麻帆良の炎髪灼眼   作:rain-c

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特典×魔法世界

 俺と母さんが退院してから、一月が経過した。産声をあげるのが遅くて尻を叩くことになった以外、検査の結果特に問題らしい問題の見つからなかった俺は、母子ともに落ち着いたと判断された後、家に連れて来られた。二階建ての小さな庭のついた家だった。

 両親は若く二十代と思われるのだが、二人とも驚くほど整った容姿をしており、俺は授乳の際、とても恥ずかしい思いをしていたりする。

 美人は苦手です。

 

 現在、時刻は午後八時を回ったところ、両親は寝たふりをした俺をベビーベットに寝かせ、リビングの方へと移動していった。

 リビングの方から、最初は泣かなくて焦った。無事に産まれて家に連れてこれて本当に良かった。などと会話が聞こえ始めた。どうやら日課となっている俺の産まれた時の話をしているようだ。毎晩繰り返されているので、どんだけ愛されてるんだよ俺と、ツッコミを入れたいところだが、今の俺は言葉を喋れないし、今の状況は都合が良いため突っ込みは我慢する。

 俺が産まれた時の話をしだすと最低でも、三十分は二人の会話が途切れないのは、この一ヶ月の間で学習済み。その間二人は話に集中するので、神様から貰った特典を練習するのには都合がよかった。産まれてからすぐに神様から夢の中で伝えられた俺の特典なのだが、神様がどんな世界に送ってくれたのか赤ん坊の身では確認する手段がなく確かめられていないのに、え?ここ明らかに危険がある世界でしょと判断できる素敵な特典を神様は二つもくれましたよ。危険かどうか聞いてみたところ流され、特典の説明に入られた。

 

 一つ目、能力を使える程度の能力。今は、某弾幕ゲーに登場する人たちの能力などを使う事のできる能力らしいが、さすがに歴史を食べる程度の能力や歴史を創る程度の能力など、明らかにやりすぎだろソレと感じる能力は弱体化されたり、除外されている分、強化もされているらしい。詳細は教えてもらうことは出来なかった。

 俺は赤い屋敷がでてくるものしかやったことが無く、某情報サイトでどんな能力があるのか見た程度なので、それを聞いたときは、歴史を食べる程度の能力の弱体化ってどんなのやねん!と、関西方面の人間でもないのに、ツッコンでしまった。それに対する返答は無かった。

 それに、最初から全ての能力を授けてくれるほど神様は甘くなかった。

 全部で何個あるかとか詳細な能力の情報など、把握できていないが、今現在、俺の使える能力は二つだけ。空を飛ぶ程度の能力と、魔法を使える程度の能力。

 現状、空を飛ぶ程度の能力は自分の体を十秒間五ミリ程体を浮かせられるだけ、空を飛ぶ程度の能力より、空中に体を浮かせる程度と言ったほうが、しっくりくる。

 魔法を使える程度の能力に至っては、俺の親指大の魔力球を三つ出し、十センチ動かすのがやっとである。

 神に与えられた能力としては、とてもショボく思える。

 最初は能力を発動させれなかったのを考えれば、これでも十分進歩したといっていいのだが。転生チートとは胸を張って言い切れないのが現状だ。

 もちろんこれが能力の全てではない。能力は使えば使う程、熟練度のようなものが貯まり、使える能力や威力が変わる。

 また、熟練度は能力毎で設定されてはおらず、能力を使う程度の能力自体の熟練度が上がれば全ての能力があがるらしいが、能力ごとにはランクが設定されている。

 たとえば、最初から覚えていた魔法を使う程度の能力を十全に使えるぐらい熟練度があっても、ありとあらゆるものを破壊する程度の能力を使った場合、能力の元の持ち主と比較して、二割程度の威力がでれば上出来らしい。

 ようは強くなりたければ努力しろということだった。

 それと、熟練度がどの程度貯まったのかを確認するには、能力を実際に使用してみるしか無いという仕様で、さらには熟練度次第では、本家を超える威力を出すことも可能であるらしい。

 この先、与えた能力が使い物になるかどうか楽しみだと平坦な声で言われたよ。

 身体に馴染み能力の威力が増しても使いこなせなければ、宝の持ち腐れだし、命を脅かされる状況で、ぶっつけ本番の能力使用はなんとしても避けようと思ったね。仲間が出来るかわからないが、フレンドリーファイアとか笑えない。

 毎日必ず練習はしよう。

 そういえば、能力の中には熟練度が足りなくても、条件を満たしたら使用可能となる能力もあるとのことだが、条件を教えてくれるほど神様は甘くなかった。

 とりあえず、平和な世界だとも殺伐とした世界じゃないとも自信を持って言えないので、自分や周りの人間を護れるぐらいには強くなりたいので、それなりに戦える程度には能力を使いこなせるよう頑張っていこうと思っている。

 ちなみに能力が増えた時、どうやってわかるんですか?と神様に聞いてみたら、感じると説明された。熟練度の事といい適当な神様だ。

 

 二つ目、時間の流れの違う修行場を用意してくるとのことなのだが、五歳になったら手に入ると言われた。現物はまだ見てないから何とも言えない。ダイオラマ魔法球というものをベースに神様なりにアレンジを加えたものらしい。

 具体的には、現実世界の一時間で二十四時間経過という時間の流れ方をしている一つの世界とのこと。あと、その世界に居る間は歳をとらないらしい。

 

 それを手に入れる前に戦いに巻き込まれないかと心配したのだが、戦いの方は安心していいと言われたので、手に入るまでに命を落とすことは無いだろうと思う。たぶん。最後の行動がなければ素直に信じれたんだけど、突き落とすのはさすがに酷いと思う。

 

 三つ目、俺の好きなキャラに容姿を似せてくれたらしい。どのキャラですかと尋ねたら、名前は知らないと返された。

 調べて欲しかったよ。世紀末覇者の拳王様みたいな容姿になったらだいぶ凹む。好きなキャラだけど、あんなムキムキにはなりたくない。

 

 体を浮かしたり魔力球を出したり消したりしていると、足音が耳に届く。どうやら練習時間は終わりのようだ。俺は魔力球を消し、再び寝たふりをする。

 

「けんちゃん、ちゃんと寝てるかな?」

 

「寝たばかりだし、大丈夫だろう」

 

 足音を響かせ入室してきたのは、予想通り両親だ。俺は、夜泣きもせず、ぐずったりしないため、逆に気になるのか、父さん、母さんが揃う夜の間は二人揃って見に来る事が多い。

 まあ、普通、今の俺の状態なら、二時間おきに目覚めて、ミルクをねだる為に泣いたり、排泄した不快感によって泣くというのが普通だもんな。この身体になる前は二十四歳だったし、俺は泣くのに抵抗があるので、必要にかられた時しか泣かないようにしている。そのため、一日の大半は両親のどちらかと過ごしている。

 最初のうちはどうやって一人になって能力の練習をするか悩んだりしたが、両親と意思の疎通はできないし、首も座っていない今の状態で消えたりしたら、大騒ぎになりそうなので諦めた。現在、能力を使える程度の能力の練習は、一日一時間程しか取れていない。出来れば、別荘を手に入れるまで何も起こらないで欲しい。

 

 そういえば、俺の名前は前世と同じけんいちなのだが、母さんにはきちんと名を呼ばれたことは今のところない。

 

「ふふ、寝てる姿も可愛いわ」

 

「ああ、天使と見間違えるほどに可愛いな」

 

「親バカですね」

 

「君もだろ?」

 

 毎回、俺の様子を見に来るたびに、頭の上で桃色の空気を醸し出す両親。前世での両親の仲は非常に険悪で、常に喧嘩ばかりしていたこともあり、気恥ずかしい気持ちはあるが、俺は、この二人のやりとりをとても気に入っている。

 

「ええ、そうですよ。それに旦那さんバカでもありますから」

 

「ゆき」

 

 二人の周りの桃色レベルが上がりそうだ。可及的速やかに眠らなければ。

 

 俺は二人の声をBGMに急いで眠りにつこうと力を抜く。赤ん坊の体は疲れやすく、能力を使える程度の能力の練習後は、望めばすぐに寝れるからこういう時は本当に助かる。

 

 父さん。母さん。おやすみ

 

◇◇◇

 

 この世界に生れ落ちてから、三年の月日が経過した。両親の過保護ともいえる愛情をうけ、俺はすくすくと成長している。この三年の間に判ったことがいくつかある。

 まず、神様のくれた転生特典の三つ目、俺の容姿について。

 普段は、茶色の髪に、薄い茶色の瞳だから最初は似ているだけで、別のキャラかもしれない。いや、きっと勘違いだ。と思いたかったんだけど、どっからどうみても、炎髪灼眼の討ち手をそのまま幼くした姿でした。誰が得するんだよこんな女顔で。凛々しい印象を抱いていた瞳は、年齢のせいで可愛らしいという表現しか当てはまらないのも、気づかなかった原因の一つだろう。

 本家との容姿の相違点は、まあ年齢を考えれば当然なのだが、異様に幼いのと、髪が肩口までしか伸ばされていないこと、後は、瞳の色と髪の色が茶色なのぐらいだ。性別は男のままと知っていても、自分の姿が炎髪灼眼に似ていると確信を持ったとき、手が勝手に股間にいってしまったのは恥ずかしい思いだ。

 ……息子はきちんと存在していたと一応言っておく。

 それと、能力使用時には炎髪灼眼になってしまうことも発覚。強制的に変わってしまう為、ベビーベッドで寝かされていた時以上に、能力の練習をする時は両親と鉢合わせしないように気をつけている。

 

「けんちゃん、ぼーっとしちゃって。そろそろ行くわよ?」

 

「うん」

 

「はは、初めての魔法世界に緊張しているのか?」

 

 優しく俺の手を引く母さんと、頭を撫でてくる父さん。今、俺たちは何をしているのかというと、父さんの魔法世界と言う発現からわかるように、変な宗教に入信した。……なんてことはもちろん無い。しかし、俺の平凡に生活したいという願望を、ぶち壊す可能性を高めるとある事実が判明した。

 魔法の存在。

 まあ、これだけならまだいいんだ。元いた世界のゲームや小説では、魔法使いなんて存在は極々少数だった。

 それなのに、父さんは魔法使いで、母さんはその従者だという。従者と言うものは良くわからないが、両親共に魔法関係者。

 これだけで死亡フラグが立った気がするのに、なんとこの世界には、魔法世界が存在しているとのこと。

 そして、これから行こうとしてるところは問題の魔法世界。少し遅めの新婚旅行とのこと。

 本音を言えば、死亡フラグが乱立しそうな魔法世界なんて行きたくないんだけど、父さんは仕事で忙しく、中々纏まった休みを取れず、どんなに疲れていても、俺と話す時は笑顔を浮かべ接してくれる父さんに、家事をしながらも、いつも俺のことを気にかけてくれている母さん。

 駄々をこね、旅行を台無しにするなんて出来るはずが無い。めっちゃ楽しみにしてたし。

 

 まあ、個人的には、日本から海外にでて、わざわざ魔法世界に行く意味はあるのか?ヨーロッパ観光でも十分じゃね?と思ってはいるけど。

 

「けんちゃんおいで。危ないから私が抱えるわ」

 

 ふんわりとした笑顔を浮かべ、母さんは前かがみとなり、両手を前にだす。拒否をしても無駄だとわかっているので、俺は素直に、緩いウェーブのかかった薄茶色の長い髪をした美人さんに抱きつく。

 

「ありあとー、かあさん」

 

 人混みに巻き込まれないため、俺を抱えてくれる母さん。その意図がわかる俺としては、きちんと礼をしたかったのだが、俺の口からでたのは幼児特有のしたったらずな言葉。少しばかり恥ずかしい。

 

「ふふ、相変わらずしっかりしてるわね」

 

 俺を抱き上げ、頬ずりをする母さん。恥ずかしいからやめて!

 

「さすが俺達の子だな」

 

 母さんの肩を抱き、俺の頭を撫でる父さん。二人からは桃色の空気が滲み出してきている。隅の方とはいえ、立ち止まっているのが邪魔にならないか心配だ。というか、魔法世界に行くのに俺たちはなんでこんな石で作られた遺跡の近くにいるのだろう。そして今までツッコマなかったが、なぜみんな怪しげなローブを着ているのだろうか。

 

「まだー?」

 

 そのままキスでもしそうな雰囲気を出す二人に、注目を集めたりするのは嫌なので、服を引っ張り自己主張。

 いい仕事したな。俺。

 

「すまんすまん」

 

「もう少しだからね」

 

「ここから、いくの?」

 

 移動しようとしない両親に首を傾げて聞いてみるも、二人は満面の笑みを浮かべたまま。

 

 変な儀式とか始まらないよね?

 

 そんな馬鹿なことを考えている合間に、遺跡が光を放つ、遺跡に関する説明は一切無かったため、ビクッと動いてしまった。

 

「ふふっ」

 

 母さんにはびっくりしたのがバレてしまった。恨めしい気持ちを込めて光の柱と化した遺跡を睨んでみるも、まあ、当然っちゃ当然なのだが、光が消えたりはしない。そのまま光の柱の光量は増していき、周りにいる人達をのみこんでいく、もちろん俺を抱えている母さんものみこまれた。

 それと共に、設定されていた条件を満たしたらしい。境界を操る程度の能力という言葉が頭に浮かぶ。

 いつもなら新しい能力に大喜びするところなんだけど、今は能力を獲得した嬉しさより、安堵の気持ちの方が強かった。

 

 本当に良かったよ。両親が怪しい宗教にハマったとかじゃなくてさ。

 

◇◇◇

 

「ほええー」

 

 俺は、魔法世界を甘く見ていた。

 どこぞのカードキャプターな魔法少女の台詞が口からこぼれてしまった。そんな俺を両親はしてやったりみたいな顔で見ているのがちょっと悔しいが、今は目の前に広がる光景を堪能しよう。

 空港のような役割を担う建物を抜けると、俺の目に映る光景はリアル夢の国だった。ここは現実だし、魔法世界だけど、魔法世界のクジラは飛ぶんだね。ぜひ背中に乗せてもらいたい。

 

「掴みは完璧だな」

 

 空を飛ぶ程度の能力を使ってクジラに乗りに行こうかと、割と本気で考えていたところ、父さんに頭を撫でられて、俺は冷静さを取り戻した。ありがとう父さんと心の中で礼を言っておく。

 息子が急に赤い髪、赤い瞳になり空を飛んだりしたら、パニックどころの騒ぎでは済まないだろうし、ずっと一緒に過ごすことになる旅行中は、能力の練習はやめておくかな。一週間存分に魔法世界を堪能しても、罰は当たらないはずだ。うん

 羽クジラに視線を奪われていた俺だが、改めて周りを良く見渡した時、更なる衝撃に襲われた。

 俺の視線を羽クジラより奪ったのは、少しばかり俺より背の高い少女二人。可愛いだけなら、俺の視線を釘付けになんてしたりはしない。……は普通に好きだけど、しないはずである。しないと信じたい。

 それはそうと、その二人に何があるのかというと、白い猫耳である。口の動きに合わせて動いたりしているし、確実に本物だろう。だって魔法世界だし、近づくにつれ、お揃いのフレアスカートからは同色のふりふりと左右に動く尻尾が見えた。

 

 やばい凄い触りたい。もふもふしたい。

 

「……うん。すごいね。クジラってとぶんだ」

 

 父さんへの返答は棒読みとなっていたが、感動のあまりそうなったと勘違いしてくれたらしい。特に何も言ったりはせず、うんうんと頷いていた。俺は父さんの顔を一瞥した後、遠ざかっていく猫耳姉妹に視線を戻す。

  

 ああ、カメラ持っておけばよかったな。

 

 そんな事を考えながら、俺はこの世界に送ってくれた神様に初めて心から感謝していた。

 

 こうして足を踏み入れた魔法世界は、俺にさまざまな驚きと感動を与えてくれた。一週間という短い時間だったために、大きな都市のみの観光で終わったが、心配していた生死に関わるような問題は起こらずに、終わることが出来た。

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