっと違う意味も、ありますから。
(―――お姉様。今日くらいは、私たちも、頑張るんです!!)
今はここにいないお姉様に、私は心の中で宣言します。
今日は、いつもたくさん働いてくれているお姉様に、私たちが「ありがとう」って言う日なのです。私はまだお姉様のようにはなれないけれど、それでも今日くらいは、いつも頑張っているお姉様に、休んでもらいたいって思うのです。
これは、妹としての想いでもあり…私、矢澤こころの想いでもあります。
だから、この「サプライズ」で、お姉様に恩返しをしたいのです。
私の自信満々な姿に、ここあも私のようにイスの上に立って、私の意見にこくこくと、首を縦に振りました。
「おお、いいね!私は賛成だよ。お姉ちゃんが喜んでくれるのなら!…こたろうは?」
「…おねーちゃんが、よろこぶなら、それでいい…」
虎太郎も特に反対することはありません。
いつもぽやっとしている虎太郎だって、ちゃんとお姉様のことを思っているのです。
それは、ここあだって、お母さんだって、お父さんだってそうです。
私たちは、お姉様が大好きなのです!
「―――よし!それじゃあ、それで決まりですね!…」
さっそく、私はお姉様を喜ばせるための計画を、話し始めました!
―――と。
突然、ここあの後ろにあったドアが、ばーんと開け放たれたのです!
ドアが開くときの大きな音に、私はびっくりしてしまいました、
それにここあは驚いてイスから落ちかけますし、虎太郎はピコピコハンマーを落としてしまいます。
ですが…私たちは、それ以上に…。
「―――ちょっとぉ、あなた達…?」
―――入って来た人が…今まさに会話に出てきていた、お姉様その人だったことに、驚いたのです…。
「わわっ、お姉ちゃん!?…ど、どうしたの!?」
「…おねー、ちゃん…っ?」
「お姉様っ!?」
ここあ、虎太郎、そして、私。
ここにいる全員が、さらっと入って来たお姉様―――今、この場に「一番いてはいけない人」の登場に、驚いていました。
驚くのと一緒に、「まずい」という気持ちも、湧いてきてしまいました。
そして、「どうしよう」っていう、何かもやっとした気持ちも、それについてきて。
「…あ、えっと、その…」
私は、何も言えなくなってしまいました。
お姉様は、そんな私の姿をみて、困ったように、ひとつため息をつきます。
「…ごめんね。…全部、聞いちゃったわ」
そして、お姉様は、ぽつりと言いました。
…お姉様らしくない、でもお姉様らしい、一言でした。
私は、何も言えなくなるよりも、うつむいてしまいます。
…なんとなく、お姉様は、私の前で、笑っているような気がしました。
―――「お姉様らしくない」、笑い方をしているような気がしました。
「祝ってくれるのは、とっても嬉しいことなのよ?…にこだって、今日は誕生日なんだから、柊y…μ’sのみんなや、あなた達に祝われることは、とっても嬉しいわ」
…たぶん、その言葉はウソじゃありません。
お姉様は、アイドルになるのが夢です。「アイドルは、みんなに夢と笑顔を与えて、みんなから幸せをもらう仕事なの」って、いつも言っていました。そして、誕生日のお祝いは、「笑顔」が一番増えるタイミングだ、とも。
私だって、誕生日をここあと一緒にお祝いしてもらうのは、すっごく嬉しいですから。
私だって、お姉様のような、「アイドル」になりたいですから。
―――でも。
「…でもね。私の誕生日を祝うために、あなた達が無理をすることはないの。にこは、気持ちだけでもすっごく嬉しいから」
私たちを落ち着かせるように、優しく言ったお姉様。
私が顔を上げると、そこにはお姉様の笑顔がありました。
…私が思った通りの、笑顔がありました。
なんだか、見るのがちょっとイヤになるような、そんな…なんにもない笑顔が。
私は、ついに、なにかよく分からないけど、何かが壊れたような気がして、大きく声を上げました。
「…そんな!…いつも、お姉様ばかりが、無理されなくても!!」
「いいえ、無理はしてないわよ、こころ」
「…っ!!あっ、と、その、えっと!!」
悲しいです。
お姉様の役に立てない自分が、悔しいです。
「…おねえ、さまっ…」
「こころ…」
お姉様。
私は心配してほしいのではありません。
たった一言、言いたいだけなのです。
お姉様。
お姉様は、嘘つきです。
「…私たちだって、お姉様のために何かできるはずなんです!!私は、いつもお姉様に
頼ってばっかりで、だから、今日こそはって…思ってたんです!!でも…いつもいつも、苦労しているのは、お姉様ばかりでっ…!!」
私はお姉様に、ありったけの気持ちをぶつけます。
泣きながらなので、たぶん、言いたいことの半分も伝わっていないと思います。
お姉様は何も言ってきません。
私が何を言いたいのかを、ある程度は分かっているからでしょう。
私の意見は、ワガママなんですから。
…でも、それが余計に、すっごくみじめで。
「―――っ!!!」
「あっ、ちょっと!どこ行くの!?…こころ!?」
…だから私は、家を飛び出してしまったんだと思います。
―――お姉様。
「…ごめんなさい」
★
そうして、私は住んでいるマンションから、外に出てきました。
今は、どこかの知らない商店街を歩いています。くすんだベージュ色の天井が、朝の光をせいいっぱい吸い込んで、商店街に光をあげています。でも、その光は、なんか弱々しいです。だから、灰色のシャッターと、いろんな色が混じったお店が、強そうに見えてしまいます。ゆっくり、店を見る余裕もありません。
周りを見回しても、知らないお兄さんとお姉さんばかり。少し怖いです。
「…どうしたんだい?…迷子なのかい?」
優しいおじさんが、私を迷子だと思って、話しかけてきてくれます。嬉しいですけど…やっぱり、お姉様の言ったセリフが気がかりで、あんまり素直に喜ぶことが出来ません。
私は「大丈夫です」と、周りの人の厚意を断って歩きます。
歩きながら、私は少し冷静になった頭で考えてみます。
最初のうちは、泣きながら走っていたので、まわりに気をつかう余裕がありませんでした。…それは、ただ、お姉様から、出来るだけ遠くに行きたいっていう一心で。私なりの、ちっぽけな、「意地」で。
でも、だいぶ心が静かになった今なら、分かります。
(…飛び出してみたはいいものの…)
この矢澤こころ。
…さすがに、無計画すぎました。
(―――ここ、どこですか…)
ここがどこで、どんな道を通ってきて、どうやって戻ればいいのか、というのが全然分からないのです。最初のままの勢いだけでここまで来たので、今までの記憶というか、家を飛び出してから何をしていたのかを、私がほとんど覚えていないのです…。
気が付いたら、周りに知らない景色と知らない人たち。
―――お姉様。
私は、お姉様が昔、『八方ふさがりじゃないのーっ!!!』って、大きな声で叫んでいたのを思い出しました。その言葉、どういう意味なんですか?って聞いたら、『どこにも逃げ道がないってことよ!!』と、少しイライラしながら答えてくれたことも一緒に。
あの時は、そういう言葉もあるんだ、と、頭のすみっこにメモをしておくだけでした。
だからこそ、言えます。
―――今の私は、たぶんその「八方ふさがり」とおんなじ感じです。
「…本当に…どうしましょう…」
なんだかまた、涙が出そうです。困ってしまいます。
くるっと辺りを見回してみても、私の知っているものは何一つありません。あの果物屋さんの看板も、道路の横に立ってるカラオケの旗も、今歩いている道路の下にあるタイルの色さえも、まったく。
私の思い出の中に、この景色は…ありません。このまままっすぐ行っても、ずっと分かんないままだと思います。というか、むしろ悪化するような気がします。
…ということは。
あとは、周りの人に聞く、のでしょうか。
…それしか、ないように思います。
もっと迷子になんて、なりたくないです。お母さんに、迷惑は、かけたくありませんし―――お姉様にも、会って、謝らないと、いけません。家には、帰らなければ、だめなんです。
でも…知らない人に話しかける、ということは…私には出来るように、思えません。お姉様のような、人懐こさは、私には、ありませんから。…知らない大人が、私にはとっても大きく見えて、すっごく、怖いですから。怖いおじさんに捕まるのは、嫌です。
―――だからこそ、私は、しなくてはいけないのです。
お姉様に、会いたいですから。
怖さにバイバイしようと、勇気を出して、私は話しかけようとします。
怖くなさそうな人に、優しそうなお姉さんに、「あの…」と声をかけます。
「…あのっ!!」
「―――…ですが、その事案につきましては…はい、はい…申し訳ありません…」
―――どうやら、電話中だったようです。ごめいわくだったのでしょうか?
とりあえず、「すいません」と、ぴょこんと謝っておいて、次の人を探しに行きます。今度は前に進むのではなく、元来た道を戻りながら、話しかけられそうな人を探しに行きます。ちょっと早歩きです。
1分くらい行くと、2人目の話しかけられそうな人を見つけました。高校生くらい―――お姉様と同じくらいの、男の人です。仏さまを売っているお店の前で、ず~っと、仏さまとにらめっこしています。すっごく、暇そうです。
その人は、青い服を着ています。スーツのような感じです。金ぴかの仏さまの前に、青い男の人がいろのは、なんだか、面白いです。
とりあえず、話しかけてみることとします。怖いおじさんじゃありませんように、って、近くの仏さまにお願いしながら。
「…あのっ」
「およ?」
―――そう言って振り向いたその人は、なんだかチャラそうな人でした。
なんと言うのでしょうか。毎日、遊んで暮らしているみたいです。むっちむちのおねーさんと、大きな家と、たくさんのお金で、遊びまくってそうです。怖い人、というわけではありません。むしろ、話しかけやすそうな、フレンドリーさがあります。笑顔も、なんだか素敵な感じです。
でも、私はすぐに、間違えた、と思いました。
この人に、話しかけるんじゃなかった、って思いました。
「…いえ、なんでもありません。ご迷惑をかけました…」
もう一回、深く頭を下げて、男の人に背を向けます。
正直、ごめんなさいっていう気持ちがとっても大きいですが…もっと別の人を探さなくてはなりません。2歩、3歩、とお兄さんから離れていきます。
―――お兄さんが、呼び止めるまでは。
「ちょ、ちょっと待てっ!!…え、ちょ、にこの妹!?おま、なんでこんなとこにいんだよ、にこん家って、もっと遠くだった気がすんぞオイ!?」
…。
………。
………………。
………………はい?
聞き捨てならない一言が聞こえました。今、目の前のお兄さんは、私にとって、とても重要な言葉をたくさんしゃべりました。びっくりです。ウソだと思います。
私は、お兄さんに、それが本当かウソか、聞いてみることとします。
「―――え、お兄さん?…お姉様の、知り合いですか?」
その私の質問に、お兄さんは、ため息をひとつ、つきました。
「…そーだよ。俺は、にこのマネージャーなんだよ…」
もう一回、びっくりです。
何にって、私がすごく運がいいことに、びっくりです。
私が、すごく、運の
まさか、2回目に話しかけた人が、お姉様の知り合いだったなんて。まさか、その人が、お姉様のアイドルを知っていて、そのうえ「まねーじゃー」さんだったなんて。
(―――もう、何がなにやら、分かんないです…)
いろんなものごとが頭の中をぐるぐるして。
私は、ただ、驚いたまんま、そこに立つことしか出来ませんでした。
中編に続くっ!!
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