VRMMORPG-ユグドラシル~非モテ達の嘆歌~【完結!】   作:黄衛門

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最終話 非モテの嘆く森

「確かに、普通に楽しむのなら男も女も無い……だけど君のそれは、感情に身を任せただけの独り善がりだ!」

 

「誰が童貞だこの野郎!」

 

 クリスマスの童貞の耳は敏感で、ちょっと狂っているのでそう聞こえてしまったのだろう。

 重苦しい伝説の剣と軽い幻の剣がぶつかり合い、聞いたこともない破壊の音を響かせる。森がざわめき、大地がめくれる。

 もはやそれはギルド同士の抗争ではない。ただの、伝説のぶつかり合い。

 たっち・みーが剣を袈裟に降るとムーンシャドーはそれを股間の剣で受け止め、たっち・みーの後ろから現れたくみんの剣を両手の剣で受け止める。

 そのまま両手の剣でくみんを叩き落とし衝突させようとするも、たっち・みーは素早く後ろへ下がる。それによってくみんの身体が地面に叩き付けられる形となった。

 その際モモンガ達の近くまで寄り、小声で「後で説教ですよ、弱い者いじめして」といわれ、モモンガはリアル世界で顔を青くし、背筋が凍る。

 

「同志たちは残るハッピーloveを蹂躙せよ、一匹も残すな!」

 

「あ、はい」

 

 そう命じられ、モモンガ達は戦う三人から出来るだけ距離を放して、分かれる。一応今はギルド長となっているムーンシャドーの命令を聞かねばならない。モモンガ個人としてはたっち・みーの方に力添えしたいのだが、今は敵同士。それに後で説教されるのなら、この先いくらか悪事を働いても同じ事だろう。

 ハッピーloveのギルドで厄介といえるのはワールドチャンピオンの女のみ、他はレベル的に考えても簡単に勝てる相手。

 一般的に兵力を分散させるのは悪手とされているが、この際は仕方ないだろう。効率重視、過剰に力を固めても意味が無い。

 残ったのは、三人のワールドチャンピオンのみ。ムーンシャドーはくつくつと笑う。

 

「年に二回しかないイベントだというのに、それを台無しにしてくれちゃって。酷い人だな君は」

 

「理不尽なPKを無くすのが、我らアインズ・ウール・ゴウンの方針。そこには人間種も異形種も差別しない」

 

 たっち・みーは森の奥へと消えて行ったモモンガの背中を見て「後で巻き込んだ人も含めて説教だな」と心に決めながら、助けに入った理由を紡ぐ。

 しかし、ムーンシャドーはその言葉を聞き、身体を震わせる。

 

「理不尽……理不尽、だと……?

 我らに見せつけるようにやれデートしたとかセックスしたとかブログに書きなぐって、聞いてもいないのにのろけ話を聞かされて、あまつさえそれを止めろと言えば『嫉妬乙www』の言葉で黙らされた我らの行いが、理不尽だと? 恋愛なぞという性欲の美化に現を抜かす愚か者共に捌きの鉄槌を下すのが、理不尽な行いだと?

 ほざけ青二才が!」

 

 叫びと同時に身体をさながらベーゴマめいて回転させ、プラズマ化する程の高温を誇る第九位階の炎魔法、プラズマフレイムを股間から発動させる。それによってムーンシャドーは全方位に火炎放射をするような形となり、木々もバトルホテルも、二人のワールドチャンピオン含めて燃やし尽くさんとする。ムーンシャドーの足元が熱で溶け、それによって更に加速。速度はうなぎ上りに上がっていく。くみんの彼氏さんは燃やし尽くされました。

 しかし二人は同時に上空へと飛びあがりそれを回避。だが、それもムーンシャドーの計算済みだ。両腕を上に向け、手首解放。そこから放たれるのは、アルフヘイムにてスポーンする魔物、ラードグールより採取が可能なアイテム。発火油。

 炎の中心部分の温度は大体溶岩と同じ程度。そしてリアル現象もゲーム内で割と再現されるユグドラシルでその油を使えばどうなるか。

 簡易火炎放射が二人を襲う。発火油は熱量、つまりは炎系統の火力をそのまま保持する隠し効果を持っている。つまり、この炎はプラズマフレイムの火炎放射といっても差し変わりない威力を誇るのだ。

 

「ぐうっ、だが……負けん!」

 

「私も、ワールドチャンピオンだ! お前なんかに、負けてたまるか!」

 

 二人のワールドチャンピオンはその炎を次元断絶で無理矢理引き散らす。

 

「だから甘いと言っているのだよ!」

 

 突如ムーンシャドーの股間が巨大な鉈に変形。そして回転の勢いそのままバックジャンプし、液状化した地面から離れると同時に二人に牽制を仕掛ける。たっち・みーはそれを剣で受け止めるも、勢いまでは殺し切れず、数多の木々へと叩き付けられた。

 森の奥へと飛んで行った二人の方角に液化魔法を打ち込み、足場を奪う。液化魔法、地形を液状化させ相手の動きを鈍らせる魔法だ。これの利点は相手の耐性を(種族的耐性を除いて)無視して効果を発揮する事にある。

 ドミナント砲を向け、ムーンシャドーの足元に幾何学的な魔法陣が展開される。

 ドミナント砲は様々な形態に変形が可能なだけではなく、広範囲魔法を一点に集中させるという特殊な能力も持ち合わせている。これによって威力は上がりチェイン・ドラゴン・ライトニングでも第十位階の威力へとする事が出来る。最も魔法自体の使い勝手は悪くなるが、そこはロマンでカバー。

 そしてムーンシャドーが発動しようとしているのは超位魔法、フォールンダウン。課金アイテムで詠唱時間は無くしたものの、発動には少々の時間がかかる。

 とはいえその力は、ドミナント砲の性能と一日四回しか使用出来ない回数限定魔法というのも合わさって、理論上はどの敵もワンパンで倒せる程の威力と化す。

 

「これが! 私の! ドミナン──」

 

 ドスッ、という重い音と共にムーンシャドーの視界に入ってくるのは、警告音。ぽたり、と地面に血とオイルエフェクトが零れ落ち、足元の魔法陣が砕け散る。

 恐る恐る後ろを振り返ると、そこにはアルフヘイムの神剣、くみん。そして表示される相手のスキル、急所一撃。飛ばされる寸前にポイントを指定し、テレポートにてムーンシャドーに肉薄したのだろう。手に持っている武器はワールド・チャンピオン・アルフヘイムではなく、暗殺者の短剣。とある特技に限って言えば、ワールド・チャンピオンシリーズの武器より成功率を上げる武器だ。

 そしてくみんが使ったスキルは、暗殺剣。これは運によるもので、同レベル同士であれば二割程度しか成功せず、暗殺者の短剣込みでも三割程度しか成功しないという即死スキル。しかしこのスキルは即死魔法と違い耐性持ちにも効果を発揮するという性能を持っている。更に一定秒数が経ってから消滅する、というのも大きな特徴だ。故に最後っ屁を喰らわされ、同士討ちというのもよくある話。

 運営曰く『ただでは死なん、貴様の命も道連れだ!』的な事をやらせたかったと、ゲーム雑誌で無駄に熱く語っていたのは記憶に新しい。

 それが成功したという事は、つまりそういう事だ。

 

「貴方の負けよ、ムーンシャドー!」

 

「いいや、俺の勝ちだ」

 

 不敵な笑みアイコンを出し、勝ちを確信するムーンシャドー。負け惜しみを、と思い刺している剣に力を込めようとすると、不意にくみんの目前に『ギルド崩壊』の文字が。

 これは自分の所属しているギルドの象徴。ギルド武器の破壊と同時に、そのギルドは崩壊してしまう。

 最後の最後でモモンガ隊がやってくれたのだ、やってのけたのだ。ムーンシャドーは不敵な笑みを浮かべ、リアル世界で悔し涙を流しているであろうリア充共の顔を妄想し嘲笑い、そしてその後セックスするだろうと思い死にたくなった。

 

 

 

 

「あー、楽しかった。モモンガさん達、大丈夫ですか?」

 

 クローバーは先ほどまでたっぷり二時間ほどの説教から解放されたモモンガ達に声をかける。

 ここはアルフヘイムの厄介な敵、イビルツリーのスポーンする地区。先ほどから雑木のような姿をした魔物、イビルツリーが、アインズ・ウール・ゴウンの面々によって爆発で彩られている。異形種の真ん中で楽しそうにそれを眺める人間種、アインズ・ウール・ゴウンの悪名を知る者が見たら目を疑うだろう。

 最も約二名程は人間種ではなく異形種のオートマトンに似たタイプの、公式さえもどう分類すればいいのか解りかねているサイボーグなのだが。

 モモンガとウルベルト、そしてるし★ふぁーは何処となくふらふらとした足取りでクローバー達の前まで行き、地面に倒れた。

 怖い容姿だというのに、妙に愛嬌のある動き。先ほどまで正座させられていた所も思い出し、クローバーは思わず笑みを溢す。最もアバターの表情に変化はなく、現実世界での話だが。

 

「疲れました……たっち・みーさんは優しい人ですから、ああいうのが許せないんですよね。まあ大体俺も悪いんですけど」

 

「おのれリア充」

 

「あはは、お疲れさまですモモンガさんと、ウルベルトさん」

 

 ちなみにここにハッピーloveの姿は無い。彼らは悔しそうな捨て台詞を吐き、既にログアウトしている。今頃は無茶苦茶犯ってる頃だろう。羨ましい限りだ。

 るし★ふぁーが説教された後だというのにぶつぶつと「恐怖公の中にぶち込んでやった方が良かったか」と言っていたが、それがどんな部屋なのかは解らないが何となく同意するアンチアベック・ハッピープレデターの面々。

 

「しかし、あのムーンシャドーさんは一体何者なんですか。ワールドチャンピオン二人に善戦するって」

 

 ちらり、とモモンガはムーンシャドーの方を見ながら、思わずつぶやく。今はあのギルドで見たのと同じ鎧を着て、スキル『爆発剣』で他のアインズ・ウール・ゴウンのお手伝いをしている。無茶苦茶テンションを上げ高笑いしながら。隣のタブラ・スマラグディナが少し引いているのはきっと気のせいではない筈だ。

 

「あの人は異常なんですよ。何せやり込んでいる時間が違いますから。ネオニートは伊達じゃない」

 

「……羨ましいですね。働かずにお金が入るなんて」

 

 ゾンビっ子ペロペロの言葉に思わずといった様子で呟くモモンガ。それを同じ席に居たロリショタ万歳が苦笑交じりに言う。

 

「しかし、彼と同じならアインズ・ウール・ゴウンに入る事も出来なかったでしょうに」

 

「……それもそうですね」

 

 アインズ・ウール・ゴウンは社会人でないと入れないギルドだ。もしムーンシャドーと同じであったなら、モモンガはこの楽しい仲間と、こうした馬鹿騒ぎをする事も出来なかったであろう。

 この四年後に過疎化が進みサービスが終了するという事も知らず、アインズ・ウール・ゴウンとアンチカップル・ハッピープレデターの面々の夜は過ぎていく。

 騒がしくも楽しく、そしてどことなく虚しいが、充実した一日だったと、モモンガはしみじみ思った。

 そういえば、とクローバーはたっち・みーの姿が見えない事に気付く。

 

「そういえばウルベルトさん、たっちさんの姿が見えませんが」

 

「家族サービスだそうで」




 頂の白を戦闘シーンの参照にしました。
 次は番外編で、本当の本当に完結ですはい。
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