麻帆良の炎髪灼眼   作:rain-c

1 / 6
原作前
神様×転生


 急に高い所に行きたくなった俺は、デパートの屋上にいる。もう少し具体的にいえば、それなりに都会と表現できる街のデパートの屋上に設けられたフードコート。そこにあるオープンカフェにいる。

 屋上にあるフードコートとは言っても、ただ飲食店が並んでいるわけではない。中心には舞台がありヒーローショーなどのイベントをやるスペースとして使われていたり、ところどころに緑が存在し、その近くには休憩するためのベンチが設置されていた。屋上の出入り口につけられた看板によると、全年齢に対応できる屋上をコンセプトに作ったとのこと。製作者の想い通りに使われているかは別として、休日というのも手伝い、家族連れやらカップルやらでフードコートは握わっていた。

 家族連れやらカップルなどに目をやりつつ、俺は手に持つカップを口につける。口の中に含んだコーヒーは頼んでから、少しばかり時間が経過したこともあり温くなりはじめていたが、入れ方が上手いのか、はたまた使っている豆が単純に良いものなのか、コーヒーに詳しくない俺にはわからないが、十分美味い。

 

「ん?」

 

 視線を動かしながら、コーヒーを嚥下し続けているとおかしな光景が目にはいる。今いる店から三件隣、今日は休業日なのか営業していない店の影。意識して見ないと気づかないであろう場所に、小学校低学年と見られる少年二人と少女が一人しゃがみ込み何かをしていた。少年二人は興奮しており、立ち上がったりしゃがんだりを繰り返し、さすが小学生テンション高いな、と思わせる動きをしている。残った少女はというと、少年二人をその場から離れさせようとしているのか、二人の服を引っ張っている。

 

 危険なものは無いとは思うが、絶対無いと自信を持って言えるほど俺はここに通い詰めている訳ではないし、子供が見ても危険性が理解できない物がないとも限らない。それに服が伸びるんじゃないかと感じるほど必死に引っ張っている少女が妙に気になる。

 

 見に行くだけ行ってみるか。万が一危険な物があって彼らが怪我でもしたりしたら後悔しそうだし、何もなければないで安心できる。結論付けた俺はコーヒーの入ったカップを片手に、彼らの方へと近寄る。彼らとの距離が近づくにつれ、彼らの会話が耳に届いてきた。

 

「マジすげえよ!テレビでしか見たことねえよ。これ作ったやつマジすげえ!」

 

「なっ、なっ、俺もそう思う。置いてあるんだし持って帰ろうぜ!学校で見せたらきっとみんな羨ましがるし、驚くぜ」

 

「ねえ、危ないよ。もし本物だったらどうするの?危ないからもう行こうよ」

 

 聞こえてきた少女の声は微かに震え、怯えているように聞こえる。

 彼らの会話に疑問がわく。

 彼らがテレビでしか見たことが無くて、それを見た少年二人を興奮させるほどに引きつけ、同級生だと思われる少女を怯えさせる本物だと危ないもの。

 一番最初に想い浮かんだのは、拳銃類や刀剣類の武器類。だが、日本はそんな物がそこらへんに落ちていたりするほど荒れている国ではないと、すぐさまその考えを否定してみるも、俺の貧相な想像力ではそれ以外考えつかず、見たほうが早いかと歩くスピードを速めた。

 

「本当に危ないよ!数字もどんどん減ってるし、私もう行くから」

 

「アンナ!ちょっと待てって俺も行くよ」

 

「ちょっ、置いていくなって」

 

 少女が走ってその場を離れると、少年二人は焦ったように少女を追いかける。これで俺があそこに行く理由は一応なくなったことになるのだが、少女の最後にいった言葉にそれの正体を想像した俺は歩きから走りへと移動手段を変更した。

 

 考えても見て欲しい。本物だと危険で、彼らがテレビでしか見た事無く、それを見た少女を怯えさせ、数字が減る物。

 流石に無いだろとは思いつつも、彼らが視線を向けていたところに目を向ける。

 どうやら、悪い予想という物は当たるようにできてるらしい。そこにあった物は、俺の想像通り、時限爆弾と呼ばれる物だった。

 

「なんでこんなところにこんな物が……」

 

 表示されている数字は百、九十九、九十八と一カウントずつ進んでいることから、一秒につき一カウント減っているらしい。

 

 一人でさっさとこの場から逃げる。却下。たとえ命が助かったとしても最低の気分でこの先生きることになる。

 警察に電話。駄目だ。偽者だったらいいが、本物だった場合取り返しのつかないことになる。

 大声を出し逃げるように呼びかける。却下。ここにいる人数が少なかったらそれでもよかったが、今ここには沢山の人が居る。パニックを起こした人々が一斉に出口に殺到したら大変なことになる。

 考えている間にもカウントは進んでいき、八十を切る。考えている暇はあまり無い。

 

「くそっ」

 

 時限爆弾と思われるものを上着のポケットに突っ込む。動かして爆発しないか不安だったが大丈夫のようだ。安心感から、ほっと胸を撫で下ろしたくなるがこれで終わりではないためその衝動を我慢し、俺は店の裏側にあるフェンスへと手をかけ上る。

 

「おいっ!何やってるんだ!?」

 

 本当に何やってるんだろうな。俺は。

 

「近づくな!」

 

 背後で男性の驚きの声があがる。それに心の中で同意し、今は悠長に説明している暇など無いので、短い言葉で異変を察知した者たちの動きを封じ、俺はフェンスを乗り越えなだが、悪手だったらしい。わらわらと遠巻きながらも、人だかりが出来始める。

 

「飛び降りよ!誰か警察に電話して!」

 

 その中にはパニックを起こしているらしい携帯を持った女性が慌てた様子で、周りに居る人に警察を呼ぶよう訴えかけていた。

 

 いやいや、携帯あるんだから自分で呼べよ。

 

「ああ、もうなんで悪いほう悪いほうへと状況は変化するんだよ…。近づくな!近づくと飛び降りるぞ!」

 

 フェンスを乗り越え終わった俺は周りの状況を確認し、前半は小声で、後半は人が近づいて来ない様に声を張り上げたのだが、俺の思いは伝わらず、同年代と思われる二十代半ばっぽい男性が近寄ってきている。

 

 どうしてこううまくいかないんだろうか。

 

 こちらに寄ってくる男性から視線を外し、ポケットの中へと視線を向けカウントを確認する。三十七、三十六、三十五と減っていくカウントと共に、心拍数が上がっていくのが判る。ここからはカウントから目を離さない方が良さそうだ。

 

「なあ、どうしたんだよ。何か悩んでることがあるなら俺が話を聞くから、死のうなんて考え捨てちまえ」

 

 フェンスから三メートル程離れたところで男は立ち止まり俺に話しかけてきた。

 三十、二十九、二十八。

 

「俺は、死のうなんて考えてない。まずい物を見つけちまってな。急いで離れてくれ。もし本物だったら爆発に巻き込まれるぞ」

 

 二十五、二十四、二十三。

 

「なっ、爆発!?」

 

「ああ、早く!」

 

 十八、十七、十六。

 

 俺の言葉を聞いた男は走って集まってきた人々のもとへ行くと、身振り手振りで離れるように指示しだす。ゆっくりながら集まってきた人々は下がりだした。離れていく人達がパニックを起こしてないところを見ると、刺激しないように。とでも言って誘導してくれたのだろう。上着の中から時限爆弾を取り出す。

 

 十一、十、九。

 

「やるか」

 

 腕を思い切り振りかぶり、偽者で合ってくれと願いを込めて、俺は時限爆弾を渾身の力で投げ飛ばす。天高く飛んだ時限爆弾。

 しばらくすると放られた時限爆弾は、鼓膜を揺るがす大きな音とともに弾け、俺の腹部に何かが当たる。

 

「っぐ」

 

 偽者ならただ俺が怒られるだけで済むという希望的観測は見事に打ち砕かれた。爆風によりフェンスに寄りかかるように倒れた俺は、すぐにフェンスを掴み立ち上がろうとしてみるも、なぜかフェンスを握った手に力は入らず立ち上がれない。空いている方の手を腹部にやると、生暖かい液体が手に付着する。

 

「ああ、これが原因か」

 

 手に付着した赤黒い液体に視線をやり、苦笑気味に一言。

 鈍い痛みを感じたあと、すぐに何も感じなくなったからおかしいとは思ったんだよな。腹部についた傷から痛みやらなにやらどんどん抜けているような錯覚をうける。まあ、単純に血を流しているのが原因なのだろうが。

 

「ははっ、なんか、えらく余裕があるな、俺」

 

 きちんと声に出ていたかどうかはわからないが、心残りは多々あるが、犠牲者が俺一人なら、上出来と言える。そんなことを考えていると、不意に景色が切り替わった。

 俺の目に映るのは、見下ろす形となっていたが先程までいた屋上だ。さっき話しかけてきた男性が、ぐったりと力の抜けた俺の体へと走りよる姿が見える。フェンスまでたどり着いた男性はフェンスを掴み、大きく口を動かす。残念ながら俺の耳には何も聞こえない。おまけに、目に映っている景色は灰色に一色となっていた。

 

「死後の世界なんて信じてなかったんだけどな。幽霊体験。これはこれでレアなことだけど、一色の世界とは味気ないもんなんだな」

 

「ずいぶんと落ち着かれているんですね」

 

「いんや。落ち着いている訳じゃないんだ。ただ短い間にいろいろなことが起こりすぎて物事を客観的に見られているだけでさ。もうちょいしたらパニックを起こすと思うよ」

 

 背後から聞こえた少女の声に答えを返したところで、違和感に気づいた。

 今俺がいるのは、近辺で一番高い建物の上だ。俺自身も傷を負った自分の体を見下ろすという非常識な状態だが、今のが幻聴でなければ、そんな俺に話しかけてくる非常識な存在がいたことになる。

 

「非常識な存在なのはお互い様ですよ」

 

 心の声にツッコミをいれてくるどこか幼い印象を感じる女性の声。今の俺の状況から察するに死神だろうか?死神だとしたらさすがに振り返るのは怖い。振り返った瞬間、鎌でスパッとかやられたらトラウマになると思う。

 

「そんな存在ではありませんよ。私はあなたたちの言葉を借りれば神という存在です」

 

「心の声に答えが返ってくるのはあまりいい気分がしないのですが」

 

 鎌でスパッがないという話だが、さすがにいきなり聞こえ始めた声の主の話を鵜呑みに出来るわけもなく、恐る恐る俺は振り返る。相手がドSの死神で、安心させたあとにスパッという可能性も捨てきれないからだ。

 

「人のために命を捨てる勇気はあるのに、小心者なんですね」

 

 振り返った先に居たのは小さな少女だった。身長は爆弾を発見した小学生っぽい子供たちより低く、腰まで伸ばされた白い髪、雪のように白い肌、ただシーツを巻きつけただけに見える白い服、少女は青い瞳以外すべてが純白に染まっていた。色を感じ取れるようになったのかと辺りを見回すが、少女以外のものは変わらず灰色に見えている。

 てか、これほどまでに、これなんかのコスプレじゃね?と疑わせる格好をした人間を俺は今までみたことがない。

 

「……私が心を読めることを忘れていませんか?」

 

「完璧に頭から吹っ飛んでた。勇気があるって訳じゃないよ。あそこで爆発させたらいけないって感じて、勢いで行動しただけだから。勢いって恐ろしいよね」

 

「勢い、ですか。私にはわかりません」

 

「まあ、神様が感情で動いたりしたら、この世界は大変なことになると思うし、それでいいんじゃない?」

 

 神様少女は首をかしげている。俺自身勢いとしか表現出来ないし、あの時の感情を説明しろと言われてもうまく言えない。

 

「そうですか。我々がミスをしたわけでもないのに、あなたが世界の流れから外れた原因を知りたかったのですが。私に理解できないものなら考えても仕方ないですね」

 

 首を元の位置に戻す少女。

 今、だいぶ重要そうなこと言わなかったか?

 

「世界の流れから外れたって?」

 

「今回の件で死傷者は零で終わるはずだったんです。回路がちゃんと接続されていなくてタイマーが零になっても爆発せず、明日あの店を空けるときに発見される予定だったんです」

 

「……俺のしたことって、死傷者零の事件に自分から首をツッコンで勝手に死んだってこと?」

 

「結果だけ言えばそうですね」

 

 俺、何してんだよ。 

 

「そんなに落ち込まないでください」

 

 その場で四つん這いになる俺。すぐさま頭に手をおき撫でる少女。

 

「優しさがこんなにつらいのは初めてだよ。俺はどうなるんだ?」

 

「こちらのミスで亡くなってしまった方たちと同じように、知識や記憶を引き継ぎ、三つの特典をつけての転生という形をとります。ただし、一度去った世界に再び訪れることはしばらくの間できないため、別の世界への転生となります。どのような世界がいいか希望はありますか?」

 

「……ここと似たような世界ならどこでもいいよ。特典っていうやつはよくわからないから適当に決めてくれる?」

 

「わかりました。長く留まることは世界を歪めますので、さっそく旅立っていただきます」

 

 少女がシーツっぽい服から手を出し振ると、白い木で作られた扉が表れる。

 

「行って下さい」

 

「ああ、ありがとうって、俺ここに入るの?」

 

 扉と同じように白い木で作られたドアノブを捻ると、マーブル模様の空間が広がっていた。

 なにこの足を踏み出す気を激しく害う空間。

 

「第二の人生に幸多からん事を願います」

 

 そんな言葉と共に、足を踏み出すのを躊躇していた俺の背中がトンと押され、マーブル模様の空間に投げ出された。何も感じないが扉が離れていっていることから判断して、落下してるらしい。

 

「ちょっ、床ないのかよ!最後の最後でこの仕打ちはありえないって!」

 

 絶叫する俺、少女は答えを返す代わりにばたんと扉を閉めてしまった。遠ざかって行く扉。

 

 「もしかして」

 

 ここで俺は閃いた。もしかしたら、頑張れば浮かべる空間かもと。

 浮かべ浮かべと念じてみるが、扉が再び視界に入らないことから落ち続けているのだろう。

 

「もうなるようになってくれ」

 

 俺は成り行きに身を任せることにし、目を閉じ体の力を抜き、寝る体制に入ろうとしたのだが、体を強く圧迫され眠りにつくことはできず、状況を確認しようと瞼を開こうとするも開けない。

 

 何だってんだよ。

 

 終いには声に出して言ったはずの言葉は、喉から出ず、体を何かに掴まれた感覚が訪れ、俺が本格的にパニックを起こしかけた時、頭上より声が聞こえた。

 

「お母さん頑張りましたね。産まれましたよ」

 

 その声により状況を理解するとともに、しばらくの間、羞恥プレイを受ける事を悟った俺だった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。