麻帆良の炎髪灼眼   作:rain-c

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ストック終わりです。ここからは一ヶ月に一度更新できたらいいなという状況です。二千~三千文字なら直ぐ出来上がるんですが、短すぎるのはなんか嫌なので、気長にお待ち頂けると嬉しいです。
追記、この話の次は一気に中二まで飛ぶ予定でしたが、もう少し原作前を書いていきたいと思います。原作という道しるべなしでどこまでかけるか不安ですが、よければお付き合いください。


模擬戦×勘違い

 学園長室に開けた穴に、ブルーシートを被せる作業を済ませた俺たちは、マクダウェルさんの家にお邪魔している。正確に言うと、マクダウェルさんの所有する、ダイオラマ球の中にある城、五十メートル四方の石畳で作られた闘技場と表現するしかない場所に俺はマクダウェルさんと二十メートルほど離れ、相対していた。 これからの予定だが、意気投合したマクダウェルさんと共に夕食を食べる。なんてことはもちろんない。表の目的としては、近衛に魔法使いの戦い方を見せる。裏の目的としては、俺の戦闘能力評価だろう。

 少し高い位置にあるテラスからこちらの様子を伺う高畑さんと、このダイオラマ球に入ってからテンション高めな近衛を一瞥し、相対しているマクダウェルさんに視線をやる。

 正直、甘く見ていた。いかにして手の内をあまり晒さないよう戦おうかな、などと考えていた少し前の自分をぶん殴ってやりたい。

 

「どうだ?準備は出来たか?」

 

 目の前にいるマクダウェルさんからは、不可視の膜と紐が消え去っていた。背中にはランドセルが見えたままなのがシュールだが、マクダウェルさんから感じ取れる魔力量は桁違いだ。

 少しでも気を抜けば一瞬でやられるだろう。

 

「……まあ」

 

「緊張しなくてもいいさ。先手は譲ってやるよ」

 

 幼い外見ながらも妖艶な雰囲気を纏うマクダウェルさん。口にした言葉は傲慢だが、俺の今の能力を使える程度の能力では、適わないと感じさせるほどの魔力をもち、彼女から感じる気配は人間では無い。自信があって当然だろう。

 きちんとした対人戦もほとんど経験がない現状では、全力で戦って、素直にアドバイスを受けたほうが今後プラスに働きそうだ。だけど、俺も男だ。簡単に負けるつもりは毛頭無い。

 

「どうも。遠慮なくいかせてもらいますね」

 

 最初に使うのは、目覚まし時計をいじった時に入手した時を操る程度の能力。時を操る程度の能力とは言っても、熟練度が足りないのか、好きなように時間を操れたりは出きない。自分を中心に、半径五十センチに存在するものの時間を操作することが出来るが、自分を中心にと条件があるので、今のところ自分の動きを五秒加速させたり、周りの物の動きを五秒減速させるぐらいしか使えていない。

 俺の能力の性質上使いづらい物となっているが、弾幕を張り目暗ましをするには十分。

 動きを加速させ、形成するのは三種類の魔力弾。一度だけ向きを変えることが可能なひし形の魔力弾に、最初にマクダウェルさんと遭遇した時に牽制目的で放ったまっすぐ進むコンペイトウ方の魔力弾、さらには正方形の中に魔法陣が描かれているホーミング性能のある魔力弾。

 コンペイトウ型で視界を塞ぎ、ひし形と正方形型で追撃のつもりだが、マクダウェルさんがそれでダメージを受けるとは思えないので、時を操る程度の能力が切れたところで、気を使う程度の能力で身体能力を強化、さらに速度を出すため、風を操る程度の能力で背中を押す、イメージとしては、空気砲で打ち出される感じだ。

 マクダウェルさんの横を常人の目には留まらぬ速さで駆け、背後より風を纏わせた拳を振るう。

 魔力弾と肉弾戦での二段攻撃。これで多少なりともダメージを。

 

「甘いな」

 

 与えられたらいいなと思ったのだが、拳を振り切る前に、マクダウェルさんの声が耳に届くと、俺の拳はマクダウェルさんに届くことはなく、俺の身体は宙を舞っていた。

 

「くそっ!」

 

 弾幕はすべてマクダウェルさんの前に展開された魔法障壁に阻まれ、俺の脇には、いつの間にかマクダウェルさんの手に握られていた鉄扇が差し込まれていた。どうやらこれを支点に投げられたらしい。投げ切られる前に、気を使う程度の能力から空を飛ぶ程度の能力に切り替え、風を操作。マクダウェルさんに風の塊を飛ばすと同時に、自分の体を空へと上げそのまま距離をとる。

 

「いい反応だ。だが、距離をとるだけでは、純粋な火力特化の魔法使いを敵にした場合は悪手だな。リク・ラク・ラ・ラック・ライラック。氷の精霊三十一頭。集い来たりて敵を切り裂け。魔法の射手・速弾・氷の三十一矢」

 

 風の塊を弾幕と同じように障壁で防いだマクダウェルさんは俺を見上げダメだし、次いで呪文の詠唱。鋭く尖った氷柱が俺に向けて放たれる。

 迫りくる氷属性の魔法の射手、たしか父さん曰く、魔法学校で唯一教えているという使い勝手の良い魔法。残念ながら知っているのは魔法名だけ、威力と効果については未知数である。尖った氷柱、下手に防御の姿勢をとり、貫通しましたじゃ笑えないダメージを追いそうだ。ここは迎撃か回避が無難だろう。

 

「さあ、どうする?」

 

 マクダウェルさんの様子から、追撃の可能性は薄いと判断。出せるだけの弾幕を張る。操作性を極限まで削った弾幕。文字通り視界を埋め尽くすほどに展開したそれは、魔法の射手を全弾撃ち落とし、マクダウェルさんに迫る。

 無論、先程の攻防で、弾幕は彼女の障壁を破るほどの威力はないのを承知している俺は、マクダウェルさんに弾幕が到達するのを見届ける事なく、素早く地上に降り立ち、使用する能力を変更。

 狙うは再び目くらましと同時にささやかな反撃。鬼火を落とす程度の能力により、マクダウェルさんの頭上に鬼火を複数召喚。質量を持った大人の頭ぐらいの大きさの炎さすがに弾幕と同じように、簡単には防がれないだろう。さらに、撹乱のため、幻想の音を演奏する程度の能力を使用、口笛で能力を発現させ鬼火の幻想を作成、数の水増しをする。

 幻想の音を演奏する程度の能力。奏でられる音が発せられている間に限り、幻想を現実として認識させる能力。あくまで幻想であるため、現実に影響を与えることはないが、撹乱するのにはもってこいの能力だ。

 口笛を吹き続けなければ幻想が消えてしまうので、いけと口には出さず命令を下す。

 指示を受け、鬼火と幻想で作られた鬼火がマクダウェルさんに向かい進むが、マクダウェルさんは余裕な様子を崩さず、不敵な笑みを浮かべ、口を動かした。

 

「ふむ。中々の量だな。しかし、周囲に対する警戒が足りん。チャチャゼロ」

 

「アイヨ。ゴシュジン」

 

 後ろから聞こえた声にマクダウェルさんを意識しつつ振り返ると、足下から伸びる影より、少女を模した人形が出てきていたところだった。

 可愛らしい外見とは裏腹に、その人形の手には鈍い鈍い光を放つ鉈に似た刃物が握られていた。影より出切った人形は、それを持った手を上げ、一気に振り下ろす。それに前髪を何本か持っていかれつつも、なんとか避け、宙に逃げる俺。

 

「殺す気か!つか、二対一とかふざけんな!」

 

「使える手は使う。当たり前のことをしているだけだぞ?」

 

「カタイコトイウナヨ。オレトモタノシクヤロウゼ?」

 

 必死に抗議してみるも、一人と一体から返ってきた言葉から判断するに、これ以上抗議を続けても無駄だろう。ちらりと高畑さんに視線を向けても苦笑いを浮かべ、首を左右に振るだけ。諦めろという意味らしい。

 やられっぱなしは性に合わない。精一杯足掻いてやる。

 さらにチャチャゼロに邪魔されないよう、高度を少しだけあげ、魔法を使える程度の能力を使用。マクダウェルさんを見つめ、詠唱を開始。

 

「黄昏よりも暗き存在、血の流れより紅き存在、時の流れに埋もれし偉大なる汝の名において、我今ここに闇に誓わん」

 

「ほう、魔法も使えるのか。リク・ラク・ラ・ラック・ライラック。来れ氷精、闇の精。闇を従え吹雪け常夜の氷雪」

 

 詠唱とともに、高まる俺の魔力を感じたのだろう。マクダウェルさんも詠唱を開始する。

 

 

「我等の前に立ち塞がりし全ての愚かなるものに我と汝の力もて、等しく滅びを与えんことを」

 

「闇の吹雪!」

 

「竜破斬!(ドラグ・スレイブ)」

 

 転成する前の世界で見たアニメ。そのアニメの主人公の少女が使う、赤眼の魔王の力を借りる呪文。

 本来なら、目標の精神を破壊し、余剰エネルギーが爆発するという呪文なのだが、俺が使える竜破斬にはその効果はない。また魔法を使える程度の能力により、使用は出来るが、その威力も熟練度に依存しており、本家の威力には程遠い。だが、間違いなく俺の持つ攻撃方法の中で最高の威力を持つ攻撃だ。

 俺の放った赤光と、マクダウェルさんの黒と白が混ざりあった魔法が、ちょうど俺達の中間地点でぶつかり合う。見た目的には同種の魔法。だが、こちらは上位に位置する黒魔法。絶対に負けることはない。そう思っていたのだが。

 

「押し負ける!?」

 

「変な能力に加え、魔法らしきものが使えるのには驚いたがな。だが、それだけだ」

 

 マクダウェルさんの魔法に飲み込まれていく竜破斬。

 クソっ、このままじゃ拙い。

 

「当たってたまるかー!」

 

 迫り来る黒と白が混じった魔法をなんとかぎりぎりで回避に成功。

 

「終わりだ。エクスキューショナーソード」

 

 すぐ後ろから聞こえる声。その声に振り返ろうと思うも、顔の横に翳された光る刃により動きを封じられてしまう。

 

「なかなか楽しめたぞ。坊や」

 

 耳に届いたマクダウェルさんの声、そして、俺の身を襲う衝撃、それにより石畳に叩きつけられた俺は、意識を失った。

 

◇◇◇

 

 マクダウェルさんとの模擬戦から、ダイオラマ球内部の時間で十二時間後、俺は近衛とともに、再び、石畳の闘技場っぽいところに来ていた。

 いや、俺としては割と死闘の域だったのだが、マクダウェルさんとしては軽めの模擬戦らしい。高畑さんに尋ねたところあっさりと肯定されたので、本当に軽めなのだったのだろう。

 そんな俺がこれからこの二人と何をするかというと、実は知らなかったりする。

 

「でわ、始めるぞ」

 

「はーい」

 

 麻帆良学園本校女子中等部の制服の上に黒いマントを羽織ったマクダウェルさんに、長袖のシャツに、スカートといった格好だったのに、マクダウェルさんに借りたのか、いつの間にか下は短パンになっていた近衛が元気よく返事をした。

 

「えっと、また模擬戦でも?」

 

「ちゃうで、けんくん。これからな、エヴァちゃんが魔法教えてくれるんやて」

 

 俺の疑問に答えてくれた近衛。近衛が魔法を学ぶために此処に来たというのは理解したが、俺が居る意味はあるのだろうか。

 

「約束させられてしまったからな。ただ、じじいの孫に魔法を教えるついでに、お前も鍛えてやろうとおもってな」

 

「近衛木乃香。いい加減に名前で呼んでーな」

 

 頬を膨らませながら、マクダウェルさんに不満を述べつつ、マントを引っ張る近衛。マクダウェルさんの服装のせいだと思うのだが、ごっこ遊びで悪の女幹部役を取りあっているようにしか見えない。

 

「わかった。わかったからマントを引っ張るんじゃない」

 

 マントを近衛の手から奪還するマクダウェルさん。この光景、なんか癒されるな。

 

「じゃあ、俺の事も名前で呼んでもらえますか?マクダウェルさん」

 

「ああ、如月だったか。二人とも、これから厳しく躾けてやる」

 

「怖いセリフなんやけど、エヴァちゃんがいうと全然こわないなー」

 

「わかった。けど、なんで俺も鍛えようと思ったのか聞いても?」

 

 マクダウェルさんの戦い方は凄い。学べることはいっぱいあるだろう。だけど、マクダウェルさんが学園長に脅されて頼まれたのは近衛だけだ。

 仮にも悪の魔法使いを自称するマクダウェルさん。親切心だけで、そう言ってくれるとは思えないんだが。

 

「フフっ、何を警戒しているかは知らんが、お前が使った力に興味が湧いただけだ」

 

 今浮かべた笑顔はちょっと悪の魔法使いっぽく見えはするけど、結局、可愛く見えてしまうだな、この人の場合。

 

「わかりました。紙と何か書くものあります?」

 

「少し待て用意させる」

 

 しばらくして、模擬戦でマクダウェルさんが呼び出していたチャチャゼロさんという人形が、「メンドクセーコトタノムナヨ」と鉈っぽい刃物をちらつかせ、俺のことを脅しながらも紙と鉛筆を用意してくれたので、今の時点で能力を使う程度の能力を使用することにより、扱える能力を書き提出すると、マクダウェルさんは楽しげに口を歪めた。

 なんか、凄い嫌な予感がするんだけど。

 

「……如月、この能力を使うにあたってお前に何か代償は?」

 

「ありませんけど」

 

「そうか。お前の方は多少無理をしても大丈夫そうだな」

 

「エヴァちゃん凄い楽しそうやわ」

 

 蛇に睨まれたカエルの様な気分にさせてくれるマクダウェルさんの視線。純粋に楽しそうだと言っている近衛。二人の噛みあってなさに思わず苦笑いをしてしまう俺。

 

「近衛、如月。お前たちには西洋魔法の基礎からみっちりと教えてやろう」

 

 戦い方を教えるという話しだったにも関わらず、西洋魔術まで習う事になってしまった俺。強くなれるのは嬉しいけど、マクダウェルさんの表情を見る限り不安しか浮かばない。

 こうして、俺の壮絶な修行生活が始まった。

 

◇◇◇

 

 マクダウェルさん監修の修行が始まって一週間後、朝の会が始まるまでの短い時間を、机に突っ伏して体力回復に務めるようになった俺の身体を誰かが揺らす。

 

「如月、なんかお前ここ最近疲れた様子だけど大丈夫か?」

 

「ん、ああ、長谷川か。平気平気。深夜番組の面白さに気づいちゃって寝不足なだけだって」

 

 らしくない心配した表情で俺のことを見る長谷川に、問題はないと軽く右手を振りながら努めて明るく話す俺。

 

「深夜番組って。その言い訳は苦しすぎるっての。言いたくないならそう言えよな」

 

 さすがに長谷川は賢い。簡単に騙されてはくれず、俺の言い訳に呆れた様子で頭を掻いた。言っておいてなんだけど、小学三年生で深夜番組の面白さに気付いたってのは、長谷川の言うとおり苦しすぎだな。この言い訳は神楽坂用にしとくこう。

 

「ん、心配してくれたのに悪いな。少しばかり疲れちゃいるけど、問題ないから大丈夫だ」

 

「最初から素直にそう答えとけっての。ほら、これでも飲めよ」

 

 そう言って長谷川が差し出したのは、有名な栄養ドリンクの麻帆良学園限定版。麻帆良工学部のマッドサイエンティスト達も絶賛と書かれたパッケージ。

 どう考えても購買意欲をそそられないと感じるのは俺だけなのだろうか。

 

「用は済んだし、席に戻るわ。きちんと飲めよな」

 

 去って行く長谷川。俺の身体を心配して栄養ドリンクをくれた彼女に、小学生向けに栄養ドリンクは作られてないんじゃないかとは、さすがに言えない。

 

「ああ、ありがと」

 

「気にすんな」

 

 お礼の言葉に長谷川はこちらを振り向かずに手を振り答えると、自分の席に着いた。

 行動が男前すぎるよ長谷川!と、ツッコミを入れるのを我慢したのは俺だけの秘密だ。貰った栄養ドリンクの蓋を開け、一気に飲み干す。

 

「うーし。お前ら席つけよー」

 

 飲み終わると同時に、学校に鳴り響くチャイム。そして現れた担任のマダオ。

 折角、長谷川が俺のことを心配して栄養ドリンクをくれたんだ。今日ぐらいは授業中寝ないように気をつけようと決意し、俺はその日の授業を受けた。

 五時限目の道徳の授業で寝てしまったのはノーカンで。

 

◇◇◇

 

「如月、近衛。待ちな」

 

 放課後、日課となっている修行にいこうと近衛を連れマクダウェルさんのログハウスへと向かおうとしたが、教室をでようとしたところで、豪く男前な口調の長谷川に引きとめられる。

 

「長谷川、何か急ぎの用か?」

 

「なんやろ。なんかあった?」

 

 帰りの会でも特に連絡事項は無かったので、長谷川の個人的な用事だとは思い尋ねてみたのだが、長谷川は俺と近衛を呼び止めた後、難しい顔をして、俺と近衛のことを見ている。

 知らないうちに長谷川にたいし、何か彼女にしてしまったかなと考え、今日の行動を思い返してみるも、心当たりはまるでない。近衛も話し始めない長谷川にたいし、困惑した表情を浮かべている。

 

「わりい、場所変えていいか?ここで話すのはたぶんまずい」

 

「ああ」

 

「わかったえー」

 

 五分ほど考え込んでいた長谷川。彼女の提案に、周りに知られたらまずい事がすぐに思いついた俺は彼女の言葉に従った方がよさそうだなと思い、了承したのだが、近衛の方は、いつもの軽い感じで返事をしていた。きっとなんの話をされるか想像できてないだろうな。

 もしかしたら、長谷川に魔法の事がばれてるかもしれないのに。穏便に事が済めばいいなと思いつつ、俺は長谷川と近衛に続き、教室を後にした。

 

「ここまでくればいいか」

 

 俺と近衛が長谷川に連れてこられたのは、べたな事に体育館の裏だった。体育館裏に呼び出しというか連れてこられたんだが、アニメとかドラマとかではいじめだったり、告白だったり、掃除だったりと描写がある場所ではあるが、俺の中では創作物でしか使われない場所という位置づけだ。ここは日が当たっているから暗くは無いが、どうしても体育館裏っていいイメージがわかないんだよな。

 

「んで、どないしたん?」

 

 初めて訪れた体育館裏を興味深げに見まわしていると、隣の近衛が長谷川に疑問をぶつけていた。近衛だけじゃ暴走しかねないし、今は長谷川に意識を集中しとこう。

 

「俺も気になるな。どうしてこんなところまで連れてきたんだ?教室でも話は出来ただろ?」

 

 一応尋ねてみたが、どうやらこれは悪手だったらしい。長谷川の顔がみるみる不機嫌一色となっていく。

 

「他のやつらに聞かれたら、てめえらの立場が悪くなるからここまで連れてきたんだろうが!」

 

「まあまあ、千雨ちゃん。おちつきー。けんくんも悪気があったわけやないと思うから、許したって」

 

「他人事みたいに言ってんじゃねーよ!お前も当事者だっての!」

 

 興奮し、普段よりさらに乱暴な口調になる長谷川。折角、近衛が仲裁に入ってくれたのに、残念ながら、近衛の気遣いは、火に油を注ぐ結果となってしまった。

 

「大事な用事だったんだな。それに俺達のことを想って場所を移してくれたんだな。ありがとう。長谷川。ほら、近衛、お前を礼言っとけ」

 

「なんやわからんけど、ありがとうな。千雨ちゃん」

 

 すまん。近衛と心の中で謝罪し、長谷川の怒りが頂点に達する前に介入。それにしても、長谷川と話してると小学生っぽくないとつくづく思うな。精神年齢どんだけ高いんだよ。

 

「ああ、わりい。私も少しばかり熱くなっちまった」

 

「いいって。気にすんな」

 

 落ち着いた長谷川は、少しばかり顔を朱に染め、照れ隠しか人差し指で顔を掻き誤魔化すように口を開く。

 

「話ってのはな。私、見ちゃったんだよ」

 

 長谷川の言葉に心臓が跳ねる。見られたらまずくて、人前で話したら俺達の立場が悪くなるもの。どう考えても俺には魔法の事しか思いつかない。しかし、一つだけ疑問が残る。俺が外で魔法というか正確には能力を使用したのは、マクダウェルさんとの小競り合い時と、学園長室に呼び出された時のみ。マクダウェルさんとの時は、ぱっと見た感じでは周りに人はいなかったし、魔力や吸血鬼としてのほとんどの能力を封じられ弱まっているとはいえ、マクダウェルさんは超一流の魔法使い。ただの一般人の気配に気づかない訳がないし、あの場にはあとから高畑さんも現れた。話を聞く限り高畑さんは呪文の詠唱は出来はしないが、戦闘にかんしてはプロフェッショナルという話。俺を連れて学園長室に行く際、特になにも言ってなかったから見られていたなんてことはないだろう。

 学園長室でのことは、学園長がうまく誤魔化してくれたから麻帆良本校女子中等部の生徒でもなければ学園長室の壁が壊れたことすら知らないはずだ。

 

「悪い事は言わねえ。もう関わるのはやめたほうがいい」

 

「ん、なんのことや?」

 

 長谷川の言葉により、心臓の鼓動の早さが跳ね上がる。

 やっぱりバレてるのか?

 

「お前ら、中等部の先輩と、その……爛れた三角関係になっているんだろ?」

 

「はっ?」

 

「えっ?」

 

 今、長谷川は何て言った?

 鈍くなった思考。それでも必死に考え長谷川の言葉に何か裏の意味があるのかと考えもめぐらせてみるも、裏の意味など思い浮かばない。さらに長谷川の表情から何を考えているのか予想してみようと視線を向けてみると、そこには真っ赤な顔を俯かせ恥ずかしそうにしつつも、ちらちらと俺と近衛の様子を伺う長谷川の姿。そこから導き出される結論は一つ。

 ……こいつ、本気で俺と近衛がマクダウェルさんと爛れた関係を構築していると思ってやがる。

 

「あのな、長谷川」

 

 少しばかり呆れていることを言葉に乗せる。俺の声が不機嫌そうに聞こえたのか長谷川は一瞬体をビクリと震わせると、顔を上げた。

 

「如月。お前が一人じゃ満足できないのは、その、なんだ。仕方の無いことかもしれない。けどよ、年上はやめとけ。どうせ、遊ばれてるだけだ。もし、どうしても二人以上がいいってんなら……私で我慢しとけ」

 

 長谷川の目に、俺がどう映っているのか子一時間ほど問い詰めたい。先程より顔の赤みが増していることから、相当恥ずかしがっているのがその表情から伺えた。

 恥ずかしいなら言わなければ言いのにという感情と同時に、長谷川が俺の事を大事に思ってくれているのが伝わり、嬉しくなった。

 自分の身を犠牲にしてでも救いたいと思ってくれるほど、俺のことを大事な友達と思ってくれている長谷川。彼女には悪いが、魔法の話をするわけにはいかない。心苦しいが、ここは騙させてもらおう。

 

「アホか。んなわけないだろ。勉強教えてもらってるだけだよ。な、近衛?」

 

 長谷川の額を小突き、近衛へと振り返り同意を求める。

 

「あ、うん、そやでー」

 

 突然話を振ったのがいけなかったのか、見事な棒読みで答える近衛。心なしかその表情はいつもより硬い気がする。

 

「そうか。わりい。今の話は忘れてくれ」

 

 幸いにも、長谷川はうまく騙されてくれたようで、そう言い放つと声を掛ける間もなく走り去って行った。

 

「はあ、よかった。魔法のことバレてなくて。長谷川のやつ凄い真剣な顔で言うもんだからひやっとしちまった。さて、今日も地獄、もといマクダウェルさんのとこに行きますか」

 

 長谷川の用事も済んだようだし、いつまでも体育館裏などにいる意味も無い。そう思い、マクダウェルさんの家に行こうと移動し始めるが、近衛の返事がない。不審に思い振り返ると、近衛は何か考えごとをしているのだろう。腕を組み、ムムムと唸り首を傾げていた。

 

「どうした?近衛」

 

「いや、あんな、けんくん。千雨ちゃんの言ってたことなんやけど」

 

「うん」

 

「爛れた関係とか、二人以上じゃなきゃ満足できないとか、なんの話しやったん?」

 

 近衛に聞かれ、よくよく考えてみると小学三年生のする話題では無かったことに気づく。長谷川のやつもどこで変な知識を仕入れてきたのやら。

 

「ああ、忘れていいぞ。俺もよくわかってなかったし、長谷川もなんか混乱した感じだったし」

 

「そっか。なら気にせえへんな。いこか」

 

 小学三年生に説明するわけにもいかない。苦しいかなと思いつつも、適当に誤魔化してみると、近衛は簡単に誤魔化されてくれたことにホッとしつつ、俺は近衛を引き連れてマクダウェルさんの家へと向かった。

 余談ではあるが、後日、長谷川に間違った情報を与え、煽った麻帆良本校女子中等部に所属する新聞部の少女とはじっくりとお話させてもらった。




怖い感想きそうで怖い。チキンなのです。
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