ひとりひとりと、女神と人と。~改訂作業中~   作:M崎

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 5話前になんか入れたい、ということで作ってみた話です。
 4話と5話との間の緩衝材、みたいな感じで…。

 あ、先に4話を読んでから、この話をお読みください。

 ということで、4.34話、どうぞ。




4.34話

 「さてー!書類整理やけど、種類で分けて右端をホッチキスで止めてなー!分からん書類があったら、こっちに分けて置いといて。後でうちらが教えたる」

 「おー、やり方はそっち系のタイプかー。前みたく資料を全部パソコンに移して集計しろみたいなのじゃなくて良かったー」

 「あ、そういうのもいくつかあるかもしれんな~」

 「マジで…まあ、善処しますけど…え、コレで説明終わりですか?」

 「ええ。大体のことは、さっき(のぞみ)が説明してくれた通りよ」

 「りょーかいっす」

 

 柊哉(しゅうや)は、希から書類仕事について教えてもらっていた。

 まあ、大体はホチキスで止めるだけらしいので、楽勝といえば楽勝なのだが、

 

 (―――量が多いんだよなぁ。これ、1日で終わるか…?)

 

 問題はコレである。

 今柊哉の目の前には、生徒会の仕事、積もり積もって書類3山ぶんがうずたかく(そび)え立っているのだ。

 先ほど絵里(えり)には、「2山ぶんくらいなら終わらせる」と啖呵を切っちゃったので、帰宅が遅くなろうとも終わらせるつもりなのだが…。

 この量では、それすらも危ういだろう。

 

 まあ、自分が出来る分だけをやろう、と柊哉は決意する。

 

 「…ま、終わらせるだけ終わらせますよ」

 「無理はしなくていいのよ?…だってこの後、私も希も練習に参加しないといけないから、ここには誰もいないし」

 「え?…もしかして、今日絵里も希もいないの…?」

 「そうなんよ~。ごめんなぁ」

 「いえ、全然大丈夫です!女子の裏で頑張るのが男子の役目ですから!」

 「ふふ、それは心強いわね」

 「それじゃ、頼んだでー♪」

 「分かりました!必ず、必ず朗報をお届けいたします!!」

 

 2人が、手を振りながら生徒会室から出て行く。

 ドアが完全に閉まり、絵里と希の姿が見えなくなった後、柊哉は、体にたまっていた息を吐き出した。

 

 (―――ふーっ。一応、言っては見たものの…)

 

 そして、今までの状況を頭で整理する。

 

 柊哉にとっては、今日が生徒会の初仕事だ。

 正直、右も左も、全く分からない。完全なビギナーなのである。

 

 だが、先達である希と絵里は、今日はμ’sの練習があるらしいので、今日ここには来ない。

 後2人も、今日は用事があるらしく、来ないとのこと。

 

 つまり、今日はビギナー柊哉1人でこれを片付けるのだ。

 女子の前でカッコをつけてみたはいいものの、ちょっと無理ゲーかもしれない。

 

 (―――ま、しゃーないか。それが俺だし)

 

 だが、仕方ない、と心を切り替えて、柊哉は書類の山を切り崩しにかかった。

 

 

 

                       ★

 

 

 

 仕事をするとき、特にここ最近はよくかける歌を、柊哉は持っている。

 何もかもが上手く出来そうな、そんな気持ちにさせてくれる歌を。

 

 

 

 仕事が軌道に乗り始めた柊哉は、書類の山を切り崩しつつも、左手で器用にiPodとイヤホンを取り出した。

 パソコンを右手で打ちながら、空いた左手で曲検索をかける。

 

 そして目的の歌を見つけると同時に、その歌をタップして再生する。

 

 (おー、コレだコレだ!!)

 

 その途端、軽快ともいえるナンバーが、イヤホンを介して柊哉の両耳に響いてきた。

 

 頑張るとき、くじけそうなときに、たちまち回復させてくれそうな勇気付けてくれる歌詞に。

 ハイテンポとは言わないがローテンポでもない、耳に残りやすいメロディー。

 そして、「1人きりで頑張らないで」と全力で伝えてくる歌声。

 

 lily whiteの、「あ・の・ね・が・ん・ば・れ!」である。

 歌詞的には、柊哉が最大級に好きな歌だった。

 

 「~♪」

 

 この歌がかかった途端、柊哉の仕事ペースが今までの3倍になった。

 口はメロディーを口ずさみながらも、両手は猛スピードで動き始める。

 それはさながら、両手が踊りだしたかのように。

 

 疲れなんぞ関係ない。この歌がかかれば、世界だって壊せる。

 

 「~♪…~♪」

 

 そして2サビ。柊哉はここで一旦手を止め、音楽に聞き入る。

 柊哉がこの歌で好きな場所。それは、実はサビの前にある謎の間だ。

 あの間が、聞く人に、2サビのインパクトを伝えている。

 歌詞を聞き手に届けやすくしている。

 柊哉は勝手に、そう思っていた。

 

 「~♪」

 

 仕事は進み、歌も進む。

 

 2サビ、3サビを超え、そろそろ曲の終わり。

 

 ここで3サビとラスサビの間、特徴的なギターパートが耳に入ってきた。

 アップテンポで、耳をくすぐるエレキとベースの音色。

 周りのメロディーと調和させた、美しくも何処か哀しげに聞こえるギター。

 

 「~♪」

 (おお、ギターパートだ!ここ1回弾いてみたいんだよな~今日終わらしたら弾こうっと)

 

 柊哉は、ここで曲にあわせて仕事のリズムを調節する。

 時にハイに、時にローに。

 鉛筆を動かす手を、パソコンを打つ手を。

 

 (さあ来たぞ。―――雨上がりの青空、か…)

 

 そして、シンバルの音とともにラスサビだ。

 4分16秒のラストを締める、3人の魂乗った最後のパート。

 精一杯の歌声を、精一杯の思いを、聞き手に伝えるために。

 希が、海未(うみ)が、(りん)が、それぞれの声を、甘く響かせて。

 

 それを聞いているうち、これを歌っている人たちと、今日本当に会ったんだよなぁ、と柊哉は苦笑する。

 

 そうして笑っているうちに、いつの間にか歌は終わっていた。

 余韻すらも残させない、シュッと消えるラスト。

 

 だがそのラスト、柊哉の顔に、笑顔を作って。

 

 「おー…なんか元気出てきたな…!ようし、軽く3山くらい終わらすか!!」

 

 歌が抜けて、次の歌が始まった瞬間、柊哉は伸びをして気合を出す。

 もう今なら、何でも出来るような気がしていた。

 

 柊哉が書類に手を伸ばし、分類する。

 分けた書類を止めるために、神業とも呼べるスピードでホチキスを動かしていたとき。

 

 ギイ。

 「あの~…柊哉くん、ちょっとええ?」

 「え、希っ?」

 

 突然扉が開いて、先ほど帰ったはずの先輩、希が顔を出した。

 

 

 

                    ★

 

 

 

 (のぞみ)柊哉(しゅうや)がもう一度出会う、その少し前。

 

 絢瀬絵里(あやせえり)は、東條(とうじょう)希と2人、足早に練習場所へと向かっていた。

 

 (柊哉くんには悪いけど、今日は大事な練習があるのよ…)

 

 心の中で柊哉に謝りつつ、絵里は気持ち少しだけ、歩くスピードを上げる。

 

 なぜなら、今日はμ’sの新曲、「Shangri-La Shower」のダンス練習なのだ。

 7月12日に予定されているPV撮影のための、1日たりとも無駄に出来ない練習。

 その集大成とも呼べる第1リハーサルを、この後行うのである。

 当然、1人でも抜けるわけには行かない。こちらを優先させてしまうのも仕方の無いことだった。

 

 でも、別に生徒会をないがしろにしているのではない。

 絵里にとって、大事なのは生徒会の仕事も、μ’sの活動も同じだから。

 

 ただ、今回はμ’sの活動を優先させただけのこと。

 この借りは、後できっちり柊哉に返すつもりだ。

 

 (ごめんね…)

 

 と絵里は心で考えながら、さらに歩くスピードを早めようとしたときである。

 

 「あ」

 「…?どうしたの、希」

 

 絵里の隣を、何も言わずに歩いていた相方、希が唐突に立ち止まった。

 絵里も一旦止まり、希の方へと顔を向ける。

 どうかしたのか?と、目だけで問いかける。

 

 その希は、ぽんと手を打って言った。

 

 「あちゃー!…ちょっと、生徒会室に忘れ物してきてもうた。取ってくるから、えりちはここで待っといてくれへん?」

 「分かったわ」

 「ほんま、ごめんなぁ。すぐ戻ってくるから、待っといてな~」

 

 そういうと、希は胸の前で手を合わせ、もと来た道を走って戻っていく。

 

 1人、廊下に残された絵里は、希が見えなくなるのを確認してから、ふむと腕を組んだ。

 その端整な横顔を、悩ましげにゆがめる。

 

 考えているのは、先ほどの希の対応。

 

 (―――ちょっと、おかしかったわね、さっきの希…)

 

 ―――少し、本当に少し、違和感があった。

 普通の希なら、絶対に無い表情が、彼女の横顔に現れていたのだ。

 

 それは、何かに必死になっている時の顔。

 いつもの希にしてはらしくも無い、焦燥感を滲ませた顔。

 

 まるで、一刻も早く、伝えることがあるかのような、顔。

 

 (………………)

 

 絵里は考える。

 

 希は生徒会室に忘れ物をしたわけではない。

 生徒会室にいる人物に、何か切迫したことを伝えに行ったのではないか。

 

 そして今、生徒会にいる人物の名は――――――神城柊哉(かみしろしゅうや)

 紛れも無い、この学園唯一の、…男。

 

 「………………」

 

 そこから導き出される結論に、絵里は戦慄する。

 

 (まさか…希…―――ちょっと、見てみようかしら…)

 

 そして、その結論が脳に浸透すると同時に、ほんのちょっとの好奇心が、絵里の心に沸き起こってきた。

 絵里はその好奇心に抗わず、示すとおりに体を動かそうとする。

 

 (―-―…?…何かしら?)

 

 だがこのとき、絵里の心には、好奇心とは違う、別の感情が生まれた。

 

 もやもやした、なんともいえない、表現の出来ないこの感情。

 何となく、進むのを促進させるような、情熱的で静かな感情。

 言葉では表現できない、胸を締め付けるような辛さを伴うこの感情。

 

 どうしようもなく、じれったくて、甘く切ないこの感情。

 絵里の心臓が、早鐘のようなビートを刻みだす。

 

 (…まあ、いいわ。まずは向かいましょう)

 

 だが絵里はまだ、この感情を理解できない。

 

 その感情を振り切って、足音を立てないように、そーっと、足をもと来た道へと向ける。

 

 どうして、突き動かされるのかもわからずに、絵里は、尾行を開始する。

 

 

 

 

 ―――その先に、混沌が待っているとも知らずに。

 

 

 

                    ★

 

 

 

 「あのな、柊哉(しゅうや)くん、頼みがあるんやけど…」

 

 2015年、7月1日、水曜日。

 神城(かみしろ)柊哉は、突然の来訪者に目を瞬かせていた。

 頭の理解が追いつかない。1度帰ったはずの彼女が、何故―――?

 

 仕事をする手も、一時停止させて、柊哉は彼女を見る。

 今、柊哉の意識のすべてが、突然の来訪者―――東條希(とうじょうのぞみ)に向いていた。

 

 「え………な、何ですか…?」

 

 その希は、なんとも歯切れの悪そうな顔で、言うのを悩んでいるようだ。

 本当に言ってもいいのか、どちらが得か。

 そのミステリアスな顔に、今ははっきりと、迷いの色が見て取れた。

 

 「ええとね、その…」

 「………………」

 

 そんな希に対して、柊哉は無言で、言葉を待つ。

 今こちらから話しかけても、向こうにプレッシャーをかけるだけだ。

 喋るのを強制させるべきではない。

 

 ただ、悩みがあるなら、相談して欲しい。

 その一心で、希をじっと見つめていた。

 

 柊哉の無言の意思が伝わったのか、希は覚悟を決めたように柊哉の方に向き直る。

 

 そして、若干躊躇いがちに、告げてきた。

 

 

 「―――あんなー…えりちのことについて、少し相談したいんやけど、ええ?」

 

 

 

 

 

 

 

 




 短めでいってみました。…あれ、そうでもないね…。
 …4.34話、いかがだったでしょうか?

 あ、「Shangri-La Shower」の発売日は、2014年10月1日です。
 矛盾がまたもあったもので…。すいません。
 今後、必要になるかと思って、2015年7月1日発売の「Angelic Angel」は使わなかったんですけど…。

 曲を出したいのと、次の5話を円滑に進めるために入れてみました。
 あと安直なフラグ…。

 次は正真正銘、5話です。

 期待して待っていてください!
 それでは。

 感想、評価など、心からお待ちしています。

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