麻帆良の炎髪灼眼   作:rain-c

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修行場×初対人戦

 十一月三十日に誕生日を向かえ五歳となり迎えた次の日の朝、十二月一日。

 俺こと、如月堅一(きさらぎけんいち)は、ハンドボール大の透き通った玉を両手で持ち、悩んでいた。玉の中には、小さな世界がミニチュアとして存在しており、山やら川やら、海やら森やらが混在していた。精巧に作られた箱庭のようだが、良く目を凝らせば、川と海では水が動き、森や山では何かか動いているのが見て取れる。

 

 たぶん、これが神様の授けてくれた二つ目の特典、ダイオラマ魔法球の神様のアレンジ版、呼び方はダイオラマ神球でいいか、ダイオラマ魔法球の神様アレンジ版とか長いし。

 さて、これが時間の流れの違う修行場だと言うのはわかるのだが問題が一つ。

 ……使い方が全く判らない。

 

「説明書って重要だと思うんだ」

 

 天井を見上げ、神様には届かないと知りつつも愚痴ってみる。懇切丁寧な神様からの説明がなされるなんてことはもちろん無く、ただの独り言となる。

 境界を操る程度の能力、まっさきにこの閉ざされた世界に侵入する方法として頭に浮かんだが、能力を使う程度の能力の熟練度の関係で断念する。手に入れてから約二年たつ、境界を操る程度の能力を使用し、世界の境界を曖昧にし、異なる空間を繋げるスキマは掌より少し大きいのを開けられるぐらいなので、自身の身を転移させるには使用できない。

 

「うーん」

 

 玉を床に置き、ころころと転がし駄目もとでスイッチが無いか探して見る。ただのミニチュアの入った水晶にしか見えん。

 

「魔法世界だし、やっぱ魔力かな?さすがに使えないものは渡さないだろうし、一つずつ能力を試していくか」

 

 あの感情の起伏の乏しい事務的な神様のことだし、使えない物を渡してほくそ笑んだりはしないだろうと予想。これで使えなかったら、神様に今日一日文句を言いまくろうと心に決め、玉を再び両手で持つ。

 まずは空を飛ぶ程度の能力。ゆっくりと俺の体が床から離れていくも、玉は変化なし。すぐに床におり、次に使うのは魔法を使う程度の能力。イメージするのは、いつもの弾幕を張る練習。ではなく、自分の手から魔力をダイオラマ神球に流すイメージ。

 

「はっ?」

 

 一瞬で切り替わる周りの景色、中に入ることには成功したのだが、口から漏れたのは間抜けな声だった。

 俺が転移された場所はだだっ広い草原。足元には複雑な魔法陣が浮かんでいる。魔法球になんかしらの魔法的処置がされており、魔力を流すことにより発動。ここに転移させてくれたんだなと、なんとなくだが理解はできた。

 しかし、玉の内部の広さに関して一言言わせて貰いたい。

 

 広すぎだろう。

 

 まず、草原の中心には、煙突のついたログハウスが建っている。この修行場での住居スペースだというのは判るが、俺一人では明らかに持て余すであろう大きさだ。そして、ログハウスの周りを囲むように展開されている強固な結界。

 

 こんなに強固な結界が必要なのは、誰にも邪魔されずにゆっくりと体を休める為、こんなに強固な結界が必要なのは誰にも邪魔されずにゆっくりと体を休める為、こんなに強固な結界が必要なのは誰にも邪魔されずにゆっくりと体を休める為。

 自分に言い聞かせてみるが、一度頭に浮かんだ考えは消えなかった。

 住居スペースに強固な結界が必要なほど、この世界は危険に溢れているってなんだよな。現実世界より危険がいっぱいなんだろう。強くなるにはいい場所なのはわかるのだけど、しばらくは危険生物とはエンカウントしたくない。

 とりあえず、気づいてしまった事柄は横においておき、辺りの地形を把握するため、空を飛ぶ程度の能力を使い上昇。

 

 一日の大半は両親のどちらかと過ごしており、あまり能力の練習は進んでいないが、空を飛ぶ程度の能力と、魔法を使う程度の能力や、後から入手した同クラスであろう能力もそれなりに使用できるようにはなった。しかし、あくまでそれなりにであり、戦闘に使用出来るかと聞かれると微妙なところである。

 

 三歳の頃に両親の新婚旅行で見た剣闘士を一般的なレベルと考えると、弾幕は今の威力では魔法使いの魔法障壁を抜けず、闇を操る程度の能力は相手の顔をピンポイントで闇で覆うだけ。言ってしまえばただの嫌がらせであり、嗅覚や聴覚、超音波など、視覚に頼らず索敵できるものには、一切効果は無い。

 魔法を使う程度の能力の身体能力の強化や、新しく使用できるようになった能力の一つ、気を操る程度の能力による身体能力の強化は、それ単体では魔法使いには使うだけ無駄といったところだと思う。

 

 ちなみに、両親が西洋魔術師や従者という魔法関係者なのに、俺自信は一切、西洋魔術を使えない。理由としては単純で、まだ幼いからと教えてもらえてないのだ。

 つまり、俺の現状は中途半端な力しかない能力で戦うしかないのだが、所持している能力は、気を操る程度の能力、剣術を扱う程度の能力、魔法を使う程度の能力三種類、空を飛ぶ程度の能力、境界を操る程度の能力、闇を操る程度の能力、結界が見える程度の能力と種類は増えている。それだけあればいけるんじゃね?と思うかも知れないが、どれも先ほどちょっと説明した通り、実践で使えるレベルではなく、決定打を与えるなんて夢のまた夢であり、嫌がらせが関の山。

 中でも群を抜いて扱いきれていないのが、剣術を扱う程度の能力。

 

 考えてみてほしい。この歳でまともな剣を手に入れられる程、日本は治安が末期な国ではない。探せば裏の世界の人間の為にあるかもしれないが、今の俺の年齢は五歳。まず手に入れる事は不可能。というかこの能力は手に入れた時も酷かった。

 友達と新聞紙を丸め、ちゃんばらごっこをしている時に手に入れられてしまったので、突然色の変わった髪の毛と瞳の説明を適当に捏造するのに苦労した。

 

 さて話を戻すが、戦闘方法が著しく乏しい俺であるが、一応だめもとで試してみたいことはある。うまくいけば、戦闘力が著しく向上するため、是非成功して欲しい。

 

 速度を抑えてゆっくりと上昇していた体がピタリと静止したので、辺りを見回す。地上から十メートルに届かないぐらいだろう。初めて外で全力で空を飛んで見たのだが、中々飛べる高度が伸びている。主に室内でしか練習できていないので、最近は体を少し浮かせ、空中での素早い移動を練習していた。まさか、こんなに高く飛べるようになっていたとは予想外だ。

 それと見えた景色も予想外だった。

 

「神様、アホだろ」

 

 今いる場所からの景色を見た俺の素直な感想だ。

 広大な森を挟んで見える山。あの山には見覚えがある。日本が世界に誇る霊峰であり、日本一美しく、高い山。何が言いたいのかというと、ここから見える山は、まんま雪化粧をした富士山にしか見えないのである。今後は富士山と呼称でいいな。富士山の手前にある森に立つ木々の背は高く、実際の富士山より頂上の高さは高いかも知れない。もしかしたら、森と山の間に何かあるかも知れないが、今いる位置からは、森と富士山しか見えない。

 右手のほうに目を向けると、岩場に砂浜と、海といった水関係。

 左手のほうに目を向けると、正面に見える富士山とは違ったタイプのジャングルと言ったほうがいい緑が広がっている。一番奥には滝の流れる岩壁があった。

 最初の富士山のインパクトが大きすぎて、左右の光景にそれほど衝撃をうけないで済んだ。さて、次は何かなと軽い気持ちで背後を振り返る。

 

「最後の最後でこれですか」

 

 いや、ダイオラマ神球を外から見たときに確かにこれもあったけどさ、必要性を丸で感じない。

 今見えたのは幻だ。精神を落ち着ける為、目を閉じてゆっくりと深呼吸。

 

「だよね。目を閉じたぐらいで景色は変わったりしないよな。境界を操る程度の能力を使ったわけでもないし」

 

 俺の視界に映ったのは、優雅さと気品を感じさせる城だった。どこかヨーロッパ地方にありそうな石造りの城にも、ログハウスと同じように強固な結界が張られている。どこからか攻めてくる軍隊にでも備えているのだろうか。

 というか、そもそも何故修行場に城が必要なのか、神様と話し合いたい。

 

「はあ、とりあえず修行頑張ってみるか」

 

 言葉とは裏腹に、俺はログハウスに向けて歩き出す。ぶらぶらとこの世界を探索したい気持ちももちろんある。俺だって男だ。ワクワクしないわけがない。けれど、今の俺には急速に、休息が必要だと思うんだから、仕方ない。なんか驚きすぎて疲れてしまった。少し休んでからでも十分時間はだろう。

 

 一時間後、リビングスペースにあるソファーでくつろぐ俺がいた。

 

「なにこの素適空間」

 

 とても修行場にある住居スペースとは思えない内装をしていた。中の写真だけ見せられたら、どこぞの別荘地を思い浮かべても不思議はない。

 それに電気、ガス、水道なんて通っている訳がないのに、家具に家電が一通り揃っている。揃っているということはきっとライフラインは整えられているんだろう。試しにリビングスペースにあるテレビをつけてみたのだが、普通に移ったし、トイレを使用した際はレバーを引けば水が流れ、もしかしてと、ガスコンロを点火してみたら、火がついた。

 さすがに備え付けてあった冷蔵庫の中に食料品はなかったが、お腹がすいたら家に戻ればいいし、変な時間にお腹がすいてしまったら、海やら森があるので、ここで食料を調達するのも良いかもしれない。

 このことから導き出された結論としては、さすが神様のくれた物である。

 

 それにただくつろいでいるだけなのに、気を操る程度の能力を使用して身体能力の強化をしているため、着々と熟練度は溜まっていっている。この修行場の一番のポイントは、人目を気にせず能力の使用ができることだ。

 能力使用時に限り、炎髪灼眼となる容姿。両親や、友達が見れば不信に思ったり、心配したりなにかしらリアクションをとるが、今ここにいるのは俺一人。誰の視線も気にしなくていいので、常に能力を使用することができる。

 今の俺に欠けているものを手に入れるまでは、このままこの場所で何かしらの能力を使用し、熟練度を貯めて過ごすのが一番の得策かもしれないな。

 初めて訪れたダイオラマ神球での修行は、お腹が空くまでの間、ソファーでごろごろしていただけ。しかし、それがこの世界に産まれて落ちてから、一番長かった修行時間だったのは言うまでもない。

 

◇◇◇

 

 月日は流れ、俺が小学校に入学する年、家族の生活に大きな変化があった。

 父さんが転職したのだが、新しい仕事は従者としての母さんの手伝いも必要で、それにより、二人揃って長期間、家をあけることが多くなるとのこと。

 両親共に魔法関係者ということもあり、何かあったら大変だという結論に達し、魔法関係者が多く、結界が張られている麻帆良学園都市に、俺は移り住むこととなった。

 両親についてまわる案も出たが、スケジュールを見せてもらった後、とてつもないハードスケジュールだったので、俺が却下した。

 あの時の両親の切なそうな顔は、小学校三年生となった今でも忘れず鮮明に思い出せる。

 

「なあ、どうかしたのか?」

 

 声とともに袖を引っ張られる感触、ここ最近の出来事を思い出していたら、話かけられていたらしい。下げていた視線を上げ、話しかけられた方に顔を向ける。

 

「ああ、悪い。おはよう。長谷川、なんの話だった?」

 

「いや、特になんも話してなかったけどさ」

 

 話しかけてきた少女の名は長谷川千雨。入学式の日にクラスメートと、麻帆良がおかしい、おかしくないで口論をしていたところを仲裁してから仲良くなった。小学一年生の割に、しっかりした少女である。言葉遣いが荒れるのがたまに傷。

 

「なんか、すげえ失礼なこと考えてないか?」

 

「いや?気のせいじゃないか」

 

「おはようさん、けんくん、千雨ちゃん。たぶんやけど、千雨ちゃんはけんくんが物憂げな顔しとったから、気になって話しかけたんやと思うで?千雨ちゃんが話かけておらんかったら、うちが話しかけよおもっとったもん」

 

 おっとりした声で話に割り込んできたのは、大和撫子と言った表現がぴったりの少女の名は、近衛木乃香。強大な魔力を持つのに一般人という変わった人間である。

 

「ちょっと昔を思い出しててな」

 

「なら、しゃーないな」

 

「近衛が何に共感してるかわかんねえけど、お前たち、それ程長く生きてないからな?」

 

 俺と近衛がしんみりとしていると、すかさず長谷川からのツッコミが入る。

 

「頼むから如月はあんまりボケに走んないでくれよ。いつもつるんでるメンバーでさえ、雪広、神楽坂、近衛と強烈なバカとボケがいるんだから、お前までそっちに行ったらツッコミきれねえよ」

 

「ひどいわー。うち言う程ボケてへんと思うんやけど」

 

「近衛のボケは天然と呼ばれる部類だからな。自覚症状はないと思う」

 

「そんな。先生、うちのこと見捨てるん?」

 

 俺がそう話すと近衛は悲しそうな表情で、俺の両手を握る。美少女と表現できる容姿をしている近衛のその行動に胸の心拍数はわずかに高まったが、口を開いた近衛のセリフで普通に戻った。

 

「ああもう、ボケんのやめやがれ!」

 

「おはよ。また長谷川二人でからかってるの?」

 

「おはようございます皆さん」

 

「おはよ、雪広、神楽坂」

 

「おはよーさん。いいんちょ、明日菜」

 

 新たに教室に来た二人の少女は、まっすぐ窓際の席に座る俺のもとへとやって来た。まずは荷物を席に置いたらいいのに。

 一人は鈴のついたリボンで髪をツインテールに結っているオッドアイの少女。彼女の名前は神楽坂明日菜。転校してきた当初は感情のない人形のようだったが、俺たちとつるむようになってから、感情表現豊かな年相応の少女となり、今では初等部三学年最強バカの名を欲しいままにしている少女である。

 

「なんか今すっごいムカついたんだけど」

 

「ストレスでも溜まってるんじゃね?」

 

 この子も俺の予想では魔法関係者だとは思うのだが、記憶に封印がかけられているようで、本人は一切魔法の事を知らない様だ。

 今の俺の力なら、記憶の封印を解くことも可能ではあるが、それが本人にとって良い結果に繋がるかはわからない。というか厳重な封印をされているようなので、十中八九本人にとって嫌な記憶っぽいので、放置している。嫌な記憶に向き合うのは、楽しい記憶をいっぱい作ってからでも遅くはないだろう。

 

「お猿の明日菜さんに、如月さんのいう通りに、ストレスが溜まるのかどうかは議論の余地があると思いますわ」

 

「言ったわね。私としては、いいんちょにストレスが溜まることがあるかの方が、気になることなんだけど」

 

 金髪の典型的なお嬢様と言った話し方をしたのは、神楽坂と教室に入ってきた雪広あやか。有名な雪広財閥当主の次女。時折、高圧的な話し方をするもんだから、自分勝手なわがままお嬢様と思っていたのだが、人形のようだった神楽坂に俺同様、積極的に干渉するといった行動から実は良い奴だということが判明している。

 この二人、小学一年生の頃、というか神楽坂が転校してきた日より、毎日のようにこうやって飽きもせずに喧嘩をしている。……本当に良く飽きないよな。

 

「ほんまに二人は仲ええなー」

 

「私がこのキングオブタカビーお嬢様と仲いい訳ないじゃない!木乃香の目は節穴なんじゃないの!?」

 

「明日菜さん、キングは王様を示す言葉ですわ。私は女性ですので、どちらかといえばクイーンが適切ですわ」

 

「あ、あんたなんかキングで十分よ!」

 

 にっこり笑顔で言う木乃香に対し、早口で否定する明日菜に、自分の悪口を言われたにも関わらず、どこか哀れんだ様な表情で、明日菜の間違いを指摘してやる雪広。

 ちょっと訂正、明日菜のよくわからないキング発言の後、哀れんだ様なから、雪広の表情は、本気で哀れんでいる顔になった。

 

「如月、お前確か成績良いんだから、神楽坂に勉強教えてやれよ」

 

「お断りだ。なぜなら」

 

「今のままがおもろいからやろ?」

 

 何度目になるかわからない俺と長谷川のやりとり、最後は俺が今、近衛の言った台詞をいって終わりなのだが、今日に限って近衛に邪魔されてしまった。

 

「いや、正解なんだけどさ、人の決め台詞をとるのは感心しないぞ」

 

「え、決め台詞やったの?それ」

 

「全然決まってねえぞ」

 

 近衛と長谷川によるダブルツッコミ、俺としては別にボケたつもりはなかったんだけどな。

 

「不完全燃焼なう」

 

「また訳のわからない言葉遣いをしてますわね」

 

「いい加減慣れてきたわ」

 

 今の気持ちを表して見たところ、いつの間にか喧嘩をやめていた二人に呆れた顔をされた。反論したい気持ちはあったが、めんどくさくなってやめた。

 

「そろそろ座れー」

 

 がらりと扉を開け、担任の先生が気だるそうに教室に入ってきた。どっからどう見ても、まるで駄目な大人、略してマダオにしか見えないのだが、この人はやけに子供の心を掴むのが上手く、ほとんどの生徒に好かれていたりする。

 マダオの姿を確認した四人は話を切り上げて、自分の席に着いた。

 

「んじゃ、朝の会始めるぞ」

 

 マダオが連絡事項を読み上げていくが、俺は視線を窓の外。正確には隣のエリアにある麻帆良学園本校女子中等部へと目を向ける。

 

 ああ、今日もこっち見てるよ。

 

 初等部と中等部、ホームルームの始まる時間は一緒だというのにも関わらず、俺がこの席になってからほぼ毎日あそこに居てこちらを見ている少女。

 鮮やかな長く伸ばされた金色の髪、どこか守ってあげたいと見るものに思わせる麻帆良学園本校女子中等部の制服を着た本当に中学生かと疑ってしまう幼い外見。

 最初は外見は同年代だけど、年上のお姉さんに惚れられてしまったと不覚にも喜んでしまったのだが、冷静に考えた俺はその恥ずかしい考えを俺自ら否定した。

 なぜなら、俺の外見は髪の短い能力未使用時の炎髪灼眼の打ち手だ。遠めからチラッと見ただけで、俺が男だと判断できる人間は極少数だろう。俺の姿はどうみても女にしか見えないという悲しい事実があるのだから。

 ちなみに、俺は男友達が少ないのだが、一年の時に長谷川を孤立させようとした男子と乱闘したことと、この外見が原因だったりする。頭の痛くなる話なのだが、仲の良い男子いわく、俺に惚れている男子もいるとのこと。その人が将来正常になるのを切に願っている。

 

 向こうがそっち系の趣味じゃないとは言い切れないが、たぶん無いだろう。これすらも思い込みであったなら、俺はしばらくダイオラマ神球にひきこもろうと思う。

 

「如月、聞いてるか?」

 

 担任に名指しで話しかけられので、視線を中等部の屋上にいる金髪の美少女から担任へと向ける。

 

「たぶん聞いてます」

 

「自分のことなのに曖昧だな。まあ良い。それほど重要なことでもない。聞いてなかったなら、後で周りのやつにでも聞いとけ」

 

「了解」

 

 担任から屋上へと視線を戻した時には、金髪美少女は姿を消していた。

 

◇◇◇

 

「おい。小娘」

 

 放課後、いつメンの神楽坂、近衛、長谷川、雪広と教室で少し会話を楽しんだ後、俺は、自宅へと続く道を歩いていた。

 麻帆良学園都市内に家があるにもかかわらず、俺は去年まで寮に入れられていたのだが、小学校三年生になったと共に両親と交渉し、今は家で生活している。寮生活も悪くはないのだが、能力を使う程度の能力の練習をするには不都合があったためだ。

 基本は、ダイオラマ神球を使って熟練度を溜めているが、使用する際はかなり気を使っていた。万が一、出てくるところを見られたりしたら大変だしな。

 

「おい。待て!無視するな。小娘」

 

 帰ったらとりあえず、ダイオラマ神球内で食料調達だな。今の気分は魚って感じだし、米だけ炊いてから海で魚を狩り、森で適当にサラダの材料になりそうなもん見つければいいか。

 熟練度を上げ、ダイオラマ神球内にいる生物と戦ってわかったことなのだが、あの中に居る動物やら、植物やらは基本的にとても美味い。そのおかげで、俺は食べ物にはまったく困らなくて済んでいる。

 

「お前のことだ」

 

 どんな魚を狩ろうか考えていたところで、俺は肩を何者かに掴まれた。どうやらさっきから後ろで声を出していた者は俺に用事があったようだ。小娘小娘言っていたからまったく相手にしていなかったよ。

 

「一応言っておくけど、俺は男だよ」

 

「なん……だと」

 

 訂正しつつ振り返った俺の前には、少し前から良く見かけるようになった金髪少女。外見に似合わない言動の少女は俺の言葉にびっくりしているようだ。

 これは、まさかの一番あってほしくない百合フラグなのだろうか?

 

「まあいい。貴様が男だろうが、女だろうが些細な問題だ」

 

 俺の背筋を冷たい汗が伝う。

 彼女は今なんて言った?男だろうが女だろうが些細な問題……まさかの両方いけるくちか。つまり今のはどちらだろうと構わない気に入ったやつはおいしく頂く。そういう意味なのか!?

 素早く肩に乗っったままになっていた少女の手を払い、俺は胸の前で両手を交差させ、身を守る体勢をとる。

 

「何の用ですか?」

 

 見た目的には同年代だが、一応年上と思われるため敬語で尋ねてみたのだが、声をかけてきた来た金髪少女の表情は豪く真剣だ。俺は今貞操の危機に瀕しているのだろうか?

 

「何を勘違いしているかは知らんが、単刀直入に聞こう。お前はなんだ?」

 

 言葉と共に金髪少女から、普通の人なら委縮してしまうぐらいの殺気が放たれた。俺、この人から恨みを買うよう事を、知らないうちにしてしまったのだろうか?

 

「如月堅一です」

 

「ふふっ、平然と受け流したうえに、はぐらかすか」

 

 どこか嬉しそうな表情で話す美少女なのだが、なぜだろう嫌な予感がする。とりあえず、名前聞いてみて知らない人だったら、勘違いですよって教えて帰ろうかな。

 

「あの、お名前聞いてもよろしいですか?」

 

「ああ、そういえば名乗っていなかったな。私は、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル。六百年の時を生きる悪の魔法使いだよ」

 

 笑みを浮かべ話す金髪美少女こと、マクダウェルさん。この人、俺に戦う力があるってことに気付いているのだろうか?

 

「魔法使いだったんですね。悪のってところが気になりますけど、麻帆良にいるってことは実は良い人だったりします?」

 

 誤魔化すことも考えたが、彼女は俺が魔法関係者であるというのを予想して話しているようなので、誤魔化すのはやめた。悪の魔法使いとわざわざ名乗った彼女を刺激するより、少しでも会話して情報を得た方が得策な気がしたからだ。あくまで感だけど。

 

「いや、正真正銘悪の魔法使いだよ」

 

 にやりと意地の悪そうな笑みを浮かべ、俺との距離を開け話す彼女。

 彼女の浮かべる笑顔はとても可愛いらしい。だが、放たれている殺気の量は増え、その可愛らしい笑顔はまるで死神が微笑んでいるように感じられ、見ている俺の背筋は冷たい汗が途切れることなく流れ、首の後ろがちりちりとする。

 笑顔から一転、真剣な表情を浮かべた彼女は、懐に手を入れた。直ぐに出された手に握られたのは、いくつかの液体の入った小さなフラスコ。

 

「さあ、始めよう。私の退屈な学園生活を彩る色となってくれ。簡単に終わるなよ?氷結武装解除(フリーゲランスエクセルマティオ)」

 

 放られたフラスコは俺に近づくと弾け、中に入っていた液体を飛び散らせる。俺めがけて飛翔する液体。

しかし、液体は突如吹いた風により、ただの一滴さえも俺の身にかかることはなかった。

 

「ほう。無詠唱呪文か、やるじゃないか坊や。それにその髪と眼。貴様は人間か?」

 

「人間以外の何に見えるってんだよ。つか、いきなり脱がしにかかるとか、ふざけんなこの変態女!」

 

「はっ、武装解除は魔法使いの基本だろうが、そんな罵倒をうける謂れはないわ!氷盾!」

 

 今の素直な気持ちをのべ、牽制として、見た目はまんまコンペイトウなゴルフボール大の魔法球を四つ生成し射出したが、それは新たに出したフラスコを消費して作られた氷の盾に簡単に防がれてしまう。

 けれど、悔しさなどは感じていない。今俺の心は、安堵の気持ちで満たされていたからだ。

 

 本当に危なかった。まさかこんな所で魔法バトルに発展するなんて予想できないっての。かろうじて風を操る程度の能力を発動できて脱がずに済んだけど、この人なんなんだよ。

 

「ほら、次だ」

 

「そこまでだ、エヴァ」

 

 低い男の声が俺の耳に届くと同時に、投げられたフラスコは空中で弾けた。けれど、それは先程のように魔法へと変わることは無く、中に入っていた液体はアスファルトを濡らすだけに止ままった。

 

「タカミチか。人の楽しみを邪魔しないでもらおうか?」

 

「君の方こそ僕たちの仕事を増やさないでくれるかい?」

 

 闖入者は三十代ぐらいの渋めのおじさん。今までの経緯を見ずに、ここから見たら犯罪っぽい組み合わせだな。

 

「ふんっ、興が削がれた。帰る」

 

 俺を見事に面倒事に巻き込んでくれた悪の魔法使いことマクダウェルさんは、鼻を鳴らすとさっさと立ち去っていく。残された俺はというと、彼女が立ち去る時についていこうとしたんだが、渋めのおじさんに手で遮られ逃走に失敗した俺は、彼女が立ち去るのをおじさんと一緒に見送るはめとなった。

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