VRMMORPG-ユグドラシル~非モテ達の嘆歌~【完結!】 作:黄衛門
始まりあるものには終わりがある。命の終わり、種族の終わり、文明の終わり、恋愛の終わり、人生の終わり……そして、ゲームの終わり。
今日、ユグドラシルもそれらの例に漏れず、終わりの時を迎えようとしていた。
「ふむ、集まったのは……最初の八人のみ、か」
「仕方がないですよ、皆にはそれぞれ事情があるんですし」
手を組みそこに顎を乗せたムーンシャドーに、ゾンビっ子ペロペロが苦笑しながら言う。
薄暗い照明に照らされた、様々な電子機器が点滅する空間。そこには八〇個の座席、そのうち八個の座席が埋まっている。
ムーンシャドーの本来のギルド、プレイヤーズネスト。サービス開始から最後までギルドランクを八位に固定した、大規模ギルドである。総名一四〇〇人を誇っていた数は約半分まで落ち込み、今となっては八人を除いて皆、外で行われている花火やらのパレードに釘付けだ。
そしてこの部屋は、始まりの八〇人でないと入れない場所。大きな円状のテーブルは、破壊された機械を押し固めたような模様になっている。ちなみにグラフィックはこんなのだが、オリハルコン製だ。
ちなみにムーンシャドーは、既にそれらのセッティングやらをユグドラシル公式に頼まれ、約三割程自作し献上した。そのかいあって、サービス終了から数ヵ月後にはなるが、昔から答を受け手に委ねる事に定評のある企業が作ったストーリーをくっつけた非売品ゲーム、ユグドラシル・オフラインを受け取る手筈となっている。
元々はβテスターのみに限定するつもりだったようだが、自由配布しても構わないとの話となったのだ。
そしてそのゲームが出来るのは今のところ、ギルドメンバーと、ゾンビっ子ペロペロの友人であるモモンガくらいだろう。
ネットに上げるつもりはないが、受け取った誰かが上げる事だろう。最もそれはユグドラシルであってユグドラシルではないのだが。
「爆発のバーストもクローバーも、既に別のゲームに夢中……か。アンチアベックと合併してからというもの、めっきり見なくなりましたね」
一見空席に見える箇所から発せられた声は、永遠の十七才。
そう、サービス終了の半年前に運営はアンチアベック・ハッピープレデターと、ムーンシャドーのギルド、プレイヤーズネストと合併したのだ。
そのおかげあってNPCのポイントが、アインズ・ウール・ゴウンの一般メイド並みの数だけカンストレベルのNPCを作っても余りある程手に入ってしまったのだ。
おかげで少々作りすぎた気がしないでもないが、終わるものに華を持たせるのもまた、礼儀というものだろう。
「今頃、モモンガさんはかつてのギルドメンバーと楽しくしてるんでしょうか?
もしかしたら、かつてのメンバーがメールに気づかずとか……」
「さあな、そこは俺らが踏み込む場所ではないだろう」
全身に刺の入った全身装甲の男。不器用ですからの心配の声は最もだ。ユグドラシルが過疎化するのと比例するように、アインズ・ウール・ゴウンのメンバーが辞めていったという泣き言を、モモンガはゾンビっ子ペロペロに打ち明け、ムーンシャドーになんとかならんものかと相談した事がある。
だがギルド長であるムーンシャドーが動けば、アインズ・ウール・ゴウンが手薄になっている事が露見してしまう。プレイヤーズネストも一枚岩ではない。故に動けなかったのだ。
既に戻ってこないメンバーの為にギルドを保持する為、幽霊のように黙々とモンスターを狩り、かつてのような死の王という自信も無くなり、まるで怯えるネズミのように人目を避けギルドに戻る彼を見る度に、ムーンシャドーとゾンビっ子ペロペロは胸を痛めたものだ。
中・小ギルドが共同で討伐隊一五〇〇人を率いてのアインズ・ウール・ゴウン襲撃を、態々潜入してまで調べ、密告する程仲の良かったゾンビっ子ペロペロの心中は、とても語れるものではない。
「……我々では、何も出来ない。かつての仲間を助けられないとは、嘆かわしい」
ロリショタ万歳は真に悲しそうな声で言う。
かつての、ばか騒ぎをした友人。今となっては見る影もない。その言葉に円卓は静まり返った。
ムーンシャドーは、ゾンビっ子ペロペロを見やる。彼はモモンガとフレンド登録をし、アインズ・ウール・ゴウンに招かれ、そしてプレイヤーズネストに招いた事もある程の仲だった。その心中は想像するに余りある。
「我々では、彼を救う事は出来なかっただろう。だが、彼に手を差しのべてもその手を受け取る事は無かった筈だ。彼は優しいからな」
「……クラウンキングさん」
王族が着るような真っ赤なガウンを着、頭に王冠を被った、渋い顔の男。クラウンキングが慰めの言葉をかける。
確かにモモンガは、他ギルドに迷惑をかけたくなかった。だからフレンドであるゾンビっ子ペロペロにも、助けを求めなかったのだ。
勿論最悪の状況を想定し疑心暗鬼していた可能性も捨てきれない。だが、それだけではない事は明白。
「……所でムーンシャドーさんは、これの後何をするつもりで?」
沈みきっていた空気を変えるため、黄色い頭に茶色い猫耳を付けた、パッツンパッツンのタンクトップを着たむさ苦しい男。我はショタコンであるが、ムーンシャドーに問い掛ける。
「昔のゲームを大量にサルベージしたので、暫くはそれを」
「ほう、何のゲームを?」
我はショタコンであるが喋る度に、マクロで組み込まれた胸筋がピクピクと動く。
思えばプレイヤーズネストは頭のいい馬鹿が多いギルドだったな、と昔を思い返しながら、その質問に答える。
「キングスフィールドと魔界村をね」
「聞いた事無いゲームですね」
ドラム缶のような身体に合わない制服を着たプレイヤーズネストでも屈指のゲーマー、メカ吉が疑問の声を上げる。
「昔のゲームだからな」
「なるほど」
そんな無駄話をしている間に、終了時刻は刻々と、世界の終わりは後一分まで迫っていた。
最初の八人達は、来るべきログアウトに備え、目を閉じる。そして両手を崇めるように組む。
NPCの外装データと設定は既に保存済み、これが終わったらそれを元にフィギュアを作ってもらう。ユグドラシルには、もう思い残す事は無い。
そして、脳内でカウントし、やがて終了の時間が迫り──
終了の時間が過ぎた。
最初の八人はゆっくりと目を開き、辺りを見渡す。先程と何ら変わらない光景。ログアウトに失敗したのか? とキョロキョロを辺りを見渡し、取り敢えず異常だろうからコンソールを開こうとする。
「……開かない? GMコールもか?」
見ると、他の面々も同じように、どうなっているのか解っていないようだ。
異常事態、理解不能。少なくとも、何かが起こっているという事は理解しているが、それ以外は全くもって判明していない。何が起こったのか、他の面々も解っていない様子。
「……取り敢えずは情報収集だな」
「喋った!?」
ログアウトしなかったという驚きも、ギルド結成時からサービス終了時まで、一切喋る事の無かった侍風の和服を着た男、無音が喋った事の方が驚きが勝り、思わず最初の七人は驚愕の声をあげ、無音は不思議そうに首をかしげた。
はい、これでVRMMORPG-ユグドラシルは完璧に終わりを迎えました。
この後彼らがどうなるのか、どの時、どの場所に転移し、異世界にどう異変を与えるのか。
それはあなた達の想像次第です。
ここまで完読していただき、ありがとうございました。