ソウルライブ!   作:ミカサ(打ち止め)

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サンキューガッツ フォーエバーガッツ


op,5 最果ての桜を見た少女

どこからともなく聞こえてくる楽しそうな声をよそに、ここ音楽室では膠着する二人と目を爛々と輝かせている少女の何とも言えない奇妙な光景があった。

 

「えーと…、西木野さん。神峰さんのコト知ってるの?」

 

一速く膠着状態から解かれた高坂が、恐る恐る西木野に尋ねる。

 

「アナタ、知らないの!?群馬の鳴苑高校を全国吹奏楽コンクール最優秀賞に導いた学生指揮者の神峰翔太よ!!?」

 

「へー、神峰さん指揮者なんだ!」

 

西木野は物凄い剣幕で高坂に詰め寄るが、本人はよく解ってないようである。

 

「指揮者って、そんなに凄いの?」

 

それは、何気ない質問だった。

一般人からすると、学校行事の合唱コンクールや演奏会位でしか、指揮者を目にする機会がない。寧ろ楽器を演奏しないから他の人より楽なのではないかと、高坂も認識しているし、音楽にそれ程詳しくなければ、その認識も仕方ないと神峰も納得している。

 

ただし、今回は相手が悪かった。

 

『沸点が低い!ヤバい!“心”が爆発する!!』

 

神峰がそう感じた時にはもう遅かった。

 

以前、オーボエのパートリーダーの為に、わざと悪役に徹し、他の者達から怒声を浴びた事があったが、その時以上の怒声が音楽室に響き渡った。

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

西木野真姫は音楽が好きだった。

 

幼い頃からピアノを弾き、様々なジャンルの音楽に触れてきた。

 

そんなある時、一人の少年にであった。

 

去年行われた、世界的指揮者、伊調剛健氏主催スプリングコンサートでの出来事であった。

 

伊調氏が集め、言わば伊調氏から認められた吹奏楽部が一同に会するイベント。兼ねてから伊調氏のファンであった彼女は、運良くそのチケットを入手する事が出来のだ。

 

西木野は一つ一つの演奏に心を踊らせた。流石伊調氏に認められた者達である。どれも素晴らしいの一言であった。

 

そして、その時が訪れた。

 

最初は憤りを感じた。何故、ただの学生が指揮を振るうのか、と。

 

だが、曲が始まるにつれ、そんな感情は吹き飛んだ。

 

力強く、壮大で、優しく。

 

西木野は、その演目“最果てのゼビア”を何度か聴いた事があったが、これほど“心”を震わせた事はなかった。

 

正に魂と魂のぶつかり合い。仲間と共に“前へ前へ”と進もうとする指揮者から、目を離す事が出来なかった。

 

そして、曲のフィナーレ。彼女は驚くべき物を目撃する。

 

厚い暗雲が晴れ、壮大な城を照らす、幻想的な天使の梯子。

 

他の人に言えば、確実に笑われるだろう。

しかし、彼女は確かに見たのだ。その美しき景色を。

 

そのまま、会場の興奮も覚めやらぬ中、次の演奏に入る。そして、その日何度目か解らない驚愕をする事になる。

 

世界の伊調に指導してもらえる今回のコンサート。普通どこの学校もコンクール用の曲を二曲やる。実際他の学校は課題曲と自由曲を演奏している。

 

だが、その指揮者は違った。

 

曲名“春よ、こい”。

 

アンサンブルを、混成六重奏を選択したのである。

 

その時、彼女は理解した。

 

解釈も常識も空気も概念も価値観も全て壊す。その指揮者自身が一つの独立したジャンルなのだ。

 

指揮者が弾く伴奏も、歌い手も決して上手い訳ではなかった。客観的に見れば、どちらも西木野の方が上手いだろう。

 

だが、心を打つものがあった。訴えるものがあったのだ。

 

─誰かが歌った。

 

すると、仲間もライバルも関係者も第三者も関係なく、会場が一つとなり、皆が一様となって歌う。

 

反響。残響。全身全霊で奏でる演奏者全員の心。それに聴き入れようとする人達の心。

 

それが一つに集まる“空間”。

 

西木野は涙が止まらなかった。自分も、こんな演奏をしてみたい。そう思った。

 

目の前に広がる、“満開の桜”を見て、強く、心から思った。

 

西木野真姫は、その指揮者の少年、神峰翔太の姿に心を奪われたのだ。

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

神峰はあまりの怒号に耳を塞ぎ、咄嗟に彼女の“心”を見る。

 

西木野真姫の“心”は、小さな女の子の周りにピアノや木管、金管、弦楽器や打楽器等、様々な楽器が浮いている。

 

そして、現在。怒りの表情を浮かべ周囲の楽器をメチャクチャに鳴らしているのであった。

 

『自分の大好きなモンを乏されて、メチャクチャ怒ってる!例え、高坂さんに悪気がなくても、彼女は許す気は無ェんだ!』

 

神峰はどうにかして、西木野の“心”を宥めようと、更に注意深く心を見ると、彼女の手に何かを大事そうに持っているのに気付く。

 

『あれは…、オレの写真!?何でオレの写真なんかもってんだ!?しかも、去年のスプリングコンサートの時のヤツだし!?』

 

そして、神峰は気付く。指揮者である自分乏しめる=指揮者を乏しめる事になるから、彼女は激怒しているのである。

 

まあ、正確に言えばまるっきり逆なのであるが、鈍感な神峰はそれに気付かない。

 

「お、落ち着いて、えーと…西木野さん!」

 

「止めないで下さい!この人が神峰先輩を侮辱したから!」

 

「私そんなつもりなかったよ~!」

 

高坂の必死な説明も、西木野には届かない。

 

『西木野さんは頭に血が上って話が出来る状態じゃ無ェ!どうすりゃあいいんだ!』

 

必死に頭を回す神峰だが、あまり良い案が思い浮かばない。

 

「心を感動させる音楽には、絶対“指揮者”は必要なの!その指揮者である神峰先輩にあやまって!!」

 

「わ、解ったから~!」

 

西木野に首もとを掴まれ、上下に振られ目を回す高坂。そして、神峰はその言葉に、一つの妙案を思いつく。

 

「だ、だったら“見せる”から!オレがするところ見せるから!」

 

「本当ですか!?」

 

一瞬にして神峰に振り向く西木野。“心”の楽器も一斉にファンファーレを奏で、その中心の女の子も満面の笑みで踊っている。

 

あまりの彼女の態度の変わりように、神峰はたじろくが、話を続ける。

 

「あ、ああ。オレが指揮するところを高坂さんに見せれば、指揮者の重要性を解ってくれると思う。」

 

そう言ってポケットからメモ帳を取り出し、サラサラと何か書き、破って西木野と、目を回してフラフラしている高坂に渡す。

 

「明日、そこに書いてあるトコロに来てくれ」

 

「はい!絶対行きます!」

 

「は、はいぃ…」

 

目を爛々と輝かす女の子と、目を回す女の子。なんとも対照的な二人であった。

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

その日の夜、神峰は自室にて、“ある人物”に電話をかけていた。

 

「─と、いう訳で、明日二人程連れてきてもいいですか?」

 

『おう。全然構わねーぞ』

 

事のあらましを聴いた人物は、快く承諾してくれ、安堵する神峰。

 

『それにしても、ププッ!相変わらず面白そーなコトになってんなぁ!』

 

「…そー言わないで下さい。こっちゃあ真剣なんスよ」

 

さっきから笑うのを我慢していた電話の主は、堪えきれず受話器の向こうで大爆笑しているようであった。

 

『だ、だってよぉ…、“スクールアイドル”に神峰クンのファンだろ!笑うなって言うほうがムリだろ!!』

 

「うっ…」

 

事実だけに、神峰は反論出来ない。

 

『でも、意外でもある』

 

電話の主は急に笑い声が止め、真剣な雰囲気となった。

 

『だってさ、いつもの神峰クンだったら、その娘達のコト迷わず助けてたぜ?』

 

思わぬ言葉に、神峰は言葉が詰まった。やはり、“この人”は、受話器越でも、神峰の僅かな機敏を見抜いてしまうらしい。

 

『まあいいさ。他のメンツにはオレから伝えるよ。その娘達の為にも、お前自身の為にもシッカリやってやるからさ』

 

「ありがとうございます…。“飯島先輩”」

 

飯島亮輔。

 

鳴苑高校吹奏楽部、先々代パーカッションパートリーダー、通称“棟梁”。きめ細かな心遣いと采配により、個性の強い部員達から慕われていた人物だ。

 

彼は都内の音大に進学し、東京に引っ越してきた神峰を、何かと気にかけてくれる好青年である。

 

神峰は一言礼を言い、電話を切った。

そして、先程、飯島に言われた事を考える。

 

神峰の机の上には、今朝方東條に渡された一枚のカードが置いてあった。

 

“運命の車輪”。

 

それは、静かに、だが確実に回り始めていたのであった。

 

 




先日、僕の大好きな野球選手、小笠原道大選手の引退試合が行われました。

相手は嘗て在籍していた巨人。

チームは負けてしまいましたが、異例の両チームの胴上げとヒーローインタビューに感動しました。

サンキューガッツ フォーエバーガッツ

現役19年間本当にお疲れ様でした。
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